騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 シンクロ召喚はチューナーとそれ以外のモンスターのレベル合計を足してモンスターを召喚する方法である。初期は「弱いモンスターでも集まれば強くなる」というコンセプトだったが、なんか最近レベル低くても効果が優秀なモンスター多いな。
 強弱の概念とは。


Turn3 陽歌の秘密と不知火の宣教師

 浅野陽歌はユニオンリバーやおもちゃのポッポの関係者の子供や親類ではない。ひょんなことから保護されてここで暮らしている。長い間周囲から虐待を受けていたせいで腕を失うほどの大けがをして人間不信に陥るほどの状況になってしまった。しかし、そんな中9年近くを生き抜くのは難しい。

 そして、他のメンバーより多少デュエルモンスターズに詳しいのにも理由がある。

「セカンドロスト事件、ですか?」

 エヴァはサブカルに疎い陽歌へいろいろ布教しようと思い、デュエルモンスターズのカードを見せた。その時、妙に知っている様な反応を見せたので話を聞いた時にその事件のことを語った。

「そこでデュエルを知ったんだ。変な話かもしれないけど、僕の人生では比較的穏やかな時期だったよ」

 セカンド、と名が付く様にロスト事件というものが最初にある。これは六人の子供が消息不明になるという事件で、犯人もその目的も謎のまま半年後に六人全員が保護された。

供述によると監禁されてデュエルを強要された様だ。被害者の中には精神を病む者もおり、必死の捜索の末事故に遭って亡くなった両親もいる。

「痛みがあるのはデュエルに負けた時だけ、ご飯も食べられる。他の人はどうだったか分からないけど、僕は正直あのままでもよかったと思ってた」

 セカンドロスト事件とは、そんなロスト事件の模倣犯罪である。しかし目的も不明な事件の模倣というのはどういうことなのか、多くの人が首を傾げた。だがその被害者はロスト事件の6人を大きく超える21人。

 謎は多いが、陽歌にとってはむしろ安寧の時間であった。彼がデュエルモンスターズに詳しいのは、そうした事情があってのことだった。

 

   @

 

「不知火の……宣教師」

 陽歌は自身の心の闇から生まれたとされるナンバーズを見ていた。『No.2340 不知火の宣教師』。アンデッド族ランク4、炎属性。その効果は……。

「つってもそれに操られてないんなら問題ないんじゃね?」

 遊騎はカードを見る陽歌に声をかける。彼は今、白楼にいた。ナンバーズによって人間が狂暴化する事件、同時刻に白楼の生徒である響と、おもちゃのポッポを襲撃したキングダムの人間がその影響を受けた。

 白楼の事件を収拾した後、連絡を受けた陽歌はこのカードに関する検証を試みようとしていた。ユニオンリバーに戻る前に、自分でこのナンバーズを使ってみてその力を確かめようというのだ。

「すみません、少し手伝ってもらっていいですか?」

「ん?」

「このナンバーズを使ってみようと思います」

 陽歌の提案に遊騎は動揺する。穏やかだった響が内に秘めた狂暴性を発露したり、かなり危険が伴うと考えられていたからだ。キングダムの男はともかく、響や陽歌の様に『光』とされる部分が大きければ必然的に『影』も深まり、ナンバーズの力が増してしまう。

「危険じゃないのか?」

「止めてもらうために、なるべく戦力が整っているところでやっておきたいんです」

 物理的な戦闘能力ならばユニオンリバーの方が上だが、ナンバーズによる闇のゲームは腕づくで止められない。ならば万が一を考えると腕の立つデュエリストがいる方が安全だ。引っ込み思案でおどおどしている様に見えるが、その思考はクレバーな部分が多い。

「よし、んじゃやってみるか」

「はい、お願いします」

 というわけでデュエル開始である。デュエルディスクを展開し、準備を行う。陽歌のDゲイザーは左目に紋章が浮き出るタイプで、義手を制御するナノマシンを流用したものだ。空色の左目が右目と同じ桜色に変化する辺り、コンプレックスを隠せる様に設計したのだろうか。

「「デュエル!」」

 安全を考え、校庭でのデュエル。ナンバーズによる闇のゲームはダメージが現実になるので屋内では危険だ。

「あ、何してるのー?」

「危ないですよお嬢さん」

 デュエルの気配を嗅ぎつけて、一人の女子生徒がやってくる。桃色の髪をツインテールに結った少女。遊騎の同級生だ。

「千沙登か。騒ぎは聞いただろ、危ないから下がってろって」

「遠くで見てるから安心して、あたしだってデュエリストなんだから!」

「関係あるのか……?」

 無駄に元気がいい返事をする千沙登。予定外のギャラリーを加えてデュエルは始まる。

「僕のターン!」

 先攻は陽歌。

(ギミック・パペット使いの響のナンバーズがギミック・パペットだったからな……でもあいつ不知火なんて使ってないぞ?)

 遊騎は陽歌のデッキをある程度知っている。だが彼のデッキはシンクロ主体であるものの不知火ではない。デッキのメインは炎属性でアンデッド族も入っているが、共通点はその程度。

「僕は手札から憑依装着ヒータを召喚!」

 陽歌が召喚したのは赤い髪の魔法使いの少女。人気テーマ『霊使い』の一枚だ。レベル4で通常召喚できる上、攻撃力も1850とデメリットの無いモンスターでは上位に来る。

「そして稲荷火、ジゴバイトは魔法使い族がフィールド上にいる時、特殊召喚できる!」

 そして彼女ら霊使いの使い魔、稲荷火とジゴバイト。同じくレベル4で各一体ずつしか存在出来ないが特殊召喚の効果を持つ。

「レベル4が三体か!」

 遊騎は早速エクシーズが来ると判断した。そして案の定、ナンバーズが呼び出される。

「僕はレベル4のヒータと稲荷火、ジゴバイトでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 銀河に三つの光が吸い込まれ、そこから迸る炎と共に生まれ出でるシュラフの様な物体。それを破って出て来たのはアレンジされた修道服に身を包んだ赤い髪の少女。

「ヒータ……いや違う!」

「甦れ、No.2430! 不知火の宣教師!」

 攻撃力1850の炎属性アンデット族。効果は未知数の存在であるが、先攻1ターン目であることが幸いして攻撃は仕掛けてこない。

「そして再び、稲荷火を手札から攻撃表示で特殊召喚!」

「なに? アンデッド族じゃないのか?」

 なんと、魔法使い族を条件にする稲荷火の特殊召喚が可能という。

「不知火の宣教師は魔法使い族としても扱う!」

「地味に厄介な能力を……」

 汎用性が広がる種族を二つ持つ効果。レベル4二体以上という縛りの緩さも強みだが、ステータスは低いと言わざるを得ない。守備力は0、いい的だ。

「これで僕はターンエンド」

 動きがないのが逆に不気味だが、いつもの様に遊騎は仕掛けるしかない。

「行くぞ、俺のターン! 手札からブラックホールを発動!」

 思い切り雑な除去。時代の違いもあってかルリは驚きを隠せない。

「ブラックホール? 禁止から帰ってきたんですかあれ?」

「今は無制限、後攻からまくり上げるのはもちろん相手の妨害を削るのにも、とりあえずこれに限るねー」

 千沙登もデュエリストなので現在の無効化効果耐性のオンパレードは知っている。加えて遊騎のイグニスターは展開が容易なので自分ごと巻き込んでも問題が無い。

「稲荷火は破壊されるが、宣教師はオーバーレイユニットを一つ取り除き、破壊を免れる!」

 安定の破壊耐性。それに加えて恐るべき効果を持っている。

「そしてデッキからカードを一枚ドローする。そして同じカードの効果でフィールド上のカードが破壊された場合、その枚数分追加でドローする!」

「ドロー加速か」

 直接的な妨害ではなく、心理的な圧迫感による妨害。ドローを許すか、破壊するか。大きく揺さぶりをかけるカードだ。

「下手に手出しできないな……あと二回か」

 二回は確実に除去を免れる上、ドローも出来る。これほど厄介なカードがあっただろうか。

(リンクモンスターならAiラブ融合で奪えるんだがな……)

 確実に一回で削りたいところ。出来なければダメージを与えることか。

「俺はドヨンを通常召喚! そしてモンスター一体でリンク召喚!」

 まずは展開を整えるところからだ。

「ダークインファント@イグニスター! 効果でイグニスターAiランドをデッキから手札に加える!」

 リンク召喚からフィールドをサーチできるのは安定感が増す。とはいえリングリボーなど展開したいモンスターもいるためなるべく自引きしたいところなので三枚積んでいる。

「そしてフィールド魔法発動! いつものAiランド! 効果でピカリを特殊召喚! ピカリの効果でめぐりAiをデッキから手札に加える」

 さらにいつものリンク召喚。メインモンスターゾーンを開けないことには始まらないのがイグニスターだ。

「そして再びリンク召喚! ピカリとダークインファントでリンク召喚! コード・トーカー!」

 開いたのでまたAiランドの効果が使える。これでリンク3への布石は整った。

「アチチを特殊召喚! 忘れずにブルルをデッキから手札に加えて……現れろ、闇を導くサーキット! 俺はリンク2のコード・トーカーとアチチをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン!」

現れたサーキットに入る二体のモンスター。召喚されたのは炎を纏う鳳凰。

「気炎万丈! 炎の大河から蘇りし魂、灼熱となりてここに燃え上がれ! リンク3、ファイアフェニックス@イグニスター!」

 そしてこのモンスターの効果は周知の事実。

「ファイアフェニックスの攻撃! 戦闘ダメージを0にし、元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「くっ、破壊はされないけど……」

 オーバーレイユニットを取り除いて生き残ったものの、2300のダメージを受けて陽歌のライフは5700。しかし一枚ドローできる。

「ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 陽歌はあれだけ手札を使ったのに五枚へ戻っている。そして宣教師のユニットは残り一つ。補充する手段があったら大変なことになる。

「僕は手札からラヴァルアーチャーを通常召喚! そして効果により、ラヴァルモンスターを一体追加で召喚出来る! チューナーモンスター、ラヴァル炎火山の侍女を召喚!」

「そうか、本来はシンクロデッキだったな」

 陽歌のデッキはシンクロ主体。レベルがばらけ易く、かつ召喚後はレベルを持たないモンスターエクシーズとの相性はよくないはずだ。

「僕はレベル1の侍女で、レベル4のアーチャーと宣教師をチューニング!」

「モンスターエクシーズをシンクロだと?」

 しかしそれにも構わず陽歌はシンクロを行う。常識を超えた効果、それがこの四桁ナンバーズの神髄だというのか。

「不知火の宣教師はシンクロ素材となった際、レベル4のモンスターとして扱う! 集いし炎が、闇を照らして標となる! 百鬼往く道となれ! 麗しの魔妖、妖狐!」

 陽歌が魂と呼ぶカード、妖狐。ただしその神髄はさらに上位の魔妖を呼び出し、それが破壊された時に発揮されるもの。そうでなければ攻撃力が高いだけのシンクロモンスターだ。

 だが、その姿は宣教師の力を受けてか白く、その名の通り麗しい。陽歌にはある光景が脳裏に過っていた。それは宣教師が悲しみに暮れ、ヒータを振り切って去る様子。まだ修道服を纏っていないことから、過去の出来事と考えられる。

「そしてオーバーレイユニットを持つ宣教師が炎属性アンデット族モンスターのシンクロに使用された場合、フィールドのカードを一枚除外する! 展開を止めさせてもらう!」

 イグニスターAiランドを除去して足止めを図ってきた。しかも除外では効果で墓地のイグニスターを除外しての復帰も出来ない。

「このカード……やっぱあのデッキとシナジーがあるのかな」

 陽歌はこのナンバーズを活かせるデッキに心当たりがあった。効果を十全に生かし、そのデッキに不足しているものを補うこのナンバーズのあるべき場所が。

「そして宣教師が炎属性アンデッド族のシンクロに使用された際、元々の攻撃力を600アップさせる! これで妖狐の攻撃力は3500!」

「展開次第では軽々出ていい火力じゃねえな相変わらず」

 ドルフィー・ナイトメア同様デッキは選ぶがその強さは抜群。やはり四桁ナンバーズは人の心、すなわち使用デッキを反映するのか。

「妖狐でファイアフェニックスを攻撃!」

「こいつは除外されなくてよかった……!」

 ファイアフェニックスが撃破され、遊騎は1200のダメージ。ライフは残り6800。とはいえファイアフェニックスは次のターン、帰還出来る。

「カードを一枚伏せ、僕はターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 遊騎のターンとなり、ファイアフェニックスが戻ってきた。とはいえ、これでは形勢不利もいいところ。

「だが、逆転の一手が来てくれたぜ!」

「何?」

 しかしこのドローで状況を打開できるカードが来てくれた。手札は四枚、ヒヤリとめぐりAi、そして二枚のカード。

「俺は手札から魔法カード、死者蘇生を発動! 甦れ、ピカリ!」

 ピカリを蘇生、そして効果により更なるカードを手札に加える。

「さっき手札に加えてキAiを発動! ドヨンを蘇生する!」

 そしてドヨンが復活。名前の異なるモンスターが三体、この流れは当然あのカード。

「リンク召喚! ダークナイト@イグニスター!」

 ダークナイトを召喚。そしてまだまだ効果の繋がりは続く。

「墓地から特殊召喚されたドヨンの効果でアチチを手札に戻し、こいつ自身の効果で特殊召喚! ダークナイトのリンク先にイグニスターが特殊召喚されたことで、墓地からピカリとドヨンを蘇生する!」

 エース登場のおぜん立ては済んだ。後は呼び出すだけだ。

「ドヨンがリンク素材となった場合、Aiカードを手札に戻す。そして俺はアチチとダークナイトでリンク召喚! 現れろ、闇を導くサーキット!」

 マーカーに入るダークナイトとアチチ。その向きは下段三つと上の計四つ。

「古きを温め、新しき未来を作れ! 電脳の皇帝、WWW.リンクカイゼル!」

 リンクカイゼル。その効果はリンクマーカーの先にいるモンスターの数だけ攻撃力を500上げるパンプアップ。リンクマーカーの先にはドヨンとピカリ。さすがに妖狐はエクストラモンスターゾーンの前には置いてくれない。

「これで攻撃力は並んだ! 行くぞ!」

 リンクカイゼルが剣を携えて妖狐に斬り掛かり、彼女も迎撃する。相打ちにはなったが、リンクカイゼルのもう一つの効果が発動する。

「エクストラシャイン!」

 エクストラデッキから召喚されたモンスターの元々の攻撃力分、相手にダメージを与える効果。この光によって陽歌は3500のダメージを受ける。

「元々の攻撃力を上げる効果が災いしたか……」

 これでライフは2500。厄介なシンクロモンスターも消滅した。陽歌のターンであるが、ここから逆転できるのだろうか。

「僕のターン! ドロー! 僕は手札から魔法カード、調律を発動! デッキからシンクロンモンスターを一体手札に加え、デッキをシャッフル後、一番上を墓地に送る!」

 シンクロデッキの基本行動である調律によるサーチ。手札に加えたのはジャンクシンクロン。

「ジャンクシンクロンを通常召喚! 効果で墓地のラヴァル炎火山の侍女を墓地より特殊召喚! そして墓地からモンスターが特殊召喚されたことにより、手札からドッペルウォリアーを特殊召喚!」

 シンクロデッキ特有のソリティアムーブ。特にジャンクシンクロンとドッペルウォリアーを扱うジャンドと呼ばれる構成はアドリブ力が求められる。調律の効果で何が落ちたかが重要だ。

「レベル3、ジャンクシンクロンでレベル2、ドッペルウォリアーをチューニング! 集いし魂が大地に宿る毒を巻き起こす! 百鬼往く道となれ! シンクロ召喚! 毒の魔妖、土蜘蛛!」

 現れたのは大きな蜘蛛の妖怪。そしてドッペルウォリアーにはもう一つ効果がある。

「ドッペルウォリアーがシンクロ素材となった時、レベル1のドッペルトークンを二体生み出す! そして僕は手札から簡易融合を発動! ライフを1000払い、モンスターを融合召喚! フレイムゴースト!」

 並んだモンスターはレベル5、土蜘蛛、レベル3のフレイムゴースト、レベル1のドッペルトークン二体とラヴァル炎火山の侍女。合計のレベルは11だ。

「レベル1、ラヴァル炎火山の侍女にレベル5、毒の魔妖土蜘蛛、レベル1、ドッペルトークン二体、レベル3、フレイムゴーストをチューニング! 積み重なる骸が、大いな脅威を呼び覚ます! 百鬼往く道となれ! シンクロ召喚! 骸の魔妖―餓者髑髏!」

 長回しが終わり、陽歌は息を整える。ソリティアも楽ではない。

「ぜぇ、ぜぇ……」

「大丈夫か?」

 闇のゲームのダメージより口上叫ぶ方の消耗が激しい。ともかくまだデュエルは続いている。

「餓者髑髏、ダイレクトアタック!」

「くっ、攻撃力は高いな……」

 リンクカイゼルを失った遊騎には壁がいない。3300の攻撃力がそのままライフに反映され、3500となる。

「これを凌いでも、まだ次がある。ターンエンド!」

「そうか、魔妖の共通効果か」

 魔妖は撃破されると墓地にいる一つ下のシンクロモンスターを召喚出来る。このため、餓者髑髏を突破しても九尾が控えており危うい。

「俺のターン、ドロー!」

 つまり、一撃で勝負を着けなければならない。罠カードの存在も気がかりだ。

「よし、来たな」

 遊騎はドローカードを見て勝負に出る。

「ここで決着を着ける! 俺は手札からめぐりAiを発動! エクストラデッキの攻撃力2300のサイバース族モンスターを見せ、同じ属性の@イグニスターをデッキから手札に加える!」

 しかしこの便利なカード、大きなリスクを抱えることを千沙登は知っていた。

「でも見せたモンスターの召喚に成功しないと、ダメージが……」

「一体何を出すんです?」

 ルリが様子を見ていると、遊騎は彼から買ったストラクに入っていた、『シューティングコードトーカー』を見せた。

「俺が手札に呼ぶのは、『ウォーターリヴァイアサン@イグニスター』!」

「ということはさっき引いたのは……」

 それを見て、陽歌はドローカードの正体を見抜く。

「そうとも、俺はヒヤリ@イグニスターを召喚! そして儀式魔法、Aiの儀式を発動! このカードはフィールドにイグニスターがいる時、墓地のイグニスターをリリースの代わりに除外できる!」

 手札や場が枯渇していても儀式に問題はない。場のヒヤリ、墓地のアチチとピカリで儀式召喚が成立した。

「降臨せよ! 冥勃に潜みし水神の竜! 儀式召喚! ウォーターリヴァイアサン@イグニスター!」

 青い竜が姿を現す。これがイグニスターの儀式モンスター。

「だが、まだ餓者髑髏の攻撃力は……」

「ウォーターリヴァイアサンの効果発動! 相手フィールドのモンスター一体を対象に、自身の墓地にいるリンクモンスターをEXデッキに戻すことで攻撃力を0にする!」

「な……」

 リソースの回復と露払いを同時に熟す能力。その前に陽歌は手を打った。

「リバースカードオープン! 逢魔の刻! 通常召喚出来ない相手もしくは自分の墓地のモンスターを特殊召喚する! 来い! ダークインファント!」

 強いモンスターは山ほどいるが、何故かダークインファントを呼ぶ。

「ええ? なんでです?」

「強いモンスターを読んでも餓者髑髏を守れない、ならキーカードを呼び込めるインファントが戻るのを阻止したのね。もしかしたらまだ手札に打開の手段があるのかも」

 千沙登の言う通り、まだ陽歌には『次』がある様に思えた。伏せカードも攻撃を防ぐものでなかったり、ブラフも多いのでかなりきわどいところだ。

「俺はこのまま突き進む! ウォーターリヴァイアサンで餓者髑髏を攻撃!」

「うわああっ!」

 しかし防御札はなく、そのまま遊騎の勝利に終わる。最後まで心理を揺さぶりに来る戦いであった。

「ふぅ、何とか勝てたが……純構築の魔妖だったらどうなってたか」

 陽歌のデッキが歳相応のばらついたものだったから何とかなったが、ガチガチに固められたのなら話は変わってくる。

「うう……結局収穫はなかった……」

 せっかくデュエルしたのだが、このナンバーズに関する情報は得られなかった。強いて言えば、陽歌がナンバーズの影響を受けないことくらいか。

「心の闇を増幅させるか……闇がなければ影響ないのか?」

 遊騎は単純にそう思ったが、千沙登は小声で他の可能性を考える。

「闇が表出しないほど奥に潜んでいるのか、それとも発露しないほど心が壊れているのか……」

 パックに収録されていた謎のナンバーズ、その正体は未だ突き止められない。




 千沙登「今日の最強カードは『ウォーターリヴァイアサン@イグニスター』!墓地のEXモンスターを回収しながら相手のモンスターを無力化出来るの! ヒヤリ@イグニスターでリンクモンスターをリリースすれば、儀式魔法も一気にそろっちゃう! 召喚に成功したら、攻撃力2300以下のモンスターを破壊出来るから一気に勝負が決まるね!」

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