騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 タモリさん、高橋さんこんばんわ。最近私は真女神転生Ⅳをプレイしたのですが、ネットで言われているほどナバールやウーゴにヘイトが溜まりませんでした。しかし、ゲーム中盤から急に現れて長期に渡り寄り道を封じて来るホワイトメンはマジでクソだと思いました。これってトリビアになりませんか?


ホワイトメンの誘惑

 初夢とは、元旦の夜に見る夢である。大晦日に寝た時に見た夢はタイミングとしてギリギリ年末に被っている為、初夢とはならない。というのも江戸時代の話であり、灯りがあちこちにあり新年を跨いでから寝るのが一般となった現代では少し違うのかもしれない。

「中庸を望む、我ら五番目の息子よ……」

「あん?」

 小鷹、夕夜、照呉の三人は白い空間で白い五人の人型実体と遭遇していた。初夢にしてはなんとも奇妙だ。

「何してるんだい?」

 全力で左右に動く小鷹に、夕夜は聞いた。

「いや俺が頑張って二つになれば二鷹は達成できるなって」

「そういう問題じゃないだろうこの夢」

 もしそれが成立しても、一富士と三茄子が揃わない。構わず白い人影は話を続ける。

「我らはホワイトメン。神の思惑から人類を救うため、虚無を望む者……」

「おめー去年ゲッターアークがちゃんと区切り付いたってのに今更虚無ろうとするなよ」

 ホワイトメンの言葉を照呉はまともに取り合わない。

「お前達に見せてやろう、『守ること』を選択した世界と、『守らないこと』を選択した世界を」

 ホワイトメンは景色を一変させる。白い世界ではあるが、先ほどまでの無機質な白ではなく、自然な白だった。それは雪。吹雪く雪と、積もったものが舞い上がるもので視界が真っ白に染まるほどであった。

「これは?」

「どうやら豪雪地帯のようだね。自動車道が近い様だ」

 夕夜は車の音とライトで状況を把握する。しかし、それにしては奇妙だと小鷹は指摘した。

「なら全然音が静かじゃねーか。ライトも全然動いてねぇよ」

 自動車道に近づくと、道路は渋滞していた。この大雪の中だったため、車の屋根や周囲には雪が積もってどんどん足止めをする形になる。

「おいおい、誰か夏用タイヤで事故ったのか?」

 照呉はてっきり適切なタイヤを履かなかったことによる立ち往生かと思ったが、小鷹はあることに気づいた。

「なぁ、車がアイドリングしてりゃ周囲や屋根に雪が積もったりしねぇんじゃねえか?」

「どういうことだ?」

「この車、EV車なんだよ全部!」

 車好きの小鷹にはひと目で理解できた。この渋滞を作る車は、全てが電気自動車。

「イーブイだとなんだってんだ?」

「電気自動車は発熱が少ないんだ。だから前々から言われているけど、豪雪地帯では車体があったまらず機能不全を起こす」

「そういうことか」

 環境にいい、と持ち上げられたEV車であるが無論道具である以上弱点や欠点が存在する。電気系統というのは非常に脆く、クラシックカーが現在も動体保存できる、もしくは無理矢理損耗したパーツを製造して修理すれば動かせるのに対し、電気系統を半端に有する車はそうもいかない。

「そんな馬鹿な……いくら電気自動車でも発熱するしサーモ機能でも付ければ……」

 夕夜は信じられないといった様子であったが、これが現実。

「こんな限定的な環境で使う雪溶かす用のサーモに金出しますって奴がどんだけいるよ。ただでさえ車は値上がりしてるってのに」

 車を初めとする耐久消費財は値上がり傾向にある。もちろん多機能化や物価の上昇もあるが、買ってもらえない買い替えて貰えないでは当然、薄利多売とはいかなくなる。昔と違って、生活必需でも憧れのステータスでもなくなりつつある。

「これは、『現状を守らなかった世界』なのか?」

 夕夜と照呉ではこの世界への捉え方が違っていた。

「いや『環境を守った世界』だろ。地球にとって人間なんてダニみてーなもんなのに、環境保護だのお題目を掲げて上の人間だけで好き勝手した結果だ」

 雪が一際強く舞い上がり、視界を覆う。次に辿り着いたのは、太陽の光で白んで見えるビル街。コンクリートジャングル、という表現は正に適切で、このじっとりとした暑さも熱帯のそれだ。

「今度はなんだ?」

「『現状を守った世界』か?」

「いや、『環境を守らなかった世界』だ」

 またしても照呉と夕夜で意見が分かれる。しかし例年の都市部を遥かに超えた猛暑であった。

「もうなんだっていいよ。氷河期になったりするくらいだし温暖になることもあるだろうけど、それにこの環境が重なりゃこうもなる」

 小鷹はとりあえず、状況を確認する。この世界がどうの、というよりホワイトメンを名乗る連中が何を狙っているかだ。

「あの白連中、俺達を蒸し焼きにでもする気か?」

「その必要はない」

 またしても景色が変化し、真っ白な空間とホワイトメンが現れる。ホワイトメン達は小鷹らに語り掛ける。

「見せたぞ、守ることを選択した世界と、守らないことを選択した世界」

「守ることを選択しても、人はその不足から多くを失う」

「守らないことを選択しても、地球の意思が人類を絶やす」

「全ては創造主の掌、この苦しみから逃れるには、無となるしかない」

 一見すると、あの世界を見れば人類がどう転んでも希望がないことが伺える。だが、見せられたのはほんの一瞬でありなんとも言えない。

「もはや実体のない私達にはそれが出来ない」

「お前達に託す。今のままならまだ緩やかだが、大きな変化と選択が訪れればいずれ、その苦痛はその分強大となって人類を襲う」

 三人は考える。今の技術での選択でもこの始末なのに、これ以上の変革と選択があればより犠牲も広がる。

「僕は今日の平穏が、より長く続くことを願う」

「俺は世界がどん詰まってんなら、痛みがあっても変えなきゃいけないと思う」

「しかしどちらの選択も人類に未来はない……」

 ホワイトメンはどうにも未来を信じていない様子であった。夕夜の守る選択も、照呉の守らない選択も意味はないと頭ごなしに否定する。

「んなもんやってみなきゃ分かんねぇだろ!」

 小鷹はうだうだと言い続けるホワイトメンに苛立った。

「EV車が豪雪地帯に不向きならそこだけで化石燃料車を使う! ヒートアイランドが心配なら対策する! それでいいだろうが!」

「変革しながら現状維持もするのか、まるで子供の理論だな。ならばこの空間で消えさるがいい」

 ホワイトメンは自分が出来ないから人に頼み、それが出来ないとなると一方的に消すという身勝手な宣言をした。しかしその時、白黒の空間に爆炎が落ちてくる。

「大仏陀斬り!」

「ぎゃあああああ!」

「陽歌!」

 なんと陽歌とナルがこの世界に介入してきたのだ。おそらく新年早々知り合いが三人も目覚めないと聞いて、何か対応してくれたといったところか。

「安心院さんが夢に送ってくれたんだ」

 陽歌は安心院のツテでここまできた。もともと小鷹から過酷な運命を奪った彼であったが、その手助けをした安心院もホワイトメンの様に一種、『第四の壁』を見抜けるわけではないので抜け道が生まれてしまった。それっぽい発言は多々あったが、それは現実に対して現実味を持てないというタイプであるが故。

「今年の干支の力を喰らうですに!」

 ナルは四人のホワイトメンに切り掛かる。不死殺しの陽歌に斬られたとはいえ、もともと虚無の存在故に死にはしなかった様子だ。

「ていうかこいつらなんなんだ!」

 照呉はこの白い集団に疑問が出ていた。陽歌もその詳細は安心院から聞いている。

「旧人類ホワイトメン、要するに自分達で死んでいればいいのに、生きているこっちをちらちら見て道連れを探しているかまってちゃんだ」

「うげ、面倒」

 とにかくこのホワイトメン、自分が滅んで満足すればいいものを現行人類も滅んだ方が幸せだと決めつけて強要までしてくる。なんども死線を潜り、ユニオンリバーという救いを得て別れた友とも再会出来た陽歌からすれば理解出来ないものだ。確かに生きるのは苦しいが、死ぬのはもっと辛い、そして生きていればいいことがあるとも知った。

「一気に決めますに! タイガー、レイザーズエッジ!」

 ナルはホワイトメンを一斉に爪で抉る。死んでいるはずのホワイトメンは、その一撃で存在を保てないほど崩壊を始めた。

「なぜ……」

「ボクの天球機関が四人の未来へ進む意思を体現してますに!」

 諦めた者と未だ戦う者、そのエネルギー差は歴然。ホワイトメンは消滅し、白黒の世界は徐々に薄れていく。

 

「とんだ初夢だったぜ」

「全くだ。だが、干支が出たならいいじゃないか」

 夢から醒めて照呉と夕夜はおしるこを味わいながらしんみりと語る。静岡にあるユニオンリバーと彼らが住む東京の吉祥寺は距離がある。ただ、なんだかんだ夕夜の家に照呉は遊びにいくことが多い。

「俺も彼女作ろうかな……」

 おしるこを作ってくれる夕夜のお隣さん、紬を見て彼は呟くのであった。

 




 今年はレッドマン50周年

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