騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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一回戦 VSピンサ

 人というのは、海を隔てても麺を啜りたい生き物であることに変わらない。知性体の本質というものはそうそう変わるものではなく、それは宇宙空間を挟んだとて同じだ。惑星コウグにもかつてはローマの剣闘士に似た娯楽があり、その為のコロシアムも残されていた。モノヅクリが枯渇したコウグでは古いものを維持するのが必須。現在も大事に式典の場として使われていたそこは、長き時を経て本来の使い方がされることとなった。

「ルールは簡単。友好国の人間を含めた現王政チームと我々が戦い、現王政側は我々を全て倒せばいい。時間制限や場外は特になく、私達に負けを認めさせればそっちの価値。だがそちらの降参は許されない。文字通り命を賭して我々を圧倒してこそ、王権に相応しい者と言える」

「くっそ不利だなこっち……」

 七耶が思う通り、この戦いはニパ子側に不利であった。そもそもチーム選出から制限がある上、基本的に殺しを躊躇うメンバーにとっては相手を降参まで追い込むのが難しい。ルール上負かせればそれが楽だが、そうもいかないとじり貧になって逆転というのも考えられる。

「ヴァイス相手じゃないっすからね」

「クローンみたいなもんだろ」

 夜露は当然、殺せない側。しかし響は特に躊躇いが無さそうである。

「ではそちらのチームメンバーを出してもらおう。不正が無いかチェックする」

「手の内も明かすのかよ!」

 条件が条件だけに、メンバーのリストアップも求められる。余計に不利だと七耶は不満げ。その気になれば全抜き出来る性能の彼女だが、だからといってこの不公平は看過できない。

「私はアークスの響。出身はアークスシップ8番艦ウィン、宇宙船だ」

「比良坂夜露、成子坂のアクトレスっす。くくりは東京シャードでいいんすよね?」

 まずは友好国二人組。あと三人はユニオンリバーから出す必要がある。

「じゃあ僕は地球代表で」

「私は一応火球出身だ」

「私は月」

 陽歌は地球、七耶はこれでも超文明三つの叡智を結集した存在であり地球のモノではない。なのでこれだけで二人確保できる。そして月出身のさなが加わればそれぞれ全て違う出身で構成出来る。

「ダメだ。七耶、いやサーディオン」

 だがディズィーによって却下されてしまう。どうせ難癖だろうが一応聞くことにする。当の七耶は不満たらたらだ。

「なんだよ!」

「火球とコウグに国交は認められない」

 理由は単純。地球経由の交流であって直に交流がないから。確かにニパ子は火球に来たことはない。

「じゃあ地球代表で出る!」

「ダメだ。地球代表はそこの小娘で宣言したからな」

「ハァーふざけんな!」

 ガチガチにパーティー構築から縛ってくるみみっちさに七耶は呆れていた。ディズィーには厄介な耐性付与不死があるのに、綿密に勝利をもぎ取ろうとして来る。

「そして月も同じ理由でダメだ。あとアークスの奴、お前も」

「は?」

 意外にも響がアウト判定。

「なんでだよオラクルシップにこいつがコラボしたフレームアームズとかいうのの服売ってたぞ」

「繋がりが薄い。国交とは言えん」

 確かに微妙な関係といえばそうだが、このままだとニパ子が板としてしか成子坂に来ていないため夜露も危うい。

「もうやっちゃわないこいつら」

 クレームオブクレームの嵐にさなも苛立ちを隠せない。

「もう勝負とかいいからぶっ殺してやろうか」

 ストレスを感じていたのは響も同じで、弓を番えて戦いの準備を始めた。必死にニパ子と夜露が止めるのだが、怒りは爆発寸前。

「ダメっすよ! ちゃんとルールに乗っとって戦わないと!」

「あいつらのルール滅茶苦茶じゃねぇか!」

「マジで私の立場が危うくなるからやめて!」

 一方の陽歌はもう諦めていた。

「もうダメかもしれんねこれ」

その時、ピンサが口を開く。やけに裕福な王室を憎んでいた人物である。

「ふん、必死こいて集めたんだ。それが通用しないと分かればよりニッパーヌが王座に相応しくないことが分かる」

「おうおう随分自信家じゃねぇか」

 ピンサはこの状況で勝てると踏んだのか、勝負に撃って出る。ディズィーはそれを見逃せなかった。

「いいのか。ここはまだ前哨戦、本当の勝負はこいつを王座から引きずり下ろした後、我々で王座を決する時だぞ?」

「言い訳出来ないくらいボコボコにしてやる。どうせ温室育ちのモヤシ共だ。この程度は誤差に過ぎん」

「では、ピンサチームとニパ子チームの試合を始める!」

 ピンサの主張を飲んだディズィーが戦いの幕を切って降ろす。そこでふと違和感が陽歌に浮かんだ。

「チーム?」

 ピンサの周りには四人の仲間達がいる。そう、向こうはあの五人の王女候補で一チームではなく、それぞれがチームリーダーだったのだ。

「ひでぇ!」

 これには七耶もびっくり。しかし響は慌てない。

「なんだ、死人が25人に増えただけじゃねーか。いくぞ」

 前に出た響はコインを投げて夜露に渡し、ある頼みをする。

「飲み物買ってこい駄犬。このコロシアムを出て駅に向かう通りの自販機にしかねぇ、マメッコーラってやつだ。走って持ってくると缶揺れて炭酸がえらいことなるからな、ゆっくり持ってくるんだぞ」

「え? あ、はいっす」

 まさかのお使いだが、夜露は素直に従う。

「いいのか、チーム一人減らして」

 ピンサの挑発に響は軽口で返した。

「害虫駆除の女子高生にはちと刺激が強くなりそうだからな。死にたい奴から来いよ」

 響に対して、舐めた態度で一人ずつピンサチームがリングに立つ。

「へ、ほえ面搔くなよ、わからせってやつだ」

「やれやれ、戦力の逐次投入は愚策なんだがな」

 マントで正体を伏せたまま、チームメンバーが響に迫った。しかし、刀を抜いて斬り、鞘に納めるという一連の通常攻撃で敵は倒れ、そのまま動かなくなった。

「な……」

 動揺するピンサだが、チームメンバーはあまり実力差が理解出来ていないのか次々に戦いを挑んでくる。

「そいつはチームでも一番弱い奴! 今度は俺が!」

 走って来た敵を響は刀で敵を打ち上げた。

「ツキミサザンカ!」

「ぐえええ!」

 本来は打ち上げてからの追撃が目的の技だが、一撃で身体が引き裂かれて終わってしまう。

「この金回りが良さそうな女は俺が仕留める!」

 とうとう、とろろと走って来るのを待っていられないのか、ついに刀を投げ始める。

「ヒエンツバキ!」

 回転する刀は敵を引き裂き、手元に戻る。これで残るは二人。さすがにこれ以上迂闊な真似は出来ないとピンサは二人で数的有利を掴みに掛かる。

「私は貧乏に生まれて割りを食ってきた……。妹は医者にもかかれず、薬も変えずに苦しい中私達家族を悲しませまいと歌いながら死んでいった! 金持ちでゆるゆると暮らしてる王室なんか潰してやる!」

「今更身の上話かよ、じゃあ私もしてやろうか」

 ピンサが王位争奪戦に掛ける想いを吐露し始めたので、響も自分の過去を語る。

「私は両親がいてそこそこ裕福な家に生まれた」

「なら何の問題がある!」

 ピンサは金の話となると、それだけで不自由がない様に思っていた。だが、人間はそんな簡単ではない。

「あったんだよ。オヤジもババアも、私が自分に似てないとか言い出した。それでDNA検査をしたら私はどっちの遺伝子も継いでいなかったらしい。普通は取り違え程度に思う様なもんだがな、どっちも互いに浮気を疑って大喧嘩。そんな家にいたくなくて私は不良グループで喧嘩の毎日だ」

 響は前髪を撫でる。右目の傷はその時のものだった。

「何が言いたい!」

「金で回避できる不幸はあるかもしれんがな、金で幸せは買えないんだよ! それに、金があってもお前みたいに他人を不幸にしたがる人間に幸せは来ない!」

 彼女の脳裏には、守護輝士としての相方、マトイの姿があった。彼女は多くの見知らぬ誰かの為に過酷な運命を背負い、自由を得てもなお仲間の為に命を張った。だから響は、レギアスに引っ張られて嫌々始めたアークス業を、マトイが報われる為にと戦い続けたのだ。

「嘘を言うなあああ! 金があれば、不幸なんてないんだ!」

「サクラエンド、零式!」

 一斉に襲い掛かる二人の敵を、響は一刀の下に切り伏せた。チームピンサはこれで全滅、一回戦が幕を閉じた。

「買って来たっす……って殺人現場!」

 ちょうどパシられていた夜露が戻ってくる。死屍累々の現場に見えるが、響の刀にもリングにも血は付いていない。

「スタンモードだよ。殺したらなんかうるさいだろうし」

 一応、アークスの武装にはリミッターが付いている。非殺傷モードで戦っていたというわけだ。完全に手加減されてこの結果。ディズィーの思惑とは状況が真逆に傾いていた。

「さすが私の友好国!」

「チッ、役立たずが……」

 ご満悦のニパ子に対し、ディズィーは苦い顔をしている。まだ戦いは始まったばかり。これからが、王位を狙う逆賊との本格的な戦いになってくる。

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