騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 スタジアムの位置

 スタジアムはダイマックスが可能なパワースポットに建設されている。スパイクタウンの様に例外が見られるが、それはダイマックスを取り入れ、ジムチャレンジを一大エンターテインメントに仕上げたローズによって最近整備されたため。
 アラベスクタウンジムリーダーのポプラや元チャンピオンであるマスタードの世代はその法則がなく、マイナーリーグも当てはまらない。

 スパイクタウンでは町ごと移設するという大規模な計画が持ち上がっているが、多くの住民から反発を受けている。同市の衰退もローズの根回しが原因であると思われ、街を衰退させることで必然的な移設を起こそうとしているという噂もある。
 ローズはその手腕や旺盛なファンサービスで人気がある一方、周囲のケアを考えずに物事を進めることが多い。その為、あるチャンピオンのファンを始めアンチも多く存在する。


第三話 開幕! ジムチャレンジ

 ジムチャレンジの開会式はエンジンシティのスタジアムで行われる。ソニアと陽歌は観客席でその様子を見物することになった。スタジアムのコート内には多くの参加者がおり、そこにマサルとホップもいた。

「あ、シャルもちゃんと来てるのね」

「ほんとだ」

 マグノリア博士から推薦状を貰ったシャルもちゃんと開会式に出席している。ふと、ソニアは集まった面々を見てある違和感を覚えた。

「ん? 今年いつもより参加者多い?」

「そうなの? そうかも?」

 陽歌にはよく分からなかったが、推薦状という所謂『足切り』のシステムを導入している割には思ったより多いというのが感想だ。

「今年は多いな」

「気前よく推薦した奴がいるんだと」

 観客の噂話によれば、多数の推薦を行ったパトロンがいるらしい。参加者を直に送り込めるほどの力を持った人間であるのは間違いない。

 開会式が進み、ジムリーダーたちが入場してくる。メジャーのリーダーは8人、しかしここには7人しかいない。

「相変わらずスパイクのネズさんは来ないのね」

「参加しなくていいんで?」

 ソニアらガラルの人間にとってはいつものことだが、大事な大会の開会式に重要なポジションの人間が出ないというのは陽歌にとってかなり問題に思えた。

「スパイクタウンはねー……スタジアムってダイマックスが出来るパワースポットにあるのよ。その方針になったのはおばあちゃんとダイマックスの研究をしたローズ委員長の代からで、スパイクタウンは昔からジムがあったけど、パワースポットはないのよ。そこでローズ委員長はスパイクタウンごと移設する案を出したんだけど……」

「スタジアムだけじゃダメなの?」

 スタジアムに適さない立地……というわけでは決してないが運営の方針だけで街一つを動かそうというのは当然受け入れられるものではない。スタジアムだけパワースポットに建ててアクセスを改善するなど、折衷案はいくらでもありそうなものだ。

「そこなのよねー」

 だがローズという人物はそうしない。開会式は委員長挨拶に移る。一応、ローズという人物のことはゲームで陽歌も知っているが、この世界はゲームではない。一体どんな人間なのかと息を呑む。

『改めましてこんにちは。ポケモンリーグ運営委員会のローズです。お集まりいただきありがとうございます』

「あ……なんかイメージ通りだ」

 だが、ゲームで受ける印象と全く同じローズの姿に陽歌は拍子抜けする。しかしお偉いさんの例に漏れず挨拶が長い。

『我々マクロコスモスは千年後も変わらぬ平和をガラルの皆さんにお届けすることをお約束します。そして、千年後も変わらずこのジムチャレンジを開催できることを祈っております』

「随分大きく出たなぁ……」

 千年とは、五か年計画もびっくりの長期計画だ。現代から平安くらいの時間はあると陽歌は困惑する。大衆向けのキャッチーな演説、の様に聞こえるが、彼にはローズが本気で言っている様にも思えた。

『では今年の大口スポンサー、ブルジョワ伯爵からご挨拶をいただきましょう』

「これが噂の……」

 推薦状を多く出した元凶と言える人物、ブルジョワ伯爵が登壇する。この世界では有名な人なのか、ソニアは知っていた。

「直球な名前」

 捻りのない悪役の様な名前と、太った中年という姿。こんな人が大会に関与しているとは、この世界の流れが読めなくなり陽歌は少し不安になる。ゲーム知識でどの程度この世界を乗り切れるのか。

『では手短に。夢に挑戦出来ずに終わることほど虚しいことはない。敗れても挑むことが出来たのなら、そこに意義が生まれるだろう。君達の健闘を祈る』

 ローズよりも挨拶は短い。一言重要なことだけを述べてさっさと袖に戻ってしまう。

『思いの外、時間が余ってしまったな……』

 ローズは予定より式典が早く済んでしまったので、少し考える。

『では皆さん、手にしたチケットの番号をご確認ください。チャレンジャーの皆さんは背番号を今一度ご確認を』

 急に何かを始めたローズ、会場のモニターには、数字が目まぐるしく回転している。

『これより、チャレンジャーと観客のみなさんに抽選でバトルを行ってもらいます。では、栄えある挑戦者は……』

 突然のことに、観客もチャレンジャーも困惑する。モニターに表示された背番号は『404』。チケットの番号は、陽歌のもの。

「僕だ!」

「凄いじゃない!」

 まさかの当選。しかし手持ちはイーブイとジャラコ、ヤドンの僅か三匹。チャレンジに挑む様なトレーナーに勝てる気がしない。

「ワンパチ貸してあげるから頑張って!」

「あ、はい、ありがとうございます」

 ソニアからワンパチを借り、合計四匹。なんとかパーティにはなった。陽歌は急いでコートの中に降りることにした。わざわざ観客席から内部を通過しなくていい様に、ローズのダイオウドウが観客席の近くで待機していた。

「おお……」

 陽歌は鼻で掴まれ、コートに降ろされる。肝心の対戦相手は404番の選手。なんと、シャルだ。ちゃんとユニフォームも着ている。

「お前も見世物か、難儀なものだな」

「よろしくお願いします」

 彼女は選ばれたことよりも、ローズの思いつき自体に嫌気がさしている様子を見せる。

「まぁ、お前相手なら悪くもないか。いくぞ」

「それは……」

 シャルの右腕にはダイマックスバンドが付いていた。いつの間に手に入れたというのか。

「ああ、マグノリア博士がくれたんだ。使う人間が多い方が研究には都合いいんだろ」

 たしかに研究にはサンプル数が重要だ。推薦状とセットでくれたというわけだ。

『それではバトル、スタートです!』

 実況がバトルの開始を宣言する。陽歌は手始めに、ワンパチを繰り出す。

「お願い、ワンパチ!」

「来い、フギン!」

 シャルの先発はアオガラス。まさかの不利対面だ。

「かみくだく!」

「交代だ!」

 弱点を突かれるまま突っ張ってはこないと考えた陽歌は、とりあえずかみくだくで様子見。電気技は地面で防がれる恐れがある。予想通り、シャルはポケモンを交代してきた。ゴージャスボールから出て来たのは、稲妻の様なトサカを持つ紫のポケモン。

「出てこい、エルメェス!」

「あれは……!」

 ハイな姿のストリンダーへ変更。でんきタイプは麻痺にならないので、地面タイプがいないならベターな選択だ。しかし、陽歌も交代読みでサブウェポンを使用したのでアドバンテージは稼げた。

「ここは……ダイマックスだ!」

 シャルが選択したのはダイマックス。HPが増えるので、削られた場面では有効な選択にもなる。ストリンダーをボールに戻し、ダイマックスバンドのエネルギーをボールに与えて巨大化する。ボールを投げると、巨大な姿になったストリンダーが出現する。

「ダイアシッド!」

 とくこうを上げつつ、ワンパチに有効打を与えられるダイアシッドを指示する。後続も意識した動きだ。だが、ストリンダーは紫の電撃でギターの様なものを生成し、それをかき鳴らした。

「何? エルメェス、その技はなんだ!」

 トレーナーであるシャルも想定していない事態となった。攻撃はワンパチではなく、周囲の観客席を無差別に襲っている。

「な、何なに?」

 陽歌も何が起きているのか理解出来ず、状況を掴めていない。しかしバトルどころではない。時間でダイマックスが解除されるかもわからない状態だ。

「とにかく止めないと、イーブイ!」

 陽歌は自身もイーブイをキョダイマックスさせて対抗する。メロメロにすれば、少しは足止め出来るだろう。

「キョダイホウヨウ!」

 モフモフになったイーブイがストリンダーを押し潰し、動きを止める。だが、簡単に弾いてストリンダーは暴走を続ける。

「な……効かない!」

「エルメェスはメスだ、お前のイーブイもメスだからメロメロにはならん」

 メロメロは同じ性別で効果を発揮しない。よりによってメスの割合が低いイーブイがメスだったが為に作戦は失敗だ。

「くそ……エルメェス! 私のことが分からないのか!」

 以前はダイマックスしたイーブイにぞんざいな態度を見せたシャルだが、自分のポケモンは別の様で焦りが見える。

「ジムリーダーは避難誘導してるから、ここはアタシらで抑えよう」

 その時、チャレンジャーの一人である少女が声をかけてきた。パンクな髪型の、小柄な女の子であった。モルペコを連れており、暴走しているダイマックスポケモンにも物おじしない。

「アタシはマリィ、よろしく」

「あ、ども……」

 少女はマリィと名乗った。陽歌も当然知っているが、迂闊な言動は相手に不信感を与える為初対面のフリをする。実際、ゲームで一方的に知っているだけだ。

「子供達にだけ戦わせるわけにはいかないのでな、私と世にも珍しいダイケンキがお相手しよう!」

 ブルジョワ伯爵はなんと避難せず、駆け付けていた。

「お前ら、エルメェスに何する気だ!」

 自分のポケモンを無暗に傷つけられると感じたのか、シャルは三人の前に立ちはだかる。だがブルジョワ伯爵が説得を試みる。

「暴走が長引く方が負担だ、即座に戦闘不能にしてダイマックスを解除した方がいい!」

「そういうこと、多分これはダイマックスの暴走ね」

 降りて来たソニアも端末を操作して状況を分析しながら、ガレスの考えを追認する。

「例は決して多いわけじゃないけど、不慣れなダイマックスに潤沢なエネルギーのあるパワースポット、そしてガラル粒子適正が高く個体によってはキョダイマックスに至ることが出来るストリンダーという種……状況証拠は十分」

「ちっ……遊んでそうなビジュアルで博士っぽいこと言いやがって」

 シャルはソニアに対して個人的な感情もあっただろうが、暴走している手持ちを助けることを優先したのか意見を引っ込める。

「私はここで分析を続ける、他に原因があるかもしれない」

「あの装置ですね、分かりました。僕らはストリンダーを止めます!」

 二回も意図的にポケモンをダイマックス、暴走させる装置を見かけた以上、三度目がないとも言い切れない。陽歌、マリィ、ブルジョワ伯爵、シャルの四人でストリンダーの抑止を試みる。

「イーブイは戻って!」

 ダイマックスが暴走に繋がる中、二次災害を起こすわけにはいかない。陽歌はイーブイをボールに戻す。

「ヤドンは水タイプだから……ジャラコ、君に決めた!」

 ヤドンは不利と考えた選択だが、ガラルのヤドンがエスパー単タイプなのをまだ陽歌は知らない。

「モルペコ!」

「ダイケンキ!」

 マリィはモルペコ、ブルジョワ伯爵はダイケンキを繰り出す。マリィはそのダイケンキが通常とは異なる姿をしていることに気づいた。装甲が黒く、刃が波打っている。

「ダイケンキってこんなだったっけ?」

「こいつはシンオウ開拓時代に豊かな自然の影響を受けて変化したとされる姿だ」

「リージョンフォームの一種けんね」

 一方、シャルの手持ちであるラビフットのガレスはドリンクとホットドックを手に歩いてくる。

「一体何事だ?」

「何してんの……」

 トレーナーの冷たい視線にも負けず、ガレスは状況を見定める。

「エルメェスめ……あがり症な質ではないがどういうことだ?」

「私にもわからん、ダイマックスした途端暴走した。お前行ってこい」

 他に戦力がいない為か、シャルはガレスを戦闘に出す。ガレスの方は戦いが苦手なのか、拒絶反応を見せた。

「えーっ! おいおい、俺は喋るのにポテンシャルをつぎ込んで進化はおろか新技も覚えられないの分かってんだろ!」

「フギンもブラフォードも弱点を突かれる、総合力でもお前が一番マシだ」

「ひーん」

 逃げようとするが、首根っこを掴まれて強制的に前へ押し出されるガレス。しかしやるとなればしっかり気合をいれる。

「しゃーねぇ、あいつの癖は俺が一番分かってる。デカくなっただけなら一緒だろ、俺についてこい!」

 ガレスが先導し、一同のポケモンも続く。滅茶苦茶な雷撃の隙間を縫い、ストリンダーへ接近する。

「行ける!」

「いや、防御!」

 優勢を確信したマリィだったが、トレーナーであるシャルは普段との違いを敏感に感じ取っていた。

「ぎゃあああ!」

「ガレスーっ!」

 ガレスが見事に直撃を受け、陽歌は困惑する。マリィは冷静に全員を攻撃から守る。

「モルペコ、オーラぐるま!」

 雷撃は防げたが、足元には毒が広がる。ブルジョワ伯爵はダイケンキの技で迎撃する。

「早業! ひけん・ちえなみ!」

 波打った角の刃がコートを裂き、毒の流れをせき止める。

「早業? ひけん?」

「ふふん、これはかつてシンオウで用いられた技でな……」

 特殊な技に興味を持つマリィと自慢げなブルジョワ伯爵。しかしそんな悠長に話している場合ではない。

「ダメだ、ガレスが乙った。……」

 倒されたガレスをボールに戻し、シャルは苦虫を嚙み潰した様な表情をする。

「くそっ、私の不始末だってのに……」

 焦燥感を募らせるシャルに、伯爵はフォローを入れる。

「時には私の様な有能な大人に頼るのも大事なことだ。いくぞダイケンキ!」

 ダイケンキは相手に攻撃の隙を与えないまま、次々に行動を起こしていく。

「早業、つるぎのまい! 力技、ひけん・ちえなみ!」

 先ほどより力強く、鋭い一撃がストリンダーをよろめかせる。どうやら、本来は隙の生まれる補助技も即座に使える技術の様だ。

「モルペコ、だましうち!」

「ジャラコ、たいあたり!」

 マリィと陽歌も攻撃を仕掛け、徐々に圧していく。だが、思わぬ事態が起きた。ストリンダーが胸鰭を強くかき鳴らしたのだ。

「来るぞ! ばくおんぱだ!」

「え? だってダイマックス……」

 シャルにはそれが大技の合図であることが分かった。だが、それは妙だった。マリィがその疑問を口にするより先に、巨大な音の圧力がポケモン達を襲った。突風と身体の芯を揺らす振動がトレーナーたちにも伝わる。その揺れはスタジアムの巨大モニターを砕くほどだ。

「わわっ……!」

 モルペコとダイケンキはその一撃で吹き飛ばされてしまい、まさかの逆転となる。鍛えられた二匹が倒されたのならジャラコも、と陽歌は恐る恐る目を開ける。だが、ジャラコはぴんぴんしていた。

「え?」

「ジャラコの特性の一つは音技を無効にするぼうおんだ。だから選出したんじゃないのか?」

 シャルはてっきりその特性から陽歌がジャラコを選んだと思っていたが、彼にはその知識がなかった。メジャーなポケモンのタイプと相性くらいしか知らない。

「なんだか分からないけど畳み掛ける! ジャラコ、たいあたり!」

 ジャラコのたいあたりでストリンダーは倒れ、ダイマックスが解除される。シャルはストリンダーの下へ駆け寄った。

「エルメェス!」

「一件落着」

 とりあえずこの騒動には片が付いた。ソニアが壊れた機械を手に、四人に駆け寄ってきた。

「見つけたよ! あの装置!」

「やっぱり」

 やはり暴走の原因は例の装置にあった。これがエンジンスタジアムにおいてあったのだ。

「何だねそれ?」

「最近、野生のポケモンがダイマックスして暴走する事件の原因とみられる装置です」

「では、誰かが引くババを偶然君が引いてしまっただけか! うむ、あまり気に病むな!」

 ブルジョワ伯爵は俯いたまま黙ってフィールドを出ようとしたシャルに笑って声を掛ける。

「……っ」

 だが、彼女は何も言えないままその場を去ってしまった。

「ふむ……危なっかしい子だな」

「それについては同意ですね」

 ブルジョワ伯爵はやはり人の上に立つ人物だけあり、陽歌達とは違う目でシャルを見ていた。ソニアもツンケンした態度の裏に何かが隠れていそうではあると考え始めた。

 

「君の、次の千年の計画を聞かせてもらいたい」

 非常時にあっても、ローズのスケジュールは分刻み。重要な会談を予定通り行う。幸いにもリモートの為、大きな問題はない。モニターの向こうに映っているのは白い法衣の女性であった。

『ローズさんの、エネルギーを増産する計画は渡りに船です。しかし、供給を増やすだけではいつまでも文明は持たないでしょう。私は消費を抑えるという観点から、次の千年の安寧を支えることにします』

 女性は淡々と、自分のプランを語る。

『パワースポットでないのにジムを維持しようとするスパイクタウンはもちろん、離島であるヨロイ島、遠隔地である冠雪原に暮らすこと自体が大きなロスを産みます。不要なものを切り捨て、秩序立った体制を作ることが重要です』

 こうして、ジムチャレンジの中で密かにおぞましい計画が動こうとしていた。




 次回予告

 ターフタウンに来た僕達は、伝説の痕跡を見つける。そしてそこに現れたのは千年の安寧を謳う怪しい宗教……。この餃子みたいな集団は何?

 次回、『伝説の跡地、ターフタウン!』
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