騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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クライマックス! 惑星コウグの夜明け

「残るはお前だけだな!」

 七耶は最後に残ったディズィーに挑戦を叩きつける。これで五人の王女は最後の一人だ。しかし、劣勢になったというのに彼女は不適に笑う。

「ふん、あいつらは所詮、お前達を消耗させるための肉壁だ」

「何一つ消耗してないが?」

 まともに戦った響も全く元気な状態でダメージも受けていない。これではまるで肉壁にもならない。

「謎ルールで私らを縛ったつもりだろうが、その気になればお前を倒すことだってできるんだぞ?」

 七耶もルールが止めなければ戦う気満々だ。一応、正式な王家側として敵の用意した土俵で完全勝利を決めて野望を完膚なきまでに叩きのめすつもりだが、公正な視線で見ればクーデターをしているディズィー達の仕組んだ王位決定戦など最初から蹴ってもいいのだ。

「ニッパーヌ、お前は地球で何をしていた?」

「何って留学だが?」

 ディズィーはニパ子に尋ねる。最初はモノヅクリという、この星で生み出せないエネルギーを求めて地球にやってきたが、もうそんなことは忘れていた。

「忘れたのか、情けない王族だ。モノヅクリを求めていたはずだろう」

「あー、それ。でもなんか地球のプラモとか持ってきたら解決しちゃった」

 惑星コウグの人々が生み出せないそのエネルギーについて詳しいことは分からないが、彼女の尽力で解決した。かつてのコウグはこのエネルギーを得るために戦争や侵略までしていたので、それをしなくてよくなったのは当然この星にとっても喜ばしいことであった。

「馬鹿者! なぜコウグが必要でありながらモノヅクリを捨てたのか忘れたのか!」

「え?」

 珍しくディズィーが声を荒げる。必要なのに捨てなければならない事情があった様だが、ほぼ唯一地球と交流のあったコウグ人がニパ子なのでこいつが知らなければ陽歌達も知るわけがない。

「相変わらず、王族というだけで馬鹿なのに何の苦労もなく暮らせるのは羨ましいな……。コウグの建国神話、学校で習ったのを忘れたのか?」

「神話……?」

 歴史的な話を通り越して、神話とは。陽歌は少し、その信憑性に疑いを持ち始めた。

「人間が想像しうることは現実に起こる。お前達の国にも、『現実は小説より奇なり』という言葉があるだろう。モノヅクリは想像を現実に出力するエネルギー。故に想像でしかない破滅さえ手繰り寄せる。だから我らの先祖は、モノヅクリを必要であったが捨てたのだ!」

 そういう神話がある、というのは当然ニパ子以外の要人は知っているだろう。本気で懸念しているのなら、ニパ子が持ち込んだプラモからモノヅクリを得るのを止めたはず。

「そんなの、日本で言ったら黄泉に落ちたイザナミが一日に千人殺すから私達は一日に千五百人産みましょうって本気で言っているようなものだ!」

 陽歌の言う通りで、神話の継承は大事だがそれを真に受けて現実の社会運営に適応するのは大きな間違い。

「何だか知らねーが人類がノストラダムスの大予言で滅亡するって感じだな……」

 七耶もうすぼんやりとその思想が現実から逸脱していることを感じた。

「既にモノヅクリを得た民は浄化せねばならない!」

「ふあっ! あれってヴァイスじゃないですか!」

 ディズィーが手を天に掲げ、現れたものに夜露が驚く。それは紛うことなきヴァイス。彼女達の先祖が地球を追われた原因の機械生命だ。それに混ざり、ダーカーの姿もある。

「よろろん! あのメカ任せたぞ!」

「もちろんっす! 協力して皆さんを守りましょう!」

 響は即座にダーカーへ向かっていく。ダーカーの厄介な点は単純な戦闘能力とは別に、大地や生命を浸食しダーカーを繰り返し生み出すダーカー因子を撒き散らすことだ。フォトンでなければ浄化出来ない上、そのフォトンですらあまりに莫大なダーカー因子は処理し切れず、響もそれで一度死に目を見た。

「せっかく原初の闇を地の底へぶち込んでやったってのに……シエラ! 援軍頼む!」

 ダーカーの根絶は全アークスの悲願。それが叶った間際にぶり返されては困るのだ。

『もう向かってますよ。切り札を持って!』

「何?」

 シエラに要請したと同時に、会場上空へキャンプシップが現れる。そこから飛び降りたのは、陽歌によく似た姿をした少年だった。

「あいつは?」

「そうか、会うのは初めてだったな。オラクルのお前だ」

 七耶はもしやと思った。響もそれを認める。そう、彼こそがオラクルの陽歌であった。

「ジグさんからの荷物、持って来た!」

 彼が手にしていたのは、陽歌の為に手入れされた刀だ。アークスと成子坂の力が結集し、ヴァイスとダーカーを切り裂く力を得た。

「さて、ボクも久しぶりに後輩たちにかっこつけさせてもらおうか!」

 オラクル陽歌は陽歌に刀を投げ渡すと、薙刀を構える。だが、それを響が静止した。

「おい先輩! お前本来寝たきりなんだから無理は……」

「歳より扱いしてもらっては困る! オーザくんにバルチザン捌きを、マールーくんにテクニックを教えたのは誰だと思ってがふぁ!」

 ほんの少し薙刀で華麗にダーカーを屠ったが、急に吐血して倒れてしまった。

「ええ? オラクルのボクなにがあった?」

「私達が新入りの頃から無理矢理動いてる様なものでしたからねこのロートル」

 役に立たない援軍はさておいて、と遅れてやってきたジョアンが刀でダーカーを両断していく。

「小僧! 早いとこあの小娘をぶった切れ!」

「はい!」

 七耶も貯金を気にせずサーディオンイミテイトで応戦していた。陽歌は刀を抜き、ディズィーに相対する。

「お前でも、私は殺せない。私は不死なんだ」

「お前はモノヅクリが破滅を出力すると言ったな。なら僕が、お前の死を創る!」

 ディズィーは鋭い刃を何本も飛ばす。それを刀で陽歌は防いだが、物量であっと言う間に押し切られてしまう。

「くっ……」

「水も届かねば火を消せない……悲しい現実だ!」

 陽歌の弱点は守り、それを理解したのか彼女は不死斬りが届く前にごり押しする作戦に出た。だが、その刃は突如現れた紅蓮の装束に防がれた。

「これは?」

「出たか! 幻創の衣!」

 普段響に取り憑いているちびマザーがやってきて説明をしてくれる。

「八坂火継を始め、優れた具現武装の使い手は武器のみならず装束をも出現させる。その刀を不死さえ絶つ刃と認識したことで、かつての急ごしらえとは異なり浅野陽歌に合致した具現が行われたのだ」

「な、なるほど……どことなくヒツギさんの衣装に似てるような……?」

「二人は私と戦った一件で深い関係にあったからな」

 エーテルは繋がりの力。それを通じて間接的にセプトギア陽歌にもヒツギの力が流れ込んでいる様だ。

「何だか知らないけど、行ける気がする!」

 詳しいことは分からないが、この衣を纏うことで身体が軽くなった様な気もする。今なら勝てると陽歌も思えていた。

「そんなまやかしが……!」

 ディズィーはダーカーの一部を武器にし、陽歌へ攻撃を仕掛ける。だが、簡単に刀で受けられてしまう。今までならば肉体が反応し切れずに喰らっていた攻撃も余裕を持って防御できるようになっていた。

「この程度!」

 そして刀に僅かな炎が灯るだけでダーカー部分が崩壊し、そのヒビはディズィー自身の肉体にも及ぶ。

「ぐあああっ!」

 身体にダーカー因子を取り込んでいるからか、浄化の作用が本体にも及んでいる。どうにか次の攻撃を耐える為、召喚したヴァイスのサーペントにとぐろを巻かせて壁にする。ヴァイスは雑魚代表のクリオスさえ近代兵器では核でやっと倒せるかどうか。この規模では刀で倒すことなど本来できない。

「果敢鳳凰翼!」

 刀から不死鳥の形をした斬撃を陽歌は飛ばす。その攻撃は特に強化された印象はないが、一撃でサーペントの壁ごとディズィーを吹き飛ばす。

「ば、バカなぁああ!」

 しかし、彼女は倒れると同時ににやりと笑った。

「私を……殺したな?」

 そう、彼女にはまだ奥の手がある。おかれているケースから、新しいディズィーが現れ、戦闘を再開する。その様子を見て、陽歌は呆れる様にいった。

「さぁ、第二、いや最終ラウンドだ」

「忘れてない? フォトンによる攻撃も、アリスギアによる攻撃も既に受けているんだよ?」

「戯言を!」

 ディズィーは一度受けた攻撃に耐性を付けて復活する。それを思い出し、七耶もあ、とこぼした。しまったトドメを刺し損ねた、ではなく。

「もうお前の攻撃は通用しないぞ!」

「解脱せりと嘯く者を断つ! 仏陀斬り!」

 武器を手に果敢に挑んだディズィーだが、簡単に首と胴に分かれてしまう。すぐにケースから次の彼女が現れるが、愕然とした様子だった。

「な、なんで……」

「気づかなかったのか? お前初戦で受けた攻撃で死んでんだよ」

 七耶が種を明かす。果敢鳳凰翼も、フォトン武装による攻撃も、ファーストコンタクトで殺された攻撃だ。アリスギアも夜露のピジョンを回収して耐性を得ていたはず。新しい刀を持って来てはいたが、その内訳は新規性のないもの。単純に陽歌がフォトンとエミッションを使える様にするだけのもの。

「僕は繰り返す2020年そのものを断ち切ったことがある。繰り返す系の能力は斬れる」

「くそぉおおっ! 私はまた持っている者に負けるのか!」

 ディズィーは蹲り、拳が割れるほどの勢いで地面を殴る。彼女の人生は、生まれに左右されたものだった。

 貧しい家に生まれたディズィーだが、その天才的頭脳を見出だされ王侯貴族しか入れないエリート校へ入学する。そこでバカだが王族なので悠々と生きているニパ子と出会ってしまった。

 そしてそのニパ子が留学で急遽、代理の王女を決める大会が行われそれを順調に勝ち進んだディズィーだが、工事現場で働いていた父が事故に遭い死に目に会うため辞退。その後、大会自体がニパ子の帰還でご破算になった。

「僕が持ってる者ねぇ……随分な嫌味だよそれ」

 陽歌からしても、持っている者扱いは皮肉でしかない。結局、壮大なビジョンを持って行われたかの様に見えたクーデターもルサンチマンが原動力でしかなかったわけだ。

 

   @

 

 こうして、惑星コウグに平和が訪れた。クーデターに加担した者達はレジー以外が逮捕された。彼女が放置されたのは、計画をよく知らないまま騙されて参加させられたためである。

「というわけで一件落着。帰るぞ」

「一時はどうなることかと」

 突然の国難を乗り切り、七耶と陽歌は帰還する。アークスの技術を使ってやってきたので、帰りもそれを利用することになる。

「これをマナさんに渡す様に言われたんすよ」

 夜露は複数のワンダーライドブックをマナに渡す。『アリスギア・アイギス』、『ストライクウィッチーズ』、『バトルガールハイスクール』、『プロジェクト東京ドールズ』、『シュタインズゲート』とタイトルが記されている。

「これは……何かありそうですね」

 今はこれに対応したソードライバーの変身形態を持たないマナだが、今後の為に貰うこととした。

「みんなまたねー!」

 ニパ子と別れ、それぞれが帰還する。また一つ、騒動を収めたユニオンリバー。次はどんな騒動が彼らを待ち受けているのだろうか。

 

   @

 

「これは……」

 陽歌の義手から送られてくるバイタルデータを見て、アスルトは考え込む。睡眠時無呼吸のサインが出ているのだ。以前はなかったものだが、ここのところ徐々に表れ始めた。初期は精神的なダメージが表出しないほど弱っており、回復と同時に却って症状が悪化する傾向があったのだが、それの一つだろうか。

「ま、しばらく様子見でスかね」

 餅は餅屋。その件は医者に任せることにしたのであった。

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