騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
「さぁ、遂にこの日がやってきたで! メガ粒子杯デルタカイ! 司会はこの私窓辺のモクシンギョク、ミスターMSがお送りいたします」
大会当日に向け、陽歌達はガンプラのブラッシュアップを行った。参加するのは陽歌とヴィオラ。当然、現実の肉体が不明となっている彼女には様々な壁が立ちはだかったが、仲間達の協力で乗り越えた。
「おー、小僧のはこんな感じか」
開会式には参加者のガンプラが並ぶ。その巨大な姿を、現実では制限のある大人モードとなった七耶が下から見上げる。
陽歌の紅蓮はマーズフォーアーマー付属のプロトタイプカラーを用い、骨格たるコアガンダムの作り込みを向上させている。フェイスは頬のグレーを足したりと工夫あり。基礎性能が上がれば、アーマーの恩恵も上昇する。いろいろ試したが、今のところアーマーはこれが一番使い勝手がいい。
「全部乗せはかなり繊細な技術だから真似できなかったけど……」
「いいじゃないか、お前なりの答えが見える機体だ」
陽歌はコアガンダムの強みである換装システムを排し、バランスの取れた機体へ組み上げた。七耶直伝の全部乗せに引き算の発想を加えたものとなる。
「フェイクニューか」
「とても丁寧に作ってくれて」
ヴィオラの戦闘スタイルを割り出し、アルスコアガンダムをそれに適したカスタムにした。プラネッツシステムに対応しているのが幸いだった。ファンネルを二セット分使い、腕をジュピターヴから持ってくるカスタム。ライフルはアースリィから移植しており、射撃に特化させた。無論腕のビームガンも抜かりなく装備。
「皆のおかげだ」
「いやいや、何かの手がかりになんだろ」
イーグルとヴェンが制作とスキャンを行い、大会参加にこぎつけた。名前が売れたり、いろいろな経験をすることで記憶喪失のヴィオラに関する手がかりが得られるかもしれない。
「というかかなりミユの世話になった」
「あー、確かにスタイルは似てるかもな」
ファンネルを主体とする戦いは深雪のアルケインに近い。彼女からのアドバイスが大きな助けとなったのをイーグルも自覚している。
「まずは予選を勝ち抜き、本選を目指してもらうでー!」
この大会は参加者も多い。本選トーナメントへ行くには、予選を勝ち抜いてポイントを稼ぎ、上位十数名に名前を連ねればならない。
「予選第一ピリオドは四人制バトルロワイヤルや! 気張っていけやー!」
基本的に、予選の内容は『ガンダムビルドファイターズ』劇中の世界大会をモチーフにしている。最初は四人一組のバトルロワイヤルだ。この大会には、陽歌達は気づいていないがパーシヴァルやダークも参加している。
「ナクトも来ているのか……今度こそ……」
陽歌は何かと因縁のある相手。前はチャンスであったが混戦の中で倒されてしまい、不完全燃焼を感じた。
「お前ら、本戦で会おうぜ」
「おうとも」
「頑張ってね」
フォースメンバーのタンジロウやルイ達とは別の組み合わせ。初戦を制することが重要となる。一方、陽歌ともパーシヴァルとも離れた場所にいるダークは『出資者』の言葉を思い出す。
「俺は逃げない」
大会など放っておけ、とのことだか、こういうところを荒らしてこそではないかと思っており参加することとなった。周囲はブレイクデカールで何でもないところを荒らしまわってオホオホ喜んでいるが、彼からすれば奴らこそ仲間とも思われたくない道化。
GBNなど所詮、環境的にも経済的にも恵まれた者のお遊び。初めから足切りされている人間が奴らをねじ伏せて天下を取ってこそ、本当の勝利だとダークは考えていた。チートを使って末端を荒らしても、それは弱い自分から逃げるだけの慰めでしかない。
「では第三グループの試合、いくで!」
予選は三グループ目の戦いまで進んだ。ヴィオラのフェイクニューとマグアナック、スローネツヴァイ、スピナロディの対戦だ。フィールドは宇宙。
「行けよ、ファング!」
スローネツヴァイの武器は大剣のみならず、腰に装備した遠隔兵器GNファング。全8基のそれを全て放ち、周囲をかき乱す。
「遅い!」
だが、マグアナックがそれをすり抜けてビームサーベルを手に迫る。何せファングやファンネルの様な装備はオート制御かマニュアルかに分かれ、マニュアルで全て操作していると本体が疎かになる。
「うお!」
かといって本体に迫る危機を回避しようとオートにすれば、ファング側の動きが単調になる。それはファング撃墜のチャンスを与えることだ。
「今だ!」
「貰った!」
ヴィオラがライフルで、スピナロディがマシンガンでファングを撃墜する。敵がある程度整理できたのを見計らい、彼女がようやくフェイクニューのフィンファンネルを放つ。
「フィンファンネル!」
ファンネルタイプの装備にしては大型で見つけやすいことから奇襲性は低いが、その分威力は十分。一斉にスピナロディに襲い掛かる。
「無駄だ!」
しかしスピナロディも無対策ではない。この機体を始め、鉄血の機体はビームを弾くナノラミネートアーマーを持っており、しっかり作り込めば原作の様に極大ビームを弾くことも可能だ。そのため、ファンネルから繰り出されるビームの雨霰も無視して本体へ突っ切ることが出来る。
「そこ!」
しかしナノラミ装甲も無敵ではない。カメラなど、どうしても保護出来ない部分がある。ヴィオラはファンネルの攻撃をブラフに、アイセンサーへの狙撃を成功させていた。
「な、なんだ? 見えないぞ!」
視界を奪われたスピナロディは動きを止めてしまう。それでも堅い装甲があるため、狭いがサブカメラで戦うことは可能だった。が、それを許さないほどの速度でフェイクニューが接近する。装甲の襟元にマニュピレーターを突っ込み、ビームサーベルを発振してコクピットを粉砕、撃破する。
「こいつ!」
ファングを破壊されたスローネツヴァイがフェイクニューに接近する。最後の武器は巨大なGNバスターソード。ヴィオラはライフルで牽制するが、そんな見え見えの攻撃には流石に引っ掛からない。
「うわ!」
が、その攻撃自体が餌であった。回避する方向を予想し、時間差で着弾する様に多数のファンネルから射撃を行っていた。それを受け、スローネツヴァイは撃墜される。
「……ファンネルが減ってる」
ファンネルを戻すとあることが発覚した。この混戦に乗じて、フェイクニューのファンネルを落としている人物がいたのだ。残る機体、マグアナックの使い手だ。両手にライフルを持ち、器用に撃ち分けてファンネルに対応していた。
「ならば……フィンファンネル!」
ヴィオラはファンネルを全て放ち、自身もライフルを手から放たれるサーベルを構えて突撃する。
「決着を着ける気か!」
一対一になれば誤魔化しも効かない。全力の潰し合いあるのみだ。激しい攻防が光の弧を描き、宇宙に広がる。
「これで全部!」
マグアナックのダイバーはファンネルの数を数えており、正確に把握しながら戦っていた。そうでなければ死角のファンネルにまで注意が払えない。ヴィオラも何となくそれを察しており、ある手を打った。
「何?」
突如、マグアナックのライフルが撃ち抜かれる。フェイクニューの腕に装備されていたビームガンが独立してファンネルになっていたのだ。
「しまった!」
一応、設定通りの仕様なのだが背中の巨大なフィンファンネルに気を取られていた。ライフルの爆発を貫き、一筋のビームがマグアナックを直撃してバトルは終了する。第三グループはヴィオラの勝利だ。
第9グループはダークの参戦となる。
「おおっと、一見プレーンな素組だが丁寧に作り込まれているであのゼルトザーム!」
オプションを盛ったバルバトスルプスに向けて巨大な槍が投げられ、敵を一瞬で粉砕する。
「このぉっ!」
キャノンとバズーカを二本装備したヴィートルーが遠距離から砲撃を試みる。だが、ダークは悠々とランチャーを展開し、極太のビームで攻撃ごとヴィートルーを呑み込んだ。
「な、なんだこいつ……!」
ファンネルをフル可動にしたHWSのνガンダムが退避しながら射撃を行う。だが、ゼルトザームは目にも止まらぬスピードで接近。異形の右腕でνガンダムを追加装甲ごと握りつぶす。
第9グループはダークの圧勝で終わった。
ルイは第11グループに参戦した。大会に備え、普段はチーム戦主体ということもあり個人で戦えるガンプラを用意してきたのだ。それがSDガンダム、悟空インパルスガンダム。ステージの荒野もしっかり足を踏みしめることが出来るため、有利に働くだろう。
「へっ、SDなんかに負けるかよ!」
相手がSDだと初心者は舐めて掛かりがちだ。足りない塗装をしっかり補った悟空の戦闘能力は見た目からは想像出来ず、大型のサザビーが蹴り一発で吹っ飛ばされる。
「嘘だろおおお?」
岩に激突し、サザビーのコクピットが頭から射出された。
「四人目はどこだ?」
最後の相手を探していたのはバンシィノルン。そのコクピットに遠距離から弾丸が突き刺さる。
「どこにいやがったぁ!」
忽ちバンシィが爆散し、即座にタイマンとなった。ルイは悟空を弾丸の飛んできた方へ、ジグザグに蛇行させて向かわせる。
「うまいぞ……的の小さなSDでその機動、ここでは隠れ直す場所も無さそうだ」
姿を見せたのは黒いイフリートイェーガー。ライフルを捨て、ナイフを手に挑みかかってくる。
「接近戦?」
「ハイリスクハイリターンというやつだ!」
SDガンダムはその手足の短さ故に、格闘戦のリーチは短い。そのため格闘戦に持ち込むのがベストと思われがちだが、コンテンツの特性上接近で使える武器や必殺技が多い。こちらも有利だがそちらも有利、という状態になる。
「うおおおお!」
「伸びろ、如意棒!」
仕掛けるイフリート、だが如意棒が伸びてコクピットを貫く。なんと、キックのエフェクトとして足に装備される刃を如意棒の先端に取り付け、薙刀として運用したのだ。
「その手が……あったな」
イフリートは爆散し、このブロックの勝者が決定する。
「ルイ……なんだその機体は?」
戦闘後、仲間の下に戻って来たパーシヴァルはルイに機体のことを問いただす。
「言ってなかったね、今回は個人戦だから扱い易い機体を見繕ったんだ」
「そうじゃない!」
今回の大会に向けた彼女なりの一工夫だったが、パーシヴァルには何か言いたいことがある様だ。剣呑な雰囲気に、傍にいたコハクは動揺を見せる。
「なんでSDなんか……」
「だってモルジアーナとか強かったし、私も作ってみたいなって」
ルイは陽歌とモルジアーナのコンビを見て思いついたのだが、パーシヴァルには彼なりのフォースにおけるこだわりがあるらしい。タンジロウのリックディアス、他二人の百式にディジェなどを見れば何となく察することもできる。
「俺達はチームだろ?」
言わなくても分かる、という態度を見せるパーシヴァルに対し、仲間の一人がルイをフォローしつつ苦言を呈する。
「ガンプラ暦の長いお前のアドバイスで機体選んだけど、長くやってると自分に合った戦い方が分かってくるんだよな」
「とにかく、お前が勝てばフォースで全勝だ。次お前の出番じゃないか?」
タンジロウの言葉でパーシヴァルは自分のブロックが近づいていることに気づく。
「勝てばいいんだろ? やってくる」
いよいよ、予選第一ピリオド最後のブロックが始まる。
「さぁ、いよいよ第一ピリオドも最後の組み合わせ!」
最後ということもあり、ミスターMSの実況にも熱が入る。
「まずは新進気鋭のフォース『ライジング』リーダー、パーシヴァル! ここで勝てばメンバー全員勝利や!」
フィールドは初めて陽歌とパーシヴァルが戦った場所と同じ、ぬかるんだ森。あの時の同じテルティウムが降り立つ。
「そして同じく、新鋭のフォース、ヴァイパースクワッドリーダー! ナクトの赤きガンダム!」
そして大幅な改修を施し別物へ変化した陽歌の紅蓮。今回はもう二人、戦いに参加する。
「そんな二人に挑むのは、最新キットを引っ提げてやってきたクォーツ! そしてその立ち姿は万全の改修済みか? トリスタン!」
他に来たのは、水星の魔女プロローグよりベギルベウ。そして見違えるほどの改造を受けたガンダムトリスタンだ。
「最新キットには負けねぇぜ!」
トリスタンのファイターはよほど腕に自信があるのか、真っ先にベギルベウを狙う。
「ノンキネクティックポッド!」
ベギルベウもポッドを発射し、戦闘態勢。ワイヤーではなく無線で動く様に改造を受けている。声からしてベギルベウのファイターは女性の様だが、あまり当てにならない。
「そんなジャミングポッドなど!」
このポッドは水星の魔女世界におけるガンダムを無力化、正確には基盤となるガンドフォーマットのリンクを断ち切るもの。なのでトリスタンには効果が無いと思われた。
「何?」
だが、トリスタンのコクピットは灯りが消え、コンソールも消滅する。
「これで終わり」
ベイオネットで胸部を貫かれ、トリスタンは敗退する。陽歌は即座にあのポッドがただならぬものと察知し、ガトリングを放つ。
「小癪な真似を!」
パーシヴァルも射撃を開始するが、動き回るポッドに単発のライフルでは当てることが出来ない。
「これで!」
しかし陽歌は連射が利くガトリングを使っていることもあり、多少狙いがブレても当てることが出来る。苦手を理解した上での武装選択だ。ポッドはビームを受けて爆散した。
「ちぃ、やってくれる。ダークが警戒するわけだ」
「ダーク? 関係あるのか?」
どうもダークとクォーツは知り合いなのか、そんなことよりまずは目の前の戦いだ。
「これで怖い物はない!」
ライフルを投げ捨て、パーシヴァルはサーベルを手に突撃する。相手は近接装備しか持っていないのでチャンスと踏んだのだろうが、それは甘かった。
「その程度で!」
なんとベイオネットにはビームガンが備わっており、それを発射して牽制する。
「豆鉄砲め!」
流石に威力は少なく、テルティウム本体に当たってもダメージは少ない。だが、ゆっくりとそれを地面に向けていき泥を巻き散らす。ビームの熱で水が暖められ、水蒸気のスモークが発生する。
「何?」
目隠しをされ、思わず止まってしまうパーシヴァル。それが勝負を分けた。ベイオネットは的確にテルティウムの首を撥ね、コクピットを貫いた。あの改造トリスタンを射貫く威力だ。並大抵のガンプラは紙同然。
「そ、そんな……」
パーシヴァルは陽歌ですらない相手に倒されたことに動揺を隠せなかった。一方、陽歌はその隙を見逃さない。
「目隠しは、こちらにも使える!」
ミストが発生する前のテルティウムの位置を覚えておけば、機体反応がロストした時にベギルベウがその近くにいることも予想出来る。大剣を手に迫り、攻撃を仕掛ける。とはいえ、正確な場所までは測りかねるので左腕を落としただけに終わった。
「うっ……」
陽歌の全身に冷や汗が吹き出す。まだ腕を失うことへの恐怖が残ってはいたが、乗り越えられないほどではない。ミストの中を脱出すると、ベギルベウも追ってきていた。
「やるな。こちらの策を利用してきたか」
陽歌は大剣で絶え間なく仕掛ける。リーチ、質量ともにこのマーズフォーウェポンの大剣はベイオネットに勝る。ビームガンへのシールドとしても機能する。
「だが、負けん!」
ベギルベウは足のクローで大剣を受け止める。だが、何等かの形で防御されるのは予想済み。大剣から斧を分離させて振りかぶり、ベギルベウの頭に叩きつける。
「何?」
咄嗟にベイオネットで防御しようとするが、それは虚しく叩き割られた。いくら鋭くても細身の剣。真正面から分厚い斧を受けることは不可能だ。鋭さと繊細さは紙一重というわけだ。
「私の……負けか……」
『第一ピリオド最後の勝者は、ナクトだぁあああ!』
第一ピリオドから波乱の幕開けとなったメガ粒子杯デルタカイ。この戦いは誰が勝利するのか、ますます分からない状況となった。
予選第一ピリオドは四人制バトルロワイヤル。第二ピリオド以降は全員参加のバトルロワイヤル、用意された武器で行うバトルなどが予定されている。