騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 デュエルの持ち時間

 デュエルでは極端な遅延行為を防止するため、一ターン辺りの時間制限が400秒ほど設けられている。デュエルディスクにはこれをカウントする機能があり、不正を防ぐため互いに同期しながら時間経過を測定する。
 この持ち時間は自分のターンはもちろん、相手ターンに自分のカードをチェーンさせる思考時間も含まれる。再度自分のターンになれば持ち時間が回復する仕組みだ。
 ネット対戦では相手の遅延を指摘出来ないためか、一定時間以上操作しないと敗北になるルールも追加されている。
 何故かデュエルディスクでは持ち時間切れは強制敗北でなく、ターンチェンジとなっている。その意図はディスクの仕様を作った海馬コーポレーション以外知る由はない。


Turn5 決闘を憎む者

 大好きだった家族は変わってしまった。切っ掛けは兄の失踪。半年後に帰ってきた兄は大好きだったデュエルモンスターズのカードを拒絶する様になった。両親も兄に掛かり切りになっていった。

 事件の名前は、セカンドロスト事件。優れたAIを産み出すため、子供達を監禁してデュエルをさせる狂気の実験。それを知った私は、デュエルモンスターズを滅ぼすことを決めた。

 

   @

 

「陽歌くんが珍しくむくれてる」

 ある日の夜中、喫茶ユニオンリバーの隅で陽歌は膝を抱えて拗ねていた。普段感情を、特に不平不満を表に出さない彼にしては非常に珍しい態度であった。

「ロスト事件とセカンドロスト事件の被害者家族の交流会が中止になったんだと。まぁ、歳相応の部分があって安心したよ」

 七耶はミリアに事情を話す。一見すると楽しみにする要素も無さそうなお堅いイベントだ。しかし参加者の中に腕の立つデュエリストがおり、対戦したがっていた。デュエルへのトラウマを他の被害者が払拭する機会になれば、と穂村尊という人物が提案して陽歌が乗った形になる。

「しかし馬鹿な奴がいたもんだよ。爆破予告なんてソッコー身元が割れて捕まるってのに」

 それが爆破予告でお釈迦になってしまった。犯行予告系はものすごい勢いで警察に取っ捕まるので、悪戯半分でもやめよう。

転生炎獣(サラマングレイト)はミラーマッチが熱いからせっかく組んだのに……」

「そうなのか」

 陽歌もその気でデッキを構築していた。得意な炎属性デッキなこともあって気合が違った。ミラーマッチというのは手の内が明らかになっている以上熾烈なものになるが、特に転生炎獣は激しい。転生リンク召喚や転生融合召喚などのギミックが、相手の墓地から素材を奪って逆転などの応酬に繋がるためだ。

「おーい、陽歌、レッドアイズ完成したんだけど見てくれるか?」

 そこに空気を読んだのか、緑髪を短いツインテにした少女が現れる。彼女はエヴァリーの妹、ヴァネッサ。かっこいい物が好きな彼女に漆黒で赤い瞳の龍はぶっ刺さった。

「あ、うん。じゃあデッキはいつもので」

 転生炎獣はミラー意識の構築だったため、陽歌はいつものデッキをディスクに装填する。

「へぇ、今はメンコにゲームのルールが書いてあるのねぇ」

「ん? ルシアも始めるのか?」

 青っぽい銀髪の少女、浅野ルシアがカードたちを眺めていた。彼女は陽歌の姉に当たるが、色々事情があり戦後直後から現代にやってきた存在だ。

「ちょっと複雑そうだけどね」

 苗字をくれた親と二人とも血は繋がっていない。そしてお互いもよく知っているわけではない。ルシアは会話のきっかけになればと少し興味を示した。

「ん?」

 陽歌とヴァネッサがデュエルを始めようとした時、陽歌のディスクに通信が入る。英字によるメッセージだが、陽歌は即座に内容を理解しパスワードを入力する。デュエルディスクはソリッドビジョンの応用でホログラム投影のコンソールを出すのもお手のもの。

「りょうくんからだ」

「誰それ?」

「オンラインのフレンド」

 彼の意外な友好関係に驚きつつ、ヴァネッサは送られてきた情報を見る。それは何かのGPS信号であった。

「爆破予告の犯人が使ってるスマホのGPSだって」

「りょうくん何者だ?」

 謎の友人、りょうくんが持つ超技術に驚きつつ七耶はメールを確認する。パスワードのヒントと思わしき場所にはモンスターの名前が二つ記されているだけだ。

「この暗号どうなってんだ?」

「ああ、これは効果処理を含めてこのモンスター同士のバトルで発生するダメージが答えなんだ。これはダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンと憑依装着ヒータのバトルで、リベリオンが効果を発動したから相手の攻撃力は半分になって925、こっちの攻撃力はその分上がって3425。ダメージは1575だよ」

 説明を聞き、七耶はふと計算問題を出す。

「102引く3は?」

 結構簡単な問題なのだが、陽歌はフリーズしてしまう。3と2を引いてから100引く1をすればいいだけなのだが、彼には出来ない。まともに学校へ行けていない上、虐待の影響で脳の発育がよくない為だ。

「出来る様になったわけじゃねぇんだな……」

 ヴァネッサはもしかしたら、と思ったがダメだったのでがっくり項垂れる。七耶は矢継ぎ早に次の問題を出す。

「じゃあ、自分のネオスで相手のブラックマジシャンに攻撃する時、相手が速攻魔法の突進を使いました。それに対してダメージステップ開始時に自分はオネストを発動しました。ダメージはいくつ?」

「2500」

 まさかの即答。七耶も割合、難しくはない問題を出したのだが処理する数字自体は先ほどより増えている。

「それ出来るなら自信持ってよくない?」

「ええ? でもオネスト噛ませた時点で自分の攻撃力がまんま通るんだよ? 長い掛け算に0を掛けるようなものだよ?」

 ヴァネッサはいいんじゃないかと思ったが、決闘者的にはこっちの方がシンプルな模様。

「そういうものなのか……」

「そういうもんです。早く行こう、犯人の下へ!」

 それよりも陽歌はイベントを台無しにした犯人へのカチコミを優先していた。

 

   @

 

 童美野町美術館では、とある企画展が行われていた。それは古代エジプトの壁画から着想を受けたというデュエルモンスターズに関するものだ。あの伝説の大会、バトルシティの時期にも展示されていた壁画や神のカードなどが展示されている。

 今は閉館時間で真っ暗だ。

「ここか……」

 そこにセーラー服姿の少女が現れた。黒髪で真面目そうな見た目に反し、指には指輪、耳にはイヤーカフやピアスにイヤリング。ネックレスやチョーカーなど金のアクセサリーをじゃらじゃらつけた異様な姿をしていた。

「神のカードと、デュエルモンスターズの歴史……。私の目的にまた近づく……」

 少女は黄金の斧を手に、石板に近づく。しかしその時、暗い室内に照明が付けられた。

「やはり来ましたね。タウクがなくても、悪い予感というのは当たってしまうものですか」

「イシズ・イシュタール……」

 少女は石板の前にいる女性のことを知っていた。エジプトの考古学における有力人物にして、あのバトルシティでベスト8に入った実力者。

「邪魔をするなら、お前を倒す」

「企画展に犯行予告を出したのはあなたですね?」

 イシズはリボルバーなる人物からの通報で、彼女の犯行予告と侵入を知っていた。最初は予告も通報も悪戯だと思っていたが、目の前の少女が身に着けているものを見てその本気度を知る。

 デュエルモンスターズは悪魔のゲーム。その歴史ごと抹消すべき。犯行予告にはこう書かれていた。そんなことを言うくらいなのだからおそらく、闇のゲームに精通している人物だろうとは思っていた。

「それは千年アイテムのアーキタイプですね? どこで手に入れたのですか?」

「お前に答える必要はない。特に、この悪魔のゲームを現代へ伝えた罪深き一族のお前には」

 少女はイシズの問いかけには答えない。彼女は斧を左腕に装着し、デュエルディスクの様にしてデッキをセットした。イシズもデュエルディスクを展開して戦いに挑もうとする。

「お、こんなところに丁度いいガキの盗人がいるぜ」

 その時、物陰から様子を伺っていた人物が姿を現す。ワインレッドの髪をした少女だが、イシズにとっては共に働く同僚だ。

「級長さん! 帰ってなかったんですか?」

「こんな危ないところに女性を一人で残すわけにはいかんでしょう。 こんな奴俺でも倒せるぜ」

 イシズが犯行予告もある中帰らなかったので、一緒に残っていたのだ。眼鏡を指で直し、めちゃくちゃカッコつけてディスクを展開する。

「このゲーム、先攻が有利なんでしょ? 譲ってあげる」

「舐められたものだな。後悔するなよ!」

 そして二人は決闘を開始した。

『デュエル!』

 ライフは8000のマスタールール。持ち時間は一ターン400秒。

級長の傍に一人の精霊が立ち、助言を送る。

『気を付けて、あいつ、闇のゲームを仕掛けてくる!』

「ああ、わかってるアウス。なんせ千年アイテムの試作品まで持ち出す酔狂な奴だ」

 この世界にはデュエルモンスターズの精霊を従える決闘者がいる。級長もその一人で地霊使いのアウスと共に戦う。

「へぇ、そんなホログラムで恋人ごっこなんてデュエリストは異常者揃いなのね」

「あいつ精霊が見えるのか」

 千年アイテムの試作品。あの強大な力を持つ七つのアイテムは一発で製造されたわけではない。その裏には多くの試作があり、その度に多数の人々が生贄となっている。盗賊の村、クルエルナ以外にも悲劇は起きた。

「やはりその力はあるようですね」

「逆に言えばあんだけ付けないと闇のゲームを仕掛けられないってことだ。俺のターン!」

 イシズが警戒を促す中、級長は早速仕掛けた。

「俺は手札から速攻魔法、盆回しを発動! デッキから二枚のフィールド魔法を発動する!」

 制限カードを初手で引き込むのは上々といえる。これはただ二枚のフィールドを発動するだけではない。

「俺のフィールドに『大霊術一輪』! お前のフィールドに『魔法族の里』を発動!」

「ただ二枚カードが出るだけか」

「分かってねぇな! 盆回しで出したフィールドは張り替えられないんだぜ!」

 通常、フィールド魔法はお互い一枚しか発動出来ず、新しいものを発動すると今まで存在していたものは墓地へ送られる。それでは相手にフィールドを押し付けてもすぐに張り替えられてしまうが、盆回しはそれを防ぐ。

「これでお前は魔法使い族がいないと魔法を発動出来ないぜ!」

 さらに魔法族の里はお互いに魔法使い族のモンスターがいないと魔法が使えない厄介な効果を内蔵する。

「俺は手札から、憑依装着ダルクを召喚! 効果により、手札から稲荷火とデーモンリーパーを特殊召喚するぜ」

 三体のモンスターが一気に場へ並ぶ。霊使いの使い魔達は魔法使い族がいると特殊召喚できるのだ。

「そして手札のファラオニックアドベントの効果発動! ダルクをリリースして特殊召喚、守備表示!」

 効果を駆使することで二体のリリースが必要な最上級モンスターをいきなり召喚して見せた。さらにこのモンスターの真髄はここからだ。

「稲荷火とデーモンリーパーの二体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 来い、キングレムリン!」

 さらにエクシーズ召喚。

「キングレムリンのオーバーレイユニットを一つ取り除き、デッキから爬虫類族のモンスター、ジゴバイトを手札に加える。そしてファラオニックアドベントの効果発動!」

 キングレムリンをリリースし、級長はデッキからカードを引き込む。

「爬虫類族、天使族、悪魔族のいずれかをリリースし、永続罠を手札に加える。俺が加えたのは、スキルドレイン!」

 級長のデッキはスキドレ憑依装着。ファラオニックアドベントと使い魔のジゴバイトやエクシーズで出せるランク4のキングレムリンでキーカードを引きこめるようにしている。

「悪いことするもんじゃねぇな。この上振れ、俺史上初だぜ」

 とはいえ先攻一ターンでここまで決まるのは異例中の異例。スキルドレインは素引きも想定しており、このルートを使わない方が多い。

「俺はカードをセットし、ターンエンド。この布陣、突破できるかな?」

 憑依装着モンスターは下級の中でもトップのステータスを誇り、使い魔含め効果がフィールドで発動しないのでスキルドレインとも相性がいい。手札誘発として入れているウィッチクラフトゴーレム・アルルの強制帰還も防げる。

 アドリブ力の必要なデッキ回しだが、彼は自身のデッキを相当に把握しているのかここまで持ち時間は50秒も使っていない。そもそもいくらデュエルがソリティア一人回しだと揶揄されても、400秒を使い切ることが稀なのだが。

「そうか、私のターン。ドロー」

 環境デッキの様な圧倒的制圧でないものの、まあまあ厄介な布陣である。

「トラップ発動! スキルドレイン! フィールドでモンスターは効果を発動出来ない!」

 少女はモンスターと魔法を封じられている。どちらか一つでも支障をきたすのだが、それが二つとなると頭を悩ませるはず。

「私は封印されしものの右腕を召喚する」

 が。彼女はエクゾディアのパーツを召喚した。たしかにエクゾディアは魔法使い族。だがこれが入っているということはエクゾディアを揃えるデッキのはず。勝ち筋を失ってしまう。

「エクゾディア? 召喚神軸か? それとも回収手段を持っているのか?」

「私は強欲な壺を発動」

「は?」

 級長が警戒を強める中、少女は堂々と現在なお禁止されているパワカを発動した。リスクなしの2枚ドローは強力無比。

「いや待てまて! 禁止カードだろうが!」

「このくだらないゲームの真の姿だ。上等だろう?」

 デュエルモンスターズには競技性を担保するため、リミットレギュレーションというものが存在する。デュエルそのものの否定になりかねないカードは禁止され、使えなくなるかデッキへの投入が制限される。

「そして天使の施しを発動する。二枚カードを引き、一枚手札から捨てる。私が捨てるのはクリッター。この効果で闇属性のモンスターをデッキから手札に加える」

「エラッタ前ぇ!」

 そして禁止になっても調整を施されて戻ってくることもある。クリッターはフィールドから墓地に送られることで効果を発揮するが、昔は手札からでも効果を使えた。黒き森のウィッチも同様。昔はこの二枚を捨ててエクゾディアを完成させる世紀末みたいな光景があちこちで見られた。

「いや待て……既にパーツはフィールドだ」

「右腕が一枚しかないわけないだろう?」

 しかもエクゾディアパーツは複数積み。制限カードで各一枚しかデッキに入らないはず。デュエルディスクもそうした違反デッキは特殊な手順を踏まないと使えない様になっているはず。

「あ! あいつのディスク謎アイテムじゃん!」

 しかし少女のデュエルディスクは千年アイテム由来。そんなルールお構い無しだ。強欲な壺や天使の施しでデッキからカードを引きまくる。途中、エラッタ前のクリッターや黒き森のウィッチを墓地に落としてエクゾディアパーツを回収しつつ、ついでに落としたエラッタ前の処刑人マキュラで罠カードを手札から発動できるようにして強欲な瓶まで使い出した。

「手札にエクゾディアのパーツが揃った時、私はデュエルに勝利する!」

「表出ろこの野郎!」

 ルール無視もいいところなデュエルに級長は怒るが、既に勝敗はついている。エクゾードフレイムが直撃し、博物館の床に逆さまで埋まってしまう。

「どうやら、モンスターの攻撃を実体化するだけで特殊な罰ゲームをする力はないらしいですね」

「十分では?」

 イシズはこのデュエルで、彼女が持つ千年アイテム試作の性能を把握した。だが、こんなインチキデッキ相手では流石に分が悪い。

 

 一方その頃、七耶、陽歌、ヴァネッサはGPSの信号を追って童美野美術館までやってきた。その入り口にはホットドックのキッチンカーも止まっている。

「あれ、ナギカフェの車!」

「知り合いか?」

 ロスト事件関係で陽歌はあの車、ナギカフェのことを知っていた。被害者の兄である草薙翔一と同じく被害者の藤木遊作が共に経営している店だ。三人は博物館に乗り込むと草薙と遊作は犯人と思われる少女に対峙していた。

「気を付けろ! 奴は闇のゲームを仕掛けてくる!」

「闇のゲームだと?」

 倒された級長の証言に全員が身構える。

「でもさすがにバトルシティベスト8のイシズさんと、遊作さんがいる時点で分が悪いと思うけど」

 陽歌は周囲を見渡して戦力を確認する。全員で戦えばセキュリティが来るまでの時間を稼ぐことは出来そうだ。

「公式戦の記録があるあのねーちんはともかく、遊作って小僧は強いのか?」

「もちろん」

 七耶は遊作の実績について知らないが、陽歌は打ち合わせの時にデュエルしたことがある。

「前にやった時はサブのデッキだったと思うけど、ギリギリだったもん」

(見抜かれているのか……)

 藤木遊作はリンクヴレインズの英雄、playmakerとしてサイバース族を中心にしたデッキを使っていた。それを悟られない様に陽歌との対戦ではデッキを変えていたのだが、プレイングの不慣れさでいつものデッキでないことがバレていた。

「よし、お前らメイン戦力は一旦下がってろ。まずは私がやる」

 最初に動いたのはヴァネッサであった。闇のゲームということは暴力で解決できない以上、腕利きのデュエリストに全てが委ねられる。イシズ、遊作、そして陽歌はなるべく温存したい。

「ヴァネッサ! こいつはボクが……」

 陽歌もイベントを台無しにされた怒りからやる気を見せていたが、級長からある情報を聞いてすぐに退いた。

「あいつエラッタ前のカードでエクゾディア使うぞ!」

「あ、じゃあヴァネッサのデッキの方がいいかな」

 少女の方はその意図が分からず、自信満々でデュエルを受けた。

「ふん、どうせ私が勝つのだから先攻くらい譲ってやる。お前達の足りない脳で考えた紙束の無価値さを思い知れ」

「デッキってのはデュエリストの誇りらしいな、それを汚す奴は許さねぇ!」

 デュエリスト暦の浅いヴァネッサでも、他人が大事にしているものを尊重する気持ちがある故に少女の言葉は許せなかった。

「言ってろ。しかし奇妙なのがお前だ、浅野陽歌」

 少女はなんと、陽歌のことを知っていた。

「お前もセカンドロスト事件の犠牲者だろうに、なぜこんな悪魔のゲームを続ける? こんなゲーム、この世に存在してはいけない。私はデュエルモンスターズへ復讐するためにここにいる。お前も本来はこうするべきはずだ」

「セカンドロスト事件……、まさかお前は……」

 目の前の少女がセカンドロスト事件の被害者なのかと陽歌は身構えた。遊作はここに来るまでに得た情報を全員に共有する。

「武原鞘、お前の兄、武原剣がセカンドロスト事件の被害者だったな。だが、俺にはお前をここで止めなければならない三つの理由がある」

「何?」

 三つ、その何気ない言葉に陽歌は少し反応を見せる。

「三つ……?」

「一つ、復讐すべきはデュエルモンスターズではなく、それを悪用した全ての元凶。お前は復讐の相手を間違えている。二つ、復讐の名の下に、無関係な者を傷つけることは許されない。そして三つ、復讐の道を往くのは俺だけで十分だ!」

 Playmakerとして過去に決着を着けた遊作だからこその言葉。しかしマイナスから長い時を経てゼロへ戻った彼を、再び戦いに戻すことを良しとしない者もいる。陽歌と七耶達、ユニオンリバーだ。

「水臭いじゃないですか。そういうことならボクも手伝いますよ」

「ああ、なんせ私らはトラブルコンサルタント、ユニオンリバー。こういうドンパチが本職だじぇ」

「くだらない友情ごっこは終わりか? 一人ずつ地獄に送ってやる」

 しかし鞘はブレずに戦いを挑む。まずはヴァネッサを倒す、その決意は固い。

『デュエル!』

 ヴァネッサの先攻。まずやることは決まっている。

「私のターン! 手札から『伝説の黒石(ブラックオブレジェンド)』を召喚! このモンスターをリリースし、デッキから『真紅眼の黒竜』を召喚!」

 レッドアイズは豊富なサポートがあり、バニラ上級モンスターながら召喚自体は容易な部類だ。

「そして闇属性のドラゴンが召喚されたことで、手札からノクトビジョンドラゴンを特殊召喚!」

「レベル7が二体! 効果をぶん回すデッキにはあれが刺さる!」

 陽歌は何が出るのかを既に予想していた。

「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 鋼鉄の肉体を自らの業炎で研ぎ澄ませ! ランク7! 『真紅眼の鋼炎竜(レッドアイズフレアメタルドラゴン)』!」

 黒い鋼鉄の鱗を持つ竜が姿を現す。だがヴァネッサのデッキはこれを出して終わりではない。

「更に私は魔法カード、レッドアイズ・インサイトを発動! 手札のレッドアイズモンスター、『真紅眼の飛竜』を墓地へ送り、デッキから『真紅眼融合』を手札へ加える」

 レッドアイズ魔法罠を自在に呼び込むカードで、強力な融合カードを手に入れる。

「そしてそのまま真紅眼融合を発動! デッキのモンスターで融合召喚する!」

 お馴染みとなったデッキ融合。墓地に送られたのは『真紅眼の不死竜(レッドアイズアンデットドラゴン)』と『真紅眼の凶星竜―メテオ・ドラゴン』。

「融合召喚! 流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン!」

 呼び出されたのは攻撃力3500を誇る強力な融合モンスター。だがエクゾディア相手に強いモンスターがいくら揃ったところで意味はない。

「そんなもの、張りぼてだ」

「それはどうかな? メテオ・ブラック・ドラゴンの効果発動! デッキからレッドアイズモンスターを墓地へ送り、その攻撃力の半分のダメージを与える! 私はデッキから攻撃力2800のレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを墓地へ送り効果を発動! シューティングソウル!」

 メテオ・ブラック・ドラゴンの全身から炎が溢れ出し、ダークネスメタルドラゴンの姿をした火炎が鞘に向かって飛ぶ。

「うわあああっ!」

 闇のゲームは仕掛け人である鞘にも牙を剥く。彼女はそれを把握していなかったのか、全身を焼かれる痛みに悶え、困惑する。

「な、なぜ……」

「闇のゲームとは自身をも危険に晒す行為。幸い、あなたのそれはモンスターのダメージを実体化するに留まっています。今ならまだ、間に合います。サレンダーを」

「するものか……」

 イシズの警告にも効く耳を持たない。一応、リンクヴレインズで世界を賭けた戦いをしてきた遊作であったが現実にダメージを受けるオカルト全開のものは初めて見るため驚きを隠せないでいた。

「あれでまだマシな方だというのか?」

 ダメージは1400、鞘のライフは6600。しかし服は焼け焦げ、足元は覚束ない。この調子でライフがゼロになるまでやり合ったら危険だ。

「やめるなら今のうちだ! 私は手札に黒炎弾を持っている!」

 ヴァネッサは手札にある魔法カードを見せる。それはフィールドにいる真紅眼の黒竜の攻撃力分相手にダメージを与えるバーンカード。

「そんな脅しに屈するか!」

「あ、それを使われたら……」

 陽歌は状況を見て察する。ヴァネッサも仕方なく発動したが、メテオ・ブラック・ドラゴンは容赦なく黒炎弾を鞘に放つ。真紅眼融合で召喚されたモンスターは真紅眼の黒竜として扱われる。よって黒炎弾のダメージは3500。

「ぎゃあああ!」

「ほら言わんこっちゃない!」

 残りライフは3100。これではもう勝ち目は無さそうだ。

「まだだ……まだエクゾディアを揃えれば……」

 しかし鞘は諦めていなかった。ダメージは重く、今にも倒れそうだが憎しみだけで立っている状態だ。

「ターンエンド、もうやめておけ」

「私のターン! 最後に勝つのは私だ!」

 鞘は長い時間をかけてカードを引き、意識を保ちながらやっとやっとで魔法を使用する。

「私は天使の施しを発動! カードを二枚ドローし、一枚手札を捨てる! 私が捨てるのは黒き森のウィッチ!」

 天使の施しが発動した瞬間、真紅眼の鋼炎竜が口を開き、炎を吐き出す。

「真紅眼の鋼炎竜の効果発動! オーバーレイユニットを持つこのモンスターが存在する限り、相手は効果を発動する度に500ポイントのダメージを受ける! メタルブレス!」

「な、そんな……! がぁあっ!」

 鞘は攻撃を受けてしまう。しかもエラッタ前のウィッチは強制効果っぽい表現の為止めることが出来ない。エクゾディアのパーツを加えるも、また攻撃が飛んで来る。

「うぐぁあっ!」

 派手に吹っ飛ばされ、博物館の硬い床に叩きつけられた鞘は起き上がるのに長い時間を要した。

 二回の効果でライフは1000減少し、鞘のライフは2100。しかしエクゾディアを揃えるこのデッキで動きを止めることは、次のターンでの敗北を意味する。

「デュエルモンスターズを滅ぼす……! その時まで私は!」

「やめとけ! 自分の闇のゲームで死ぬぞ!」

 ヴァネッサが止めるも、まるで聞く素振りがない。

「手札から強欲な壺を発動!」

 カードを二枚ドローするが、500ダメージ。これでライフは1600。単純なはずのデッキでも、身体に傷が増える度に回すのが困難になる。

(恐れている? 私が? デュエルモンスターズごときを?)

 加えて、痛みに拒絶反応が起きてしまい、カードの発動を躊躇ってしまう。エクゾディアを揃えれば勝てるのだ。

「ぐ……さらにテラフォーミングを発動! フィールド魔法をサーチする」

 追加攻撃でライフはいよいよ1100。彼女は半ば這いつくばる様な状態でデュエルをしていた。

「私は……手札からチキンレースを発動!」

「それは……!」

 フィールド魔法、チキンレース。それはライフを1000払うことで様々な効果をお互いに使えるカード。そして多くはドロー効果を使う。

「自分でライフを支払えばダメージは避けられる……。お前に倒されて逃げられなくなるよりはマシだ」

「お前まだ自分がサレンダー以外で生きてデュエルを終えられると……」

 ヴァネッサは呆れてものが言えなかった。闇のゲームを行うという重大さが分かっていない。級長は人間でないから辛うじて生きているものの、ダメージを実体化するだけでも見ての通り危険を伴う。サレンダーでも無事に済むかは賭けだが、千年アイテムの試作という道具の弱さを考えるとサイコデュエル程度の状況であるならばおそらくはやめられるはず。

「言ったはずだ! 最後に笑うのはわた……ぐ、あぁあああっ!」

 ふらりと立ち上がったばかりの鞘は、胸を服が皺になるほど強く抑えて蹲る。どうやらライフを支払う行為でもダメージは発生する様だ。

「ば、バカな……」

 動揺を隠せない鞘の前で、無情にもヴァネッサのデュエルディスクが光る。どうやら彼女は持ち時間を使い果たしたらしい。本来タイマーはお互いのディスクで同期しているのだが、不正対策に片方が時間切れを察知した場合、ターンが回る様に出来ている。

「あ、時間か。しかし不思議だよな。ネット対戦じゃ持ち時間切れはタイムアウト負けなのに。私のターン、ドロー」

 不思議な仕様の差にぼやきながら、ヴァネッサはカードを引く。手札は三枚、フィールドには最上級のモンスターが二体。鞘の残りライフは600。トドメを刺すには十分過ぎる。

「待て! 私のターンは……」

「なるべく攻撃力の低いモンスターで終わらせるから、反省しろよ?」

 ヴァネッサは手札から一番攻撃力の低いモンスターを探す。とはいえ高い火力が自慢のレッドアイズデッキ。そんな温情は都合よくできないこともある。

「あちゃー、ないわ。待ってやるからサレンダーしろ」

 仕方なく彼女は鞘にサレンダーを促す。だが、ヴァネッサの優しさを踏みにじるかの様に鞘は金の鎖で陽歌を拘束する。

「なっ? うぅうう!」

 そして謎の力により、陽歌から力が吸収される。

「見ろ! お前が勝てばこいつの生命力を啜って私は生きながらえる! どっちみち、正しくない道を選んだ奴だ。私の為に死ねるなら上等だろう?」

「陽歌!」

「小僧!」

 その場の全員が突然の盤外戦術に焦りを見せた。

「ヴァネッサ! ボクに構わず……ん、ぁああっ!」

 陽歌の体力は極端に少ない。ライフ分も吸い取られては死んでしまうのが目に見えている。だが、彼はヴァネッサを信じた。闇のゲームではいくら超技術の徒であるヴァネッサや七耶でも対抗は難しい。

「やっと抜けた……、アウス! デーモンイーター!」

 その時、ようやく床から抜けた級長がモンスターを二体召喚する。精霊であるアウスがいるが、彼女一人では力不足が否めない。

「こいつを使えってのか……?」

 だが彼のエクストラデッキが光り、道を示してくれる。

「俺は二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 万物を蹴散らす力の壁よ。今、竜の牙となりて顕現せよ! ランク4! ファイアウォール・X・ドラゴン!」

 なんと現れたのはplaymakerの象徴、ファイアウォール。これには遊作も驚愕する。さらに彼のデュエルディスクから、リンクのファイアウォールが姿を現した。

「ファイアウォールが、力を……」

 ファイアウォールXはリンクしているモンスターのリンク数×500、攻撃力を上昇させる。さらに、リンク4のサイバースを呼び出す力を持っている。

「おかえり、あれ精霊の力?」

「ううん。私だけじゃない……」

 素材が取り除かれて戻って来たアウスに級長が尋ねる。ただ、どうも精霊単体のパワーではなさそうだ。サイバース族は単なる紙のカードとして、競技用やplaymakerなどのファンアイテムとして流通しているが、『本物』はデータマテリアルから生まれた特別製。それと共鳴しているこのカードは一体何なのだろうか。

「とにかく任せたぞ! ライジング・クリプト・リミット!」

 ファイアウォールXはその強靭な腕で鎖を引き裂き、陽歌を救出した。

「お前は、赦しに後ろ砂をかけた。もうかける情けもない!」

 ヴァネッサは恩赦を無下にしたばかりか陽歌にまで手を出した鞘に対し、激しい怒りを燃やしていた。

「私は手札から紅玉の宝札を発動! 手札からレベル7のレッドアイズを墓地へ送り、2枚ドロー! さらに七星の宝刀でレベル7モンスターを手札から一枚除外し、2枚ドロー!」

 手札交換を行い、数自体も4枚に増える。ヴァネッサの怒りに呼応し、デッキは必要なパーツを手繰り寄せる。

「さらに闇の誘惑を手札から発動! カードを二枚ドローし、闇属性のモンスターを手札から除外する!」

 ここからが本番だ。まず彼女は真紅眼の鋼炎竜の効果を発動する。

「真紅眼の鋼炎竜の効果! オーバーレイユニットを一つ取り除き、墓地のレッドアイズ通常モンスターを蘇らえらせる! 現れろ、真紅眼の黒竜! さらに手札から融合解除を発動! ブラック・メテオ・ドラゴンの融合素材となっていたモンスターを蘇らせる!」

 フィールドには4体のモンスター。そして連続召喚はまだまだ続く。

「手札からリビング・フォッシルを発動! 墓地に眠る伝説の黒石に装備し蘇生! さらにリンク召喚! リンクリボー!」

 モンスターが一体エクストラゾーンに移動する。

「手札からDDRを発動! 除外した真紅眼の飛竜を帰還!」

 これで理論上の限界、6体のモンスターを並べることが出来た。そして、ダメ押しの装備カードを発動する。

「これで終わりだ! 私は団結の力を真紅眼の鋼炎竜に装備! 自分フィールドのモンスター一体につき、500ポイント攻撃力をアップする! これで2800から3000アップし、真紅眼の鋼炎竜の攻撃力は5800!」

「こんだけやって5800だからホープ一族頭おかしい」

 陽歌は素直に希望皇ホープシリーズの火力におののいた。とはいえ、向こうは直接攻撃が出来なくなったり一時強化だったりと制約も多い。

「いくぞ! ダイレクトアタック! 鋼炎弾!」

 激しい熱波と衝撃が巻き起こり、デュエルに決着がつく。モンスターが姿を消し、鞘は力無く横たわっていた。

「デュエル前にセキュリティに連絡は入れた。もうすぐ来るだろう」

「それより遊作さん、もしかしてあなたが……」

 陽歌は先ほどの不思議な現象から、遊作がplaymakerではないかと予想していた。その正体は公になっていないが、精霊に呼ばれたファイアウォールXと共鳴するカードを持つということはそういうことなのだろう。

「隠す必要もないな。あいつのカードも調べる必要がある」

 遊作は級長の方を見る。ヴァネッサのリンクリボーは一般流通のカードだが、彼が使用したファイアウォールXは明らかに異質だ。

「セキュリティが来るならちょうどいいか……。七耶、ヴァネッサ、先に帰ってて」

「あん? どこいくんだ?」

 陽歌はセキュリティが来ると聞き、何かを思い立ったのか別行動を取り出した。珍しいことなので七耶はその意図を探る。

「ボクのデッキを……セカンドロスト事件の時に使っていたデッキを取りにいく」

 陽歌に安寧を与え、共に生きたデッキ。それは今、証拠品としてセキュリティに保管されている。だが、闇のゲームが迫る以上、再び彼らの力を借りる必要が出た。




 次回予告

 陽歌「ボクは自分のデッキを取りにシティのセキュリティ本部へ向かった。ついに手元へ戻った、かつての仲間達。暗い脅威が迫る中、もう一度開こう。ボクらだけの逢魔妖麗譚を! 次回、蘇る逢魔妖麗譚。ライディングデュエル、アクセラレーション!」
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