騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
嘘だ……僕を騙そうとしている……。
☆三周年! これが令和の新時代?
実は二年ぶりとなるオフ会の開催。2019年の開催から新型コロナやらで伸びに伸びたが、ある程度の落ち着きとワクチンの流通、対策の徹底によって開催が叶った。
「もう懐かしいね……」
作品が並ぶ空間を懐かしそうに見るのは、キャラメル色の髪をした少年。最初のオフ会では活動拠点のおもちゃのポッポというお店のスペースを使って行っていたが、一回目で早速足りなくなったのでプラザおおるりという会議室を借りている。
「うーん、まさかこっち側に来るとは思わなかったなぁ」
陽歌はようやく作品を展示する側に回ることが出来た。準備が一通り終わり、伸びをする。その袖から覗く指は生身ではなく機械だ。彼が三年前、別の会場とはいえこのオフ会に参加した時はそもそも会場の前で死にかけていたところを助けられたのであった。
「これが作りたかったんだよね」
陽歌が丹念に作っていたのはガンダムWに登場するMS、ガンダムサンドロックのプラモ。ウェザリングもしており、台座もそれっぽいものを作ってジオラマ風味にしている。
あの時見た、プラスチックのおもちゃが見せた可能性。それを自分の手である程度作り上げることが出来た。自分の変化を感じるには、それだけで十分だ。
「ほう、何やら夜な夜な作ってると思ったらこれか」
「ああ、七耶。準備の方は終わった?」
彼に声をかけてきたのは、何故か巫女服を着たちびっ子。ユニオンリバーの主要メンバー、攻神七耶。今回はオフ自体が初めての陽歌はユニオンリバーのメンバーながら完全に参加者側に立っているが、メンバーたちはそれぞれ運営に携わっている。
「今回はさすがにエアリアルが多いな」
「時期が時期だからね」
前回はビルドダイバーズリライズがギリギリ始まっていなかったので主役機のアースリィの展示は少なかったが、今年は新作ガンダムアニメ、水星の魔女の主役機が前日に発売しているので素組みくらいなら多く並んでいる。気合の入った人はデカールも施しているが。
「ここまで、長い様で短かったな。コロナもあったし」
「僕はコロナというよりオリンピック周りが大変だったね」
ここに来るまで、東京オリンピック開催の栄誉を欲した都知事が暴走したり、惑星コウグのお家騒動に巻き込まれたりとそれはまぁ色々あった。それでも世界は何とか平和を保ち、どうにかこの日を迎えることが出来た。
「あと気がかりなのはマーケットプレイスくらいか……」
「どうせ破算するだろ。ほっとこうじぇ」
当初からやり合っている敵には転売屋ギルド、マーケットプレイスがいたが今や転売では対策も浸透し儲からない状態。負け戦は濃厚なのだが何故か中々身を引かないので陽歌は少し気にしていた。
「まぁそうだけど、あそこまでいくと執念の様なものを感じるよ」
マーケットプレイスはアダムスミロイドなる改造人間を幹部に持つ。コロナの混乱でマスクが不足したり、紙不足が囁かれた当初にそれらの買い占めを試みたフォルス・ザ・スネクロイドら。ワンダーフェスティバルで販売されたハンドメイド品の転売を狙ったガネス・ザ・エレファントロイド。クリスマスシーズンにおもちゃの買い占めを目論んだベニス・ミシェルロイド、政府に脅しをかけたフログ・カウパロイド。合計四体は七耶達に掛かれば雑魚同然ながら、警察の手に負える相手ではない。
「馬鹿の考えってのは分からんもんだ」
「確かに、偏差値やIQに差があると話が合わないっていう説もあるし……そういうことにしておくか」
陽歌もユニオンリバーのぐだぐだなノリに慣れてきて、問題を事前に潰すよりその都度破壊する方向に思考が寄って来た。
「というかSDガンダムや境界戦機があるじゃないですか」
「あー、うん。そうだな」
とにかくプラモに入ったばかりの陽歌にとっては、ガンプラ、特に品薄状態が続くHGに強い執着があるわけではない。サンドロックは作りたい事情もあって必死に手に入れたが、あるものを作って腕を上げようというのが当面の目的だ。
「ジアマン……」
「私も欲しいぞジアマン……」
陽歌と七耶は先日発表された境界戦機のキットに想いを馳せる。バンダイホビーサイトのブログでプレバン限定品のセツロをレビューしていた時はキット展開が続くと聞いて未だ立体化のないジアマン系を期待したが、蓋を開けてみればビャクチのバリエとブレイディフォックスのカラバリ、そして既存品を詰め合わせた武器セット。武器はありがたいのだが。
ジアマンを運用している大ユーラシア連邦がロシアを含むせいなのだろうか。昨今の情勢は苦しい。
最終決戦でアレクセイゼレノイが駆るルイツァリジアマンがどちゃくそかっこええだけに残念だ。
「でだ、今後気になるおもちゃはあるか?」
「あー、あれかな。バイタルブレスBE。でも僕義手だからなぁ」
陽歌が最近注目しているのは、運動とリンクしてキャラクターを育成するアイテム。かつてはデジモンを筆頭に仮面ライダーやウルトラマンが対応本体が別、カードでキャラクター増設をしていたが新デバイスに移行することで本体一つでそれらを一気に育てられる。さらにヒロアカや東京リベンジャーズなど人気コンテンツとも組んで盛り上がりそうだ。
「仮面ライダーとデジモンとウルトラマンとヒーローと不良が乱戦するのか」
「でも腕に装着するとなると、義手だとなぁ」
しかし厄介なのは、腕への装着で脈拍を測る機能があること。日常が遊びになるというコンセプトで万歩計に加えてそうした機能が追加されたが、陽歌は義手のため腕で測定が出来ない。
「あ、実は出来るぞ」
「え?」
しかし彼も知らない義手の秘密が隠されていた。
「義手の方に表示されるから使わなかっただろうけど、一般的な血圧計やパルスオキシメーターって手や腕に使うだろ? だから接続部から疑似バイタルを放ってそれらで計測できるようになってるんだ」
「それ……腕部ウェポンベイより先に教えて欲しかったんですが?」
陽歌の義手は余計な機能が付属するでお馴染み天導寺重工製。腕にビームサーベルをしまうギミックを仕込んだことを教える前にそっちを言って欲しかった感はある。なおビームサーベルは片方懐中電灯にちゃっかり変えてもらっている。
「よし、予約だ予約。インペリアルドラモンのルートもあるし。あー、でもフロンティアのカード買い逃した……」
気になってはいたがどうせ遊べないと思ってプレバン限定のものを買っていなかった弊害が出る。
「エヴァの奴なら持ってそうじゃね?」
「さすがにそんなこと……あるかも」
楽しいことに目がないエヴァリーなら持っているかもしれないと二人は考えていた。こういう時、人数が多いと誰かチェックして確保しているので便利だ。
「さーて、いよいよ久しぶりのオフ会が開幕だ。楽しもうじぇ」
「そうだね」
あの時は思いもしなかった、楽しいことがある生活。生きていれば辛いこと苦しいこともあるが、喜びや楽しみが今まではなかった。そんな一日がまた、始まろうとしていた。
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喫茶ユニオンリバーの地下には住居を始め、様々な施設がある。錬金術師アスルトヨルムンガンドの研究所もその一つだ。酔った勢いでエヴァ達四聖騎士を作るなど高度な技術も持つ彼女だが、その実力は日々の研究にあるといっても過言ではない。
美しい銀髪に抜群のスタイルを誇る美女だが、酒好きな上酔うと碌なことにならないので厳重に監視されている。そんな彼女でも酒を控える状況というのはある。
「私の作った診断書は出してくれましたか?」
ユニオンリバーにはアスルト以外にも研究者がいる。それがミリアを始めとするミラヴェル計画の産物、マークニヒトの試験運用を行っている柩詞音という人物である。黒髪を伸ばした女性的な見た目の、スレンダーな美女だがその実態は不明な部分が多い。実は男性だとか同じ人格用のボディを予備ごと起動しているとか黒い噂が堪えない。
「まぁ、あなたの意見も分かるので一応提出しましたが……、あれ偽装じゃないでスか?」
アスルトが言いたいことも分かる。詞音は医者ではなく、陽歌の腕が再生治療で賄えない理由、生まれ付いた遺伝子疾患の診断書を書く資格はない。あの診断書は結果として偽装品ということになる。
「書いあることは正確ですので偽装ではありません。まぁ、私がいてよかったですね、凡百の研究者には彼がゲノム編集を受けて生まれたデザインベイビーであることなどひと目で分からないでしょうし」
詞音は陽歌の塩基配列図をアスルトに見せる。彼女もそれを見れば、アスルトでなくとも遺伝子を専攻する人間ならば一瞥するだけでゲノム編集の痕跡を見つけることはできる。だが、陽歌という人間をそれなりに見たアスルトであるが故に信じられないことであった。
「ゲノム編集をしたとはいえ、その恩恵はなさそうでスが?」
「正しくない療育、強いストレスや極度の栄養失調は脳を物理的に破壊する……」
詞音はマークニヒトの耐久力に惚れ込み、心底愛してはいるがそれはそれとして過酷な実験を行っている。そこから得られたデータを基に彼は語る。
「計算能力は落ちているようでスが?」
「その程度で済んでいるのがまさに、ゲノム編集の恩恵だろう。本来ならあれ、もうまともに日常生活なんてできない程度に後遺症が残っても不思議じゃないよ」
それに、と詞音は付け足す。
「ゲノム編集で遺伝子をいじくったとて、どれほど恩恵があるかは不明だ。せいぜい遺伝する病気を防ぐのが限度で、天才を人為的に産むことが出来るかについては議論の余地がある。加えて彼は遺伝子疾患を持っている。当初の予定通りに編集が反映されたかも怪しいところだ」
なぜゲノム編集のことを話しているのか、というと理由はもちろんある。
「しかしブルーコスモス条約ですか……ガンダムSEEDを知って付けたのか知らなかったのか……」
詞音の語る条約とは、人間に対する遺伝子操作を禁じた国際条約『ブルーコスモス条約』のこと。この条約は後々に起きるであろう禍根を事前に防ぐための、よくある条約に見えるが特異な点が存在する。
「編集を行った人物だけではなく、受けた子供も罰する条約でスか。そうしないとゲノム編集を受けた人間が野放しになってやったもん勝ちになる、という理屈でスがさて……」
ゲノム編集を受けた時点では自由意志のない子供に対する罰則がある、という点。かつては日本も批准しておりこれを根拠にした法整備が進んでいたが、政権交代と同時にこの点が問題であるとし法律を改正して条約からも抜けることとなった。
「しかし彼の誕生は現政権による『悪法』の修正以前、見つかったら罰則を受ける羽目になる」
基本的に法律は当時のものが適応される為、いくら現在適法となっていても彼の誕生年まで遡ると違反状態ということになってしまう。
法律は作った時点で過去に遡って罰することは出来ないが、その逆も然りで許すこともない。国内では法律自体が違憲なのでそこを突けばどうにかなるだろうが、条約批准国に行った時にこれがバレたら偉いことになる。
「それにこれでスよ」
「チップか?」
陽歌はそれ以上に問題を抱えていた。義手の制御にチップを使用しているが、その付近にもう一つチップが存在する。これは脳機能拡張用の大型ICチップだ。
「これは脳に接続してその能力を増幅するチップ。ZAIAスペックの前身みたいなものでス」
眼鏡に装着して仕様するZAIAスペックはICチップよりかさばる様に見えるが、あれは外から見えることに意義がある。そう、装備していることが見えないということは、試験などでの不正が発生する可能性がある。
「『体内ICチップ等規制法』違反……。機能させていない、と言っても体内に埋まっていること自体が違法ですね」
この法律はチップの種類によって罰則がある。義手を動かすのに陽歌が使っているチップは記憶媒体がないので法に触れないが、もう一つのチップにはそれがあるため停職する。
この記憶媒体付きチップがあると、試験に堂々と参考資料やカンニングペーパーを持ち込みインターネットを使える様なものになる。こんなものがまかり通れば、学科試験が無意味となり改造人間が跋扈することとなる。
「摘出は?」
「重要な神経が絡んでいて、取り出せば寝たきりになりまス」
成長期に埋め込んだ影響で、成長の結果大事な神経が複雑に絡み合った部分に入ってしまい取り出すのはほぼ不可能。魔法か何かで引っこ抜いても発生した空洞に神経が倒れこんで損傷する危険もある。その時大丈夫でも爆弾を抱えることになる上、何か詰めようにもやはり危険が伴う。
「まるで歩く法令違反だ……。だが私がいるからには露見などさせないさ」
「……なにか考えてまスね?」
浅野陽歌は理不尽にも、自身の関与しない部分で法律に触れてしまい、裁かれる身となっている。そこに手を差し伸べたのが詞音だが、アスルトは彼が善意や道徳心で協力しているとは思えなかった。
「彼の存在はミラヴェル計画に必要なピースだからね。幼い頃から人の見た目をした人ならざる者と育った人物は、どの様に成長するのか……」
詞音の狙いは、陽歌の持つ生育環境の特異性。思惑はあれど、陽歌をよそにやる気などないのは一致している。裏方は裏方で、静かに動きつつあった。
マーケットプレイス
度々問題を起こす転売屋ギルド。転売自体儲からなくなっているのになぜ続けるのかは不明であり、意固地になっているのかそれとも情報商材のカモだからなのか所説飛び交う。
アダムスミロイドという強力な武装を持っており、ただの迷惑な連中というわけでない。現に政府要人の家族を人質に取り、自身らに不利な法律の破棄を求めたことも。
本拠地は大陸の方らしいが果たして。