騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
しかし実際の姉弟として関係を構築している。仁平には一応実子もいるんだが、あいつどうなったかな……。
「ついに我が家に……PS5が来る」
「そうだね、エヴァリー」
品薄で有名なプレイステーション5がついに手に入る。享楽の達人である緑髪の少女、エヴァリー・クルセイド・コバルトドラグーンもこれには気合を入れて望まねばならない。あんまりにも品薄なためソフトを出す時はPS5にあとで更新できるようにしてPS4でも遊べる様にするほどだった。
「これでついに遊べますよ、ファイナルソードのPS5版が!」
「ついにこの時が来た! 英雄の誕生が!」
ユニオンリバーで暮らしている少年、浅野陽歌も一緒になってとんでもないクソゲーを楽しみにしていた。彼らの楽しみはホグワーツレガシーとかではないのだ。二人してfinalソードポップアップストアで買った服を着ている。一応通販もあったが、なんとわざわざ現地に赴いて購入している。
二人はそんなトンチキな恰好で家電量販店に訪れていた。陽歌はフードを目深にかぶっており、袖も余らせている。その理由は明白で、自身の髪色と瞳色を隠すためであった。キャラメル色の髪に右が桜色、左が空色のオッドアイと目立つ外見をしている。両手も義手になっており、袖で隠す形をとる。ぶっちゃけファイナルソードの服着ている方が目立つ気がするが、陽歌としてはこっちの方が気になっていた。彼にとってはなんてことのない右目の泣き黒子でさえ呪いの烙印みたいなものだ。
「さてサービスカウンターはこっちですね」
エヴァがサービスカウンターにまっすぐ向かう。予約したPS5を受け取るだけなのでプラモとかは見ないのだ。しかし、サービスカウンターではひと悶着が起きていた。
「それはできないんですよ」
「できないじゃありません! マーケットプレイスの掲げる自由経済に逆らうでザマスか?」
店員に対し金切声を上げているのは三角眼鏡のいかにも教育ママという風体の人物であった。
「すみませんね、こちら予約した品を取りに来たので」
エヴァは強さ故の余裕か、軽くそいつを持ち上げてどかし、店員に予約表を見せる。店員も正規の受領者が来たので商品をもってくる。
「残念、ここのPS5は我々マーケットプレイスのものザマス。我々から買いな……、げぇ!」
マーケットプレイスを名乗るそいつは陽歌の顔を見て驚愕した。彼は記憶にないが、実はかつて紙類を買い占めようとして陽歌とエリニュースに倒された人物であった。
「お、お前は……!」
「ん?」
マーケットプレイスのそいつは急に敵対心をむき出しにし、ポケットから飴のようなものを取り出して口に含む。
「あの眼鏡がいないならお前くらい……! このアダムスミロイド、ファルス・ザ・スネクロイドがお相手いたしましょう!」
キツイオバハンが黄金の鉄球を持った金色の蛇になる。もうこの姿が下ネタだ。そこまで変身して陽歌は彼女のことを思い出した。
「あ、あー……あの時の」
「私はあの方に蘇らせていただいた! あのお方もお前を殺したがっているぞ!」
「あのお方?」
マーケットプレイスのリーダーと思われる人物が陽歌に対して恨みを抱いているとオバハンは語る。
「そりゃ、自分の部下倒したらやり返したいでしょうよ」
エヴァはオバハンに言っているようで陽歌に向かって言っていた。もともと謂れのない非難を受けて生きてきた彼に、こんなアホの世迷言を信じるなと。
「というかまだPS5転売しようとしてるんだ……紙の時失敗したのに」
陽歌もマーケットプレイスの学習しなさにあきれていた。そもそもプレステは初期不良もあり、ローンチで遊びたいでなければ急いで買うものではない。そしてPS5も生産がおいついて転売屋の手垢がついたものを買う必要がなくなった。紙類もなんか流行り病の影響で中国から入ってこなくなるぞと言われたが日本でめっちゃ作っているのでそんなことなかった。
「さてと……さくっと倒してファイナルソードだ」
陽歌は桜色の炎と共に刀を取り出す。彼の攻撃は霊的なものなのでこういう物理系の敵には通りが悪い。エヴァは援護のために備える。
「自由経済の申し子を侮るな!」
自由経済の悪いところ詰め合わせみたいな転売屋風情のファルスが鉄球を投げる。それを陽歌は技名すらない通常攻撃で真っ二つにすると、残ったチェーンの振り回しもどんどん切断して頭部一撃を加える。
金属が擦れる鈍い音が響き、赤い大きな火花が散る。数撃数秒でファルスは両断されて戦闘が終わった。あの時と比べ陽歌もすっかり強くなったものだ。アダムスミロイドはユニリバ尺度だとクソ雑魚もいいところだが、一般的には厄介極まりない兵器なのだ。
「き、貴様が何をしても……需要と供給の動きは止まらない……! でもでもだってで駄々をこねても、私たちこそが正しいザマス!」
自分たちに突き刺さりそうなブーメランを放ち、ファルスは爆散した。
「さて、帰ってファイナルソードやりますか」
エヴァはさっさとPS5を受け取って目的を達成することにした。
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陽歌の他にも近年、ユニオンリバーに来ることとなった者はいた。浅野ルシアは陽歌の養父、仁平に関わった者であり血縁はないが陽歌の姉にあたる。美しいブルーシルバーの長髪が太陽に輝く。私服が修道服を改造したものであり、ケープも髪を出しているがちゃんと着ているというどういう立ち位置なのかわかりにくい状態だ。
「あら、今日はパックの発売日なのね」
カードショップを訪れていた彼女だが、今日は新パックの発売日。ルシアは陽歌のよくやっているデュエルモンスターズのカードを探しにきたのだが、他の商品を狙っているのか黄色い布を巻いた集団がたむろしていた。
「おや、ポケモンカードね。これはエヴァの言ってたマーケットプレイスという人。私には関係ないでしょうけど」
50年近く体を乗っ取られつつ生きていると、人間の小悪党など大したものではない。とっととカードを買うべくカードショップに入る。最近出たデッキビルドパックなるものに恐竜族のカードが多数収録されていたのでそのストレージ狙いである。ルシアは恐竜族デッキを使うが、それに適したカードを集めるにはいい機会だ。
「意地張った手前、情けない真似はできないものね」
陽歌が恐竜族に必須なカードを多数持っていたが、お姉ちゃんやっている以上自分で揃えたい願望が彼女にはあった。今回は魂喰いオヴィラプターやベビケラサウルス、プチラノドンといったカードの再録があるとの話でチェックせずにはいられない。とりあえずお目当てのカードを各三枚ずつストレージから取り出す。
その僅かな時間で店は混乱に陥っていた。ポケモンカードは整理券かつ購入制限のある状態なのだが、それにごねたマーケットプレイスが騒ぎを起こしている。
「はいはいごめんね。レジ入りますよ」
ルシアは構わずに買い物を済ませようとする。だが、マケプレの連中は見過ごさない。
「子供になめられて堪るか!」
その中のリーダーが店内で変身しようとしていた。危険を感じたルシアはそいつを蹴り出し、戦場を外に移す。普通の女の子に見えてこれでも多くの修羅場を乗り越えている。
「ぐぬぬ、このガネス・ザ・エレファントロイドの邪魔を……」
「うわ」
巨体を現したガネス。そのデザインにルシアは引いていた。象のケンタウルスだが、なんと股間部分に顔があった。これはもう、過去の出来事からルシアは強い嫌悪感を示さざるを得なかった。
「インスタンスドミネーション」
それに手のひらを向け、中指と薬指を開いてあるコマンドを発生する。
「バルカン人の挨拶?」
店主はスタートレックネタが出てくるが、親指を開かない点で違う。
「ま、待ってくれ、なんだこれえええ!」
そして有無を言わさずガネスは下半身と上半身が分裂する。怪獣を支配する能力だが、上と下を別個の怪獣と考えて支配下に置いて自壊させたのである。
「やはり、貴様……あの男の! 我らがリーダーの憎んだあの男の……!」
「あの男?」
何か意味深なことを言い残してガネスは爆散した。あの男、それがもし陽歌の養父、仁平を指すのなら、ミームを強く継いだ陽歌ならともかく自分がそこまでとはルシアは考えた。仁平に恩義は感じており、養子になる予定から陽歌の姉に収まってはいるが過ごした時間は短い。
「ま、いいか」
いつも心にマスターロゴスだったかなんだったか。あまり考えるのもよくない、共有あるのみと陽歌からは教わっていた。彼の複雑な過去も相当に気遣って伝えていたとも聞いた。
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その日の朝のことである。
「いやー、これだけあれば十分だじぇ」
おもちゃのポッポには様々な問屋に死蔵されていた貴重なおもちゃが集まる。人が多く集まり、通販のシステムもあるポッポにもっていけば欲しがっている人に届く可能性もあるのだ。黒髪の幼女が荷物を確かめていた。
「ほう、これは珍しい」
アフロのダンサーが戦うおもちゃを見ている彼女は攻神七耶。ユニオンリバーのメンバーの一人である。通販の管理もあり、店を手伝っているところだ。
「邪魔するで」
そんな中、態度のデカい男が入ってくる。店は準備中の看板があり、開放はしていない。
「邪魔するなら帰ってー」
「あいよー」
七耶はナチュラルに追い返す。しかしすぐに戻ってきた。
「客だぞ!」
「いやー、まだ準備中なんで」
普通にやんわりと断る。が、店のドアは破損させられており鍵がかかった扉を無理やり突破したことが伺える。
「お前たちに受けた屈辱! ここで返す!」
「ほう? どこのどいつだったか……」
倒した敵がまぁまぁ多い上、メンバーも多いので七耶も誰がどこで誰を倒したかなどわからない。だが黄色の布はマーケットプレイス程度にはわかる。
「ま、私に勝てたら好きなもんもってけ」
一度ユニオンリバーの誰かに負けたのなら七弥は負けない。そう判断し大口を叩いて表におびき出す。
「行くぞ、雪辱と商品ゲットだ!」
男はキャンディのようなものを口に含み、変身する。巨大なミル貝のアダムスミロイド、ベニス・ザ・シェルロイドであった。
「行くぞ!」
七耶もキャンディのような修正プログラム、天魂を口に等身大ロボットの姿になる。サーディオンイミテイト、伝説の超攻アーマーだ。
「甘くみるなよ! なんの準備もしていないわけが!」
ベニスは上空に浮かぶ戦艦にドッキングする。なんと艦隊単位で存在しており、中には空母なのか飛行機を飛ばしている艦もあった。朝にも関わらず、空が隠れて真っ暗になるほどであった。
『スクランブル! 領空侵犯だ!』
さすがに当たり前だが、自衛隊の戦闘機が領空内に出現した謎の空中艦隊に向かっていた。その時、七耶を見つけて反転していく。
『あー、ユニオンリバーさんのとこに喧嘩売っちゃったかぁ……』
『帰投する!』
自衛隊は何が起きているのかを確認し、さっさと帰った。この場合、無駄にでしゃばると足を引っ張るのでおとなしく任せた方がいい。
「ふはははは! 自衛隊が恐れをなして逃げたぞ!」
ベニスは調子に乗っていたが、ことの真相を知らないというのは幸せである。
「超攻アルティメット!」
七耶が極太ビームを放つと、すべてが吹っ飛ばされる。消し炭にするだけの火力は町が危ないので天高く飛ばすことにした。宇宙空間に追い出されたあと、ビームを受けて限界を迎えた艦隊が爆発する。
「さて、続きすっか」
変身中はお金が減っていくので七耶は即座に変身を解除して持ち場に戻った。
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帰宅中の陽歌たちに立ちふさがったのは、手足の生えた巨大なオタマジャクシのロボット。以前倒したフログ・カウパロイドであった。
「はい」
「うそだああああ!」
もう面倒なのでエヴァが変身次第即座に倒してしまった。ただ真っ二つにされてもしゃべり続ける。
「やはり……しかしなぜあの男の子孫が?」
「あー、なんか伏線っぽいけど違うやつ」
意味深な言葉だが、よくわからないのでエヴァは無視した。
「ってことがあったんですよ」
「うちもだ」
「何あれ?」
エヴァがPS5を取りに行くだけで二回もアダムスミロイドと戦ったことを話す。七耶も同様の報告をする。一応戦いはしたがルシアは何が起きたのか理解していない。何せあまり絡むことがなかったのだから。
「あれは転売組織、マーケットプレイスです。なんだかんだ言っていますが、商品を強奪して高値で売りつける犯罪集団ですよ」
「へぇ、よく今まで捕まらないものね」
ルシアからすれば、あれが未だに跋扈する状態では警察の劣化も考えざるをえない。しかしなにやら複雑な事情があった。
「どうも本体が海外にいてなかなか捕まらないらしいんですよ。末端をとっ捕まえてもねぇ」
エヴァはユニオンリバーに入ってくる情報から、マーケットプレイスが外国を軸にした組織であることを知っていた。下っ端を捕まえても捕まえても本拠地からどんどんやってくる。
「情報共有だけれど、そのアダムスミロイドだかなんだかが気になることを言ってたの。リーダーの憎んだ男がいるらしくて、私はその面影があるとかないとか」
ルシアは気になった情報を即座に共有した。
「ふーむ……そんなことと思いましたが、私たちが戦った相手も似たようなことを」
エヴァはイカレた奴の言うことなど、と思ったがこちらでも聞いていたので引っかかっていた。
「まぁともかく、アダムスミロイドは八体いるとして半分を倒したわけです」
「へぇ、もうそこまで情報が」
ルシアはアダムスミロイドの総数までカウントしていたエヴァの技量に舌を巻く。だがそういうものではない様だ。
「いえ、ああいうなんとかロイドは八体、いわゆる八ボスというのがお決まりですので」
「え?」
まさかの予想。だがなんだか合ってそうな気もした。
「案外、今日出た四体が全部リサイクルな辺り当たってるかも」
一気に四体現れたが、全員かつて倒したもの。となると八体は多く見積もっている方とも思える。
「しかし、このフリマアプリってのも便利になったようで結局は闇市なのね」
「使う人間が進歩しないとこればっかりはな」
五十年の人間界ブランクを持つルシアは人間の変わらなさにあきれていた。
「五十年以上やって、人間は変わらないのね」
「たった五十年ではな」
ただ七耶には刹那にも感じられる短さであった。人間が変わるには五十年ぽっちではできない。
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そう、まだ百年にさえ満たない怨嗟は続いていた。
「来たか……忌まわしき日帝の残滓!」
マーケットプレイスの本拠地の最奥にて、首領である老人がアダムスミロイドの視界キャプチャを見ていた。映った画面は陽歌のいるもの。首領は椅子から動けないようで、コードが大量に繋がっており部屋は機械だらけだ。
「あの日から恨み続けたあの男の末裔が……目の前に! こんな面倒な範囲攻撃をせずともよくなりそうだが、恨みがあるのはあいつだけではないからな……」
転売集団マーケットプレイスの目的は金ではなかった。この老人の怨嗟が、すべての始まりであった。
浅野陽歌の刀は養父、仁平が太平洋戦争の時に使用していたものである。学徒兵であった彼は上官の軍刀を引継いでいる。成人男性が持って大き目な刀なので陽歌が使うと身の丈サイズになってしまう。数ある村正の一つであり、それ自体はこれと言って仕掛けのない刀。刃を落として五月人形代わりの守り刀にしていたが、長らく放置されていたのをエヴァが発掘。
補修後、ザムシャーの星斬丸の破片、アリスギアとフォトン関連技術を吸収し強化されていった。