騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 要注意団体解説
 マーケットプレイス

 黄色い布を巻いた転売屋ギルド。数に物を言わせ、店の定めたルールを強引に破って買い占めを行う悪質な集団。転売の対象はホビー、ライブなどのチケット、おむつなどの生活用品にまで多岐に渡る。
 近年では武力を用いた押し込み強盗を行う様になったり、災害時に食料品などを買い占めて高額で売りつけようとするなど悪質さが目立つ様になる。本部は大陸にあるらしく、日本人だけではなく大陸系のメンバーも多く確認できる。
 独自の市場は持っておらず、アマゾンやメルカリ、ヤフオクに出品している。


クリスマス特別編 悪魔と忌み子のクリスマスキャロル
襲来、マーケットプレイス


 サンタクロースを信じるか、と言われれば信じないと即答する自信がある。そんな小学四年生九歳が浅野陽歌である。

 サンタクロースはいい子にプレゼントをくれるという。自分で言うのも何であるが、陽歌は自分を少なくとも『悪い子』には分類されないという自身がある時まであった。女手一つで自分を育ててくれる母親に心配を掛けない様に、洗濯も入浴も食器洗いも一人で出来る。食事は毎食箱で買い置きされているカップ麺だが、それにも文句一つ言わない。行けば罵声を浴びせられ、暴行を受けるがそれでも学校には休まず通っていた。ランドセルや文房具など欲しいものがあってもグッと堪えた。

 そこまでして、尚サンタクロースはいい子だと判断しなかったらしい。自分は悪い子なのか、もっといい子にならなければならないと陽歌は思った。しかし、毎年の様に努力は裏切られ、本当はサンタクロースなど存在しないのではないかと思い始めた。

 そして今年の夏に受けた決定的な裏切り。サンタクロースなどは幻想だと、ハッキリと突き付けられた瞬間でもあった。

 だから、サンタクロースは信じないと言う。信じている人間の水を差すつもりもないが、自分はそう思う。それが陽歌だった。

 

   @

 

「妻が助かる方法は無いんですか!」

 とある大きな病院の病室で、男が叫んでいた。男はビール腹でだらしなく太っている。その傍には子供もおり、大声で母を呼びながら泣いている。

「最善は尽くしています!」

ベッドにはいくつもの生命維持装置に繋がれた人物が……否、それを人と呼ぶべきかは判断が分かれるだろう。身体はガリガリにやせ細り、皮膚は焼けただれて髪はごっそり抜けている。上半身の異変はこの程度だが、問題は下半分だ。ビロビロに広がった皮膚が部屋を覆い尽くしている。

「何が最善だ! 伸びた皮一つ切除出来ないで!」

 男は医者に怒りをぶつける。事態は素人である男が思っているほど単純ではないようで、処置も難しいとのことだ。

「それが全身の皮膚が不明な強アルカリ性の液体を被って炎症を起こしていまして、伸びた皮膚を切除出来たとしてもその場所へ移植する分の皮膚が確保できないんです……。加えてここまで広範囲だと仮に手術出来たとしてもオペに耐えるだけの体力と、術後の回復にも体力が必要です。今の状態ではとても……」

「そこをなんとかしろと言っているんだ! 金ならいくらでも出す! 再生治療でもなんでもするんだよ! 出来ないならそこいらのカス共から皮膚を引っぺがせ!」

 男は金に物を言わせてどんな手を使ってでも何とかしようとするが、そういう問題ではないのだ。

「無理です! ただ皮膚が伸びただけじゃないんですよ! どういう原理か分かりませんが、子宮が異様なまでに伸びて他の内臓が圧迫され、さらに骨盤も粉砕状態……あっちを治そうにもこっちが邪魔をしてという状態なんです! 今こうして延命するので手一杯なんですよ!」

 医者の言う通り、この患者の状態は現代医学では解明できない症状な上に重症である。今こうして命を繋げているのも不思議なくらいだ。その上、反応を見る限り意識ははっきりとしている様子さえある。家族の希望と法律の関係からしていないが、医者としては安楽死させた方が楽だとさえ思っていた。

「役立たずが! それでも医者か! この税金泥棒!」

 男は医者を罵り、その場を子供と共に去る。その時、男のスマホが鳴った。なんとこの男、病院にも関わらずスマホをマナーモードにもしていなかったのだ。最近の病院では待合室などでは通信機器を使ってよいことになっているが、それでもマナーモードにするのは常識。しかもこうして精密な医療機器が可動している場所では現在でも使用は禁止だ。

「なんだ? 探偵か?」

 男は探偵を雇っていた。妻をこの様な目に遭わせた犯人を捜すためだ。警察は逆に自分達を威力業務妨害や窃盗で逮捕しようとしてきて、犯人捜しをしようともしない。医者といい警察といい、税金泥棒達に男は義憤を抱いていた。

『見つかりましたよ。あの子供の居場所が』

「本当か! 時間かけやがって!」

 男が探していた犯人は、何か異質な存在に取り憑かれた妻を助けることなく銃撃した子供であった。キャラメル色の髪にオッドアイ、両腕の義手と特徴的な外見なのですぐ見つかると思っていたが、二か月近くも掛かってしまった。

「どこのどいつだ! 今すぐ殺しに行ってやる!」

 男はここが病院だということも忘れて大声を出す。きっと向こうからは男の声は割れて聞こえるだろう。しかし探偵は教えようとしない。

『それがやめておいた方がいいかと……』

「どういうことだ! カタワのガキ一人殺すだけだ! お前がやるんじゃない、俺がやるんだ! 何か問題があるのか!」

 この状態で子供の情報を教えるのは殺人幇助になるので探偵としてもやめたいところだったが、それ以上にこの件へ首を突っ込みたくない理由があった。

『相手はユニオンリバーですよ? 命がいくつあっても足りない! 前金も着手金も返すからこれ以上関わりたくないんです!』

「ユニオンリバー? なんだそれは?」

『島田市にある喫茶店です。その子供はそこにいますけど、絶対喧嘩を売ろうなんて考えないでくださいね? 自己責任でお願いします。私の名前を出すのも絶対やめてください! お金はお返ししますし何なら倍額で返します!』

 探偵の脅えように男は疑問を感じた。ただの喫茶店相手に何をそんなに恐怖することがあるのか。

「喫茶店如きにこのマーケットプレイスがビビると思ってんのか!」

『とにかくあそこはヤバいんです! あの子供が例え大したことなくても、周りの人間に勝てるわけがない! 私は注意しましたからね!』

 探偵は一方的に電話を切る。警告は受けた。だが、男は止まらない。手にはあの、怪人アンプルが握られていた。

「殺してやる、殺してやるぞ!」

 クリスマスを目前に、殺意が舞い降りた。

 

   @

 

クリスマスも間近に迫ったある日のことである。陽歌はいつもの様にポッポで友達と遊んでいた。彼の数少ない同世代の友人である深雪は、陽歌が新たに通うこととなった学校へ保健室登校した際にたまたま怪我人を運んで来て知り合った仲である。

深雪は一つ目の兎であるルイスを見ても恐れるどころか膝に乗せてモフるくらいに肝の座った少女であった。

ポッポの中に作られた工作スペースで、二人は倉庫から発掘されたおもちゃのPRについて考えていた。ハムスターを題材にしたアニメのおもちゃが大量に発掘され、これをどうするかという問題に直面していた。さすがに保存状態の都合、ブリスターは変色しており、全種類揃っているもののコレクター向けの販売は厳しそうだ。

「ハム太郎さぁん!減速出来ません!助けてくださぁい!」

深雪が灰色の模様があるハムスターの人形を空から降る様に落下させる動きをする。陽歌も主役のハムスターの人形をわちゃわちゃ動かして反応する。

「ザクには大気圏突破機能は無いのだ……残念だがこうしくん、無駄死にではないのだ……」

「ぬわぁぁっ! 我が魂は、ZECTと共にありぃぃぃ!」

そのまま灰色模様のハムスター、こうしくんは地面もとい机に激突する。一通りのやり取りを終え、二人は冷静にこの方法について議論する。

「ブンドドはSNS向きじゃないね……」

「だったらオモ写ってのはどう? エフェクトや小物はあるから」

深雪の懸念に対し、陽歌はどこからともなく小物類の入った箱を取り出して提案する。この様子を、机で作業していた七耶は見ていた。

「なにこれ……」

ツッコみたいところは山ほどあったが、自分が頼んだ手前何とも言えないのであった。二人はお爺さんのハムスターの人形をムダに生活感溢れる汚い部屋のセットを作ってそこへ投入した。

「タイトル、『熟年離婚』」

「ああ……おハム婆さんと別れたんだ……でも何で急に部屋が汚く?」

陽歌の付けたタイトルに、さすがの深雪も追い付けなかった。七耶はとりあえず安心する。これで何も言わなくても伝わったら大変まずい。

「この世代の男性は家事を妻に任せていることが多く、離婚した途端生活が破綻することが多いのです」

「あー……」

陽歌はスマホで撮影しながら解説する。しかし、彼はふと我に返ったのか何か考え込む。

「陽歌くん?」

「ハムスタ……いやげっ歯類の寿命は1、2年……アニメの放送期間的に老人組だけでなくレギュラー全員はそろそろ……」

「それ以上いけない」

まさかのリアル寿命問題。彼らが人間とは違う生き物である以上、常に付きまとう問題でもある。生き物を飼うなら、最後まで責任を持とう。

深雪は長老ハムの人形を倒し、一言呟く。

「孤独死」

「まずいですよ!」

そんなことをいいながら陽歌も数匹の脇役の人形を配置しながらネタを続ける。

「特殊清掃」

「これで売れるのかなぁ……?」

二人はフリーダムに続けながら、あくまで在庫を吐き出すための宣伝を模索していることを忘れていなかった。お婆さんのハムスターの人形の傍に、脇役のハムスターを置いて陽歌が一言。

「若いツバメ」

「おハム婆さんんんんっ!」

「面倒な旦那から別れて今頃ウッキウキでしょう」

これが老後の光と闇。七耶は作業の手が止まっていた。陽歌はふと何かを思い立ち、長老ハムを押し入れのスペースに押し込んで脇役を置いた。

「親の死を隠して年金を受けとる子供」

「世知辛い……」

散々いじり回した後、陽歌と深雪は考える。流石にこれでは宣伝にならない。そこで陽歌は全員集合していることを利用して、全員を並べ始めた。

「ライダー大戦」

「こうしくん敵側!?」

こうしくんはハブられて敵の側に一人立たされる。深雪はふと、ヒロインであるリボンちゃんが大量に余っていることに目をつけた。その在庫をブリスターから取り出すことなく並べ、ハム太郎の人形をうつ伏せに倒す。

「ヒロインの真実を知りうなだれる主人公」

「ああ……愛した人は作られた存在だった……」

とか言いながら陽歌はハム太郎の人形を起こす。

「それでも愛することを誓う主人公」

「エモい」

陽歌とミリアの関係を考えると七耶としては笑うに笑えないネタであった。彼に人を信じることを教え、最大の裏切りに遭って尚前を向く力を与えたのが量産出来る人造人間ミラヴェル・マークニヒトの先行生産個体であるミリアという人外であるのは何と言う皮肉か。

「……」

ふざけ倒していると、暖簾をくぐってお客さんが一人入ってくる。こんなふざけたシーンを見られるのは一般に大変恥ずかしいだろうが、そもそもアニメキャラの暖簾という何も知らなければいかがわしい物を扱っているスペースにしか見えない場所へ入ってくるのはこの作業スペースについてある程度知っている人に限られる。そしてそんな人間にとってこのノリは日常茶飯事だ。

「ここは……違うのか?」

コートを着こんで、銀髪を纏めキャスケットを被っているが七耶は彼女に見覚えがあった。

「いらっしゃ……お前は……」

「カラスさん?」

陽歌も一瞬で彼女が知り合いであることを見抜いた。ユニオンリバーの仲間達の一部が所属する国立魔法協会を一方的に敵視している退魔協会のエース、カラスである。そんな彼女がこんなおもちゃ屋などに何の用なのか。

「……いや、何でもない」

カラスはそう言って、暖簾のスペースから去る。気になったので、七耶と陽歌は彼女を追った。深雪もルイスを抱えて付いてくる。

「……ここにも……無いのか?」

「何かお探しですか?」

店内を見渡して呟くカラスに、雇われ店長であるルリが声を掛ける。緑髪に眼鏡を掛けた穏やかなお兄さんである。カラスは反射的に、断ってしまう。

「いや、何でもない……」

カラスはただ一人で品物を見て諦め、店から出ていく。その様子が七耶には引っ掛かり、彼女と陽歌は出ていくカラスを追いかける。

「おい銀髪娘! 何を探しているんだ?」

「気にするな。何でもない」

「ここにも、ってことはハシゴしてますよね?」

陽歌にズバリ図星を突かれ、カラスは脚を止める。

「……」

「ん? おい、あれ……」

カラスが何かを言おうとした瞬間、七耶が不審な物音を耳にした。それは陽歌にも聞こえていたが、虚を突かれたカラスだけは反応し切れなかった。

「車?」

「プリウスミサイル!」

なんと、店に向けてトラックが突っ込もうとしているではないか。陽歌は反射的にプリウスとか言ったが、そんなレベルではない。タイヤが唸りをあげ、無理矢理進路を変えて店への弾道を描く。

「あ……」

そのコースにカラスはいた。普段は負けなしの退魔師だが、オフで気が抜けていたのか回避行動を取ることが出来ない。その時だった、複数の銃声がし、トラックは前輪を破裂させて横転する。

「危ないところだった……」

陽歌が手に自動拳銃を持ち、発砲していた。頑丈なタイヤをハンドガンで破壊するため、一発撃ってからタイヤが一周回って当てた場所がまたおもてに出た瞬間に再度同じ場所を撃ち抜いたのだ。

「……」

倒れたトラックはアスファルトに車体を擦り付けながら、滑って停止する。ちょうど、カラスの目の前で止まった。

大型車両のタイヤは空気圧が高く、いたずら半分にパンクさせようものなら破裂して爆発に巻き込まれ、怪我をすると言われている。突進するトラックを掬い上げて倒すには十分な力があった。

「な、なんだ? また老人の運転か?」

カラスが動揺する中、いくつものワンボックスが停まって中から黄色い布を巻いた集団が現れる。

「こいつら、新手のカルトか?」

彼女は身構えるだけで、戦闘に参加しない。降りてきた集団が転売屋ギルド、マーケットプレイスであることを即座に判断した陽歌は、出てきた敵に向かって発砲する。

助手席と運転席から下りた敵はガラス越しにヘッドショットをかまし、後続の敵はボディに二発撃ってからヘッドへ決める。陽歌なら全員の頭を撃ち抜く腕はあるが、戦闘時は確実性を重視して行動する。頭なら確かに一撃で倒せるが、的はボディの方が大きい。

あっという間に三人が撃ち倒され、マーケットプレイスの面々は怯んだ。その隙にも容赦なく、ボディボディからのヘッドショットで一人倒す陽歌。敵は一旦、車の影に隠れる。

撃ち合いならこういう時、敵の出てきそうな場所にアサルトライフルのフルオート射撃などで飽和攻撃をして足止めを行うのだが、陽歌の武器はハンドガン。そんな余裕は無い。                                     かといって、銃という圧倒的アドバンテージに頼ることなく、慎重に行動している。武装では優位だが、陽歌は同世代でも小柄な方。大人に囲まれればいくら武器を持っていても数と体格差で押しきられる。日常的に暴行を受けていた彼だからこそ、体格や数の有利は痛いほど身に染みている。

敵がこそこそと動き、脚を車の影から出す。彼はそれを見逃さず、脚を撃ち抜き倒れて車の影から飛び出る形となった敵の頭へ弾丸を叩き込む。

「こいつら、なんでこんなところに?」

陽歌はこれだけテキパキ敵を片付けつつもポッポというあまり大手とは言えない店がマーケットプレイスに狙われたこと自体には驚いていた。まさに感情と指先を切り離して引き金を引くプロの技だ。

七耶には心当たりがあった。

「最近、ポッポは通販始めたんだ。それでレア物の在庫が店にあるのを知って来たんだろ。通販で買うと間借りしてる駿河屋の影響でレア物はプレ値になるが、店で買えば定価だからな!」

「買いにきた、って雰囲気じゃないぞ?」

カラスはこの異様な集団との対面が初めてであった。名古屋の騒ぎも切っ掛けはマーケットプレイスだったが、彼女が来た頃にはそれどころではない状態になっていた。

「そうだろうな! 強奪すれば元手はゼロ、転売の儲けがまるっと入る!」

「日本は治安がいいんじゃなかったのか? いつからこんな修羅の国になったんだ?」

七耶の説明にカラスは動揺するばかりであった。その間に敵は覚悟を決めたのか、全員での突撃を狙った。やはり数に頼っての突破という強引な方法に出た。

陽歌は飛び出す敵のボディへ的確に弾丸を叩き込みながら、状況を見る。ハンドガンでは対応しきれない。元々、マインドアーモリーであるため何発打ってもリロードがいらない不思議銃であるが単に発砲スピードが足りない。ギアで強化したとはいえ、使用不能が使える程度になっただけなので圧倒的な兵力とは言い難い。

「これじゃ間に合わないな……」

彼がそうぼやいた時、どこからともなく別の銃声が聞こえてきた。その発射感覚、発砲音の大きさは陽歌のハンドガンの比ではなく、次々に敵をなぎ倒していく。

「あれは?」

店の出入口に立つ黒髪をツインテールにしたメイド服の女性が、傘を、否、傘に偽装した機関銃を片手に弾をばら蒔いていた。ただの乱射ではない。棒立ちしている陽歌や七耶、カラスに当たらない様に撃っている。弾丸のベルトリンクはロングスカートの中に繋がっており、一体どれほどの備蓄があるかわからない。

機関銃は車も蜂の巣にしていき、爆発させる。未だに車の影に隠れている敵は爆風に巻き込まれて吹っ飛んでいく。

「キサラさん!」

「お待たせ!」

彼女は城戸輝更(キサラ)。ポッポおよび喫茶店ユニオンリバーのアルバイトだ。なんでこんな武装しているのかはユニオンリバー関係者である時点で考えてはいけない。喫茶店のバイトということもあり、陽歌も馴染みのある顔である。

「じゅ、銃持ってるっても女子供だ、怯むな!」

 撃たれた人間が死んでいないことが悪い影響を与えたのか、マケプレの連中は吶喊を決めた。陽歌の銃は心の力を武器にするため殺意が宿っていないとどんなに撃っても殺せず、キサラの銃は魔法由来なので手加減が出来る。

「うおおおお!」

「来るか……!」

 陽歌は自分からワンボックスまでの僅かな距離で高速エイムしてボディを撃ち抜き足止めを優先する。いくら手加減しているとはいえ、一撃はヘビー級プロボクサーのパンチに匹敵するので鍛えていない一般人であるマケプレの連中はこれで行動できなくなる。そうして余裕を作ってから頭を撃ち抜いてトドメを刺していく。

 それでもハンドガンでは押し寄せる敵を処理しきれない。店に近づいた敵に対し、キサラがスカートの裾を摘まんで挨拶でもするかの様な仕草をすると、なんとスカートの中から手榴弾が落ちてきたではないか。

「な……」

 突然のことに敵が動揺していると、キサラはひとっ飛びでポッポの屋根に飛び乗り、残った手榴弾が爆発する。敵は吹き飛ばされ、一気に始末される。

「ぎゃああ!」

 キサラが屋根に上がって遠距離の敵を攻撃する体勢に入ったので、陽歌は店の入り口付近に移動して防衛を固める。射撃の腕こそ優れる陽歌だが、当然実際の戦場は経験していない。そこで銃撃戦の立ち回りを教えたのがキサラであり、ある種の師弟関係にあると言える。同じ戦術ロジックを持つ為か、個人プレイヤー多めのユニオンリバーでは割と無言で連携が取れる貴重なコンビだったりする。

 キサラの機関銃が唸りを上げ、敵に弾丸の雨を降らせる。その銃撃はワンボックスを貫き、爆散させて影に隠れていた敵も排除する。しかし、その中を突っ切って店へ駈け込もうとする敵もやはりいた。そのための陽歌なのだが。しかし敵も少しは無い頭を絞って考えたのか、右側に集まって団子になりながら突撃してきた。

「肉壁作戦?」

不可解な行動に困惑した陽歌だったが、引き金を引く指は休めない。ボディに銃撃を受けて倒れた仲間の身体で躓き、その隙に頭を撃ち抜かれるという作戦にしてはお粗末な結末となっていた。陽歌は馬鹿の思考など理解するだけリソースの無駄と割り切っていたが、実年齢相当の経験値不足がここで足を引っ張った。

「何?」

 なんと、反対側からも敵が迫っているではないか。一方向に一旦固まり、その処理の最中に反対側から接近するという手の様だ。こんな原始的でおろそかな戦術ともいえない手を実戦で使ってくること事態予想外だった陽歌だが、考えてみれば向こうは素人集団。訓練を受けた人間の常識ではタブーとされる行動も普通にしてくるのは当たり前だ。

 陽歌のいる場所は屋根の真下であり、キサラの機関銃は射角を取れない。だが、陽歌にはまだ手があった。

「危ない!」

 咄嗟に左手を出すと、そこにもハンドガンが握られていた。そう、銃は二丁あった!

「なんだとぉぉぉ!」

 ノールック射撃だったが、距離が近いのでそれでも当たる。初撃以降はちらりと見ただけで狙いを付け、的の大きいボディを撃って対処する。

「この野郎!」

 そんな中、猛スピードで真っすぐ突進してくる敵が一人いた。さすがに三方向は無理、と思われたが何と陽歌は右手に持った銃を敵の顔面に投げて迎撃する。

「おっと!」

 だが、特別肩が強いわけではない彼の投擲は容易に回避された。だが僅かに足が止まればいい。その短時間にボディを撃ち抜き、蹲った敵の眉間に弾丸を叩き込む。

 さすがにこれで敵は全滅したらしく、もう迫っては来なかった。残っていても、恐れを成して逃げてしまっている。

「終わったか……」

 陽歌が周囲を確認すると、いやに静かな音と共にビックスクーターが乗り付けてきた。それに乗る中年太りの男も黄色い布を巻いており、マーケットプレイスのメンバーだというのが分かる。

「見つけたぞ……お前だな、俺の妻を半殺しにしたのは!」

 男は陽歌を見るなり、怪人アンプルを取り出してそれを飲み干す。男はその姿を忽ち、人と大差ない細身のチンパンジー怪人へと変貌させた。黒い毛に覆われ、顔は黒く、おむつを穿いているその様は人に飼われたチンパンジーがそのまま大きくなったかの如き容貌であった。

「半殺し? どのことだったか……」

 陽歌としては一体誰のことなのか見当もつかなかった。なにせ、マーケットプレイスとの交戦回数は少ないもののその都度大人数でやってくるので一人ひとりの印象が薄い。加えて、この夏に故郷の金沸市であった騒動の関係者が偶然マケプレだったパターンも想定するとキリが無い。

「とぼけるなぁ!」

 男は一気に陽歌へ飛び掛かる。このチンパン怪人の目的は商品の確保ではない。陽歌の殺害だ。

「無駄!」

 彼は迎撃すべく銃を向けたが、カチン、と音がしてスライドが戻らなくなる。一見無限の弾丸を持つ様に見えるマインドアーモリーだが、放っているのは精神力。使いすぎで疲弊すると一時的に使えなくなったりすることは珍しくない。

「しまった!」

攻撃に失敗し、ギリギリで回避した陽歌だったが脇腹の肉を抉られてしまった。そこそこ厚地なパーカーの上から肉をちぎるほどの力がチンパン怪人にはあったのだ。

「ぐ、あぁぁあっ!」

「小僧!」

「陽歌くん!」

 七耶とキサラが加勢に入ろうとするが、味方が現れたことで息を吹き返したマケプレが再度店への侵攻を狙う。陽歌が回避したことで店の入り口の防衛ラインはがら空きだ。

「今だ!」

「させない!」

 キサラは屋根から飛び降り、ジャンプ中にスカートから短いレバーアクションのショットガンをいくつも出しながら入り口を塞ぐ。機関銃は取り回しが悪いので捨て、これで戦うつもりだ。銃剣もないのにショットガンは地面に突き立っている。

「これじゃ助けに行けない!」

 両手のショットガンをぶっぱなして敵を蹴散らすキサラだったが、ここを守るのが手一杯でチンパン怪人を攻撃する余裕は無かった。バイトということもあって比較的軽い武装で来てしまったのが仇となった。彼女は一発撃ってはレバーを軸にショットガンをくるりと回して排莢、撃ち切った銃はリロードせず捨てて突き立っている次の銃を使う。

「うぅぅ……」

「お前を殺す為に俺は来た! 死んで償え!」

 チンパン怪人は血と肉を指から垂らしながら、陽歌に迫る。七耶はカラスに戦うよう求めた。

「おい銀髪娘! お前も戦えるだろ!」

「すまない、組織のルールで魔のものである私が人間を攻撃することはできないんだ!」

 意外と面倒なルールに縛られていたカラスだったが、よく考えれば吸血鬼とサキュバスのハーフという出自からしてその能力を私利私欲に用いることが禁じられるのは当然だった。

「正当防衛でもか?」

「私が手を出した時点で過剰になってしまう! それにしても、あんな細い猿がなんて力だ……」

 カラスは分が悪くなったので話題を反らすため、敵の怪力に注目した。陽歌は店の壁に背を預けながらなんとか立ち上がり、まだ激しく出血する脇腹を抑えていた。

「ち、チンパンジーの握力は何百キロにもなるんです。チンパンジーに限らず木で暮らす生き物ならそんなもんですけど。なので人間を引きちぎるなんて容易い……です」

「チンパンジー? あの動物番組でよく見る? そんな生き物なのか?」

 カラスは動物にも疎いのか、驚きを隠せない。

「テレビに出ているのは子供の個体です。大人になって……顔が黒くなったチンパンジーは狂暴で手がつけられない……テレビに出てた個体も成長して、飼育員を襲いましたし」

「ふん、適合率が高いとかでかなり吹っ掛けられたが……そんなに強い生き物だったとはな……」

 チンパン怪人も元動物の能力を把握していないのか、意外そうな様子を見せていた。陽歌は武器を失い、行動不能の重傷を負って追い込まれた形になる。しかし、彼は余裕を崩さない。

「ですが所詮チンパンジー……森の王には勝てない」

「なんだと?」

 陽歌はあるカートリッジを取り出す。そして、側面の起動ボタンを押した。

『ワイルドジャングル!』

「あれは……」

 カラスは悪魔を強化するアドバンスドカートリッジであることに気づく。仲間の情報によると持っているのは知っていたが、何を持っているかまでは把握していないとのことだった。

『jungle program!』

 ボタンを再度押し、右手の義手に刻まれた刻印にカートリッジを翳す。店の中からルイスがやってきて、陽歌の胸の辺りまで飛び上がる。

『open your eyes!』

 ゴリラの姿をした緑のホログラムが現れ、カートリッジをルイスに差すとホログラムが光の帯になってルイスへ吸い込まれる。

「ライズアップ!」

『ハードコアサバイブ! ワイルドジャングル!』

 ルイスは骨で出来たアクセサリーに身を包んだゴリラへと姿を変える。その手には魔術師の様な杖も握られていた。魔法文字は『レイスデッドコング』とその悪魔の名前を告げた。

「たかが兎ゴリラに何ができる!」

 チンパン怪人が走り出し、陽歌を狙おうとする。しかし、割り込んだレイスデッドコングのラリアットによって軽々と吹き飛ばされ、車道を挟んで向かい側のコインランドリーに激突してしまう。

「グワアアアア!」

 窓ガラスを割って派手に入店するチンパン怪人。ルイスもそれを追ってトドメを差しにいく。チンパン怪人はダメージを物ともせず立ち上がり、体勢を立て直そうとするが周囲に青白い炎が飛んでいることに気づいた。

「なんだ? グヘア!」

 炎ははじけ飛び、コインランドリーからチンパン怪人を押し出した。チンパン怪人は空中で身動きの取れないまま、ルイスに接近してしまう。そして、青白い炎を纏った拳がチンパン怪人の眼前に迫っていた。回避する手立ては、一切ない。

「ゲシュペンスト、ハンマー!」

 陽歌の叫びと共に、チンパン怪人の顔面に拳が突き立てられた。

「ギャアァァァアアアア!」

 チンパン怪人は爆散し、いつも通り残ったのはだらしない身体を晒した全裸のおっさんであった。これで今度こそ、敵は全滅したはずだ。

「ふぅ……」

 悪魔を使役するのにも若干の体力がいる。陽歌は一息ついたが、それが完全に隙となった。

「小僧!」

 七耶の叫びで後ろを向くと、敵の男が一人復帰しているではないか。その男は陽歌の首を右腕一本で掴み持ち上げた。握力に任せ、彼の細い首を折らんばかりの力で締めあげる。

「え……がっ……!」

 いくら小柄で軽い彼でも、体重はさすがに二十六キロはあり、流石に大人でも片手で持ち上げるのは不可能なはずだ。特に大した訓練も受けていない転売屋では尚更。しかしこの男は急に息を吹き返した上、常人を超える力を発揮している。男は陽歌に銃を投げられた敵で、ボディに数発、ボクサー並のパンチを受けたくらいのダメージがありすぐに立ち上がれる状態ではない。

「ええっと、これでもないあれでもない……」

 キサラは陽歌を助けるため、銃を探す。しかし彼女の持ち合わせは重火器が殆どで、これほど近距離にいられると弾丸が貫通したりして陽歌を巻き込んでしまう恐れがあった。ルイスも急ごうとするが、カートリッジの効果が切れて兎に戻ってしまう。

「なに、これ?」

 加えて、キサラが目にしたのは驚愕の光景だった。倒れた敵が何らかのタブレットを口にして起き上がる姿だった。まさかの復活。これでは余計に陽歌を助けにいけない。

「っ……」

 しかし彼も誰かの助けを借りなければこの程度の窮地を脱出出来ないほど、弱くはなかった。何度も世界崩壊の危機を乗り越え、自分の身は自分で守れる程度に成長した。義手で首を掴んでいる手を引きはがそうとしても上手くいかないので、彼は隠し持っていたナイフを取り出し、急襲する。が、その攻撃も残った左手で男は陽歌の腕を掴むことで防いだ。

「が……ぁ……」

 酸素が脳に行き渡らなくなり陽歌の意識は徐々に遠のく。キサラも復活した敵の片づけで救助に向かえない。このまま、首を折られて死んでしまうのか。が、突然彼は左手を素早く動かし男の目を突いた。

 一時的な目つぶしというレベルではない。目から血が流れるほど強く、確実に再起不能のレベルで潰していた。男も視界を奪われたことと激痛で陽歌を離し、手をフラフラさせて敵を探していた。陽歌はダメージの割に、解放されて突然降ろされても転落することなく着地していた。

「ギィヤアアァッ!」

「げほっ、げほっ……はぁ、はぁ……」

「おい、大丈夫……か?」

 七耶は陽歌に駆け寄ろうとして、足を止める。いつもと目の色が違うのだ。彼の瞳色は特異だが、さすがに本当に目の色が変わったりはしない。比喩である。しかし、陽歌の瞳孔は開き、焦点が合っていないのか揺らいでいる様子だった。

「お、おい?」

 陽歌はおもむろに男へ近づくと、男の左膝を内側に向かって思い切り蹴り飛ばす。

「グゲェ!」

皿が外れ、男は膝を付く。陽歌のすらりと細い足ではそんな力など出なさそうだが、完全に『タガ』が外れたのかそれだけの力を出せてしまっている。

 陽歌はその後も手を緩めず、男の右くるぶしを踏みつぶして砕く。男はなんとか両腕で体重を支えるが、それは単なる隙でしかない。陽歌は男の左肘を蹴り飛ばして関節を外し、顎を蹴り上げて仰向けになる様に男を蹴り倒す。

「ウガァアアアア……!」

 男は最後の抵抗に残った右腕を振り回すが、陽歌はその右手を掴んで指を逆に曲げる。グローブの様に腫れあがった手では、もはや何もできない。

 男に馬乗りとなった陽歌は、義手の拳を固めると男の顔面に何度も叩きつける。彼は無言でひたすら攻撃を繰り返す。男は最初のうちこそ悲鳴を上げていたが、徐々に声がしなくなる。突然のことに、七耶とキサラはもちろんカラスも絶句する。

 十分に攻撃を済ませた陽歌は立ち上がり、しばらく歩いてから手で頭を叩いて振った。すると、どうやら正気に戻ったのかキョトンとしていた。

「あれ? 誰か助けてくれました?」

 全員、首を横に振ることしか出来なかったという。

 

   @

 

 ロウフルシティ市内のとあるスーパーマーケットで、買い物をする一人の少年がいた。中学生くらいの年齢で、顔立ちの整った美少年である。誰もが一度は振り向く様な、下手なアイドルなどよりも目を惹く存在だった。芸能人といった一種俗っぽい憧れを想起させる様な存在には無い、違う世界の存在みたいな気品に包まれている。

そんな彼が飲み物やらお菓子やらを買い物カートいっぱいに買い込んでいる。誰のことを思っているのか、その微笑みは無関係な者の心さえ射貫いていく。あまりの魅力に声を掛けたくなるが気後れしてしまい多くの人間が出来ない。そんな中、ずかずかと彼に声を掛ける女性がいた。

「松永総合病院院長、松永順くんだね?」

「そうだが?」

 相手が年下だからか、女性の態度はやけに馴れ馴れしかった。黒髪を短くした、キャリアウーマンっぽい女性である。

「私は宵越ジャーナルの蔵居國世。君の預かっている患者の件で話があるのだけど?」

「業務上知りえた患者の情報は守秘義務によって守らせてもらうよ」

 蔵居の話を聞いた順は即座に断り、カートを動かす。しかし、蔵居はカートの進路を塞いで食い下がる。

「真実を世界に知らしめるために答えてもらいます! 金沸で起きた人間か化け物になる奇病事件、その生存者を預かっているのよね?」

「だとしたら、何かな?」

 この夏に起きた、陽歌とミリアが出会った時の事件の話である。順は若干十四歳にしてその天才的頭脳で医大を飛び級、政府の才能がある子供達に予算を与えて能力を伸ばす『超人機関計画』により松永総合病院という大病院を構えるほどの存在であった。そして現在、順は陽歌の主治医をしている。蔵居が陽歌の情報を欲しがっているのは、順には分かっていた。

「あの事件の真相を知らしめることがジャーナリストとしての使命よ。少しでも情報が欲しいの」

「生存者なんか山ほどいるじゃないか。というか、どこでそんな情報を仕入れたのかね?」

 蔵居は特に下に出ることもなく情報を求める。順は陽歌の件をどこから仕入れたのか、そこをまずは怪しんだ。患者の健全な療養には野次馬のシャットダウンが欠かせない。

「それは、情報源の保護の為教えられません」

「やれやれ……こっちはやらんがそっちはよこせと……話にならないな」

 順は呆れてカートを押す。しかし、蔵居はカートを手で止めて話を続ける。

「話にならないのはこちらよ。君の病院、超人計画の産物でしょ? 一体どれだけの政治的癒着で国民の血税が使われたと思っているの? 世の中には保険料も払えず病院に行けない人が山ほどいるのに」

「……」

 順はあまりの話の脈絡なさに絶句する。これ以上は時間の無駄と判断し、彼はカートを進めて移動を開始した。

 

   @

 

「で、なんだってこんなところに?」

 陽歌は珍しくぶっきらぼうな口調で喋る。カラスとは初対面の印象が最悪で、自分が勝てた相手にボコボコにされていたという一種の侮りもあって、控え目かつ引っ込み思案な彼も露悪的な態度を取る。カラスもそれに対して、威圧的態度を崩さないがスマホの通知音が鳴っている。

(命を救うと称して地獄の苦しみを味わあされた上にコンプレックス抉られたらそらこうなるな……)

 一部始終は七耶も見ていたので、この態度も納得である。一方でカラスも妙に頑固というかプライドが高いので素直にならない。そしてスマホの通知音が鳴る。

「お前には関係ない。無いなら違う店にいくだけだ」

「ここに無いってことは他の店にあるとも思えないけど?」

 カラスはその言動から、店を梯子しているのは明かであった。加えて鳴りやまない通知音。ポッポはゲーム類こそ無いが品揃えでは量販店に負けておらず、昔のおもちゃも沢山あるのでここで見つからないのでは難しいだろうと陽歌は見ていた。この思考の間にまた通知音が鳴る。

「……」

「誰かへのクリスマスプレゼントですか?」

 険悪な二人の中へ、深雪が割って入る。この時期におもちゃを探すということは、クリスマスプレゼント以外にあるまい。カラスは趣味で自分用におもちゃを買い込むタイプに見えないから尚更だ。通知音が静寂を切り裂く。

「そうだ……。一応な」

 彼女はようやく、目的を明かす。やはりクリスマスプレゼントということらしい。だが、カラスにおもちゃをクリスマスにあげる様な相手がいそうには見えないというのが七耶と陽歌の見解であった。またピロンと通知音がする。

「相手は誰なんだ? ていうか何探してる?」

 七耶は直接聞いてみることにした。ポッポで見つからないのなら、かなりの強敵になることは違いない。クリスマスとあっては、おもちゃ屋に関係する人間として見過ごせないというのが本音だ。あと通知音も気になる。

「いや、お前らに関係は無い。これは私の問題だ」

 しかし頑なにカラスは口を割らない。そんな中、ルリが店から出てきてカラスに言う。

「そうもいきませんよ。クリスマスに子供の笑顔を見ることは玩具に携わる者全ての願いですから、協力できることはさせてください」

「少なくともこの店の利益にはならんぞ?」

 彼女はルリを怪しんでいるのか、牽制する。どうもルリの持つ膨大な魔力を見抜いている様子だった。そんなかっこいいやり取りも通知音で台無しだ。

「それよりも大切なことがあるんです」

「わかった。なぜお前ほどの者が場末のおもちゃ屋などで働いているのかは知らんが、信じていいんだな?」

 しれっと失礼なことを言いつつ、カラスはようやく警戒を解く。それでも、伝えるのは最小限の情報であった。

「目的は単純明快。ゲームの確保だ」

「へー、じゃあ僕はこの辺で……」

目的を知った陽歌は関心を失って離脱を宣言する。殆どカラスの動向に興味があって聞いていた様なものだ。その先の結末については知ったことではない。

「まぁまぁ、人助けだと思って、ね?」

 深雪に宥められるが、相手がカラスというのもあって陽歌のテンションは低い。

「えー? 僕もう一戦交えて疲れたんだけど……」

「具体的には?」

 七耶は詳しい目標を尋ねた。だが、ここでカラスの高齢かつ浮世離れした性質が仇となる。そう、ゲーム機の判別が出来ないのだ。

「なんかこう、あれだ! 画面があって、黒くて……」

「ザックリしてるなぁ……」

 七耶は呆れる。この様子では見つけたとしても目的のものだと気づかずに見過ごした可能性が高い。そして通知音。

「ていうかさっきからめっちゃ通知来てるけど大丈夫か? 仕事先からとかじゃないか?」

「ああ、なんか退魔協会に新しく入った古代って奴にライン? とかいうのを聞かれたから言われた通りにしたらなんかこの板っ切れがピロピロ鳴りやまなくてな……」

 七耶に指摘され、カラスはスマホを取り出す。ばっちりカバーとフィルムが貼ってあるが、どうも使い方が分からないらしい。

「退魔協会だったらやっぱ仕事なんじゃ……」

 退魔協会とはカラスの所属する組織である。なのでそこの人員からの連絡ということは仕事の連絡ではないかと陽歌は心配する。

「いや、なんかやれ文化祭? だのイベントだの、クリスマスパーティーだのの誘いばっかでな……。これってなんだ? どうすれば止まる?」

「そこまで万全の装備を整えておいてまさかスマホの使い方わからないのか?」

 七耶は予想外の事実に驚く。

「いや、機種変からケースとかフィルムとかはハンテンサカに付き添ってもらってな……。前まで使ってた携帯がもう電池限界で、新しい部品も無いから仕方なく乗り換えたんだが……画面を触って動くのはなんか気持ち悪いな……」

 この場にいる全員が、このままカラス一人に任せていては一生ゲームなど見つけられないと判断した。その時、バイクの音がしたので陽歌とカラスは警戒する。新たな敵の増援か、と音のした方を見ると、なんと竜の姿をしたいかついバイクに乗って半纏坂が現れたではないか。

「なにあれ超かっこいい!」

 七耶が目を輝かせているバイクだが、おそらくは仲魔をアドバンスドカートリッジで変化させたものだろう。こんなバイクが車検に通るはずもない上、半纏坂の年齢でこれほど大型のバイクの免許が取れるとは思えない。それにヘルメットもしていない。

「ハンテンサカ! なんでこんなところに?」

「いやちょっと野暮用っす。というか、ニンテンドーswitchにポケモンシールド、こっち側は全滅っす」

 半纏坂の方はどうやら目的をキチンと理解しているらしく、ちゃんと探していた。

「なんだそれは?」

「ええ? 遥ちゃんのサンタさんへのお願い、忘れたんすか?」

 カラスはこの体たらく。サンタの正体を明かしそうな会話になってきたので、まだ信じていそうな深雪をキサラが店内に誘う。

「深雪ちゃん、新しいハム太郎のグッズ出て来たから見てくれないかな?」

「あ、はーい」

 陽歌がサンタを信じていないのは七耶だけではなく、ルリやキサラの間でも周知の事実であった。とりあえず夢クラッシュを防いだところで、本題に映る。

「お、おいその話は……」

 カラスは慌てて半纏坂の口を封じようとする。その明らかに怪しい様子から、陽歌はある説へ辿り着く。

「隠し子ですか?」

「違う!」

 カラスは否定するが、半纏坂が勝手に話を進めてしまう。

「実の娘……」

「え?」

「なんだと?」

 一瞬驚いた陽歌と七耶だったが、どうも彼はわざとややこしくなる様に語句を区切っていたらしく話を続ける。

「……のように可愛がっている女の子っす」

「なんだ……」

「脅かしやがって……」

「お前私のことからかって遊んでるだろ?」

 あらぬ誤解を受けそうになったカラスは半纏坂に抗議する。しかし本題はそこではない。

「まぁ、特殊な事情があって退魔協会で預かってる子なんすけど、その子のサンタさんへのお願いを叶える為にこうしておもちゃ屋を梯子してるっす」

「サンタさんへのお願い……か」

 陽歌はかつての、サンタを信じていた自分を重ねて呟く。そして、先ほどまでの態度を一変させて協力を申し出た。

「このままじゃ埒が明かないですね。手を貸しますよ」

「お前……」

「勘違いしないでください。あなたの為ではありません」

 陽歌は何より、サンタクロースへのお願いが通じなかった時の絶望感を知っている。だから他の者がそれを味わいそうな状況を、見過ごせずにいた。

「とりあえず、売ってそうな店に行きましょう。ロウフルシティの店は見てないですか?」

「まだだ」

 決めたのなら即行動。一同はニンテンドーswitchとポケモンシールド確保の為に行動を開始した。

 




 マインドアーモリー解説

 マックスペイン→アポロM11
 半壊したマックスペインに『ムーンギア』を装備した姿。基本は二丁のハンドガンであるが……。
 なぜ貰ったアタックギアと使わないかって? そんなの罠でも仕掛けられてたら危ないじゃないでスか(アスルト談)。
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