騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
特にフォートナイトはコロコロでも取り上げられるなど小学生人気が一気に高まっている。switchで遊べて、基本無料なのが大きいのだろうか。タカラトミーからも輸入品のフィギュアが販売されているのだ。
この手のボイスチャットが実装されているゲームでは声がもろに相手に伝わるので罵声をあげるのは、やめようね! みんなはマナーを守って楽しんでね!
節分とは、恵方巻にとって変わられがちであるが本来は豆を投げて無病息災を祈る行事である。そんな豆まきの復権を目指し、ある大会が行われようとしていた。
「レディースエンジェントルメン! 本日は静岡商工会主催、豆まきバトルロワイヤルにご参加いただき誠にありがとうございます!」
白昼の空に花火が上がり、イベントの幕開けを告げる。ここは静岡県の御前崎、その海辺である。流石にこの季節の海岸は冷たい風が吹き、とても寒い。しかしなぜ神社ではない場所で豆まきイベントなのか、何がバトルロワイヤルなのか、陽歌は気になった。
「でもこれあったかいなぁ……」
彼は私服として提供された白いパーカーの性能に驚嘆する。これは彼が暮らすことになった喫茶店のスタッフが開発した全天候対応型繊維で作られており、これ一枚で南極から砂漠まで快適に過ごせる代物だ。
人の多さに戸惑いながら、フードで顔を隠して開会式に臨む。ボサボサだったキャラメル色の髪はボブカットに切ってもらい、手入れもなされて以前より艶めいていた。最小サイズを渡されても袖が余るほどの小柄さは健在だが、少しは肉が付いた。
(でも『戦力』ってどういうことだろう……?)
陽歌は喫茶店のスタッフである青髪のメイド、アステリアの影に隠れていた。彼女から戦力が足りないと相談され、日頃の恩を返す為に参戦を決めた彼だったが、イベントの内容までは知らない。
「優勝チームには、静岡県各所に設置された運営所有の看板へ広告の掲示がタダで行えます!」
「おお……」
アステリアの狙いはこの広告権であった。今やネットで安く広告を出せる時代とはいえ、そもそもネット広告は基本嫌われ者でありネット自体やらない層もいる現状では道端の看板というのは未だ大きな力を持っている。
「必ず優勝して、看板を手に入れましょう!」
「もちろんです!」
アステリアの呼びかけに応じたのは黒髪をツインテールにした眼鏡のメイド、キサラ。彼女は喫茶店のウエイトレスである。喫茶店で暮らしている陽歌にとって、アステリア、キサラの両名は付き合いも長い。
どちらもスタイルのいい美人であるため、彼女達目当てで喫茶店に来る客がいても良さそうなものだが、現実はそうもいかないらしい。
(まぁ、場所が場所だから……)
陽歌は喫茶店の立地を思い出す。真下が海の断崖絶壁という二時間サスペンスのラストで死ぬほど見たロケーションにある喫茶店など、なかなか客が来ない。しかもその崖は特に名勝とかではないと来た。
「あ、足を引っ張らないようにしないと……」
「いや、気負うな。一昨年と去年の様な惨状にはならんさ」
気を引き締める陽歌に声を掛けたのは、紫のショートヘアをした、チャイナドレスの様な服装をした女性。こちらは喫茶店の料理長であるカティ。彼女が語るに前二回は相当酷かったらしい。
「いやー、まさかエヴァ達を連れていったらロボットバレするとはな……」
陽歌が助けられたナル、七耶を始めとしてユニオンリバーにはまるで人間の様なロボットがいる。正確なことを言うとロボットのコアが変質したものらしいが、人間以外はルール違反だったらしく失格に。
「それで今度はミリア達を連れていったら人造人間バレするとは……」
その次の年はミリアがミラヴェル計画で作られた珪素生命体であることが発覚して失格。
「なんか……もにょる……」
陽歌はあれだけ優しく人情を持つ存在が人間でなく、自分を虐げてきた存在こそが人間だという事実が受け入れがたかった。
「つまり、参加できる時点でお前には十分助かってるよ」
去年二回の有様を考えると参戦出来るだけ前進らしい。アステリアは主催の関係もあり参加者に知り合いが多いのか、周囲の人達に挨拶していた。お店同士の付き合いも大事な仕事だ。
「あれ? あのチームっておもちゃのポッポの隣のお茶屋さんですよね?」
キサラはその中で、見知ったはずのチームを見つける。持っている旗は彼女が喫茶店と兼任しているバイト先のおもちゃ屋、その隣にあるお茶屋のものだったが、メンバーに顔見知りがいない。
アステリア、カティも知らない様子で、お茶屋チームに扮している謎の女子高生軍団を見ていた。
「これはお隣のお茶屋さん。いつもの店主はどうされましたか?」
キサラは怪しさ満点のお茶屋チームに臆することなく声を掛ける。
「ん? 誰だお前達は……?」
お茶屋チームはかなり不遜な態度を取っていた。一同を見るなり、お茶屋チームは見下した様なことを言う。
「何かと思えばメイド喫茶か。外見から媚びなければ商売にならないとは……」
リーダーらしき人物があざけると、取り巻きもくすくす笑う。陽歌としてはかなり嫌な感触を受けた。ポッポの隣にあるお茶屋さんにはよくして貰ったこともあり、そんな人が代理でもこの様な人間を寄越すとは到底考えられなかった。店の看板を背負うなら猶更だ。
「はい、店長。少し調べてほしいことが」
キサラも怪しさを感じ、携帯で電話をする。お茶屋の隣にあるバイト先、おもちゃのポッポの店長へである。
「残念ながらこの大会は今年で終わりだ。日本の閉じた文化に軍国主義を組み合わせた様なイベントに割くリソースは、国際的なものに使わないとねぇ」
(軍国主義?)
謎の批判に陽歌は首を傾げる。節分と軍国主義に何の関係があったのだろうか。
「あなた達は店主からの依頼でこの大会への参加を?」
アステリアは裏を取るよりも早いと言わんばかりに、この人物へ直接訪ねた。付き合いが長そうな彼女でもこの様な知り合いがいるなど、聞いていないのだろう。カティも疑惑の目を向けている。
「ええ、そうよ。私はマーガレット。優勝は私達がいただくわ」
マーガレットと名乗った人物はそそくさといなくなる。何かが怪しい、それは近隣との付き合いが浅い陽歌にも感じとれていた。
@
メインの従業員が出払った喫茶店、ユニオンリバーではある試みが行われていた。
「今回は歳の数だけ豆を食べて美味しいコーヒー牛乳で優勝する動画だよー」
カメラを回すミリアは山ほどある豆を前にした七耶を映していた。歳と同じ数、とはいえ彼女の外見からは想像できないほどの量が皿に盛られている。
「キツ過ぎてキツツキになった……」
その量、まさかの五千粒。つまり七耶は五千歳ということになる。そもそも人間ではないので当然だが。
「これ本当に食べるのか? あと五千粒なのか?」
当然の様に疑問を呈する七耶。彼女は外宇宙で開発された兵器、『超攻アーマー』のCPUであり、ある事情で五千年眠っていたところを叩き起こされて代わりの肉体を与えられて復活した。この辺の経緯はStanford氏の『超攻合神サーディオン』実況を見よう。
「た、助けてくれ!」
そんな変な企画を撮影していると、突然喫茶店に駆け込んでくる人がいた。七耶もミリアも顔見知りの、おもちゃのポッポの隣にあるお茶屋さんの従業員であった。
「どうした? お茶が売れすぎて人手が足りないのか?」
フラフラになっている従業員を助けながら七耶が聞く。
「そうであればどんだけよかったか……。『オリンピック推進委員会』とかいう奴が俺たちを捕まえて、代わりに今日の豆まき大会に出るみたいなんだ……」
「なんだと?」
従業員から伝えられたのは衝撃の真実であった。陽歌やアステリアが出ている大会に、そんな怪しげな連中がこっそり参加しているというのか。出場の為に無関係な人を拘束して成り代わる連中となれば、大会でどんな手を使ってくるか分からない。
「お前はここに隠れてろ! ねこ達はお茶屋を見に行ってくれ! 私達が会場へ向かう!」
七耶はその場を取り仕切り、対応に回った。このままでは、アステリア達はともかく陽歌が危ないかもしれない。そして馴染みのお茶屋の安否も気になる。
@
「それでは皆さん、こちらの飛行機にお乗りください」
「飛行機?」
何故か参加者は飛行機に乗せられた。それもただの飛行機ではない。後部が大きく開く兵員輸送用の飛行機である。それが三台もある。同じチームは同じ飛行機に乗るが、参加者はある程度分けられている。
「それでは離陸しまーす」
乗った参加者が座席にも座ることなく飛行機は飛び立った。そして、運営からあるモノが渡される。
「これは……」
どうやらパラシュート的なものなのだろうが、ますます意図が分からない。
「ここで改めてルールを説明します! これから飛行機から降下してバトルエリアとなる孤島に降り立ってもらい、最後まで生き残ったチームの優勝です!」
「こ、降下?」
まさかの空挺。これはどっかで見たことあるなと思った陽歌なのであった。
「降り立ったエリアの各地に豆を発射する銃や役立つアイテムが置いてあります。それを拾って優勝を目指してくださいね!」
「フォートナイトだこれ!」
彼は義手の慣熟とリハビリによくゲームをしているので、すぐに話の流れが分かった。よくあるバトルロワイアルモノのシューティングゲームをリアルでやろうというのだ。軍国主義云々とは、少々段階を踏み外した指摘だったがこのことだったのだ。発想は単純だが、スケールが大きい。
「あ、毎年恒例ですが結晶炉は安全の為立ち入り禁止、入った時点で失格ですのであしからず」
「というかこれ少なくとも一昨年からやってるんですね……」
参加者の間に広がる動揺の無さから、定番化が伺える。ということはここにいる参加者は全員空挺が出来るのか。恐るべし静岡商工会。
「降下場所はどうしましょう?」
「あの辺がいいな」
アステリアとカティは飛行機の窓から降りる場所の相談をしていた。降下ポイントの選定から勝負は始まっている。
「では、私はいつも通り別行動で」
「よろしくね」
キサラはアステリアにそう告げると、チームから距離を取る。チーム戦である以上、一人で行動すると袋叩きになる可能性が高いのだが、なんてことも無さげなやりとりであった。
(あー、そういえばキサラさんって魔銃士だっけ……)
ウエイトレスをしているメイドにしか見えないキサラだが、その正体は銃で魔物を撃ち倒す戦士である。ロボットや珪素生命体がアウトで本職の戦士がOKとかもう分かんねぇなこれ。
(とすると、僕が下手に行動を共にすると足を引っ張っちゃうか……)
僅か数か月とはいえ、だんだんこのユニオンリバーという滅茶苦茶な空間に慣れてきた陽歌なのであった。年の瀬の大騒ぎに比べたら、この程度なんてことはない。
「それでは、バトル開始です! 皆さんの健闘を祈ります!」
飛行機のハッチが空き、遂に戦いの幕が開く。参加者は慣れた様子で降下していき、狙いのポイント向かってまっしぐらだ。
「GBNで生身の降下ミッションはやったことあるけど……現実は違うよね……」
全くの未経験ではないものの、だからこそ不安が残る。ゲームでその難しさは実感しており、失敗が即、死に繋がる現実では緊張からコントロールを誤りそうだ。
「やったことあるなら大丈夫だいじょうぶ。ほら、本来なら定年してる歳のおじいちゃんだって参加してるから」
よぼよぼで立つのも厳しそうなおじいちゃんを差し、アステリアが陽歌を励ます。
「ご安心ください! 万が一の死者に備えて電気蘇生学の権威、ドクターミンチ氏にオブザーバーとして控えていただいています! その他充実の葬儀プランが協賛企業から提供されています」
司会はちゃんと事故の対策はしていた。尤も、死んだ後の話であるが。
(生き返らせるのか弔うのかはっきりしてほしいかな……)
一応蘇生は試みてくれるものの、ダメだった時のパターンも用意されている。これを無責任と取るか手厚い保証と取るかは人次第だろう。
「じゃ、行くぞ! 降下!」
「え。ちょ……まっ!」
カティの合図でアステリアと陽歌も降下する。ただし、彼は引っ張られての落下であるが。
「ああああああ!」
当然の様に悲鳴を上げる陽歌。アステリアとカティは慣れた様子で地面へ接近すると、丁度いい高度を見つけてグライダーを展開する。陽歌はカティに抱えられての降下となった。
「ふぅ、二年ぶりだがスカイダイビングはやっぱ最高だな!」
「さっきのおじいさんは……」
おじいさんを探した陽歌だったが、その人はもっとスムーズに降下し、着地と同時に走り出した。今までのが敵を欺く為の演技だったのではないかと思うほど、その動きは洗練されていた。
「……」
「よし、とにかく武器を探すぞ!」
「そうですね」
カティとアステリアは付近の家に入り、家探しを始めた。ここは住宅街の様だが、自然が溢れて家もまばらだ。もっと住宅が固まったエリアもあるのだが、離島というには家が多く、人工島というには無秩序である。
「不思議な島だな……」
そんな島で行われるバトルロワイアル、一体どんな展開を迎えるのか。
「よーし、武器ゲット」
「役立つアイテムもありますね」
カティ達は早速武器や弾薬を集めて戻って来た。ショットガンにアサルトライフル、サブマシンガンにハンドガンと多種多様だ。
「とりあえず持っとけ」
「あ、はい」
陽歌はハンドガンとサブマシンガンをカティから受け取る。メインとなる連射性能の高い銃にサイドアームとオーソドックスな組み合わせだ。
「よし、行くぞ!」
準備も整った所で、戦闘開始である。とはいえ、まだ敵も多いこの状況で攻撃に回るのは得策ではないと陽歌は思っていた。
「おっしゃ暴れるぞー!」
とは言いたいが、カティが銃声の方へ走り出してアステリアもそれに続いてしまったため、隠れるなどどは言い出せなかった。一人になるのはなんだか不安である。
三人はしばらく走って、密集した住宅地にやってきた。途中、弾薬やアイテムを回収しながらの行動だったので、弾に余裕はある。
「見つけた!」
他の敵に集中していて、こちらに気づいていない敵を見つけたカティは後ろからショットガンを発砲する。積極的に仕掛けていくスタイルの様だ。
「うわ!」
数発撃たれた敵は青い光に包まれてどこかへ消える。どうやらライフ制らしく、斃されたら自動で戦場から離脱するらしい。サバイバルゲームにおけるルール違反の一つであるゾンビ行為を防ぐには最適な仕掛けだ。
(あれ自己申告制だもんね……。僕は腕に当たっても分からないし)
陽歌はとりあえず狙いを付けて弾を撒く。当たるかどうかはともかく、敵を牽制するには役立つはずだ。
「いたぞ!」
「撃て撃て!」
が、流石はバトルロワイヤル。一つの敵と戦っている間に他の敵がやってくる。突然の襲撃を受けて咄嗟に逃げた陽歌は、アステリア達と離れてしまう。
「しまった!」
この状況で孤立はマズイ。敵の弾を避けようとすると、アステリア達との距離は離れていく一方だ。
(こ、こうなったら逃げるしかない!)
ともかく自分が撃破されて彼女達の足を引っ張るわけにはいかない。なので全力で逃走を図る。鋭角なジグザグ軌道を描きながら、それなりに早い速度で戦場を離脱した。これは長いこと石などを投げられてきた彼が独自に開発した逃げ方で、当時は体調も芳しくなく殆ど意味を成さなかったが、ここに来て有効な手段となった。
@
バトルが過熱する中、大会運営本部として設置されたテントでは、招かれざる客の接待をしていた。
「なんだ、静岡商工会は来客に茶一つ出さんのか?」
尊大な態度でパイプ椅子にふんぞり返るスーツの男は、大会委員長を威圧する。だが、委員長も負けてはいない。
「急用でもないのにアポなしで押し掛けるなど常識の欠けた人が常識を語るんじゃありません」
真っ当な反論をされて、スーツの男は苛立っていた。だが、自分が圧倒的優位に立っていると思い込んでいるのか、男は委員長に向かって言い放つ。
「急用だとも。いますぐこの大会を中止しろ! こんなくだらないことに使うリソースがあったら、オリンピックに協力したまえ!」
「そういうわけにはいきません。もう始まっていますので」
委員長は男の無茶苦茶な要求を突っぱねる。そして、席を立ち朗々と男の、ひいては大海都知事、そしてオリンピック推進委員会の痛いところを的確に突く。
「確かに、オリンピックというのはとてもいい催しです。四年に一度、この日の為に己を磨いた選手がその力を発揮せんとする姿はとても感動的だ。だが勘違いしないでほしい。オリンピックが偉大なのであって、あなた方は偉大ではない。オリンピックを取り仕切る側になった高揚感で、本来持つべき貞淑さを忘れている」
「なんだとぉ……」
男は図星のあまり、反論が出来なかった。地道という言葉を知らない彼は華々しい戦果を追い求めるあまりオリンピックの誘致に固執し、同年代の官僚に出世レースで負けていた。それが報われるターンが来ているので、今の内に威張り散らしたいのだ。追い打ちをかける様に、委員長は言う。
「それに、私は大海都知事を支持していないのでな。都民でさえ不支持の者がいるのだ。その管轄外の我々が静岡県知事ならともかく都知事に従う道理はない。第一、この大会はヘキサグラム結晶炉を活用した新時代のニュータウンを完成間際で大海知事に台無しにされたので再利用を試みて開かれているのだ」
「当たり前だ! ヘキサグラム結晶炉は環境への汚染が激しい! それに津波の危険がある中、海上都市など以ての他だ!」
男は何とか反論を行う。が、その答えは予想済みであったのですぐに返されてしまった。
「ヘキサグラム結晶炉の汚染は、結晶炉に200年住んでも健康被害が出ない程度にAIONからの技術提供で改善されている。結晶炉建築から現在までそこで暮らしている私が証明しよう。データもある。それを『安全より安心』などとのたまって科学的データを全否定し不安と風評被害を煽ったのがあの女だ。津波への対策も万全。君らが崇めていた友民党の様に、事業仕分けなどと予算をケチってはいないのでな。それに、これは静岡の問題だ。東京都知事様には関係のないことだ。それを海外にまで嘘八百を言いふらしに行きよって……」
完全に言い負かされた男は捨てセリフと共に去るしかなかった。
「ぐぬぬ……だが大会を続けるというのなら商品は用意しろよ! 誰が優勝してもだ!」
「何を、君達じゃあるまいし当たり前のことを」
更なる追い打ちを受けたのは言うまでもない。
@
「そろそろいいかな?」
陽歌はある住宅の中にあるタンスに隠れていた。隠れているだけに見えるが、実は敵が接近する度に逃げて隠れ場所を変えていた。常に身の危険に晒されていた彼は聴覚が鋭く、隠れていても正確に足音などで人の接近を察することが出来た。
「だいぶ静かになった……かなり減ったのかな?」
バトルも進み、人数が減ったのか隠れ場所を移動する必要も無くなって久しかった。機を見て、陽歌はタンスから出る。今なら敵も弾薬や体力を消耗しており、一気に漁夫るチャンスだ。
「ん?」
家を出た彼は周囲の異変に気付く。やけに静かだ。終盤にバトルが突入したとしても、やけに静か過ぎる。そんな中、一際大きな音を立てる施設があった。島の中央に位置する、大きな発電所だ。
陽歌は近くでその様子を見る為に移動した。やってきたのは立体駐車場だ。屋上で見ようと思ったが、もどかしくなって途中の階から顔を出して確認する。近くにショットガンが落ちていたので一応拾う。
「あれは……」
確か立ち入り禁止の、と陽歌が考えた瞬間、後ろから声が聞こえた。
「結晶炉よ。あんな環境に悪いものを新型エネルギーにするなんて、恥ずかしくないのかね?」
アサルトライフルを手にしている声の主は、マーガレットと名乗ったお茶屋の代理選手だ。
「当然の様に、簡単に暴走したわ。もうすぐ静岡はヘキサグラム汚染の海に沈むでしょうね。これも、オリンピック推進委員会に逆らったのが悪いの」
とても重大なことをけらけらと笑いながら言うマーガレットの神経を陽歌は理解出来なかった。ヘキサグラム汚染が静岡の県境でピッタリ止まると思っているのだろうか。オリンピック云々ということは東京の関係者だろうが、頭に日本地図を思い浮かべれば静岡の隣にある東京にも汚染の危険があることは明白なはずだ。
『陽歌! 今どこにいる? 敗退したか?』
「カティさん! いえ、まだ生きてます」
その時、頭の中にカティの声が響いた。義手を接続しているナノマシンの副次効果なのか、通信機が無くても短距離なら義手が通信をやってくれる。
『そうか。私達も生きてたんだが、結晶炉が暴走したから三人で止めに行ってる。万が一に備えて、お前も自害するなりして敗退して離脱するんだ! 他の連中はキサラが倒して避難させた、残ってるのはお前とあと一人だ』
カティは避難を指示するが、そういうわけにもいかなかった。何せ、犯人が目の前にいるからだ。キサラも他の参加者を直々に始末した者として状況を伝えてくる。
『残っているのはあなたとお茶屋さんを拘束して成り代わって出場したマーガレットという人物のチームです。お茶屋さんは店長やナルちゃん達が助けてくれましたし、そのチームの他のメンバーは結晶炉を暴走させるために失格になりました。残るはマーガレットだけなので気にせずリタイアしちゃってくださいー!』
とは言われたものの、彼は今回ばかりははいそうですかと素直になれなかった。ここで退いたら、いけない気がしたのだ。
「目の前に、マーガレットさんがいます……」
『なんだって?』
陽歌からの報告を受けたカティは驚く。そして、彼はカティに告げた。
「すみません、本当は逃げるべきなんでしょうけど、何だか、逃げられなくて……」
『そうか、お前、それは「負けたくない」んだろうな』
彼の言葉を聞いたカティは、背中を押す。陽歌が単純な他人への恐怖から逃げられないのではないことは、言葉の端々に滲む強い意思から理解出来た。
その感情は、陽歌の中に初めて芽生えたものだった。何故なら、彼にとって他人とは絶対に敵わないものであり、どうやって逃げるか、どうやって被害を減らすかが重要だったのだから。
「負けたく……ない?」
『そうだ。大会で優勝する為に結晶炉を暴走させて、関係ないお茶屋まで巻き込んだマーガレットが許せないんだろ? やってみろ。お前が負けても、私達が仇を取る!』
カティの言葉は、的確に陽歌の気持ちを表していた。たかだか豆まきの大会を台無しにする為だけに結晶炉を暴走させ、多くの人を危険に晒そうとするマーガレットは確かに許せない。
「はい!」
陽歌は、戦うことを決めた。ショットガンを突き付けると、即座に発砲して先手を打つ。
「私と戦う気? 無理無理!」
マーガレットは散弾を回避し、アサルトライフルを掃射した。しかし、陽歌もそれを見てから躱す。そして足元へショットガンを向けた。
「チぃ!」
攻撃を予想して跳躍したマーガレットだったが、それはブラフだった。ジャンプして着地した隙を狙い、陽歌は引き金を引く。ジャンプ硬直狩りだ。
「くっ! このガキ……」
ショットガンを受けたマーガレットだが、臆することなくアサルトライフルを放つ。陽歌は彼女に向けてショットガンを投げて攻撃を中断させる。
「小癪な真似を!」
ショットガンを跳ね除けて攻撃を再開するマーガレットだったが、先に陽歌のサブマシンガンの斉射が直撃する。
「このぉおおお!」
ヤケになったマーガレットはサブマシンガンを受けながらアサルトライフルを放った。陽歌は射線から外れつつ、銃口の向きは変えない。そして、互いに弾丸を撃ち尽くしてカチンと乾いた音が駐車場に鳴り響いた。
「こいつ……!」
「……」
マーガレットは陽歌を睨んだ。彼は反射的に恐怖を感じたが、ここで退けないという意思は残っていた。
「こんな軍国主義懐古のイベント如きに! こんなことしている暇があればオリンピックに捧げればいいものを!」
(太平洋戦争以前の体制を嫌っているみたいだけど、発想は国家総動員のそれだ……)
二人は距離を取り、近くの物陰に隠れてリロードを行う。しかし、触覚のあるマーガレットの方が優勢であった。如何に精巧な義手でも、ハンデは免れないのだ。特に、触覚の有無という大きな差が生まれている場合は。
「勝った!」
マーガレットは陽歌の隠れている物陰へ向かって走り、アサルトライフルを向ける。だが、そこで見た光景に彼女は息を飲む。
「何?」
なんと、陽歌はマガジンを口に咥え、サブマシンガンのリロードを行いながらハンドガンをマーガレットに向けていた。脇や首に挟む場合と違い、頭が動かせるので敵に視線を合わせやすい。伊達に両手が不自由な中で生きてきてはいない。
「しまっ……!」
まさかの事態に対応できないマーガレットへ、陽歌はハンドガンを乱射する。それが尽きたらサブマシンガンに持ち替えて引き金を引いた。弾丸を全て受けたマーガレットはライフが尽き、青い光と共に転送された。これにて、バトルロワイヤル決着である。
@
「優勝は、ユニオンリバーチーム!」
決着に会場は大きく沸き上がった。陽歌も開会式の会場に転送され、無事に島を離脱出来た。だが、同じ場所に撃破されたマーガレットのチームもいたのを彼は忘れてた。
「こいつ!」
「うわぁああ!」
マーガレットが陽歌に襲い掛かろうとした瞬間、七耶が飛んできて彼女の顔に大きな湿布の様なものを張り付ける。
「ヒバゴン!」
「アバーッ!」
他のチームメンバーにも七耶は攻撃を繰り出していく。
「マヨネーズ!」
「グワーッ!」
今度はマヨネーズを丸々一本口に突っ込む。これは辛い。
「魔のエレベーター!」
「ウェアアアアア!」
三人目はエレベーターに乗せられたかと思いきや、籠ごと天高く打ち上げられる。いったいあのエレベーターはどこへいくのだろうか。
「子育てマス送り!」
「ウワーッ!」
残る一人は変なマスのある双六に飛ばされた。バラバラの様でどこか一貫性のある技に見えて仕方ない。
「やったな小僧! まさか勝つとは」
(必死に一人倒した瞬間に四人瞬殺されると格の違いを感じる……)
七耶は素直に賞賛してくれるが、如何せん彼女が強すぎた。自分が苦戦した相手を複数こうも簡単に撃破するとは。
「おーい!」
「結晶炉の暴走は止まったぞ!」
アステリアとカティ、キサラが戻ってきた。どうやら結晶炉の暴走は無事止まったらしい。
「トラブルはありましたが、優勝はユニオンリバーチームです。おめでとう!」
そして看板の権利はユニオンリバーが獲得。当初の目的は達成させられた。
「お、覚えてろ!」
マーガレットは顔に貼られたヒバゴンに苦戦しつつ、マヨネーズを持った仲間と逃走する。残り二人は撤退すら許されなかった、合掌。
「やったな陽歌! 結晶炉はともかく優勝まで出来るとは思わなかった!」
「やったね!」
カティとアステリアも祝福してくれた。キサラは陽歌の才能に目を付けていた。
「もしかしたら優秀な魔銃士になれるかもしれません……」
仲間に囲まれ、ワイワイと騒いでいると陽歌はなんだか満たされた気分になった。
(よかった。恩を返せて……)
今は恩返しが出来たから安心しているのだと思っているが、これがまた違う感情であることに気づくまで、まだしばらく掛かりそうであった。
@
「く……こんなことどう伝えれば……」
敗走したマーガレットはヒバゴンを顔から引っぺがして道端に捨てる。仲間はマヨネーズを律儀に持って歩いていた。
「ん?」
その時、前から歩いてくる黒いマントの人影に気づいた。その人物は、口を開くなり意味不明なことを言い出した。
「二月二日に暦リーザという女を殺したのはお前だな?」
そして緑色の刃を煌かせ、二人に襲い掛かった。
二月二日に暦リーザという女を殺したのはお前だな? 謎の殺人犯を探す光剣の黒マント。しかし、そのリーザは生きている? どういうことなのこれ? あーもう滅茶苦茶だよ。
次回はおもちゃのポッポ新年会、陽歌は果たして、かつての恩人に報いることが出来るのか?