騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 今年は凄いぞ! ただでさえにゃんにゃんにゃんで猫の日なのに令和二年で2020年だからさらににゃんにゃんにゃんだ! もうにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんだ!


ねこはいます。


2020年 令和2年猫の日

 巷では、2月22日はにゃんにゃんにゃんで猫の日というそうだ。ガンプラバトルネクサスオンラインでも、それを記念したイベントが行われている。

『猫の日記念! ログインボーナス!』

「わ……!」

 いつもの様にGBNへログインした陽歌は突然現れたファンファーレとウインドウに驚く。ウインドウは宙に浮いており、プレゼントボックスを表示している。彼のダイバー姿は現実の姿ベースであるが髪色と瞳色が黒くなっている。服装は半袖のシャツの上にタクティカルベストを着込んでいる状態となっており、現実とは逆に腕を露出するファッションが選ばれていた。

「これは……」

 プレゼントとして入っていたのは、『三毛さくら猫耳』というアイテムだった。猫耳はカチューシャではなく、実際に耳が生えるアイテムであった。

「ほう、陽歌くんは初めてだったか……」

「あ、山城さん」

 困惑する陽歌の前に現れたのは、流星号のマーキングが入ったつなぎを着込んだ黒髪のセミロングの女性であった。ダイバーにしては陽歌も彼女も、かなり地味な見た目をしている。それもそのはず。ここは陽歌のかかりつけである松永総合病院の持つ医療用ディメンジョンの内部なのだ。

 GBNの持つダイブという特性は寝たきりだったり現実に障害で行動が大きく制限させられる患者にとって、自由に動ける『もう一つの世界』という環境を提供することでクオリティオブライフの向上に役立っている。

 カウンセラーである山城詩乃は現実とダイバーの姿を一致させてスタッフであることをハッキリさせているが、陽歌は自分の憧れを反映させた姿になっている。見た目はただの日本人だが、これこそが彼の望みである。異質に生まれ、異端として迫害を受けたせいか『普通』に憧れを持っている。

「GBNは毎年猫の日に特別なアクセサリーを配布しているよ。さくら猫耳はここでしか手に入らないんだよ。色はランダムなんだよね」

「さくら耳……猫の保護活動で去勢した個体とそうでない個体を見分けるための処置ですね」

 猫の保護活動では、野良猫が特定地域で増殖しない様に去勢を行っていることがある。その際、猫を捕まえるのだが目印が無いと捕まる猫がいつも同じ奴になってしまい「またお前かよ!」が頻発してしまう。そこで考案されたのがこの耳の切り込みである。桜の花びらの様な切り込みは去勢済みの証なのだ。

 そんな耳を再現したのがこのアクセサリー。普通にビルドコインで買える猫耳とはわけが違うのだ。

「ちなみに限定ミッションをやると『猫尻尾交換券』が貰えるよ」

 詩乃が教えたのは、この日だけプレイできる限定ミッションだ。その名も、『レッツ猫バンバン!』。イベントなだけあり、ガンプラを使わずログインしている人にも楽しめる内容になっている。その内容もただひたすら基地に止められた軍事車両を叩いてエンジンルームで温まっている猫を追い出すだけの簡単なものだ。

「猫バンバンをゲームで……」

 現実でも冬場は猫が車の中で温まっていることが多く、運転前には車のボンネットを軽く叩いて追い出すことが推奨されている。そうしないと猫にとっても車にとっても良くない結末が待っている。

「そんなわけミッション行こうよ。猫系改造パーツのドロップ率上がってるし」

 そんなこんなで詩乃にミッションへ連れていかれる陽歌。猫系のガンプラ改造パーツとは一体何なんだろうか。とにかく今日もガンプラは自由であった。

 

   @

 

 病院から帰ってくると、喫茶店は猫カフェかと思うくらい猫だらけになっていた。

「これは……?」

 見た感じでは血統書付きっぽい個体がいないので野良猫が集まっているのだろう。それにしてもかなりの数だ。これは一体どうしたことか。

「一体何があったんですか?」

「おかえり。これはちょっといろいろあってね」

 アステリアに事情を聞くと、やはりのっぴきならない事情があった様だ。

「ほら、うちってどんなに掃除しても鼠やゴキブリが出ちゃうじゃない?」

「飲食店の宿命だな」

 カティもうんうんと頷く。どんなに綺麗にしても、対策を繰り返しても、飲食店はゴキブリや鼠の恰好の住処。どうしても頭を悩ませるポイントであった。

「そこで猫をたくさん入れたらどうかなって」

「ゴキブリと鼠より先に営業許可が無くなりそうですね」

 猫カフェならともかくユニオンリバーは普通の喫茶店。こんなに動物を野放しにしていては保健所に怒られる。野良なのでまずは彼らを綺麗にして蚤を取るところから始めた方がいい様な気もする。そして里親を募集しよう。

「出たぞー! Gだ!」

 七耶が叫びながら店にやってくる。G、つまりゴキブリが出たのだ。

「来たか……」

「実力を見せてもらおう!」

 陽歌は臆することなく出現場所を見にいく。カティも早速、新入りの狩人たちの腕前を拝見といったところだ。が、猫たちは互いにじゃれるか寝ているかしており、ゴキブリに一切興味を示さない。

「そんな!」

「これなら人が捕まえる方が早いですね……」

 中に入れるベッドを買ったら上に寝る。それが猫だ。陽歌がゴキブリを追い詰めて義手とはいえ捕獲する方が早かった。

「お前よく触れるな……」

「感覚無い分、潰さない様にするの苦労するけど。でも体温ないから爬虫類を触る時は有効かも」

 変温動物は人体の熱でも火傷するほどデリケートであり、そういう意味では義手は良し悪しというところだ。ちなみに一応言っておくが、陽歌は生身の時からムカデや蜘蛛などを含む虫を抵抗なく触れるタイプである。

「あ、卵抱えてる。雌かな?」

 そして躊躇うことなくゴキブリを観察する。掴むならともかく、こんな不快害虫の王者をまじまじと見るなど並の精神力ではない。

「というか、またあなたですか……。子供出来たんだ、じゃなくていいですか? いくら食べ物が多くて暖かくてもここにはもう来ちゃダメって二回くらい言ってますよ? 捕まえたのが僕じゃなかったら殺されているし、この店にはゴキブリホイホイもブラックキャップもあるんだから命がいくつあっても足りないよ」

 彼はゴキブリを窓からポイ捨てする。明らかにゴキブリの個体を特定しての発言である。

ゴキブリに対して不快感を持たないので殺すこともしない陽歌だが、一応衛生面では害虫であることを理解しているので然るべき対応は取る。生き物が好きだからこそ、雑食性の動物である人間として肉を食べることに抵抗は無く、生態系というシビアな世界も理解しているタイプだ。

「で、どうするんだこの猫。集めたはいいが特に役に立たなかったぞ?」

「とりあえず里親でも探しましょう。まずは空いている部屋に集めて……」

 七耶とアステリアは策略がうまくいかなかったので、予定していた隔離場所に猫を集めることにした。

「よし、行くぞ」

「しかし数が多い……」

 喫茶店に直通している部屋に猫を入れていく七耶とカティだが、扉を開けていると入れた猫がそのまま出ていってしまう。これではキリが無い。

「つーか仕切りみたいなの無いのか?」

 さすがにこの無限ループに七耶はモノ申した。高い柵の様なものを用意しておけば、こんなことにはならなかったはずである。

「いや、一応トイレやキャットフードとかと一緒に買って来たんだが……」

 カティは壁に立てかけられた折り畳みの柵を指さす。歪んでいることから、壊れていることは想像に難くない。

「安物だったのか、開こうとしたら壊れちまって」

「お前の力加減が原因だ!」

 カティが使おうとした直前に壊してしまったらしい。どこかが外れたとかではなく、プラスチックの骨組みが折れているので修理は不可能だろう。仕方ないので、陽歌は猫をひたすら回収し続ける。

「お、前より猫に嫌がられない?」

 そこで気づいたのは、以前ほど猫に避けられないという点である。喫茶店に引き取られる前は、人なれした野良猫でも嫌がって近づいてこなかったのだ。

「そりゃあれだろ。前の義手がモーターとかの音させててそれで気づいたとか……」

 七耶は前まで使っていた義手が原因ではないかと考える。今の球体関節人形みたいな義手は何で動いているのか、駆動音も排熱も無い。

「って、なんでお前がやると逃げないんだ?」

 そこで彼女は、陽歌が連れていくと猫が逃げる確率が大幅に下がっていることに気づいた。これには秘密がある。

「あ、そうですね。猫同士にも相性があって、こいつとは一緒にいたいとか逆にこいつは嫌だとかあるみたいなんですよ。だから一番多くの猫と相性のいいこのキジトラを軸にして入れていけば……」

「んな短時間で猫の相性見抜いたのか……?」

 さすがに完璧ではないのか、やはり逃げる時は逃げる。動物好きと危険を回避する為の観察力がシナジーした結果ともいえるが、脅威の能力であった。

「次は黒猫の男の子、その次は三毛のおばあちゃんか……」

「おま……黒猫とか6匹くらいいるんだが?」

 七耶には全て似た様な猫にしか見えていなかったが、陽歌には全員違う猫に見えている。一見すると素晴らしい能力に見えるが、人間を信用出来ず、動物に本来与えられるべき温もりを求めた末路でもある。いずれにせよ、正常な精神でないのは確かだ。

「でも困ったなぁ……あの子、どの猫とも仲悪いみたい……」

 しかし陽歌にも困りごとがあった。周囲から孤立している猫がいるのだ。その猫は黒猫で、瞳は金、尻尾の先端が白色であった。これは七耶にも見分けが付いた。

「あの子は違う場所へ連れていきましょうか」

 アステリアの提案で、その猫だけ他の猫を分けることになった。

 これが、一つの運命の出会いであるとは誰もこの時は気づかなかった。

 




 GBN猫の日キャンペーン
・ログインしたダイバーにランダムで『さくら猫耳』配布。
・限定ミッション『レッツ猫バンバン!2020』配信。ミッショントリガーがドロップすることも。初回クリア時に『猫尻尾引き換え券』を獲得可能。
・ねこですよろしくおねがいします。
・『ベアッガイ用猫耳パーツ』、『プチッガイ用キャットコスパーツ』など猫関連のアイテムデータドロップ率上昇。
・ねこはいます
・隠しエリア『井戸のある小屋』出現。ここを覗くと……
・猫関連アクセサリー取り扱いショップ開店。猫尻尾引き換え券使用可能。
・ねこでした。

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