騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
13日の金曜日、それはキリスト教圏で不吉とされている日付である。イエスを裏切ったのが13人目の弟子だったからだとか、処刑されたのが金曜日だからだとか諸説あるが、多くの人があの人物を思い浮かべるだろう。
そう、ホッケーマスクの巨漢、ジェイソン・ボーヒーズである! もうとっくに死んでいる彼には新型肺炎など通用しない。しかし、肝心の獲物が拠点であるクリスタルレイクに来ないので遠征して獲物を探しに来たのである。
やってきたのは日本の倉庫らしき場所。最近、同業のピエロがこの国で散々な目に遭ったと聞き、腕試しにやってきたというわけだ。
(やはり他人の恐怖に依存している様なのはいかんな。自分の能力で殺すストロングスタイルでなければ)
悪夢を利用する同業とも戦ったが、ああいう他人に依存した能力は不死性が高くても信頼性が低い。自前の能力こそ至高なのだ。
(いいですかジェイソン。他人を利用して強くなるのは楽ですが逆手に取られて負けることが往々にしてあるのです。真の強さとは自分自身の揺るぎない技量なのです)
(分かったよママ!)
奇形をコンプレックスにしていたジェイソンであったが、そんな自分を母であるパメラは愛してくれた。今も母の言葉が彼を強くする。そう、長きに渡って愛されるスラッシャーの実力は的確なコーチングと彼のたゆまぬ努力で培われているのである。
問題の倉庫は、ラーメンマンみたいな男の顔が印刷された旗が靡いていた。
「マーケットプレイスの奴らめ……。俺たちがテレワークしてる間に倉庫乗っ取ってクソみてぇな旗立てやがって……!」
「群馬にある本条さんとこはクリスマスに取り返したらしいですが……、我々だけではあの数に太刀打ち出来ませんね……」
倉庫の持ち主たちが歯を食いしばっていると、ジェイソンはその横を通り過ぎていく。
「おいあんた! そっちはカルト集団の根城だぞ! 危ないぞ!」
持ち主に呼び止められても、ジェイソンは聞く耳を持たない。カルト集団が怖くて殺人鬼なんてできない。この数に頼って安穏とした人々の住処こそ、地獄に変えるに相応しい。さあ、進出気没の恐怖を馳走しよう。
ジェイソンが真っ先に『飛んだ』のは、一番偉い人がいそうな部屋だった。テレワーク中という僅かな時間で何をどうやったのか、事務所がキングサイズのベッドを備えた寝室になっている。女を囲うには丁度良さそうだ。
(なーんでいつもこういう感じに出くわしちゃうかな……)
そんな彼の感想通り、ここのリーダーと思わしき中年男性が一人の麗しい少女といちゃいちゃしていた。
「ねぇ……早くシャワー浴びてきて……私、待ちきれない……」
「ふへへ……このままでいいよね?」
少女は元々事務所だったせいか少し暗い照明の下でも輝かんばかりの素肌をバスタオル一枚で隠すのみという、いつでも抱かれる準備が出来ている状態だった。
(いや、死因が死因だけに仕方ないか……)
ジェイソンは自分が風紀委員長と呼ばれていることを思い出して諦めた。入浴を済ませた後なのか、髪を纏めていたタオルを取ると背中まで伸ばした銀髪が甘い香りを放ってふんわり靡く。薄手のタオルしか巻いてないからなのか、幼い顔立ちに似合わない成熟した肢体がよくわかる。
赤い瞳は上目遣いで媚びる様に男を見ていた。が、ジェイソンの接近に気づいたのか漂わせていた色香は消え去る。
悲鳴をあげられる、とジェイソンは思ったが、少女の姿は一瞬でかき消えた。それは数々の殺人鬼と繋がりのある彼でも驚く様な事態だった。
「あれ?」
が、ここで仕留め損なうわけにはいかない。ジェイソンはすぐに冷静さを取り戻し、酒を飲む為に用意されていたアイスピックを手に取ると男に襲い掛かる。
「カラスちゃん? どこに……うわああああ!」
辺りを見渡した男はジェイソンを見つけ、悲鳴を上げた。彼は力任せにアイスピックを何度も力任せに突き立て、男を殺害する。
そして、ジェイソンはいく。次の獲物を求めて。
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(なぜジェイソンがここに?)
姿を消した銀髪の少女、カラスはその場から動いていなかった。彼女は退魔協会のS級退魔師である。なのでジェイソンの様な存在を相手にするのが仕事なのだが、今回は目立つわけにはいかなかった。
今、彼女は呪術師ではないかと噂のマーケットプレイス首領、張角のことを調べるため患部の愛人となることで潜入していた。長い期間を掛けた計画だったが、コネクションを瞬殺されてまさかのミッションフェイルド。あそこで防衛に回っても人間でないことがバレてアウトだろう。
真祖級の吸血鬼と高位のサキュバスのハーフであるカラスなら、ジェイソンを撃破することは不可能ではないが、その過程で能力を明かしてしまう可能性がある。下手に動かず、この厄災が過ぎるのを待つしかない。
「まずい……」
肌に付着した男の血を指で拭って舐めるカラス。しかし、高血圧のドロドロ血は脂っぽくて美味しくなく、魔力も少なくてぼそぼそしていた。
@
「お前……ここで決着をつけてやる!」
「へん! 治安局の犬め! 私とレオを止められると思うな!」
ジェイソンが倉庫に移動すると、一大決戦が始まっていた。青の差し色がある白い機械のライオンが吼え、藍色のトリケラトプスがそれを睨む。ライオンの方は緑の眼球が見えているが、トリケラトプスの目は赤いバイザーに覆われている。
(拝啓、ママへ。僕はどうやらアイアンスカイの世界に紛れ込んだ様です……)
これにはジェイソンも茫然としていた。彼にはこの機械生命体がゾイドであることを知る由はない。
ライオン種のゾイド、ワイルドライガーに乗るのは緑のロングヘアの少女。ユニオンリバー所属の四聖騎士、青龍姉妹末妹のヴァネッサ。ワイルドライガーのレオは自分よりも大きな相手に勇ましく吠えていた。
「第一なんで治安局が転売屋を庇ってんだ! こいつら治安の敵だろ!」
「何を言っている。彼らマーケットプレイスは経済を回してくれる存在だ。それを無法に襲っているお前達こそ、治安の敵だ!」
(いや何言ってんの)
トリケラトプス種のゾイド、トリケラドゴスに乗る男の言葉にジェイソンは首を傾げる。事情があるとはいえ小卒未満の彼にさえ疑問を持たれる論理とは一体。
「この治安局のエース、宇都宮無双が貴様らの暴虐を捌く!」
(変な名前ー!)
生粋のアメリカ人のジェイソンから日本人の名前として不適当と言われてしまう始末。宇都宮無双。身の程知らず形DQNネームだ。
(自分で殺人鬼の名前のイメージ付けちゃったけど普通の名前でよかった……ママに感謝)
一方ジェイソンは今でこそ彼のイメージだが普通の名前である。日本でいえばイチローみたいなものだ。
「さぁ、見せてやる! 強制解放、デスブラスト!」
無双が高らかに叫ぶと、トリケラの角と襟が伸びる。そう、シャキーンと。
(おお! かっこいい!)
ジェイソンは結構少年じみた部分があるらしく、このギミックに目を輝かせる。だが、ヴァネッサは茫然とそれを見ているだけだった。なんせこの手の攻撃は、相手に接近する前に発動するものではない。離れた距離から使っているため、間合いがモロバレだ。のっしのしと歩くトリケラドゴスに対し、ヴァネッサのワイルドライガーは弧を描く様な動きで距離を取り、横から一気に接近する。
「燃えろライガー! 私の魂と共に! 本能解放! キングオブクロー!」
ヴァネッサとワイルドライガーの左目に緑の炎が灯り、ライガーの背中の剣が突撃と同時に展開する。ライガーのスピードも相まって、その剣はすれ違うだけでトリケラドゴスの厚い装甲を切断する。
「な……クソ! これがライオン種の力なのか!」
凄いなぁとジェイソンは思いながら、戦いに巻き込まれて近くで倒れていた黄色い布の人物からスマホを奪う。コールドスリープで未来に行った経験があるだけに、この手のデバイスに疎いということはない。
(へぇ、ゾイドっていうんだ。プラモデルもあって簡単に組み立てられるみたいだし、買って帰るか……)
ジェイソンの興味は惨劇を引き起こすことよりも、かっこいいメカに移っていた。彼も凶悪な殺人鬼である前に、理不尽に少年時代を奪われた子供である。こうして令和最初の13日の金曜日は、キルスコア1で終わりを迎えた。
機体解説
レオ(ワイルドライガー)
ヴァネッサの乗機。希少な地球産ライオン種ゾイドの中でも伝説級の珍しさを持つ逸品で、彼女以外のライダーを乗せないほど気難しい。本能解放も当然可能で、シンプルながら確実な攻撃力を持つキングオブクローは相手を切断する。
トリケラドゴス治安局仕様
企業連に属する重工企業、スロウンズインダストリアルで運用されているトリケラドゴスの改造機。ゾイドの意思を封じるゾイドオペレートバイザーと拘束キャップを使うことで、誰でも乗ることが出来る他、本来はゾイドとライダーの絆が必要な本能解放を無理矢理使う強制解放、デスブラストが可能。本能解放は能力の底上げが行われるが、強制解放では武器の解放のみが行われる上にゾイドへの負担が大きい。
治安局で積極的に運用されているスティレイザーに比べると電源としての機能が無いなど不便な部分もあるが、僅かにスピードとスタミナで上回る。