騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 キャンペーンが始まる。新商品を手に入れるだけでは終わらない、新たな多々買いの火蓋が切って落とされた。
 行くぞ消費者、財布の貯蔵は十分か?


俺たちの多々買いはこれからだ!

 新型肺炎により次々と閉鎖されるアミューズメント施設、控えられる外出、中止や延期が相次ぐイベント……。先行きの見えない不安が、人々を貯蓄へ駆り立てた。

世はまさに、世界コロナ恐慌!

 

   @

 

「ううーむ……」

 喫茶店ユニオンリバーの店内でスマホを使い、株価を見ながら陽歌は唸る。株価は全体的に下がり気味で、この状況なら上がりそうな医療品メーカーも供給不安定から下がっている始末。

「このまま不景気が続くと、肺炎騒ぎが終息するまで持たない会社が出るかも……。特にイベント関連。それに、自宅待機応援にいろんな所が只でコンテンツ配信してるけど、それに慣れきってお金を払う習慣が無くなると……」

 現在、ユニオンリバーは営業を自粛、などしていない。元々万人が列を成すタイプの店ではないので、全く客足は変わることがない。

『現在、休校中ということもありこれを期にペットを飼う人が増えて……』

 テレビではこの状況で意外な繁盛というテーマでペットショップを特集していた。アステリア達が保護した野良猫の里親が大体決まったものの、現在も一部、特に人に懐かないダニエルなどは店に残っている状態を考えると軽い気持ちで生き物を飼ってほしくない陽歌であった。

(この子達、休校が終わったら捨てられるんだろうな……)

 そんな暗い考えばかりが浮かんでしまう。ペット感覚で子供を産み、おもちゃ感覚でペットを飼う、恐ろしい世の中である。

「おーい、陽歌くん」

「あ、エヴァリー」

 考え事をしていた陽歌に、緑色の髪を二ヶ所でひっつめた少女がのんびり話しかける。その手には、どっさりとニンテンドースイッチの本体が収まっていた。しかも箱から出ていない新品だ。

 彼女はエヴァリー・クルセイド・コバルトドラグーン。四聖騎士、青龍姉妹長女にして総括である。が、そんな立場にしては全く威厳を感じさせない。

「品薄のスイッチを一体どこからそんな……」

「いやー、今度どうぶつの森出るでしょ?今回は本体一個につきひとつの島だから、みんな自分の島持ちたいとなると人数分の本体が必要でしてね。こないだヴァネッサが倒したマケプレの倉庫からかっぱらってきましたよ」

 室内で遊べるものを、ということもありゲーム機は品薄が続いている。それも材料が中国製ということもあり、増産が難しい状態だ。

「あー、そういえば今回そんな仕様だったね……、過去は知らないけど」

 最新作、『あつまれどうぶつの森』はスイッチのセーブデータ管理システムの都合、本体一つにつき島が一つ、つまり複数ソフトを持っていても島を複数持てるわけではない。これはスイッチがソフトではなく本体にセーブデータを記録するからである。

 陽歌もゲームには詳しくないが、いっせいトライアルで『ファイヤーエムブレム無双』をプレイした時に知ったことだ。ダウンロードしたソフトのセーブデータが本体に残り、無料で遊べるトライアル期間が終わってソフト自体を消してもセーブデータが残っていれば後からダウンロードし直したり物体カートリッジで購入しても続きが遊べるという仕組みだ。

「それより近くでマナ達がイベントしてるから見にいきましょう」

「あれ?中止とかしないんだ」

 エヴァが陽歌をイベントに誘う。彼は中止にも延期にもなっていないことが意外だった。

「イベントが無くなると贔屓にしているイベント会社の経営が危ういですからね。頼む側も信頼出来て勝手知ったる相手の方が何かと気楽ですし、残ってて欲しいんですよ。それに、イベントでは譲渡会もやりますよ」

「保健所にいる子達は一刻を争うからね、それは大事」

 それは今後のことを考えての行動でもあった。当然、感染症対策は行うものである。同時に、そのイベントでは保護されたペットを譲る譲渡会が行われている。

「んじゃ、残ってる子達も連れていますか」

 二人はイベントに行く準備をする。まだ喫茶店に残っている猫達を居心地のいい箱に入れ、連れていく。ダニエルだけは専用の篭を使う。

「モルジアーナ、頼むよ」

 一緒に準備を手伝っていたのは、赤いSDガンダム。ハイムロボティクス製のトイボットであり、ヴァルキランダーをモチーフにしている。さすがにガンドラゴンモードや竜合身形態ではいろいろ邪魔なので最低限の装備である。

「さて、移動手段は……カイオン!」

 そして会場へ向かう方法である。陽歌はあるゾイドを呼び寄せる。灰色かかった装甲の、武装を持たないライオン種の地球産ゾイドであった。

 瞳は銀色で、辺りの匂いを嗅ぐ様に動いている。

「それでは会場へレッツらゴー」

 エヴァとモルジアーナは猫を連れて背中の座席に乗り、陽歌が首元の操縦席に座る。バイクの様な操縦席の脇に付けられたハンドルを握ると、ライオン種ゾイド、カイオンの瞳が陽歌と同じ桜色と空色のオッドアイにうっすら変化した。

「視界リンク完了。行こう、カイオン!」

 カイオンは一気に駆け出した。さっきまでのゆっくりした動きが嘘みたいである。

「大分メモリーバンクの修復が進んでるねー」

 エヴァはカイオンの調子を見て呟く。このゾイドは大秘宝を狙って活動するヴァネッサが入手したもので、埋まっていた状態や復元の手際が悪かったのか装甲も不完全で脳にあたるメモリーバンクやゾイドコアなど所々不調が見られる。

 それでも精神感応の強い地球のゾイドはライダーと行動を共にすれば回復することがあるのだとか。

 地球では今も多くのゾイドが発掘されることがあり、ある者は兵器として、ある者はコレクションとして珍しいゾイドを狙っている。希少価値が低かったり戦力として弱かったり、状態の悪いゾイドなどはいい加減な発掘や復元をされて損傷してしまうことも少なくない。

 カイオンもそんなゾイドの一体であり、完全復旧目指して陽歌とトレーニングに励んでいる。

「でも骨格はガタがきてるみたい」

「ヴァネッサが猫科ゾイドの骨を発掘するのを待ちますかね。他のゾイドから奪うのも可愛そうなので、ちょうどよく余ってるのを」

 ただ状態が悪いのでトレーニングをしていても不調が目立つ。

「やっぱどこも閉まってますね……」

 道行くアミューズメント施設が軒並み閉鎖されているところを見て、陽歌は状況の深刻さを悟る。ゾイドは一応、車道を走ることが出来る。

「お給料なら心配いりませんよ。GBNやハイムロボティクスはともかく、天導寺重工はちょっとやそっとでは傾きませんから」

「あ、それは特に考えてないよ……」

 エヴァは先ほどから陽歌が景気の心配をしているので、給料について告げる。彼は義手のモニターとして、自身の義手を製作している天導寺重工から報酬を得ている。加えてGBN、ガンプラバトルネクサスオンラインの仮想現実における精神医療のテスター、ハイムロボティクスが開発するトイボットのセラピー効果のテスターも勤めるため、結構な給料が毎月入ってくる。

 お小遣いを飛び越えて通帳で給料が入ってきた彼はリアルに腰を抜かした。そしてそれを見たエヴァは大笑い。大体彼女がその手の話を付けて来るので黒幕とも言える。人にサプライズを仕掛けて反応を見る趣味があるらしいエヴァだが、基本プラスのことしかしないので善良ではある。

 単純に様々な娯楽を趣味とするエヴァにとって、同じ趣味を共有出来る人間を増やしたい欲望もあるのだろうが。

「うーん、だけど欲しいものがあってもいざお店に行って値段見ると尻込みしちゃう……」

「そうなんです? 私値札見ないなー」

「石油王かな?」

 自分で自由に使えるお金というものに慣れていない陽歌は、どうしても値段を見ると退いてしまうところがあった。一方、結構な頻度で世界を救っておりお金に困らないエヴァはそんなもの気にしない。

「それに子供の頃からこんな贅沢していいのかな……」

「逆に抑圧していると大人になってからが大変ですよ。親にゲームを禁止された結果大人になってから遊びきれないほどゲームを買うなんて人も……」

「程度問題って難しい……」

 こういうのは個人差が大きいのでどうするのがいいというのは一概に言えない。特に陽歌は普通とは言い難い環境で育っている。

「あ、パチンコ屋は普通にやってるんだ……」

 ゲームセンターが営業を自粛する中、普通に営業しているパチンコ屋に陽歌は何ともいえない気分になった。この業界はかつての震災でも節電に協力しなかったという話もある。カジノ設立に反対している議員もギャンブル依存症を理由にしながらパチンコには言及しない有り様だ。

「そのパチンコ屋の隣の空き地がイベント会場ですよー」

「はーい」

 カイオンを操縦し、陽歌はイベント会場に入る。譲渡会のテントへ向かい、猫達を先に下ろした。

「これも立ててと……」

 陽歌はフラッシュ撮影禁止の看板を立てる。動物の目は光に敏感で、フラッシュを焚かれると失明の恐れすらある。譲渡会に来る程度に動物想いな人なら常識として知っているだろうが、一応。

 会場では感染症対策なのか、あちこちにアルコール消毒が置かれ、マスクが配布されていた。転売ギルド、マーケットプレイスから奪還したものを市民に戻しつつある。

「ほら、ステージでマナとサリアがなんかやってますよ」

「なんかって……」

 エヴァに誘われ、人が集まるステージを見に行く。一応その二人をプロデュースしてあるのはエヴァなのだが、どこかいい加減だ。

「うわっ、人沢山いる……!」

 思ったよりお客さんが来ていたので、陽歌は咄嗟にエヴァの後ろへ隠れる。

「みんなー、こんにちわー!」

 ステージで元気よく挨拶するのは、緑色の髪を伸ばした褐色肌の少女。若干11歳には見えないほどの完成されたボディに目映い笑顔のパーフェクトなアイドルであった。彼女はサリュー・アーリントン。サリアと呼ばれている。アイドルなのは知っているが、こうして実際に舞台を見る機会は少ない。

「今日はみんなにおうちで遊べるアイテムとお得な情報を持ってきたよー!」

 赤い髪をツインテールにした十代前半ほどの、グラマラスなメガネの少女が隣にいた。サリアの相方であるマナは、マネージャーが魔法で本物にしたライダーベルトで変身出来る。

「まずは大人気、ポケモンカードゲームから最新拡張パック『反逆ボルテージ』から、キャンペーンだよー!」

「あのポケモン総選挙でもガラル二位を飾ったストリンダーのカードを狙える他、パックの隅っこにあるエキスパンションマークを集めてストリンダーグッズを手に入れよう!」

プロモーション用の大きなストリンダーのカードを見せながら、マナとサリアは説明する。

「応募用紙は公式サイトからダウンロード!」

「さらに、これを機にポケモンカードを始めるなら、27日発売のリザードンとオーロンゲの構築済みデッキも注目!」

 この様子を見て、エヴァがポツリと呟く。

「でもカードゲームって対戦相手の確保が一番難関ですよねぇ」

「それは言わないお約束。本来トレーディングカードはコレクションアイテムでゲームが付いた方が歴史浅いから……」

 対戦ホビー全般の弱点を突かれてはどうしようもない。ただ、一人で集めて眺める楽しみもある。

「そしてバンダイのプラモデルからは30Minute missions! 20日からマーキングシールゲットキャンペーン開始! 本体を購入するとオリジナルマーキングシールがもらえる!」

「今までありそうでなかった地球軍、バイロン軍のマージンもあるから嬉しいね! 量産機だからいくつあっても困らない!」

 そしてバンダイのプラモデルからは新機体も参戦で人気沸騰の30MMからマーキングシールのキャンペーン。ピンセットで貼るだけお手軽のアイテムが本体購入で貰える。ガンプラでもやっていた好評のキャンペーンがここで登場だ。

「タカラトミーからは、ゾイドワイルドの公式武器ゲットキャンペーン!なんと2ヶ月連続で、オリジナルカラーの武器が貰えちゃう!」

「もの自体は市販のアイテムだけどシルバーチタンの色合いがクールだし、どれも沢山欲しいよね」

一方他メーカーも負けない。タカラトミーからはまず、ゾイドワイルドの公式改造武器ゲットキャンペーン。

「まずは3月28日、オメガレックスの発売日に第一弾。三千円以上ゾイドを購入すると、三種類の中から一つ貰えちゃう!」

 量販店ではものによっては中型でも下回るものがあるが、二年目以降の中型ゾイド以上なら殆んど一体で条件を達成出来る。貰える武装はボーンブレイド、グラインダーカッター、パンツァーファウストのうち一つ。

 マナが手にしているのは小さな武器だがそれぞれ二つずつ付いており、小型ゾイドの改造にも重宝しそうだ。

「同梱の引換チケットは大事にとっておこう! 4月25日、ソニックバードの発売と同時に第二弾! これまた三千円以上ゾイドを買うと武器をプレゼント! さらに三月の引換チケットがあると、もう一個武器をプレゼント!」

 サリアが持っているのは四月の景品と、二ヶ月連続の景品。四月はアークナイフ、オートソー、スクエアシールドの三種類の内一つ。そして引換チケットで貰えるのはメガランス、ウイングカッター、アタッチメントフレームのうち一つ。

 全部揃えようとするとかなりの額になる上、通販や店の裁量次第ではランダムになるので欲しいゾイドを買うチャンスくらいに考えよう。

「六千円使ってアタッチメントフレームだとガックリ来ません?」

エヴァがキャンペーンの闇に突っ込んで行きそうだったので、陽歌がフォローする。

「ほ、ほら初期ゾイドって接続ピン少ない上に奥まっていたりするから意外と便利かも……」

 ファングタイガーやハンターウルフは曲面装甲の奥にピンがあるので、延長出来るアイテムは嬉しい。そうでなくても接続の少ない無印勢には必須アイテムだ。

 まだタカラトミーは隠し球を残している。なんと、シリーズ最長を記録したベイブレードバーストの新作が3月28日にスタートするのだ。

「そしてオメガレックスの発売と同時にベイブレードバースト、新シリーズ、超王レイヤー登場! このシリーズのベイを二千円以上買うと、ドライバーが貰える!」

 ドライバーとはベイブレードの軸先に当たるパーツである。これが貰えるのだ。ちゃんとマナは手に該当のパーツを持っている。

 ただランチャーとセットで買ったとしても定価ならともかく量販店では絶妙に値引きされてベイ一個では届かないかもしれない。スタジアムのセットを買うなら話は別であるが。

「貰えるドライバーはアタックタイプのホールド、スタミナタイプのクロー、ディフェンスタイプのプレス、バランスタイプのゼファーだよ」

 ホールドはヘリオスに付いてくるラバー軸と異なり、プラ軸なので持久力に分がありそこそこ暴れる。制御しやすいドライバーでもある。バランスタイプのゼファーはフラット軸に穴を開けることで暴れつつ摩擦を減らして持久力も確保した優秀なドライバーだが、果たして重量化の進む超王レイヤーとの相性はいかに。ディフェンスタイプのプレスはスタジアム中央に留まる基本的な防御軌道のドライバーで、ラインナップにディフェンスタイプが無いのでこれがついでに貰えるなら有難い。スタミナタイプのクローは四つのピアスが遠心力を産むという触れ込みであるが同時発売のラグナルクに二年目以降環境パーツと呼ばれ続けたリボルブが付いてくるの。ラグナルクを買わないとしてもクローは単体で評価しても性能が……ナオキです。

「さぁ! みんな家で遊ぶ準備は出来てるかーい!」

「おうちグッズを集めるなら今がチャンス!」

 ステージは盛り上がりを見せていた。が、そこにサイレンを鳴らして乱入する存在がいた。紺色に塗装され、バイザーをしたサソリ種の地球産ゾイド、スコーピアの群れだ。機銃を取り付けられ、改造されている。

『そこまでだ!感染症対策の自粛期間にイベントを開催しているとはなんたること!この治安局が取り締まる!』

隊長機らしき紺色のファングタイガーが拡声器でお気持ちを述べる。このタイガーにもバイザーが付いている。

『私は治安局機動部隊隊長、宇都宮無双!今すぐ解散しろ!』

「治安局?」

 陽歌は聞き慣れない組織の名前に首を傾げた。エヴァ達は何度か対峙したことがあるので、その存在を知っている。

「企業連の中心であるスロウンズインダストリアルが設立した私設警察組織ですね。今はオリンピック推進に動いている様です。それで感染症の蔓延を防止しようとイベントにちょっかい掛けてるんですね」

「推進委員会の他にも敵が?」

「まぁ倒したら全部一緒ですよ。経験値の内訳なんて後で見返さないでしょう?」

 新たな敵の出現に戸惑う陽歌であったが、エヴァにとっては十把一絡げ扱いなのであった。

「俺達はマナ&サリアを見に来たんだ!何が治安局だ!感染防止対策とか言って他のアイドルやアーティストのライブ中止にさせながら、そこにお抱えの整形アイドルのライブぶっこみやがって!」

「そーだそーだ!」

「民法全局でじゃんけん大会生放送とか頭イカれてんだろ!」

 ファン達は普段の不満を治安局の隊員にぶちまけた。だが宇都宮は悪びれることなく反論する。

『当然だ!我々は力がある、だから確実に感染症対策を行いながらイベントを行える。だがお前達はそうではないだろう!』

「えぇ~ホントでござるかぁ?」

 エヴァは宇都宮の言動を疑った。彼は下っ端なので思惑等々は当然知らないだろうが、企業連は自粛を呼び掛けつつ自分達は通常営業を続けることで仲間にならない会社を潰す算段があった。自粛に従わないならこうやって武力を送り込めばよし、自前の戦力なので隣のパチンコ屋みたいな名前には牙を剥かないということだ。

「ふざけんな!」

「ZOバイザーみたいな動物虐待アイテム使ってる奴らの言うことが信じられるか!」

「宇都宮に帰れ!」

「餃子でも食ってろ!」

 餃子の様な物がプロ野球選手の投球やかくやと言わんばかりの速度で治安局に飛んでいく。

『うわ!なんだ?餃子?違う、餃子じゃねぇ!なんだこれ!食いもんですらねぇ!』

『隊長!この餃子噛みます!』

『自分は血を吸われました!』

 治安局は阿鼻叫喚の混乱に陥る。宇都宮はキレて発砲許可を出す。

『公務執行妨害の現行犯だ!ゴム弾しか無いのが腹正しいが、痛め付けてやれ!』

 スコーピア部隊が機銃を構える。その時、横からカイオンが現れてスコーピアを蹴っ飛ばしていく。そのまま彼は陽歌の近くにやってきて、付せて低い姿勢になる。

「よし、見せてやりなさい!伝説のライオン種の力を!」

「え?これ戦う流れ?」

 エヴァがノリノリで指示を出すが、陽歌は戸惑った。しかしカイオンがやる気なのでライダーである自分が引き下がる訳にはいかなかった。

「でも武器無いしなぁ……」

 操縦の練習はしてきて、戦闘も他のゾイドで訓練済みだなのだが、武器がついてないカイオンでどう戦えばいいのだろうか。その時、マナがあるものを持ってきた。

「陽歌くーん!シエルさんが武器を本物にしてくれましたー!」

「マナ、もしかしてさっきのキャンペーンの……」

 陽歌がマナの方を見ると、小型ゾイドほどある大きなランスを持っていた。キャンペーンのランスとは別物だ。

「モデリングサポートグッズ、ウェポンユニット08、バトルランスです!」

「そこ販促的にメガランスでは?」

  持ってきたのは、何故か全然違う武器。一応、ジョイントが共通なのでくっつけることは可能そうだ。

「うんしょ……うーん……」

 が、カイオンが屈んでマナが伸びても全く手が届かない。

「どうしよう……」

「どうしましょう……」

 これでは装着出来ない。その時、会場の設営に使われたクレーンが高速で走ってくる。乗っているのはサリアだ。

「これがあるよー」

「でかした!」

 サリアがクレーンでランスを掴み、カイオンの右前足装甲に装着させる。これで準備完了だ。

「よし、視界リンク完了。行こう!」

 とにかく武器を持ったのでこれで戦闘が出来る。

「くそ……なんだこの吸血餃子は……」

 宇都宮は餃子のせいでこの隙に全く行動が出来なかった。ようやくファングタイガーを行動させる。

「いくら伝説のライオン種でもそんなオンボロではぁ!」

 突撃してくるファングタイガー。陽歌は真っすぐ迎え撃つ。ランスの方がリーチは長い。しかしそれに甘んじることなく攻撃に一ひねり加える。ランスの一撃がファングタイガーに迫るが、タイガーはそれを回避する。これは想定通りだった。そのまま懐に飛び込み、爪で攻撃する。大きな武器は相手の注目を集めるので、ミスディレクションに使える。

「無駄だぁ!」

「なっ……」

 だが、ファングタイガーはその爪を防いだ。ゾイドオペレートバイザーを装着されたゾイドは意思を奪われて従順になり、乗り手を選ぶファングタイガーでさえ誰でも乗れる様になる。だが、その反面ゾイド特有の反射などは失われてしまう。しかしどういうことか、このファングタイガーは元来の反応速度を維持している様に見えた。

『ふん、このバイザーはゾイドの優れた視力を拡張した上でライダーが装着したコンタクトレンズやイヤホンに反映させる。ファングタイガーの動体視力ならこの程度、わけはない!』

 陽歌がカイオンの失った視力を、ナノマシン技術の応用で、自身の視力で補っているのと逆に、向こうはゾイドの能力をライダーにフィードバックしていたのだ。これなら確かに計器類やモニターを見る手間が省ける。

「視界を共有? 虎と?」

 陽歌はふと、会場の隣のパチンコ屋を見る。そしてそこへ向かって駆け出した。

「逃げたって無駄だ!」

 それを追うファングタイガー。彼は一体何を思いついたのか。

 

   @

 

 隣のパチンコ屋では、経営の状態を見る為に偉い人が来ていた。

「どうだ? 調子は」

「順調です。みんな遊ぶとこがないのでうちに来ます」

 スーツに着られている様な中年太りのハゲと店の制服を着たハゲがホールで話をしていた。騒がしい場所であるが、慣れているのでちゃんと話せている。ホールはおっさん老人で大盛況だった。

「よし。我々の支持政党も国に経営停止措置をしてもらうことで補助金をせしめる準備を進めている」

 なんと彼らは自分の息が掛かった政治家を送り込んで、みんなが苦しんでいる中自分達だけ税金で難を逃れようとしていた。なんと汚い連中か。

「大量の広告費をテレビに払い、肺炎の感染源をライブハウスなどに徹底して印象操作させている。これで我々は安泰だな」

 そして他者に迷惑を掛けてでも生き残ろうとするこの意地汚さ。おおブッダ! こんな連中に罰が下らないとは神は寝ておられるのですか?

「こっちだ!」

 その時、カイオンが壁をぶち破って突入した。追ってファングタイガーも入ってくる。カイオンは壁を破壊しただけでなく、筐体をなぎ倒した。店内は一気にパニックに陥る。

 普通に天罰が下った瞬間である。

「なんだあれは!」

 カイオンの一挙手一投足が百万単位の被害を出していく。

「こんなとこに逃げ込んだって……制御トリガー解除、マシンブラスト!」

 ファングタイガーは背中の刃物を展開する。だが、宇都宮の様子がおかしくなっていく。

「な、なんだ……目が、耳が!」

 あまりの光量に目が痛くて開けられず、音で脳を直にシェイクされる様な感覚に襲われる。陽歌の狙いはこれだった。ゾイドの優れた感覚とリンクしているということは、動物が嫌がる騒音や光のダメージを人間が受けてしまうのだ。ゾイドなら動物と違ってそこまで極端ではないが、拡張されてしまっているので下手すれば動物のそれ以上のダメージだ。しかも視力に至ってはコンタクトレンズで共有している為、簡単に外せない。

 一方、カイオンは人間の、陽歌の視力を受けているので問題ない。彼には光過敏と音過敏があるが、コクピットのキャノピーとゾイドとの精神感応で緩和されており結構平気だ。

「いっけー!」

 そしてランスの一撃でタイガーのコクピットを粉砕しバトルフィニッシュ。コクピットから投げ出された宇都宮は筐体にぶつかって床に倒れる。

「げふっ!」

 ファングタイガーは行動不能になり、決着が付いた。

「おー、やりますねぇ。臨時報酬も入って夜は焼肉っしょ」

 エヴァは多分パチンコ店のレジから持ってきたのであろうお金を持って飛び跳ねていた。

「返してきなさい」

これには陽歌も待ったを掛けた。とはいえ、店を出る為にどうしても台やらなんやらを倒していく必要はあったが。

「さぁ、今週末も新商品にキャンペーンと忙しいですよ。多々買いはこれからです! 一緒に遊びましょうね」

「……うん」

 陽歌にホビーという救いを与えたのは、七耶でもありエヴァでもある。自分がこんなに心行くまで遊べるなど、彼はかつて思ってなどいなかった。生きるので必死だったのだ。ただ今は、彼女達と遊び続けることが恩返しなのだと信じて。




 キャンペーンまとめ

 3月20日から
 30minutes missions
 本体一個購入につきオリジナルマーキング

 3月28日から
 ゾイドワイルド
 ゾイド三千円以上購入で武器と引き換えチケット
 ベイブレードバースト
 超王シリーズ二千円以上購入でドライバー

 4月25日から
 ゾイドワイルド
 ゾイド三千円以上購入で武器、引き換えチケットと武器の交換

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