騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 ミニ四駆とは、世界最小のモータースポーツである。ステアもブレーキも無い、真っすぐにしか走らないマシンは手放すと運転などできない。己の全てをつぎ込んだマシンを信じて、祈るだけだ。


☆ミニ四駆の日記念! 最小のモータースポーツに挑戦せよ!

 静岡県島田市に存在する『おもちゃのポッポ』。ここはかつて撤退したチェーン店をその社員が引き継いで続けている、今では珍しい専門の玩具店である。

入り口に色褪せた謎ヒーローのマネキンやぐったりした緑のパンダがいるなど近寄りがたさがありつつも懐かしいポスターも貼り出されて好奇心を煽る二律背反の外見が謎の魅力を醸し出していた。

「ん?」

 そこで仕事をする知り合いに忘れ物を届けにきた一人の少年が外に置かれたものに興味を示す。三つのレーンがある枠のコースらしきもので、灰色であった。

少年は大きめの白いパーカーを着込み、フードを目深に被っている。黒いホットパンツから延びるタイツに包まれた脚のラインは幼さ故か柔らかく、暗色で引き締まった分少女の様な印象を受ける。彼はアサルトブーツを鳴らして店の入り口に近づく。

「お、来たのか、陽歌」

 それと同時に、店から一人の女の子が出てくる。小柄な少年よりさらに小さく、何故か巫女装束を纏っている黒髪を伸ばした幼女であった。

「はい、今月のサンプルです」

「ご苦労。……ふむ」

 少年、陽歌を迎え入れた女の子はコースを見て考える。

「七耶?」

 陽歌は七耶が何を考えているのか解らず、サンプルの箱を差し出しながら固まっていた。付き合いがまだ短いのもあるが、基本突拍子もないことを言い出すので彼には予想が出来ない。

「いや、今日ミニ四駆の日だからなんかやろうと思ってな」

「ミニ四駆の日?何の語呂合わせかな……?」

 陽歌はスマホを見て日付を確認する。10月15日を差しており、何がどうミニ四駆なのか解らない。

「いや、この話が掲載される予定が3月24日でな……いやメタな話はいいんだよ」

 第四の壁に関わる話ならそれ以上聞くまいと陽歌は思った。あれは認識するだけで正気を失う代物だ。

「そうだお前、ミニ四駆やってなかったな。作ってみるか?」

 七耶からそんな提案を受けたが、陽歌は首を振って否定する。

「え?ミニ四駆ってあの動く車だよね?無理ムリ、ガンプラならともかくそんな電気配線とか必要そうなもの……」

 というのも彼が並外れた不器用だから、というわけではない。陽歌がオメガレックスの箱を持っている両手は、黒い義手になっていた。五本の指が存在し、球体の関節であるが生身と遜色なく動かせるものとなっているが、触覚が無かったり柔軟性に欠けるため細かい作業は苦手である。

「ミニ四駆はタミヤの社長が歳取ってプラモ作るのが難しくなって、簡単に出来るもんをって作ったシリーズだ。パーツ数ならガンプラより少ないな」

 ガンプラの製作経験があれば不可能ではないと七耶は言う。とはいえ、初めてだと解らないこと尽くしだ。

「とりあえず作るマシンを選ぼうじぇ。こういう時は気に入ったマシンを選ぶのが定石だ」

 店に入ると、二人はミニ四駆コーナーへ向かう。

 沢山積まれたミニ四駆に大量のパーツと、知らない人からすれば目眩がする様な状態だ。陽歌はフードを脱ぐ。顔立ちは言われなければ少年と分からないほど可愛らしく、キャラメル色のボブカットはフードのせいか乱れていた。右目は桜色、左目は空色のヘテロクロミアで宝石の様な輝きをしているが、その瞳には戸惑いの色が浮かぶ。

 陽歌はとりあえず手頃なマシンを手に取り、デザインを見る。

「あれ?モーターの場所が違う……?それに同じ様なマシンでも箱が違うのが……」

 同じ『マグナムセイバー』でもイラストで描かれた箱や写真の箱があったりする。これはどういうことなのか。

「そうだ、ミニ四駆には様々なシャーシが存在する。まずは現行で初心者にも扱い易いシャーシ達を紹介するぞ!」

 七耶は袖から複数のシャーシを取り出して解説を始める。

「まずは20年前から完成された駆動系、スーパーⅠの弱点である強度を克服したスーパーⅡシャーシ! 『爆走兄弟レッツ&ゴー』に登場するマシンの多くがこのシャーシでリメイクされているぞ! 滑らかな駆動を得られるカーボンシャーシが一般ラインナップにあるのがポイントだ!」

 小さく薄いシャーシで、強度が不安になりそうな印象だが以前より改善されているらしい。

「そしてお次はARシャーシ! ボディを外さずにメンテナンス出来る高い整備性に加え、強度も十分!底面は空気抵抗を最小限にする工夫が施されているぞ!」

 反面、こちらはぶ厚く大きなシャーシであった。同じ様な構造に見えて、かなり違いがある。

「こいつはFM-Aシャーシ。現在まともに活躍出来る唯一のフロントモーターシャーシだ。モーターが前にあることで重心が前に行き、立体での安定感が増すぞ!」

 次のシャーシはモーターが前にあるもので、機構は反面していると思われる。

「これにしよう」

 七耶が話している間に、陽歌はマシンを決めていた。白いシャーシに赤いボディが特徴の『デクロス01』だ。シャーシはMAシャーシで、彼女の解説には無かったものである。

「よし、そのシャーシなら作りながら解説しよう。必要な道具はニッパー、ピンセット、そしてドライバーだ。あると便利なのはデザインナイフとペンチだな」

 早速、二人は店にある工作スペースへ入る。箱の中には意外とパーツの少ないランナーと、細かいパーツが分けて入れられた袋が入っていた。

「思ったより部品少ない……」

「説明書通り作るだけならとても簡単だ。だからこそ奥が深い」

 それでは製作開始である。まずは根幹となるシャーシを組んでいく。

「配線が無い……この銅板で電気のやり取りをしてるんだ……」

 陽歌が驚いたのが、配線を使わずターミナルと呼ばれる銅板で回路を構成していることだ。安定性が高く、激しいレースを行うミニ四駆には最適なチョイスであった。しっかり切り替えの行えるターン式スイッチのおかげで誤作動も少なそうだ。

「真ん中にモーターがあるんだ」

 MAシャーシ最大の特徴は前後に飛び出たダブルシャフトモーターと呼ばれる専用のモーターだ。通常のミニ四駆は機体後部で発生するモーターの回転を二枚のギアで後輪に伝え、さらにそこからクラウンギアを介してプロペラシャフトを回し、前輪へ伝える方法で四輪駆動としている。だが、このモーターならクラウンギアやプロペラシャフトを省略してダイレクトに前輪と後輪を回せるため、パーツが減ってメンテナンス性が上がりパワーロスも減る。

「これは便利だなぁ」

 さらにこのシャーシのランナーにはメンテナンスに使う治具も整形されており、モーターにピニオンギアを付ける時に補助してくれるものがある。

「モーターにギアを付ける時はモーターを押さえず、上から真っ直ぐ押し込むんだ。モーターを握ると中が傷んで、性能が落ちるぞ」

 七耶のアドバイスも簡単に実行出来る便利なアイテムである。

「次はシャーシにネジでローラーを付ける……と」

 ミニ四駆はステアリングの無いマシンだが、マシンの四隅に付けたローラーが壁を蹴って曲がることが出来る。だが、ここは少しコツがいる。

「シャーシの穴にはネジが噛み合う溝が無いんだ。だから、最初は説明書通りやらず、ビスだけを回して締めるんだ」

 七耶によると、下準備をした方がいいらしい。この作業をしておくことでシャーシの穴にネジの溝を刻んでおき、その後のパーツ取り付けを容易に出来る。ローラーを挟みながらネジを回すのは大変なので、溝を刻んで簡単に回せる様にした方が楽だ。

「シャーシに対して水平になる様に慎重にな。後ろはともかく、最近のシャーシはフロントバンパーにスラスト角が付いているからな」

「あ、本当だ。でもなんでだろう?」

 陽歌がよく見ると、前のバンパーは斜めの傾斜が付いている。付属する六つのローラーを前に二つ、後ろに四つ取り付け終わると、七耶がその理由を解説する。

「シャーシを、ローラーがタイヤになる様に立ててみろ」

「こう?」

「そうだ。まるで三輪車みたいだろ?」

 確かに、ローラーは三輪車の様な配置になってシャーシを支えていた。が、前のローラーが曲がっているので真っ直ぐ走らない。

「前のローラーが斜めになってるのは、三輪車でいうとコース側に曲がり続ける形になってるよな?それでマシンをコースに押さえつけてコースアウトを防いでいるんだ」

 なんと、よく見ないと解らない傾きでコースアウトを防いでいるというのだ。思ったよりミリ単位の調整が影響しそうだ。

「んで、タイヤをシャフトにセットする。モーターにギア付ける治具があれば簡単だな」

 片側だけタイヤをシャフトに取り付け、それをシャーシに車軸受けやギアと一緒にセットする。そしてもう片方のタイヤも車軸受けを通してから取り付ける。

「シャーシ完成……」

 これにてシャーシは完成。残るはボディだけだ。ボディはかなり簡単で、片手で数えるまでもないパーツを組み合わせてシールを貼るだけ。赤いランナーには大きな部品が形成されている。

「折角だから、デクロスのクロスシステムを試していけ」

「クロスシステム?」

 七耶はあるものを陽歌に差し出す。それは、クリアブラックのボディパーツだった。色が違う以外は箱に入っているものと同じである。

「デクロスにはクロスシステムと呼ばれるボディの交換機能がある。違う色の01ボディや02と組み合わせることで簡単にカラーコーディネートが楽しめるぞ」

 その中から、キャノピーだけをクリアブラックに返ると一気にマシンっぽさが上がる。陽歌は簡単なドレスアップに感嘆するばかりであった。

「おお」

「さらにクリアブラックのボディに付属するステッカーは、透明ステッカーだ」

 付属のシールはホイルシールでキラキラしているが、クリアブラックの方のシールは柄の無い場所が透過して透けるものとなっている。これをボディにピンセットで貼ると、成型色を際立たせたスポーティーな仕上がりになる。

「とても初めて作ったとは思えない……」

 最初に作ったにしては見違える様な完成度に陽歌は胸を弾ませる。

「よーし、早速走らせるぞ!」

 というわけで完成したミニ四駆、デクロス01を走らせることにした。店に設置してあるコースは難易度が高いので、市販レベルの普通なコースで試走だ。

「おー、速い!」

 説明書通り組んだだけなのに、目にも止まらぬスピードでコースを走っていく。素組でも高い駆動効率により十分速いのがMAシャーシの特徴だ。

「おー、おおー」

 普段、自分が作ったものが動くという経験をしていない為か陽歌は走るマシンを見続けていた。それを七耶は微笑ましそうに見守る。彼女の方が年下に見えるが、基本的には面倒を見ている形だ。

「フハハハハ!まずはここか!」

 その時、妙なバカ笑いが聞こえた。二人が振り替えると、外国人らしきスーツの男が立っていた。七耶はその姿に見覚えがあった。

「おお、ミスタービーンじゃないか! サインくれよ」

「違う!」

 コメディ映画のキャラクターでは無かったらしく、ミスタービーンじゃない何かは腕を組み尊大な態度で名乗る。

「私はロスカル・ゴン! 恩知らずな蛮族共を粛清しに舞い戻ったぞ!」

「誰?」

 本名を名乗るも、全く七耶は知らなかった。陽歌が慌てて説明する。

(警察呼んだ方がいいよ。ロスカル・ゴンといえば大企業のCEOだったけど不正が発覚して捕まり、国外逃亡したという……)

「あー、お前楽器ケースに入って逃げた奴か」

 ホビー以外詳しくない七耶にとってはその程度の認識であった。ロスカルは当時を懐かしみ、呟く。

「楽器ケースがあんなに密封されているとは思わなくてな……危うく窒息して死ぬところだったぞ。あと普通に貨物扱いで飛行機に乗ったから空気薄いし寒いしシャレにならんかった……」

「で、その楽器ケースマンがここに何の様だ?」

 思い出話をぶち切りながら七耶が要件を聞く。まさかこんな国外逃亡犯が再入国してまでこんなところに何の用事も無く来るとは思えない。

「これは復讐だよ……」

 ロスカルは高らかに語る。さも自分は巌窟王が如く、品行方正で正義の人間であったのに関わらず、悪意を持った人間に貶められた悲劇の主人公であるかの様に。

「復讐?」

 陽歌はついついマジな雰囲気に飲まれてしまう。

「そうだ……極東のチンケな車屋がどうしてもと泣きつくから経営を建て直してやったというのに、用済みとなればお払い箱! 濡れ衣と汚名まで着せてな! オマケに人権無視の古代司法!私は大いに傷ついた!」

「ん?じゃあ会社の金横領して旅行とかしてなかったのか?」

 七耶はテレビを聞き流したレベルで知っている事件の概要について聞いた。何せ、最近のテレビは訂正が多くてどこまで正しいのかわかったものではない。

「したよ」

「いやしたんかい」

 ロスカルは悪びれることなく自白した。濡れ衣でもなんでもなく真実であった。

「しかしその程度当然であろう?戦勝国が賠償を敗戦国から得るのは当然だ」

(あれ? この人国籍はフランスだけど、フランスって開幕直後日本と同盟組んでたドイツにボコられてなかったっけ?)

 第一次世界大戦の列強もビックリの周回遅れ理論を振りかざしたロスカルに、陽歌は変な疑問が沸いた。コンプレックスって怖いなー戸締まりしとこ。

「化石燃料を飲み、温室効果ガスを吐き出すだけの機械……貴様らが唯一すがる塵の様な誇りを叩き潰す。それが私の復讐だ」

「自分とこの商品スゲーディスるな。1000%社長見習え」

 七耶はロスカルの口振りにドン引きした。仮にもあんたのとこの商品だろうに。

「まずはアジアに蔓延するそのハリボテから血祭りにあげてやる!私の財力を注ぎ込み、試走を重ねて生み出したこのマシンでな!」

 ロスカルはスーツの懐からミニ四駆を取り出した。ホビー物お約束の『とりあえずホビーで決着』である。

「本来は人を雇って作らせたいが私の事情がそれを許さない!まずはここを落として拠点にしてやる!」

「ミニ四駆スゲーとばっちりぢゃん」

 全く関係ないのに喧嘩を売られたミニ四駆およびタミヤを七耶は哀れんだ。それと同時に相手のマシンを観察する。

「なるほど。よし小僧、ぶちのめせ」

「ええ?今日作ったばっかだよ?」

 パーツがごて盛りでいかにも金が掛かっていそうな相手に、まさか初心者が勝てるはずもないと陽歌は思っていた。ロスカルも同じ考えである。

「初心者が相手とはな。私のクーペが相手しよう!」

「ヒュンダイじゃねーか自社の使え」

 ロスカルのマシンは陽歌と同じMAシャーシだが、実車をモチーフにしたボディ。さらに改造も施されていた。

「一体形成されているフロントバンパーやサイドステー、リアステーを切断して薄いカーボンプレートへ置き換えて軽量化を図っている。さらにタイヤはアルミホイールで低重心化、電池の位置も落としてさらに低重心!ついでにシャーシもボディも肉抜きで軽量化!シャフトは中空、ギアは超速、車軸受けは最高精度の620ベアリング、ギアの軸受けもサイドローラーもベアリングにして全て脱脂済み!モーターは最速のプラズマダッシュを厳選して使用!グリスなどではなく、より滑りのよい最高級のオイルを各所に使用している!」

「な、なんか凄くて高そう……!」

 改造の内容を聞くだけで陽歌は負けた気になってしまったが、七耶は冷静にパーツを選別してセッティングに入る。

「小僧、こちらもコースに合わせて調整するぞ」

「え、あ、うん……」

 まずはモーター。オレンジ色でピニオンギアが黒いものを七耶は渡した。

「トルクチューンモーターだ。全体的に重いMAシャーシで大径タイヤを使うなら、パワーの出るこいつは必須だ。モーターを変えるだけでマシンは格段に速くなる。ピニオンギアは滑らかなカーボンだ」

 治具で一回モーターを外し、再度付け直す。しっかり固定と簡単脱着が両立されている構造だ。治具さえ失くさなければ。

「そしてモーターを変えたなら、強度対策もしっかりな。FRPプレートだ」

 そして黒い板の様なものをマシンの前後に取り付ける。ローラーはそのまま取り付けるとプレートで広がった車幅に対応できないので、プレートに空いた穴にビスを使って固定する。

「ビスを下から通すのがポイントだ。フロントからだ。まずビスにスプリングワッシャーを入れる。それを下から通してやるんだ」

 七耶の指示通りに陽歌はパーツを取り付ける。スプリングワッシャーとは、鉄の輪っかみたいなパーツでネジの一周分を切り取った様な形をしている。

「そしたら飛び出したビスにワッシャー、ローラーとローラー用スペーサー、ワッシャー、スペーサーを取り付けてナットで締めるんだ。ローラー用スペーサーにグリスを塗るのを忘れるな」

 ワッシャーは純粋な金属の輪っかのパーツであった。ナットを締める時、ペンチで掴んで締めると効果的だ。

「飛び出したビスの先端にはボールスタビを付ける」

 樹脂で出来たボールをビスへねじ込む。これでマシンが傾いても、支えになってくれる。

「次はリア。ビスにワッシャーとローラー、ローラー用スペーサー、ワッシャーを取り付けて、下から穴へ通す。今度は飛び出たビスにワッシャーとスペーサーを取り付け、ローラーが上に来る様に調整するんだ。三輪車の後輪二つの幅が広いと安定するのと同じ理屈だ」

 これでローラーセッティングは完了。この三輪車配置がローラーの基本となる。かつてのレギュレーションではローラーの数が六つに定められていたので、それを最大限有効に活かす配置として開発された。

「MAシャーシはARシャーシの様に、専用のブレーキパーツを取り付けられるぞ。まずはARシャーシブレーキセットだ。こいつはプレートやビスとかで組んでたリアブレーキを一個で完結させる便利アイテムだ」

 七耶から渡されたパーツを取り付けると、樹脂のパーツがピッタリ噛み合って簡単にブレーキを取り付けることが出来た。ミニ四駆のブレーキはマシン後部に取り付けた板にスポンジを貼り付けるものだ。これが上り坂に差し掛かった時、マシン前方が持ち上がることで路面に接触してスピードを抑える。

「んで、これが前ブレーキ。リアブレーキの性能を上げてくれるぞ」

 フロントアンダーガードと呼ばれるパーツを取り付けることで、さらにその能力は確かになる。

「ま、こんなところか。とりあえずモーターのパワーを上げたらフロントバンパーとリアステーの取り付けを忘れるな。スピードが上がるということはコースとの接触の衝撃も増すから、マシンの剛性を高める改造は必須だ」

 基本的な改造を終え、遂にレースの幕が開く。コースに電源を入れ、タイヤの回るマシンを差し出す。レースはシグナルと共にマシンを手放してスタートさせる。

(うわぁ……凄い強そうな音だなぁ……)

 ロスカルのヒュンダイから響く音に委縮する陽歌。一方、彼のデクロスは静かそのものだ。

「いくぞお前ら……スタート!」

 七耶の合図で一斉にスタートする。が、なんとロスカルはマシンを手で押してスタートさせた。手押しスタートはルール違反だ。

「おいエセビーン! やり直しだ! 手押しスタートはダメだぞ!」

「どうせ負けるのだ。誤差だ誤差」

 フライングしても急には止まれないのがミニ四駆。レースはロスカルの開き直りと共に進んでおり、彼のヒュンダイがリードする。

「あ」

 が、少し進んだ段階でヒュンダイは激しくコースアウトする。そして、地面に落ちると共に粉々に大破した。

「な……なぜ……」

「ミニ四駆ってコースアウトするとああなるんだ……」

 陽歌は肝を冷やしつつ、無事ゴールしたデクロスをキャッチする。マシンは結構早いので素手で掴むと痛い。なのでキャッチャーなどもあるが彼には必要なさそうだ。

「いや、お前のマシンはああならんぞ。あれはこいつのマシンが軽量化し過ぎた結果だ」

 膝をついて唖然とするロスカルに、七耶は大破の原因を語る。

「お前のヒュンダイは剛性の高いMAシャーシだ。だが、そのフロントなどを大雑把に切ったせいで本来の剛性が失われたんだ。それに、試走したと言ったな。中空プロペラシャフトは軽い分変形しやすいから本番でのみ装着するのが基本だ。それに、付けてるタイヤがアルミホイールじゃな。あれは重いからシャフトへの負担が大きいんだ。それに、お前が付けていた最高級の620ベアリングはそのサイズからしっかり固定するにはホイール貫通が必要な代物だ。貫通出来ないアルミホイールではしっかり装着出来ない。さらにベアリング系は重たいから、着地の衝撃でシャーシに与えるダメージが大きくなるんだ。下手に換装するくらいならキット付属のプラベアリングでよかったな。脱脂してオイルを潤滑に使ったとも言ったが、オイルは換装しやすいからこまめに差してやる必要がある。それを怠ったんだろうな。駆動音が凄かったぞ」

 あの音はダメなやつだったんだ、と陽歌は理解する。彼のデクロスはしっかりグリスアップしてあったので静かだったのだ。

「基本は大事だ。基本なくして応用無し。まずはパーツのボルトオンを習得してから加工に挑むべきだったな」

 こうして、新たなレーサーがミニ四駆の世界に降り立った。浅野陽歌とその愛車デクロス01が刻む道の先には、何が待っているのだろうか。




 マシン解説

 デクロス01
 MAシャーシのマシン。陽歌のマシンで、基本に忠実なカスタムが施されている。追加したパーツはトルクチューンモーター、フロントアンダーガード、フロントバンパー、リアステー、ARシャーシブレーキセット。ボディはキャノピーをクリアブラックに、ステッカーをクリア版にしてある。
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