騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 現在、大海菊子率いるオリンピック推進委員会がオリンピック開催に向け過激な活動を行っている。日本政府はこれに警察や自衛隊を向かわせ対抗、木葉胡桃らを筆頭とする秋葉原自警団など自衛組織も立ち向かっている。
 IOC、および日本政府としてはオリンピックは延期の方針であるが、それを都知事は認めない様子だ。


金湧という忌み地

 一月二十六日、月で最も重視されるその作業は行われた。地球最後の秘境とも呼ばれる海底、その中でも最大の深度を誇るマリアナ海溝の底に、さなともう一人のユニオンリバーメンバーが集められた。

 銀髪に兎も耳を生やした少女、かぐやはさなに寄り添いながら落ち着きのない様子でうさうさしていた。身長も年齢もかぐやの方が上だが、人見知りなので他の見覚え無い面子を警戒している。

「うう、なんで私が……」

「世界を何度も救ったら多少はね?」

 二人、というよりここにいる全員が海底だというのに普段着で何の装備もなく立っている。これが月の住民に与えられたナノマシンの環境適応能力だ。

月の政府には機密情報にアクセスできるクリアランスレベルが職員の役職に応じて設定されているが、今回の作業に携わるのはそれとは別の特殊クリアランス、『十五夜』を持つ十五人のメンバーである。今海底にいるのは、そのごく一部となっている。

 マリアナ海溝の底に配置されているのは、かつて月の文明を壊滅まで追いやったとされる伝説の魔獣、『ジャバウォック』。その封印は千年持つとされるが、絶対に解かれてはいけないため五百年周期で新たな封印の結界を古い結界の上から張り直す。これで、もし月が壊滅しても千五百年は封印が保たれるという算段だ。

 封印の神殿に入るにもかなりの労力を有する。月の表と裏に最高クリアランスレベルの権限を持った人間が三人いないと入れない神殿が一つずつあり、そこに『十五夜』が二人いないと封印の神殿は姿すら見えない。

 同じものが地球のどこかに二つあり、そこにも『十五夜』を二人ずつ配置。月と地球、四か所の神殿に最高クリアランス権限者が計十二名、『十五夜』が計八名常駐しなければ神殿には入れないのだ。常駐の認定も生体反応で行われる。つまり、悪用目的で封印を解除するのはほぼ不可能に近い。

「あ、出た」

 何もない空間に、神殿が出現する。神殿は普段、次元の断層に押し込まれており人間の技術がいくら発達しても観測できない様になっている。

「行くぞ。新たな結界の設営は私が、警護はさな、かぐやが行ってくれ」

 リーダーらしき男性がメンバーを選ぶ。残された四人が神殿の模様の上に立つと、扉が開いて先に進める様になる。

「そういえば、この人は?」

「え? さなちゃん知らないの?」

 さながリーダーについて聞く。十五夜に選ばれているとはいえ、必要とされるのはこの作業のみなので全員について知らなくても無理はないが、リーダーに関してはかぐやの代なら歴史の教科書に乗っているレベルだ。

「月の人口を0.1%未満まで減らしたジャバウォック事件の英雄で、事件初期から最前線で魔獣ジャバウォックと戦い続けた伝説の……」

「指導要領が変わったからな、無理もない」

 かぐやの解説に、リーダーが口を挟む。

「それに、教訓も残しようがない理不尽な事件だ。なるべく知られない方が、悪用の危険は減る。本来なら私の代で始末を付けて後世になど残したくなかったが、封印するのでやっとの相手だ」

 当事者にまでこう言わせるほどの相手とは、魔獣ジャバウォック恐るべし。ただかぐやは気になることがあった。

「あの! ジャバウォック事件って何千年も昔のことですよね? 私達のナノマシンもベースになった狼型から個人の適正に合わせて動物が変化する様になったり、ベースから引き継いだアルファやオメガなどの性質もぱったり無くなったくらい発展してるし、今なら殺し切れる武器もあるのでは?」

 彼女の提言も尤もであった。長くはこの事件からの復旧に時間を費やしたとはいえ、科学力は当時の比ではない。ならば、昔不可能だった『討伐』も可能ではないだろうか。

「そうだな。『当たれば』殺せる武器もあるだろう。だが奴はその次元にいない。あいつは時間を操る」

 その可能性をリーダーは否定した。時間を操る能力を持った魔獣。それはつまり、武器などあったところで意味を成さないということだ。

「殺せる武器が出来たといって、殺す為に封印を解いた瞬間、時間を止められて皆殺しにされる。最悪の場合というか、基本そうなるだろうな。生き残った人間も『たまたま見つけられなかった』とか『殺す気で攻撃したが偶然助かった』というレベルだ」

「そんなとんでもないものが……」

 漫画ではよくある能力だが、それを殺意全開で使えばどうなるかという単純な答えを示した魔獣にかぐやは脅える。さなはその話を聞いて、心配になったことがあった。

「ん? ということは結界の時間を操って消耗させ、脱出したりしない? 結界だけ千年早回ししたり……」

「そうならない様に時間操作を受け付けない結界が作られたんだ。奴を倒す過程で生まれたものだがね。昔はこれを張るのに十年とか掛かったものだが、今では一日もあれば終わる。ま、逆に言えばこの結界だけを巻き戻して新品に戻し、使いまわすなんて芸当も出来な……」

 話している途中、急にリーダーの言葉が途切れる。なんと、リーダーの腹に風穴が開いて、吹き飛んだではないか。

「なにぃ!」

「ええ?」

 さなとかぐやは咄嗟に背中合わせで臨戦態勢を取る。二人の前に、一人の少年が立っているではないか。短い銀髪に、黒い燕尾服の様なジャケット、目は黒の布で覆われており、表情が読めない。

「ちょっと脅かして警告するだけのつもりだったが、その顔を見せられたらこうするしかないよな? まさか、何千年も生きて封印を律儀に守るとはね……」

 壁に激突したリーダーは既に息絶えていた。少年はその亡骸を見て呟くだけだ。

「魔獣……」

「ジャバウォック?」

 その少年は二人にこう告げる。

「月の住人か? なら話は早い。俺を追うな。お前達が追うなら月は今一度、滅ぶと思え」

 そして姿を消す。かぐやは追いかけようとするが、さなに止められる。

「追わないと!」

「待って! 時間停止されていたら絶対に追いつけない!」

「入口の人に危険を……」

「それも無駄。今から向かっても間に合わない。奴がその気なら入り口に残っている人はもう死んでるだろうし、私達も殺されていた」

 さなの言う通り、リーダーがやられた段階で二人もジャバウォックに殺されていても不思議ではない。メッセンジャーとして二人を残したなら、やるべきことがある。

「まずは現状を調べて、確実に本部へ報告しよう。何が起きているのか、確かめないと」

 さなの提案で調査に乗り出した。走って神殿の最奥まで行くと、彼女が立ち止まる。左右を見ており、何かを感知したと思われた。

「まさか……」

「どうしたの?」

 かぐやが聞くと、さなは衝撃の言葉を発する。それは、とても信じられる様なものではなかった。

「結界が自然消滅している……破壊したなら、壊れなかった部分が残るはずなのに、何の痕跡もない!」

 封印を氷の壁だとすると、それを無理矢理壊して通ったなら通行に必要な穴以外の部分は残っているはずだ。それが、自然に溶けて水になり、それすら乾いたかの様に何の残滓も残されていないのだ、つまり結界は、魔獣がこじ開けたのではなく時間の経過で消滅したことになる。

「一体どうなって……」

 地球が騒動に揺れる中、新たな火種が投下されたのであった。

 

   @

 

 陽歌の兄弟、太陽と書いてソーラーと別れたエヴァ、ミリア、そして陽歌は彼の心残りを片付けに向かった。まずは校舎の裏山にある、動物のお墓らしき場所だ。石が目印とし悪戯半分に引っこ抜けない様に埋まっている。

「一年生の頃に、ここに秘密基地を作っていた友達に助けられて、それから懐いてた野良犬と遊んだりしてたんだ。犬は死んじゃったけど……」

「はー、なるほど」

 エヴァは辺りの様子を見る。日本では珍しくない、針葉樹をひたすら植えて放置した暗い森である。高度経済成長期に住宅用の木材を確保しようと植えたが、木が育つ頃には海外から輸入する様になってしまって放置されたのだ。本来は適度に日が入るように間伐してあげないと建築資材に育たない。とはいえ、こんな森でも根っこによる土砂災害防止の効果はまだある。

「ん?」

 よく森を観察しているエヴァは、ゴミが散らばる中で墓の付近の木に釘が刺さっているのに気づく。

(まぁ、いいか……)

 とはいえ、これだけ森にゴミを捨てる人ばかりなら悪戯で木に釘を打つ者がいても不思議ではない。

「秘密基地はこっちだよ」

「秘密基地かぁ、私は学校とか行ってないから憧れるなあ」

 ミリアは二十歳の外見に設定されているが、人造人間なので実年齢は一桁である。当然学校生活の経験も無い。

「あー、やっぱダメか……」

 しかし、秘密基地の荒れ果て具合は見るに堪えないものがあった。この学校の児童がたむろしているのか、漫画雑誌やお菓子のゴミが放置されている。

「いつもは乗っ取られてるから、今なら近づけるだけいいか……」

 友人二人が引っ越してからこの秘密基地は他の児童に占拠されていたが、今の休校状態ならば誰もいないはずなので近づける。そう考えて陽歌はここに来たのだ。ただ、エヴァは不自然さを覚えていた。

(いや……ゴミをポイ捨てする様な層が外出自粛に従いますかね……? だとしたら、なぜ誰もいないんでしょうか?)

 高い五感を鋭く尖らせるエヴァ。微かな気配を校舎に感じたが、まだ確証に至らないので黙っていることにした。

 

綺麗に仕立てられた校舎と異なり、随分と古ぼけた飼育小屋が陽歌の目的地だ。小屋の中は金網で見える様になっており、二か所に区切られていた。が、肝心の動物が一匹もいない。いや、全て何者かに食い散らかされていた。残されているのは血痕と毛皮、羽だけだった。

「これは……」

「酷い……」

 あまりの惨状にミリアは顔を覆う。だが、一番ショックを受けると思われていた陽歌は冷静に小屋の周りを観察していた。

「ここはペットを一次の流行りで飼っては捨てる人が多いから野良猫はともかく野犬も多くて……でも掘り返した穴が無い。かなり手抜き工事だから基礎のアスファルト部分は浅いけど、掘った痕跡すらないなんて……」

 エヴァは何かを感じたのか、黙っている。陽歌は扉を開け、聞かれてもいない説明を続ける。

「最初は押し戸だったけど、それだと野犬などの侵入を許してしまう。だから引き戸に改良したんです、僕が。手前に引かないといけないから、動物に開けることは出来ないはず……」

 飼育小屋の中に入った彼は、血痕に触れる。血はまだ渇いておらず、義手の指に付着する。

「まだ湿ってる……直近の犯行なの?」

 陽歌は意外な事実に戸惑う。平静を装っていた彼の声は震え、手にまでそれは伝わっていく。

「まだこの近くに……足跡は……」

 地面の砂には、大きな靴の足跡が残っていた。血が付いたせいで、余計に目立っている。外にまで続いており、これを辿れば犯人に辿り着きそうだ。

「犯人は人間か。これなら引き戸を抜けられるはずだ。足跡が残ってるからこれで……」

「陽歌くん……」

 陽歌はあくまで冷静に犯人を分析をしていたが、ミリアは彼の中にある『無理』を悟っていた。友達はいない、親兄弟もまともではない。そんな孤独を癒してくれた動物達が残らず無残に殺され、動揺していないはずが無い。

「我慢しないで……」

「……僕が、僕がいなくなったから……」

 義手の拳を握り込み、陽歌は声を絞り出す。エヴァは二人だけにしてやろうとその場を去り、先に足跡を追った。

(これだけ残虐な犯行をして痕跡を消さない理性の無さ、遺体の傷口からして人間が殺したにしては不自然な『歯形』……犯人がまだ近くにいるなら危険ですね、かなり)

 もし陽歌の予想通り、エヴァの解析通り人間が犯人だとしたら、この殺害方法が常軌を逸している。扉を開く程度の、最低限の知能はあるが人間としての理性が残っているかは怪しいものだ。陽歌もミリアも、戦闘能力が無い。彼らが犯人に出くわしたら危険だ。

(いや、危険は他にも……)

 先ほど微かに感じた気配から、まだこの校舎にはどういうわけか休校なのに人がいる。それに太陽の言っていた壮行会とはどういう意味なのか。少なくとも、誰かがいるというのは事実なので、この学校に凶悪な人間が紛れ込んでいるとすれば危機的状況だ。

(いくら陽歌くんを虐めていた連中とはいえ、見殺しにすると晩御飯がマズくなりますからね。とりあえず確認確認)

 エヴァが足跡を追うと、それは職員室に続いていた。職員室には来客用なのか、外部から入れる様な玄関口があり、足跡は土足で上がったらしくまだ続いている。

「これはますます……」

 凶悪犯は大抵、動物虐待から罪を重ねる。ここまでシームレスにターゲットをエスカレートさせる者はいないだろうが、いくら特徴的な外見とはいえ家庭で虐待を受けている子供を児相すら助けずに学校ぐるみで虐める異常な街だ。マーベルコミックスの市民の十倍は酷い民度なので、常に最悪より一ダースは上の想定をした方がいいと彼女は考えた。

「これは……」

 緊急事態なので土足のまま足跡を追うと、何かぐちゃぐちゃと湿った音がする。咀嚼音にも聞こえるが、それにしては汚い。硬いものを噛み砕く音も聞こえている。

「もしもーし……」

 足跡を追いかけると不審な物音も近くなっていく。職員室には鉄の匂いが立ち込めていた。どうやら誰もいないようだが、予定表になっている黒板には今日の日付と『壮行会』という文字が書かれていた。

「ん?」

 それはどういうことか、とエヴァが調べようと黒板に近づくが、机の影になっていて見えなかった音や匂いの元が露わになる。

「これは……」

 重いモノが落ちる音が静かな職員室に響く。倒れた誰かに向かって蹲る男性教諭を見つけたのだが、様子がおかしい。

 蹲っていた教諭が振り向くと、顔は腐敗しており白目を剥き、口には血をべったり付けていた。倒れている人物は、食い散らかされていた。まさに、ゾンビという有様だ。

「なんだと?」

 この症状は、Tウイルスを初めとするウイルス兵器によるものだ。まさかこの街でバイオハザードが、とエヴァは警戒したが、街には異変が無かった。もしやこれは始まりかもしれない。

「とりあえず、頭を潰しますか」

 即座に剣を抜き、迷いなく頭部に突き立てる。無駄な破壊は一切なく、額だけを貫いて脳だけを破壊する。遺体を傷つけず即死させる。こうなっては助けられない故の、せめてもの手向けである。

「遠からず大規模なバイオハザードの可能性がありますね……早めに脱出しましょうか」

 危険を感じたエヴァは早く用事を終わらせて帰還することにした。

 

   @

 

 日本近海の海底で、ユニオンリバーのメンバーによる調査が進められていた。月の政府はマリアナ海溝に封印した魔獣ジャバウォックの逃走を公表するかどうかで大いに揉めたが、協力関係にあるユニオンリバーと早期解決を狙って秘密裏に海底の調査を行っていた。

 月で生まれたジャバウォックは、自分が封印されている場所から陸地への方角など把握しているわけもないと見て今も海底を彷徨っているかもしれないと探しているのだ。

『一応索敵はこちらに分があるが、油断するなよ、凛』

「分かった~」

 ユニオンリバーの社長、ロディ・スタンフォードが海上で自ら指揮を執る中、海底では四聖騎士の一人、玄武長女の玄武凛(くろたつりん)が目視とレーダーによる捜索を行っていた。海中適正のある玄武姉妹七人を全員動員しての長期に渡る大捜索であったが、未だジャバウォックの行方は掴めない。

「こちら、異常なし」

 凛は物凄くゆったりした話し方で状況を報告する。彼女は緑の髪にオレンジの瞳が特徴の美少女で、幼い身長に対してグラマラスなボディをしている。着込んでいるスク水もややきつそうだ。

 スク水、とはいえ漫画めいた胸元に名札のある様な古いタイプではなく、現代的な白い縁取りに、黒に近い紺のものであった。深海でそんなプールめいた格好をし、仮にも水中を陸上と変わらない様に動ける彼女はさすがアスルトの手掛けた機体なだけある。

「んー?」

 のんびり歩いている凛だったが、何か建物らしきものを見つけた。あんまりにも反応がスロウリィなので、とっくにレーダーには引っ掛かっている範囲だったが目視できるまで気づかなかったのだ。

「怪しい建物発見。入ってみる」

『建物? 日本近海にか? 視界データ送ってくれ』

 ロディは姉妹の性格などは把握しているため、凛からの報告では見落としがあると判断し撮影した視界を共有してもらう。言うが早いか、凛はとっくに建物へ突入していた。明らかに耐水圧のロックが掛かった分厚い扉を軽々と引きちぎっており、ずんずん入っていく。

『おい凛、政府の建物だったら面倒だぞ?』

 ロディの忠告もそこそこに凛は建物へ突き進んだ。

 

   @

 

 エヴァは陽歌達と合流しようと移動したが、何となく保健室を見つけたので入ってみることにした。不自然なくらい綺麗にされ、妙に塩素臭い部屋であった。ここで一体なにがあったのか。

「何もない……」

 そして、保健室というには何も用意されていない。ベッドやカーテンはもちろん、事務用の机や椅子まで無い。まるで新居だ。

「おや?」

 彼女が好奇心でスキャン機能を使ってみると、床の一部に空間を見つけた。そこへ近づくと、電子系のロックがあることに気づいた。

「電子戦は専門外ですがこの程度……」

 それを、手を翳すだけで開くエヴァ。専門外と言いつつ、十六桁の数字と三文字のアルファベット大小が十分毎にランダムで切り替わるロックである。ファイアウォールも地球の技術ではスーパーコンピューターを用いても二日掛かる強固さだ。複雑というより解除に時間が掛かる様になっている。それを汎用機ですぐ解除できる辺り、エヴァ達四聖騎士団の性能は破格なのだ。

「これは?」

 床は気密性の高い収納スペースになっており、開くと中には何かの機械と薬の瓶が置いてあった。薬は瓶に僅かしか入っておらず、機械はウルトラマンの変身アイテムに見えたが色が付いていない。

「ルーブジャイロ? なぜこんなとこに……」

「おーい、エヴァリー」

 陽歌とミリアがエヴァに合流する。彼は目元が泣き腫らしていたが、だいぶ落ち着いた様だ。二人は保健室の中まで入ると、陽歌が扉を閉めた。マメな性格がよく見える。

「なにか見つけましたよ。心当たりは?」

「これは……」

 エヴァは陽歌に見つけたアイテム、ルーブジャイロらしき何かを見せる。彼は少し考えて、記憶の中からそれらしきものを引っ張り出す。

「たしか……数か月だけ保健室の先生が交代になってて……それが僕の記憶がない時期と合うだよ」

「記憶の無い時期もあったんですか。この環境では記憶すっとんでも不思議ではありませんが……」

 まともに食事もとれず、常に周囲から暴行を受けている状態では記憶が一時的に消えても仕方ない。だが、それがそんな時期と同時に被るのはどう考えても不自然だ。保健室でこれが見つかったというのも気になる。

「そういえば壮行会と予定表に書いてありました。もしかしたら今のご時世で信じられませんが、何かしているのかもしれません」

 エヴァはそう予測し、行動を開始することにした。ミリアが扉を開いて外に出ようとしたが、そこには先ほど殺したはずのゾンビが立っていた。

「え?」

「危ない!」

 ゾンビに襲われそうになったミリアと突き飛ばし、陽歌が間に入る。ゾンビは彼を掴むと、首筋に噛みついた。

「う、ぐぅ!」

「陽歌くん!」

「こいつ!」

 エヴァが剣を抜いた瞬間、ゾンビの後ろから拳が飛んでくる。その拳を受けたゾンビは首が180度曲がり、口を陽歌から離す。そしてパンチの犯人はゾンビを彼から引き剥がし、床に投げ倒す。

「こっちだ、クソ野郎」

 ゾンビが立ち上がろうとした瞬間に踵落としを決め、そのまま頭蓋骨を踏み砕く。一連の行動を起こしたのは、BSAAというアルファベットの刻まれたTシャツを着た大柄の男性であった。

「大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます」

 男性は英語で会話し、陽歌も自然に英語で返す。唯一英語が理解できないミリアだけが話に付いていけない。

「なんだ。嬢ちゃんは英語出来るのか。日本人は話せない奴が多いって聞いたがな……。っと、俺はBSAAのカルロス・オリヴェラだ」

 男性は日本語に切り替えて自己紹介する。組織の名前を聞いた瞬間、陽歌は噛まれた痛みも忘れて目を輝かせる。

「BSAA! 対バイオテロ組織、あのクライヴ・オブライエン先生が顧問を務めていた!」

「どうやら知っているようですねぇ」

 BSAAというのは、1997年にアメリカのラクーンシティで起きた大規模バイオハザードを切っ掛けに世界の製薬企業が出資して誕生した国際的な対テロ組織である。

「そうだよ! 僕の好きな『暴かれた深淵』の作者先生が勤めていたところだからね! この本もBSAAが対処した事件、テラグリジアパニックとそこから続くFBCの陰謀を元に書かれているからね」

 愛読書の話題が回ってきたので普段より饒舌になる陽歌。ハードカバーの翻訳版と文庫本、そして原著を持つほどこの本に入れ込んでいる。

「しかし驚きました。こんなに堪能に英語が喋れるとは」

 エヴァは陽歌が海外出版本の原著を読んでいることもあり、英語を人より読めることを知っていても、会話まで熟せることは知らなかった。言語スキルは基本的に会話より読解の方が難しいらしいが、練習の機会がないと伸びないものだ。

「僕、いつかオブライエン先生に会って本にサイン貰いたいって思って……」

「あー、盛り上がってるとこ悪いが、少しいいか?」

 カルロスは話を止めてポーチから注射器を取り出す。薬剤が入っており、『Billy』と印刷され密閉してあるパッケージに封入されていた。

「人間を所謂ゾンビにしちまうウイルスは主に二種類あってな。TウイルスとCウイルスだ。Cの方は傷口から感染しないが、もしこれがTなら感染の危険がある。だから応急処置をしておきたい」

「ワクチンを持ち歩いているんですねぇ」

 エヴァはワクチンを観察する。目視のスキャンで分かる程度の明らかな毒物は検出されなかった。カルロスはエヴァの鋭さに子供らしからぬ気配を感じて説明を薦める。見た目通りの扱いが出来る相手ではないと察したのだろう。

「元々、ここで奇病騒ぎだ化け物の目撃情報だのあって調査してたんだ。ラクーンの前兆によく似てるってな。それで万が一の為に持ってたんだ。今回、お嬢ちゃんが噛まれた死体野郎は多分Tの方だから、打たないと危ない」

「なぜTの方だと?」

 ゾンビになるウイルスは二種類、と説明した直後にTと判別したカルロスの行動をエヴァは不審に思う。ミリアはウイルスが二つ出て来た時点で脱落である。

「T……C……G?」

「ん? まさかGウイルスを知っているのか?」

「いえ、彼女は語感で適当に言っているだけでしょう」

 カルロスが思うほど、ミリアはユニオンリバーも関わる騒動の原因になる存在に詳しくない。

「で、なんでこの野郎がTの感染者だと思ったかって話だがな、何でもある学校の教員がジャンキーみてーにTウイルスのワクチンを受けまくってるって情報があってな。Tウイルスはバイオテロ対策にある程度大きな病院にはワクチンが貯蔵されてんだ。それをあの手この手でぶち込みまくってる奴を探してここに来たってわけだ。ワクチンってのは、様は薄めたウイルスだ。そんなもん沢山打てば普通に感染するのと大差なくなっちまう」

「はー、そういうことだったんですね。では化け物や奇病騒ぎはバイオハザードではないのでは?」

 情報を元に捜査をしていたから、今この場にカルロスもいるのである。が、この教諭のゾンビ化原因が分かっていればバイオハザードの可能性も消えるはずだ。

「いや、こいつがワクチンを貪ったのは噂が出た後だ。噂話でビビってこうなったんだろう。俺たちはしばらく、ここ一帯の調査をする」

「それは頼もしい」

 エヴァは奇病や化け物の原因が呪術的なものであると知っていながら、BSAAにそれを報告することはなかった。呪術界の話は常識外れ過ぎて、門外漢に話しても受け入れられる内容ではない。無意味な疑心暗鬼を招くより、気が済む様にやらせた方がいい。

「とりあえず手当だ。沁みるが我慢してくれ」

 カルロスは陽歌の傷を治療する。スプレーで消毒した後、ガーゼと包帯で傷を塞ぐ。理性を失った人間が噛んだだけあり、肉が抉れて出血するほどの傷になっている。

「結構痛いんだが、肝の据わった嬢ちゃんだ。昔会ったスーパーコップを思い出すな」

「このくらいなら平気です」

 女の子扱いにも口を出さず、陽歌は注射を受ける為に首筋を見せる。カルロスも彼の手を見て、義手であることに気づいた様だ。これくらい注意深い人間でないと、BSAAとして化け物の相手など務まらないのだろう。

「ちくっとするぞ」

 ワクチンも摂取し、一安心。だが、まだ油断はできない。カルロスは感染者である教諭の遺体を回収する為の人手を通信機で呼んだ後、陽歌達に聞いた。

「このご時世、そんなことは無いと思うが、ここに君達以外の誰かがいるなんてことはないか? Tウイルスは傷から感染が広がる。ここにいた人間全員、そしてこいつと関わった人間全員を一回検査しないといけない」

「それなら、壮行会をやっていると言ってましたね。私達は彼の家に手続きに使う書類を取りに来るついでに立ち寄ったので」

 エヴァは職員室で見つけた予定、そして太陽の言っていた言葉を伝える。壮行会をしている。つまりそれは、ここに人がいるということだ。

「そうか。よし、ちょっと話をしてくる。君達はここで休んでいてくれ。すぐに俺の仲間が来るだろう」

「私も行きますよ。どうせ人の言うことを聞く人達ではないでしょうから」

 待つ様に言うカルロスに対し、エヴァはついて行くことにした。少なくとも壮行会にはゲーマドライバーで変身出来る人間がおり、カルロスがいかに強くとも危険が伴う。加えてこんな時代に呑気に大人数で集まっている人間がBSAAという権威があるとはいえ、人の指示を聞くとは思えない。

「じゃあ、私達も」

「そう……だね」

「そうか。まぁ、死体の近くにはいたくないよな。行くぞ」

 ミリアも何気なしについて行く。陽歌としては、ここを離れたかった。このゾンビ化した教諭がかつて自分の担任だったことにはとっくに気づいており、変わり果てた死体とはいえそんな人物の近くにいると辛いことを思い出してしまう。

 

 一同が体育館に行くと、賑やかな壮行会が催されていた。ステージ上には太陽ら数人の児童がおり、何かの代表に選ばれたお祝いらしく見える。

「あれは……!」

 陽歌は壇上にいる緑のスーツを着たおばさんを見つけた。なんと、東京都知事の大海ではないか。なぜこんな一地方都市の小学校に何の告知もなくいるのか。

「皆さんはこれから開かれる東京オリンピックの応援団として、活躍していただきます」

「イカレちまったのかあのおばさん! オリンピックは延期だろ!」

 大海知事の妄言に慣れた陽歌達はともかく、カルロスは彼女の発言に仰天こいて詰め寄った。

「そうか、一般的には意味不明な言動ですか」

「もう当たり前の様に戦い過ぎていちいち突っ込むこともなくなっていた」

「そういえば言っていることめちゃくちゃよねこの緑のおばさん」

 エヴァ、陽歌、ミリアは改めて敵の荒唐無稽さに気づくこととなった。

「BSAA所属のカルロス・オリヴェラだ! あんたらこの時期になにやってんだ? いや、それより落ち着いて聞いてくれ! この学校でTウイルスの感染が起きた。これからBSAAの人間が来て検査するから、ここから出ないでくれ」

 Tウイルス、その単語だけで会場はパニックに陥り、教師から我さきにと逃げ出す。その様子にカルロスは戸惑うしかなかった。

「お、おい、日本人は避難訓練してるからこういう時に落ち着いた行動がとれるんじゃないのか?」

「金脇市民を常識で考えてはいけません。何せマーベルコミックスのモブを十倍濃縮した程度には酷いので」

 エヴァの説明でカルロスは腑に落ちた。さすがはマーベルの本拠地国民。

「ああ、それじゃあ仕方ないか……」

「何事ですか! 騒々しい!」

 会を台無しにされ、憤慨した大海が降りてくる。太陽は既にベルトを巻いてガシャットを手にしている。

「それはこっちのセリフだ。何考えてんだお前。オリンピックは延期になっただろ」

 カルロスが常識的なことを言うが、全く大海都知事は取り合わない。それどころか、ベルトを巻いて臨戦態勢を取る。

『サウザンドライバー』

「サウザーのベルト? まさか魔法で複製を?」

 本来はZAIAエンタープライズの日本支社社長、天津凱しか持たないそれをなぜ都知事が持っているのか、陽歌はマナや自分のベルトの様に魔法での再現を疑った。

「れっきとした、本物ですよ」

 大海はゼツメライズキーを取り出し、起動してから装填する。

『ビューティフルベローサ! ゼツメツエボリューション!』

 そして、肝心要のプログライズキーを解除して変身する。サウザーのコーカサス同様、ボタンを押すと起動とオーソライズが同時に行われるタイプだ。

『フローラルシックル! パーフェクトライズ!』

 二つのカマキリのホログラムが合体し、都知事は仮面ライダーに変身する。緑とピンクが派手な目に悪い姿だ。

「俺の獲物は取らないでほしいな」

 太陽も仮面ライダー超魔王に変身し、並び立つ。部下がいるにも関わらず、都知事は自身の手によって敵を倒すことに拘っている様子だった。

「いえ、あいつらユニオンリバーは私に何度も泥を塗り、苦渋を味あわせた許すまじ反逆者。自ら徹底的な天罰を与えます!」

(ん? とすると、ワンフェスで倒された都知事は偽物ではない? あの一回で何度もというのは些か不自然ですが、たくさん計画を阻止したという意味なら……)

 まるで何度も倒したかの様な物言いに違和感を覚えるエヴァだったが、まぁ雑魚戦でいちいち頭を使っていられないので剣を抜いて戦闘体勢を取る。

「ふん、そっちにも拘りがあるんだろうが、あの陽歌だけは俺にやらせろ」

「それなら好きになさい。私はユニオンリバーを倒せればいいのです」

 太陽は太陽で、陽歌に執着があった。とはいえ、二対一でも負ける可能性は限りなく低いのでエヴァはそのまま二人を挑発する。

「それは取らぬ狸の何算用、私を倒してから考えなさいな」

「お前に何が分かる! 生まれた瞬間から邪魔者がいる俺の苦しみが! お前がいる為に、ジジイとババアがお前を拾ったせいで……俺たち家族は!」

 陽歌の方がよっぽど苦しんだだろうが、随分勝手な言い分である。当の本人はもう彼らの貧弱な語彙力で出せる罵倒なら聞き飽きたので違う部分が気になった。

「おじいちゃんとおばあちゃん? 僕に祖父母が?」

 親戚はいないものだと思っていたので、意外な関係に興味が湧く。もしかしたら、何か聞き出せるかもしれないと踏んで陽歌はマナから預かったゼロワンドライバーを取り出す。

「エヴァリー、僕も戦う。もしかしたら、何か知ってるかもしれない」

「無理しないでくださいね」

「うん」

 ドライバーを腰に巻き、プログライズキーを起動する。トラッピングスパイダープログライズキー。魔法で本物になっているが、本来は雑誌のオマケで食玩と同じ仕様だ。

『territory! オーソライズ!』

「変身!」

 陽歌がベルトにキーを挿すと、空中に紫色の蜘蛛が現れる。それがバラバラとなって、彼に装着されていく。劇中ではこの蜘蛛らは衛星ゼアからの転送だが、魔法で再現したのはベルトとキーだけなので召喚に近い形となる。

『プログライズ! Impossible to escape! トラッピングスパイダー!』

 彼の髪と瞳はプログライズキーと同じ紫に染まり、着ていたパーカーはノースリーブで黒基調、紫の蜘蛛の柄が描かれたものへ変化する。義手の指は鋭利な爪となったが、それ以上の変化はない。

「あ、あまり変わってない?」

「性格から体形まで変化するマナが特別なんです」

 上位の魔法使いが専用にチューンしてもこの程度の変化が限界。普通の人間はそんなもんである。七色の魔力を膨大に持つマナが別格なのだ。

「早速死ね!」

「雑魚はさくっと片付けるに限る!」

 大海はベルトのキーを押し込み、太陽はベルトのカバーを閉じて開く。それぞれのベルトにおける必殺動作だ。

『エンプレスディストラクション!』

『キメワザ! ヤリコミクリティカルフィニッシュ!』

 都知事は足を広げて拘束回転し、太陽は拳を突き出して一直線に向かってくる。一方、エヴァは剣を一本床に突き立て、もう一本は天高く掲げた。

「ドラグーン……スケール!」

 すると、二枚のバリアが出現する。陽歌もその後ろに隠れた。しかし防御に対して構うことなく向かってくる二人。サウザンドライバー特有の文字が出る必殺演出とゲーマドライバーの必殺カットもちゃんと入る。必殺技が二撃も直撃すると、さすがにエヴァのものとはいえバリアは一枚割れた。

「この程度で防げるなど!」

 二人共余裕があるらしく、そのまま二枚目のバリアを破ろうとする。だが、一枚目のバリアが崩壊すると同時に青い閃光が走る。

「な、何?」

 それは凄まじい風と稲妻の刃であった。なんと、このバリアは一枚目自体がトラップになっており、破壊すると反撃が飛ぶ様になっているのだ。バリアの破片も巻き込んで竜巻は攻撃力を増す。

「所謂リアクティブアーマーです。ドラグーンスケール:ハウリング!」

 敵の必殺演出を打ち消し、エヴァ側の技名が大写しになる。完全に敵の必殺を跳ね除けたことが一目瞭然だ。吹き飛ばされた二人は無様に体育館の床へ転がる。

「ぐおぉぉぉ……この私が……」

「痛い……痛い!」

 大海都知事は必殺で当てた右足がぐちゃぐちゃに潰れ、太陽は装甲が焦げるほどのダメージを負っていた。単純な強度では仮面ライダー超魔王の方が上らしい。太陽はすぐに立ち上がり、反撃に出る。

「必殺技は必ず倒せる時に撃て、んんー鉄則ですなこれは」

「舐めやがって! 俺を誰だと!」

 エヴァの余裕な態度で頭に血が上った太陽は、未だ二枚目のバリアが残っていることに気づかず突撃する。無策極まりない行動、騎士であるエヴァにはバリアを張る段階からこの展開はお見通しであった。

「スケールフラグメンツ!」

 双剣でバリアを切り裂くと、その破片を剣圧で吹き飛ばす。バリアの破片が細かい刃となって太陽と都知事を襲った。

「ぐわああああ!」

「おごぉぉお!」

 流石に肉体を切断する力はないものの、かなりのダメージを与えていく。

「こ、こうなったら……来なさい! ギーガー!」

 追い込まれた都知事は新たなキーを取り出し、変身に使ったキーと入れ替える。

『ギガントファング!』

「マンモスキー? 離れてください!」

 新たなキーではあるが、それがブレイキングマンモスベースであることを見抜いたエヴァはカルロスとミリアを退避させる。なんと、屋根を突き破って巨大なロボットが現れたではないか。そのロボットへ都知事は乗り込む。

「お前達なんぞ、踏みつぶしてやる!」

 やけくそになった都知事を倒すのは簡単だが、周囲に被害を出さないという条件を満たそうとするとエヴァは彼女自身の出力もあって苦労する。超魔王の方は陽歌に任せるしかない。

「陽歌くん、弟の方頼みましたよ」

「うん!」

 エヴァは空を飛び、ギーガーと呼ばれたロボットを押して壁を突き破りつつ体育館から追い出す。これで陽歌と太陽の一騎打ちだ。

「お前なんかに負けるわけないだろ!」

 太陽はガシャコンキースラッシャーを手に、陽歌へ斬り掛かる。彼もアタッシュカリバーを手に応戦する。無茶苦茶に武器を振り回す太陽に対して、陽歌は最小の動きで回避する。

「あの嬢ちゃん……素人の様な立ち方なのにあんな動きを……?」

 プロの兵士であるカルロスが一番に疑問を持つ。陽歌の動きは玄人というには洗練されていないが、ちゃんと最小の回避になっているのだ。洗練されなさは、彼のおっかなびっくりな表情や慌てた様子によく出ている。

「なぜ当たらない!」

 太陽は苛立つ。おそらく陽歌に聞いても、理由は分からないだろう。彼は何となくで避けているのだから。どんな人間でもどんな作業でも、ひたすら繰り返せば慣れて身体が覚え、意識せずとも出来る様になるのだ。陽歌は周囲から常に暴力を振るわれたことが原因で、当時は不調から発揮出来なかったが攻撃を見切る経験を気づかずに積んでいたのだ。

「そこ!」

 隙を突き、陽歌は太陽へ剣で攻撃する。しかし、刃は全く通らない。

「お前の攻撃が効くか!」

「うわっ!」

 太陽はようやくパンチであったが陽歌へ攻撃することが出来た。胸部を強く殴られた彼は床を転がる。壁が壊れるほど激しく激突し、ようやく止まったものの蹲ってしまう。肺から空気が押し出され、呼吸できない。ようやく回復したと思った瞬間、呼吸の度に激痛が走る。伊達にレベル9999のライダーではない。普通のパンチ一発で陽歌のあばらを負ってしまったのだ。

「げほっ……! げほ……」

 未だ立てず、せき込む陽歌。血を吐いており、危険な状態だ。

「なんだこれは?」

 吹っ飛ばされた際に二つのガシャットを陽歌は落としていた。それを奪い、意気揚々と武器、そしてキメワザスロットホルダーに装填する。

「ふふ、お前のガシャットで死ね」

『キメワザ!』

 このままでは陽歌が殺されてしまう。ミリアは壁になるべく飛び出そうとしたが、カルロスに止められてしまう。

「陽歌くん!」

「危ない!」

 が、ガシャットから鳴る音声が低くなり、紫の靄が仮面ライダー超魔王の身体を伝わっていく。

「ぐ……なんだ?」

 彼の横にレベルが表示され、それが凄まじいスピードで減少していく。さらに、毒の効果なのか苦痛を受けて膝をつく。よく考えれば、プログライズキーを使う陽歌がなぜガシャットを持っていたのか、疑問に思わなければならなかった。

「そうか! 罠!」

 ミリアは察した。このガシャットは陽歌がトラッピングスパイダーの力で作った罠なのだ。ついに太陽のレベルは1になってしまう。こうなると最早、能力のギャップで身体に負荷が掛かり、立つことができない。

「ぐぬぬ……」

「いくぞ!」

 陽歌はアタッシュカリバーにパンダのプログライズキーを装填する。

『Progrise key confirmed. Ready to utilize』

 そして隙だらけの仮面ライダー超魔王こと太陽に横一閃斬りかかる。なんとか立ち上がった太陽はその一撃をベルトで受けてしまう。

『パンダズアビリティ! スカウティングカバンストラッシュ!』

「グワアアアアアアアアア!」

 何とか基礎スペックの防御力で持ち堪えようとする太陽。だが、陽歌はトドメとばかりにベルトへタイガーのキーを6回読み込ませて必殺技を発動する。

『テラライズ! トラッピングテラインパクト!』

「おおおお!」

 パンダと虎のホログラムが陽歌を後押しし、そのままベルトを両断する。大爆発が起き、爆炎の中から黒焦げになった太陽がよろよろと出てくる。

「ぐ……なぜだ……俺は選ばれて……」

 そのまま倒れる太陽。陽歌も魔力が尽きて変身が解除されたが、倒れることは無かった。

「勝った……」

 傷は残ったままだが、なんとか勝利した。

「やったー!」

「日本人はみんな変身出来るって噂は本当だったのか……」

 勝利の余韻に浸る一同であったが、それも束の間、武装した集団が体育館に突入してきた。ミリアはBSAAだと思ったが、法律のことを考えるとそれはあり得ない。

「BSAAかな?」

「いや、銃なんか持ってこれないぞ?」

 装備には『オリンピック推進委員会』と書かれており、都知事の手のものだと分かる。

「Tウイルス感染の疑いがある人物を発見! 拘束する!」

「なんだと?」

 陽歌達に銃を向けると、武装集団は彼らを取り囲んだ。カルロスはミリアを連れて離脱するが、陽歌は位置が離れており捕まってしまう。

「陽歌くん!」

「今は逃げるぞ! うちにはこういう時に頼れる奴がいる!」

 BSAAには拉致対策専門のメンバーがおり、救助の目途があるのでカルロスはミリアの安全確保を優先した。

「ハンク! 聞こえるか! 信じられないことに武装した奴らが民間人を連れ去った! 救助を頼む!」

『こちらハンク、任務了解』

 なぜ都知事は東京から離れたこの地に手勢を展開できたのか。そして死んだはずの都知事が生きているその理由とは? 謎が謎を呼ぶ中、新たな戦いが始まる。

 

   @

 

「これでよし……」

 ギーガーを撃破したエヴァは、撃墜に巻き込まれて息絶えた大海都知事の遺体そのものをサンプルとして確保する。袋に入れ、簡易転送装置でアスルトのラボへ転送して解析してもらうのだ。大海都知事が一体なぜ、倒しても蘇るのかその秘密を探る必要があった。

(月のデータベースによると、都庁ロボは生体認証で偽装は困難、その時の都知事のみ起動及び操縦出来るはず……。だとすると、本物の都知事は確実に都庁にいたはず。ワンフェスに現れた都知事が偽物と仮定して、なぜ偽物など用意したのか?)

 都庁ロボは二つ前の都知事が起動しかけたこともあり、月の防衛組織AIONによって調査が入った過去がある。そのため、都庁ロボが本物の都知事でないと起動できないのは確かな情報だ。

 相手は常識の通じない狂人。その理屈を読み解くのは困難だが、狂っているが故に後手へ回ることだけは被害抑止の意味でも避けたい。情報を集めれば、見えてくるものがあるはずと信じ、エヴァは目の前の都知事が息絶えていることを確認する。

 




 海底の謎の施設、解放された魔獣ジャバウォック、連れ去られた陽歌、増える都知事の謎。今、全てが明らかになるのか?
 君は覚えているか、あの初夢を!
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