騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
コーラ飲む奴がダイエットすると思ってんの? トランプ大統領もジャンクフード好きなら日和ってダイエットコーラにするんじゃありません!
白背景の前で、金髪に緑の瞳をしたグラマラスな美女がペットボトルのコーラを手に、声を掛けてくる。サイドテールにまとめた髪からは幼さが滲むが、三つ編みに結った髪や眼鏡、妖艶な表情からはミステリアスな色気さえ感じる。
「2020年、さらに美味しくなったペ〇シジャパンコーラ、飲みたくない?」
手にしているのは赤いコーラではない。蒼いコーラだ。後ろでそれなりの速さをした銀のムキムキ男が駆け抜けていく。
「ペプ〇マーン!」
「なにこれ」
黒っぽい毛並みに獣耳と尻尾の生えた少女が困惑する。リビングに白い布を張って背景を作っている。
「ミリアさんのことだし、何かに影響されたんでしょう」
少女の呟きに反応する人物がいた。ソファに座り、室内だというのにパーカーを目深に被った子供が本を読みながらケモミミの少女に応える。余ったパーカーの袖から覗くのは、生身ではなく黒い球体関節人形の様な義手であった。フードから伸びているキャラメル色の髪を時折中に押し込みながら、義手の指でページを摘まんで進める。
「慣れてきたね」
「さなの方がてっきり慣れているのかと」
ケモミミの少女、さなはこの子供の落ち着いた様子に驚きつつ、短い付き合いの相方がしていることを見守った。
「じゃんけんで私に勝てたら、あげますよ」
ミリアと呼ばれた美女は、読者に対してじゃんけんを仕掛けてきた。まさかこれは、ツイッターで行われた例のキャンペーンなのか。
「じゃーんけーん……」
さあ、あなたは何を出す?
「といってもじゃんけんなのでグーチョキパーの三種類なんだけどね」
「いや、そう思っているととんでもないことになるよ、陽歌くん」
陽歌という子供は結末をありきたりなものと予想したが、さなはそう思っていなかった。フードから覗く中性的、を通り越して少女の様なフェミニンな顔立ちからは想像できないが、陽歌は男の子である。穏やかに微笑む姿と右目の泣き黒子から、可愛らしさと大人びた色香を漂わせる不思議な少年だ。
「ん、じゃあチョキで」
陽歌は袖からちょこっと差し出す形でチョキを出す。びしっと決めるのではなく少し萎びているところに彼の人格が伺える。
「私はグーかな?」
さなはグーを選んだ。
グーを選んだ人
「じゃんけんぽん!」
ミリアが出したのは、チョキだった。これで無事勝利。ペプシのクーポンが貰えるよ!
「そう思っているあなた、甘いですね」
そんなミリアの一言と共にカットインが入る。眼鏡だけにペルソナ4風味だ。チョキがグーに向かっていき、そのチョキは巨大な白いワニのオーラを纏っていた。
「私のチョキは石すら砕く! 安寧の下に潜む牙に脅えろ! 『
そしてグーは打ち砕かれる。じゃんけんにまさかの確変演出である。しかも負ける方なのにやたら手が込んでいる。こういう演出は大抵、負けそうな時に入って勝つものだろう。
ブーイングと共に『YOU LOOSE』のテロップが入る。
「私の勝ち!」
彼女は心底腹立つ顔で勝ち誇った。
「なんで負けたか、来年までに考えておいてください。たかがじゃんけん、そう思っていたら、来年も私が勝ちますよ?」
コーラの蓋を開け、早速飲もうとするミリア。
「ほな、いただきます」
しかしそこにさなによる踵落としが脳天を直撃する。
「
「ぶふぉあ!」
百トンのパンチを支える脚力による全力の踵落とし。にも関わらずミリアは頭から煙が出る程度で済んでいた。たんこぶ一つ付いていない。
「与太話なのに流れる様に新技が出てくる……」
陽歌は肉体言語ツッコミには慣れていたが、こうギャグ回でホイホイ新技を出されると困惑する。ちなみに、足技の月輪脚に付随する月の名前は技の強さではなく脚捌きを示すものである。例えば、蹴りで斬撃を出す嵐系なら半月嵐は大きな一撃、三日月嵐は一般的なサイズ、満月嵐は周囲全体への攻撃、新月嵐は空気と同化した見えない攻撃だ。踵落とし系の落なら、半月落は普通の踵落としといったところか。
「一応足技は苦手だから手加減の一種なんだよねー」
「斬撃の出る蹴りで手加減とは」
「ほな、いただきます」
さなはミリアから奪ったペプシを飲む。案外、派生技が多いと把握が難しく咄嗟の対応がやりにくいのかもしれない。その脚力で接敵して殴った方が早いというのは事実である。
チョキを選んだ人
「じゃんけんぽん」
ミリアは普通にグーを出す。やはりというべきか、ブーイングと共にテロップが入る。
「私の勝ち!」
またもミリアは心底腹の立つ顔で勝ち誇る。
「この一年、何してたんですか? じゃんけんへの意識の差が、この差です」
だが、ここでカットインが入る。今度はペルソナ風味ではなく、突如BGMが変わって黒背景に金文字で『Grand battle 1/1』と表示される。
「勇ましきコーラの王。コカコーラ一択の日本を救ったペプシこそ、我らにとって輝ける星……」
陽歌が立ち上がり、フードを取ってミリアの前に出る。隠れていた瞳がようやく露わになる。右が桜色、左が空色のヘテロクロミア。これこそが、彼が機械の腕以上に忌むべきものとして隠していたものだ。今の義手は友がくれたもの。かつてと違い誇りに思っているが、長年染みついた卑屈さは簡単に覆せない。
「それを与太ネタに貶めたあなたに語り掛ける言葉はない……」
「え? 何これ?」
画面上にミリアのHPが表示され、画面下には陽歌の顔グラとHP、スキルを示したアイコンが出ている。必殺ゲージらしきものは300%となっており、もう発動できる状態だ。
「あ! 陽歌くんがセイバーなのに私ランサーじゃないですかやだー!」
「相性不利だねお姉さん」
しかも属性相性もピンチ。一方の陽歌はスキルまで使って強化を試みる。
『鬼種の魔(無辜):A』
「あ、攻撃力が上がったよ。二回」
「スキル名が伏線臭いんですけど!」
与太話でどんどん匂わせていくスタイル。
『魔力放出(呪):C』
「バスターが上がったね」
「バスター宝具は嫌だバスター宝具はいやだ……」
特定のカードを強化するスキル。必殺技に当たる宝具カードがバスターでないことを祈るばかりだ。
『漆黒の意思:E』
「無敵貫通が付いたね。もう逃げられないぞ」
トドメとばかりに防御を貫く準備もしてくる。そして肝心のコマンド選択。単騎なので陽歌自身のカードのみ五枚配られるが、彼のカード配分はアーツ3枚、バスタークイック各一枚なので、宝具カードがバスターだが三色同じカードを選んで攻撃力を底上げするバスターチェインは使えない。
「助かった……」
なぜこの配分なのかミリアは気になったが、とりあえず命拾いである。
「あったよ! バスターカード!」
「でかした!」
しかしさなが自分のカードを持ってきたため、バスターチェインが成立してしまう。
「うそぉ……」
『あったよ! 〇〇!』『でかした!』で必要なものが出てくるのはもはやお約束である。
「我が魂喰らいて走れ、銀の流星! デッドエンド、アガートラム!」
「あばーっ!」
そして手刀による一撃でミリアを撃破する。
「そういえば陽歌くんの義手って『プロトアガートラム』だったね」
ユニオンリバーの提携先である企業が作った機械義手、二十式プロトアガートラムは地球の伝説に残る義手から名前が取られている。
「ほな、いただきます」
〇プシを強奪し、陽歌が蓋を開けて飲む。この流れはお約束なのだろうか。
パーを選んだ人
「じゃんけんぽん」
ミリアは普通にチョキを出して勝つ。一見、勝率三分の一に見えるこのキャンペーンだが、無限ともいえる参加者に対して当たり枠は固定。昨年のじゃんけんにおける勝率はなんと0.7%だったのだとか。
「私の勝ち! たかがじゃんけん、そう思っているとカードバトルもコイントスも負けますよ? ほな、いただきます」
ミリアはようやくペ〇シにありつく。この調子だとカードとコインもやって来年もじゃんけんしそうである。
割高だけど冷えてるから自販機で缶のコーラ買ってしまう