騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 陽歌のメモ5 オフ会
 インターネット上で親交のある人物同士がリアルで出会う会合のこと。本来、ネットで知り合った人物とリアルで会うのは様々な危険が伴うので『信頼できるグループ』で『複数人と約束して』行うことを推奨する。ただ出会ってお茶するだけならともかく、作品の展示などを行う場合は会場を借りることになる。そのため主催者からの注意事項はよく確認するべし。またそうでなくても参加者が大人数になる際は他人の迷惑にならない様に最低でもカラオケボックス程度の会場は確保するのがよい。
 世の中にはオフ会を主催したはいいが会場の準備をするでもなくただ漫然と交通の便が悪いショッピングモールを集合場所に指定し、何十人も来てプレゼントも持って来てくれると妄想するばかりか、自分からのプレゼントは菓子パンのオマケシールで挙句集合時間に一時間も遅れてきたため当然の様に参加者が0人だったという事例も確認されており、一部では反面教師として語り草になっている様だ。



オフ会へ行こう!(前編)

 九月二十二日、名古屋にてユニオンリバーオフ開催決定! その前々日、七耶達は準備に追われていた。

「というわけで前乗りだ」

 準備はいつもの喫茶店の休憩室で行われていた。陽歌もそこにいたが、行く予定ではないのでのほほんと漫画を読んでいた。最近はジョジョの奇妙な冒険の第六部までの制覇をとりあえず目指している。

「よし、小僧も準備しろ! オフ会に行くぞ!」

「え、ええ?」

 急に七耶に指名され、陽歌は戸惑いを見せる。急なお出かけに連れまわされることは多いが、今回みたいな名古屋という遠出、かつ外泊も含む行程は初めてのことだ。おまけに今回は模型関係のオフ会。特に作品も持ち合わせていない彼には縁の無いことだと思っていて油断していたのだ。

「僕?」

「そうだぞ」

 オフ会というのはまず、ネットで知り合った者同士がリアルで出会う場を設けるイベントだ。ユニオンリバーの場合、毎晩ニコニコ動画で生放送をしている。陽歌もコメントはしないが、ラジオを聞く様な感覚で読書や作業のお供にしていた。

「生放送を知らないわけもあるまい。とりあえず行ってみればいいさ」

 七耶はまさに当たって砕けろと言わんばかりの調子でオフ会行きを推奨する。

「まずオフ会の準備その一! 主催者の定めたルールをよく見よう! 会場の使い方、展示作品の数や大きさの制限なども書かれている。これを見ないことには始まらないぞ」

 陽歌は七耶からプリントを渡される。これは今回のオフの注意事項を纏めたプリントだ。まずはこれを熟読する。作品の持ち込み数や各企画の概要などが書かれている。会場も利用規約があるので、主催者はもちろん参加者もこれを守らねばならない。

「準備その二! 持っていく作品を用意する!」

 注意事項を読み込んだら、今度は展示する作品を用意すべし。しかし陽歌には作品と言えるものが殆ど無いのが現状だ。

「作品? 一体何を持っていけば……」

「とりあえず作ったもん全部並べてみろ」

 困った彼に七耶は言う。陽歌は地下の自室からとにかく自分の作ったプラモデルなどなどを持ってくる。

「これで全部……かな」

 そしてそれを休憩室の机に並べる。まずは白い狼のLBX、ハンター。陽歌の作品と言えばこの機体である。次に灰色の塗装が施されたセイバー系のミニ四駆、ネクストセイバー。まだモーターやフロントバンパーくらいしか改造がされておらず、元キットのマグナムセイバーのものである赤いサイドローラーや緑のホイールが目立つ。そして30minutes missionsというプラモデルの黄色いアルトにオレンジの近接アーマーを装備したもの。

「ま、こんなところか。そしたら作品カードを用意するぞ」

 七耶に渡された作品カードに作品の題名や作者名などを書いておく。作品カードは主催側が用意していることも多いので、それをプリントして使おう。

「その三! 名刺を用意しておくと名前を憶えて貰いやすいぞ!」

 七耶は休憩室のパソコンを起動すると、Wordを立ち上げて名刺のテンプレートを開く。こういうのはテンプレでSNSなどのアカウントIDを入れたものを持っていくだけでも違うものだ。覚えてもらうための媒体であると同時に、今後の繋がりにもなるのだ。

「えーっと……」

 陽歌は慣れない手つきでタイピングしていく。義手である以前にこういう操作に慣れていないのも原因だ。だがテンプレートは一枚の紙に何枚分も名刺がありながら、一枚を編集すると他の場所も文字が変わってくれるという便利な機能がある。そのため思ったより時間は掛からなかった。

「出来た!」

「よし、印刷だ」

 それを印刷し、ハサミで切ってバラバラにする。これだけで簡単に名刺が完成だ。自宅にプリンターが無い人はネットの名刺制作サービスを利用したり、データを持っていってコンビニでプリントするのもありだ。

「よし、この調子で準備していくぞ」

 他に必要なものは、常備薬、水分、スマホ用のモバイルバッテリーなどあると便利なものから体調を整えるのに必要なものもあるといいだろう。それから、話を広げるために展示はしないがベイブレードなどのコミュニケーションツールがあれば尚更いい。

「これも持っていくか……」

 陽歌は鞄にベイブレードを入れる。ベルトを買った日に、ついでに買ったもので3on3デッキバトルという方式の試合が出来る分は既にある。ランチャーもライトランチャーLRにロングワインダー、グリップにはパワートリガーとウエイトグリップが装着されている。もちろん、ベイブレードバーストの目玉である自動でシュート回数やシュートパワーを図ってくれるベイロガーも装着済みだ。いくつかの装備はポッポの方で手に入れたものである。

「そうだ、ガンプラバトルになるかもしれないからガンプラ持ってくか? 山の様にあるぞ?」

 実はガンプラを作っていなかった陽歌。もしもの為、バトル用に組み立て済みガンプラの山、通称マウンテンサイクルからガンプラを選ぶことになった。大きな箱に、山ほど今まで七耶達が組み立てたガンプラが詰まっている。

「ど、どれにしよう……」

 ガンダムについて詳しくない陽歌は機体を見てもいまいち性能が把握出来なかった。正直、どれも同じに見えてしまう。自分の得意な射撃を活かせる機体を探すため、素直に一番長い銃を持っているガンプラを取り出す。

「これかな?」

 選んだのはサンドブラウンのジンクスⅣ。『HGBF ジンクスⅣvreBFT』である。実はガンダムダブルオーファンが十年もの間待ち続けたキットであったりする。というのもジンクスⅣが登場した劇場版公開当時はキット化されず、ネット配信アニメのビルドファイターズバトローグに登場したカラーのものがプレミアムバンダイ、通販でようやく販売されたほどである。それからその売り上げがよかったのか劇場版に登場した指揮官機カラーが販売された。

「おお、それはいいな。ジンクスⅣは総合性能に優れている。ダブルシールドにすれば多少の被弾も気になるまい」

 このチョイスは七耶もオススメであった。量産機であるが基本性能は主役ガンダムに引けを取らず、癖が少なくて扱い易い機体だ。いざという時の為の切り札、トランザムもある。

 準備はこの辺りにして、明日に備えて体を休めることにした。特に陽歌は知らない人が多い場所に行くこともあり、精神的な負担も大きくなるだろう。

 

 陽歌、七耶、ナルの三人は電車に乗って一路名古屋へ向かった。名古屋までは途中の豊橋までJRを使い、そこから愛知の私鉄である名古屋鉄道に乗り換える。乗り換えるには駅にある機械に手持ちのICカードをタッチするという地味に忘れそうな作業が挟まっている。三人共、普段はロウフルシティへの移動にバスや電車を使うのでカードは持っている。電車はともかく、バスは料金箱からお釣りが出なかったりするのでカードの方が便利だ。

「ここが豊橋……まぁ折り返しだな」

「これが名鉄なんだ」

 三人は赤い電車が停まっているホームへやってきた。名鉄本線の端っこということもあり、名古屋方面からやってきた電車がそのまま名古屋方面行きに代わるという中々見られない現象が起きる。

「特急の方がいいか?」

「うーん、どうでしょうかに?」

 七耶とナルは陽歌から離れて相談していた。名鉄はJRの電車と異なり、特急列車だろうと車内にトイレが存在しない。加えて特急列車は駅から駅までの間が長い。特に新安城から神宮前までが長距離だ。何か起きても途中で降りることが出来ない。陽歌の様に一種のパニック障害を抱えているとそこが大きな問題になる。

「あ、心配ないですよ。これありますし」

 陽歌は首に掛けた黄色のイヤーマフを指す。射撃用の聴覚防護用具だが、騒音のカットにも使っている。それに、いつまでも七耶達に心配をかけられないという意思もあった。電車くらいは問題無く乗れる様にならなければならない。

「よーし、それじゃ行くぞ!」

 七耶の号令で、特急である白地に赤いラインの入った電車へ乗り込む。これが名鉄の特急電車だ。発車駅だということもあり、座席はスカスカなので余裕で座れる。三人とも小柄なので、二人掛けの椅子にすっぽり収まることが出来る。このままゆったりと名古屋へ出発だ。

「ところで名古屋に着いたら何するの?」

「電気屋見たり、『登山』したりだな」

「登山? 名古屋にそんな山あったけ?」

「ま、楽しみにしてな」

 大きな街の家電量販店(のホビーショップ)は楽しみだが、登山をするというのはどういうことなのか。着いてみなければ分からないというのが実情である。

 

「さぁー、着いたぞ名古屋!」

 なんやかんや、結構な時間をかけて名古屋へ到着だ。しかし、出発が朝早かったためまだ地下街の店も開いていないという状態である。そんな中、七耶が迷わず向かった先は……マックであった。

「やっぱ時間潰しといえばここだな。充電できるし二十四時間開いてるし言うこと無いな」

「いつものですに」

 どうやら遠征の日にはお馴染みの行動らしく、迷うことなくドリンクとハッシュドポテトを頼んで席に着く。陽歌も真似て同じ注文にした。七耶達は大人っぽい様で根っこは子供なのか、モーニングコーヒーではなくオレンジジュースを飲む。傍から見れば未就学児だけの旅にしか見えない。一番外見が年上なのは陽歌だが、精神年齢は八千年近く生きている七耶が一番である。

「朝マック普通の時間でもやらないかな……」

「ボクは夜マックのポテナゲ特大とパティ倍が普通の時間に欲しいですに」

 外食自体経験が少ない陽歌には分からない拘りであったが、時間限定メニューというのは痛し痒しである。

「ま、一時期の迷走ぶりに比べりゃマシか。メインのバーガーに野菜練り込んだチキン挟んだりな」

「野菜も食べよう! って穀物のコーン出すくらいがマックには似合ってますに」

「そんな時期あったんだ……」

 陽歌は時期的にやれ異物混入だ注文カウンターのメニュー廃止だと揉めた時期を知らない。社長が変わって俺たちのマックが帰ってきたと喜ぶ全国のデブ同志諸君は多かっただろう。カロリーを称えよ!

「さて、そろそろ開店時間だな……」

 時計が十時を回った頃、七耶は席を立ち、最初の目的地へ向かう。それは名古屋駅前に存在するビックカメラだ。距離で言えばさらに近いヤマダ電機もあるのだが、コトブキヤキットやアニメグッズ、ガチャガチャを含めると品揃えはこちらの豊富である。おもちゃ売り場と同じ階にソフマップもあり、中古ホビーの入手も可能だ。

「大きいビルだなー……」

 陽歌はビックカメラの入ったビルを見上げる。ロウフルシティにもビル群はあるが、店舗がビルいっぱいにギッシリ詰まっている様な状況は中々見られない。人の多さや道幅に対する交通量の多さも急ごしらえの都市であるロウフルとは比べ物にならない。

「ん? あれは?」

 横断歩道を渡ると、七耶は黄色い布の集団を見つけた。これは『マーケットプレイス』のメンバーの証だ。

「今日なんかの発売だったか?」

「ガンプラはぷちりっつとウルトラマンのフィギュアライズ、あと軽トラぶそうですかに。それかゴリラプログライズキー」

 何か転売する様なものがあっただろうかと七耶とナルは確認する。陽歌はふと、あることを思い出した。

「ベイブレードのユニオンアキレスかな?」

「あー、それか。でも一般商品だろ? そこまで必死になるか?」

 ベイブレードの新商品が出るのだが、以前のゼロワンドライバーと同時に発売したエースアシュラと違ってどの店でも販売し、再販の可能性もある普通の商品だ。転売屋が食いつくネタとは思えない。しかし彼らに常識は通用しない。何を考えているかは常に警戒した穂がいいだろう。

「あいつらは無視してさっさと見に行こうじぇ」

 おもちゃコーナーは三階。エレベーターよりエスカレーターを使った方が早い。階を昇っていくと、目の前にゲームやおもちゃが多数陳列された光景が広がる。時期的に新発売のswitchライトやポケモンの新作を宣伝する販促物が目立つ。ただ、これらはまだ発売前でマーケットプレイスの標的とはならなそうだ。プレステ関連だとVRやプレステミニ、その他にはメガドライブミニなどのレトロゲームが遊べる機器もあるが、今一つ旬を外しているというか欲しい人には粗方渡った感がある。

「さてプラモコーナーは……」

 七耶達はプラモデル売り場に向かう。新商品コーナーにはコトブキヤからデザートバギーとフォレストバギー、アーリーガバナーが展開されていた。

「あー、こいつらもいたのか」

「あれ? これって喫茶店にあった車じゃないですか?」

 七耶がコトブキヤの新商品を思い出していると、陽歌はデザートバギーが以前乗った喫茶店の車と同じであることに気づいた。正確には荷台であるワイルドクローラーを引っ張っていた一人乗りのバギーだ。

「あー、それな。ヘキサギアは戦艦みたいなミリタリープラモだと思ってくれ」

「つまり、このメカは実在すると……」

「そうなるな。うちにもレイブレードやバルクアームがある」

 陽歌はユニオンリバーの混沌であるガレージを見てしまっている。あれを見たのなら、日常に戻れないと言われるほどの深淵だ。だが、個々のメカが何という名前なのかまでは把握していない。というか一番奥に潜む二機の『アレ』に印象を全部持っていかれて詳細を覚えていない。

「といってもブキヤキットはマニアックなとこあるし朱羅シリーズでもなきゃ転売の標的にはならん様な気がするな……」

 が、やはりこれもマーケットプレイスの目的とは違う可能性がある。すると、新商品の台にこれぞという商品があるのをナルが見つけた。

「もしやこれですに?」

「え?」

 それはLBXのアキレスであった。だが、アキレスは既に一般販売仕様のディードと有名プレイヤーである山野バン仕様の二つ共が出回っている状態だ。しかし、これは違う。パッケージには『アルテミスウィナーコレクション』と表記されている。陽歌は手に取ってその内容を確かめる。

「ただのアキレスのアーマーフレームだけじゃなくて、コアのカスタムも再現? モーターはシグマDX9、コアメモリはAX00……更に必殺ファンクション『超プラズマバースト』のデータ付き?」

「あー、内部もしっかり再現した感じの奴か」

 今まで流通していたアキレスはただ外見を再現したものであったが、こちらはコアスケルトンのカスタムまで再現した上での販売である。

「これっていいパーツ、なんですかね?」

 アルテミス優勝者で、練習の際に動画も見ていたあの山野バンが使っていたカスタムである。きっと強いのだろうと陽歌は推測するが、七耶は否定する。

「いや、そのカスタムめっちゃピーキーだぞ?」

「ええ?」

「小僧、ハンターの内部パーツ何使ってる?」

 陽歌は今のハンターに内蔵しているパーツを答える。練習の過程で実は地味に改造を加えていたのだ。

「コアメモリはスカルファングR、モーターはマンタDX3、CPUはダイヤモンドHGⅢ、バッテリーはキャットポウLE3、補助パーツはライフガーダーⅠとディフェンダーⅠですかね」

「いいんじゃないか? 特にコアメモリとモーターは優秀だぞ?」

 七耶の診断によるとこれで十分らしい。使っている陽歌も初期装備よりは確かに使い勝手がよくなったと思っているところだった。

「こういうのはコレクターアイテムなんだよ。あの有名選手が使っているのと同じのが欲しいってな。同じブランドでレックスの使ってたGレックスが出てるけど、あれもピーキー極まりないからな」

「スポーツ用品でもよくありますに」

「そういうものなんですね……」

 始めたばかりというのもあってLBXは動かしてなんぼ! という思想が強い陽歌にとって、コレクションするという発想は無かった。

「内部部品の劣化による不都合を避けるためにアーマーフレームを取り付けて飾るだけのダミースケルトンとかもあるからな。プラモの楽しみ方はまさに無限大だ」

「ほぉ……」

 オフ会に行く前から、かなり参考になる話を聞いた気がする陽歌だった。そんな話をしていると、案の定というべきか黄色の布を巻いた集団、マーケットプレイスがやってきた。アキレスのPOPには『お一家族様一つまで』と書かれているが、マケプレの連中は当然そんなことなど見越して大人数でやってきている。

「関わり合いになるのは御免だ、下がろう」

「だね……」

 先日はゼロワンドライバーが買いたかったのと店側の決まりを守らなかったこともあって戦闘になったが、用事が無ければ関わり合いになどなりたくない連中だ。七耶と陽歌はナルを連れてこの売り場から引き下がる。ここ以外にもガンプラはある。

「見ろ、こんなにガチャガチャとかあるぞ」

 売り場を移動すると、大量のガチャガチャはもちろんトライエイジ、ガンバライジングなどカードを読み込んで遊ぶゲームの筐体が置かれている場所に辿り着いた。ガチャガチャの品揃えは元より、この手のゲームが充実しているのは魅力的だ。

「とはいえ、FAガール用のいい感じの小物は貴重なのだ……」

 七耶はぼやきながらプログライズキーのガチャを回す。ガチャとしては五百円と高額だが、音声の鳴るアイテムなので妥当なところがある。

「しかしあんなデカイもんがカプセルに入るのか?」

「長いのに入っているんじゃないですかに?」

「それにしてもだがな……」

 DXのプログライズキーを知っている身としては、あの大きなアイテムがガチャガチャのカプセルに入るとは思えない七耶とナルであった。一応大きなアイテムを入れる為の、円筒状のカプセルなんかもあるのだが、それでも今回はきつそうだ。前年のライドウォッチもカプセルが周囲を覆うだけという結構ギリギリの状態ではあった。

「お、出て来た」

 排出されたアイテムを手に取ると、七耶は驚愕する。なんとプログライズキーが折りたたまれてカプセルに入っていない状態で出て来た。商品を覆っているのは申し訳程度のカプセルの切れ端らしきものとビニールの膜だけだ。

「不破さん……ついに……」

 陽歌は思わず口元を覆った。ゼロワンの二号ライダーが認証しないと開かないのに無理矢理プログライズキーをこじ開けていたシーンがどうしても頭に残ってしまう。このガチャの状態は、その二号ライダーの不破さんがプログライズキーをバッキバキに畳んだ図にしか見えない。

「カプセルに入らないならカプセルに入れなきゃいいってか……」

 七耶は開封し、そのプログライズキーを組み立てる。中身はラッシングチーターだ。まだこの弾ではガチャガチャにしか入っていない限定のアイテムは無いので、何が出ても構わない。

「さ、ガンプラでも見に行くか」

 というわけでそろそろ転売屋のマーケットプレイスもいなくなる頃合いだろうと思い、ガンプラ売り場に戻る。しかし、彼らはそこで信じられない光景を目の当たりにする。

「ん?」

 なんとマケプレの連中は補充されていくアキレスを残らず手に取るとレジに向かうことなくそのままエスカレーターを降り始めた。なんと大胆な万引きだろうか。

「……」

「……」

「……」

 三人はあまりにも信じられない光景に沈黙し、軽トラぶそうとヘキサギアを一通り買うと我に返ってマケプレを追いかけ始める。エスカレーターをダッシュで駆け下り、外に出たマケプレの連中に追いつく。

「待てー!」

「さすがにそれは見逃せませんに!」

 猛スピードでマケプレの進路を塞ぐ二人に対し、陽歌は追いつくのがやっとで結果的にマケプレを挟み撃ちにする。

「こいつら……静岡で仲間をやった奴らか?」

「間違いねぇ、やけにちみっこい巫女と猫だ。どっちも変身するぞ、気を付けろ!」

 メンバーの内二人が荷物を仲間に預け、小さなアンプルを取り出す。以前も見たことがある、怪人に変身する薬だ。それを飲み干すと、二人はそれぞれサボテンと雀の怪人に変貌する。ナルも対抗し、天魂を口にしてロボットの姿へ変身する。陽歌は補助の為、ファイズフォンⅩを抜いて構える。

「ガキなんかに舐められてちゃ商売あがったりなんだよ!」

 サボテン怪人は鋭い棘を全身に生やし、ナルに向かって襲い掛かる。拳での戦いが基本であるナルにとって、ロボットの体で痛みがあるのかは不明だがやりにくい相手だろうと陽歌は警戒する。何せ全身棘だらけである。これは殴りたくない。

「死ねぇー!」

 まずは棘を飛ばしての遠距離攻撃という基本中の基本に出たサボテン怪人。しかしナルは飛ばされた棘を的確に装甲部分で弾き返す。そもそもこんな貧弱な飛び道具ではダメージにならないということなのか。

「これでどうだ!」

 いつの間にか飛んでいた雀怪人が上空からキックを繰り出してくる。風を切る音が騒々しい街中でも聞こえるほどのスピードを威力であった。

ただ戦力を逐次投入するだけではなく、頭数で有利を取る作戦だ。その辺はさすがにマーケットプレイスでも考えていたらしい。

「ふん」

 意味が無いという点を除けば。キックは無情にもナルに片手で掴まれて威力を殺され、そのままサボテン怪人に向かって投げられた。勢いを受け流して投げたのではない。完全に受け止めてエネルギーをゼロにしてから投げている。

「グワーッ!」

 瞬きする間にぶつかっていたというほどの速度でぶつかり、必殺技を受けるまでもなく二人の怪人は爆散した。爆風が晴れたところには、全裸の男が二人で重なって倒れていた。

「お、おい……例のアプリ、まだなのかよ!」

「月末だから速度制限が……」

 怪人が秒速で倒されたのを見て、リーダーらしき男が慌てて部下に急かす。部下はスマホを操作し、何かを必死で用意していた。しかしどこでも誰でもスマホの速度制限には苦しめられるものなのだ。

「フリーWi-Fiは使えねぇのかよ!」

「みんな使っててギチギチなんですぅ……!」

 わたわたしているマケプレの連中に対し、ナルは制裁を加えるべく歩み寄る。いつもの寝ぼけた姿が嘘みたいに騎士然とした姿勢で悪に対峙する。

「何をしたいのかは分からんが、大人しくお縄についてもらおうか」

 その時、急にスマホが輝き出した。それと同時に、スマホを中心として魔法陣の様なものが展開される。そして、その中から薄っすらとした白く丸い顔の様な小さい物体がいくつも出現した。それらの顔は子供の落書きの様であり、マジックで書かれたのか滲んでいる。そして完全な球ではなく紙の様なものを丸めた様な形状で、ちぎられたらしき痕跡がある。

「なんだこれは?」

「マシュマロだ! マシュマロの生首だ!」

 ナルは困惑しつつも警戒し、七耶はその正体を見切ったりと騒ぐ。たしかにそう見えなくもないが、マシュマロに首から下は無いのでは? と陽歌は思ったりした。その生首は集まって一つの大きな塊へ変化する。その上から黒く染まった個体が張り付き、子供の落書きらしき顔を再現した。

「見ろ! これが私の契約した悪魔、『アマザラシ』だ!」

「アマザラシ? タマザラシとなんか違うのか?」

 七耶が詳細を聞く中、陽歌はポケモンに詳しくないのと地味に世代を外しているのとでタマザラシを知らなかった。ルビサファリメイクも一世代前の話である。

(タマザラシってなんだろう)

「そんなこと! 私が知るか!」

 肝心の召喚した当人も何だかよく分かっていなかった。召喚や契約に必要だから名前を知っているだけで、詳しくは知らないという危険な匂いがビンビンする状態だ。この分では能力も知らないだろうによくこの窮地に召喚したものである。

「さぁ、お前の力を見せてくれアマザラシ!」

 召喚した男の指示を聞く前に、アマザラシと呼ばれた謎の存在は顔を歪めて雑音の様な声を発した。音が割れたスピーカーの様な音質で、その発言は聞き取れない。そしてその声を聞いた者はマケプレであろうが何であろうが喉を抑えて違和感を訴え始めた。

「なんだ……妙に喉が渇いて……」

「たしかに、少し寒くなってきたのにな」

 猛暑が続いたこの夏だが、台風が接近して少し冷えている状態だった。しかし周囲の人々は手にした飲み物を口にすると、とめどなく飲み続ける。

「なんだ? 飲んでも飲んでも喉が……」

「喉が渇く……」

 ロボットのコアであるナルと七耶は効いていない様子だが、陽歌は確かに喉の渇きを感じていた。

「どうした小僧?」

「陽歌くん、何か感じるか? 私達には何が起きているかわからない」

「暑くも無いのに喉が渇く……、口渇です! 多分あのアマザラシが原因で……」

 陽歌は二人に聞かれ、今の状況を説明した。彼は過去の経験からまだ我慢出来ているが、他の人達は飲んでも飲んでも尽きることの無い乾きに苦しみ始めていた。

「なんだこれは……!」

「もう水っ腹なのに、なんで喉が渇くんだ!」

 召喚した男もこの被害を受けており、人々は近くの自販機に殺到して飲み物を求める。陽歌も何ともないフリは出来たが、喉の乾燥で声が出せなくなっていた。

(こいつ……なんなんだ?)

「マズイぞねこ! このままだと小僧も多分危ない!」

「分かっている、最速でカタを付ける!」

 無差別に被害を撒き散らすアマザラシに対し、ナルは攻撃を仕掛ける。ともかくあれさえ倒せばこの現象は回復こそしないだろうが収まるはずだ。口渇の原因が純粋に水分を奪っていることだとすれば、体格に恵まれない陽歌は真っ先に命を落とす危険がある。ナルはアマザラシに飛び掛かる。

「タイガー……レイザーズエッジ!」

 銃弾をも弾く装甲さえ切り裂くナルの必殺が炸裂した。虎の爪が如き一撃がアマザラシを引き裂いた、かの様に思われた。

「何……?」

 しかし、彼女の指先には何の手ごたえも無かった。攻撃が通用しない、というか触れることが出来ないのだ。このうすぼんやりとした姿は、希薄な存在感の現れだったということなのか。

「なんだよ! スタンドはスタンドじゃないと攻撃出来ない的なルールなのか?」

 七耶はあまりにもルール違反な能力に憤慨する。その一方、陽歌は足が痺れ、眩暈がして立てなくなっていた。脱水の初期症状だと彼も分かっていたが、何かを飲んでも対策にならないというのならどうすることも出来ない。

(あ、これ死んだかも……)

 彼は死を自覚した。ナルが何度もアマザラシに攻撃する姿は見えていたが、徐々にその視界さえ暗くなっていく。

(短い間だったけど楽しかったな……最期にこんな楽しい思い出出来るなんて、思わなかった)

 死ぬことに恐怖は無かった。ミリア達と出会ってからの楽しかった時間は陽歌にとって夢の様なもので、本来は『悲しい』、『辛い』、『寂しい』、『苦しい』、『痛い』ことが当たり前だった。だからこの死も、来るべくして来るものとしか感じなかった。

(オフ会、行ってみたかったけど、僕はここまでか……)

 魂が天に昇り、自分の体が見える位置まで浮かんでいた。後悔は無い。最期に優しい世界があることを教えてもらっただけで、十分だ。

(ん?)

 満足して昇天しようとしていた陽歌の足を、誰かが掴んだ。そして思い切り引き戻され、魂は身体に押し込められた。

「が……はっ?」

 止まりかけていた心臓が急に動き出した反動か、胸に激痛が走る。心臓が張り裂けそうな感覚が長時間続いた。視野が赤くちらつくほど全身に激しく血液が送り込まれ、酸素を供給するために呼吸も早くなる。肺が限界を超えた速度と力で収縮を繰り返すため、肋骨など外に飛び出すのではないかという錯覚さえ覚える。乾いた喉で外気を急速に取り込む為、痛みに鈍い陽歌でも悶絶してのたうち回るほどの苦痛を味わった。脳の血管も太いものがかなりの本数切れたのか、金槌で殴りつけられたかの様な鈍痛に襲われる。

「お、おい何したんだ小娘!」

 近くの自販機でアクエリアスを買って来たらしき七耶は、一連の暴挙を働いた人物に抗議する。その人物は抑揚の少ない話し方ではあったが、この混乱の中でも一本の筋が通った様な透き通った声で返す。

「少々強引だが蘇生した。生き返る確率は殆ど無い上に成否問わず死んだ方がマシなほど苦しむし万一成功したとしても非常に重篤な後遺症が残るが……何もしないよりいい」

 彼女は綺麗な声で残酷なことを平然と言う。犯人は十代前半と思わしき少女であった。大きく見開いた赤い瞳は宝石の様に輝き、背中まで伸びた銀髪を真っ赤なリボンでツインテールに結い上げている。軍服の様な暗い赤のジャケットを着こんでいるが、タイトな造形の為か幼さを残す顔立ちに似合わずグラマラスなボディラインが強調される。

 脚はスラリと長く、黒いニーソックスにヒールの高い編み上げブーツを履いて尚引き締まった印象を持たせる。彼女はその足で陽歌を突き、様子を確認する。

「まさかとは思うが、負担に耐えて生きてはいるのか……植物状態の可能性は大だが、数年ぽっち待てば起きるだろう」

 淡い桃色の艶やかな唇から放たれる言葉は、とても人を人とは思っていない発言ばかりであった。七耶も文句を言いたかったが、まずは陽歌の容体が心配だ。万が一、この少女の言う様に植物状態になったとしてもアスルトが何とかするだろうが、何事も無いに越したことは無い。

「おい小僧! しっかりしろ! これを使うことになるとはな……」

 七耶はアクエリアスをさておき、巫女装束の袖からある小さな水筒を取り出す。蓋を開けると中に入っていた黒いドロドロした液体がさも生きているかの様に蠢いて飛び出し、陽歌の首に巻き付いてその皮膚から中へ浸透していく。数秒ほど時間は掛かったが、痛みの元がじんわりと温められて苦痛が和らいでいく。

「それは、お母さんの作った薬か?」

「そうだ。こんなこともあろうかと持たされていたんだ。参加者の命を守るためにな」

 ナルはそれが自身の開発者、即ち母であるアスルトのものだと気づいた。七耶も本当はオフ会で死人を出さないために持ってきたのだが、まさかこんな形で役に立つとは思っていなかった。

「小僧、これでもう安心だ。調子はどうだ?」

 陽歌は喋れこそしなかったが、何とか生きていて意識もあることを伝えるため天に手を突き出してハンドサインをする。一旦無事であると親指を立ててサムズアップしてから、グッとはっきりサムズダウンへ切り替える。これは七耶に対して『大丈夫』、そして少女に対して蘇生への感謝を伝えると同時に彼女への悪態でもあった。想像を絶する苦痛のあまり本心を取り繕う余裕を失っているようだ。

 周囲から迫害され、暴行を受け続けてそれを当たり前のことと思って生きてきた彼でも、心の奥底では苦痛を伴う扱いは嫌だと感じているのだ。

「『さぁ、地獄を愉しみな』? 何にせよ何ともないんだな?」

 七耶に肯定の意思を首振りで示す陽歌。彼の無事を確認し、七耶はようやく少女へ不満をぶつけるフェイズに移行できる。

「小娘! 助けるんだか助けないんだかはっきりしろ! もうちょっとマシな蘇生魔法は無いのか!」

 魔法に精通した知り合いがいる七耶は、もっと楽で確実な蘇生魔法の存在を知っている。それでも魔法自体が高度かつ死の直後に行使する、対象が神の庇護を受けているなど条件もあるのだが。

 少女はそんな事情を知ってか知らずか、しゃがみ込んで七耶と視線を合わせるなんて力義な真似をすることなく見下ろして冷たく言い放つ。

「あのね、ゲームじゃないのよ。そんなものあるわけないじゃない」

「ぐぬぬ……」

 正論に七耶も押し黙る。確かに正論だが、今起きている事態を目の当たりにすると一般人の陽歌さえ納得できない理屈であった。

(この状況でそれ言うかな……?)

「ええい気に食わん奴だ! 小僧、仕返しにパンツ見たれ!」

 七耶は倒れている陽歌を引っ張り、少女の股下に配置する。確かに彼女の赤いスカートは腰下までの長さしかないが、陽歌も素直に従えるほど心が汚れていない。普通に顔で目を覆う。

「衣服を見ることが何の仕返しになるんだ?」

 少女もこの行動の意味を理解していなかった。が、顔を隠したことで露わになった義手と、七耶の指示と恥ずかしさで葛藤し義手の指からチラチラ見えるオッドアイに彼女は気づいた。

「妙な義手と瞳……運がいい子と思ったらそういうこと。あんな乱雑な方法で生き返ったなんて。見た目からして普通じゃない様だけど、『こっち側』の者? 魔の物の気配も微弱ながらするけど」

 少女は陽歌の容姿について言及する。彼は嫌な思いをしたが、いつものことだとグッと堪える。こんな目の色では、外見でとやかく言われて当たり前だと諦めていた。

「……おい小娘」

 しかし彼女は、七耶は違った。ドスの効いた低い声で少女に向かって言い放つ。手には既に変身の為のプラモデル、『キャスト』と天魂が握られていた。

「こいつはな、普通の、ただの小僧だ。化け物からの攻撃は受けるし、嫌なことを言われたら傷つく、ただの小僧だ」

「……?」

 少女は七耶の怒りを理解していなかった。が、社交辞令として返事をする。

「何か尺に触る様なことを言ったのなら、取り消すけど?」

「取り消せとは言わん……。言ったことを後悔して死ね」

 両者の緊張状態はまさに一触即発。陽歌はアマザラシのせいでそれどころではないのと、一応少女が命の恩人であるため発言については多めに見ることにして場を収める。七耶が自分の為に本気で怒ってくれたのも嬉しかった。

「あの……それよりあれを何とかしないと被害が……」

「そうだ、あれ私では攻撃すら出来ないんだ」

 ナルもそれに乗っかる。状況は私闘を許してはくれない。マケプレの連中だけが干上がるならまだしも、無関係な市民も巻き添えを食っている。

「あんなのに苦戦していて、どうやって私を殺すのかしらね?」

 少女は手をアマザラシに突き出すと、何かがアマザラシを貫き、彼女の手に収まった。それは漆黒のロングソードで、血管の様な赤い文様が浮かんでいるという邪気を感じる存在であった。

 アマザラシは青い煙を吹き出して消滅していく。ナルでは攻撃も出来ない敵が、たったそれだけで撃破された。

「お子様はさっさと避難して、私に任せればいいの。私はカラス、退魔協会の退魔師よ」

ナルはカラスと名乗った少女について、以前仲間から伝えられたことを思い出す。

「カラス……? シエルちゃんから聞いたことがある」

「知っているのかねこ!」

「国立魔法協会と対立している、退魔協会と呼ばれる魔の物を討つ者達の寄り合い……。その最高位であるSクラス退魔師序列三位、サキュバスとのダンピール、『ブラッティレイヴン』のカラス」

「だんぴーる?」

七耶は聞き覚えの無い単語に戸惑う。陽歌はそれをフォローする。読書が趣味なだけにその辺りの知識は浅くも広い。

「ハーフヴァンパイア、吸血鬼とのハーフだよ。それも夢魔とのハーフなんて……」

これだけでも驚きだが、ナルは更に詳しく知っていた。

「ただのハーフではないよ。真祖と魔王など雑兵の様に扱う魔神級の夢魔との間に生まれたサラブレッドだそうだ。加えてあの剣は、魔界ヘルサイトに十三本しかない終焉クラスの魔剣が一つ、『リプスファクトゥ』。詳細は謎に包まれているが、少なくとも人間は当然、生半可な魔の物には装備すら出来ない代物だ。それが手元に召喚まで出来るとは……」

「要するにメッチャ強いのか、あいつ」

説明を聞き終えた七耶は『まぁ私なら負けないがな』とでも言いたげな表情でカラスを見ていた。陽歌はあまり凄さを理解出来なかったが、あのナルが攻撃すら出来ない相手を武器の呼び出しだけで撃破したので多分強いのだろうと判断する。

「強いんですね……」

「当然と言いたいけど、あれは下級の怨霊よ。干渉する手段さえあれば生臭坊主にだって倒せる」

カラス曰く、単にアマザラシにナルが苦戦したのは相性の問題だったらしい。魔法と区別が付かないほど発展したとはいえ科学で産み出された彼女と怪異では戦いのステージが噛み合わないのだ。

「お、おい、他に何かねぇのかよ!」

アマザラシを撃破され、マーケットプレイスのリーダーは安心した様なガッカリした様な気分になってメンバーに戦力を聞く。

「例のアプリ、他の奴も持ってんだろ?なぁ!」

「今起動してます! 安心してください! ポケットWi-fi持ってますから!」

先程とは違う人物がスマホを操作し、魔法陣を出現させる。さっきから彼らは何をしているのだろうか。必死な彼らをカラスは冷たい目で見下す。

「魔の物使役用のアプリか。いくら使い魔の契約魔法とプログラム言語に共通性があるとはいえ、そんなもので召喚出来るのは貧弱な浮遊霊が精々。仮に一線級のものを召喚しても対価を払えず無為に呼び出した怒りを買って死ぬだけ」

「メガテンでいう悪魔召喚プログラム的なものが出回ってんのか……危なっかしいな」

七耶はそれを聞いて危険性を感じた。実際、今まさに呼び出された浮遊霊が多くの人間を巻き込んで命を危険に晒したところだ。

「やりました!」

魔法陣からさっき見た様な白い球がポコポコと出てきた。またアマザラシを召喚してしまったらしい。

「バカ野郎! また同じのじゃねぇか!」

「ハズレ枠なのかあれ……」

リーダーが怒る中、七耶はあれでコモンクラスという事実に少し恐れを抱く。コントロール出来ないとその程度の怨霊でも大惨事待った無しということだ。

「アマザラシ……テルテルボーズとかいうモノの慣れ果てで、本来天の恵みである雨を否定し自らを捨てた者への恨みで形成される、渇きを与える怨霊か……」

カラスは知識をなぞる様に呟く。その言葉で陽歌はアマザラシの姿にピンと来た。塊であるが、それは白い紙を丸めた様な球で構成されている。そして千切った様な痕。

「そうか、童謡『てるてる坊主』の三番では天気を晴れに出来なかったてるてる坊主の首を切る歌詞がある……だからあれの一つ一つは切られたてるてる坊主の生首なんだ」

「え?何それ怖っ!」

七耶も知られざるてるてる坊主の恐怖に慄いた。だが、カラスがいる限り結局は瞬殺される運命にある雑魚怨霊に過ぎない。それはマケプレのリーダーも分かっており、更なる戦力を求める。

「やっぱオカルトと科学は相性悪いわ。おいお前! ダークウェブ? とかいうので何か霊買ったとか言ってただろ!」

「え、あ、はい。これですか?」

リーダーは仲間の話を思い出し、奇妙なペンダントを身につけた男を呼び出した。カラスは一笑に付そうとしたが、顔色を変える。

「ネットで売っている様なものは大抵インチキ……ではないようね」

「なんだ?マジモンの幽霊か」

七耶は構えるが、カラスの余裕は崩れない。霊自体は本物だが、やはりそこまで強力ではない様だ。

「ただの水子よ」

「ミズコ、だぁ?」

相変わらず詳しくない七耶に代わって、陽歌が水子について説明する。根っこの暗い性格が原因なのか、読む本のチョイスもそういう方向へ偏りがちだ。

「この世に生まれなかった、流産したり堕胎された胎児の霊だよ」

「何か悪さするのか?」

「いえ、一応無事に産まれた生命を恨んではいるんだけど、そこまで力のある存在ではないみたい」

カラスの侮りも分かる程度には弱い存在である。召喚されているわけでもないので本当にただの霊だ。

「アマザラシを殺したらあのペンダントは回収して供養に回す」

カラスは行動方針を決め、アマザラシに剣を向けた。その時、ペンダントから青白い光が飛び出した。その光はマケプレメンバーの女の一人の腹に吸い込まれていく。

「なんだ?」

「何が起きて……」

そしてその女は仲間の困惑も無視して、フラフラとアマザラシへ向かっていく。なんと、女はアマザラシの巨体に口を付けるとそれを啜り上げたではないか。彼女の表情からして、自らやっているのではなく何かに操られている様だ。

「なんか、モーレツに嫌な予感がする……」

「同感だ小僧」

陽歌は何処と無く最悪のパターンを想像していた。七耶も同じで、ナルは二人に退避を促した。

「二人共! 私の後ろへ! 防御を貼る!」

「わかったぞねこ!」

「ええ!」

七耶と陽歌が背後に隠れたことを確認すると、ナルは両腕を盾の様に構える。

「三戦、白虎之型!」

彼女の装甲が各部展開し、黄金のオーラが放出される。仲間を庇うための防御機構だ。十分に余裕を持って構築するべく、危険を察知して事前に発動しておく。

「う、ぐぐゥゥゥ!」

アマザラシを飲み干した女は、その腹を抑えて苦しみ出す。立っていられない様子で座り込むを超えてアスファルトに寝転び、身体を海老反りさせて喉の奥から声にならない悲鳴を上げる。

「ガギィィィッ!」

みるみる内に腹が膨れ上がり、臨月と見紛う様相になった。しかし腹の膨張はそれで収まらず、服を割いて膨らみ続けた。腹は空気を入れた風船の様に皮膚が薄く伸びていき、忽ち道行くバスと同じ高さまで大きくなる。薄くなった皮膚からは褐色の羊水に浮かぶ胎児の姿が確認出来た。臍の緒も何処かへ繋がっている。

「な、なんだあれ……」

「馬鹿な、ただの虚弱な水子でしょう?」

七耶すら戦慄し、カラスも動揺する事態になった。しかしそこはSクラス序列三位、早急に倒すことで事態を打開するため攻撃を仕掛ける。

「見掛け倒し!」

カラスが水子に斬りかかった瞬間、その水子は白目も黒目も無く真っ赤な両目を見開いて赤子の泣き声と似た音を発する。その声はどこでも聞ける様な赤子のものと同じだったが、心の底から冷える様な不快感を覚える。あちらこちらの電灯や信号機が点滅し、ビルのモニターも砂嵐に変化してしまう。

明らかな怪現象に陽歌は身構える。すると、周囲に赤黒い炎が竜巻の様に吹き上がり、周囲の空気を飲み込んでいく。

「これは……」

「うわぁあっ!」

眩い閃光と身体の芯まで届く轟音に陽歌は思わず目を瞑ってしゃがみこむ。ナルの張ったバリアのお陰で七耶共々火の粉と呼ぶには些か大きな火炎弾の巻き添えは免れた。だが周りにはそれが散らばり、被害を出していた。マケプレはもちろん、たまたま通りかかった通行人にも火炎弾が降り注ぐ。

「うぁぁぁぁっ!」

特に攻撃体勢だったカラスは炎の渦の直撃を受けてしまう。身を焦がす様な高熱に焼かれ、渦巻く旋風に巻き上げられる。流石に序列三位、かなりのダメージは受けたが致命傷には至らず意識もある。服の端々は焦げて破れ、雪の様な白い肌も軽く火傷を負って赤くなっていた。

(……っ! 体勢を……)

空中に投げ出されたが、飛行手段はある。何とか受け身を取ろうとするが、左脚を複数の何かに掴まれる。

「これは……!」

赤ん坊の手形らしきものがブーツにビッシリと付いていた。これが彼女を掴んだのだ。拘束されたカラスは風を切るほどの勢いで容赦なく地面へ叩きつけられる。

「がはっ……!」

物理的な有無を言わさぬショックに彼女は一瞬意識が飛び、呼吸が止まる。激突した場所には乗用車があったが、クッションになどならなかった。ひしゃげて潰れた車の、砕け散ったガラス片や変形して裂けた鉄板がカラスの柔肌に突き刺さる。

水子は泣き喚きながら何の躊躇いもなく、普通なら死んでいるであろうダメージを受けた彼女をアスファルトへ何度も何度も叩きつける。名古屋の膨大な交通量に耐える頑丈な道路へ一撃でクレーターを作るほどの力であった。

「き……あ……」

 まるで子供が手荒に玩具を扱う様に、カラスはアスファルトだけでなく電柱や建物にも打ち付けられていく。

「ねこ、今のうちに攻撃だ!」

「僕らへ攻撃は飛んでこない。あのSクラス序列三位さんがリョナられてる間に……」

水子の意識がカラスへある間に反撃すべきと七耶と陽歌は意見を一致させる。しかし彼女はそれを断る。

「ダメだ」

それと同時に、空へ振り上げられたカラスが拘束を脱する。掴まれた左脚のブーツを脱いでいた。咄嗟に指先から血しぶきでカッターを作ってブーツを切り裂いたのだ。腰から蝙蝠の様な翼を生やして飛行し、水子への反撃を試みる。

「よくも……!」

それに合わせて、水子はより一層大きく耳障りな声で泣き叫ぶ。声そのものが鋭い空気の刃へと変化し、カラスの華奢な身体を深々と切り刻んだ。手足はもちろん、肩口や脇腹からも鮮血が吹き出す。

「っぁああ!」

突風の力もあり、彼女は地面に向かって吹き飛ばされた。コンクリートで出来た地下街への入り口へぶつかり、それを粉々に砕く。舞い上がった粉塵が晴れると、カラスはボロボロになりコンクリートのカケラや粉を被って力なく横たわっていた。黒いソックスは所々穴が空いて白い素肌とのコントラストを目立たせ、結っていた髪の片方が解けている。麗しい少女が痛めつけられる姿は背徳的な支配感すら覚える光景であった。

カラスに憤りを感じていた七耶も溜飲など完全に下がって心配が湧き出る有様だった。

「これがある」

ナルは風の刃や類する反撃を読んで攻撃へ転じなかったのだ。それに一つの懸念もあった。

「同時に、私の拳が奴に通じない危険がある。アマザラシと同類の亡霊だとすれば尚更。その上で守りを崩すリスクは背負えない」

「そうか? かなり物質化してるから効くと思うけど?」

 七耶はナルを信頼して攻撃が通じると考えていた。が、急に陽歌の足元へ現れた兎は否定する様に、首を横に振っていた。

「こいつは?」

「君は……」

 それはただの兎ではなかった。見かけこそ一見、飼育小屋にいそうな白い兎だが、何と一つ目だ。それも片方だけに目があるのではなく、顔の中央に、縦に開いた黒い瞳を持っている。

「そういえばお前が死にかけそうだった時、ぼんやりとこいつの姿が見えたな」

 七耶が陽歌の危機に気づいてアクエリアスを買って来たのは、この兎に教えられたからだった。彼はこの兎に大いなる心当たりがあった。

「この子、僕が前に通っていた小学校で可愛がっていた兎です。いつからかいなくなっちゃったけど、こんなところに……」

 友達のいなかった陽歌はよく飼育小屋に通って動物に慰めてもらっていた。その中にいたのがこの一つ目の兎で、他の児童は気味悪がったが、外見が原因で虐めを受けていた彼はこの兎が他人とは思えずにいたのだ。

「この兎、何か知っている様だが……」

 兎は立ち上がり、両手を前で合わせて上下させている。何を伝えたいのだろうか。陽歌はもちろん、ナルと七耶にも分からなかった。

「要領を得ないな……。もしかしたら超精神のテクノロジーなら通じるか?」

「ねこ、お前暗に私に『課金しろ』って言ってるな?」

七耶はナルの真意を汲み取った。七耶もナルの様に変身でき、その能力は彼女達四聖騎士団の個々を大きく上回る。何せ、ボディは地球製レプリカとはいえ伝説の超攻アーマー、サーディオンなのだから。しかし、それ故に制限もある。それが『リアルマネーの消費』である。

それでも周囲の罪無き市民(マケプレは当然除く)の命には代えられない。七耶は変身を決意する。

「この動き……そうか!」

 一方、陽歌は何とか兎の意図をくみ取ってやってみることにした。

「赦すな、赦すな、我が痛み……」

「ところで小僧、何やってんの?」

彼が右手を翳して何か試みているのが七耶は気になった。ただ翳しているだけでは無い。呪文の詠唱と共に彼の周りに黒い気が集まっている。

「『マックスペイン』の具現化を試してて……。あの事件以降、一度も成功してないけど……」

「あの武器か。やっぱそう上手く使えるもんでもないか……」

マックスペイン。普通の少年である陽歌がミリア達と共に世界終焉シナリオに立ち向かう直前に、それとは別の要因によって発現した武装のことだ。ナルもそれについては直に見てこそいないが聞かされてはいた。

「確か、奇怪な動画の催眠で精神から引きずり出された、己の精神性を具現化した武器か……もしや亡霊にも通じるかもしれん」

詳しい説明は省くがスタンド能力的な物の武器版みたいなものである。しかし陽歌は天性の使い手でも修行の末体得した人間でも無いため、未だコントロールどころか自在に具現化することさえ出来ない。以前の事件では黒幕の影響でその手の能力が出しやすい環境だったのと、ミリアやさなの助けになりたいと必死だったから使えただけのことだ。

「出ろ……出ろ、出ろ!マックスペイン!」

七耶やナルを助けたいと願いながら、強く念じる。すると、徐々に銃らしきものが形作られていく。一見するとただの、現実にいくらでも転がっていそうな自動拳銃。漆黒の銃はスライドの部分に『Max Paine』と銘が刻印されている。兎の手の動きは、銃を撃って反動で手が動く様子を表していたのだ。

「よし……!」

 そして遂に姿を現すマックスペイン。陽歌の小さな手にも収まるグロッグ辺りがモデルらしき小さな銃だが、威力のほどはいかに。問題は何発撃てて、どれだけ具現化が持つかだ。以前はいくらでも撃てたが、今回は具現化にさえ手間取っている。

「まだ……だ」

 カラスも諦めていなかった。ボロボロの体に鞭を打ち、何とか立ち上がる。脚は震え、まともに意識も保てないほどだった。それでも、魔剣を手に水子へ斬り掛かろうとする。

「行くぞ! マックスペイン!」

 陽歌は水子の頭に銃口を向ける。アイアンサイトだけでも十分に狙いを付けられる。ナルは攻撃の止んだ隙を見計らって、タイミングを指示する。

「今だ!」

「よし……!」

 ナルの影から飛び出し、狙いを付ける。しかし周囲でカラスが戦闘をしているので誤射を恐れて中々引き金を引けない。最悪一発しかないと想定すると頭にぶち込みたいのだが、その頭周辺で攻防を繰り返されているので完全に射線へ被ってしまっている。

「邪魔―っ!」

「戻れ!」

 七耶に引っ張られ、再びナルの影へ隠れる陽歌。また火炎弾や風の刃などが飛び交う様になっていた。この攻撃を掻い潜った上で邪魔なカラスがいない間に一発だけ弾丸を決める。かなりの難易度だ。

「あんの小娘……」

 七耶は陽歌以上に苛立っていた。その時、近くのマンホールが開いて中から人が出てくる。

「やっほ」

「マシマさん!」

 見た目普通の好青年だが、そんなとこから出てくるのとナルが名前を知っている時点で陽歌は『あ、この人もこっち側かぁ……』と瞬時に理解した。

「そんなとこで何してんだ?」

「え? いつものことじゃないの?」

 七耶がエントリー方法に疑問を呈しているのが最早意外なレベルだった。

「いや、新システム『どこでもマシマ』を試したんだが……精度はともかく何処から出るのか分からないのがな。女子トイレから出たら目も当てられない」

「ちょうどよかった! ちょっと壁役代わってくれるか? これを切り開く手段が限られている!」

 ナルは何と、普通の人間にしか見えないマシマに壁役の代行を頼んだ。どう考えても無理である。ナルはロボットだから出来ている様なものだ。

「え? 無理でしょ!」

「作戦は?」

 無理、と思った陽歌に対してマシマは可能なことを前提に作戦を聞く。

「この子……陽歌くんの銃剣、マックスペインの弾丸であれをぶち抜く。効くかは微妙だが……」

 マシマは陽歌の銃を見てある単語を呟く。

「マインドアーモリーか……効くぞ」

「え? 本当ですか?」

 マインドアーモリー、その単語自体はユニオンリバーに引き取られて能力を調べて貰った時に何度か聞いたことがある。この能力の総称らしいが、他の使用者を見たことが無いのでどういったものか認識が曖昧だったのだ。

「あの水子もそれもマインド、精神世界の産物だからな。依り代使ってあんだけ物質化してりゃ普通の攻撃も当たるかもしれんが、根っこが怨霊ならそいつで仕留めた方が確実だ」

「分かりやすく言えば『スタンドはスタンドにしか傷つけられない』って奴だ」

 マジマの説明を七耶が噛み砕く。とにかく有効な手段ではあるのは確かだ。

「よし、あの女を射線上から引き離す。マシマさんは防御を!」

「任された」

 ナルは持ち場を離れてマシマに託す。一方、カラスは未だ苦戦を強いられていた。

「ぐっ……ああああっ!」

赤子サイズの拳で無数に打ち据えられ、両膝を地面に着く。サイズこそ赤ん坊のものだが硬度は鋼鉄を凌駕し、その威力は一撃受けるだけで骨が砕ける鈍い音が全身に響くほどであった。もう倒れない様にするだけで精一杯のダメージが蓄積していた。

「がふっ……あ」

 内臓にもダメージが入り、赤黒い血の塊を吐瀉物と共に吐き出すカラス。それでも、抵抗という名の妨害はやめない。大人しく引き下がった方が自身のダメージも減って敵も倒せて誰も損しない展開になるのだが、プライドがそれを許さない。果敢というより無謀にも彼女は水子へ飛び掛かる。

 水子は再び泣き叫び、突風の刃を放つ。この刃は陽歌達の下にも飛んでくる。いい迷惑である。

「ふん……!」

 しかしマシマが両腕を突き出して風の刃を受け流す。それだけではない。無数に飛んでくる見えない赤子の拳も、火炎弾も全てナルの防御と引けを取ることなく防いでいた。

「あなたは一体……」

「ただの人間だよ」

 陽歌の疑問にマシマは答えるが、全く答えになっていない。

「私はしがない理学療法士でね。ところで君は、身体のダメージを癒すのに最も効果的な方法は何だと思う?」

 マシマは陽歌に聞く。生傷の絶えない生活を送ってきた彼には耳も心も痛い話ではあった。

「そもそも痛い思いはしたくないです……」

「そう、それでいい」

 本心から出た愚痴がまさかの正解だった。

「一番の治療はそもそもダメージを受けないこと! 予防だ! そしてこれが究極の予防!」

 つまり、防御技術でダメージを全部防げば初めから治療はいらないという理屈だ。理解できるが納得は出来ない陽歌であった。

 ナルはいざとなったら拳圧の突風でカラスを飛ばして射線を確保しようと、彼女の戦いを見ていた。カラスは風の刃を剣で防いで接近しようとしたが、身体のダメージがそれを許さない。

「うくっ!」

 咄嗟に剣を構えようとするが全身に激痛が走り、動けなくなる。それでも風の刃は待ってくれない。大きな刃がザックリと彼女の左肩から右脇腹までを切り裂いてビルに取り付けられたモニターまで吹き飛ばす。

「あっ……!」

 本命の斬撃も深々と抉るほどの力があったが、余波もすさまじくカラスを叩き付けられたモニターは砕け散り、内部の電飾が破損して漏電してしまう。その電流は水子の叫びで特殊な力を得ているのか、人間以上に頑丈な彼女でも感電して体の自由が効かなくなる。

「きゃぁああああっ!」

 全身の激痛にカラスは見た目相応の少女らしく悲鳴を上げることしか出来ない。彼女はあちこちを焦がしてそのまま地面に落ちる。もう戦う力は残っていないだろう。ナルは陽歌の援護に集中することにした。

「邪魔は入らない! 陽歌くん!」

「おう!」

 彼女の呼びかけに応じ、彼はマシマの影から出て銃を構える。

「大事なのは心だ。呼吸をする様に出来て当然と思えば、不可能はない!」

 彼のアドバイスを受け、陽歌は頭にイメージを作る。いつもの様に射撃が命中し、水子が脳漿をぶちまけて消滅する姿を想像した。

「ぶっ壊れろ!」

 陽歌が引き金を引く。激しいマズルフラッシュと共に、銃身の小ささからは想像できない大口径マグナム弾クラスの弾丸が飛び出す。精神の産物にも関わらず、銃はリコイルと排莢を行う。流石に反動で腕が跳ね上がったが、軌道は真っすぐに水子の脳天へ向かって描かれていた。

「ん?」

 その時、ナルが尋常ならざる気配を感じて振り向く。なんとカラスが尚も立ち上がり剣を天に掲げて何かをしようとしていた。

「水子如きにこれを使いたくなかったけど……負けたくない……!」

剣に集まる桃色の魔力、そして紡がれる詠唱、分かり易く必殺技の準備だ。彼女と水子を結ぶ一直線には陽歌がいる。

「ソドムの心はここに、我が剣は欺瞞を祓いし熱情の焔。理を呑め、『艶美なる……』」

「タイガー……バシニングフィスト!」

 危険を予知したナルはカラスを炎の拳で思い切り殴り、ビックカメラの二階へ向かって吹き飛ばした。陽歌を巻き添えにするばかりか、どう考えても彼の攻撃と違っていらん被害が出る気しかしないからだ。仕方ないね。

「あぁぁぁっ!」

 吹っ飛ばされたカラスはビルのガラスを突き破り、ビックカメラの二階売り場を滅茶苦茶にしながら天井と床を何度もバウンドして、向こう側の壁にぶつかった時点でようやく止まる。流石に限界を超えたダメージで、遂に彼女も気を失った。

 一方、陽歌の放った弾丸が見事に水子へ命中。その脳天を貫き、突入口とその反対側から羊水や血を吹き出させた。元々褐色に濁っていた羊水はあふれ出した脳漿でさらに濁り、その羊水が抜けていくことで異様に膨らんでいた依り代の女の腹もしぼんでいく。

「うわ! 汚い!」

「後片付けとか想像したくないね……」

 七耶とマシマは羊水の濁流に呑まれない様に、近くの地下街入り口の屋根に飛び乗った。陽歌と兎もナルが回収し、停まっていた車の上に乗せる。この水はかなり生臭い。

だが、まだ水子本体である胎児の部分は生きている。余った腹の皮を被りながら、蠢いていた。陽歌はトドメを刺すべく、車から降りて水子に向かって走っていく。もう弾丸は出ないが、銃床で殴るという手段がまだ存在する。銃身を持ってグリップをハンマーに見立てる。

「いけぇええ!」

 思い切りジャンプして攻撃が頭に届く様にする。背中に届くほど全力で銃を振り上げ、叩き付ける様に振り下ろす。銃床には何の仕掛けも無いが、陽歌の想いを受けて水子の頭蓋を叩き割る。乾いた音が街に響き渡る。水子は泣き叫びながらドロドロに溶けてなくなっていく。

 後に残ったのは、腹の皮が伸びたマーケットプレイスの女だけだった。これで完全に事件は解決された。

「終わった……」

「おい、この汚水で品物ダメになってないだろうな?」

 陽歌は一安心するが、七耶が肝心なことに気づく。万引きされた商品は一体どこに行ってしまったのか。以前はドタバタやっている間に回収されてしまったが、今回はどうなったのか。

「安心したまえ!」

「アキレスはここだ!」

 その時、どこからともなく声が聞こえた。交差点の信号機の上に二人の青年が立っており、その手にアキレスの箱が収まっていた。なんと、商品は無事だった。二人組の青年がいつの間にかマケプレから奪還していたのだ。

「大使兄弟!」

 変身を解除したナルがその人物の名前を叫ぶ。どうやらまた知り合いらしい。今回は信号機の上に立つという登場で、やはりこの人達も人間卒業勢なのだろうか。

「マグマ大使?」

「なんでそれが出てくるんだ……」

 ふと陽歌が呟いた言葉に七耶が反応する。いちいち笛を吹いて子供から順に呼ばないといけないのは面倒なシステムである。

彼らは信号機から飛び降りると、ビックカメラへ向かった。

「さて、これを返しにいくか」

「そうだな」

 返すといっても近くのカウンターへ置いてくるだけというだけの手軽なもの。ここで全員が一旦一か所に集まり、これからの行動を決める。

「よし、登山行くか」

「そうだな、後片付けに巻き込まれると遊ぶ時間が減る」

「ですね」

 全員一致でこの場からの逃亡を決めた。警察の事情聴取を受けると時間を取られてしまう。ましてやこんな怪奇事件など何度事情聴取をしても足りないだろう。そういう訳で一同はこの場を離れることになった。

「あれ?」

 陽歌がふと周りを見ると、一つ目の兎はいなくなっていた。ナルに車の上へ連れて来られた時は確かにいたのだが。一体、あれはなんだったのか。

 

   @

 

 愛知県警の岡崎署には、出世の袋小路と呼ばれる部署が存在した。その名は『異常事件課』。不可思議な事件を捜査する為に結成された部署であるが、上層部がその事件を引き起こす怪異や超技術の存在を信じていないため、閑職として、キャリアの墓場として扱われていた。

「これから名古屋に、ですか?」

 狭くてボロボロの部屋で、一人の女刑事が部長の指示に思わず聞き返す。黒髪をポニーテールに結い、動きやすそうなパンツスーツを纏ったその女刑事は名古屋に行くこと自体異存は無かった。何せ異常事件課はその人員と予算の少なさへの対策と、配属された警察官のご機嫌取りの為に与える特権として通常の管轄を超えた捜査の権利を持つ。

これは市の管轄はおろか、県を超えて日本全国に渡るもので、縄張り意識の強い警察組織において異常事件課が鼻つまみ者扱いされる原因の一つにもなっていた。

「すまんな直江。どうしても上が行けっていうからさ」

 人の良さそうな中年の部長は女刑事、直江愛花に断りを入れる。彼も上の指示に不満があったようだ。

「マーケットプレイス対策なら我々が出張る必要も無い……というか静岡の一件で使った怪人化する薬の大本を探る方が優先になりそうなもんですが」

 彼女はふと、上が名古屋に人を寄越す理由になりそうな事件を思い出す。新商品のライダーベルトを巡ってマーケットプレイスという転売屋集団が押し込み強盗を行ったとか。その際に怪人化する薬なるものを持ち出しており、静岡の異常事件課では追跡捜査が行われている。また、同県ではホビー用小型ロボットLBXを用いたアイドルの狙撃未遂事件が起きており、やはり異常事件課が対応している状態だ。

「いや、そこじゃなくてな……なんでもユニオンリバーっていう連中とそのシンパが乱痴気騒ぎを起こすだろうから監視してくれって」

「まだ何も起きてないじゃないですか。いつからうちは犯罪係数で取締をする様になったんですか? それとも、大犯罪の計画でも掴んだんですか?」

 上の指示は、ユニオンリバーが開くオフ会の監視だった。この団体は一般企業であり、公安の警戒対象というわけでもない。犯罪を起きてから、起こしている最中に捕まえるのが警察の基本で、計画も立てていない相手を犯罪者扱いして監視など以ての外だ。

「移動しながらでいいから、この資料見てくれ。斜め読みでもいいぞ。とにかく上のご機嫌取るには監視したって事実が重要なんだからな」

 部長も真剣には捉えておらず、既成事実の成立のみが目的であった。

「念の為に拳銃くらいはもってけ。俺が許可する」

 部長は直江に鍵を渡す。これが銃を管理するためのロッカーを開ける鍵となっている。部屋の鍵とロッカーの鍵がキーホルダーで纏められず、別々になっているなど厳重さを伺わせる。

 直江は部署の近くにある部屋へ鍵を開けて入る。そしてロッカーを開くと、保管されていた拳銃とホルスターを手にする。拳銃は警察で一般的に使用されるリボルバー、ニューナンブではない。自動拳銃であり、自衛隊でも使用される9㎜拳銃と呼ばれるジグザウエルP220のライセンス生産品である。なぜこうなったかというと、装備の提供元である退魔協会と拳銃弾の規格を合わせるためである。

「対化け物用の弾丸はシルバーバレットって相場決まってんだけどな……」

 予備弾倉から覗く装填された弾丸を見て、直江はぼやく。その弾丸は一般的な9㎜パラベラム弾と何ら変わらず、銀の弾丸などではない。どうやら本物のシルバーバレットは化け物退治を専門とする集団である退魔協会でも滅多に流通しておらず、ただの弾丸をいっぱい並べて祈祷しただけのものが主流である。

 ぶっちゃけ、『受験生の為に御祈祷してもらいました!』という願掛け商品レベルの代物だが警察装備としては強力な部類ではある。それよりは、と彼女はスーツの懐に忍ばせた警棒を手にする。これも祈祷の効果で化け物退治に使える装備らしい。

「さて、行きますか」

 準備を終えた直江は出発する。既に事件が起きていることも知らず。

 

   @

 

事件を収めた一行は、当初の目的通り『登山』に向かうことになった。名古屋から移動した目的地の最寄り駅で他のメンバーも合流し、中々の大所帯になる。到着したのは山ではなく、『マウンテン』という名前の喫茶店であった。

「登山って……こういうこと」

陽歌も登山という表現を少し理解した。店の名前が山だから登山なのだ。しかしただ喫茶店に行くだけならそんな言い方はすまい。きっとユニオンリバーの様に行く人が行けば分かる価値があるのだろうと判断する。

(何かのアニメで使われたのかな?)

そんなことを思いつつ、陽歌はぞろぞろと入店するメンバーに続いて店に入る。最近のチェーン店とは違い暖かみのある照明で神経過敏な陽歌にも優しい。

席にはすぐ着けて、メニューを見ることになった。そこそこの大人数で来たが、それでも広々座ることが出来る。

(でもこういうことって来たこと無いな……)

外食慣れしていない彼はメニューを見てもどうすればいいのか分からなかった。というわけで他の人の注文を参考にすることにした。幸い、彼には食物アレルギーが無く、その点に関しては両親に感謝するところであった。好き嫌いも経験上、無いに等しい。

「抹茶スパね」

「ロバライス頼もうかな」

(何それ……?)

次々と注文されるメニューに陽歌は目を丸くする。名前からは何が何だか想像出来ないものや、とても正常な食べ物とは思えない名前のものがあった。

「あ、私土鍋カキ氷ね」

頼みの七耶ですらこの有様。これではただでさえ霧の中にいる様な状態なのに、加えて街頭の無い深夜みたいな状況だ。

「こうなったら……名前から想像しやすいものを……」

というので名前から容易に中身が判別出来る『甘口メロンスパ』を選択することにした。美味しい果物の筆頭であるメロンはどう料理しても不味くなるはずがないのだ。それに、スパゲッティといえど材料はケーキのスポンジと同じ小麦粉なのだから変な味にはならないはず。

「飲み物は?」

「飲み物?」

ナルに飲み物のオーダーを聞かれ、陽歌は困惑する。既にお冷があるのだが、これとは別に頼むものなのだろうか。

「飲み物……」

ジュースを飲んだ経験も疎い彼にはソフトドリンクを選ぶのでさえ困難を極めた。

「二人は何にしたので?」

「いや、私らはカキ氷食べるしな」

朝のマックではとりあえず七耶やナルを真似していれば何とかなったが、今回はそれも通じない。

(困った……ん?)

しかし、そんな彼の目に救いとも思える文字が飛び込んできた。それは『メロンソーダ』というものだ。

(これは……!)

以前助けたアイドルの早坂美玲について調べた陽歌だったが、メロンソーダが彼女の好物としてプロフィールに書かれていたのだ。アイドルが好むくらいなのだから大丈夫だろうと確信し、それを頼むことにした。

「メロンソーダで」

「メロンとメロンが被ってるな」

「まぁ問題無いですに」

オーダーが出揃い、注文した料理が来るまで雑談タイムである。ここにいるメンバーは全員、模型趣味の持ち主だ。陽歌は初心者といえ、話が合わないことはないだろう。

「そうだ、GBNやってる人」

大使弟が何かをやっているか聞いてきた。七耶やナルを含めて陽歌を除く全員が手を挙げた。

「じーびーえぬ?」

陽歌が知らないので、大使弟は説明を付け加える。同好の志同士ではついウッカリ、専門用語を当たり前に使ってしまいがちだ。

「ああ、ガンプラネクサスオンラインのことだよ。ガンプラバトルの出来るオンラインゲームでね」

「そんなのあるんですね……ん?」

話を聞いていると、ふと彼はあることを思い出した。それは、やはりというか早坂美玲に関係することであった。彼女を助けたことで所属事務所からお礼の品が届いたのだが、緑のブサイクなマスコットのぬいぐるみや美玲がよくメディアに出る時着ているパーカーなどに混じってあるものが入っていた。

「そういえば前届いた荷物にガンプラバトルネクサスオンライン用のゲーム機?らしきものが入っていたんですよ。お手紙によるとファンから届いたけど複数個届いてしまったので一つ譲るとか……」

アイドルはプレゼントをファンから貰うことも多い。だが、中には複数個持っていても仕方ないものがダブってしまうことも少なくない。中古屋に売るのも気が咎めたのだろう、そこで恩義のある人物に譲る形で義理を通したらしい。

「ええ?それは凄い! 大抵、みんな近くのガンダムベースに行ってプレイするんだけど」

「専用のマシンがあれば割とのんびり遊べるな」

大使兄とマシマはその価値を陽歌に伝える。彼はゲーム機自体触ったことが無くてどうしていいのか分からずまだ開封していないが、帰ったら思い切って開けようと決めるのだった。

「というとガンプラバトルの経験も無い感じ?」

「あ、はい。一応、バトル用の機体は借りて来たんですけど……」

「こいつはLBXの方が強いかな」

そんなこんなで模型の話で盛り上がる。生まれてこの方、娯楽とは程遠い暮らしをして来た陽歌にはその全てが新鮮であった。

机の端ではFAガールやメガミデバイスが話をしていた。中には青髪で獣耳の生えた少女、七耶達の連れてきた『スティ子』もいた。

「あ、やっほ。なんかみんな顔疲れてるね」

「お前今まで寝てたのか……?」

スティ子は移動中どころかあの激しい戦闘でも一切目を覚ますことなく寝ていた。これには七耶も呆れるばかりである。

(あ、そうだ。これこれ)

陽歌はアスルトから渡された薬を鞄から取り出す。これは消化を助ける胃薬だ。小柄で虚弱な彼は人より食べて体重を増やさないといけないが、育ち方が原因で胃が小さい。胃が小さいと食べられない、だから体質が改善出来ないという負のスパイラルに陥ってしまう。そこでアスルトが開発したのがこの薬で、弱い消化器官の手助けをして食の細さという原因の一つを断ち切るものとなっている。中身は凄い消化酵素の詰め合わせで、外的要因で消化してしまって吸収に専念させようという作戦だ。

「お待たせしました」

料理が到着すると、その世紀末さに陽歌は驚きを隠せなかった。緑の麺に餡やホイップクリームが乗ったパスタ、パインが入ったピラフらしきもの、土鍋いっぱいの緑麺やらカキ氷。スイーツに分類されるだろうに湯気が立っている有様だ。

「そしてこれがメロン……」

陽歌の頼んだメロンスパは緑麺に網目模様のホイップクリームと大人しく見た目をしていた。だが、問題はメロンソーダだ。

「え……」

大きなジョッキに入ったメロンソーダにアイスクリームが山盛りである。アイスクリームが好物の彼は、下のメロンソーダはとりあえず視界の外に置いておいて、それを喜ぶことにした。

「わぁ、こんなにアイス食べていいの?」

「……プラス思考だな」

七耶達は全員、頼んだ料理の予想を超えたエグさに慄いていた。そんな中、陽歌のいつもと変わらない様子だけが希望だった。

「マジか……」

「おいおい……」

食べ始めると、先程までの賑わいは何処にいったのか、全員で無口になる。陽歌はだんだん不安になってきたが、普通にメロンスパを食べ進める。麺までメロン味で甘い上に暖かいという、なんとも奇妙な味であった。

(まぁ、フォンダンショコラっていう暖かいスイーツもあるらしいし……こんなものか)

彼としては『こんな料理もあるんだな』程度の認識でしかなかった。どうしてもダメなカップ麺以外なら拒否感無く食べられてしまう。

軽くメロンスパを食べ終わると、お楽しみのアイスに手をつけ始める。しかし、普段は食事のペースが周りより遅いと感じている陽歌は自分が食べ終わっても周りの食が進んでいないことに違和感を覚えた。

「皆さん?」

あんな事件の後だ。体調でも悪くしたのかと心配して声を掛ける。ああいう事件を自分の力で乗り越えて自信が付いたのか、他人を気遣う余裕が出て来た。

「お腹痛いんですか? 胃薬使います?」

 陽歌の皿を見て、その場にいた全員が驚愕する。

「え?」

「何……?」

「まさかお前……!」

「何かやっちゃいました?」

 その反応に彼は思わず異世界転生してきたチート主人公の様な反応をしてしまう。マシマはこの店について詳しいのか、何が起こっているのかを説明する。

「甘口メロンスパはな……そのマイルドな外見に反して高難易度と称される登頂難度を誇る鬼畜メニューなんだ……甘い麺とホイップクリームが暖かく、とても食べられたもんじゃない」

「もしかしてアスルトさんのお薬のおかげ……?」

 ちょっと自信が付いたからといっても根本は自己評価の低い引っ込み思案。とても自分がそんな難行を達成できたとは思えず、アスルトの薬が原因だと思った。

「いや、それは味覚の改ざんまでは出来ないはずだぞ? 普通にお前が甘口メロンスパに打ち勝ったんだ」

 七耶は陽歌のぶっ壊れ味覚に驚くことしか出来なかった。他の人達も、次々に陽歌へ自分の頼んだトンデモメニューを食べさせる。

「甘口抹茶スパ!」

「食べれなくないですよ?」

「ロバライス!」

「こういうのもあるんですね」

 特に味への抵抗なく料理を食べる陽歌。本当に味覚に関してはぶっ壊れているらしい。その後もワイワイと楽しい時間が続いた。今頃半生半死だろうが、無理やりにでも蘇生させてくれたカラスには曲りなりに感謝するべきだろうと陽歌は思ったりした。

 

「ふん……今更マスターなど……」

 そんな楽しそうな机を、窓の外から見つめる存在がいた。特に、FAガールのいる場所を。その小さい人影は、誰にも気づかれずにその場を去った。果たして、この正体は一体? 次回を待て!

 




 いよいよ始まるオフ会! しかし彼らを待ち受けていたのは謎の野良FAガール!
 そして昨日の影響で現れる新たな怪異! さぁ、お前の積みを数えろ!
 次回、ハロウィン編を挟んで後編!

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