騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
コアガンダム
多数のアーマーやウェポンの組み換えであらゆる状況に対応する機体。アルスコア、コアⅡがいるが、全てのアーマーを全てのコアガンダムが一部パーツを除いて装着できる。アースリィ、マーズフォー、ヴィートルー、メルクワン、ジュピターヴは色の違う部分が共通パーツで、変更部分が差し替えられる。ユーラヴェン、サタニクス、ネプテイトも同様。
「つまり……記憶喪失と……」
謎のダイバーを保護した陽歌と詩乃は、一旦医療用ディメンション、アスクレピオスへ帰還した。通常のダイバーは入ることのできない場所ではあるが、状況が状況だけに入れることとなった。
アスクレピオス内の茶屋でゆっくりと状況を確認することにした三人。和風の傘の下に、赤い布が敷かれたベンチへ座ってお茶する。
「……」
少女は陽歌より年上、十代前半ほどに見える。自分のことが分からないということで、不安そうな様子を見せている。
「記憶がないばかりかログアウト出来ないなんて……」
「現実の肉体が心配ですね」
深刻なのは、この少女が記憶を失っているだけではなくどういう理屈か『ログアウト不能』という状況にあること。オンラインゲームでよくあることとしてはむしろ、ログインできない、サーバーから追い出されるという不具合の方が多い。が、その逆というのは物語では使い古されたパターンだが、現実では古今東西類を見ない状態だ。
「そうだよねー。今、運営に通報して色々調べて貰っているけど……」
「一応、さも現実の様にダイブしてますけど、この状態の肉体ってどうなってるんです?」
詩乃は運営に報告、そして院内でも脳波から彼女の健康を確認している。
「うーん、現実じゃ椅子に座ってレバー握ってるね。だから早く肉体を確保しないと」
「エコノミー症候群ですか……」
長時間座っていると、命に係わるのは有名な話だ。この少女が何時間プレイしているか分からないが、早く身体を保護するに越したことはない。
「まぁ、自宅に筐体持ってるユーザーは少ないし、ゲーセンでプレイしてるなら誰かが異常に気付くでしょ」
これ以上不安を煽っても仕方ないので、詩乃は前向きなことを言う。場所が場所なら、運営が保護する前にだれか気づいてくれる方が早いだろう。確率で言えばゲームセンターで時間切れになっているのに座り続けるので店員が確保する方が高いだろう。
「とりあえず甘いものでも食べて落ち着きましょうか」
「……うん」
「ですね」
この少女の名前は、メニュー画面を見た限り『ヴィオラ』というらしい。無い記憶についてこれ以上考えてもどうしようもないので、ゆったり休んで体調を整えるのが今、もっともすべきことだろうか。
「落ち着く」
陽歌は箸で器用におはぎを摘まんで食べる。現実の肉体が自由でも内臓系の疾患で食事制限がある人も多く、味覚だけを楽しめるGBNはそういう面でも重要な要素を持っている。
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「そんなことがありまして……」
「大変そうねぇ、なんだか」
陽歌は一応、小学生の身であるため学校に通う努力をしている。保護される前は不登校、というわけでは無かったがクラスメイトから虐めを受けており教師も黙認していた為、いい思い出は殆ど無い。おまけに家でも虐待を受けていたので居場所などなかった。
その為、ユニオンリバーに保護された後は対人への恐怖からいきなり普通に登校するのは難しいと考えられ、少しずつ学校に慣れていこうという方針になった。まずは保健室登校からだ。
「記憶喪失になっちゃった子、何人かうちの学園に入ったけど、結局記憶が戻る子と戻らない子でまちまちだからね……。戻るといいけど」
会ってもいない少女を心配していたのは、この白楼学園の養護教諭、因幡レン。黒髪を伸ばした、典型的な大和撫子という美人で、変人揃いだが人望の厚いこの学園の教師でも人気な方だ。美人なだけではなく、甲斐性の高さも生徒が惹かれる理由だ。
「でも、記憶戻らない子でも新しい人生歩んでる子いるし、現実の身体が無事確保出来たらうちに来たらいいと思うわ。なんだかんだ、先輩にモデルケースがいるって安心できるじゃない」
白楼学園は複雑な事情を抱えている生徒を多く引き受けている私立学校である。ユニオンリバーからも数人通学しており、初等部から高等部を持つマンモス校だ。とりあえず、自分と同じ境遇でどういう風に生活してきたのかという手本がいるというのは心理的に負担が軽くなる。レールに沿った人生云々と言うが、そのレールが無いというのも難儀である。
「そうですよね。愛知の本校に僕と同じ様な義手の先輩いるって聞きました」
今は給食の時間で、数人で集まって保健室で食事をしている。今日の献立は米飯中心だが、陽歌の扱うカラトリーはスプーンやフォークだ。下手に五本指付いているせいで勘違いされがちだが、触覚が無いと箸を扱うのは困難なのだ。
「少年が少女と出会う。その時、物語は動き出す……あの月が見ていた様に、ね」
同じくここで食事を摂っている高等部の女子が何か意味深なことを呟く。保健室登校かどうかに関わらず、ここに通う生徒は非常に濃い連中ばかりである。常に図書室の受付にいる彼女は裏でセーブポイントパイセンと言われている変わり者だ。
「ヴィオラはともかく僕はどうかな……」
「君の物語も随分、出会いで変革したんじゃないかな?」
「でも、久保田先輩の言う通りかもしれません」
陽歌はユニオンリバーに保護されるまで一人だったというわけではない。一年生の間だけ友達だった二人、自分に学ぶことを教えてくれた通りすがりのおじいさん、引っ越した親友。彼らを知るからこそ、人間そのものに絶望せずにいられたとも言える。
「今度は僕の番だ……たくさんの人に助けて貰ったから、ヴィオラのことを助けたい」
「あんまり気負わないでいいよ。あなただって、まだ自分のことで必死でしょうし」
陽歌はそんな過去からヴィオラの力になりたいと願っていたが、レンはそれが空回りして彼がダウンしないか心配であった。
「思いだけでも、力だけでも……というけど、思うだけでも力になる」
久保田もそこはセーブを掛けていく。言い回しがアレ過ぎて分かりにくいが。
「ふあ……」
食事が終わると、陽歌を急激な眠気が襲う。普通に話している様に見え、本人も意識はしていないが、潜在的に対人恐怖症を抱える彼は人とのコミュニケーション時、極度の緊張状態にある。給食が終わって保健室から人がいなくなると満腹も相まって、気が抜けて眠気がやってくるのだ。
「かえら……なきゃ……」
彼の登校は午前中のみである。なので給食が終わればそそくさ帰るものだが、とても歩けるような状態ではない。立ち上がるだけでもあっちへこっちへ千鳥足だ。普通ならとっくに机へ突っ伏して居眠りするレベルなのだが、彼は極限まで我慢することが癖として染みついているのでそれでも歩こうとする。
「いいよいいよ。寝ちゃって」
レン先生が陽歌をベッドに誘導する。彼女のみになった途端緊張が解ける、ということは少なくとも陽歌がレン先生を一定以上信頼していることになる。彼も何故か分からないが、彼女はユニオンリバーの人間と同じですんなり信じることが出来た。
他者への不信感を抱く生徒は陽歌以外にも多くいるが、殆ど全員が彼女へは信頼を寄せる。一種のカリスマ、とも言えるものがレン先生にはあるのだろう。
「う……ん……」
意識が朦朧としている陽歌は操られる様にベッドへ向かい、眠る。レン先生は彼が枕を抱く癖があるのを知っていたので、抱き枕として鮫のぬいぐるみを投入する。陽歌はそれにしがみついてすぐに寝息を立てた。
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「今回の議題は、最近発生しているバグについてだ」
SDガンダムフォースのガンダイバーをダイバールックとしている人物が円卓で会議を取り仕切る。数名のダイバー達もおり、話を聞いていた。
「GBN各地でバグの報告が相次いでいる。撃破したはずのNPD機体の復活、ストーリークエストへの無関係なNPDの乱入などだ。現在、原因については調査中、といきたいが何故かこのバグにはログが残らない」
原因を解明するところからして困難なバグ。エンジニアが聞いたら発狂しそうである。しかし、現実に起きている以上、バグが存在するのは確かだ。
「お問い合わせの情報からテストダイバー達に似た状況を再現してもらってバグの再現性を確認してもらっているが、どうにも発生の条件が分からない。ログが残らないので報告してくれたダイバーの記憶を頼りに再現する他ないので困難なのは当然だが、原因不明のバグというのは今後致命的な不具合の原因になりかねない。スタッフでも検証チームを作り、原因究明に当たる」
ガンダイバーはGBNにおけるゲームマスター、所謂運営であり、各地で報告されているバグの対処に頭を悩ませていた。広報スタッフがお知らせに乗せる内容の精査を行っていた。
「バグの発見がユーザーの報告頼りになるということは、報告されない潜在的なケースも存在する可能性が高いと思われます。些細なバグでも報告する様にお知らせへ記載します」
「うむ。こういうのは下手に隠蔽するより、対処していることを明かした方がいいからな」
ガンダイバーは一人のダイバーを見た。ワインレッドのショートヘアに、右目に傷を付けた女性ダイバー。赤いアンダーリムの眼鏡をかけており、服装はセーラー服にチェストリグでマガジンを装着したアーミースタイルという変なものであった。
「級長、例の新要素の調子はどうだ?」
「うーん、そうだな。最初は結構乱入あったけど、みんな称号取り終えたのか段々減ってるな。まぁ、こないだ久々に乱入されたけど」
級長と呼ばれた女性ダイバーは状況を報告する。
「で、結局これ何だったんだ? 腐ってるコンテンツの再利用……ってわけか?」
「まぁ、そんなところだな。分かった。襲撃側、乱入防衛側双方に月間報酬の追加を検討しよう。完全な勝敗ではなく、ミッションの進捗度によるポイント制にすればライトユーザーも挑戦しやすいだろう」
報告を受けて、ガンダイバーは今後の方針を決める。牛歩にも見える新コンテンツの実装だが、一気に事を進めるとゲーム環境の崩壊に繋がりかねないのでこういうのは一つずつ進めていくのが定石だ。報酬がマズイとそこが過疎るだけで済むが、人権クラスに美味しいとゲームの方向性自体が『ガンプラによる冒険』から『ガンプラによる対テロ戦争』になりかねない。
会議が進められていく中、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「ゲームマスター! ゲームマスターはいるか!」
銀髪のロン毛男のダイバーが会議に乱入した。その様子を見て、ガンダイバーはあることを思い出す。
「しまった、パスワードをかけ忘れた」
今日、この時間、ここで会議をするということを知っているのは参加者のみなので鍵を掛ける必要は普段無い。だが、最近はこの様な闖入者の存在からパスワードが必須になってきていた。
「なぜ年間チャンピオンの俺を呼ばない!」
「チャンピオンはあくまでユーザーの頂点であって、運営との関係はない」
この男はGBN年間総合ポイントランキングのチャンピオン、ルーザー。販促アニメに登場するクジョウ・キョウヤの様なチャンピオンが理想的だが、ネットゲームで頂点を取れる人間というのは生活そのものをゲームに捧げる廃人であるためか、人格破綻者の割合が多い。
学校行きながら働きながら家事しながらなら社会性が保たれて比較的まともな人間もランカーには多いが、陽歌の様に不可能な理由があるわけでもないのにそれを捨てられる様な人間はネットゲームと無関係に破綻しているというわけなのだが。
「アニメではチャンピオンとゲームマスターの会談があったぞ! だったらチャンピオンの俺が運営会議に参加する資格はあるはずだ!」
「アニメと一緒にしないでもらおう。それとも君は、運営の手助けで得た玉座と後ろ指をさされたいのかね?」
ガンダイバーの正論にルーザーは黙り込むしかなかった。だが、標的を変えて反論を続ける。
「聞いたぞ級長……お前、初心者に負けたそうだな。そろそろテストプレイヤー交代の時期じゃないのか?」
「おいおい……テストプレイヤーに実力は関係ないだろ……」
これには級長も閉口するしかなかった。確かに高難易度のミッションをテストしたり、細かな難易度調整は実力のあるダイバーにしかできないが、それだけがテストではない。一般的なコンシューマーゲームで行われる『一日中壁に向かって歩き続けるテスト』の様に地道なものも必要だ。
「テストプレイヤーの座など欲してどうする? 事前に新コンテンツの情報を得て、それをSNSにでも乗せてちやほやされたいのかね? そんなことをすれば重大な守秘義務違反になるぞ」
ガンダイバーがまたしても正論を言うのでルーザーは黙るしかなかった。
「ま、それに事前に情報を得ていても有利になるってわけでもないからな。俺みたいに」
級長もテストプレイヤーとして最新のコンテンツ情報を得ているが、それを利用したとしてもゲーム内ランキングの上位に立つことは難しい。情報など攻略班によってすぐ解析される上、それを知っていても活かせるかはダイバーの腕に掛かっている。ちなみ彼は活かせない側の人間である。
だからこそ運営も安心してテストプレイヤーに任命できるのだが。
「いいのか、このままではGBNは遅れを取る。世界で主流の、eスポーツのn……」
ごちゃごちゃ言い続けるのでルーザーはガンダイバーの手で追い出された。所謂キックである。
「ガンダムゲー、eスポーツ、うっ頭が……」
「ガンダムブレイカーの最新作は3、いいね?」
「アッハイ」
基本的にスタッフ同士の仲はいいので、そんな冗談で笑い合えるのであった。
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寒空の下、陽歌は膝を抱えていた。下は冷たいコンクリート。光が背後から漏れている。まだ両腕はあり、指先が寒さでジンジン痛む。ここはかつて住んでいたアパートのベランダだ。
「お腹……減った……」
腹の虫が激しく鳴る。腹痛を起こすほどの空腹に襲われていたが、顔が腫れて熱を持っている方が苦しかった。眠っていたのだが、気づくと冷蔵庫を開けて食べ物を探していた。そこを母親に見つかり、激しく殴打されてベランダに追い出されたのだ。
「……」
どこまでが誰に殴られたのか、もはや区別が付かない。家にいようが、学校へ行こうが暴力を振るわれるのは変わりない。どこも安心できる場所は無く、誰にも心を許すことが出来なかった。
なんで生きているのか分からない。死ぬのが怖いから惰性で生きているという状態なのかもしれない。そんな陽歌が、ユニオンリバーと出会うまでは長い時間が必要だった。
「ん……にゃ……」
陽歌が目を覚ます頃には、三年生が下校する時間になっていた。全身に嫌な汗をびっしょりかいているが、眠気はすっかり収まっている。やはり寝床の質がいいと悪夢を見ても身体を休めること自体は出来る様だ。
「あ、ここにいたんだ」
保健室の扉を開き、一人の少女が入ってきた。セミロングの黒髪を揺らす、よくも悪くも普通の女の子。彼女は陽歌の友人である篠原深雪。ユニオンリバーと付き合いのある店の常連ということもあり、静岡に来てから付き合いの長い相手だ。
「GBN始めたんだって?」
「うん、七耶から聞いたんだね」
深雪もダイバーであり、陽歌よりも先に初めている先輩だ。ガンプラ制作でも彼女の手を借りないと難儀する部分がある。
「今度のお休みさ、みんなで素材集めに行くんだ。陽歌も来れたら来て。フレンドコードと集合時間渡しておくから」
陽歌の体調についても詳しく、無理な約束でプレッシャーを掛けない様にゆとりを持たせてくれる。
「うん。そうだ、僕も紹介したい人がいるんだ。いいかな?」
陽歌はヴィオラのことを伝えようとした。ログアウト不能なら自分が一緒にいられる時間が限られている以上一人の時間が増えるだろうことは明白なので、友達を増やして対策しようと考えたのだ。深雪も快く承諾する。
「ちょうど人がたくさん欲しかったとこなのよ! なんせ、行き先はディープディメンジョン、ヴァルガだからね!」
「ヴァルガ……?」
気合をいれて人を集める様な場所に行くとのことだが、一体何が起きるというのか。
「普通のディメンジョンだとバトルって互いの合意が無いといけないでしょ?」
以前、他人のミッションに乱入した時は混乱していて分からなかったが、後で調べたところ作戦領域に踏み込むとその襲撃ミッションに参加、襲撃側と戦闘になる。これが所謂合意だ。普通の対戦はダイバーが相手に申し込み、それを相手が承諾することで行われる。
「それがヴァルガでは常にバトル状態。言わばバトルロワイヤルに入り込む様なものね」
ハードディメンジョンでは、その合意が不要で相手への不意打ちも可能なのだ。誰にいつ分からない時点でかなり難易度が高そうだ。
「だったら、僕も何か準備しようかな……」
敵が単純に多いということは今のアースリィだけでは難しいかもしれない。なので、陽歌は休みまでにガンプラの強化を考えた。
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作戦当日がやってきた。
「で、どうやら私は一人暮らしの社会人、藤野葵という人、らしい……」
ヴィオラの肉体は無事に確保され、病院で治療を受けているそうだ。ログアウト不能の原因は現在解析中とのことだ。
「交通遺児で育ての親である祖父母も亡くなっているらしい。仕事は在宅のプログラマーだから同僚もいなくて、知っている人間を探すのに苦戦しているみたい」
「そうなんだ……ですか」
「いいよ、私も年上の実感ないから」
相手が社会人ということを知って、陽歌はつい敬語になってしまう。だが、記憶の無い彼女からすれば年齢など感じようもないものであった。
「だから、みんなにも私の現実のことは言わなくていいよ。私はダイバーヴィオラ、それ以上でもそれ以下でもない」
「うん、わかった」
そんなわけで彼女のリアルは心配無用。あとは記憶が戻るのを待つのと、現実に戻る方法を見つけてもらうだけだ。
「しかし、このゲームはガンプラで遊ぶ以外のことがたくさんできるんだな」
「そうだねー。両手があるってだけでうれしくて、ずっといちゃうよ」
ログアウト出来ないヴィオラは必然的にGBNで暮らすことになるのだが、そのせいですっかりここのコンテンツを一通り見てしまった。陽歌も両手を動かす練習で勉強した手話をやってみせる。
「翻訳される……のか?」
「あ、ほんとだ」
すると、勝手に手話を翻訳して字幕が付く。いろいろな言語を翻訳してくれるのはもちろん、こんな機能まであったりするのだ。
「あ、きたきた!」
ロビーに向かうと、既に数人の女子が集まっている。深雪のダイバールックはオレンジ髪のドラゴニュートである。その他の女子がゲーム特有のおしゃれをしているのに、一人目立つ格好である。
見た目が見た目とはいえ、男子が一人来たことで注目は自然と陽歌に集まる。
「ど、どうも……」
陽歌は無意識にヴィオラの後ろに隠れる。ゲームとはいえ、まだまだ他人には苦手意識がある。原因の髪色や瞳色、義手もここでは影響がないのだが、身体に染みついた習慣はすぐに消えない。
「初めまして、ヴィオラです」
「あなたが陽歌くんの言ってた……。私はミユ。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
深雪のダイバーネームはミユである。女子の一人が陽歌の頭上に表記されたダイバーネームを見る。
「ナクトくんっていうんだ。そっちで呼んだ方がいいかな?」
「あ、好きな方で……追われてるわけではないので……」
個人情報をネットに僅かでも晒さない様に、陽歌は本名と繋がらないダイバーネームを使っている。本人はユニオンリバーに来るまでゲーム機一つ持ったことの無いデジタルディバイトの申し子であるが、周囲には詳しい人が山ほどいる。
挨拶も済ませ、メンバーも揃ったので作戦の説明が入る。
「今回のミッションはディープディメンジョン、ヴァルガにおけるコレクトミッション。つまりアイテムを持って帰ればいいわけなのよ」
「敵を倒すわけじゃないんだ」
場所は厄介であるが、難易度の低いコレクトミッション。問題は生きて帰れるかのみである。その為に頭数を増やしたとも言えるのだが。
「このゲームでのオシャレアイテムは三つに分けられる」
深雪がGBNのコスチュームについて解説を始めた。一応、基本無料のソシャゲではなく買い切りのパッケージゲームなので露骨な搾取要素は存在しない。一応、無料で体験の出来るゲストアカウントもあるのだが、ダイバールックはハロ確定だ。
「一つは、ゲーム内通貨で購入したり、ミッションの報酬や素材で得られるもの。大半はこれね。もう一つは追加コンテンツとして販売される場合。外部コラボの衣装はこれが多いわ。コラボにホイホイされた新規ユーザーでも、お金さえ出せばゲームの進行度に関わらず手に入るからね。そして最後に、ガチャの景品になるもの。コラボの一部やユーザーデザインコンテストの優秀賞がこれで配信されるの。後ろ二つもマイショップでゲーム内通貨を使えば買えることがあるわ。今回の狙いは一番目の、ミッション報酬のアクセサリーよ」
GBNはオンラインサービスのゲームであり、運営費は常に必要となる。その為、プレミアムプランなどの金策が必要になるのだ。そのゲーム性から現実の広告を表示すれば多額の儲けになるだろうが、没入感を喪失するため行わないと明言しているほどである。ユーザーにも利益のある方法で資金を得ている。
「みんなの命を、私にくれ」
ミッションの言い出しっぺであろう女子が有名な台詞を真似しつつ、敬礼する。たかがコレクトミッションだが、場所の都合難易度は高い。PVPでもあるため、運要素も絡んでくる。
「そうだ、陽歌くんとヴィオラさんはこれやった? スキル振り」
「スキル?」
深雪は陽歌とヴィオラをカウンターへ連れていき、お姉さんの表示したウインドウを操作する。
「ここではガンプラにスキルを振れるの。飛行スキルとか、耐水圧とかね。ガンプラにその加工があるなら必要ないんだけど、大抵はしておかないと大変なのよ」
ガンプラ、というよりガンプラになっているモビルスーツの多くは単独で大気圏内を飛行できないなど、設定上の制限が存在する。それを素直にゲームへ反映すると、素組でも飛行可能で水中行動さえ可能なガンダム00のGNドライヴ搭載機が最強というバランスになってしまう恐れさえある。
そこで取られたのがこのスキルシステムである。ここでスキルを習得してしまえば、ザクだろうがティエレンだろうが大気圏内をビュンビュン飛べるのだ。
「ポイントはランクとかに関係なく一定だよ。使わなかったら使わないだけ基礎スペックにボーナス入るから、出来ればガンプラ側で対応する工作をした方が強いんだけど……素組なら素直にスキル振った方がいいわね」
「ふむふむ」
そういうわけで二人はスキルを取得した。アースリィは一応、単独で大気圏内を飛行出来るが、それでも素組ならスキルを取得した方が強いらしい。
「んじゃ、早速ミッション開始!」
「おー!」
というわけで準備も出来たため、一行はヴァルガへ向かう。カタパルトから発進し、上空にあるゲートを通過すればすぐにヴァルガだ。
陽歌はアースリィにジュピターヴウェポンを装備。バズーカを持った後方支援型だ。ヴィオラのアルスコアは欠損したバックパックの羽をコアガンダムのサーベルで補完している。相変わらず、顔の目は閉じたままだ。
「コアガンダムかぁ、いいね」
深雪はGアルケイン。他の女子達は軒並みSDやベアッガイを使っている。
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「この人数だとゲロビのいい的ね……」
ヴァルガの暗い空を飛びながら、深雪は呟く。このディープディメンジョンでは確認無しでバトルが始まる。言わば、常にバトルロワイヤルなのだ。いつどこで敵が狙っているか分からない。こちらのレーダー範囲外からスナイパーライフルやメガランチャーの銃口が向いているかもしれないし、ミラージュコロイドで隠れているかもしれない。
「でも襲われた時は人数多い方が良くない?」
「それはあるかも……」
ライトユーザーが多いこの集団では、あまり戦略というものを考慮する人間が少ない。いくら多勢に無勢の多勢側にいれたとしても、機体性能に差があり過ぎれば紙屑のように消し飛ばされるだろう。
(大人数はそれだけで圧力になるから襲われるまではこのままでいいけど、襲撃されたら散会した方がいいかな……)
陽歌は考えていたが、口に出すことが出来ない。ここがコミュ症の難しいところだ。
「陽歌、何か案があるみたいだけど……。私から言おうか?」
そこにヴィオラが助け船を出す。普段なら何も言えずに黙りこくっていただろうが、ミッション成功のため、この好意は無駄に出来ない。
「すみません、助かります」
「遠慮するな。お前は私を助けてくれた、その分、私もお前を助ける」
ヴィオラも陽歌の力にはなりたい様だ。記憶を失い右も左も分からない自分に手を差し伸べてくれた陽歌は、彼女にとって特別な相手なのだ。
「……なるほど、わかった」
ヴィオラが陽歌から案を受け取って全員に伝える。
「みんな、襲われるまではこのまま固まっていよう。襲撃があったら散り散りに逃げる。このミッションは一人でもアイテムを持ち帰ればば成功だ。全員が全員の囮になれば、誰か一人くらい帰れるかもしれない」
「そうね。まぁこういうバトロワ状態って運もあるけど、全ての卵を同じ籠に入れるなって言うし」
深雪はこの案に同意した。既に戦いは始まっている。集団で固まる初心者という餌を求めて、敵機が迫る。作戦を伝えるには丁度いいタイミングだった。
「目的はヴァルガ全域に生息している花の調達。数は一! 散会!」
彼女の指揮で機体が散り散りに分散する。まだGBNになれていない陽歌とヴィオラは深雪と共に行動することとなった。
「煙幕を撒く! この隙に逃げよう!」
陽歌はミサイルを放ち、一気に加速する。ミサイルの中身はGN粒子入りの煙幕だ。さっきのカスタマイズで火力を犠牲に入れ替えてきたのだ。
「あ、こっちのレーダーも!」
だが、GN粒子を入れたせいで自分のレーダーまで麻痺してしまう。
「そのためのモビルスーツ! 目視なら問題ないよ! 付いてきて!」
とはいえ、元々モビルスーツはレーダーを麻痺させた後の有視界戦闘を目的とした兵器。カメラからの映像を目視で確認すればはぐれずに行動できる。
「なんとか撒いたね」
「逃走は罠への誘導の可能性があるから、なるべく動かずに仕留めたいみたい」
ヴィオラは敵がいないことを確認する。ヴァルガでは敵を探して仕掛ける以外にも、自分の仕掛けた罠へ誘導するといった戦いも可能だ。そのため、敵は深追いを辞めたのだろう。
「と、草原みっけ。アイテム探しましょう」
草原に三人は降り立ち、アイテム探しをした。目的のアイテムは花なのですぐ見つかるはずだ。
「うわ、結構ぬかるんでる」
「リアルだよねー」
ガンプラから降りると、陽歌は地面のぬかるみを感じる。滑りもしないタイル状の空間から急にリアルな大自然に投げ出されると、感覚がついて行かない。ゲーム性に影響するためか、改造の影響を受けない様にする為か、コクピットの仕様はベース機に依らず統一されている。実際に原作と同じコクピットから乗り降りしたいとも思うダイバーは多いが、実装するとなれば相当な苦労になるだろう。
「よし、ゲット」
深雪は早速、ターゲットの『ヴァルガタンポポ』を見つける。紫のタンポポという変な感じこそするが綺麗な花だ。刺身に乗っていたら食欲は減るだろうが。
「思ったほど時間掛からなかったね」
念のため、深雪以外に陽歌とヴィオラも確保しておく。
「このミッションの本題は帰還だからね」
本ミッション最大の難所はアイテムを持ち帰ること。多くのダイバーが虎視眈々と狙う中をくぐり抜け、無事帰還する。それがこのミッション、謂わばヴァルガのチュートリアルだ。途中で撃破されれば、獲得したアイテムや持ち歩いているビルドコイン、溜めたポイントなどをロストしてしまう。
ヴァルガはコレクトアイテムが美味しいがそういうリスクもある。
「待て」
三人がガンプラに乗ろうとしたところ、誰かが声を掛ける。銀髪でオッドアイの、黒い騎士のダイバールックの少年であった。二人の仲間を連れ、陽歌達を止める。
「本来ならガンプラに乗る前に仕留めてもルール違反にはならんが……搭乗時間をやる。ガンプラに乗れ」
「このヴァルガで、やけに律儀ね」
深雪はウインドウでガンプラの準備をしつつ、相手を牽制する。ついでに、相手の情報も集める。このヴァルガではガンプラに搭乗していない、所謂歩兵を撃破しても問題ない。
(パーシヴァル……新進気鋭のフォース『ライジング』のリーダー、ランクはCだけど……)
黒い騎士、パーシヴァルのダイバーランクは中堅のC。ダイバーには実力やこなしたミッションの数でランクが振られている。深雪はD、陽歌は先日のバトルの影響でEへ昇格、ヴィオラに至っては開始直前のFだ。
「残念だけど、バトルなら他を当たってくれない?私達、コレクトミッションに来ただけだから。それにランクも低いからポイントも期待できないよ?」
いきなりの襲撃ではなく、このヴァルガにおいても正面からきたパーシヴァルの融通に期待して深雪は交渉する。
「それは出来ないな。バトルが嫌なら始めからここに来なければいい」
「あら、女の子三人に随分な物言いね」
パーシヴァルはガンプラに乗り込む。機体はガンダムテルティウム。ガンダムマーク3をベースにしたビルド系の機体だ。連れている仲間もディジェに百式とエゥーゴ、カラバ系で固まっている。
(あれ? 僕もカウントされてる?)
相手に合わせて、深雪達もガンプラに乗り込む。陽歌は自然な女の子扱いに突っ込むタイミングを見失っていた。
「ここに来たら戦いたい合図。それがGBNの暗黙の了解だ」
「逃がしてくれなさそうだよ」
陽歌はパーシヴァルから感じた敵意に反応し、ガンプラへ乗り込む。深雪も観念し、ガンプラを出して戦いの準備をする。陽歌は作戦を伝える。
「ヴィオラは先に帰って。その機体じゃ真正面から戦うと厳しいよ」
「わかった……が……」
作戦を受け取ったヴィオラは言いよどむ。何せ、肝心の作戦をオープンチャンネルで敵にも聞こえる様に話していたのだから。
「回線がオープンだぞ?」
「あ」
「初心者め……」
パーシヴァルが逃がすまいとヴィオラをライフルで狙う。陽歌のアースリィが間に入り、そのビームを防御する。だが、シールドは一撃で粉砕され爆発する。
「シールドが! 二枚重ねなのに……」
「素組みではなぁ!」
ただ組み立てただけのキットでは、しっかり調整したライフルを防ぐのは困難だ。陽歌はすかさず反撃にビームバズーカを放つ。
「甘い!」
パーシヴァルは自分への反撃だと判断してバズーカを回避する。だが、ビームはあらぬ方向へ飛んだ。
「外したのか?」
「ぐわあああ!」
一瞬、狙いを外したと思ったパーシヴァルだが、狙いは仲間の百式。戦闘が陽歌とパーシヴァル中心だったため油断したのだ。流石にトップコート墨入れ済みの百式でも、ビームバズーカをコクピットにノーガードで受ければ一たまりもない。そのまま百式は撃墜された。
「俺は油断しねぇぜ!」
ディジェはビーム薙刀でアルケインに斬りかかる。アルケインのライフルは大きく、間合いを詰められれば扱いにくい。ソードにもなるが、どっちにせよ取りまわりがよくないという事実は覆らない。
「そう来ると思って!」
深雪は敵の動きを見ると躊躇いなくライフルを捨て、シールドを構えたタックルを行う。シールドバッシュは生身の戦闘であればその一撃で勝敗が決するほどの、舐めてかかれない攻撃だ。
「ぐ!」
攻撃の間合いを狂わされたディジェは後ろに下がって体勢を立て直そうとする。その理由はアルケインのシールドにあった。
「知ってるよ、バーナーでセンサー焼く気なんだろ?」
アルケインのシールドにはバーナーが内蔵されており、接近した敵に攻撃出来る。それを読んで、ディジェは後退してクレイバズーカを構えた。
「これは、ガンプラなんだよ!」
しかし、深雪はシールドバーナーを展開、噴出孔からビームを放つ。
「何ぃ!」
なんと、シールドのモールドに改造を施してバーナーではなくビーム砲にしていたのだ。これなら多少エネルギーの消費は激しいが、バーナーの機能は失わないし遠距離攻撃も出来る。
シールドから飛び出したビームがディジェを直撃する。
「だが、そんな豆鉄砲では!」
しかし口径が小さく、致命傷にはならない。その時、ディジェの頭に何かが当たる。
「なんだ……、うおぉ!」
それに気を取られている間にアルケインの腕から伸びたビームウィップでディジェは撃墜される。
「そんな使い方!」
パーシヴァルと交戦していた陽歌が使わなくなったミサイルポッドを投げてぶつけたのだ。思わぬ投擲にパーシヴァルは視線を誘導され、陽歌の接近を許す。
「この距離なら!」
「舐めるな!」
ビームバズーカを突き付けた陽歌だが、パーシヴァルは咄嗟にサーベルを抜いてバズーカを貫く。陽歌はすぐ手放したものの、スプレーガンごとバズーカは爆散してしまう。
「しまった! 捨てるのは先端だけでよかった!」
「甘い!」
続けて、アースリィの両腕を上腕から切断するパーシヴァル。自機の腕が斬られる光景を見た瞬間、陽歌の脳裏に走馬灯が走る。
「あ……」
目が覚めた瞬間、自分の腕が無くなっていたあの日のこと。ぼんやりとした意識の中で、腕の感覚が失われていく極寒の夜空。身体だけを動かすことができない中で、激痛に苛まれながら骨を削られる反響。
「うっ……」
陽歌は説明の出来ない吐き気に襲われた。アースリィはコントロールを失い、ぬかるんだ地面に倒れる。傷ついたガンダムが泥に塗れ、ツインアイは光を失う。
「陽歌くん!」
深雪が慌ててテルティウムに飛び掛かるが、ビームサーベルで反撃を受ける。
「しま……」
ここで陽歌を一人にするのはマズイ。この後撃破されれば勝手に帰還できるが、それも確実ではない。だが、無情にもアルケインは爆散してしまう。
「これで終わりだ」
敵の状況など知る由もないパーシヴァルはトドメを刺すためにサーベルを向ける。その時、テルティウムのバックパックが爆発した。
「なんだ?」
慌てて振り向くと、ビームが飛んで来るので即座に回避する。なんと、さっき逃げたはずのアルスコアガンダムがアルケインのライフルで攻撃して来たではないか。
「逃げたんじゃなかったのか?」
実は先ほどのオープンチャンネルはわざとであり、アルスコアに乗るヴィオラだけに見える通信画面で手話を使って本当の作戦を伝えていたのだ。アルスコア単独の機動力では逃げるにも不十分であり、逃走中に違う敵から襲撃されれば結局厳しいことに変わりないため、三人で逃げた方がいい。
そこで陽歌と深雪も逃走出来る様に不意打ちを食らわせる。それが彼女の役割だ。
「今度は私が力になる……!」
閉じていた目が開き、ヒトツメが露わになる。
「その機体で勝てるとでも!」
パーシヴァルはヴィオラが撃破を狙っていると思い、ライフルの射程から逃れるためサーベルでの接近戦に持ち込む。
「勝つ必要はない、逃げる!」
一方彼女は逃走が目的なので、パーシヴァルが陽歌から離れて好都合であった。そのままライフルを捨ててアースリィまで跳躍、機体を抱えて逃げればいい。
「んん?」
だが、アースリィは持ち上がらない。背中のウエポンのせいか、それとも重い機体が泥にハマって抜けなくなったのか、逃げるために機体を抱えるということができない。
「馬鹿な……!」
コアガンダムは小さいが、アーマーを着込むため非力ではないはず。いや、このアルスコアがそもそも他のダイバーと同じ、ガンプラを読み込んで使っているものという保証はどこにもない。
「なんだか知らんが、喰らえ!」
パーシヴァルがこの隙を逃がすはずが無かった。サーベルを手に、トドメを刺そうとする。
「く……」
これまでか、ヴィオラが諦めかけた時、七色の光がテルティウムを襲う。
「なんだ今度は?」
残像の様なものが徒手空拳でテルティウムを攻撃し、アルスコアとの距離を取らせた。
「この機体は……!」
残像が収まった時、パーシヴァルに立ちはだかったのは全身クリアのビルドストライク。関節パーツまでクリアで、七色に光っている。その機体を見た瞬間、彼はダイバーを特定する。
「ストライクアシェル……マナか!」
「ここは引いてください。私も追わないので」
ストライクアシェルから女性の声が響く。だが、パーシヴァルは全く聞く耳を持たない。
「ガンプラアイドルだかなんだか知らないが!」
構わずアシェルに攻撃しようとライフルを向ける。すると立て続けに乱入者が現れた。今度は、ガンプラとは思えない様な恐竜じみた巨大な機体だ。それが地面から現れ、泥を撒き散らして視界を塞ぐ。
「ガンドラゴン! サリアもセットなら丁度いい!」
パーシヴァルは俄然やる気だったが、マナはアシェルの手を伸ばしてヴィオラに伝える。
「ガンプラから降りてこっち乗って下さい。アースリィはこのまま運びます」
「助かる!」
ヴィオラが指示に従うと、アシェルは虹色の帯を伸ばしながら戦場を離脱する。
「待て! 逃げるのか!」
パーシヴァルが上を見上げている間に、ガンドラゴンも地面へ潜って撤退する。
「くそ、ガンプラアイドルめ……何様のつもりだ?」
戦いを打ち切られたパーシヴァルは苛立ちながら周囲を確認する。すっかり誰もいなくなっていた。
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「ええ? ナクトくんってあのマナ&サリアと知り合いだったの?」
「まぁね」
深雪の友達をガンドラゴンを操っていたダイバー、サリアが相手している。アイドルという性質上、ダイバールックもリアルと同じ緑の長髪に褐色肌のスタイルがいい美少女の姿をしている。年齢は深雪や陽歌達と同じくらいだが、身長が高く成熟したボディラインをしているがダイバールックで盛っているわけではない。
「ナクトのおかげで二つも手に入っちゃった。二人を助けてくれてありがとう」
「いやいや、たまたま通りかかってね」
言い出しっぺの女の子は目的のものを手に入れて、陽歌とヴィオラ、サリア達に礼を言う。
「陽歌は大丈夫か?」
「少しパニックになっちゃったみたいだけど、落ち着いたかな」
ヴィオラは疲労で眠っている陽歌を膝枕し、マナに容態を聞く。マナのダイバールックは深紅の髪をツインテールに結って眼鏡を掛けたグラマラスな少女という姿。これは現実の変身形態の一つだ。
「そうか……結局力にはなれなかったな……」
ヴィオラはマナがいなければあの状況を脱せなかったことを重く受け止めていた。結局、陽歌の力になることは出来なかったのか、と。
「そんなことないですよ。この子にとって傍にいてくれるだけで、十分なことなんです」
「そういうものかな……」
記憶こそないが、誰かが常に近くにいるというのはヴィオラにとって当たり前の様な感覚だった。だが、陽歌にとってはそうではない。
「そうですよ。うなされていることも少なくないのに、今は安心してますから」
陽歌はヴィオラの膝ですやすや寝息を立てている。彼にとって安心出来る場所が、また一つ増えたのであった。
機体解説
ガンダムテルティウム
ガンダムマーク3をベースにしたビルド系機体。これといった特徴がない基本改造に収まった機体なので使用者の腕に強さが依存する。ちなみに騎士ガンダムがマーク3をベースにしているせいか、ランスの保持など所々に騎士ガンダムオマージュが見える。