騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 友との再会が凍った少年の心と、物語の最後の扉が開く


再会、友よ

 自宅のラボで回収した複数の都知事の遺体を解析したアスルトは愕然とした。

「これが本当なら、とんでもないことになりまス……!」

 なんと、全ての遺体がタンパク質で構成された生物のものでないことが明らかになったのだ。ケイ素で構成されたこの体はミリア、則ちミラヴェル計画によって量産された人造人間マークニヒトのそれと同じということになる。質は明らかに劣り、頑丈さなどミリアの足元にも及ばないが、その事実自体が恐るべきものである。

「一体どこから情報が漏れたのですか?」

 ミラヴェル計画はユニオンリバーはおろか、アスルトが所属する月の組織、AIONでも存在は公であるものの製法は極秘とされている。情報漏洩があったのなら、すぐにわかる体制の組織だ。どうやってこれを模倣したというのか。

「しかもミラヴェル計画の応用だとスれば、これは都知事の本体ではない……!

 ミリアは頑丈でほぼ不死身のため忘れがちであるが、肉体に意識をインストールした存在である。そのシステムを盗用したとなれば、この肉体は都知事の器に過ぎない。都知事の本体は全くの無傷ということだ。

「大海菊子都知事は……人間ではありません!」

 

UNION RIVER

 

今一番欲しいもの一体なんだ?

沼に溺れてでも掴んでみせる

今飛び付かなくて後悔しないか?

捨てるだけならいつでも出来るだろう

 

シノギの匂いに群がる転売屋

他人の楽しみ許せず叫ぶクレーマー

call me! 今呼べ我らを!

 

ユニオンリバー!君の好きを護りたい

ユニオンリバー!その愛をまた語りたい

見てる世界違うとしても構わない

僕もいつかそこにいくかもしれないから

 

騒動喫茶ユニオンリバー!

 

転輪祭典東京オリンピック2020 忌むべき生命 最終章

 

始まりは両親が口酸っぱく言っていた言葉だった。

『浅野陽歌に関わるな』

よくある『〇〇ちゃんと遊んではいけない』に類する言葉であったが、クラスも違う会ったこともない奴だったから少し興味が沸いたのだ。

たまたま席替えで隣になった友人、小鷹も同じことを両親から言われていたことを知り、どんな奴か調べることになった。単なる好奇心が全ての始まりだったのだ。

そいつがいるクラスを見ると、まぁ確かに見た目は変わっているが悪い奴かと言えば微妙なところだった。だいたいそういうことを親が言う様な奴は盗み癖があったり、手が早いのがお決まりだが、陽歌はそんな様子も無かった。

いつも一人で、校外学習で他のクラスメイトが拾ってきてそのままにしているらしきタニシの水槽をマメに掃除したり日光が当たらない様にしてたりした。小屋が古くて汚いからみんなやりたがらない飼育委員の仕事も、かなり真面目にやっていた。

ただ、いつもボロボロの体操服を着ていて、痣もあって怪我しているのか脚を引き摺っていた。それに身体もやたら小さく見えた。

小鷹と監視を続けて数日、陽歌は集団に囲まれていた。明らかにいじめの現場だったので、二人で止めに走ったが突き飛ばされた陽歌が頭をぶつけて気を失ってしまったのだ。

保健室につれていくために彼を背負うと、異様に軽く感じた。皮と骨だけで、殆ど肉がついていない。何とか連れていくも、保健室の先生は陽歌に関わらない様に言って手当てをしてくれなかった。仕方ないので、二人の秘密基地に連れていって寝かせることにした。

この秘密基地は野良犬が二匹、自分たちに懐いて住み着いている。毎日あげられるわけではないし犬に人間の食べ物を与えるのはよくないと聞いていたので餌付けはしていないのだが、彼ら自体が人慣れしているのかこうして友達の様な付き合いをしている。

二匹も目を覚まさない陽歌を心配していた。

「こいつ、悪い奴じゃないよな……」

「そうだな」

なんで大人達が遊ばない様に言うのか、結局知ることは出来なかった。

 

   @

 

 雲雀と陽歌は再会を果たした。彼女はエスターの策により大人達の言うことを全て知ることとなったが、ものすごくどうでもいい内容だった。多分来週には忘れているだろう。

「いくぞ陽歌」

かつての友と並び、雲雀は右の拳を隣の陽歌に向けて差し出す。これは彼ら三人の、連携の合図であった。

「……」

陽歌は自分の拳を見る。あの時と違い、生身の腕は無くなってしまった。義手になったことで迫害を受けたこともある。だが、雲雀なら、そう信じて陽歌は左の拳を差し出して彼女の拳とぶつけ合う。

「私のブレイドヴォルガ、レイドは砲撃カスタムだ。鴨撃ちにするぞ!」

雲雀は自分のアニマギアのカスタムを明かす。相手は飛行型。そのまま撃っても回避されてしまう。

「アロケス、敵の陣形を崩して!」

「承知した!」

ガレオストライカー、アロケスはブースターでソニックイーグリットの群れに突撃し、混乱を起こさせる。

「いまだ!」

「了解、お嬢様」

レイドが背中に取り付けられたキャノンでイーグリットを打ち落としていく。アロケスが攻撃し、その攻撃を掻い潜ったばかりの敵を集中して狙う。

「おのれ……ならこれで!」

エスターは不利を悟ると、あるものを取り出す。それは、金色に輝くベイブレードであった。

「なんだ?ホビー大戦でもやろうってのか?」

「ゴールドターボだね」

雲雀と陽歌もちょうどいいとばかりに自分のベイとランチャーを取り出す。エスターのベイはデフォだがゴールドターボ版のヘブンペガサス.10P.Lw閃。

「なんだよ、ただの見せびらかしか? サクッと仕止めるぞ」

「よし!」

雲雀のベイはツヴァイロンギヌス.Dr.Jl'滅。陽歌はデッドハデス.00T.Ds'を選び、ランチャーに装着する。

「本当のゴールドターボってものを……見せてやる!」

「何言ってんだ? 所詮当たりの色違いだろ?」

ゴールドターボというのはベイブレードバーストのGTレイヤーシリーズにおいて、低確率で封入されている色違いの黄金バージョン。レアだが性能が高いわけではない。しかし何故かエスターは自信満々だ。

「これが力だ!」

エスターがシュートすると、ペガサスは凄まじい回転でスタジオ内に気流を作る。スパーキングベイランチャーという強いシュートを放つと火花が散るランチャーで、火花が出ない程度の弱いシュートでこれだ。

「なんだと?」

「待って? おもちゃの力だよね?」

とても現実とは思えない光景に雲雀と陽歌は困惑する。それはスタジオにいた七耶も同じだった。

「なんだあのエネルギーの塊は! あの小娘はただの人間だろ?」

そこに、アイドルの応援にきた一般人が割り込んできた。法被やハチマキで台無しになっているが、顔のいい好青年だ。

「噂には聞いたことがある。神獣を模した回転する道具には、黄金の回転エネルギーが宿ると。そして、それが馴染んで金色に変化して見えることがある……」

「誰だお前は?」

何か訳知りといった感じの青年に七耶は正体を聞く。

「私は天竜宮刀李。見ての通り、対霊師だ」

「ドルオタにしか見えねーよ」

エスターの攻撃に対する陽歌達もベイをシュートする。陽歌はライトランチャーで、雲雀はスパーキングランチャーから火花を散らして打ち出す。だが、風に阻まれてなかなかペガサスに近づけない。

「フハハハハ! 所詮は玩具だと思っていたが【双極】に言われた通り集めてみるものですねぇ!」

「やろー……」

 予想以上の戦果にご満悦の大海都知事。まだこいつに対して七耶は聞いていないことがあった。

「お前は『本体』なのか? それとも量産の一つか?」

「どうせここで負けるあなた達に意味のないことですよ」

 だが、大海は答えようとしない。

「この風の壁を破れるか!」

「そんなものー!」

そんなやりとりの中、陽歌のデッドハデスは自慢の重量で風を抜ける。

「馬鹿な! 型落ちごときに!」

「ハデスは一番重い超Zレイヤー! まだ戦える!」

古いパーツでもカスタム次第で輝く。特にハデスの様な尖ったものは。そして、ペガサスに重い一撃を加えた。

「やった!」

攻撃によりペガサスのロックが進む。ベイブレードバーストは通常のコマの様に相手より長く回る、相手を外に弾く以外の勝ち方が存在する。それは、相手を攻撃してバラバラにするというもの。攻撃が当たると最上部のレイヤーというパーツがズレ、ロックが緩んでいき最終的に分解されるのだ。

「それはどうかな?」

ロックが進んだにも関わらず、エスターは余裕だった。なんと、ペガサスが回転するとロックは元に戻っていく。

「何ぃ!」

「ヘブンペガサス固有のロック回復能力もゴールドターボの力で強くなっている! お前達に勝ち目はない!」

突風を突破出来るハデスの攻撃が通用しない。その時、違う方向からロンギヌスが迫っていた。

「これで!」

「ロンギヌスも突破しただと?」

「ツヴァイロンギヌスは二点に重みを寄らせてエネルギー効率を上げてるんだ! ラバー軸だから踏ん張りも効く!」

雲雀のロンギヌスがペガサスに一撃を加える。またロックが進み、回復分を消化する。

「何度やっても無駄ぁ!」

しかしペガサスは再び回復を試みていた。そこへ、ハデスがすかさず追撃を与えた。

「一撃でダメなら、もう一撃!」

ペガサスが吹き飛ばされた先には、ロンギヌスが待ち構えている。

「これでトドメ!」

ついに、ペガサスは連続攻撃によってバーストに追い込まれる。だが、エスターから余裕の笑みが消えることはなかった。

「市販のベイごときが、ゴールドターボに勝てると思っているのかぁ! プルーフサークル!」

ペガサスの装備していたプルーフフレームが砕け、黄金の輪となり広がって陽歌達を襲う。ベイブレードはディスクというパーツにフレームを取り付けられるものがあり、ペガサスの10ディスクとそこに装備されたプルーフフレームもその一つ。

 当然だが市販品にそんなギミックはない。

「なんじゃそりゃ!」

「雲雀!」

驚愕する雲雀の前に陽歌が出て、両腕で広がる輪を受け止める。腕でガードしたものの、威力が強く押し出されてしまう。パーカーの袖も刻まれるほどの破壊力を持っている。

「陽歌!」

飛ばされた陽歌を雲雀はしっかり受け止める。敵の最後っ屁かと思ってペガサスを確認すると、フレームが消滅しているだけでまだ回っている。

「マジかよ……」

「これおもちゃだよね……?」

ホビーアニメみたいな状況に二人とも閉口するしかなかった。

「小鷹がいればなぁ……」

「たしかに……」

 今はいない友に想いを馳せる二人。だが、今の陽歌はまだまだ仲間がいる。解答席からマナが飛び出し、ランチャーとベイを手に参戦する。

「私が助太刀しますよ!」

「マナ! お願い!」

 マナがシュートしたのはエースドラゴン.Z.V'烈。陽歌はそのカスタムを見て、あることを思いつく。

「雲雀! マナに回転を!」

「なるほど、オーケイ!」

 右回転のエースドラゴンと左回転のロンギヌスとでは互いに回転を与え合う形になる。そしてエースドラゴンの装備しているZディスクにはラバーがあり、回転を吸収する効果もあるのだ。

「受け取れ!」

 雲雀がマナのドラゴンに回転を与える。極限まで回転の高まったドラゴンを陽歌のハデスが押し出し、ペガサスに向かって射出した。

「避けなさいペガサス!」

「無駄です! スタミナタイプのロウドライバーは動かないんです!」

 猛スピードで迫るドラゴンに慌てるエスター。しかし軸先が持久力重視なこともあってペガサスはその場を動こうともしない。

「なんて回転だ! ありえない!」

 風の壁も光の輪もやすやすと打ち砕くドラゴンのパワーにエスターは困惑した。これには、軸先に秘密がある。

「エースドラゴンのドライバーはエヴァリーがコツコツスタジアムで覚醒させたヴァリアブル! 粒々の付いた極太ラバー軸のヴァリアブルは最初こそ普通のアタックタイプだけど、使い込むと粒が取れて覚醒、超パワーを生み出すんだ! しかもカッターで切り取ったりインチキせずに覚醒させるとスタジアムの形に沿って削れ、粒の痕が回転方向に合わせたスパイクの様な形状になってただの太いラバー軸を超える!」

 陽歌は一気に説明を捲し立てるが、最後には息切れを起こしていた。

「げほ……ヴェホ……」

「落ち着け」

「戦いは……ノリがいい方が勝つからね……」

 元々体力がないことを知っている雲雀は背中をさすって呼吸を助ける。戦いはノリがいい方が勝つというモモタロス理論は、陽歌がユニオンリバーで学んだ大事なことだ。

「はっ……! 説明は敗北フラグ! この程度跳ね返してあげなさい! ペガサス!」

 エスターはゴールドターボの力を過信して迎え撃つ。だが、直撃を受けたペガサスは一撃でバーストさせられ、エスター自身も吹き飛ばされる。

「ウゲエエエエエエ!」

「本人じゃなくて仲間の説明だしこれからやることじゃなくて今起きてることの説明だから当てはまらないんだよなぁ……」

 雲雀は説明と敗北フラグの関係性を否定した。勝利への工程を説明した場合は敗北フラグだが、今回はそれに当てはまらなかった。

「勝った!」

 バラバラになって落ちたパーツの内、ヘブンペガサスの一番上部、レイヤーと呼ばれるパーツだけが金色から市販品の色に戻り、粉々に砕けた。当然、市販品にこの様な機能はない。

「なんだ?」

「リアバしたね」

 とはいえぶつかるおもちゃなので遊んでいて破損、所謂リアルバーストはまぁある。しかしここまで砕けることは当然無い。

 伸びたエスターと砕けたペガサスを交互に見ながら、陽歌、マナ、雲雀の三人は互いに顔を見合わせる。その時、突如として銃声が鳴り響いた。

「なんで邪魔するの……響ぃ!」

 銃を撃ったのは解答席にいた胡桃。響はその拳銃の先端を掴み、弾が跳ぶのを防いでいた。貫通しきっていない弾が、義手の甲から覗いている。

「あれは私の母親だ! これ以上誰にも迷惑かけない様に、私が処分する!」

「あれはあなたが背負う様な価値のある命ではありません」

 胡桃は誰かを狙って発砲したようだった。それも母親に向かって。

「胡桃さん……そういうことだったんですか?」

 陽歌は以前、胡桃に言われたことを思い出す。『血の繋がった家族なら関係が良好になるってナイーブな考え方は捨てた方がいい』。彼女もまた、実の家族に悩みを抱えていたのだ。

「じゃあ誰がやるの! 私しかいないでしょ!」

「いえ、あなたの手を汚すくらいなら……」

 響に向かって感情的に叫ぶ胡桃。しかし、彼は冷静に返し、突如姿を消した。次に現れた時には、響は緑に光る剣で都知事の首を撥ねていた。あまりの早業に、七耶やサリア、さなさえ止める暇が無かった。

「既に手を汚している、僕がやります」

 スタジオがパニックに包まれる。解答席の大半を埋めるアイドルは突然の殺人劇に半狂乱となり、スタッフは機材を止めようと右往左往する。この番組は生放送だ。人間の首が飛ぶ様子など、ましてや現職の知事が殺される映像など、流せるはずもない。

「響さん……なんであなたばかりが……」

 胡桃は解答席のテーブルに爪を立て、俯く。倒れて首から血を流す母親よりも、自分の代わりに罪を背負った級友の方が気になっている様子だった。

「ん? 胡桃さんのお母さんって都知事だったの?」

 陽歌はそこでようやく胡桃が大海都知事の娘という事実に気づいた。

「いいんですよ。ボクはもう戻れないところまで来ています。せめてあなたの未来だけでも、守らせてください」

 響は人を殺めた後とは思えないほど穏やかな笑みを浮かべる。その姿に、陽歌は背筋が凍った。人を殺したという事実に対して、抱く感情が少なすぎる。胡桃のことしか頭にない。殺人など、ただ目の前の問題を解決した程度、皿を洗ったり洗濯機を回す様なものとしか思っていないのではないかと陽歌は考えた。

「いや、まだ死んでねぇ!」

 誰もが都知事の死を確信した中、七耶だけがそう叫んだ。そして、新たな足音がスタジオに鳴り響く。なんと、さっき死んだはずの都知事が生きているではないか。死体の都知事と生きた都知事が、同じ場所に存在する。

「これは演出です。私は生きていますよ」

 さらりとそんなことを口にする都知事。だが、七耶はアスルトからの連絡で都知事の正体を知っている。

「違う! お前は本体をどこかに隠して、この肉体を端末にしているんだ! こないだの病院島の一件もそれがトリックだ! 端末としての肉体を複数動かしていたから、輸送班の都知事、東京で会見してる都知事、病院島にいる都知事、その前に金湧の壮行会でぶっ殺された都知事の四人が同時に存在出来たんだ!」

 しかし傍目からみれば子供の戯言。都知事的にも生放送中に殺害されるのは計算外だったようだが、まだ言い訳は出来る。

「何を言っているのです? プリキュアごっこですか?」

「そこまでだ!」

 その時、大人数でスタジオにやってきたのは警察であった。泊進ノ介刑事を先頭に照井竜警視が矢面に立つ。

「今度は逃がさん!」

「大海菊子! 外患誘致の罪と破壊防止法違反で逮捕する!」

 破壊防止法はともかく、外患誘致はマーケットプレイス関係だろう。まぁとにかく死刑まっしぐらコースであることには変わりない。しかし、都知事は馬鹿笑いして全く引くことがない。

「見なさい! 国家権力が主権者たる国民の代表を弾圧しようと躍起になる様を! ですが都民の皆さんご安心を……正義の力が私にはあるのです!」

 地面が唸りを上げてスタジオを揺らす。何か大きなものが動いている様だ。

「行きなさい、都庁ロボ! 愚かな国家権力を踏みつぶし、真の正義を全うするのです!」

 陽歌達がスマホを確認すると、完全に起動して人型に変形した都庁ロボが歩き出した様子をSNSにアップしている人達が多数いた。

「馬鹿な……都庁ロボは都知事の生体認証が必要なはず……」

照井は都知事がここにいるのにも関わらず、都庁ロボが動けることに困惑した。それは則ち、七耶の言い分が正しいということの裏付けに他ならない。

「ロイミュードの擬態だけではなかったのか……」

 進ノ介は下手に人間へ擬態する怪人と戦った経験があるだけに『本物』が増えるというバグ技めいたトリックに気づかなかった。しかし、今はとにかくここの都知事を拘束せねばならない。その時、無線に連絡が入った。

『警視庁から各員へ! 都庁ロボは市街地を通過して警視庁本庁へ向かっている! このままだと市街地に甚大な被害が出る可能性がある!』

「なんだって?」

 都庁ロボは一般人の被害も躊躇わずに行動を開始している様だった。もはや怪獣災害と大差ない。

『お待たせ! ユニオンリバー!』

 一方、七耶にも三茄子から連絡が来た。

『繰り返す2020年、その原因を突き止めタ! 東京の地下に治水施設があるらしいんだけれど、そこに都知事はタイムリープを起こしている道具を隠していル!』

「そうか」

『本当はしっかり準備したいところだけど、そんな時間は無さそうネ……今すぐ合流!』

「分かった! うちの連中も呼んでおく!」

 七耶は席を立ち、さなと共に陽歌とマナの下へ向かった。サリアとマネージャーのシエルも来ている。

「アメリカ娘からだ、ラスボス戦おっぱじめるそうだ」

「たしかに、これ以上追い詰めても暴走しかしないかも……」

 陽歌は都知事を包囲すれば包囲するだけこの様な後先考えない暴走が増えることを考え、その判断が正しいと思った。

「そうだ、雲雀は早く逃げて。多分、東京はどこも危ないと思うから……」

 一応、一般人の雲雀には避難を呼びかける。だが、彼女は大人しく聞くはずも無かった。

「へ、お前はどうすんだ? 戦うんだろ?」

「そ、そうだけど……」

 戦える力が自分にあるとは思えない陽歌だったが、三茄子によればループ打開のキーになるかもしれないとのことで行かないわけにはいかないのだ。

「だったら、こいつでせめて避難する奴の手伝いくらいするさ。私も私なりに戦う」

「そう……気を付けて。またね」

「お前もな。積もる話もある」

 二人の友は再会を誓い、二手に分かれる。響とゆいも手慣れた様子で現状を纏める。その中で、母の暴走を止められなかった胡桃は俯いて悩むしかなかった。

「私は……」

「あんた秋葉原自警団の人だろ? 手伝ってくれ!」

 そんな中、雲雀が彼女に声を掛ける。

「インフラ壊れたらゾイドくらいしか役に立たねぇんだ! ドライパンサー出してくれ!」

「でも……こんなことになってしまって……止められずに、私には……」

 誘われたものの、結局自分だけで決着出来なかったショックが未だにぬぐえなかった。だが、かつて彼女の言葉に導かれた陽歌が口を開く。

「僕だって自分の家族のこと、殆ど誰かに助けてもらったんです。家族のことだからって自分だけで解決しようとしないで、ここは僕達がなんとかする! だからあなたはあなたに出来ることを!」

 響も胡桃の活動を影から見ていたのか、後押しする。

「東京のインフラに詳しい集団をすぐに動かせるのはあなただけです。殺すことしか出来ないボクに、誰かを救う力を!」

「……うん!」

 胡桃も決意を決め、動きだす。

 今、最終決戦の幕が開く。

 




「もう今年はオリンピック無理そうね……」
「オリンピックではない、戦いの神への供物よ」
「じゃ、計画を次に動かそうか。都知事は役に立たなかったね」
「60億の人命と36億年の歴史を守るためなら、たった一億の先進国民と僅か二千年の歴史など安いもの」

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