騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 儂が子供の頃はなぁ、30度超えるだけで大騒ぎしてたものじゃ……


☆暑が夏い

 陽歌は周囲全てが害意を持っている、という地獄で長らく育った。全く安らぎの無い、二桁も生きていない子供が受けるべき愛情を受けられない孤独。そのため、強いPTSDを抱えており、一人で外出するのに難があった。

 とはいえユニオンリバーの人々による献身的な看護と愛情のおかげもあり、調子が良ければ病院にいくくらいのことは一人で出来る様になっていた。

 この日も朝は調子がいいので一人で通院することにした。が、問題があったのである。

「暑い……」

 そう、猛暑である。彼は迫害の原因でもあった特異な外見と義手を隠すために普段はパーカーを着こんでいるが、今日は外に出た瞬間に暑さを察してやめたのである。

 白とオレンジのグラデーションが鮮やかな半袖のパーカー、どちらにせよ顔だけは隠すことが出来る選択へと切り替えた。袖から覗くのは黒い球体関節人形の様な義手。キャラメル色の髪は強い日光で溶けそうになっており、オッドアイの焦点も定まっていない。

「あれ?夏ってこんなに暑かったっけ?」

 陽歌は恨めしそうに左目と同じ色をした空へ視線を向ける。日本は四季がハッキリした国、というのは昔の話らしい。彼の右目が示す様な桜が散れば即座に湿度と温度が暴走を始める。もはや、梅雨という風情あるものではなく熱帯のスコールと同等の雨季を経て、地獄の釜が開かれる。

 湿度による体感温度の上昇は砂漠の民すら悲鳴を上げる。

(冬もダメなのに夏もダメなんて……僕はどうしたら……)

 腕を失った経緯から寒さにトラウマを持つ陽歌だが、だからといって暑さに耐性が出来るわけではない。半ば意識を失い、フラりと足元が崩れる。

「大丈夫か?」

 その時、腕を誰かが掴んで支えてくれた。その人物は黒い長袖のパーカーを着ており、フードも被っているのでさらに暑そうだ。義手を掴む手には手袋もしている。

「あ……ありがとう……ございます」

 陽歌はなんとか立ち上がり、歩き出す。鞄にヘルプマークが付いているので、助けが必要だと分かってもらえた様だ。

「松永病院にいくんだろう? 旅は道連れだ、共に行こう」

 が、行き先まで的中させている。もしかすると、病院で自分のことを見かけていたのか。この特徴的な外見だ。一度見れば忘れられない。しかし今日も病院にいくとは限らないのではないか。

「あ、はい」

 陽歌は持ってきた水筒で水分補給を済ませると、その人物と共に病院へ向かった。

 

 松永総合病院静岡支部は、才能のある人物に予算と権限を与えてその恩恵を社会に還元する『超人機関計画』で産み出された存在である。超人機関松永総合病院、その呼称から我が子を超人に出来るのでは?という謎の解釈をした馬鹿親が殺到して業務に支障が出ることを避けるため、対外的に小児科系は無いことになっている。

 だが、現に陽歌が治療を受けている様に診察や研究をしていないわけではない。

「わざわざ来るとは思わなかったよ」

 そこの院長である松永順という、十代前半の少年が陽歌の主治医である。パーカーの人物も同じ場所に様があったのか、病院に着いても行動を共にすることになった。

「兄さん」

「え?」

 パーカーの人物は順の前に来て、漸くそのフードを脱ぐ。白い髪と肌、眼鏡の奥に潜んだ青い瞳。男の陽歌でも見惚れるほどの整った顔立ちに浮世離れした空気を纏う美少年。彼が順の兄だというのか。

「だってよ、今日は『電子科』の設備が整う日だろ?直に見ておきたくてな」

「とはいえ、この時勢と猛暑の中無茶をする……」

「理由を付けて先延ばしにして、 見ることなく死んでもナンセンスだしな」

 順の兄はやけに独特な死生観を持っていた。変わり者の身内は変わり者なのか。

「紹介が遅れたな。俺は直江遊人だ」

「……浅野陽歌です」

 順の兄、遊人が名乗ったので陽歌も釣られて自己紹介する。

「君がそうか……。よく頑張ったな」

 遊人は陽歌を労うと、腰を屈めて顔を近づける。

「いえ……寒いのも苦手なのに暑いのもダメなんて……僕は……」

 グットルッキングな顔が近いのもあり、陽歌は目を反らす。

「そう卑下することもないさ。暑いのも寒いのも得意な奴はいない。みんな無理にやせ我慢してんだよ」

「でも僕は倒れそうだったし……」

 つい卑屈になってしまう陽歌。髪色も瞳色も他人と違う。腕もない。誰かと同じこともできない。誰とも違う。同じものが何一つない。それが陽歌にとっては強いコンプレックスであり、傷になっていた。

「そうしょぼくれんなって。可愛い顔が台無しだぞ? ま、困り顔も可愛いんだけどな」

「え?」

 遊人が急に顔を誉めるので、陽歌は赤面して困惑する。

「あ、オッドアイだからとかじゃねーぞ?黒髪黒目でも可愛いのは変わらねーし、泣き黒子が色っぽいから成長にも期待だな」

 自分もアルビノだからか、そこに寄る評価ではないと遊人は語る。右目の黒子という特盛属性の中で隠れがちなポイントにも注目していた。

「まーた兄さんの悪いくせが……本気にしないでね、この人天然ジゴロだから」

 順は遊人のこういうところを見慣れているのか、呆れていた。

「人聞きの悪い。俺は褒め言葉と感謝は言いそびれない様にしてるだけだ」

「兄さんの顔でそれやると全員もれなくメス化だよ……。まぁ、寒さも暑さも本来我慢するものではないし、暑さに関しては人一倍影響を受ける条件が整っているのは事実かな」

 順は軽くタブレットに図を示して、陽歌の身体に起きていたことを解説する。

「君の場合、腕を大きく失っているため放熱能力が著しく落ちているんだ。生物の身体は先端から冷えるからね。砂漠に棲むフェネックの耳が長いのを想像してもらえばいいよ。それに、地面に近いほど照り返しの影響を受けやすい。一説には、車椅子に乗っている人は立っている人より三度気温が高い状態らしい。君の背丈なら同じ状態になっても不思議ではないね」

「なるほど……なんとか義手に放熱機能付かないかな……」

 陽歌は今使っている義手のモニターをしている。これを企業にフィードバックすれば、改良もされるだろう。

「なぁ、ところで電子科をだな……」

 遊人は新しい設備が気になっていた。

「あー、はいはい。そうだ、陽歌くんも見ておくといい。この研究は、君の役に立つだろう」

 順は遊人と陽歌を連れてある場所へ向かう。そこは地下の設備で、重低音が常に聞こえる病院とは思えない場所であった。空調の効きも心なしか強い。

「陽歌くんはハイムロボティクスからトイボットのモニターに任命されていたね」

 順は電子科の概要について話を始めた。

「あ、はい。モルジアーナのことですね」

「ハイムロボティクスのトイボットは過度な愛着による事故を防ぐため、発声機能が制限されている。責任者曰く、アクシデントからトイボットを庇って使用者が負傷しない様にね。でも、高度なAIを持っていてその思考は人間に近い」

 近年、トイボットに限らず人間と同等の思考を持つAIを搭載したロボットは広く流通している。人間の仕事を手伝うヒューマギア、感情を学習するアーティフィシャルセルフを持つフレームアームズガール、デジタル社会をアシストするバディロボットのアニマギアなどがその代表だ。

「故に、人間と同じ精神疾患を発症する可能性が高い。そこで生まれたのがAIのケアをする電子科だ」

 人間と同じ故に、人間と同じ病に罹る可能性がある。事前に予想出来てノウハウがあるのなら、準備しない理由はない。

「なるほど、確かにヒューマギアの暴走などAI絡みの事件は多いからね」

「これが、人の役に立つ……」

 遊人の言う通り、ここ一年で起きたヒューマギアの暴走や十二年前のデイブレイク事件などAIが起こした事件は多い。それがAIの精神的な限界によるものだとすれば、カウンセリングなどでガス抜きをすれば防げるだろう。

「それに、AIの機微はログデータが取れるからね。人間の精神疾患のメカニズムがより解析出来るかもしれない」

 今のところ、精神疾患の多くが脳内物質やホルモンで語られているが、新たなアプローチが生まれることで解決出来る問題もある。

 順は何もない空間に手を翳し、ある人物を紹介した。

「そして、ここの目玉を紹介しよう。人類初の電子生命体、継田調だ」

 空間に出現したのは、黒髪のショートヘアをした幼い少女であった。

「ん?継田さんってことは、響さんや奏さんの関係者?」

 同じ名字即ち血縁というわけではないが、珍しい名字なので陽歌はそう考えた。名前的にも法則性が見える。

「どうも、調です。奏は母、響さんは伯父です」

「ここではホログラムでどこでも自由に出現出来る。肉体は存在しないが、ヒューマギアのボディを使えばこちら側への干渉も出来る」

 というわけで電子生命体であるが、AIとの違いがよく分からなくなってくる。

「電子生命体……AIとは違うんです?」

「そうだね。その辺は実は僕も分からないんだ。一応、資料ではゼロから自然発生したものを電子生命体と定義するみたいだが……まだ議論の途中だ」

 順をもってしても、その境界は曖昧だという。

「でも母親の奏さんは人間ですよね?製作者、ということはないでしょうし……」

 継田姉妹については、血縁がないことを陽歌は知っている。もし電子生命体を奏が引き取ったとすれば妹扱いするだろうが、彼女の心情の変化から娘として養育しているのか。響と関係を結んだ時はかなり昔で、奏も歳を取っている。

「話をしよう。あれは今から数年前だったかな?」

 その辺の複雑な話を遊人が解説し始めた。

「大海都知事の二つ前の都知事がいた。そいつは戦争への憧れから大日本帝国の復活を目論み、その仮定で漫画など創作物への表現規制へ踏み切った」

 大海都知事の二つ前の知事は長いことその座におり、古い考え方によって圧倒的な票田を持つ高齢者票をかき集めていた。そんな中行われた表現規制だが、出版社の九割が東京に集中する状況では一自治体の条例とは思えない影響力を持っていた。そして、東京での前例は全国に波及しやすい。

「その時立ち上がったのが、継田奏、級長ら先代の漫研ファイブだ」

 陽歌が籍を置く白楼学園の本校である愛知の白楼高校、その漫画研究部は色濃い五人のメンバーが揃った時、漫研ファイブと呼ばれる。

 現在のメンバーは無からチョコを生み出す超能力者、公界遊騎、漫画家の幽霊、暦リーザ、魔界の魔王、スティング・インクベータ、仙狐の呪術師、妙蓮寺ゆい、そして強化人間、継田響。その中でも陽歌はリーザは一月の工作会で面識があり、響とゆいはなんやかんや世話を焼いてくれている。

 彼らの前に漫研ファイブと呼ばれていたのが、奏らであった。

「先代の……漫研ファイブ」

「そして彼らは都庁ロボの起動を阻止、ついに都知事を追い詰めたのだ。はい回想入りまーす」

 その先代の漫研ファイブと都知事の戦いと、電子生命体に何の関係があるのだろうか。

 

   @

 

「追い詰めたぞ!」

「フハハハ!無駄だ! この金庫は開かん!」

 奏達は都知事を追い詰めた。だが、都知事は金庫の中に閉じ籠り、出てこない。金庫は非常に分厚く、破れるには破れるがここで大火力を使えば不安定な地盤も崩壊して都市部に影響が出かねない。

「鍵開けもダメか……」

「私の端末に届く五分ごとに変わる16桁の英数字のパスワードがなければ開かん!」

 都知事は金庫の中で吠える。万が一の為にシェルターも兼ねており、快適な場所だ。その時、扉の向こうから奏の声が聞こえた。

「おい! 障子〇〇こマン!」

「ああん?」

 漫画を下品だと言いながら、自分も障子をあれで破く下品な小説を書いて芸術家気取りをしているのがこの都知事であった。

 「お前は障子紙を〇ん〇で破くことさえ現実で出来ないがな……私はこのセキュリティを破ってやる!」

「無駄無駄……」

「この、メスガキ分からせ棒でな!」

 余裕ぶっていた都知事だが、奏の意味不明な発言で困惑する。

「なんの棒だって?」

「おらぁ!」

 聞き返す余裕もなく、何か凄まじいもので穿つ音が聞こえた。

「なんだ?」

『んほおおおおっ!』

 しかも端末から登録していない音声が聞こえてくる。混乱は深まるばかりだ。

「へへ……こんなびしょびしょにしてこの淫乱AIめ!」

『らめぇぇえ!』

「おらイけ! イき死ね!」

 一定のリズムで杭を打つ様な音がシェルターに響く。もはや困惑より恐怖が勝った。

「きゅうきゅう締め付けやがっていやしんぼめ! そんなに欲しいか? くれてやるよ! 中に出すぞ!」

『ひぎぃぃぃいいい!』

 結果、金庫の扉は開かれ、都知事は捕まった。

 

   @

 

「こうして生まれたのがお前だ、調」

 回想終わり。

「兄さん、資料読んだ時も思ったけど……いやそうはならんやろ」

「なっとるやろがい」

 陽歌はもうそういうものだと思って詳しく理解することを諦めていた。それよりも、気になることがある。

「他に電子生命体っていないんですか?」

「私一人ですね。今のところは」

 調は特に思うところも無いらしく、淡々と語る。陽歌は髪色、瞳色が他人と違う。自分と同じ誰かがいない世界で生きてきた。それを調も感じているはずだと思っていた。

「それって……寂しくないの?」

「いえ、私にはお母さんと響さん、たくさんの友人がいますから」

「誰かと違うって、不安にならないの?」

 この世界にただ一人の電子生命体。陽歌は、自分と同じ気持ちを持っていることを期待していた。同じ存在がいなかった中で、孤独に生きてきた者として。

「誰かと違うのは当たり前ですよ。あなた達は大分類では人間という生物、という括りかもしれませんが、詳細ではそれぞれ別の存在ですから」

調は寂しさや不安などを感じてはいなかった。

「私も電子生命体という部分が違うだけです」

「そう……なんだ」

 陽歌は少し残念だった。周囲に愛があるだけで、ここまで違うものか。まだ自分は人間という括りに入れるが、彼女はその根幹からして違うはずなのに。

『緊急警報発令!電子科システム内への侵入を試みている存在がいます!セキュリティレベル上昇!排除します!』

「な、何?」

 陽歌の思考を立ち切る様に、警報が鳴り響く。空間に浮かんだモニターに、ある存在が表示される。

「これは……ガンプラ?」

「GBNのサーバーを踏み台にしてアスクレピオス経由で入り込む気か!」

順は敵の狙いを察知した。ガンプラネクサスオンラインのシステムを医療に活かすため、専用サーバー『アスクレピオス』が存在する。それらを踏み台にして電子科の設備を攻撃するつもりらしい。

「調は退避しろ! 俺は、ティエレンで行く!」

 遊人はガンプラを取り出し、近くにあった筐体でログインする。ガンプラはサンドカラーのティエレン高機動型B。脚のホバーが特徴だ。

「兄さん! まだその筐体はセットアップが完璧じゃない。防衛用にガンプラは動かせるけどダイバーとして行動はできないから、取れる戦術は限られるよ」

「おーらい!」

「僕も……!」

 陽歌もガンプラを取り出し、筐体で出撃する。マーズフォーをベースにしているが、肩はジュピターヴ、下半身は赤く染めたユーラヴェンと改造されている。

「紅蓮ガンダム、出ます!」

 カタパルトから紅蓮ガンダムが出るバックパックにはヒートソードがマウントされ、大型スラスターがビームの翼を広げて加速する。速度だけなら遊人のティエレンを追い越せた。

「いた!」

 アスクレピオスのディメンジョン内にいた敵は、赤い瞳のアルスアースリィ。

「誰だ!目的を言え!」

 遊人がスピーカーで呼び掛ける。敵は何を目当てにハッキングしているのか。

『完璧な私達を人間と同等に貶める、この設備は私達に不要と判断した……』

「この!」

 陽歌はビームガトリングを放つ。アルスアースリィはそれを易々と回避し、腕のビームソードで斬りかかった。

「くっ……!」

『不完全なエイミング……回避は容易……』

 陽歌は腕のクローで防ぐ。一旦距離を取って体勢を建て直し、射撃を続けるが当たる気配がない。

『やはり人間とは不完全……』

「何者なんだ!」

 敵の正体は掴めない。言葉からして独立したAIの様だが。

「はーん、ラブマシーン的なやつかお前」

 遊人はその手の敵キャラをよく知っていた。誰かが作ったAIが暴走し、独立して行動しているみたいだ。

『否、我が名は「ZEN-NOU」。究極の思考プログラムにして、人類を最適化するためのツール……』

「これギャラクトロンとかギルバリス的なの?」

 陽歌も唐突に現れた脅威に戸惑う。人類の支配とかAIがやりがちなやつだ。

『否、我が名はZEN-NOU……』

「知るか!」

 アルスアースリィの言葉を遮る様に、遊人がティエレンの持つマシンガンを乱射する。しかし、やはりというべきか回避される。

『不毛……』

「とでも思ったか?」

 その時、アルスアースリィの頭に大きな一撃が加わる。ティエレンの背負っているキャノンが、直撃を食らわせたのだ。

『……!?』

「おおっ!」

 アルスアースリィが止まった瞬間に、遊人は左手のパイルバンカーで攻めかかる。だが、アルスアースリィは冷静に回避する。

「そうくると思ったよ!」

 遊人はバーニアを吹かして急転回し、アルスアースリィの方へ向かう。それも予想されており再び回避するが、今度はパイルバンカーで地面を穿って方向を変える。

「でゃああ!」

『エラー……』

 ティエレンがアルスアースリィを蹴り飛ばす。これにはZEN-NOUも動揺を隠せない。

『最適化された操縦のはず……』

「その最適化がミソだ。最適化ってことは遊びが無くなる。つまり読みやすいんだよ。RTAでも極めれば追記は減ってくるしな!」

 無駄を減らせば、必然的に取る行動は限られる。F1のマシンが皆、一様に同じ軌道を描く様に。

『……』

「これでトドメだ!」

 パイルバンカーを手に遊人はアルスアースリィに迫る。だが、今度は読まれていることを考慮した上で回避方法を変えてきた。無駄な動きを挟み、惑わしにかかる。種を明かせば、当然対策される。

『やはり、不完ぜ……』

「トドメっつたろ」

 しかし相手の裏の裏を読んだトドメの杭が、アルスアースリィを貫いた。

『ありえ……ない……』

「お前、ある棋士が打った手にたどり着くまでAIが4億手掛けたって話知ってるか? AIにも、癖があんだよ」

 アルスアースリィは爆散し、脅威は去った。

 

   @

 

「セキュリティを大幅に強化するよ。このレベルでも防がるとなると、単純に解除の手間を増やすしかなさそうだけどね」

 事件が終わった後、順は設備のセキュリティを見直していた。まさか可動前に狙われるとは思いもしなかったが、十分なセキュリティがあったおかげで察知自体は出来た。

「でもデータって一瞬で消える危険があるんだ……。それってなんだか怖いな……」

 陽歌はデータの脆さを思い知り、背筋が凍った。何度も死にかけ、そこから復帰した彼だからこそ湧いて出る感想であった。

『私からすれば、一メートルが一命取るな人間も十分脆弱ですがね。確率論では自動車事故より少ない飛行機事故に脅える様なものですよ』

「そうなんだ……」

 アイデンティティがしっかりしており、電子生命体という自分を受け入れている調は独特な価値観を持っていた。

「ま、若いうちはいろいろ悩むもんだ。それは別に悪いことじゃない」

 遊人もアルビノという特性を持ってるが故の苦悩を経ていたりする。

「いつか答えが出たら、後ろで悩んでる奴に寄り添ってやってくれ。いいアドバイスが出来なくても、一緒にいるってだけで違うもんだ」

「……」

 遊人の言葉に、「でもあなたはまだアルビノで括れますよね?」と思ってしまう陽歌だったがそんなもやもやにもいつか答えが出るのだろうか。調も電子生命体という説明が出来る。

「俺もいるからさ。気持ちが分かるなんて安っぽいこと言うつもりはねぇし、お前の気持ちはお前にしか分からんだろうがな」

 そしてそんな彼の気持ちを見透かした様なことを遊人は言う。果たして、陽歌が自分を見つめられる日は来るのだろうか。




 直江遊人

 『ドラゴンプラネット』の主人公。アルビノで日光に弱く、虚弱体質だが極めて高いゲーマースキルを持つ。人類初のフルダイブゲーム、ドラゴンプラネットオンラインにおいてはそのゲーマースキルは一切役立たず、リアル運動神経の無さに苦しむ。
 年齢は16歳。長い入院歴から昨日まで元気だった友人が死ぬことも珍しくなく、そのため誉め言葉と感謝は忘れずに伝えるというポリシーを持つ。
 アルビノといえば白髪赤目のイメージが強いが、実際は青い瞳になる。紫外線への耐性も個人差が大きいが、遊人は弱い方。
 また探偵、料理人としてのスキルも高い。

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