騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
テレビ局を出て、陽歌達は都知事の秘密が眠る場所へ急行することとなった。本来の作戦とは違う形になるが、事態は急を要する。辺りはすっかり暗くなっていたが、この東京は眠らない。
「カイオン!」
建物を出ると同時に陽歌の駆るライオン種ゾイド、カイオンが駆けつける。主の力になるべくはせ参じたというところか。確かに、彼には戦う力がカイオン以外存在しない。
「お願いがあるの!」
しかし、陽歌はカイオンに頼みたいことがあった。
「僕はみんながいるから大丈夫。だから僕の友達を、雲雀を助けてあげて!」
ゾイドに乗り、人々を助けるために動き出したかつての友。彼女の助けになればと、カイオンをそちらに向かわせることにした。
カイオンは咆哮をあげ、左目に緑の炎を微かに灯して走り出した。
@
『現在、都庁ロボは警視庁へ向けて動いています! 度重なる国家権力の介入に、主権者の代表が実力行使を始めました!』
人々が逃げ惑う中、ヘリコプターを飛ばしてテレビ局のキャスターが的外れなことを叫ぶ。大海都知事の起動した都庁ロボは東京の街を突っ切り、被害を出しながら行動している。もちろん、公的機関がこれを見逃すわけがない。
「警察、ガッタイム! 正義をつかみ取ろうぜ!」
「完成! サイレンパトカイザー!」
国際警察の所有する巨大戦力、パトカイザーが立ちふさがる。黒いボディに両腕の緑とピンクが映える。被害の規模を考え、初めから全力で制圧に向かっている。
「国際警察の権限において、実力を行使する!」
一号の号令でパトカイザーが攻撃を開始する。流れ弾が二次被害を出さないように格闘戦による制圧だ。明らかに体格では都庁ロボが有利だが、重ねてきた場数が違うのかパトカイザーが終始圧倒する。
『ええい! 男社会がどこまでも邪魔を!』
「平和を守りたいという決意に、男も女もあるか!」
気合の面でも都知事は一号に呑まれていた。形成を覆すため、都知事は都庁ロボの両手からカプセルの様なものを生み出す。
『どこまで使えるか分からないが、使わせてもらう!』
割れたカプセルから出て来たのは、宇宙怪獣ベムラー。茶色のトカゲらしきシンプルな怪獣だが、単純に手数が増えたことは厄介である。
「なんだこいつ……」
「増えましたよ先輩!」
『セブンガー、着陸します。ご注意ください』
困惑するパトレンジャーの前に、ゆるキャラみたいなロボットが降り立った。
「防衛隊ストレイジのセブンガーか」
三号がロボットの所属を確認する。こちらも公的機関の戦力だが、その専門は怪獣だ。
「防衛隊といえば怪獣退治の専門家か。なら、力を貸してくれ!」
「オッス!」
一号とセブンガーのパイロット、ハルキの柔軟な連携により、ベムラーは都庁ロボから引き離され形勢の変化を阻止した。
『次から次へと! 男社会が束になって!』
都知事は逆恨みに近い呪詛を吐く。
「ええ? うち男女比半々っすよ?」
「いや、多分そうじゃない」
天然の入ったハルキの同様に三号がフォローを入れる。とはいえ、戦いの手は休めない辺りプロだ。
「おー、やってるやってる」
都庁ロボとの巨大戦を足元で観戦していたのはヴァネッサ、クロード達四聖騎士団のメンバー。この戦闘に乗じて内部へ侵入、都庁ロボを制圧する作戦だ。
「この調子ならさっさと済みそうだね」
「怪獣って八つ裂きにしたらどうなるかなー」
ビーダマンを向けて援護の機会を伺うクロードに対し、物騒なことを言う緑髪の少女がいた。彼女はエリシャ。ヴァネッサと同じく青龍の騎士である。
「ああいうロボットは脚部が生命線ですので、地面に接する脚はセンサーや警報の塊。ゆえに穴を開けて入れば即座にバレます」
眼鏡を直しながら状況を伺う茶髪の少女はいすか・クリムフェザー。朱雀の騎士である。この作戦のブレインとして指名されている。
「んじゃどこから入るよ?」
「大型故に整備用ハッチがありますが、機動中に開けばやはり警報が鳴り響くでしょう。ここは爆発等に乗じてEMCで短時間のみ電子機器を無力化して侵入するのが確実かと」
作戦を立ててはいるが、その場のノリで行き当たりばったりでもどうにかなるのが四騎士の強みだ。
「チェストー!」
セブンガーの鉄拳でベムラーが倒される。しかし、その隙を突いて横から新たな怪獣が妨害に入った。有名な怪獣王に襟巻を巻いた様な姿が特徴のエリマキ怪獣、ジラースだ。
「セブンガー! こいつ怪獣を無限に出せるのか?」
ハルキは最悪を想定してゼットライザーを起動する。相手の怪獣生産能力に限度があるのかは不明だ。最大戦力を出し惜しみすることはできない。
『ハルキ、アクセスグランデッド!』
「宇宙拳法、秘伝の神業! セブン師匠! レオ師匠! ゼロ師匠!」
慣れた手つきでメダルを装填し、スキャンする。
「ご唱和下さい、我の名を! ウルトラマンゼェーット!」
「ウルトラマン、ゼッート!」
セブンガーの中から赤と青のラインが入ったウルトラマンが飛び出し、ジラースに不意の一撃を加える。
『ウルトラマンゼット! アルファエッジ!』
「ゼスティウム光線!」
必殺の光線でジラースを一撃の下撃破し、着地する。だが、怪獣はまだ絶えない。今度はテレスドンをカプセルから呼び出した。
『こんなことも出来る様ですね』
都知事は都庁ロボの力でジラースの残骸からエネルギーを抽出し、襟巻をテレスドンに付与した。
「一度戦った相手には負けないっすよ!」
だが、エリマキテレスドンは一度勝った相手。パワー比べより速攻という攻略法も分かっている。
『果たしてそれはどうかな?』
だが、都知事は矢継ぎ早に新たな怪獣を呼び出す。古代怪獣ゴモラとどくろ怪獣レッドキングの組み合わせだ。
「増えた!」
「お待たせ」
「警察ばかりにいいかっこさせられないからねー」
敵の怪獣が増えたが、エックスエンペラーにビクトリールパンレックスという増援も現れた。
「このサイレンは!」
そして彼方から聞こえるサイレン。デカバイクロボに乗ったデカレンジャーロボも駆け付けた。
「超特捜合体!」
そして、流れる様に合体を行う。この動きは、間違いなくあのエージェントアブレラを撃破した伝説の六人の刑事だ。
「ビルドアップ! スーパーデカレンジャーロボ!」
そしてさらに増援は増える。今度は宝石の様なマシンが集まって合体を始めた。
「キラっと参上! カラッと解決! 魔進戦隊、キラメイジャー!」
キラメイジンとギガントドリラーが並び立ち、都庁ロボを包囲していく。
「壮観だな……」
ウルトラヒーローと戦隊ロボのそろい踏みにヴァネッサが感動していると、一人の青年が怪獣の方へ向かっていく。
「あ、おい、あぶねぇぞ……って……あんたは」
彼女は止めようとしたが、青年の顔を見てその正体に気づく。
「ジーっとしてても、ドーにもならねぇ!」
『リク、アクセスグランデッド!』
その青年、朝倉リクはゼットライザーを起動する。彼もまた、ウルトラマンなのだ。
「ライブ! ユナイト! アップ!」
『ギンガ! エックス! オーブ!』
「集うぜ、綺羅星! ジード!」
『ウルトラマンジード! ギャラクシーライジング!』
新たに出現したウルトラマン、ジード。いくら怪獣が呼べるといっても、この物量にはかなうまい。
『小癪な……!』
敵が厄介になったことを察し、都知事はゴモラとレッドキングを融合、スカルゴモラへと変貌させる。
「お、融合か? スカルゴモラは強いが頭数が減っちゃぁな……」
ヴァネッサは都知事のプレイミスと思ったが、驚くべきことに素材となった怪獣は健在。場にはスカルゴモラが増えただけだ。
「え?」
カードゲームなら盤面ひっくり返しそうな展開にヴァネッサは思考が止まった。
『お前らも行きなさい!』
手当たり次第といった感じで、都知事はどんどん怪獣を召喚する。エレキング、エースキラー、キングジョー、そしてゼットンにパンドン、マガオロチ、ギャラクトロン。
『融合!』
それらが融合されることで元手の怪獣がいなくなることなく、新たにサンダーキラー、ペダニウムゼットン、ゼッパンドン、キングギャラクトロンまで出現する始末。倒されたベムラーからゼットン経由でベムゼードを呼び出す抜かりなさだ。
「おいふざけんな! なんだそのチート能力は! ナーフしろ!」
これにはヴァネッサも怒り心頭だった。キングジョーは二回、ゼットンは三回素材にしたのに健在だ。バランスが崩壊している。
『ふはははは! これは凄い! さすが最強の防衛システム!』
都知事は調子に乗ってさらに怪獣を呼び出す。出て来たのはシーゴラス、イカルス星人、ベムスター、バラバ、ハンザギラン、キングクラブだ。
「おいおいまさか……」
ヴァネッサはこの面子で嫌な予感がビンビンしていた。残るレッドキングであれが出来てしまう。
『これで終わりです!』
それらを融合することで、なんとタイラントを生成してきたのだ。加えてそのタイラントとゴモラを融合させてストロングゴモラントまで呼び出している。
『手は緩めませんよ。ツインテール、バキシム、アストロモンスが呼び出され、タイラントと融合、グランドタイラントへと変貌する。
「だぁー! なんか遊戯王の一人で回してるデッキみたいな盤面になってきた!」
結果的に都庁ロボの周囲にはエリマキテレスドン、ゴモラ、レッドキング、エレキング、エースキラー、キングジョー、ゼットン、パンドン、マガオロチ、ギャラクロトン、シーゴラス、イカルス星人、ベムスター、バラバ、ハンザギラン、キングクラブ、ツインテール、バキシム、アストロモンス、スカルゴモラ、サンダーキラー、ペダニウムゼットン、ゼッパンドン、キングギャラクトロン、ベムゼード、タイラント、グランドタイラント、ストロングゴモラントと実に二十八体もの怪獣が勢ぞろいすることとなった。強さはピンキリだがキリ率が異様かつ物量が頭おかしい。
『ではキリのいい数にしてあげましょう』
そんなスナック感覚でお出しされるガタノゾーアとギルバリス。あーもう滅茶苦茶だよ。
「おいおい、どうすんだよこれ……」
ヴァネッサは潜入どころではない状況に息を飲む。ここにいる騎士団が全員本気を出しても危険なレベルだ。その時、上から何か大きなロボットの様なものが着地した。白と黒の装甲を纏った巨大ロボット。アステリアの駆るグラビテクスだ。
『みんな! ここは私が! 都庁ロボを止めて!』
「オッス!」
大量の怪獣に駆け抜けていき、戦いを始めるグラビテクス。ゼットやジード達が都庁ロボへ挑み掛かり、そのどさくさに紛れてヴァネッサ達も潜入を開始する。
「よし、行くぞ!」
「任せておいてよ!」
「切り裂くー」
「無礼には無礼で返します」
こうして、都庁ロボ攻略戦の幕が切って落とされた。
@
「こっちデス!」
「おう」
「ここって、ディケイドのカブト回の……」
七耶、陽歌、マナ、サリア、さなは三茄子に案内されて東京の地下にある空間へやってくる。首都圏外郭放水路、コンクリート造りで柱の並ぶ神殿とも見紛う場所は水害に弱い都市部に振った雨水を溜めておく場所である。山間部や地方は土が露出している場所が多いため雨を吸うが、都市部はアスファルトで覆われているので水は逃げ場がない。そのための場所である。
「いやー、待ってましたよ」
「ここがラスボス戦の場所ですかに」
エヴァとナルは先に到着していた。凛と茶髪の少女、朱雀長女のひばりも揃ってここには四聖騎士のトップが並ぶ状態だ。
「あれ、何の用でしたっけ」
「最終……決戦……」
「ぴよ」
ひばりは残念なことに鳥頭。ここに来た用事さえ忘れてしまった。
「なるほど、これがこの世界での俺の役割か、大体わかった」
背の高い青年が首に下げたカメラで陽歌の姿を撮影する。もう一人の青年は青い銃を手にしている。
「士、お宝は渡さないよ?」
「好きに持ってけ」
「まさか……」
その姿は陽歌も見覚えがあった。あの仮面ライダーディケイド、門矢士、仮面ライダーディエンド、海東大樹だ。
「というか何度もループしてるとは思いませんでしたよ。ねぇユウスケ」
「そうだな……不思議なことがあるもんだ」
夏海とユウスケも揃っている。
「お前海東の世界でまんまと洗脳されてたもんな」
「まぁ、それはそうだけど……」
「ループを認識出来たのは僕と士だけみたいだけど、僕らも途中で合流したから詳しくは知らないんだけどね」
この中でループの認識が出来たのは二人のみ。世界を旅する四人ですら半数しか自体を認識出来なかったというのはかなり悪い状況だ。
「それを言うなら、僕達もウォズに教えて貰わないと分からなかったよね」
「最初の数回は我が魔王が解決したが……負けても負けてもやり直すのではお手数をおかけするのでね」
他にも四人の若い男女がいた。仮面ライダージオウ、常盤ソウゴ、仮面ライダーゲイツ、光明院ゲイツ、ツクヨミ、ウォズの通称魔王軍だ。
「仮面ライダーが一気に八人も……」
豪華な面々に眩暈がしつつも、それだけではないとばかりに他のメンバーもやってくる。眼鏡を掛けた、セーラー服にカーディガンの女子高生が一人。
「あなたは……」
「私は情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。地球での名称は、長門有希」
「んん?」
つらつらと読み上げられる単語に陽歌は一瞬フリーズするが、何とか噛み砕いて理解する。
「つまり人類に接触する為の端末?」
「端的に言えば宇宙人だな」
七耶はざっくりとした捉え方をする。
「人類とコンタクトするために人類を模した……」
その外見に、陽歌は思うことがあった。多少なり美形とはいえ、外見は一般的な日本人のそれを大きく逸脱はしていない。宇宙人でさえそれなのに、純日本人であることが明らかになった自分がこの外見とは。
「おっと、僕を忘れてもらっては困るね」
そこに現れたのは、長い黒髪を靡かせたやはり女子高生。JKの人外率が高い。
「僕は安心院なじみ。親しみを込めて安心院さんと呼びたまえ」
「あなたもループを?」
この人もループを認識出来たのだろう。長門はその役割から積極的な介入は行わないとして、この人物はなんだろうか。
「そんなところ。最初は妙なことが起きてるなと思ったけど無視して隅っこで携帯弄ってたのさ。でもあんまりにしつこいからそろそろストーリー進めたくてね」
ループを認識出来るということはそれだけ浮世離れしているということ。つまり、積極的に問題を解決しようとするタイプの人間は少ない。長門も安心院も三茄子の呼びかけがあったからここにいるのだろう。
「よし、それでは行きますヨ」
「ウォズ、二次会のカラオケ予約しておいてよ」
「仰せのままに」
そんなわけで一同は奥へ進む。その時、誰かが一同を呼び止めた。
「私も一緒に行こう」
「ん?」
赤い外套の男性が瓦礫にカッコつけて座っていた。
「あれ? こんな人呼びましたっケ?」
「いや、派遣されてきたといったところだ。抑止の英霊、アーチャー、とでも呼んでもらおう」
計算外の増援を加えつつ、一同は再び進む。七耶はアーチャーに状況を聞く。
「これって抑止案件なのか?」
「最初は静観だったんだがね、あんまりにもしぶとくて予期せぬ事態に発展する可能性が高いからな」
最初は大したことない事件だったようだが、こうも繰り返して積み重ねるとやはり危ないらしい。
「時間の繰り返しを重ねた末、普通の少女が地球をも容易に滅ぼし、世界の在り方さえ変えた例さえある。用心に越したことはない」
「あー、そういうことか」
「これがループの秘密……」
一同が地下の奥深くで目撃したのは、ある噴水の置物であった。エヴァはその正体を瞬時に判別する。
「あれは、梅田駅の泉の広場にあったセーブポイント!」
「ええ? ジパングにはセーブできる場所があるんですカ?」
三茄子は思わず驚くが、そんなことはもちろんない。ただの愛称であって実際のセーブポイントではないはずだ。大阪、梅田駅の地下、泉の広場にあったこの噴水は2019年に撤去されるまで、人々の間でセーブポイントとして親しまれていた。見た目がそれっぽい、というだけで実際にセーブできるわけではない。
「いや、そう呼ばれているだけで……」
「それがいつしか、本当のセーブポイントになったのです」
エヴァが説明しようとしていると、大海都知事が複数人で現れた。もはや正体を隠す気が無い。それぞれの都知事が多種多様な怪人に変化していき、圧倒的な大人数が陽歌達の前に現れる。
「なるほど、無辜の怪物の様なものか」
アーチャーはそういう現象に心当たりがあった。人々のイメージが実際の力となって具現化する。梅田の噴水も、多くの人がセーブポイントと思ったからセーブポイントになったのだ。
「ここを壊されるわけにはいかないのでね。あなた方には死んでもらいます」
「ったく、よくオリンピックの為だけにこんなもんまで引っ張って来れるよな……」
都知事の執念に七耶は呆れていた。どのくらいループしたか分からないが、自分を増殖の時点で正気ではない。
「たかが人間が決めた、4年に一回のスポーツ大会だろ? ましてやお前は選手ですらない」
そう言い切れるのは、七耶の超攻アーマーとしての長い人生故だろうか。いや、人間の陽歌や三茄子から見ても都知事は狂っている。
「オリンピックを自らの手で開くという栄誉! お前の様な小娘に分かるまい! 誰にも邪魔させぬ! 私の名を……初の女性都知事としてオリンピックを開いた者の名を歴史に刻む!」
「それは無理だな。お前は俺が止める」
士は集団から一歩前に出て、都知事と対峙する。
「お前もこの価値が分からないのか!」
「分からないな。例え、金メダルが取れなくても、歴史に名前が刻まれなくても、過ぎ去った時間の中にはいくつもの奇跡を重ねた末に小さな平穏を掴んだ奴もいる。お前のしていることは、それを踏みにじることだ」
七耶は三茄子から聞かされた、陽歌に関する情報を思い出す。曰く、数多のループの中で彼は必ずユニオンリバーに辿り着くわけではない。陽歌と自分の出会いはまさに偶然でしかない。それをこの都知事は、何度も踏み消していた。
「俺にとってこれは寄り道だ。だが、決して見過ごせない道だ」
「ちっぽけなものを守るために勝ち目のない戦いを挑むなど……お前は一体何者ですか!」
都知事が士に問いかける。そして、彼はカードを翳してお決まりの言葉を言うのであった。
「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」
八人の仮面ライダーは一斉に変身する。戦力差は圧倒的なはずなのに、これだけで十分勝ち目がある様に感じてしまうからヒーローとは不思議なものだ。
「変身!」『カメンライド、ディケイド!』
「変身!」
「変身」『カメンライド、ディエンド!』
『オレンジ! ロックオン!』「変身!」『オレンジアームズ、花道オンステージ!』
『ジオウⅡ!』「変身!」『ライダータイム! 仮面ライダー、ジオウ、ジオウ、ジオウⅡ!』
『ゲイツ!』『ゲイツリバイブ、剛烈!』「変身!」『リバイブ剛烈!』
『ギンガ!』「変身」『ファイナリータイム! ギンガファイナリー!』
『ツクヨミ!』「変身!」『仮面ライダーツクヨミ!』
一斉変身を見て、エヴァも奮起して騎士全員が天魂を食べてプラモデル大のロボットボディ、キャストを使う。
「よーし! 私達も本気で行きますよー!」
「に」
「ぴよ」
「んー」
七耶も同じシステムなので同様に変身していく。
「私はサーディオンイミテイトでいく!」
「あれ? これ僕だけ戦力にならない流れでは……」
陽歌はそんなことを危惧する。他がチートなだけで一般小学生以下の身体能力しかない陽歌にこの戦列への参加は荷が重い。その時、エヴァが彼に耳打ちする。
「陽歌。君には乱戦に紛れてあのセーブポイントを破壊してもらいたい。当然乱戦下での破壊は向こうも警戒するだろうが、君のことをあちらは舐めているのでね」
その作戦に安心院も乗る。
「それいいね。僕もいくらかパッシブ系のスキル貸してあげるよ」
「出来るかな……」
不安げな陽歌に、七耶が背中を押す。
「逆に、お前しか出来んだろこれは」
「うん、やってみせる」
七耶にそう言われると、何だかそんな気がしてくる。何度もそうやって、彼女は陽歌の背中を押してきた。
「んじゃ、お姉さんから頑張ってのチュウ」
「!?」
突然、安心院が陽歌の唇を奪った。これはスキルを貸し借りするためのスキル、『口写し』を使ったのである。困惑する陽歌であったが、安心院はなんてこともなしに彼を応援する。
「ファーストキスが僕みたいな美人で呆けるのは分かるけど、見せ場だからガンバ」
「んじゃ、最後のひと暴れさせてもらうよ!」
さなが床をぶち抜き、コンクリート片の粉塵で煙幕を作る。その中に全員が突撃していく。陽歌も、作戦のために勇気を出して走り出した。
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「落ち着いて避難してください!」
東京各所ではパニックが起きていた。胡桃が避難誘導をするが、正直どこに逃げれば安全か分からない状態だ。指定避難所も災害でないため安全と言い難い。地下鉄の駅も、未知の重量を持つ都庁ロボの歩行に耐えうる保障はない。
「しかしどうする? あの馬鹿なら避難所狙ってビームとか平然とやりかねないぞ!」
「やるかもね……。でもみんなが散らばっていたんじゃ守れない。集めてとにかく火の粉を振り払う!」
雲雀の言う通り、避難すればそこを狙う悪意の塊、人災が今回の敵だ。どう対応するのがベストなのか、前例もない。だから、とにかくやれることをやり尽くすだけだった。胡桃のドライパンサーと雲雀のハンターウルフシルフィードがライダーの覚悟に呼応して唸る。
『高熱源体接近! あれは……治安局のゾイドです!』
その時、仲間の連絡が無線に入る。大量のキャノンブルとギルラプターがやってきたのである。
「おいまさか直に市民攻撃する気か?」
「こんなところで撃たれたら迂闊に避けられない!」
雲雀は敵の考えにぞっとし、胡桃は流れ弾を意識する。敵ゾイドはまさに殺戮の徒であると言わんばかりに赤い骨格と黒い装甲をしており、その後ろに巨大な影を従える。
「あのゾイドは……!」
雲雀はその影を凝視する。明らかに地球産ゾイドのそれを凌駕する体格をしたそのゾイドは、周囲を威圧する様に雄たけびを上げた。
「伝説の破壊竜、ジェノスピノ! ゾイドクライシスの際に地上の三分の一を消し去った特異個体!」
胡桃はその存在を知っていた。なぜそんな驚異的な存在がこの場にいるのか。都知事は、母はそんなものまで手中に収めていたというのか。
「お前は……そうまでして……!」
「胡桃!」
思考が母である都知事に傾いた瞬間、彼女に隙が生まれた。ギルラプターの一体がドライパンサーに迫っていたのだ。
「しまっ……」
「ストライクレーザークロー!」
その時、一体のハンターウルフがギルラプターを吹き飛ばす。黒い装甲に金の差し色、ハンターウルフツクヨミだ。
「雲雀! 陽歌はどうだった?」
「小鷹か! ああ、無事そうだったぞ!」
このハンターウルフを操るのは陽歌と雲雀の友人、小鷹であった。怪我をしていたが、状況も状況なので無理してやってきたというところか。
「ミサイル確認、頼みます!」
「了解!」
敵が一斉にミサイルを放つ。これが着弾すれば街への被害は免れず、ゾイドで庇ったとしても今後の戦闘が難しくなる。その時、小鷹の呼びかけに応じてバズートルがミサイルを返す。そのバズートルは深いグリーンに塗装され、『陸上自衛隊』の文字が入っていた。
「これで!」
バズートルが放ったのは、フレアと呼ばれるミサイルを誘導して妨害する特殊弾だ。ミサイルは反れていき、その先で機関銃の掃射で迎撃される。これを行ったのは、ライジングライガーとガトリングフォックスシャドーだ。
「グングニル!」
一瞬の隙を突き、ライガージアーサーが槍で敵を蹴散らす。
「シャイニングランス隊! ということはZCF!」
胡桃はこのメンバーを見て、ゾイドによる対テロ組織、ゾイドコマンドフォース、通称ZCFが来たことを確認する。ジアーサーのライダーはガトリングフォックスシャドーのライダーに確認を取る。
「おい、ファントム隊はいないのか? 奴らなら金でこういうこともやりかねん!」
ファントム隊に強い因縁を持っているようだが、フォックスのライダーが宥める。
「オーディア、彼らは傭兵だ。傭兵というのは儲け以上に信頼が重要な仕事……この様な自らが犯罪者に落ちぶれる作戦に加担はすまい」
「異常な帝国信奉者がそんなことまで考えるかは分からんが……今は目の前の敵を倒すしかないか」
仲間も駆け付け、状況は好転する。しかし、ジェノスピノはバイザーの装着のみで発掘したままという改造度ながら驚異的だ。
「よっと」
「お前は……」
その時、輝かしいライオン種のゾイドが降り立つ。右半身は通常の骨格に差し替えられ、仮の装甲を纏う痛々しい姿だが、間違いなくフロラシオン【福音】の機体だ。胡桃も何度か戦っているのでそのことは知っている。
「……何の用だ。随分ボロボロの様だが」
「まぁね。手を貸しに来たよ」
「何の冗談だ?」
【福音】は明らかに都知事側。なのにこちらに加勢するというのか。ドライパンサーの無線から、若い女性の声が聞こえた。
『こちら陸上自衛隊ZCF監査員、山野三尉です。彼女は味方です。以前のオメガレックス停止作戦に協力していただきました。彼女の身分は我々が保証します』
「私も最初は無事オリンピックを開くのがみんなの幸せだと思ってた。でも都知事は、結局自分の幸せしか考えてなかった。だから私はよりみんなの幸せが守れる方につくってだけの話」
彼女の思考は単純だった。都知事が個の幸福を追求したため、幸運の女神は離れることとなった。立て続けにライオン種の咆哮が轟く。
「陽歌か!」
「来たか、陽歌!」
雲雀と小鷹が振り向くと、そこにはカイオンがいた。陽歌は乗ってこそいないが、彼の願いを乗せて現れた。かつての敵も、別れた友も一丸となって破壊竜へ挑む。力無き人々を守るために。
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乱戦の中、噴水に向かう。簡単な様で一般人の陽歌にとってこれほど困難なものはなかった。なにせ、目の前で繰り広げられているのはライダー大戦もかくやの劇場版終盤並の大決戦。巻き添えだけで即死レベルだ。
「歩法のスキル、足並みを揃える《サウザンドレッグス》。まずはそれで接近したまえ。欠損した心肺は無酸素運動のスキル深い絞殺《ディープロープ》で補ってくれ。緊張や運動による心臓への負荷は心臓の鼓動を操るスキルご随意に《ハートコントロール》でね」
不足した運動能力を補うスキル。これで一気に噴水へ接近する。
「そして肝は暗殺のスキル案察《トリノスケール》。正直、あまり貸し出すと使い切れないし身体への負荷も大きい。それに君にはある懸念もあってね、最低限絞らせてもらったが、君なら出来るだろう」
陽歌は混戦を抜けて噴水へ到達した。そして、義手を握りしめて噴水を殴りつける。暗殺のスキルで人体を破壊しうる術を得て、かつ義手のリミッターを外して最大パワーでの打撃。
「これで終わりだ!」
「しまった!」
スキルの力と、単に陽歌を侮っていた都知事はキングへの最接近を許してしまった。だが、拳がぶつかっても噴水はびくともしない。
「とでも言うと思ったのですか? 私の積み上げたものが、この噴水を堅くしているのです!」
『ファイナルアタックライド!』
士が試しに必殺のキックを噴水にぶつけるが、やはり傷一つ付かない。守りを固めなかったのは、この特性があるからなのだろうか。
「それでも!」
陽歌は諦めずに殴り続ける。何度拳をぶつけても傷は付かないが、七耶の言葉を信じて、自分になら出来ると繰り返す。
「無駄無駄……ん?」
都知事が余裕をかましていると、噴水の内部に陽歌の姿が映る。その影は、外側と同じく拳を奮い続ける。すると、噴水にヒビが入ったではないか。
「馬鹿な!」
都知事は狼狽する。これはどうしたことか。士には概ね、その理由が分かっていた。
「そうか、だいたいわかった」
「一人で納得してないで教えてくれよ」
ユウスケが説明を求める。彼からの頼みともあって、士は素直に解説を始めた。
「あの都知事にとって、陽歌は異質な存在なんだ。異質さで言えば俺たちの方が上だが、俺たちはそれ故に『仮面ライダー』という納得の出来る説明が出来てしまう。でも陽歌は違う。ただ他人と髪や瞳の色が違うだけ。それだけだ。特別な力もない。普通の人間だ。だからこそ奴にとっては説明の出来ない異質以外の何物でもない。それはゲームでいうところのバグなんだ」
先入観を持たない士達や魔王軍、観察するだけの長門、何もかも悪平等な安心院にとって陽歌は単に色が違うだけの人間でしかない。だが、都知事には強いイレギュラーに見えたのだろう。それを異常なものとして認識しながら繰り返す2020年の中へ蓄積させていったことで、バグが溜まってゲームをクラッシュさせる様に、セーブデータを破壊したのだ。
「ありえない……」
都知事は想定外の事態に焦る。集団で陽歌を止めようとするが、アーチャーが的確に武器を降らせて足止めする。七耶は都知事の前に立ち、行く手を遮る。
「そうだ、ありえない。あれは陽歌の力じゃない。お前が繰り返す中で陽歌を偏った目で見た結果起きたことだ」
「これで、トドメ!」
陽歌の拳が遂に、噴水を粉々に打ち砕く。これでループの要であるセーブポイントは破壊された。
「よし!」
「そんな……」
遂に都知事の野望は潰えた。この2020年は、ようやく前に進むことが出来る。はずだった。
「待て、何だあれは……」
エヴァは砕けた結晶の中から、何かが現れるのを目撃した。黒い女性型のヒューマノイドが、噴水の破片を纏っていく。その背中には輪を背負っている。手足にあるものと合わせて、五つの輪が存在した。クリスタルののぺっらぼう仮面で表情は見えない。
「ふははは、まだ終わっていなかったか! 私の積み重ねが、絶対にオリンピックを遂行する存在を生み出したのだ!」
都知事は勝ち誇った様に笑う。ここに来て、予想外にしぶとさを見せてきた。ヒューマノイドは都知事の声で陽歌に向けて喋る。あれも都知事のうち一体に過ぎないのか。言わば、結晶都知事というべきか。
「浅野陽歌といったな。お前がバグというのなら、この世から排除する! そして再生を果たそう!」
結晶都知事は天に手を翳し、光を放つ。三茄子が熊手を振るって守ろうとするが、弾かれてしまう。
「紅葉招来!」
「無駄だ! 幾星霜繰り返した私の道は強く刻まれ、運に左右されない!」
光が強く陽歌と結晶都知事を包み、その場から姿を消す。
「お前達も死に続くといい!」
残った都知事は見覚えのあるアイテムを大量に吸い込み、怪物の姿へ変化する。首が長く、尻尾も生え、腕は二対ある完全に人を逸脱した形態だ。
「誰が続くか! あいつはお前ごときが繰り返したしょーもないことに負けるかよ!」
七耶は怪物都知事に拳を向けて吶喊する。果たして勝つのは、己の望む結果まで繰り返し続けた執念か、未来をようやく掴んだ少年か。
次回、ラスボス戦。
ストーリー:あなたと得る未来
VSテクナティーウォーカー・バイトゥエンティ
緊急クエスト:転輪望みし執着の思念
VS????