騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
ストーリーの最後に待ち構えるボスをラスボスと呼ぶ。大抵は形態変化したりするが、倒せないとクリアできないためか強さはそれなりに設定されることも。
また、ラスボス戦後にイベントバトルがある場合はどちらがラスボスか揉める。
2013年のある日、大海菊子都知事は都知事ではなかったが、東京オリンピックを進める組織のメンバーであった。今日もオリンピックに反対する人々を説き伏せるための演説を、大阪の梅田でやろうとしていた。
「まったく、何が復興優先ですか……災害など自然淘汰の一部。力無き者が足を引っ張るなど……」
ここ数年の災害から復興するため人手不足の建設業界はオリンピックに割ける人員がいなかった。そこを度々突っ込まれていたのだが、都知事からすればどうでもいいことであった。オリンピックを日本で開くという栄誉の為なら、その程度の犠牲は仕方ない。ループをする前からこの考えはブレていない。
「さて、やりますか……」
民主主義というのは愚かだ、と都知事は考えていた。それは一般に言われる主権者である国民の不勉強が刹那的な政治運営を求めてしまうといった欠点ではなく、単に自分の至上と思い込んでいる思想が反映されないからである。
都知事は演説の為に街宣車の上に立つ。殆どの人間が珍しいもの見たさで集まっていた。場所が場所だけに、この不愉快な存在を野次馬でなくても目にすることになってしまう人がいるのは確かだ。
「あ、しまった。地上からはいけないんだっけ……」
ヨドバシカメラの袋を持ったある男もその一人だった。ネット上では級長と名乗る彼は、後に道が出来るほど不便な構造をすっかり忘れて地上から駅へ戻ろうとしていた。都知事は演説を開始するが、聞くつもりのない級長はそれをスルーする。
「みなさん、この国はかつてに比べて輝きを失いました。GDP二位の座も奪われ、発展は止まり、輝かしい未来は失われています。もう一度オリンピックを開くことで、再び日本の素晴らしさを取り戻そうではありませんか」
都知事は演説を開始した。影から狙う存在に気づかず、呑気に。
(そのためにはお前が邪魔なんだけどね……)
光学迷彩で透明になった継田響が、都知事の背後に迫る。この時点で都知事は配下の反社会的勢力を動かしていた。特に能力の無い都知事がここまで昇り詰められたのは、配下に競争相手と写真を撮らせて、反社との繋がりがあるという疑いを作って追及、議会を機能停止に追い込み辞任させるという作戦を繰り返してきたからだ。
また、その反社で自分の気に入らない存在を攻撃させてきた。今回はコミケ運営に攻撃を仕掛けたため、響の反撃を受けることとなった。
「ん?」
しかし、響はハッキリとした殺意を感じて動きを止める。聴衆の中に、男物の地味な服を着た短髪の少女がいた。年齢は小学生くらいか。
(あの子、あんな明確な殺意を? 何かの間違いか?)
殺意の源は彼女。響はさすがに戸惑った。こんな小学生が明白な殺意を政治家に向けるなど、日本ではありえない。
「……撫子? なぜ……」
都知事も困惑した。娘の撫子がなぜここに。彼女の手に拳銃が握られていることには、誰も気づかなかった。
そして、乾いた銃声で全員が現実に返る。
「何!」
響は混乱しながらも、撫子に向かって走り出す。都知事の安否はどうでもよかった。年端も行かぬ少女に殺人をさせたくない一心が全てであった。
撫子は構わず引き金を引き続け、全ての弾を打ち尽くす。が、最初の一発以外は響が身体で受け止めていた。
現場は混乱に包まれる。日本で銃声という聞きなれないものを耳にしたせいで、誰もが撃たれた都知事のことより自分の身を守るために動いていた。響も撫子に気を取られ、都知事の行方まで意識がいかなかった。
「何をしているんですか!」
「わ、私は……」
響は撫子を抱きしめる形で拘束する。彼女も目標以外に弾が当たっていることに気づき、困惑した。
後の聞き取りで、彼女が大海菊子の娘、大海撫子であること、普段は一人でいること、面倒は秘書に見せていること、菊子が社会的な性別役割を憎むあまり、彼女の女らしさを徹底的に排除したこと、それに苦言を呈した世話係の秘書を菊子が解雇したことが明らかになる。それから撫子は木葉胡桃として生きていくことになるが、この周回は消え去り、響との出会いも無くなった。
「ん?」
銃声に気づかぬまま地下を経由して駅に戻ろうとしていた級長は、血まみれで泉の広場に向かう都知事に気づいた。周囲はパニックになっている。
「……なんだ?」
都知事にもなっていない菊子のことなど知らず、派手なスーツのおばさんが怪我しているとしか認識出来なかった級長は様子を伺うため近寄った。周囲を見渡しても、犯人がいないので安全は確保されている。
「私はこんなところで死ねない……!」
菊子は執念の目で泉のオブジェを睨む。
「私は、オリンピックを開いた栄誉を!」
その時、オブジェが輝く。これが、最初の周回の始まりであった。都知事はその後、娘からの暗殺を逃れるだけで百周以上費やすことになるのだがそれはまた別の話。
@
「え、うわあああ!」
光が晴れた瞬間、陽歌は下に落ちていく。なんと、渋谷のスクランブル交差点の上空にワープさせられていたのだ。
「ど、どうしよう……ええい!」
一瞬頭が真っ白になるが、なんとかビルの屋上にある大型モニターの淵に掴まって落下を防ぐ。下には先ほどの番組を見ていたのか、多くの人だかりができていた。
「ふん、落下死すらしないとは……」
「く……」
結晶都知事は浮遊していた。そして、背中の輪を外して上空に大きな穴を作った。その穴は、凄まじい勢いでスクランブル交差点にいた人々を吸い込んでいく。
「な、何?」
「これだけの魂があればお前が生まれる可能性を完全に封じてしまえる。いちいちやり直す度に探して殺すのも手間なのでな」
陽歌も吸い込まれそうになるが、義手の握力で踏ん張る。それを見た都知事は苛立って、光弾を放ってモニターを破壊した。ビルから外れたモニターは、上空へ吸い上げられていく。
「ああっ!」
「生まれからしておぞましい男め、お前さえいなければこんなに生贄も必要なかったのに!」
陽歌は吸い込まれながら、同じく吸い寄せられている人々とすれ違う。自分がいなければ、ここにいる人達は死ななくて済んだのか。そんな考えが頭をよぎる。その時、また視界が包まれてある光景を見せる。
「これは……」
陽歌はいつしか、古い日本家屋の庭にいた。梅の花が咲き、季節は春と思われる。
「あ……」
縁側には赤子を抱く老夫婦。その赤子は、自分と同じ瞳の色をしていた。
「この子を、幸せにしたいですね」
老婆が夫に声を掛ける。夫も赤子を愛おしそうに見つめる。
「ああ。どんな生まれでも構わないさ。日の当たる場所で、歌う様な堂々とした生き方を……。そんな生まれ方だから、日陰でこそこそ生きなければならないなんてことは、絶対に刺せない。お前は堂々としていいんだ、陽歌」
これは、自分が浅野夫妻に引き取られた時の、名前を与えられた時の記憶だろうか。
「人は誰しも祝福を受けて生まれる、なんてのはきれいごとどすなぁ」
聞き覚えのあるエセ京都弁が隣で聞こえた。天使がいつの間にか、隣で同じ光景を見ていた。
「天使さん……」
「お前さんは確かに、本来は死を望まれた存在どす。せやけどな、こうして生きております。赤子が自分の力で生きるのは不可能やさかい、お前さんに生きていて欲しい人がおったんやろなぁ」
陽歌は、堕胎に失敗した結果『生まれてしまった』存在だ。出生自体が事故であり、望まれないもの。だが、それを上書きする様に祈った人がいた。
「なら、お前さんがこの命尽きるまで果たすべき命題、分かってはりますな?」
そして、その夢の様な光景は消え去り、夜空に吸い込まれる人々と無数の瓦礫が目の前に広がった。陽歌は敢えて流れに逆らわず、先に吸い込まれたモニターに追いついてその上へ着地した。否、天地が逆なので着地かどうかは怪しいが。
「僕は、少なくとも父さんと母さんに願われた……幸せになることを。その願いを果たす、そのためには……大海菊子、お前を倒して明日へ進む!」
陽歌は宙に浮く結晶都知事を睨んだ。
「もっと未来のことは分からないけど、新しい仮面ライダーだって見たいし、ポケモンのDLCも遊びたい。まだ発売してないガンプラだって……。それに届いた時、少なくとも昨日より幸せになれるから!」
「愚かな……2020年にオリンピックが開かれない未来に、幸福はない!」
結晶都知事は陽歌と同じ向きになってモニターに降り立つ。陽歌と違って不思議な力に守られていないのか、重力に逆らうため足の鉤爪と尻尾の棘でモニターを掴んでいる。決意を固めた陽歌を後押しする様に、燃える刀が彼の手元に飛んでくる。刀というには大きく、彼の背丈ほどの長さがあった。
「これは……エヴァリーが見つけた……」
綺麗な白鞘に納められてはいるが、刀身は錆びていた。だが赤い炎を纏っており戦えるという確信が沸いてくる。エヴァが浅野夫妻の家で見つけた、守り刀だろう。
「行くぞ!」
「お前を消す!」
陽歌は剣術の心得こそないものの、心が示すままに駆け出す。結晶都知事は両腕を巨大なクリスタルの鉤爪にして襲い掛かる。右手の爪による大振りな一撃が陽歌へ迫るが、彼は刀でそれを防いだ。
「何!」
不思議なことに、都知事の攻撃は弾かれて体勢を大きく崩す。その隙に無防備となった右手へ刀による斬撃を放った。
「でやぁああ!」
「そんなはずは……!」
右手の爪が破壊されたが、結晶都知事はその原因も探らずに攻撃を続ける。利き手だからか壊れた右手から、左手、右手と連続で仕掛ける。
「ぐ、お、グぉお!」
だが、そのいずれも刀で防御されて体勢を崩す結果となった。パワーに任せて攻撃を続行しているせいで、連撃を繰り返す度に攻撃は弱く、体幹は乱れる。
「貴様ァ!」
渾身、否、自暴自棄の一撃が左手で繰り出された。その攻撃を陽歌は刃で反らし、モニターへ深々と突き刺す様に誘導する。
「何だと!」
「はっ!」
動けなくなった左手に一撃を加え、両腕の破壊を達成する。これで武器はなくなった、かの様に思われた。
「お前は剣など扱えないはず!」
結晶都知事は壊れた右手から露出する黒い宝石を使い、ビームを放った。陽歌は咄嗟にジャンプし、周辺の瓦礫を飛び石の様に跳ねてビームを避ける。
「お父さんの祈りが、刀を通じて僕に戦う力をくれている!」
「貴様の父? あの性犯罪者か!」
「違う!」
陽歌はビームのエネルギーを背中のヒレらしき結晶から吸い込んでいることに気づいた。ビームが途切れたと同時に都知事の背後へ着地するが、結晶都知事は振り返って左手からビームを放ってくる。
「おおっ!」
そのビームを潜る様にスライディングし、陽歌は再び背後を取る。そして、背中のヒレを刀で砕いた。
「せいっ!」
「馬鹿な……ッ!」
ヒレによってコントロールされていたビームのエネルギーは暴走し、結晶都知事の全身を駆け巡ってズタズタにする。モニターに掴まる力も残っていない都知事は尻尾で辛うじて刺さっていたが、陽歌はそれを見て尻尾へ飛びつく。
「この!」
尻尾をモニターから抜き、ハンマー投げの様に振り回して都知事を上空へ投げ飛ばす。
「いっけー!」
「のわああああああ!」
飛ばされた都知事は人々を吸い込んでいた穴を構成するリングに直撃。リングが砕け散ったことで、吸い込む力は失われ、陽歌の乗っているモニターも落ちていく。
「この……ガキがァ!」
再び結晶都知事は閃光を放つ。光が晴れた時、陽歌は地上にいた。目の前には赤くライトアップされた東京タワー。ワープしたというのか。
「仕切り直しだ!」
黒い結晶を身体から生成し、騎士の様な鎧を構成した都知事は両手に剣を持っており、複数の剣が背中で翼の様に広がっている。体格も先ほどより一回り大きくなっている。
「このゴミ屑がッ!」
両手の剣による、全くでたらめな連撃。しかし圧倒的な腕力と手数によって小柄な陽歌では防御しきれないほどの威力となっていた。
「う、ぐっ……」
義手の方は最大パワーを出しているが、生身である肩と身体を支える足は悲鳴を上げていた。
「消し飛べ塵がァ!」
「うあぁっ!」
陽歌は剣で吹き飛ばされ、東京タワーの脚にぶつけられる。肺から空気が漏れ、しばらく呼吸ができない。この速度で金属にぶつけられたせいか、骨が軋み、身体に嫌な音が響く。
「が、は……」
「調子に乗るな……死ねぇえええ!」
剣を飛ばし、四方八方から陽歌に襲い掛からせる。彼は直撃しないだけが精いっぱいであり、細身の身体のあちこちを鋭い剣で切り刻まれる。
「う、あっ!」
痛みに慣れているため、苦痛はない。だが、綺麗な傷口は大量の出血を招く。足の末端や唇に痺れを感じ始め、意識が朦朧とする。
「う、うぅ……」
「所詮は穢れた血のガキ……私に一度でも報いたのは、駆け引きや実力でもなんでもない! ただの偶然だ!」
立つのもやっとの陽歌の前に結晶都知事は攻撃を辞めることなく歩き寄り、その薄い胸を剣で貫く。
「あ、が……」
「手間かけさせやがって……ゴミめ」
膝を付く陽歌を支えることもなく、剣を手放す。彼を殺したと確信した結晶都知事だったが、それは大きな油断だった。
「ぐ、ぅ……!」
不意に陽歌は剣を胸から引き抜き、都知事の脚に深々と突き刺した。
「ギャァアア! 貴様!」
咄嗟に浮遊した剣を陽歌に向けて放つも、彼が想像以上に機敏な動きを見せたことでロックが間に合わず、剣は結果として自分へ向かって飛ぶこととなった。
「おのれェ!」
残った片手の剣で何とか自分の剣を叩き落とすが、自ら武器を失う結果となってしまった。陽歌は反撃のチャンスを待って、抵抗せずに力を温存しておいたのだ。
「貴様如きに……」
痛みに耐えて足の剣を抜く都知事。しかし散々躊躇ってもたついたせいで、陽歌に後ろから数回斬られてしまう。
「クソガキがァ!」
都知事は状況を打開するため、東京タワーの頂上まで飛翔した。陽歌も都知事を追って、東京タワーの外側を走って昇っていく。
「貴様はここで殺す!」
「僕は死なない!」
二人は丁度、展望台の窓に乗って剣を交える。鍔迫り合いが長く続いたが、体格的に有利な結晶都知事が押している。
「ぐ、ぐぅぅぅうう……」
負傷した身体に、重い負荷がのしかかる。陽歌の脚元にある窓ガラスはひび割れてきた。
「これで終わりだ!」
加えて、都知事には秘策があった。自ら壊してしまった剣の破片が、陽歌の周囲に迫っていたのだ。
「しま……」
気づいた時にはもう遅かった。大小の鋭く細かい破片が夥しく全身に突き刺さり、陽歌は力を失う。白いパーカーが赤黒く染まるほどの出血と裂傷に耐えられるほど、彼の身体は頑丈ではない。
「……あ……」
「ふん!」
都知事は剣を叩きつけ、陽歌を展望台の中へ押し込む。エレベーターの扉がひしゃげるほどの勢いで激突し、床に転がる彼はピクリとも動かない。床に血溜まりが広がっていく。
「完全なるトドメを刺す。型落ちの電波塔とはいえ、人によく似た生ごみには過ぎた墓標だ」
都知事は展望台から下を切断し、東京タワーを崩落させる。陽歌の意識は、生命反応は既になくなっていた。
(僕……死んだ……?)
一年ほど前はよく慣れた感覚に、陽歌は懐かしささえ感じていた。あの時は、死んだ方が楽だったかもしれないが、死ぬのが怖くてもがいていた。だが、今は違う。
(まだ……僕は……)
まだ死ねない。ここで都知事を倒して、未来に進むまでは。
『諦めないで!』
その時、シエルの声が聞こえた。崩落して斜めになっていく展望台の中で、陽歌は傷一つ無い状態で起き上がる。全身の痛みは残っているが、それだけだ。おそらく、万が一を想定してリレイズの様な死亡直後に発動する蘇生魔法をシエルがかけておいてくれたのだろう。
「ありがとう。行くよ」
陽歌は展望台から出ると、完全に横倒しになって落ちるタワー上部に立った。都知事は彼を殺したと思って遠くへ飛び去ろうとしていた。陽歌はタワーを走っていき、都知事に接近する。
「な、馬鹿な!」
都知事は予想外の事態に驚愕していた。
「その姿は祈る為にあらず、目指す標なり……」
自分でも聞き覚えのない言葉を呟く陽歌。刀には赤い炎が宿る。おそらくこれは、父である浅野仁平の技だろう。
「これは覚者へ至る一刀!」
陽歌は塔の残骸から跳び、都知事に向かって刀を振り上げる。そして、一撃の下切り捨てる。
「仏陀斬り!」
「ウギャアアアアアア!」
下手に防御を試みたせいで、結晶都知事は左腕を切断される。だが、しぶといことにまだ生きているではないか。
「貴様に……私の崇高な目的は……!」
都知事は渾身の力で周囲に魔力を満たし、東京タワーの崩落する瓦礫を止める。
「仕切り直しだ……」
「第三形態……!」
その辺の鉄骨を右手に持った都知事が瓦礫を走って陽歌の下へ向かう。陽歌も瓦礫に着地し、戦闘を再開する。
「オオオオオッ!」
「っ……」
鉄骨を叩きつける都知事。陽歌は回避を選んだが、放たれる衝撃波だけで臓腑が破裂しそうなほどであった。
「くっ……」
周囲は都知事がばら撒いた魔力の影響か、天候が悪化して雷鳴が轟く。破片の中にはかつて日本最高の高さを誇った東京タワーを雷から護るための避雷針があった。
「あれだ!」
陽歌は瓦礫を飛び移り、避雷針を確保する。都知事が追ってくるが、手に入れた避雷針をその腕に突き刺して攻撃を避ける。
「くぅ!」
かなり余裕を持って避けたつもりが、余波だけで眩暈がするほどであった。
「かはっ……」
内臓にダメージを負い、胃液が逆流する。だが、同時に雷が都知事に複数落ちる。ただでさえ鉄骨を掴んでいるのに、腕には避雷針が刺さっている。雷は刀一本持っている陽歌より都知事へ流れていった。
「ウゴアアアアア!」
自然の力によって、結晶都知事は焼け焦げる。大きな隙が生まれ、陽歌は接近して刀を構える。
「地を焼く雷は、生命活気の見えざる手……」
また知らない言葉だが、自然とこれが母である浅野さとのものであることが陽歌には分かった。
「演舞、雷鳴賛美!」
踊る様に回転しながら陽歌は刀で都知事を斬り刻む。刀は赤い炎と共に雷を纏い、右に三回転、左に三回転と舞う様な斬撃が繰り返される。
「なに故歯向かう!」
集中攻撃を受けた右手も破壊される。残されたのは首と足のみ。魔力の制御をフルパワーにして上空に浮かび、エネルギー弾を放って陽歌を攻撃する。回避を試みるが、誘導性能があり彼に向かって軌道を変えるのでかなり困難である。
「くっ……」
どうしても数発は掠めてしまう。
「仕切り直しだ!」
かなり執拗に形態変化を繰り返し、延々と立ち向かってくる都知事。一体、どれほどの周回を重ねたというのだろうか。その蓄積が、化け物としてオリンピックを開くという栄誉の為だけに暴れている。
「逃げてちゃ切りが無い……」
早急に撃退せねば、こちらがジリ貧だと判断した陽歌は、攻撃の嵐を突っ切って仕掛ける。エネルギー弾を刀で弾くも、その隙間を縫う様に撃たれたレーザーが複数本身体を貫く。
「ぐ……この!」
それでも無理矢理痛みを堪え、刀で都知事の首を飛ばす。この程度の痛みならば、日常的に受けてきた。未来に進む為なら、仲間に支えられているなら耐えられる。
「なぜ止まらない……!」
都知事は困惑と共に落ちていく。魔力で支えられていた東京タワーの瓦礫も下へ崩落を開始した。
肉体を大きく失った結晶都知事は、閃光を放った。
「またか……」
光が晴れた時に陽歌がいたのは、お台場にあるテレビ局の特徴的な球体の上だった。
「おおっと……」
気を抜けばそのまま転落しそうであったが、何とか踏ん張る。
「仕切り直しだ!」
結晶都知事は胸部の鎧に目を開くと、頭に魔法使いの様な三角帽子を乗せて首を隠し、身体はローブ状の装甲で覆う。
「お前は日陰でこそこそとしているのが似合いだというのに……おぞましき生命体め!」
そして、上空には太陽の様な火球が出現した。遮るもののない状況では、炎天下の都市部にも匹敵する猛暑が陽歌を襲う。上下から灼熱が彼を焼き、呼吸すれば気管支を焼く様な熱波を吸い込むことになる。
「これは……」
汗が吹き出す。その間も都知事による炎の攻撃は止まず。不安定な足場で回避を続けるしかない。こんなことは、数十分も続けていられず、陽歌は次第に体力を奪われ立つことも難しくなっていった。
「う……」
「お前に、日向は不似合いだ」
後ろに回った都知事が熱線を放ち、陽歌にトドメを刺す。何とか直撃だけは回避したが、その余波だけでも衣服が燃えるほどの熱であり、空気を飲み込む光は彼を球体から突き落とした。
「うわあああっ!」
球体に刀を突き刺して転落は防いだが、踏ん張れば踏ん張るだけ熱が陽歌を襲う。
「これで終わりだ!」
上空に浮かぶ火球を都知事は球体に向かって落とす。その余波はすさまじく、例え熱波や炎が無くてもそれだけで臓腑がかき回されるほどであった。陽歌も吹き飛ばされ、かなり距離があるはずの海に、それも沖合数十メートルの位置まで飛ばされていく。
「っ……あああっ!」
転落した陽歌は何とか海水で火を消したものの、彼はカナヅチだ。加えて、傷に塩水が沁みる。例え着水によって転落のダメージを軽減したとしても、あの高さでは適切に飛び込まないと水面に叩きつけられる衝撃は相当なものである。
(ダメだ……どこが陸か分からない……)
陸地を見失った陽歌だが、誰かの手に引かれて何とか岸へ上がった。起き上がる力は残っていなかったが、どうにか生きている。岸で力無く横たわりながら、微かな光を見つけることが出来た。
「はぁ、はぁ……今のは……」
なんと、お台場に飾られているユニコーンガンダムがこの非常時だというのに変形して緑色に光っているではないか。
「あれは……」
「よそ見をしている場合ですか!」
都知事も下に降りてきて、トドメを刺そうとしてきた。だがその時、ユニコーンが頭をテレビ局へ向け、頭部バルカンを放った。テレビ局の球体を繋いでいた通路をバルカンが直撃し、燃え盛る。球体は外れて都知事に向かって転がってくる。
「何ぃ!」
腕の無い都知事にそれを防ぐ手立てはなく、そのまま押し潰されそうになる。だが、なんとか身体でタックルすることでギリギリ踏ん張る。海に突き落とされそうだが、脚力だけであの質量を支える形となる。
「この……!」
陽歌は急いで球体の反対側へ向かう。白熱するほど熱を帯びた球体は近寄るだけで肌を焼くが、そんなことは気にしていられない。
「えええい!」
球体を義手で殴り、海へ突き落す。一発ではびくともしないので、熱に耐えながら何度も拳をぶつけて都知事を突き落とそうと試みた。
「うおおおおお!」
格闘技の心得が無いなりに、渾身の拳を何度も叩きつける。そして、ついに球体が動いて都知事ごと海へ転落した。
「っ、ああっ!」
球体と海水の温度差で水蒸気爆発が起き、陽歌は空高く打ち上げられる。それなりの防御力を持っていたはずのアスルト謹製パーカーも砕け散った球体の破片の雨あられには耐えきれず、ズタズタに引き裂かれる。
(勝っ……た)
安堵した陽歌の意識は、そのまま暗闇に落ちていった。
のにのなのら LV身
大海菊子が蓄積したセーブデータ。通称結晶都知事。菊子自身であり、本人ともいえる。本来のセーブデータ名は異なるが、バグによって変化している。ステータスもバグを起こしており、HPが減らない代わりに他の能力が255から0の間でランダムに変動し続ける。バグの影響か取得経験値、ドロップアイテムの指定が無い。
第一形態
両手に鉤爪を持ち、尻尾とヒレのあるモンスター型。腕、ヒレの部位破壊が可能。
第二形態
体格も大きくなり、両手に剣を持った騎士の様な姿になる。剣を遠隔操作で操ることが出来る。
第三形態
左腕を失い、右手に鉄骨を持った姿。第二以降は何故か部位破壊ではなく別形態扱い。
第四形態
両腕を失い、エネルギー弾やレーザーで攻撃する様になった形態。攻撃力の参照が物理と魔法ランダムなので防ぎにくい。
第五形態
魔法使いの様な姿になる。フィールドを操作し、スリップダメージを狙ってくる他、ある程度ダメージを与えるとDPSチェックに入り失敗すると一撃死技を使う。しかしバグっているのでいきなりやってきたりDPSチェックの時間や判定もぐちゃぐちゃである。