騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 時に凍結され、時に生霊となり、モデラーと共に歩んだニパ子。
 これは彼女の地球滞在最後の日を記録したものである。


☆EP285 ニパ子最後の日!

 君は、ニパ子というキャラクターを知っているだろうか。ゴッドハンドというツールメーカーの広告塔であり、アルティメットニッパーを象徴するキャラクターだ。というのは表の顔。実は惑星コウグからの留学生であった! この夏、その期間が終わり、故郷へ帰るとのことだった。だが、そうはモデラーが通さない。

 ここに、ニパ子帰省阻止作戦が発令された。

『作戦概要を説明します』

 全ての参加ダイバーに向けて、ブリーフィングが行われる。

『本作戦は複数のフェーズで構成されますが、どの段階においても惑星コウグ王女、ニパ子の乗る宇宙船を撃墜した時点でミッション完了となります』

 作戦の大まかな目標は宇宙船の撃墜。しかし、相手が異星の要人ともなればその警備は厚く、一つのポイントに絞った作戦では不足である。

『フェーズ1では、宇宙船の発射阻止を狙ってください。現在、アラスカ基地にて宇宙船の発射準備が行われています。ここを狙い、宇宙船の発射そのものを阻止する作戦です。しかし、海上の警備は厳重、基地にも多数の警備隊が配備されています。特に海上にはギガベースやカブラカンを初めとしたアームズフォートが配備されています。防空網も一筋縄ではいきません。どのルートを使用して基地を攻撃するかは、あなた方に一任します』

 最初の目標はアラスカ基地。ポケットの中の戦争においてアレックスが打ち上げられた有名な場所である。しかし、その時とは違い、極秘の作戦でない分警備隊の数は多い。

『宇宙船が打ち上げられた時点でフェーズ2へ以降します。フェーズ2では大気圏を離脱する宇宙船の撃墜を狙ってください。護衛が存在せず、敵艦が無防備なこのタイミングが最大のチャンスです。もし撃墜に失敗しても、ランデブーポイントの大幅な変更に成功すればフェーズ3で撃墜のチャンスがあります』

 大気圏離脱を狙われるというのは、ガンダム00でもあったシュチュエーションだ。だがその時は海中から不意に飛び出すという手が使えたので何とかなったが、今回は打ち上げタイミングまで把握された状態。ここを躱す方法は少ないだろう。

『フェーズ3では護衛艦隊と合流した宇宙船の撃墜を狙ってください。外宇宙航行へ入るための量子ジャンプには時間が掛かります。フェーズ2でランデブーポイントをずらせていれば、護衛艦隊との合流が遅れるので大きな隙になります』

 最後のチャンスは宇宙。ワープされる前に叩くしかない。ワープされれば当然失敗となる。

『概要は以上です。あなた方の戦果に期待しています』

 

   @

 

 アラスカの海上には、大艦隊が控えていた。空母はモビルスーツの発進準備をしており、迎撃態勢はバッチリといったところだ。そして相対するは同じく複数の艦隊。その中には大気圏内を飛行できるものも含まれている。

「さて、行こうか。紅蓮ガンダム」

 自分の機体を空母の甲板で見上げる少年がいた。袖の無い和装の少年は、そのフェミニンな顔立ちから少女の様にも見えた。黒髪も相まって、白い袖無しの小袖と赤い袴が巫女の様に見える。

 燃える様な赤を纏った紅蓮ガンダムはコアガンダムの改造機。現在はメルクワン装備で待機している。

 このミッションは多くのダイバーが参加しているが、少年、浅野陽歌も機体を仕上げて参戦した。彼には、格別な思いがあったのだ。

(君が教えてくれた『モノヅクリ』が、僕を救ってくれた……だから、ここで止めるよ)

『まもなく、敵艦隊の射程に入ります! 各員、戦闘配備!』

 アナウンスに従い、陽歌はガンダムに乗り込む。彼はこの作戦、全てのフェーズに参戦することを可能とする算段があった。

「ヴィオラ、後は手はず通りにお願い」

『生きてたら、ね。撃墜は避けてね』

「うん」

 仲間に合図を送ると、陽歌は出撃する。

「紅蓮ガンダム水蜘蛛、鳴筒丸、ナクト、出る!」

 発進コールと共に、ガンダムは海に飛び込む。同時に四つのキャノンを備えたヴィートルーユニットも水へ入る。彼は海上、及び上空からではなく海中からの侵入を選んだのであった。

「でもただでは行かせてくれないよね、やっぱ」

 しかし水中もがら空きではない。水中用モビルスーツが多数配備されており、行く手を阻む。手にしたバズーカとネイルガンを構え、敵の集団からある機体を探した。

「いた!」

 それはゾックであった。周囲を隙なく粒子砲で攻撃出来るジオンのモビルスーツだが、水中ではメガ粒子砲は使えない。とはいえ、その巨体を生かした攻撃は十分に厄介だ。

 陽歌はバズーカで弾幕を作り、ゾックへ攻撃を仕掛ける。敢えて直撃はさせず、海底にぶつけて土煙を引き起こす。

「そこだ!」

 接近し、ネイルガンで的確にセンサーとコクピットを撃ち抜く。爆発せずに沈黙したゾックを盾に、紅蓮ガンダム水蜘蛛は海底を進む。他の敵には目もくれず、とにかく基地への侵入を目指す。

 そこでこのゾックが役に立つ。時に残骸のふりをして、時に盾としてゾックの残骸は活用出来た。素直に敵を撃破するより、隠れながら進む方が早い時がある。

「やっぱあった。機雷地帯」

 陽歌は機雷を浮かべたエリアがあることは予想していた。このままでは敵と機雷の挟み撃ちになる。そこでゾックを後ろに投げて、トドメのネイルガンで爆散させて目くらましにする。

「よし、行くぞ」

 慎重に機雷をすり抜けていく陽歌。普段は義手で触覚のない手でも、GBN内なら他の人と同じ様に動かせる。義手で普通に生活する為に血のにじむ様な努力を必要としてきた陽歌には造作もないことだ。

「みんなのくれた紅蓮は、僕の失った両腕より自由だ!」

 機雷を抜け、基地の港へ飛び出す紅蓮ガンダム。鳴筒丸も追随してくる。

「転身、鳴筒!」

 紅蓮ガンダムはメルクワンアーマー、水蜘蛛を脱いで緑のアーマーを纏う。ヴィートルーユニットを改良し、更に砲撃へ特化させた機体、紅蓮ガンダム鳴筒だ。

「吶喊する!」

 応戦の為に湧いて出た寒冷地仕様ジムに向けて、陽歌は背中の二門、両手の二門のキャノンを発射する。四本のビームは束となり、一気に周囲を薙ぎ払う。

「おおおっ!」

 ビームを照射したまま、紅蓮ガンダム鳴筒はホバー移動で進行する。ビームのオーバーヒートが来たら腕部や脚部からミサイルを出して牽制。なるべく交戦を避けて主砲で道をこじ開けつつ宇宙船まで真っすぐに突き進む。これだけ乱戦ならば一目散に進めばホバーの速度もあって目標へまっしぐらだ。

 道中、エレベーターに乗る必要があったのだが荷台を待っている暇はない。坂道の様なレールをそのままホバーで駆け上がり、そのまま飛び出した。

「来た! 宇宙船!」

 宇宙船を飛ばす発射台まで陽歌は到達する。既に発射シークエンスに突入しており、ここで食い止めないとフェーズ1は終了という状態であった。さすがに新米ダイバーの彼ではトップ勢の速度には勝てない。

「いっけー!」

 熱暴走を起こしてコア本体にダメージを与えていた脚部を外し、それを蹴り飛ばして宇宙船に攻撃を仕掛ける。だが、案の定護衛に撃ち落されてしまう。だが、それはあくまで囮だった。

「これで!」

 護衛の群れに向け、残されたビームを放つ。砲身が焼け付いて誘爆する前にパージし、アーマーを脱いで宇宙船へ直に斬りかかる。長い黄色のグリップから、緑のビーム刃が伸びる。

「ボルトアウト! いっけー!」

 その時、爆炎の中から一機のモビルスーツが姿を現す。ミントグリーンのアストレイ改、あるVチューバーのガンプラだ。背中の装備を大剣にし、陽歌の攻撃を防ぐ。

「くっ……」

 さすがにこれは厳しい。ガンプラの出来も操縦技術も向こうが上だ。

「倒す必要は、無い!」

 弾き返された剣を再び振るう陽歌。もう一度剣戟を交わす為、アストレイも剣を振るが、何とビーム刃が剣に巻き付いたではないか。ビームウィップに切り替え、鍔迫り合いを回避したのだ。

「乗り越える!」

 陽歌はアストレイの推力とコアガンダム紅蓮の軽さを使い、ビームウィップを使ってアストレイを足場にジャンプする。敵を突破し、陽歌は宇宙船に迫った。

「な……」

 しかし、宇宙船は発射されてしまう。ロケットの炎に呑まれるコアガンダム紅蓮だが、即座に発射台の支柱をビームウィップで掴んで避難する。

「間に合わなかったか……」

 宇宙船の発射を以て、フェーズ1は終了。参加していたダイバー達は空を見上げる。陽歌も宇宙船を見送るしかなかった。

「届かなかった……か」

 陽歌はコクピットで自分の手を見つめる。どうやら、今の自分では辿り着けなかったらしい。

「モノヅクリ……か」

 今度帰って来た時は、ちゃんと追いつける様に腕を磨こうと思う陽歌だった。直に会った相手ではない。勝手に自分が救われたと思っているだけだ。だから、この祭りに参加出来ただけでも意味はあったと思う。

「主殿―!」

「モルジアーナ!」

 その時、ヴァルキランダーがやってきて新たなアーマーを持ってくる。ヴァルキランダーの姿をしたトイボット、モルジアーナはハイムロボティクスが陽歌にモニターを依頼したセラピー用の個体であるが、従来通りガンプラバトルも可能となっている。

持って来たアーマーは蒼いアーマーと、アウンリゼアーマーだ。

「これからです! これでロケットを追いかけて下さい! ランデブーポイントでは艦が待機しています!」

「分かった、まだ戦える!」

 陽歌は気持ちを新たに、戦いへ望む。これからが、フェーズ2だ。

「転身! 蒼穹、アウンリゼ!」

 アーマーを纏い、背中にアウンリゼを装備する。大型ブースターを装備した姿となり、空高く飛んで宇宙船を追いかける。

 

 フェーズ2は大気圏を離脱する宇宙船を狙っての狙撃戦である。もちろん、それだけではないのである。

「修正角度はたったの四度……このアストレアなら問題ない!」

 青いアストレアがバックパックから繋げたビームランチャーで宇宙船を狙う。その時、大量の敵機が迫っていた。フライトパック装備のリーオーだ。武装も様々で一概な対策は通じない相手である。

「な、迎撃?」

 アストレアのパイロット、級長は敵に慌てるも、ロックが完了したのでそのまま射撃に移る。

「チャンスは一度……なら、トランザム!」

 アストレアが真紅に包まれる。そして、迎撃にも構わずランチャーをぶっ放す。距離がかなり開いてはいたが、殆ど減衰することなく宇宙船に着弾する。

「そっちとは射程が、ダンチなのよね!」

 だが、ビームは拡散されてダメージが殆ど入らない。

「粒子攪乱膜? いや、Iフィールドか?」

 宇宙船には当然、防御機能が備わっておりビームが通らない。おまけに迎撃モビルスーツを相手にしながらの射撃。構え直すのも難しい。

「ちっ!」

 アストレアのランチャーは破壊されてしまう。

「どのみちあれがラストチャンス……それにここから接近してフィールドを叩くのは無理か……」

 級長は反撃の手段が自分に無いことを悟る。そして、ビームサーベルを抜きリーオーとの戦闘に入る。

「それに俺は、こっちの方が性に合ってる!」

 敵を落としつつ、他のダイバーが宇宙船を落とすサポートに回る。トランザムで粒子を使い切り、性能が落ちたとは思えないほどの機動力で他の味方に取り付く敵をサーベルで切りながら飛び石の様に移っていく。

「おおおお!」

 リーオーを一通り落とすと、宇宙船を追跡する機体を目撃した。

「あれは……」

 発射地点から宇宙船を真っすぐ追いかける狂気の沙汰に出たダイバーは、陽歌であった。アウンリゼの四肢からブーストを全開で吹かし、ビームバズーカを手に宇宙船を追撃していた。ドラゴン形態のモルジアーナも紅蓮ガンダムを引き上げ、推力は十分だった。

「あわわわわ標準が合わない……」

 恐ろしい加速度で昇るため、標準はブレ、カメラの映像はがたつく。GBNでは苦痛に当たる感覚がカットされているとはいえ、Gが掛かっているためエイムも不安定になる。

「このーっ!」

 なんとか当てたとしても、Iフィールドで弾かれてしまう。

「どうすれば……」

『陽歌!』

 攻めあぐねていた陽歌に連絡が入る。フェーズ1に参加していた仲間が連絡を寄越したのだが、距離と加速のせいでノイズが入っている。

「エリニュースさん!」

『シャシャがスキャンした宇宙船のデータだ。Iフィールドジェネレーターの位置を転送する!』

 肝心のジェネレーターを特定したが、宇宙船の内部深くに内蔵されており携行火器でエネルギーを推力に回しながら叩ける位置にはない。

「こんな奥まった場所に……」

『お前はそのデータ持って宇宙へ上がれ! シャシャの機体でもフル回転でやっと解析したんだ。他のダイバーが持ってる可能性は低いし、よしんばそれを宇宙組に転送出来てる奴はいまい』

 このままでは宇宙船を落とせない。内部構造のデータをリレーすることでフェーズ3に託す作戦だ。

「了解! モルジアーナ、推力に回すよ!」

 陽歌はアウンリゼ以外の装備をパージし、軽量化する。モルジアーナも全力で大気圏離脱をバックアップした。

「ガンドランザム!」

「バックパック切り離し!」

 推進剤を使い切ったアウンリゼも取り外し、二人は天に昇っていく。リライズ劇中ではモビルスーツ単機での大気圏離脱はヒロトほどのビルダーが作ったネプテイトとエクスヴァルキランダーの補助でようやく、といったところだったが、果たして彼らは……。

「た、足りない……!」

 ガンドランザムが終了しても、重力を振り切ることは出来なかった。アニメではモビルスーツ4機を引っ張っていたとはいえ、ビルダーとしての技量が違い過ぎる。

「そう思って!」

 その時、ネプテイトユニットに乗ったアルスコアガンダムが現れた。モニターに顔を出したのは淡い紫の髪をした少女だ。

「ヴィオラ!」

「宇宙船追いかけるなんて思わなかったよ。下にいたら間に合わなかったかも」

 ヴィオラはランデブーポイントの戦艦で待機していたのだが、陽歌が追撃を始めたので迎えに来たのだ。

「これ使って! 私はモルジアーナと下に降りるから」

「ありがとう。行かせてもらう。転身、星守!」

 ネプテイトユニットを装備し、紅蓮ガンダム星守へと変化する。これの装備があれば、大気圏付近で宇宙に上がるのは容易だ。

「ヴォオアルチュミールリュミエール、展開!」

 背中のリングを広げ、地上に背中を向ける。降下するヴィオラが大型のビームライフルを構え、その背中を狙う。左腕とライフルを接続し、エネルギーを爆発させて紅蓮ガンダムを押し出した。

「あがれええええ!」

 その力を受け、陽歌は宇宙へ飛び出した。宇宙船と一緒に。これで、ようやく追いついた形となる。

『小僧!』

「七耶!」

 ランデブーポイントでは護衛の艦隊と撃墜を狙うダイバーが既に戦いを初めていた。重装備の白いジェノアスが陽歌に合流する。アークエンジェル級の戦艦も近くに来ている。これが陽歌の母艦である。

「シャシャさんがデータを。これを全軍に」

『よし、なんとかなりそうだな』

 陽歌はデータを母艦へ転送。一応の役割を果たした。だが、宇宙船の上では白いセーラー服に青いツインテールのノーベルガンダムがグシオンニッパーを手に待っていた。

『随分な見送りだな……地球人!』

「ニパ子……」

 ついにニパ子本人が降臨した。王女自らワープドライブの時間を稼ぐつもりらしい。だが、これはチャンスだ。ここでニパ子を落とせればミッション成功となる。他のダイバーも彼女に狙いを定めた。

「騒動喫茶ユニオンリバー、浅野陽歌……、紅蓮ガンダム星守! いざ尋常に!」

「惑星コウグ第一王女、セリーヌ・P・ニッパーヌ!」

 紅蓮ガンダムが緑のリングを複数纏い、突撃を慣行した。

「勝負!」

「参る!」

 陽歌の気合に呼応する様に、リングが周囲を破壊しながらニパ子に迫る。

「それでは!」

 だが、ニパ子の実力は圧倒的。瞬時にリングを破壊。ニッパーによる不可視の攻撃を紅蓮ガンダムの手足に加えていた。

「くっ……」

「急所は反れたか……」

 他にも敵がいるため、戦闘不能と見たニパ子は陽歌を置いていく。流石のコアガンダム系でもこの手ごたえならと思ったのだろう。だが、その見立ては甘かった。

「危なかった……」

 陽歌はアーマーをパージする。コアの手足は無事だった。ユニオンリバーに引き取られる前の彼は日常的に攻撃を受けていたため、急所外しの能力が意図せずに身に付いたのである。それが今回も活きた。

「ルナルーシェン! 砕魔翁を!」

『了解ですに!』

 母艦から射出されたのはサタニクスの改良ユニット。

「転身、砕魔!」

それを装着すると、盾とマシンガンを装備したガンダムへ変化する。よりガンダムフレームへの対抗策を充実させた紅蓮ガンダム砕魔である。そして紅蓮ガンダム本来のバックパックも装備し、本気の決戦だ。

「その首級、貰う!」

 バックパックのバーニアはジュピターヴ由来。光の翼で一気に加速する。大剣もマウントしており、攻撃手段には困らない。

「生きていたのか!」

「これで!」

 高速移動しながらマシンガンを放つ陽歌。ニパ子はニッパーでの防御を選んだが、動きが早く防ぎ切れない。直撃でも致命傷にならない辺りは流石だ。

「こいつ……!」

 回避行動と取るニパ子。流れたマシンガンは他のダイバーに直撃する。

「シャイニング、ニッパー!」

 シャイニングフィンガーの要領でピースの手をラッシュする。蒼いチョキが陽歌を襲うが、確実に安置を見極めて直撃弾はシールドで受け流す。真正面から受けられないと判断し、流していくことにした。

「うわあああ!」

 他のダイバーは巻き添えでどんどん沈んでいく。これが乱戦の怖いところだ。

「早く船を落とすぞ!」

「待て!」

 宇宙船への攻撃を試みたダイバーを、あるガンダムが止める。胸にグリーンのセンサーが付いた、サテライト系と思われるガンダムだ。

「下手に近づけば巻き添えを食うぞ。直掩の戦艦を攻撃しよう。それに……」

 そのガンダムに乗るダイバー、チャンピオンのガロは何か思うところがあったようだ。

「この戦いを見届けたい」

 陽歌とニパ子の激突が続く。

『性能も操縦技術もこちらが上……それでも喰らいつけるか!』

 かなり贔屓目に見ても、ニパ子は陽歌の技量が自分と互角とは思えなかった。だが、今この瞬間は追いついている。

「感謝します、王女……。例え無数の出会いの一つだとしても!」

 盾とマシンガンを弾き飛ばされ、肩に装備していたドリルとプライヤーを合体させて右腕に構える陽歌。

「おおおおおおおお!」

「させるか!」

 ドリルによる一撃をニッパーで挟み、真正面から打ち砕くニパ子。

「スイッチング、クロー!」

 しかし陽歌も攻撃の手を緩めない。ニッパー同士の壮絶な挟み合いが続く。が、陽歌が敗れてしまう。

「今日さえ作れなかった僕が、明日より先を作ることが出来る……」

「終わりだ!」

 ニパ子がニッパーからビームを出して紅蓮ガンダムを爆撃する。爆炎から飛び出した紅蓮ガンダムは白いアーマーを纏い、両手に剣を持っていた。

「紅蓮ガンダム……鋭牙!」

 二本の剣による激しい剣戟がニパ子を襲う。即撃墜にはならないが、確実にダメージが蓄積する。

「失ったものを、過去を取り戻すことはできない……それでも!」

 剣を連結させ、大剣へ変化させる陽歌。黄色いビームを纏い、剣は威力を増していく。

「未来は変えられる、何度でも作り直せるって! 教えて貰ったから!」

 何度も叩きつけた剣はへし折れる。そして、ワープドライブまでの時間が迫っていた。すぐに撃墜されると思っていた一介のダイバーが想像以上の粘りと執念を見せ、他のダイバーは手を出せずにいた。

『ワープドライブまで、残り十秒』

紅蓮ガンダムは体当たりでニパ子を押し込み、格納庫の扉から艦内に侵入する。それと同時にワープドライブが開始された。

「最終ラウンドか……」

 アーマーをパージし、赤いアーマーへと変化した紅蓮ガンダムを見てニパ子は呟く。

「いや……第三ラウンドだ!」

 背中の大剣を抜き、陽歌はニパ子に斬りかかる。だが、ニッパーの先端がコクピットを捉えていた。

「く……っ!」

 陽歌は寸前でバックステップを踏み、直撃を免れる。だがコクピットハッチは引きちぎられてしまった。陽歌が機体の中から姿を覗かせる。

「な……」

 ここでニパ子にも予想外の事態が起きる。なんと、ここにきてニッパーが折れてしまったのだ。それに気を取られている一瞬、陽歌は剣でマニュピレーターを粉砕してニッパーを振り落とす。

「切れ味は鋭いが繊細……アルティメットニッパーの弱点です」

 陽歌はトドメを刺すべく、剣を上段に構える。だが、ニパ子の右手指二本は辛うじて動く。その指による抜き手が紅蓮ガンダムのコクピットを捉える。

「ありがとうございました……」

 敗北を察した陽歌は最後に感謝を述べる。ノーベルの指が陽歌を直に潰し、紅蓮ガンダムは制御を失う。負けてもなお、その赤いガンダムは膝をつくことは無かった。

「対あり……」

 

 こうして、ニパ子の長いようで短い地球留学は終わりを迎えた。彼女は気ままに振舞った。だが、それによって救われた人間もいるというのは事実だ。その内一人は、その事実を伝えるために、戦い抜いた。

 果たして、戴冠式の後に彼女が地球を訪れることはあるのか。惑星コウグと地球の距離が縮まるのはいつなのか、それは、作る者達次第なのかもしれない。

 




 紅蓮ガンダム

 浅野陽歌、ナクトの駆るコアガンダムベースの機体。基本的に赤いアーマーが万能要員のため換装することは少ないが、極端に特化させたり局地戦ではプラネッツシステムを使用する。七耶の全部乗せ思想を彼なりにアレンジした機体でもある。
 アーマーは現在、蒼穹姫(アース)、鳴筒丸(ヴィーナス)、鋭牙郎(ジュピター)、砕魔翁(サターン)、水蜘蛛(マーキュリー)、星守女(ネプチューン)、アウンリゼの七つ。

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