騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
まぁニンスレみたいなもんだと思え(殴
テレビの収録があった日の早朝、都知事の軍勢が内一人が行動を開始した。
「私も、始めますか」
フロラシオン【叡智】と呼ばれる少女がいた。黒髪を伸ばし、常に伏せ気味の瞳であるコンピューターの前に立つ。都知事が特権を駆使して得た、最新のスーパーコンピューターである。これと彼女の演算能力があれば、日本中のネットワークを掌握するのは容易だ。
万が一に備え、これは東京ではなく静岡県内に移設してあった。これは【叡智】の提案で、『同じ籠に全ての卵を入れるな』という初歩的なリスク管理の考え方だ。
この戦いに勝っても、オリンピック推進委員会は多大なダメージを受けるだろう。そしてオリンピックを九月に延期しても開催まで時間が無い。
損失の回復には世界のネットワークを掌握するくらいの力が必要だった。損失を賄う切り札を失わない様に、隔離することを提案したというわけだ。土地で性能が変わるわけでもないので尚更だ。
「私の計算に狂いが無ければ、都知事が追い詰められるのは今日……今の内に動きますか」
彼女の計算に狂いはない。この後、都知事は正体を明かした上に肝心要のセーブポイントに攻め込まれるのだから。
「見つけた! アスルトさんの言った通り! ここで止めるんだから!」
「勝率は、僅かなんじゃないか?」
その時、【叡智】に後ろから声を掛ける存在がいた。どこにでもいそうな女の子と白い髪に青い瞳の男。彼女は男の方を知っている。超人機関『松永総合病院』院長、松永順の兄、直江遊人。女の子、篠原深雪に関してはデータが無い。
「何の話です?」
「都知事の敗北は決まっている。というか、もともと勝ち目が薄いんだよ。高い計算能力のある君なら、そんなナンセンスなこと分かっていると思うけど」
【叡智】は、初めから都知事の妄言が成立する可能性は自分が加担しても低いことなど分かっていた。しかし、それでも協力しなければならない理由があった。人質を取る、というのも彼女には無意味だ。何故なら、相手の計算を上回って奪還することなど彼女には容易なのだから。
「よーし、計算が得意なくらいな敵なら私がやっつけちゃうよ! 陽歌だって戦ってるんだからさ!」
深雪はアクション映画を真似た様なファイティングポーズを取る。そして、即座に攻撃を仕掛けてきた。
「無駄です」
「あれ?」
だが、この程度の素人拳法なら相手の動きを演算すれば運動能力で劣っていても完封出来る。回避は容易だ。反撃しないのは最早温情というレベルであった。
「この戦いはそうでしょう。しかし、私は二手、三手先を考えているのです」
たしかにオリンピックを無理に日本で、今年開くメリットは低く、損失も大きい。その上、成功率も低い。それでも彼女にはやるしかなかった。
「先?」
「もしオリンピックを開かない場合、日本が滅ぶ可能性が百に近いとしたら、あなたはどうします?」
そう、オリンピックが開催されないだけで日本崩壊の可能性が一気に上がるのだ。どういうわけか、である。
「くだらん……このご時世、オリンピックが開けないだけで核落とされるってのか?」
「私はまず、2020年以降に日本という体制のみならず、日本列島そのものが存続している可能性を計算しました。その確率は恐ろしく低いものでした。しかし、オリンピックを挟むことでその可能性は大きく跳ね上がったのです」
【叡智】は計算の結果を淡々と説明する。だが、遊人は聞き入れない。
「ナンセンスだな。そんな計算、したって無駄だろ。どんなに確率が低くてもハゲワシに亀を落とされたら人間は死ぬんだ」
深雪はそんな死に方をした哲学者がいたなぁと思い出す。たしかに確率とは不思議なもので、自動車事故に遭うより飛行機事故に遭う確率の方が低いのに人々は圧倒的に後者を恐れる。だが遊人の言う通り、一割未満でも飛行機事故に遭えばほぼ死ぬので単純に確率だけの問題ではない。その死に納得できるかが大事だ。
「低確率なら無視できますが、高確率なら対策を練る必要があります」
「なにはともあれ、お前にハッキングとやらをされるわけにはいかんのでな」
深雪と遊人は【叡智】によるハッキング阻止にここまでやってきた。そこで、遊人が一つの提案をする。
「少しゲームをしよう。お前の計算能力なら僅かなロスタイムだし、ゲームが終わったら俺たちは結果を問わず帰る。悪い話ではないだろう?」
「無駄なことをするのですね。まぁいいでしょう。数秒で邪魔が入らなくなるなら願ったり叶ったりです」
【叡智】は一通り計算して、遊人を帰す方が効率的だと考えて提案を受けた。当然、可能な限り自分が有利になる交渉を忘れずに。
「ですが……」
「言いたいことは分かる。相手の用意したカードでゲームをするのは悪手ってことだろ? これなら、お前さんの得意分野だろうし問題あるまい」
遊人が取り出したのは、チェス盤らしきもの。それを見て【叡智】はゲーム名を見抜く。
「プロスフェアー……」
「アースアレンジで行こうぜ。やるんなら徹底的にお前のフィールドでぶち倒してやる」
それは異界からもたらされた、チェスを発展させたゲームで【叡智】も得意とするものであった。特に地球のローカルルール、アースアレンジが彼女のテリトリーだ。
(相手が用意したカードで戦わない前提を読み、その上で私の土俵へ……。明らかに誘導されていますが、敗北率は限りなく0……)
遊人の行動に不審なところがあったが、【叡智】は敢えて受けることにした。
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ここで、複雑な時系列となった『転輪祭典東京オリンピック2020 忌むべき生命』の全貌を明かそう。
n周目(『☆謝罪会見』までの話)
2019年7月~8月
陽歌、ミリアとさなと出会う。夏休みの事件をきっかけにユニオンリバーへ。
9月
『☆飛電ゼロワンドライバーを手に入れろ!』
『ゾイドワイルドを作ろう!』
『孤高の狙撃手、ハンター!』
『☆台風の日はコロッケを食べるのです』
10月末
『☆ハロウィン特別編 復活の悪魔城!』
12月末
『クリスマス特別編 悪魔と忌み子のクリスマスキャロル』
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「俺はお前のキングとエンペラーを超融合! 来い、■■■■!」
遊人は【叡智】のキングを奪い、3×3マスを占拠する名状しがたいものを召喚する。既に盤面は9枚に及び、深雪には全くゲーム進行が分からなかった。あとコマの名前の発音も聞き取れない。
「なんかよくわからないけどキング取ったから勝ったの?」
チェスの発展ならキングを取った時点で勝ちなのだろうと深雪は思っていたが、【叡智】によるプレイングが続く。
「残念でしたね……私は既に継承を終えている! 十枚目の盤面に、新たなエンペラーをテイク! 先帝の無念を晴らす!」
「な、なんか球体出て来た?」
新たに出現した盤面は何と球状。
「だがキングは取ったぜ」
「え? そういえばキング四回くらい取らなかった?」
深雪はこの対局を振り返り、【叡智】のキングが多数取られていることに気づいた。エンペラーも取った気がするので、もう決着の方法が分からない。
「愚か……あなたの取ったコマを見なさい……」
「コマ? まさか!」
遊人は自分が獲得したコマを確認する。キングやエンペラー、その他もろもろに対してクイーンは一つのみ。
「リバースハーレム! これが狙いか!」
「私はお前のクイーン一つに対してキング以上のコマを六つ使い、リバースハーレム!」
「く、だったら俺はこのタピオカドリンクで自分のクイーンを犠牲にしてリバースハーレムを封じるぜ!」
遊人は盤面に突然タピオカドリンクを置いて自分のクイーンを盤面から撤退させた。
「リバースハーレムは相手クイーンが二体以上で不成立になる難易度の高いシステム、だが対策の対策をしないとでも!」
【叡智】は遊人のタピオカドリンクにジンバブエドルを突き刺して効果を無効化する。
「タピオカの呪縛を受けろ!」
「ジンバブエドルを抱えたまま立ち回ってたのか! そこまで計算のうちか!」
「リバースハーレム!」
深雪はもはやルールが分からなかった。だが遊人はそんな深雪に注意を促す。
「来るぞ! 内容次第ではお前の命も危うい!」
「なにそれ」
【叡智】は何かを唱え、それに呼応して一枚の盤面が粉砕され何かが出てくる。
「ラーチャーセット……!」
「最大難易度のリバースハーレムに加えて自ら展開した盤面のコスト化……まさか!」
「ラーメン大、チャーハン大、餃子から揚げ……チャーシュー麺への転移、味玉の加算」
「よせ! それ以上は、杏仁豆腐の追加オーダーは世界中の人々の認識が狂うぞ! AXクラスシナリオ、全人類が狂気に陥ることによる世界の滅亡だ!」
【叡智】がやろうとしていることに対し、遊人は心当たりがあるのか必死に止めようとする。深雪にはもう意味が分からない。
「あなたが悪いのですよ? 私の計算以上に粘ってくれるので、全人類を人質にします。ここであなたが投了すれば、このフェーズは不成立。世界は救われます」
主導権を握り、【叡智】は勝ち誇る。だが、遊人は不敵に笑う。
「へ……そう来ると思って、俺も対抗策を用意したぜ……!」
「何?」
「ナーフされていない戦術ってのはな、対抗策があるもんだぜ! メイン盤面クラッシュ!」
メインの盤面に遊人はどんぶりのぶっかけうどんを二つ置く。
「馬鹿な! あれだけ有利に展開して通常では難易度の高い超融合ユニットを破棄してまでこれを? これ如きで私の『潜在の焼き豚』が止まるはず……!」
馬鹿な、と言いたいのは深雪の方だった。これのどこがチェスを発展させたゲームの有様だというのか。
「で、どうするのだ? ネギか? 揚げ玉か? そんなものを乗せたところで……」
「やるんなら徹底的にやろうぜ……。ここはさっぱりいっちゃうんだなこれが!」
遊人は立て続けに他の盤面を破壊する。
「何ぃ! デッキに一つしか入れられないゴッドユニットのいるサード盤面を破壊した? 何をする気だ!」
「こいつに決まってんだろうが!」
遊人が出したのは、半分に切ったすだちだった。それをうどんに絞ると、【叡智】の召喚が止まった。
「滅暑納涼、夏の風物詩!」
「しまった! こいつとは相性が悪い!」
「ご賞味下さい、我のうどん!」
なんとか世界崩壊は免れた様だ。
「く……だが有利なメイン盤面は初期化、超融合ユニットとゴッドユニットは蘇生不能……かなり手痛いんじゃないか?」
「ゲームはラストラップで一位を取れば勝ちだ。それにお前には召喚失敗のペナルティがある」
【叡智】と遊人はすだちうどんを啜って一旦仕切り直す。もうなんだこれ、深雪はそう思うしかなかった。
「分かってる! すだちうどんの料金は私持ち、うどん札もあなたに渡す。デザートのソフトクリームと食後のドリンクもオマケだ。ランチフェイズ失敗のペナルティは処理した。だが少食のあなたにこれを受けきれるかしら?」
「たしかにな、だがデザートは別腹だぜ」
これただの遅い昼食では? 深雪は疑問を口にする気も失せていた。
「リバースハーレム失敗のペナルティも受けてもらおうか」
「貴様正気か! さっき食ったばっかで申請を? 黙っていればやり過ごせたものを!」
「ダメージを受けてもらう。さぁ、コメダのクリームソーダを奢ってもらおうか!」
バトルは深雪を置いて白熱する。
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大海菊子都知事は、何千もの周回の果て現在に至る。そのため、浅野陽歌は同じ2019年後期でも違う時系列を歩んでいる。特に彼は『主人公補正』や『主要人物補正』という特性を持たない(持っている様に見えるのは七耶達の庇護下で影響を受けている)ため、周回の度に名前付きモブの様な扱いでその設定に大きな変異が生じている。
今回の周回(『☆謝罪会見』以降の話)
2019年9月
『☆僕の生まれた日』
陽歌、ユニオンリバーに引き取られる。このオフ会にてフレズヴェルクと初遭遇。
10月から12月
『☆陽歌とエヴァ姉さん』
『☆EP1 新世界へダイブせよ!』(ガンダムビルドダイバーズRE:UNIONはここから)
『☆ミニ四駆の日記念! 世界最小のモータースポーツに挑戦せよ!』
陽歌の愛車、デクロス01完成。
キャラもふ豊橋にて再度フレズヴェルクと遭遇
『☆鎧の孤島配信直前! 今からでも間に合うエキスパンションパスへの道』
ウルトラホールに呑まれた陽歌がガラル地方で冒険する。
この辺りでハイムロボティクスからトイボット『モルジアーナ』のモニターに抜擢される。
2020年1月
『伝説のLBX、オーディーン』
陽歌、かつての恩人と会う。捜索されていることも知る。
『調査報告書1』
響が陽歌の調査を開始。このタイミングで彼の元担任がワクチンの過剰摂取を開始
2月
『ワンフェス直前! ワンフェスって何?』
『危うしワンダーフェスティバル』
一度目の都知事撃破、マーケットプレイス幹部、アダムスミロイドのガネス撃破
3月
『☆踊る民衆、黄巾賊の罠!』
フロラシオン【双極】妹、アダムスミロイド、ファルスを撃破
この辺りで豪華客船内で暴動が起き、船長である父親の救助に向かったあおと轟雷がフレズヴェルクと遭遇。
3月31日
『陽歌の決断』
陽歌、ユニオンリバーの一員になることを決める
4月
『☆轟雷起動日2020! もう一つの出会い』
陽歌とフレズヴェルクが初めて面と向かって遭遇。
『黒歴史に決着を!』
『金湧という忌み地』
『幸運を呼ぶ少女達』
『乱戦! 陽歌救出作戦と謎の施設調査』
陽歌、エヴァ、ミリア、金湧へ。2度目、3度目の都知事撃破。病院島『菊子』を凛が破壊、4度目の都知事撃破。一富士・デュアホーク・三茄子が合流。
5月
『忌むべき生命』
『転輪祭典』
陽歌、自分の出生を知る。三茄子によりループの事実が知らされる。
『雌伏たる時代と悪の胎動』
ロスカル・ゴン、再度レバノンへ密入国するも楽器ケースに取り残される。現在も継続中。
6月
『ジューンブライド/ゴーストマリッジ』
7月
テレビの収録日
早朝
『暴かれる策略の繰り返し』
夕方以降
『アイドルムーブメント!』
『再会、友よ』
『終幕の聖火は首都を焼いて』
『転輪望みし執着の思念』
テレビの収録をきっかけに都知事の正体が明らかになる。最終決戦へ。
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(馬鹿な……)
【叡智】は息を荒げ、立つのもやっとな状況に追い込まれていた。対局開始から既に十時間経過。計算通りなら、虚弱体質の遊人は体力を失い戦闘不能になるはず。しかし、彼は事前に自身の弱さを考慮した上で椅子を持参しているわけだが、それを踏まえても余裕があり過ぎた。
(こんなことが……)
自分の手は悉く読まれる。【叡智】とあだ名される演算能力を持った自分を超えた計算をしているにも関わらず、その負担はどこ吹く風。長考の様子もなく打つ手はスムーズ。一体何が起きているというのか。
(この男、私が四億手先まで計算しているというのに、それ以上の結論を?)
頭が割れるかの様に痛み、身体が火照る。遊人に勝てない。計算上は数手で勝利出来る相手に勝てない。その焦りが【叡智】を追い詰める。
「私は……負け……」
次の手を出そうとした時、彼女は倒れ込んだ。先ほどまで居眠りしそうになっていた深雪は思わず【叡智】に駆け寄る。
「だ、大丈夫? これって闇のゲームなんじゃ……すごい熱……」
「知恵熱か。ここはもう大丈夫だろう」
遊人は勝利こそしたが、彼女の見た結論から【叡智】はすぐにまた陰謀を巡らせるだろうと計算した。種明かしをして絶対に勝てないということを教えた上で、遊人は彼女に伝える。
「俺はお前が計算で得た結論を、お前の仕草から読み取っていた。つまりお前がスパコンで俺は見る人。だからお前がどんなに計算をしても俺はその結論の先を行ける。お前は俺に勝てる確率が高いと見込んだだろうが、その気になればどんな低い確率でも掴めるんだ」
「お前は……」
なんでも計算で未来を予想してきた。そんな【叡智】に、大きな壁が立ちふさがる。しかし、その壁はもしかすると防波堤になるかもしれない。そんな僅かな希望と共に彼女は意識を失った。