騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 全国のゲーセンで遊べる『ゾイドワイルド バトルカードハンター』。Z3弾からスタートしたバトハン戦記は自分が主役になった物語を体感できるのだ。ストーリーカードに刻印されたゾイドはいずれも強力。初心者には大きな助けになるぞ。
 君もセブカを手に、今すぐ戦いに飛び込め! ゼログライジスの参戦するZ5弾も12月開始予定!


☆バトハン戦記0 誕生、ソニックバード!

 ゾイドとは、生きた機械。自ら戦う本能と優れた性能を持つ金属生命体である。

 

  @

 

 小学校に入学して、一年で引っ越すことになった。理由は子供だった自分にもよくわかる。この街は異常だ。そんな街に住めないし、親が自分をそんな街の学校に通わせたくないのも納得出来た。

「そう……なんだ」

 友達はそれを聞いた時、寂しそうにしていたが笑っていた。無理をしている。強がっている。そんなことはお見通しだ。

 髪の色がみんなと違うから、目の色がみんなと違うから、目の色が右と左で違うから、両親と血が繋がっていないらしいから、本当の親は犯罪者らしいから、そんな理由で友達はいつも生傷だらけで、お腹を空かせていた。

 自分がいなくなったら、こいつはどうなるのだろう。だれが彼を助けられるのだろう。あっという間に、死んでしまうのではないか。

「陽歌、一緒に来い」

 両親が許すかなどわからないが、とにかくここにはいさせられない。手を引いて連れて行こうとするが、彼はその手を振り払う。

「僕が行くと迷惑になっちゃうから……元気でね」

 あの時、去っていく友達を追わなかったことを一生後悔することになった。彼の行方は未だ、わかっていない。

 

@

 

 これはまだ春の話である。

「この辺りか……」

 黒地に金の箔が目立つ狼のゾイド、ハンターウルフツクヨミに乗った少年がレーダーで反応を探していた。行き先には、窓ガラスが割れた様な穴と向こうに広がる密林がある。

 ここはなんてことはない、ごく普通の街中である。しかし妙なことにこの空間の穴は周囲に大きな影響を与えることなく存在している。

唯一あるのは、清掃中のトイレに置いてある様な頼りない看板だけ。『ボルテックス発生中、立ち入り注意。ZFC』と書かれているが、少年はそれを無視して進む。

「ジャミンガが出ないといいけど」

 穴はゾイドに乗りながらでも悠々と入れるほど大きい。中に入ると、金属で出来た恐竜の骨格らしきものが散らばっていた。

「どうやらジャミンガは倒されてるみたいだな」

 心配事がひとつ潰れたが、念のため彼はハンターウルフを進ませる。やはり見かけるのは残骸ばかりで、ジャミンガは見当たらない。どうやら安全らしい。

「誰だ?」

 密林を進んでいると、横からゾイドが顔を見せる。黄金のライオン種、ライジングライガー。強力なゾイドであることは有名だ。伏せて侵入者を待ち伏せしていた様だ。

「ライガー?」

 装甲にはZFC、対ゾイドテロ部隊、ゾイドコマンドフォースの所属であることを示すマークが付いている。階級章からして隊長機か。

「所属を明かしてもらおうか」

 ライガーのライダーらしき男の声に従い、少年は名を名乗る。

「広谷小鷹。こいつはハンターウルフツクヨミのルーナ。民間人です」

「民間人の子供かー、うちにはボルテックスへの立ち入りを制限する権限がないからなぁ」

 苦労を感じる声の後、ライガーの首筋から一人の男が立ち上がる。ヘルメットにガスマスクをつけた特殊部隊員の様な服装をしており、改めてZCFが軍隊の様なものなのだと思わせる。

「こちら、ZCF四番隊隊長、コードネーム級長」

 変わった人物だが、ライジングライガーに乗れるということはかなりのライダーということだ。だが、肝心のライガーはイビキをかいて寝ている様子。

「迷いこんだのか?」

「いえ、近くで活動をしていたけど、ボルテックスがあったからジャミンガの流入がないか見に来ただけだ」

 小鷹は辺りに散らばる残骸の主が周囲に危険を及ぼさないか警らしにきたのだ。

「なるほど、それは関心。ここは我々が抑えているから安心したまえ」

「それより、なんでZCFがこんなところに?」

 小鷹は民間とはいえ立派な軍事組織が辺鄙な場所のボルテックスに隊長各までいるのか気になった。

「そうだな……まぁ機密というほどではないから付いて来なさい。いいものも見せてあげよう。起きろライガー」

 級長はその理由を明かすために、小鷹をある場所に連れていく。密林の中を歩きつつ、彼は小鷹に質問をした。

「着いてこいと言っておいてなんだが、いくらZCFらしきとはいえ知らない大人についていってはダメだぞ」

「いや……一応ZCFは知ってるから。白銀の雷光率いるシャイニングランス隊、青いガトリングフォックスのブルーナイト隊、そして三番隊と四番隊……。メディアにはよくシャイニングランス隊が出てるけど、実働が多くて町で見かける率高いのは後ろ三つなんだよなぁ」

 華やかな部分を担う部隊と、地道な仕事をこなすチーム。民間の防衛隊である以上イメージ戦略が大事なのだが、乖離し過ぎも問題である。

「まぁ、今回もその雷光サマがやりたがらない地道ーな作業だ。ここの化石を復元して新しい戦力にしようって話」

 ここでは発掘作業が行われていた。ゾイドは基本、ボルテックスの内部で発掘した化石を復元して使用する。

「ボルテックスについてはどれくらい知ってるかな?」

「たしか、地球に昔落ちた惑星Ziからの移民船が載せてたリジェネレーションキューブの影響で発生した、こういうゾイドクライシス直後の時代らしき空間を生み出す現象だったかな」

 この空間、ボルテックスは通常の場所とはわけが違う。ざっくり言うと異空間であり、突発的に開いたり、日本で入ったボルテックスからアメリカへ出てしまうなんてこともざらにある。

「概ね、そんな感じだな。なんか移民船のドタバタとか、落ちたのは数周前の文明とかZiに地球からの移民船が来たからゾイドが生まれたとか複雑な話はいいか……」

 もっと詳しく説明すると時間がいくらあっても足りないので省略。リジェネレーションキューブというのは汚染された地球を目指していた惑星Ziからの移民が持ち込んだ、Ziフォーミングと呼ばれる環境整備を行う装置だ。

 この空間はゾイド因子に溢れており、化石になったもの以外にも新たに生まれるゾイドがいる。

「ジャミンガはゾイドのなり損ないで、野生のゾイドやジャミンガがボルテックスと出ると危ないから俺は見回りしてたんだ」

 小鷹がボルテックスに入ったのは、この空間が恩恵だけでなく危険も持っているからだ。野生のゾイドやそのなり損ない、ジャミンガは狂暴で周囲に危害を加える。なのでゾイドを扱えるライダーがそれを鎮圧する必要がある。

「あれ?ここのボルテックスって山奥から入った気するけど……また変なとこ繋がったのか……ああ、そういてばそんな報告あったな」

 ボルテックスの入り口が山中などならまだしも、街中付近だと普通に危ないのでZCFはその確認をしなければならない。とはいえ、国と提携しているもののZCFは民間組織。あまり強い権限はなくボルテックスへの立ち入り制限すらできないのが現状だ。

「ついたぞ」

 ライガーとハンターウルフは発掘現場に到着する。そこでは、恐竜タイプのゾイドが発掘されていた。パキケロファサウルス種のパキケドスにディノニクス種、ギルラプターとその亜種、ニクス。ニクスは宝石とも称される美しい紫の骨格と通常より強靭な金の爪が特徴だ。

「おお!レアボーンタイプが発掘されてるぞ!」

 さらに貴重な個体が見つかったことに興奮を隠せない級長。恐竜の化石を思わせる褐色の個体をレアボーンと称し、現在はギルラプターとグラキオサウルスが確認されている。

「目的と違うでしょ」

「ん? いやでもレアやん」

 そこに一人の女性自衛官が歩いてくる。警戒中のゾイドには警察所属を示すマークがされた個体もおり、ZCFは結構混沌とした組織らしい。

「それで、そちらのハンターウルフは?」

「ああ、ボルテックスが町に繋がってるって連絡あったろ?そこから入ってきてな。ジャミンガを警戒中だったんだと」

 話を聞くと、自衛官は敬礼しつつ自己紹介する。

「陸上自衛隊、山野六花三尉であります」

「あ、ご丁寧にどうも。広谷小鷹です」

 丁寧な挨拶に小鷹はハンターウルフから降りて返礼する。

「今、ここではソニックバードっていう新しく発見されたゾイドの発掘をしてんだ。似た骨格のギルラプターとかがよく見つかるけどな」

 級長曰く、ここでは新しい飛行ゾイドが見つかったらしい。今は小型のカブターやクワーガが手一杯で、スナイプテラの導入も進んでいない。

「でもこれ見ちゃってよかったんですか?なんか秘密っぽいけど」

「いえ、お気になさらず。隠す様なことではありません。むしろ、我々の様な防衛組織は戦力を喧伝した方が狼藉者への牽制になりますから」

 六花は子供相手にも丁寧に対応していた。割りとフランクでいい加減な級長とは、立場も性格も違うのだろう。

「ところでやまのん。一体目の復元状況は?」

「やまのん言うな。なにぶん、復元例が少ないからな。復元出来たが正常に動いてくれるかテスト中だ」

 級長は仕事の進行具合を聞いた。ソニックバード一体目の復元は済んでいる。今はテスト中だ。

「それで、町にボルテックスが繋がっていたのか。報告は受けたが詳細な確認がまだだな。我々の小隊で確認作業を行う。ここの警護なら、ブルーナイト隊で大丈夫だろう」

「よし、んじゃいくか」

 六花は行動指示を出す。町にボルテックスが空いたとなればジャミンガの流入を警戒せねばならない。それも一度確認すればいいというものではなく、継続的に警備して流出を防ぐ必要もある。小鷹達は来た道を戻り、町へ出ることにした。

 六花の愛機はバズートル。通常はオリーブドラブの装甲もより濃いモスグリーンに変更され、陸上自衛隊の所属を示す紋章や文字が入っている。

「兵器ゾイド使うのか……」

 小鷹としては対テロ組織が兵器改造されたゾイドを導入しているのが意外だった。ゾイドの兵器改造はゾイドの意思を奪うZOバイザーの装着や拘束キャップの使用を行い、無理矢理コントロールしていることが多い。そうでなくても、自衛隊が銃火器満載のバズートルを使うことが驚きなのだが。

「バイザー、キャップ共に拘束機能はありません。開発元のZITEC社が本来想定した仕様のまま、我々は使用しています。治安局のせいで良いイメージが無いのは確かですが……こちらこそ本家本元なのでデザインを変更するのは悪しきに折れることとなります」

 とはいえ、それは外見だけで実際のところ小鷹のハンターウルフとの差異はあまりない。むしろ『我こそが治安維持組織!』とメディアで喧伝している企業連お抱えの治安局の方がそうした機能をガッツリ使っている。

 それは第四小隊のもう一人、トリケラドゴスクロムに乗る隊員も不満に思っていた。トリケラドゴスクロムは黒い装甲を持つトリケラドゴスの亜種である。

「しかし、我が社の復元技術や改造技術を盗んで好き勝手するとは治安局め……」

「そういえば、ZCFって民間ですよね?なんで自衛官がいるんですか?」

 小鷹は自衛官や警察のいるこの組織の内情が気になった。治安局はよくテレビで特殊しているが、特にそうした様子はない純粋な企業の組織であったりする。

「そら、こんだけの武力持ってるけど悪さしませんよっていうのを、取り締まる権限のある人間に見せるためだな」

 級長の解説は相変わらずざっくりしていた。

「自衛隊や警察を内部に入れて常時監査してる様な状態にすればそう悪さは出来んし、後ろめたいことがあればそんな提案出来ないしな。自衛隊の指揮権は総理大臣にあるが警察は独立してるし、そもそも入ってるのが各組織の末端だから悪さをチクられはするが忖度までは出来ん。その点、治安局は完全クローズドだから怪しいものだ」

 六花が詳細を伝える。要するに、戦闘能力を持つ組織故に身の潔白を示す為外からの人間を入れて自身を監視させているのだ。

「んー? でもニュースじゃ警察や自衛隊とずぶずぶだって言われてたような……」

 だが、言いがかりを付けるならそれらの組織との癒着とも取れる。小鷹はよくテレビのゾイド特殊を見るのでそういう主張をメディアがして、治安局の素晴らしさを語っているのを知っていた。トリケラドゴスのライダーはテレビなどを見ていなかったのか、呆れた様に言う。

「んなこと言われてたのか……たしかに出資はブロックスの販売やゾイド復元とかが商売のZITECだが、コピー用紙も経費で落ちん自衛隊とずぶずぶになっても儲けがないだろ」

「うっそ、自衛隊ってコピー用紙経費で落ちないの?」

 小鷹は結構厳しい自衛隊の現状を知って驚く。ZCF立ち上げの発起人たるZCFはゾイドブロックスの様な小型人工ゾイドを売るなりして利益を出しているが、相手の財布が空っぽではどうにもならない。

「我々に予算が不要ということはそれだけ平和で歓迎すべきことです」

 六花はそれについてあまり気にしてはいなかった。が、級長としては文句の一つも出る。

「程度問題だろ。そんなんじゃいざって時に困るぜ……」

「限られた予算でも必要なことはしてるから」

 そんなこんなで話していると、ボルテックスの外に出る。そして、小鷹の先導である駅前まで行くことになった。

「ここでちょっと署名活動をしてまして。いくら外出自粛でも、仕事なら地下鉄乗らなきゃいけないから」

「署名?あ、ここ藤が丘か」

 級長が辺りを確認すると、名古屋市営地下鉄東山線の終点、藤が丘であることがわかった。

「懐かしいなー、結構変わったんだなここ」

「地下鉄? 地上に出てるが?」

「東山線は地上区画があんだよ。鶴舞線なんか私鉄が乗り込むぞ」

 地下鉄といいつつ高架に線路がある光景に六花は驚く。小鷹への対応ではなく、級長と話している姿が素の状態なのだろう。

「それで、署名って?また名古屋市長が私学潰そうと頑張ってんのか?」

 級長は署名のことを小鷹に聞く。以前、政府が公立高校無償化と同時に自治体の補助金と組み合わせれば私立高校も実質無償化出来る政策を打ち出した際、愛知県や名古屋市はあろうことか自治体の補助金を打ちきり実質的に政府からの補助金をネコババしたことがある。

「名古屋市長?あのまだアルマジモンのが自然に名古屋弁使えてるあの?」

「アルマジ……なんだって?」

 六花の例えが世代的に小鷹には分からなかった。名前からしてデジモンなのだろうが、リブートやゲスト出演では初代勢が優遇されがちで第二シリーズのレギュラーとはいえ主人公でない存在まではさすがに知らない。

「歳がバレる歳が。奴さん死んだよ、俺が殺した」

 級長の言葉はどこまで本当かわからないが、そんな噂は小鷹も聞いたことがある。

「あー、知事がバーターやってた市長が白楼? だったかそんな学校に喧嘩売って返り討ちに遭ったって話は聞いた……」

 そんな昔の話はさておき、重要なのは今の問題だ。小鷹はその話をした。それは今、新型の肺炎が蔓延していることに関係がある。

「今、コロナ騒ぎで愛知以外は殆ど学校を休ませてる。でも、愛知は大したことないって何もしないんだ」

「まぁ、死亡率や重症率は確かに低いが……なにぶん未知数のウイルスだ、感染してみなきゃどうなるかわかんねぇのが怖いよな」

 級長の言うとおり、数字では大したことがないのかもしれない。統計での死は数字でしかないが、当事者にとってはカウント1でも悲劇だ。それに、未知の存在が相手となれば警戒に越したことはない。

「俺の友達に、学校休むほどじゃないけど体弱い奴がいてさ……そいつがなったら、ヤバイなって思って……。だから、俺も学校を休校にしろって署名に協力してる」

 市長が何もしないため、子供達が感染拡大を防止しようと活動しているのが現状だ。小鷹は友達の為に行動している。自主的に休めばいいだろうが、それでは授業においていかれるなど問題も出る。

「近くにボルテックスの反応があったから、ジャミンガがこっちに来ないか見に来てたんだ。人がそれなりにいるし、みんなゾイド持ってないから襲われたら大変だ」

「いやー、立派な若者だ。これなら我が国も安泰だな」

「こいつらが大人になるまえに国が無くならなきゃいいけどな」

 トリケラドゴスのライダーが感心するが、級長としては亡国待ったなしという状況にも感じられた。子供が大人をしているということは、大人が頼りないという意味なのだから。

「どれ、私達も三票投じておこう」

「そうだな」

 六花の提案で署名に参加しようとしたが、コクピットのモニターがけたたましい警報音を鳴らす。小鷹のハンターウルフには何も起きていない。

「な、何?」

「拘束機能のあるZOバイザーの反応だ! 治安局の連中が来てる」

 級長を辺りを見渡す。バイザーの開発元がバックにいるおかげで、思わぬ方向から敵を察知することが出来るというわけだ。

「いくら治安局って言っても、いきなりドンパチはしねぇよな?」

 小鷹は仲の悪い組織が鉢合わせることで戦闘になることを懸念した。ゴッドファーザーの世界よろしく、街のど真ん中でゾイドが自前の火器をぶっ放す様な展開だけは避けたい。

「こっちにその気が無くても相手が仕掛けてくれば分からんぞ」

 六花はシビアな判断を下し、バズートルとトリケラドゴスが人々の壁になる様に動く。確かに、向こうから一方的に撃たれてはどうしようもない。やってきたのは銀色の装甲に身を包んだキツネ種のゾイド、ガトリングフォックスであった。顔には赤いバイザーが付けられている。護衛のつもりか、バイザー付きのギルラプターも四体いる。

「これはこれは、こんなところで密を作って何をしておいでで?」

「お前は……!」

 ガトリングフォックスに乗っている人物に小鷹は見覚えがあった。ウナギと犬のキメラみたいな、ギャグ漫画でくらいしかお目に掛かれないであろう間抜け面、愛知県の知事だ。

「知事のウナギ親父!」

「感染が怖いと言いながらこんなに集まりよって、結局はずる休みの口実が欲しいだけではないか」

 まさかの登場に小鷹は驚く。武器を搭載したゾイドに乗って来た、ということは狙いは一つ。彼は後ろにいる友人らに声を掛ける。

「お前ら逃げろ! あいつ、やべーことしでかす気だ!」

「いや、下手に動かずこちらの影へ。動くと弾が当たる」

 六花は守りやすい様にゾイドの影へ隠させた。

「チッ、てめーが『ウェブの署名は無効でぇーしゅ』とか言わなきゃこっちもんな真似今時しねぇよ!」

 小鷹はハンターウルフを前に出し、知事に睨みを聞かせる。元々はネット上で済ませるつもりが、知事の横紙破りでこうなったのだ。

「悪い子にはお仕置きが必要だ。制御トリガー解除、兵器解放、マシンブラスト!」

 知事は自分が悪いとは一切思うことなく、ガトリングを子供達に向ける。そして全く躊躇わずにぶっ放した。

「ファントムガトリング!」

「こいつ!」

 本来なら回避できる棒立ちの射撃であったが、周囲の人を守るためにライガーとハンターウルフも身を盾にしなければならなかった。

「うわっ! なんだこの威力!」

「実包かよ! 頭イカレてんじゃねぇかこいつ!」

 小鷹は受けたことのない衝撃に困惑する。級長は即座に実弾を使われていると判断した。

「マジかよ! ルーナ、持ってくれ!」

「あなたは逃げて!」

 六花に退避を促されるが、今は少しでも壁の面積が欲しい。小鷹は動こうとしない。

「断る! 俺は二度と、友達を見捨てたくねぇから力を手に入れたんだ!」

 ここで逃げれば自分は助かる。だが、それではあの時の様に、友達をまた守れない。ゾイドという強大な力を得た意味がない。

「ぐぉっ! 当たりどころが!」

 装甲の厚いトリケラドゴスが行動不能に陥る。どうにかガトリングの斉射は凌いだが、ギルラプターがにじり寄ってきてまだ攻撃は続きそうだ。

「ガトリング冷やしている間に邪魔な壁は頼むよ~」

『強制解放、デスブラスト!』

 知事の指示でギルラプター達は苦しみながら背中の爪を剥きだしにする。左目に紫の炎が灯っており、ただ事ではない雰囲気を出していた。

「こんにゃろ!」

「ここを通すわけには……」

 ライガーとバズートルもダメージを受けてまともに動けないが、ここで退けば次のマシンブラストで惨劇になる。小鷹も引くことはできない。

「俺は負けねぇぞ……こんな奴らに負けて、世界を今のままにしておくなんて出来るかよ!」

 強制解放されたギルラプターを何とか押し返し、体勢を整える。だが、既にガトリングフォックスのクールタイムは終わっていた。

「今度こそお仕置きタイム!」

 知事は勝者の余裕を持ってガトリングを構えた。級長と六花も今回ばかりは覚悟を決める。いくら訓練された部隊員でも、突然頭のいかれた狂人の集団に襲われては市民を守るのがやっとだ。

「勝手にしたけどよ……お前みたいなやつが泣かない世界にするって決めたんだよ! そうだろ、陽歌!」

 ガトリングが唸りを上げる。その時、空から飛来した何かによってガトリングが切り裂かれた。

「何?」

「あれは!」

 知事が驚いていると、なんと上空に青い鳥型のゾイドがいるではないか。翼から刃を覗かせ、再び急降下してガトリングフォックスを襲う。攻撃は的確にZOバイザーを砕き、フォックスの動きを止めた。

「ソニックバード!」

 六花はその機体が復元したばかりのソニックバードであることを見抜いた。どうやら、第四小隊の通信を聞いて救援に駆け付けたらしい。

「今だ!」

 小鷹は反撃に転ずるため、ハンターウルフの背中のブースターを前へ突き出した。

「本能解放第二段階! 吼えろルーナ、俺の誓いと共に!」

 ブースターが巻き起こす嵐は的確にギルラプターとガトリングフォックスだけを巻き込む。そして、ルーナの咆哮を乗せて風の刃が渦巻いて敵を襲う。

「ハウリングシャウト!」

 敵は致命的なダメージを受けながら空を舞い、地面に叩きつけられる。

「ぐええええ!」

 慢心していた知事は衝撃で顔面をコクピットにぶつけ、前歯を折って鼻血を吹き出す。

「ひ、ひぃいい」

 一転、不利になると知事はフォックスの光学迷彩を使って透明化し、逃げ出した。

「馬鹿め、丸見えだ!」

 が、歴戦のZiファイターである級長には透明になる程度何のアドバンテージも無かった。影でくっきり、遁走するフォックスの姿が見えている。

「進化解放、エヴォブラスト!」

 ライジングライガーが背中の刃を突き出すと、走ってフォックスに追いつきガトリングにブレードを突き刺した。

「ライジングクロー、ブレイク!」

 そのまま発砲によるインパクトでフォックスにはそこまでのダメージを与えず。乗っている知事を揺さぶる。

「おぼああああ!」

 リボルバーの弾丸を使い切ると即座に退避し、甲羅を開けてキャノンを覗かせる六花に射線を譲る。

「兵器解放、マシンブラスト!」

 そのままキャノンの一撃がフォックスを吹き飛ばした。

「案ずるな、空砲だ」

「めっちゃ吹っ飛んでますが」

 フォックスは機能停止、投げ出された知事も気絶しており部隊は全滅である。パトカーのサイレンが鳴っており、警察も駆け付けた。事件はこれで解決となっただろう。

 

「参ったな、しばらくトリケラは戦線離脱だ」

 トリケラドゴスクロムは当たり所が悪く、修理に時間が掛かるらしい。第四小隊は欠員が出たまま任務に当たらなければならない。ライダーは無事だったが級長は頭を抱える。

「政治家にゾイドを売った人間がいる、というのも気になるな」

 六花は事件の経緯を気にしたが、そこから先は警察の仕事。

「ん? これは?」

 散乱する敵の装備から小鷹は書類を見つける。連絡用の文書をそのまま持ち出して落っことしたのだろう。コクピット内でメモを取れる様にバインダーで挟んであった為、激しい戦闘の後でも吹き飛ばされずに残っていた。

「これは……」

 あちらは経費が潤沢なのか、カラーで印刷された書類に写真が掲載されていた。そこには、懐かしい顔が写っている。キャラメル色の髪にオッドアイ、行方が分からなくなっていた友人、浅野陽歌だ。明確に名前も載っている。ゾイドに乗っている様子が写されており、落下の衝撃で肝心な情報は読めなくなっていたがその存在だけは明白になった。

「陽歌……生きていたのか……?」

 敵の治安局が陽歌の情報を持っているということは、奴らを追っていれば再会出来るかもしれない。

「なぁ、俺をトリケラが回復するまでZCFに入れてくれよ!」

「それは無理だ」

 小鷹の頼みを六花は即座に断る。いくら実力があっても子供を数埋めには使えない。

「遊びのつもりじゃねぇ! いなくなってた友達が見つかるかもしれねぇんだ!」

「友達を探したいのか……」

 級長は人手不足の痛さもあり、なんとか小鷹を参入させる手はずを考える。

「その友達の捜索に俺たちが協力する、ってことでどうだ? 元々前線に出るチームじゃないしさ」

「その方向ならいけるかもな。だが私は手続きを手伝えないぞ。お前が何とかしろ」

 六花は立場上、子供を戦場に放り込むことに加担は出来ない。だが、賛成ではあった。行方不明者の捜索、という名目で小鷹を加えることは出来るかもしれない。

 こうして、小鷹はZCFとして友達の行方を追う冒険を始めることになった。この先、どんな戦いが待っているのかは分からない。それでも、小鷹とルーナは進んでいくのであった。




 機体解説

 ハンターウルフツクヨミ(オオカミ種)
 全長:8.9m スピード:10
 全高:4.4m アタック:7
 体重:41.0t IQ:6
 IQ:77 スタミナ:9
 最大スピード:270km/h ディフェンス:7
ワイルドブラスト:9

 小鷹「ハンターウルフツクヨミ。オオカミ種のゾイドだ。月に向かって遠吠えすると大気密度が上がって空気層が厚くなって偏光、月が赤く見える様になるんだ。本能解放ワイルドブラストすると背中のソニックブースターから衝撃を放ち、加速したり前に向けて攻撃に使うぞ」

 次回予告
 小鷹「陽歌の手がかりを探す俺たちは、治安局が大規模な発掘を行っているボルテックスへ向かった。そこで待っていたのはクワーガ部隊と赤い幻影だった。次回バトハン戦記、『急襲! 密林の攻防戦』。行くぞ、ルーナ!

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