騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

69 / 121
 ハロウィンが絡むと遅れる呪いでもあるんかね。


13日の金曜日だって本当は自粛したくない

 令和二度目の13日の金曜日、またもや無念の自粛……! こんな時期ではハロウィンだって渋谷に人は集まらないだろうとジェイソンも思っていた。区長も来るなと言っているほどだ。

 しかし、人の愚かさと宇宙の広さには果てが無いという言葉がある。なんと、こんな時勢にも関わらずハロウィンをするために人が渋谷に集まってしまったのだ。愚か、あまりに愚か。この愚行に怒りを覚えた人々の負の感情を吸い取り、悪魔城も今、復活!

「何これ……」

「さぁ……」

 ドラキュラと死神は復活した自身の城、悪魔城を見て絶句する。昨年、死神が手に入れた新たな配下の影響でオペラ座が融合したのはまだ理解できる。しかし、今年は悪魔城の上に国立競技場が乗っかっている。

「なぁ、これって裏悪魔城と逆さ城にも影響しているよな?」

 ドラキュラは死神に確認を取る。悪魔城は今目に見えている存在だけではなく、裏の世界、そして最上層から入れる逆さの世界が存在する。この表正位置悪魔城が拡張されれば、当然それにも影響するのだ。

「はい」

「もぉおおおやだぁあああ!」

「お気を確かに!」

 ドラキュラは頭を抱えて絶叫する。家が広くなるのはいいことだが、限度というものがある。そもそも逆さ城に関しては家として機能するか怪しいところがある。

「戦力増えましたから!」

「どうせベルモンドの変態共は平然と壁を抜けて一分もしない内に城壊しておまけとばかりに小便をひっかけるんだ! こんな城いくら増えても無駄ぁ!」

 死神のフォローも一流のベルモンド一族が相手では何の意味もない。向こうメモリの海を泳いでフラグ回収して無理矢理エンディング呼び出す変態ぞ?

「おーい、小僧どこ行くんだ!」

 その時、七耶がフラフラと歩く陽歌を追いかけていた。二人共パジャマの状態で、陽歌は寝ながら歩いている様だ。

「あいつ……」

「そうだこういう時は鼻提灯を割れば……」

 ドラキュラが妙な因縁のある相手を見つめていると、七耶は陽歌の鼻提灯を割った。

「ふがっ!」

「一体何があった」

 かなり古典的な方法ながら、陽歌は目を覚ます。

「あ、最近無かったので忘れてたんですけど僕って夢遊病気味なんだよね……」

「明らかにストレスが原因ぢゃん。ハイジが山帰れなくてなるやつ!」

 どうも今は改善したが、昔はそんな持病もあったらしい。なくなってよかったと思う七耶であった。

「でもいつもは冷蔵庫の前とかなのに、家の外に出るなんて……」

「ダイエット中のデブパターンって極限の空腹じゃねーか」

 普段は空腹が原因で無意識に冷蔵庫まで歩いてしまうのだが、外まで出たのは初めてだという。過食気味の肥満でもないのにそんな状態まで追いつめられるなど、常軌を逸した欠食児童である。

「で、なんだあれ? あたしンちグラグラゲーム?」

「国立競技場オペラ座悪魔城?」

 七耶と陽歌は目の前に広がる城を事務的に確認すると、そのまま踵を返して帰ろうとする。

「待って、もう少し驚いて」

 この理解を超えた何かを平然と処理されたドラキュラは彼らを呼び止める。もう少し驚いてほしいところであるが、感覚でも麻痺しているのか。

「いやだってチェイテピラミッド姫路城とか見ちゃったら、ねぇ」

「何それ悪夢かね?」

 七耶の口から出た単語に戸惑うドラキュラ。これさえも超越する何かがこの世には存在するというのか。こっわ、現世こっわ。

「まぁ、九龍城やウィンチェスターミステリーハウスよりは整ってるんじゃないですか?」

 陽歌は比較的現実的な例を挙げる。確かに悪魔城はいろいろ積み重なっているが、積み重なっているだけともいえる。

「待って、人間が作れるレベルのもの挙げられたら悪意の象徴、魔王ドラキュラの本拠地立つ瀬なくなくなくない?」

 死神もこの落ち着きには突っ込まざるを得なかった。

「いや今年増える都知事見ちゃったし……」

「待って去年私倒されてから何があった?」

 陽歌の言葉にドラキュラは混乱する。もう一言ひとことが現実とは思えない。

「そう! 都知事だ! 見ろあの国立競技場! 君らの宿敵都知事が帰って来たかもしれないんだぞ!」

 死神は国立競技場を指さし、ラスボスの再来を匂わせる。しかし、陽歌は心底迷惑そうに断った。

「いや、しつこいだけのいちシナリオボスを宿敵扱いされましても……」

「天使の奴が都知事は時の団地送りになったっつってたから、復活はしないんじゃないか?」

 七耶は既に都知事復活があり得ないという情報を掴んでいたが、これまたドラキュラの知らない単語が出て来た。

「時の団地?」

「ご存知ないのですか?」

 陽歌は意気揚々と時の団地について説明する。

「時の団地は数ある冥界の中でも重篤な時間犯罪に手を染めた者が送られる場所です。僕はエレキシュガルさんや紅女将、それとオルトリンデさんから聞きましたけど、その存在は1993年にナツメ社から発売されたファミコン用アドベンチャーゲーム、『東方見文録』で広く現世の人間に知られることとなったみたいですね」

「そんな昔のゲームを皆さんご存知みたいに言われても……」

 ドラキュラは困惑しかなかった。ちなみにこのゲームの主人公、文録は何の縁がメダロットに子供時代が出演し、作中の過去の年代に書いた本が存在する。そんなメダロット、最近シリーズ全部入りがswitchで発売したのでやってみよう。

「ゲーム機の概念より年上の奴に言われたくねぇだろ」

「うるさい五千歳児」

 七耶とドラキュラが年齢のことで言い合うが、人外の年齢などもうカウントのしようがない。そんな時、陽歌の影から一人の少年が出てくる。合唱団の様な正装を着て、仮面をつけた少年だ。

「ふう、ようやく戻ってこれたよ」

「お前は?」

 七耶はその存在を警戒する。何せ、何故か陽歌らしきものを抱えているのだから。裸体を隠す様に少年のものであろう上着を着せられているが、腕は生身と思われる辺り陽歌本人ではないのだろう。

「君は……」

「ふむ、悪魔城があるってことは正式な時間軸に来たってことで間違いないね」

 陽歌にとっては、時折自分の背中を押してくれた謎の存在である。てっきり自分の本心が具現化した何かだと思っていたが、全く別物の何かが正体であった。

「カストラータ! 貴様生きていたのか!」

 死神はかつて配下にしつつ利用された相手の生存に驚く。

「いや、正確には死んだんだけど僕って基本怨霊の集合体だからね。陽歌の中にある破片が色んな世界線で似た様な怨霊を集めて力を取り戻していたのさ」

 カストラータは一度死んだものの、復活したというのが正しい。

「そうか、シエルさんが言ってた僕のやけに高い霊力は君が……」

「いや、そんなことしたら僕一発でバレてとっつかまるから。霊力は君の自前だよ」

 陽歌はシエルから言われていた霊力の原因、とも考えたが、そうでもないらしい。カストラータ的には陽歌を利用したいがあまりはっちゃけるとリスクもある。

「でも助かっただろ? 見返りに君の心の一部はもらっていくよ」

「させると思っているのか!」

 ふわふわと逃げようとするカストラータを七耶は止める。何が狙いか分からないが、心の一部など危ういものを持っていかれては堪らない。とはいえカストラータは既に陽歌の心の一部と思われるものを持っており、それでも彼に影響は見られない。呆れつつカストラータは七耶に説明する。

「あのね……一年も一緒にいて何を見ていたんだい? 彼の精神はストレスから身を守るために分裂した状態にあるんだよ。所謂多重人格、その一歩手前だ。幸い、心自体に人格を産むほどの力が残っていないから人格が増えずに済んでいる……。もし回復すれば多重人格になりかねない。それを僕は抑えていたのだから少しはお土産を包んでほしいね」

 陽歌の精神が多少健康でいられたのは、カストラータの力添えあってのことだった。

「そうなんだ。僕が迷った時にいろいろ助言もくれたよね。ありがとう。心の破片くらいは持ってっていいよ」

 陽歌は時に姿を現し、多くは彼に悟られない様に自分を助けてくれたカストラータに素直な感謝を向ける。

「ふうん……まさか利用していた相手に感謝されるとは思わなかったよ」

「周回の記憶があるから、僕が間違えない様に導いてくれたの?」

 カストラータは意外そうな顔をする。確かに周回全ての陽歌を把握しているのだが、彼の為に導いたわけではない。

「僕は大人に利用されて死んだ子供の代表。だから大人の不手際で死ぬ子供を見逃せないだけさ。君はいろいろ心配だから……これあげるよ」

 カストラータは陽歌にある本を渡す。合唱の楽譜にも見えるが、これはなんであろうか。

「君の知り合い……シエルなら使い方が分かるはずだ。このジョブを君が使いこなせるとは思えないけど、ジョブマスター補正くらいはあって損しないはずだ」

「ここまでしてくれるなんて……」

「勘違いするな。お前は僕達死者の代わりに大人の欲望を打ち砕き、未来を切り開いた。当然の報酬だ」

 全くの親切心というわけではないようだが、それだけを告げてカストラータは去った。

「あー、今回も自粛か……。せっかくゲームやデドバで追跡テク鍛えてモーコンでタイマン技術も上がったのに……」

 入れ替わりにホッケーマスクの大柄な男がやってくる。

「うそ、うちのお堀ってクリスタルレイク?」

「その様ですな」

 ドラキュラと死神は自宅の全容を未だ知れないでいた。

「ところで悪魔城が出たってことは攻略しろってことでいいな?」

七耶はドラキュラに了解を取る。悪魔城は放置していていいものではない。あるだけで魔物が溢れ出し、元々いた魔物も強化される代物だ。見かけたからには潰すのが最適解となる。

「ふ、それが出来るならやってみろ! 最奥で待っているぞ!」

 ドラキュラと死神は挑戦を受け取り、その場から消える。

「小僧、行けるな?」

「もちろん!」

 陽歌は赤い炎と共に赤漆が塗られた匕首の刀を取り出す。一般的な大太刀でも彼が持つと背丈ほどの大きさになってしまう。悪魔城の攻略、去年とは違って主戦力として立ち回るだけの力を得た。

 今までとは、わけが違う。




 みんな舐めてかかっている新型コロナ、実は後遺症に『ハゲ』が結構な確率で存在することはあまり知られていない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。