騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
勝利条件:グレートアーマー、ミノタウルス、ミノタウルスアナザー、サイクロプスの討伐
敗北条件:さな、陽歌いずれかの戦闘不能
陽歌がミリアと初めて会ったのは、今年の2月頃であった。春も近くなる時期なのに総じて一番寒くなるという奇怪な季節、故郷である金湧市の小学校でのことである。周りの家に砂が飛ばない様に、特別な砂になっているらしい緑色をした運動場で彼は途方に暮れていた。
(どうしよう……)
すっかり暗くなって寒さも厳しくなる中、陽歌は半袖短パンの体操服しか着ていなかった。大き目で擦り切れた服の袖から覗く腕は、肘上から先が無い。義手を持っていないわけではない。肝心の義手は目の前にあるジャングルジムの頂上に置かれていた。
クラスメイトが悪ふざけで義手を外し、ここに置いたのだ。昇ることが出来なくなった陽歌にはこれを取る手段が無い。
(寒いな……)
誰かに頼る、という考えは無かった。教師に助けて貰えるのなら、今もこうしてはいない。家に帰って親に手伝ってもらう、ということも考えられなかった。
母親は女手一つで自分を育てるため、仕事が忙しい。今日も帰って来ているか分からない、よしんば帰って来ていたとしてもすぐ寝てしまう為起こすのは憚られる。よほど忙しいのか、週末でもどこかへ遊びに行くどころか必要な買い物も出来ないほどだった。自分の隣に置いてある、ランドセル代わりのエコバックを見ればそんなこと忘れるはずもない。
時間が出来たら買いに行く、と母は行ってくれた。それから結構な時間が経ちついぞ小学校入学には間に合わなかったが、それでもいつか、と陽歌は思っていた。だから、少しでも母の負担を減らす為に自分のことくらい自分でしなければならない。
「どうにかしないと……」
陽歌は痛む身体に鞭打って方法を考える。殴られた傷だけではない。手が無い状態でジャングルジムを昇ろうとした際に落ちて、あちこち擦りむいたり打撲したりしていた。
「どーしたの?」
その時、声を掛けてくる人物がいた。妙に優しい声に驚き、陽歌は振り向く。そこに立っていたのが、ミリアだった。後で聞いた話だが、彼女は『この街で動画やインスタを撮ると再生数やいいねが伸びる』という、この街を通称『バズっタウン』たらしめる噂を確かめに来たのだった。
こんな夜遅くに出歩いていることを怒られるのではないかと陽歌は警戒した。周りの大人達は自分の母が忙しくて学用品を揃えるのに手間取っていることを分かってくれない。書道の道具、絵の具、ピアニカと授業の度に持っていないことを咎められる。
だからこの人は初対面だが、そうするのだろうとばかり思っていた。
「あー、そういうことね」
しかしミリアは、陽歌の腕とジャングルジムを見てすぐに状況を把握し、なんとジャングルジムを昇って義手を取ってきてくれた。肌色の分厚いゴムカバーに覆われた、爪まで造形されているもの。大人の話は分からないが、脊髄に埋め込んだチップで脳の信号を放って実際の手足の様に動かるとかなんとかそういうものらしい。
腕を失った彼は母に迷惑をかけてしまうと脅えたが、例え時々反応が遅れたり動かなくなったとしてもこれがあれば自分のことは自分で出来るため、かけがえのない生命線だった。
「はい。これでいいかな……?」
ミリアは義手を慣れない手つきで付けてくれる。欠損部分に被せてベルトで止めるだけなので、取ろうと思えば簡単に取れてしまう代物だ。暗闇で見えないのと義手に詳しくないせいか、それとも単純にミリアが天然なのか、左右逆ではあったが。後に後者だとわかり、その時のことを彼女は謝罪したが、助けてくれただけでもありがたかったので陽歌はこの時も後も、気にしなかった。
「あ、ありがとう……ございます」
まさか助けてくれるなどどは思わず、彼は困惑しながらお礼を言う。まさか自分がありがとうなどと他人に言う日が来るとは想像もしなかった。
「兎追いかけてたらこんなとこ来ちゃってねー。それより寒くない? おうちはどこかな?」
寒そうな格好をしている陽歌を見かねてか、ミリアはコートを脱いで着せてやろうとする。が、この窮地を救ってくれただけでも十分なのにこれ以上迷惑は掛けられないと彼はすぐにいなくなることにした。左に付いた右手をぎこちなく動かし、バックを掴んで速足で逃げ出す。
「だ、大丈夫です!」
他人の優しさに慣れていない陽歌は、ミリアに甘えることが出来なかった。この時は夏に再会するどころか長い付き合いになるなんてことを、想像すらしていなかった。
浅野陽歌という孤独な少年に初めて人の温もりをくれたのが、『M計画』によって生み出された人造人間ミラヴェル・マークニヒトの先行試作個体であるミリアだというのは、何とも皮肉であった。
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そして現在、そのミリアを連れ去られ、共にいた陽歌とさなは窮地に陥っていた。
「完全に油断や慢心の要素が無いね……」
「ミリアお姉さん……!」
敵である死神は亡霊を攻撃する手段を持った陽歌と自身にとって謎の存在であるさなを警戒し、ミノタウルス二体、サイクロプス、グレートアーマーという大戦力に加え亡霊のダンサーを多数配備して確実に殺しに来ている。さなの攻撃も亡霊や敵の連携で防がれ、全く通らない。
「何とか助けを呼べない?」
「ダメだ……電波が通じない」
さなは陽歌に確認する。あまりに亡霊が多いせいで電波に悪影響が出ているのか、スマホの電波表示は圏外になっていた。ネットにも繋がらない。これでは助けを呼ぶことも出来ない。
「だったら一気に決める!」
敵の防御を貫通すべく、さなは空高く飛ぼうとする。上から攻撃を押し付けるつもりだ。しかし亡霊が妨害してくる。陽歌も拳銃『マックスペイン』で敵を散らすが、数が多すぎて間に合わない。
確実に倒すにはヘッドショットしかない上、普通のハンドガンでは連射力が足りなさすぎる。
「くっ!」
亡霊にダンスシューズで蹴り飛ばされ、彼女の跳躍は阻止される。そして、着地点に待っているのはミノタウルスの振りかぶる斧だ。着地狩りを狙ってくる。
「ちっぃ!」
そこでさなは着地の瞬間、大きく屈むことで振り回された斧の下を潜ることにした。しかし、そこには同時に別のミノタウルスが投げる鎖付き鉄球が飛んでくる。立ち上がる力でその鉄球を殴り飛ばした彼女は、交代する様に振り下ろされたハンマーを蹴り返す。
(姿勢さえ整えれば蹴り砕けるけど……今は弾くので精いっぱいか……)
本来なら小柄な体格に見合わず百トンはくだらないパワーを発揮するさな。だがそれを出させない様に敵は立ち回る。死神は亡霊の少年にもだが、彼らにも相当敵を侮るなと言い含めて来たのだろう。
「全く隙が無いね……」
「このままじゃ……」
陽歌は焦る。ミリアがどこに連れていかれたのか分からない上に、自分達はこの状態。もう少し自分が強ければ、何とか戦況を切り崩せるのに。
「お願いだ、マックスペイン……僕に力を貸してくれ……!」
全く使いこなせない武器に彼は歯がゆさを感じていた。当てることが出来ても威力が少なく手数が足りない。こんなのでは、いくら無限に撃てても意味が無い。
「こうなったら……」
陽歌はある決心をする。それはミノタウルス達を自分が攻撃するということであった。今までそれをしなかったのは攻撃を当てることでターゲットにされてしまい、反撃を受ける恐れがあったからだ。もし反撃が繰り出されたなら、普通よりも身体能力の劣る陽歌では回避し切れないだろう。だが、状況を打開するには思い切った行動が必要だった。
「だったら強引に突破するよ!」
さなも彼女は彼女であることを考えていた。それは亡霊の妨害をわざと受けて無理矢理強い攻撃を繰り出すという方法。いちいち対処するから間に合わないのだ。相手にしなければいい。そう考えたのだ。
彼女は決めるやいなや、思い切り脚を踏み込んで攻撃体勢に入る。キックを放とうとすると、多数の亡霊が押し寄せて妨害に入り、ミノタウルス達は盾を構えたグレートアーマーの影に隠れる。
「
鋭い回し蹴りを虚空に向かって行おうとしていたさなに亡霊の体当たりが向かう。陽歌は急いで周囲の亡霊を射殺し、援護する。が、全ては倒し切れず、数体のタックルを受けてしまうさな。
「ぐ、おおおっ!」
しかし力任せに妨害を押し切り、蹴りで切り裂かれた疾風は刃となってミノタウルス達に突き進む。空気が切断されて呑まれる音が街に響いた。グレートアーマーはこの攻撃を受けきれないと判断したのか、後ろに合図を送って回避を選ぶ。重鈍なグレートアーマーは避け切れずに盾を大きく引き裂かれたが、後ろにいた敵は何とか間に合った。
「浅いか……!」
「それは、どうかな?」
陽歌は銃口をサイクロプスの大きな瞳に向けていた。そして、正確無比な速射を叩き込む。
「
これにより、サイクロプスの目は潰れた。だが、これにより敵に警戒された陽歌は攻撃対象に入ってしまう。ミノタウルスが即座へ彼の下に駆け付け、反撃を行う。斧を振り下ろし、陽歌を殺しに来る。
「うわぁ!」
「陽歌くん!」
ギリギリで回避したが、その衝撃はすさまじく、体格に恵まれない彼はアスファルトを吹き飛ばした余波で軽々と吹っ飛んでしまった。加えて運の悪いことに、尖ったアスファルトの破片が首に突き刺さってしまった。それと同時に、赤い潜血が彼の首から吹き出す。
「ぐっ……」
「しまった……!」
陽歌は自分の首から暖かい液体が溢れ、徐々に寒気を覚えていく。呼吸も難しくなり、意識が薄れていく。即座にさなが彼を受け止め、地面への激突は回避されたが出血は止まらない。白いパーカーを忽ち赤黒く染めていくほどの量が流れている。傷自体は浅いが、首の重要な血管を運悪く損傷してしまった。
「う……ぐ」
「陽歌くん!」
義手すら動かせなくなり、心の具現化であるマックスペインも薄くなっていった。一方、彼の覚悟によって与えたダメージはミノタウルスがサイクロプスにポーションを与えて回復しかかっていた。眼球は人間なら弱い部分であるが、これだけ大きな目を持ちかつ魔物なので訳が違うのだろう。
「回復アイテム持ちか……、命さえ守ればアスルトさんが治してくれるけど……」
さなはそれすら難しいと思った。この場を切り抜けるのに陽歌の手を借りても足りないのだ。こうなったら撤退して命を守る行動を優先するしかない。
「逃げる!」
陽歌を米俵の様に抱え、さなは逃げた。だが、亡霊のダンサーがその行く手を塞ぎ、その隙にミノタウルス達が回り込む。果たして、逃走の試みは成功するのだろうか。
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「ここは……?」
陽歌が目を覚ましたのは、学校の教室だった。しかし机は乱雑に散らばり、児童の死体があちこちに積み重なる有様だ。とめどなく流れていたであろう血は黒く乾き、床を染める。長い間放置したせいか、蠅やウジが集って鼻が曲がる様な悪臭もした。
彼はこの場所に見覚えがあった。彼はこの夏、ある目的の為に『人智を超えた力を与えてくれる』と噂の闇の動画を探し、ようやく見つけた。しかしそれも束の間、疲労のせいか眠りについてしまい、夢の中でこの教室に来たのだ。
「また来たね、調子はどうだい?」
教室の隅には、掠れた声で話しかける一つの人影があった。床に座り込むそれは水浸しで、両腕が無かった。無造作に伸びたキャラメル色の髪で顔は隠れていたが、右の眼は桜色、左の眼は空色にぎらついていた。
「お前は……」
それは、以前ここに来た際に彼を唆してこの惨劇を起こさせた張本人である。死体はどれも『射殺』されていた。
「この前より僕のことを引き出せないんじゃないかな? だってそうだよね、あの時は僕を痛めつけていた奴らや腕を奪った神様が憎くて戦ってたからね」
それは陽歌に向かって言い放つ。あの時、というのはミリアやさなと出会い、世界の存亡を賭けた騒動に巻き込まれた時のことである。引き出させない、という言葉が示すのは、彼の心が産む武器、マックスペインのことで間違いない。
「それは……」
確かに名古屋で戦った時や今は、あの事件で使った時よりも明らかに威力が落ちている。最悪、具現化にさえ時間が掛かっている。最初の騒動での敵はこの存在が言う通り、陽歌にとって憎い存在であったのは確かだ。だが、それだけではない。
「それだけじゃない! 僕はミリアさんやさなを助けたいと思って……」
「反吐が出る! 僕の口で綺麗ごとを言うんじゃない! 僕はあいつらを殺したくてしかたなかったんだ! 見ろ、この心象を! これが僕の望みだ! みんな死んでしまえばいい!」
その存在は口から血を吐き出しながら叫んだ。足は残っているが立ち上がることが出来ず、瞳の焦点は定まらない。歯も抜け落ちているのに、何故か声だけは歪みつつも聞くことが出来る。
「やり返したら相手と同じ! いじめられる側にも原因がある! 学校はたった六年だから我慢すればいい! 自殺は心が弱い人間のすることだ! そんな言葉に丸め込まれて何になる! あいつらは僕の為に何かするのが面倒だっただけだ!」
「だから! 僕に向き合ってくれたみんなを助けたいんだ!」
所詮は自分と自分の口論。平行線にしかならない。
「そいつらも、自分より下の存在に手を差し伸べるのが気持ちよくてやっているだけだ! 飽きたら捨てられる! 『あいつ』がした様に!」
「……」
その事を言われると、陽歌は何も言えなかった。その裏切りは彼の人生で最大のものだったのだから。正直、あの前にミリアやさなと出会えなかったら自分は誰も信用できなくなっていたかもしれない。あの二人のおかげで人を信じる気持ちが首の皮一枚で繋がっている状態だった。
「それでも……僕は……」
陽歌は自分の影を無視して、教室の扉を開く。嫌というほど見慣れた学校。だけどもそこらに戦場の方がマシなくらいの死体が転がっている。いつも帰る様に、玄関へ向かって歩く。死体をよく見ると、同じ人物のものが何体もあった。
「これが僕の世界だ。僕は奴らに復讐する力を得たんだよ」
「うるさい……」
学校を出ると、そこはいつかの寒空であった。流石にここまで死体は無い。特にウサギ小屋は沢山の兎で賑わっている。ジャングルジムの上には、ユニオンリバーで今のものを貰う前に使っていた義手が置かれていた。それはまさに、ミリアと初めて出会った日の再現であった。
「こんな幻想作って何になる? あいつが見せたのも気まぐれの優しさなんだよ。野良猫に餌をやるような、責任を持たない中途半端なね」
「だとしても……!」
自分の疑心はそう囁いたが、それでも陽歌が救われたのは事実だった。あんな人もいるんだと思えた。
校門を抜けると通学路だ。周囲の大人達は奇異の目で彼を見て、子供は石やゴミを投げてくる。被害妄想などではない。実際にやられたことのリピートに過ぎない。その証拠に、死体の様に同じ人間が同じ行動をしている状態であちこちに配置されている。
「見ろ、周りの連中は僕のことを化け物か何かだと思っているぞ。やられる前にやるんだよ! 今までやられた分を返すんだ! そのためのマックスペインだろうが!」
自分の声に耳を貸さず、彼は必死に走った。この世界は自分の心の中でしかない。だから、『家』に向かう道を進めば『家』に辿り着く。
「非力でも引き金さえ引けば殺せる! それも何回も連続してな! いつも憂さ晴らしする様にやるんだよ! これほど効率のいい武器もないだろ!」
飽きるほど往復した道の果てには陽歌の自宅がある。そこは何故か、朧気ながらあの喫茶店、ユニオンリバーの店舗になっていた。これが、今の彼の家なのだ。まだはっきりとしていないが、そう思っている、そう思いたいという意思が反映されている。
中に入ると、客のいない空間でただ一人、カウンター席に座って彼へ微笑みかける。
「僕は……ミリアさんに助けられた、だから今度は助けたいんだ!」
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「しつこいな……」
さなは陽歌を連れて裏路地に逃げ込んでいた。大柄なミノタウルス達ではここまで追えないだろうという判断だったが、亡霊は無関係に壁を貫通して妨害を仕掛けてくる。自分よりも僅かに大きな人一人を抱えて追撃を振り切り、何とか店に帰って陽歌にアスルトの治療を受けさせないといけない。
しかし逃げれば逃げるほど、ユニオンリバーは遠ざかっていく。陽歌の顔色も青白くなり、身体は冷たくなる。首に刺さったコンクリート片が蓋をしてくれているにも関わらず、出血は止まらない。迂闊に抜けば更に酷い出血を招くだろう。首という位置故に止血も満足に行えない。
「ここを抜けて……」
裏路地を突破したさなだったが、その目の前に空からミノタウルス達が降ってくる。
「何っ?」
なんと、亡霊がミノタウルス達を持ち上げて路地の出口へ連れてきたのだ。目を撃たれたサイクロプスは何としても陽歌を倒したいらしく、ハンマーを振り上げて攻撃を仕掛けてきた。
「しまっ……!」
自分一人なら回避も防御も造作ないさなだったがどれをとっても抱えている陽歌へ反動が加わって絶大な負担を与えてしまう。その時だった。地を叩く様な銃声が何度も連続して鳴り響いた。
「陽歌くん?」
陽歌が目を覚まし、手にした銃を放っていた。その銃は小さな自動拳銃から、彼の手に収まらないほど大きなリボルバーに変化していた。俗にハンドキャノンと称される部類になっている。変わったのは外見だけではない。威力も向上しているのが銃声からも見て取れる。
そして眼球をそんな弾丸で何回も撃たれたサイクロプスは傷が脳に達したのか、回復の隙も与えられずに倒れた。痙攣しているが完全に反射の反応でしかなく、絶命したと思われる。
「僕はミリアさんを助けたい……だから力を貸せ、マックスペイン!」
陽歌は銃を左手に持ち替えると、首に刺さったコンクリート片を抜いて捨てる。一瞬出血が増えるが、すぐにそれは収まった。義手に付いたものや流れ出た血が集まり、もう一個の銃を形成する。それは左手に持っているものと全く同一のものであった。
姿形は違えど、どちらも銃身の刻印は『Max Paine』のままだ。
「大丈夫なの?」
「うん、ここを切り抜けよう!」
さなに地面へ降ろされ、陽歌はふらつきながらも立ち上がる。ミノタウルス達は瞬時に仲間の頭数を減らされて同様するが、次に来る攻撃へ備えてグレートアーマーの背後へ隠れた。今警戒しているのはさなの拳ではない。急に現れた陽歌の銃だ。
「援護する!」
「任せた!」
さながグレートアーマーに向かって走り寄る。亡霊が妨害に入るが、その前に次々と撃ち落されていく。一般的にオートマチックよりリボルバーの方が連射力は劣り、威力も上がると反動が大きくなってさらに連射力は落ちるはずである。だが二つ持っているせいか、それとも別の要因か明らかに発射速度が上がって亡霊のダンサーは鴨撃ち状態になっていた。
「剛拳、二百六十七貫!」
全く邪魔が入らない状態でさなの渾身たる一撃がグレートアーマーにぶつけられる。最大百トンにも及びその鉄拳は盾などでは防ぎ切れず、後ろに隠れたミノタウルス達ごとグレートアーマーは吹っ飛ばされる。盾に至っては大きくひしゃげ、保持していた左手ごと損壊している。
攻撃を直に受けたグレートアーマーが昏倒し、ミノタウルス達は潰された。相当な重量であり、大柄な悪魔二人掛かりでもどかすことが出来なくなっている。サイクロプスを失い、亡霊による妨害も通じなくなった時点で連携は崩壊していた。
さなは大きく上空に飛び上がり、蹴りで空気の斬撃を雨あられとミノタウルス達に降らせてトドメを指す。
「新月脚・
その一つひとつがアスファルトを深々と抉るかまいたちの槍と化し、集中砲火を受けたグレートアーマーとミノタウルス二体は原型も残らないほどぐちゃぐちゃになって息絶えた。もはや潰れたトマト状態である。主力を失った亡霊たちは流石に逃げ出す。
「これでよし……」
窮地を脱し、さなは一安心する。陽歌も貧血以上の負傷はしていない様だ。後の問題は、どこにミリアが連れていかれたかだ。
「とにかくミリアさんを助けないと……」
「君はもう十分戦ったよ。後はナルちゃん達に任せよう」
基本的に戦闘面では素人の陽歌にこれ以上の戦いは無理だと判断し、さなは仲間へのバトンタッチを提案する。今のバトルでもかなり危険だったことを考えると、これ以上の強敵に遭遇すれば命の保証は無い。
「でも……僕はミリアさんを……」
「気持ちだけでも嬉しいよ。でも、君が死んじゃったら意味ないからさ」
歩こうとして、貧血で地面に膝を付く陽歌をさなが宥める。命に別状はないといえ、ダメージは重い。そこに、一匹の兎がやってきた。普通の白い兎に見えるが、目が一つしかない。それも眼球が片方あるのではなく、眉間に縦開きの黒い目があるタイプである。
「君は……」
陽歌はこの兎に見覚えがあった。ユニオンリバーに来る前、一人ぼっちだった彼は小学校にある兎小屋の兎を大層可愛がっていたのだが、その中にこの一つ目の兎がいた。いつからか姿を見なくなったが、時折彼の窮地に現れてくれるのだ。
「ん?」
この兎は喋れないが、手ぶり身振りで必要なことを教えてくれる。兎は立ち上がり、短い手で必死に空を指す。そこには、月をバックに浮かぶ怪しげな城が浮かんでいた。ビル街の中にあってもハッキリ見えるほどの大きさである。おそらく、城の場所や見る人の位置に関係なく見えるのだろう。城、といっても日本にあるタイプではなく、西洋のものだ。
「あれは……」
さなはそこから異様な気配を感じた。陽歌が兎に確認を取る。
「もしかしてあそこにミリアさんが?」
兎は首を縦に振って頷いた。そして案内するとばかりに彼らを誘う。
「行こう、せめて場所だけでも見付けよう」
「そうだね。無理は禁物だよ」
二人はついて行くことにした。果たして、ミリアは無事なのか。
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死神に連れ去られたミリアは、玉座の間でドラキュラの前に立たされていた。全ての悪を超越する魔王を前にしても特に脅える様子を見せない。王座の間には少年の亡霊が持ってきた魂入りの透明なカップも置かれている。窓は無く、天井が低めで地下にいることくらいしか分かることが無い。
「死神よ、いいセンスだ。なかなかの美女ではないか」
「あ、若本ボイス」
「わ、わか……?」
ミリアは開口一番とんでもないことを言う。声が似ている声優の苗字を出され、ドラキュラは困惑する。基本復活時は浦島状態なので文化には必然的に疎くなってしまうのだ。
「ええい! ドラキュラ様の御前であるぞ! 無礼は控えよ!」
「控えるだけでいいんだ」
「暗にやめろって意味だぞ!」
死神がドラキュラの怒りを買わない様に必死でミリアを止めるが、もう散々ヴァンパイアキラーに居城を蹂躙された彼はもうこのくらいでは怒らない。
「ワカモトボイスって何?」
「声優の若本さんの声に似てるねってこと」
「声優……?」
浦島過ぎてアニメに関する用語も知らないドラキュラ。あまり主の無知を晒したくないのか、死神は耳打ちする。
「アニメーションや映画の吹替に声を入れる役者のことです」
「ほう役者に似てるとな? どれ、何かリクエストはあるかな? 物まねとやらを見せてやろう」
ドラキュラは寛大さを見せつける為にミリアへ言い放って見せる。しかし予想の斜め上を行くオーダーに死神は困惑することになる。
「じゃああれ歌って、愛しのベリーメロン」
「どれどれ、おい死神、どんな歌か調べろ。スマホっての使えるんだろ」
「ああもう! 早く血の契り使ってください! 衣装も着せますので!」
死神はミリアを羽交い絞めにしてどこかへ連れていく。これ以上はこの女のペースになってしまうという危機感を覚えた。
「来い! 貴様に相応しい装束を用意してやる!」
「やめて! 乱暴する気でしょ? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」
「しねーよさっさと来い!」
ドラキュラは死神が以前より逞しくなったことに混乱しか感じなかった。
「お前一体この一年何があった……」
そこに、少年の亡霊が姿を現す。ドラキュラは今回の功労者である彼を労う。
「よくやった。褒美を取らす。貴殿の故郷では酢漬けの豚足が上等な珍味らしいな。正式なものはまた考えるとして、とりあえずその辺りでも馳走しよう」
「いえ、僕たちはそのような変わったものは好みでなくて。成長出来ればおいしさも分かったでしょうが……」
「そうか、では素直に上等なチョコレートケーキを用意しよう」
部下の出自を配慮する度量はまさに悪の帝王としてのカリスマを垣間見せた。だが、少年の亡霊はそれを断る。ドラキュラは部下に命じて、キッチンから高価なお菓子を持ってこさせることにした。
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兎は陽歌とさなを謎の城に案内する前に、コンビニへ寄ることを提案した。口で話したわけではないが、コンビニへ向かって歩いていったので釣られるように店へ入っていったのだ。しかし、この騒動のせいか店員も客もいない。
兎は立ち上がり、ホットスナックの棚をてしてしと叩く。これを食べて回復しろということなのか。どうも、この兎は陽歌の持つ妙なタフネスについて何か察している様子であった。首にコンクリート片が突き刺さって大出血したにも関わらず、すぐに傷が塞がっているのは妙なことであった。陽歌自身も、さなもこの体質についてはあまり把握していない。
「血を補給しろ、ってことかな?」
彼はアドバイス通り、ホットスナックを拝借して食べる。不要レシートに何を何個食べたかメモし、お金を置いておく。ちょうどは無いので、お釣りは募金してもらうように記しておく。
「でも傷本当に大丈夫? 見た感じ血は止まってるけど……」
「もう痛くもないよ」
さなは陽歌の傷を見る。素人が消毒するには傷が大きすぎるので手は出せないが、これ以上悪化もしなさそうである。
(この前、アイドルが襲われた時に負った怪我もすぐ治ったんだよね……。銃で撃たれた怪我だったけど、そんなすぐ治るかな?)
会って最初のうちはこんな体質ではなく、虐められて付いた生傷が栄養失調でなかなか治らなかったくらいだ。それがここ最近になって異様に治りが早くなっている。仲間の錬金術師であるアスルトが作った薬のおかげかと思われたが、よりによって彼女が首を傾げる始末だ。
「んー、とりあえず助けを呼ぶか……」
亡霊がいなくなって携帯が使える様になったので、さなは喫茶店から仲間を呼ぶことにした。これで戦力が補充できる。GPSも使えば、自分達がミリアの連れ去られたと思わしき城に先行して合流の目印にもなれる。
「ん?」
スマホを起動した彼女がまず目にしたのは、コミュニケーションアプリの通知だった。知り合いからの連絡ではなく、公式のニュースアカウントの更新を知らせるものだ。そこには『渋谷で死者多数、謎の現象』とタイトルが記されていた。
「渋谷でも同じことが起きているみたい」
三人の前でも起きたことが、渋谷でも起きていたのだ。全く同じ手口なら死んではいないだろうが、魂を抜かれてカップインというのは医学的に判断すれば死んでいる様なものなので間違ってはいない。
「ん……なんだか眠く……」
食事を終えた陽歌は眠気を訴える。あれだけ血を流せば仕方ない、とさなは思っていた。正直、今出血が収まって生きているだけでも不思議なくらいなのだ。
「寝ちゃいなよ。私が運んでくから」
「ご、ごめん……」
本当はここで置いていきたいさなだったが、一つ目の兎の協力を得るには彼が必要不可欠であること、そして陽歌を裏切らない為にもそれは出来ない。彼があの重大な裏切りの前に自分達に会っていたおかげで、ギリギリ誰かを信じようとする気持ちを保てていることをさなもミリアも知っている。例え優しい嘘でも不用意な真似は出来ない。
「いいって、陽歌くんが兎に懐いてもらえてなかったら城に辿り着くことも出来なかったかもしれないし。十分役割は果たしてるよ」
「それでも……みんなに比べたら……」
陽歌は重くなる瞼に耐えきれず、寝息を立てる。さなはポツリと彼に向かって呟いた。
「みんなと比べちゃダメだよ。だってあの人達、人間じゃないんだよ?」
人間に虐げられて来た彼に居場所を与えたのが人ならざる者の集まりであった。そして、自分を救ってくれた人を今度は助けようと傷だらけの心と身体で立ち上がっている。
「行こう、君の願いを成就する為に」
なら自分に出来ることは全てしよう。さなはそう心に誓った。
プレイアブル解説
浅野陽歌
武器:ハンドキャノン
ハンドキャノンの二丁拳銃で高火力を遠距離から出せるが、近接での攻撃手段が無いので接近を許さない様に立ち回れ! 最大HPは低いがHPリストレイトで常時回復するので危なくなったら退散しよう。一度だけ残存HPを超える攻撃を受けても数秒間はHP1を残して耐えることが出来るが、それでも大きな一撃には要注意だ。小柄で当たり判定も少ないが、回避も頼れないので過信は禁物。
さな
武器:拳
圧倒的手数と攻撃力でガンガン攻めろ! 小柄で少ない当たり判定に加え、素早い回避能力で敵に貼り付ける。攻撃中はスーパーアーマーが発動するのでごり押しも可能。リーチの短さとスーパーアーマー持ち故のダメージ蓄積には要注意だ。ジャブで敵を切り崩し、体勢を崩したら重い一撃を食らわせろ!