騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 前回までの三つの出来事!

 一つ! 月の魔獣、ジャバウォックの封印が溶けた!
 二つ! 陽歌に退魔協会から呼び出しがあった!
 三つ! 陽歌はそれを無視することにした!


月の魔獣

 深夜になっても都市は輝きを保ち、眠ることはない。あるビルの屋上で銀髪の少年が中華まんを食べていた。よほど買い込んだのか、このご時世にビニール袋をもらっている。

 少年は黒い布で目隠しをしていたが、まるで見えているかの様に食事を続ける。

「人が増えたけど、まだここは月より綺麗だな」

 少年はそんなことをぼやいていた。彼はかつて、マリアナ海溝に封印されていた魔獣、ジャバウォック。月からの追撃を退け、今も地球でのんびり暮らしている。

「で、何の用かな。お嬢さん」

 少年は突如、何もない方へ声を掛ける。この屋上には、彼以外誰もいない。

「あなたが魔獣ジャバウォック……いえ、ルイスと呼んだ方がいいかしら?」

 それもそのはず、会話の相手は片側三車線の道路を挟んで反対側のビル、その屋上にいるのだから。ロングコートを着込んでフードを被っており、素顔を見せないがジャバウォックと呼ばれた少年、ルイスがその人物が若い女性であると見抜いている。

「ちょっと変わってるけど地球人だよね? 何の用?」

「あなたに耳よりな情報」

 コートの少女はルイスに伝えたいことがあったらしい。しかし、この距離で会話できる時点で彼女も只者ではない。

「あなたを封印したかぐや姫、今地球の退魔協会ってとこのお偉いさんなの」

「かぐや姫が地球に? どういう風の吹き回しだ?」

 月の重要人物、ルイスに因縁のある相手が地球の組織に在籍しているらしい。

「さぁ、そんな大昔の人の考えなんて分からないもの。でも私は事実を伝えにきた」

「そんなことしてお前に何の得がある? 地球の要人を売って、何になる?」

 突然現れた正体不明の人物の情報を信じるわけにもいかず、ルイスは問いただす。彼なりに長期間封印されていたブランクを取り戻そうと情報収集はしていた。退魔協会は一般的な科学では対処できない存在、怪異を何とかする世界的な組織であるとぼんやり理解している。それがもしルイスをけしかけて壊滅したら、人類は怪異への対抗手段を大きく損なうはずだ。

 なのに、気配は多少違和感があるといえ地球人のこの少女がそんなことをする意味とは。ルイスはそれが気になっていた。

「損得ではないわ。私、破滅主義なの。これで分かってもらえる?」

「なるほど、狂人の類か。なら分かりやすい」

 彼女の解答は明白。損得ではなく人類を脅かしたいからそうするだけであった。

「んじゃ、頑張って。あなたなら地球くらい終わらせられるから、壊したりないなら手を貸してほしいんだけど……」

「別に地球が憎いわけじゃない。その話は別の奴にしな」

 話を聞き終えたルイスは一瞬にして消える。時間停止による移動。本来は認知できないその行動を、少女は目で追っていた。

 

   @

 

「ふぅ、学校にも慣れてきたかな……」

 ある日の昼下がり、陽歌は下校中であった。まだ一日通うのは無理とはいえ、一人で行き来する程度は可能になりつつあった。少しずつ日常に戻ってきているが、他の子と一緒の様にするには陽歌の負った傷は大き過ぎる。

(いや、慣れた時こそ油断大敵……、いかのおすし。いかない、のらない、おおきなこえをだす、すぐにげる、しらせる……)

 歩きながら陽歌は防犯用語を思い出す。コロナを抑え込もうと躍起になっていたオリンピック推進委員会は消滅し、多少なり日本は平和になったが元来の不審者というのは根絶されていない。

「ん?」

 ふと前を見ると、誰かがやってくる。普通の通行人か、と陽歌は一瞬身構えたものの警戒を解く。ただでさえ他人への警戒心が強いのに、常時騒動に巻き込まれている様な状況では神経を使ってしまう。

「あれ? あなたは……」

 前から来た人物が、知り合いであることに陽歌は気づいた。アステリアの前の雇い主が起こした騒動の時出会った退魔師、天竜宮刀李だ。なんの因果か、東京での生放送に出た時も観客席にいたそうだ。

「あ、刀李さ……」

 知り合いなので挨拶しようとする陽歌。そこで彼の意識は途切れる。

 

「すまないね。なるべく手柔らかに済ませたいから」

 刀李は瞬時に催眠を掛けて陽歌を眠らせたのだ。彼の高い霊力から通用しないリスクを考え、霊的ではなく科学的な催眠術を試行した。どうやらその試みは上手く行ったようだ。

 退魔協会は血筋に依ることなく高い霊力を持ちながら、フリーの状態にある陽歌を放置出来なかった。霊力というのは基本、由緒正しい血統の末に高い水準を持って生まれるものである。陽歌は彼らの調べた限りにおいてその様なルーツを持たなかった。彼のレベルで国際的なシャーマンの組織の調査に引っ掛からないということは、そうした血族の出ではないことが確実になる。そんな出自の不確かで強大な存在は見過ごせない。

平均以下の状態から今のレベルまで鍛えたとなれば、相応の怪異と交戦経験がありなおのこと放置できない。

そうなれば手元に置くか、さもなくば始末しようと考えていた。が、刀李はこの極端な上層部の思想に反発しており、可能な限り穏便に事を済ませようと自ら陽歌の確保役を名乗り出た。

「あとは情報を流すだけか」

 そして、後は彼の後ろ盾であるユニオンリバーに情報を流せば必然的に上層部は被害を受け、陽歌に手を出すことを辞めるはずだ。

「まったく、最近の協会はどうかしているよ」

 彼の一族は父方、母方共に長らく退魔協会と関係があるのだが、ここ最近の組織の腐敗は目に余る。ひと昔前の大戦の影響かそういうブームなのか、文官統制の名の下に実働部隊は組織運営に関われない時期が続いた。唯一関われる『七元素』もほぼ運営能力に乏しい人物ばかり。

 こうして刀李が内部で手を回して被害を食い止めるので手一杯だ。今回もそんな一件である。

 

   @

 

「ん……」

 陽歌が目を覚ますと、とんでもないところにいた。円形の空間に高さがバラバラの椅子が並んでいる。その椅子はやけに高く、陽歌が見上げるほどある。

「ⅩⅢ機関かな?」

 もうバトル漫画の悪役よろしくといった並びであったが、残念ながら椅子の数は七つ。それぞれ色が異なり、漢字が背もたれに書かれている。

「いえ、七元素よ。浅野陽歌」

 黄色で背もたれに『金』と書かれた椅子に座る銀髪を伸ばした少女が訂正する。

「私は七元素、金担当、カラス。刀李くんに感謝しなさい。あの子、かなり優しく連れてきたでしょ?」

 刀李の名前を出され、陽歌は思い出す。目の前から刀李がやってきて、今この状態なのだ。

「そういえば、刀李さんは?」

「ここだよ」

 肝心の刀李は陽歌の隣に立っていた。

「これは一体……」

「ここは退魔協会の本部、空中大陸ネオラピュタ。その中枢である最高評議会だ」

 退魔協会、と聞き陽歌は以前学校に送られた手紙を思い出す。支部への出頭を促すものだったが、それを無視した結果こうなったというわけだ。つまり、退魔協会はユニオンリバーとの敵対を決定的にした。

「ちょ……何してるんですか? 殺されますよ?」

 陽歌は刀李達の心配をした。だが、カラスは特に危機感を抱いていない。

「冗談を言わないで。マキオンだかなんだか知らないけど、私が負けるはずないもの」

「この通り、彼女は高位のサキュバスとの間に生まれたダンピールだ。その魔力は強力そのもの」

 カラスは吸血鬼と夢魔のハーフでどちゃくそ強いらしいが、陽歌としてはこうして文脈で説明されている状態は完全に噛ませフラグなので不安しかない。

(安心して。もうユニオンリバーのみんなにはこのことを伝えてある。手荒なことにならない様に僕が色々調整してるから)

「ちょっと、聞こえているよ」

 刀李が耳打ちしても、カラスには聞こえてしまう。少なくとも聴力は本物らしい。

「別に私は何でもいいけど、他の七元素が聞いたら問題よ?」

「だから今説明したのさ」

 カラスはあまり陽歌の処遇に頓着していないらしい。その時、赤く背もたれに『火』と書かれた椅子に乾いた音がする。

「……? カレールー入れるやつ?」

 陽歌はそれを喫茶店のカラトリーと見間違えた。

「ランプよ」

 カラス曰くランプらしいがどう見ても金色なだけでカレー入れるやつで間違いない。

「いやどう見たってカレー入れるやつ……」

「これが例の小僧か……」

 その中から、煙と共に筋肉隆々の魔人が姿を現した。

「カレーの話はするな……嫌な思い出がある」

「アルフライラワライラで語られた、アラジンの魔人、その師匠と言われている魔人カリー……」

 カレーではないと言い張る魔人だが、刀李の説明でもうカレーである。

「やっぱカレー……」

「カレーのことを言うな、眼鏡の代行者にそれでさんざっぱら追い回されたんだ……」

 とはいえ、アラジンの物語に出てくる魔人の師匠というのだから凄いのだろう。陽歌は試す様に聞いてみる。

「あの魔人の師匠……ということは凄い色んな声が出せたり……」

「それジーニーの中の人じゃ。だれが山寺宏一のボイトレの先生じゃ」

「アラジンの逸話よりこのツッコミ性能の方が凄いんでは……」

 思いの外俗っぽい魔人と話し込んでいると、『水』の青い椅子に年老いた尼さんが現れた。まるで水が人の形を成す様に変化しての出現。みんなしていちいち登場に手間が掛かっている。

「おや、この子ですか……」

「人魚の肉を食べて不老不死になった尼僧、田螺さんだ」

 本名じゃないとしたらなぜ田螺なんて微妙な貝を? と陽歌は思った。すると田螺はその心を読んだかの様に答える。

「人の命である水田に寄り添い、慎ましく生きる心の表れですよ」

「そうですか」

 続いて、木の席に現れたのは金髪のエルフ。なんというか、エルフのステレオタイプと言わんばかりに薄着で豊満な金髪の女性であった。その姿は、何故か陽歌にとって目に刺さる様な痛みを与えた。例えではない。本当に目の奥や肌が刺す様な痛みに苛まれる。

「っ……なに、これ……」

「ハイエルフの中でも最高の血統を持つシェーンハイム様だ。少しでも身体に異常があるのなら、目を反らした方がいい。彼女は常に祝福されていて、邪の者を退ける力がある」

 刀李の忠告を聞き陽歌はフードを被って身を隠す。邪の者、自分の出生からすれば心当たりしかない。

「どうやら、祝福されえぬ生命のようですね」

「ぐ……がっ……」

 彼女の言葉一つひとつが、以前都知事との決戦で受けた刀傷を一度に十回受ける様な激痛を与える。他の人が何ともない辺り、邪の者への効果という話は本当らしい。

「そんな汚らわしい命なら、今すぐ葬った方がいいだろう。その方が、お前も楽だろ」

 残された『日』の席にパンチパーマの痩せた男が現れる。辛うじてその姿を陽歌は確認する。仏教に伝えられる釈迦に見えなくもないが、伝承において彼は亡くなっている。

「お釈迦さま?」

「あんな死を克服できない挙句、都会で救世主紛いの男と暮らしている様なのと一緒にするな」

 まさかの聖☆お兄さん実在発言。今度立川に言ったらすれ違うかちょっと見てみようと思った陽歌であった。もし会ったら冷静さを忘れてじっくり話を聞きたくなるだろうな、とも思った。

「覚者の一人だ。名前も覚者としか名乗らないから分からないが……」

「一人ではない。私こそ解脱した唯一の者。真の覚者」

 彼は刀李の説明を否定する。そして、手の平を陽歌に向けエネルギーを溜め始める。

「奴は最後通告を無視した。そうでなくとも汚らわしい生命。ここで終わらせるべきだ」

 覚者は陽歌を始末しようとしていた。刀李が庇う様に前へ出る。だが、カラスがその決定に口を挟んだ。

「まだ全員来ていないのに一人で決めるなんて、人間の代表様は随分傲慢ね」

「結果は変わらぬ」

「待てパンチ。カラス殿の言う通りだ」

 魔人カリーも止めに入る。だが、シェーンハイムが割って入る。彼女の声は陽歌にとって苦痛以外の何物でもない。

「う……」

「私はこの汚らわしい命を今すぐ消し去るべきと思います」

「これで同点と行きたいが、お前達と私の意見は重みが違う」

 意見は真っ二つに割れたが、覚者が何だか小学生みたいな理屈を振りかざす。これを無視しても多数決は半々。田螺の意見次第で方針が決まりそうだ。まだ月と土が来ていないが、どちらにせよ奇数なのでその二人が割れたことを考えるとここが正念場だろう。

「私は彼の生い立ちを聞きたいと思います。その上で判断したいのです」

「なんかマイナスなことしかない気がするけど……」

 田螺は陽歌の過去を聞きたがった。とはいえ、どんなに言葉を飾ってもプラスのアピールは出来ないのが現実。ならば、と陽歌はありのままを言うことにした。

「僕も最近知ったんですが、僕が今まで産み、そして育ての親だと思っていたのは養父母の娘夫婦だったんです」

「ほう……」

「僕はその養父母こそ本当の両親だと、尊敬し、心に決めました」

「それで、あなたの本当の両親は?」

 しっかり説明したと思った陽歌だったが、続きを求められてしまう。

「え? これでよくないですか?」

「よくないです」

 彼としてはもうそこで終わりの話だったのだが、田螺は深堀に深堀を重ねる。かなり下世話だなぁと思いつつ陽歌は話を続けた。

「なんというか僕もしっかり把握してないんですけど、教師をしていた実父が教え子でもあった実の娘、僕にとっての実母を同じく教え子から寝取る形で妊娠させたのが僕らしいですよ。実母は堕胎を試みたみたいですけど、まぁもちろん医者に行ってやったわけではないので命を落としましたけど」

「……?」

「ですよねー」

 当然の様に田螺はハテナを浮かべる。情報が多すぎるんじゃ。なので陽歌はざっくり削って説明した。

「父親が娘孕ませて生まれたのが僕です!」

「ハイ死刑」

「ええええ?」

 シンプルに説明したらしたでこれである。

「なんておぞましい! 男が欲望のままに娘を犯して、その上母の命を奪って生まれてくるなんて! 幸い女の子だからなるべく楽に死なせてあげますが……」

「人類最古のラディカルフェミニストかこの野郎」

 あまりの急変に魔人カリーが止めに入るほどだった。意外と常識人である。

「あの、僕男なんですが……」

「死ねぇー!」

「えええ……」

 陽歌が正しい性別を伝えたらこれである。最早呆れるしかない。

「すまん。こいつには私が後できつく言っておく」

「あ、お気遣いなく、慣れてますので」

 魔人カリーがフォローするが、ユニオンリバーを敵に回した彼らに後があるのか陽歌は不安だった。何ならカリーの助命くらい申し出ようと心に誓った。

「自然の摂理に逆らいし忌むべき生命よ……」

 ふと、部屋全体に影が差す。いつの間にか土の席の後ろに、大きな像が立っていた。土で出来ている様だが、それにしては大きい。よく崩れずに自立できるものだ。

「大魔神……大地の代行者か」

 刀李によれば、そんなたいそれた存在らしい。が、自然界を見てみれば近親姦くらいあるので本当に代行者か、歴史や動物の生態をよく知る故に陽歌は疑わしく思った。

 だが、穏健派が二人、過激派四人の圧倒的不利な状況には変わりがなかった。

「おや、なにかね騒がしい……」

 話を進めていると、月の席に十二単の女性が現れた。椅子ではなく、畳を浮かせてそこに座っている。確かに美しいが、メイクが多少時代錯誤であった。

「かぐや姫……退魔協会の最高権力者だ」

「かぐや姫って、あの?」

 刀李に言われ、陽歌は動揺を隠せなかった。日本最古の物語、竹取物語に描かれた月の姫。それが今、目の前にいるのだ。

「ふむ、そなたが浅野陽歌であるか」

「なぜ、そんな人が直々に僕を?」

 もしそれが本当なら、目の前にいるのは月の住民である以前に歴史の生き証人。そんな人物がなぜ自分などを呼びつけ、自らの手で沙汰を下そうというのだろうか。

「それはそなたの力が一歩転べば世界を救いも滅ぼしもするからじゃ」

「そんな力……僕には……」

 陽歌は否定した。確かに特殊な力はこの夏に得た。だが、それは別に世界の命運を左右するほどの力はない。

「昨年の夏……」

 かぐや姫は続ける。

「お主は育ちのせいで所々記憶が抜けておるじゃろう。しかし、明白に抜けていると自覚できるのは、昨年の夏じゃ。そこだけがどうしても思い出せぬじゃろう?」

「……」

 その言葉を陽歌は肯定も否定も出来なかった。知らない、ということは『知らない』ということを知らないこと。記憶が抜けていて、それが昨年の夏、ユニオンリバーに保護される直前のことと特定することはできないのだ。

 加えて、長い期間に及び都知事によるループが発生していた。もし記憶の断片らしきものを思い出せたとしても、それはループの欠片かもしれない、この最終ループでの出来事ではないかもしれないのだ。

「なぜお主が怪獣と対峙する記憶を断片的に持つか、知りたくはないか? なぜあの状況下で生きていられたか、答えを得たくはないか?」

「……いや、別に……」

 かぐや姫の誘いに陽歌は何も感じなかった。今が充実しているので、どうせ辛いことなのだろうし思い出したくもなかった。

「もし、大切な人のことを忘れているとしたら?」

「ややこしいわね。さっさと言いなさいよ」

 焦れてカラスが話を切る。一体かぐや姫は何をしたいのか、全く見えてこない。

「おや売女、焦らされるのが好きではないのかね?」

「下手くそなのよあんた」

 かぐや姫の挑発をカラスはバッサリ切り捨てる。その時、警報が鳴り響いた。

『基地内に侵入者! 迎撃せよ!』

「みんな……」

 陽歌は七耶達が来たと知る。

「どうやら時間がないようですな」

 刀李も時間稼ぎの必要が無かったため、一安心。

「かぐや……あんた何を恐れてるの?」

「わらわが恐れる? 何を?」

 カラスが確信を突くも、かぐや姫ははぐらかす。しかし下手な焦らしは大嫌いな彼女のこと、率直に問いただした。

「あんたの不死性は月に伝わる不死の薬によるものじゃない。因果律操作によって、封印の類もしようとすれば邪魔が入る様になっている、極めて強固なもの。でも、この世界には「因果律を破壊しかねない存在が当然しる。あんたは陽歌をその因子だと思って始末したいんでしょ?」

「……小娘……」

「残念だけど、人を一人消したくらいで何とかなるほど運命は単純じゃない。陽歌は多分、その因果律破壊の一要素に過ぎないわ」

「黙れ……」

 バシッと答えを突き付けられたかぐや姫は余裕を失う。カラスの言葉が、全ての答えだったのだ。

「この小僧だ……都を収める女の産んだ転輪を壊し、そしてわらわの編み上げた因果律の安定を破壊する鍵は!」

「目立つひび割れに目が行って、内側の傷が見えてないようね。本当に因果を破壊しうるのは、一度世界を統べる神を討ち、この混沌とし続けるセプトギア時空を産む原因を作り出したユニオンリバー。陽歌はそこに合流したに過ぎないのよ」

「黙れ小娘! こやつさえいなければ私の永遠は……!」

 我慢出来ず、かぐや姫が陽歌に飛び掛かる。その瞬間、七耶が、サーディオンが間に割って入った。

「七耶!」

「悪い、待たせた!」

 その高い性能から維持にリアルマネーを消費させられるサーディオンを使用しての殴り込み、彼女の本気を伺わせる。

「ていうか警報踏んだの誰? お姉さん?」

「いやアスルトさんの警報に引っ掛からないスプレー吹いたからそれはないよ!」

 後ろからミリアとさなが駆けつける。この空間に穴を開けて無理矢理侵入した様だ。

侵入者の存在に、シェーンハイムが真っ先に攻撃を仕掛ける。光の剣が陽歌達の周囲360度から隙間なく絶え間なく何千本も襲い来る。

『グランドタイム! 祝え!』

 それを黄金の平成ライダーの幻影が残らず撃ち落していく。その中心にいるのはジオウドライバーを身に着けたマナであった。

『グランドジオウ!』

「これで!」

『ウィザード! オーズ!』

 マナに呼び出されたインフィニティスタイルのウィザードが斧を投げてこの空間を無差別に破壊し、ガタキリバコンボのオーズが分身、新たなものも含めた全てのコンボへ変身して七元素へ攻撃を仕掛ける。

「どわあああ! 少しは加減しろ!」

「え?」

「え、じゃねーよ!」

 非戦闘員の陽歌も巻き込み兼ねないマナの攻撃であったが、それは本気の七耶が彼を守っているからという信頼の表れであった。相変わらず段取りはぐだぐだだが。

「貴様、月の住民にも関わらずわらわへ歯向かうか!」

 この滅茶苦茶な状況にも関わらず、かぐや姫は月の住民、さなの叛逆に意識が行っていた。彼女は一歩も動かず、光の弾を雨霰の如く飛ばしてさなへ攻撃する。

「変幻自在、神秘の光。ご唱和下さい、我の名を!」

 それを光の巨人三人の幻影が張ったバリアが完全に防ぎ切る。黄金の装飾を施した衣装に身を包んだサリアが新たな力で防御したのだ。

「ウルトラマンのアイテムでも出来たんだ……」

「シエルちゃんは試したことが無かっただけみたいだねー」

 この無茶苦茶ぶりに今まで黙っていた大魔神も我慢できなくなったのか、顔を腕で隠すと怒りの表情に変化させ、さらに巨大化して陽歌達に襲い掛かる。

「デカブツまでいんのか……」

 敵の無秩序ぶりに七耶は呆れる。そんな中、ナチュラルにサリアはアイテムのゼットライザーを陽歌に渡す。

「ピンときた組み合わせで変身してみて。まぁ、ヒーローズゲートに隠れてるだけでも安全だと思うけど」

「戦う!」

 陽歌はライザーのトリガーを押し、ゲートを潜った。そして、それと同時にアクセスカードが出現する。赤色で、変身者の顔写真があるのは他のカードと大差ないが、ライザーに入れた時窓から覗く部分が曇っていて見えない。

「なにこれ……とりあえず変身しよっと」

 今は緊急時、特に細かいことは考えず変身することにした。

『ヨウカ、アクセスグランデッド』

「よし、メダルを……」

 腰にいつの間にか取り付けられたホルダーには、メダルがぎっしり。その中から無作為に取り出したのはベリアル、ゴモラ、レッドキングのメダルだった。怪獣の組み合わせだが、これが何となくしっくり来る様な気がして陽歌は変身することにした。

「太古から響く、暗黒の地鳴り! ベリアル閣下! ゴモラさん! レッドキングさん!」

『ベリアル、ゴモラ、レッドキング! スカルゴモラ!』

 きっちりとぐんぐんカットも挟んで巨大なベリアル融合獣、スカルゴモラへ陽歌は変身する。天井を突き破り、空中大陸の全景が見えるほど巨大化した。

「大きくなったはずなのに……なんだろ、違和感がないというか、慣れてるというか……」

 彼は巨大な怪獣としての視界に、恐怖や差異を感じなかった。かぐや姫の言葉が引っ掛かる。それに、金湧でエヴァが見つけたアイテムのことも思い出される。

 空中大陸ネオラピュタは怪獣が立ち上がって見渡しても端が見えないほど広い。ここは一体どこの上空なのか。

「今は戦いに集中だ」

 それらを振り払い、陽歌は大魔神に突進する。完全に抑え込む姿勢だった大魔神も、地球が誇る二代怪力怪獣の合体には耐えられず、押し倒された。

「畳み掛ける!」

 陽歌はライザーを戻し、再びメダルをスキャンする。必殺技の発動だ。

「スカル超振動波! でやあああああ!」

 赤い稲妻の様なオーラで大気を揺らしながら突進し、大魔神を突き飛ばす。だが、体勢を崩しただけでさほどダメージを与えられていない。

「かったいなぁ……これでどうだ!」

 陽歌は苛立って髪をかき上げるとメダルを取り換える。怪獣かベリアルに引っ張られているのか、少し性格が荒っぽくなっている。

「命を絶やす、滅亡の光芒!」

違う合成怪獣への変身だ。

「ホロボロ様! クソコテロボ! その親玉!」

『ホロボロス、ギャラクトロンマーク2、ギルバリス! メツボロス!』

 新たな怪獣、メツボロス。しかしホロボロス元来の俊敏性は失われ、両手のパーツで武器は持てないというアンバランスな存在。とりあえず殴ってみても、スカルゴモラほど効果はない。

「こいつでどうだ!」

 再度メダルスキャンを行うことによる必殺技での逆転を狙う。

「荷電粒子砲!」

 メツボロスは大魔神にゼロ距離で荷電粒子砲を浴びせる。が、体表が赤熱化するばかりで効きはよくない。

「動きにくいし必殺技は弱いし……」

 よかれと思ってフォームチェンジしたが、とんだ外れだった。しかし今ある怪獣メダルで変身出来るのはせいぜい単体かエリマキテレスドンくらいか。

「うわ! この……」

 大魔神は容赦ない攻撃をメツボロスに仕掛ける。纏った機械のパーツが防御力を高めてくれているが一撃一撃が怪獣の身体でも金属バットで殴られている様な痛みを覚えるほどであった。

「これしか残ってないか……。巨人を討つは、暗黒の雷電!」

 陽歌は最後の組み合わせで変身する。ペダニウムゼットンはおろか、ファイブキングもゼッパンドンも使えない今はこれが精いっぱい。

「ベリアル閣下! エレキングさん! エースキラーさん!」

『ベリアル、エレキング、エースキラー! サンダーキラー!』

 鎧を纏ったエレキング、ベリアル融合獣サンダーキラー。最早これが最後の切り札だ。

「おおおお!」

 電撃で大魔神を押し返す。しかし、土人形の大魔神には効果がない。そこで、陽歌はエースキラーの特徴を思い出す。

「そうだ、エースキラーはウルトラマンの技をラーニング出来るんだ……。もしかして……」

 ヤプールがウルトラマンを倒す為に生み出した存在、エースキラー。その力を宿すサンダーキラーも同じことが出来るだろうか。怪獣メダルが読めるアクセスカードではウルトラメダルが読めないのだが、必殺技程度ならもしかすれば。

『コスモス! ネクサス! メビウス!』

「ライトニングジェネレート! チェストー!」

 狙い通り、メダルを読むことは出来た。そして、天から雷が降り注ぎ、大魔神を焼き焦がす。陽歌はこの隙を逃すまいと畳み掛ける。

『ジャック! ゾフィー! ファザーオブウルトラ!』

「M78流、竜巻閃光斬!」

 サンダーキラーが咆哮し、竜巻の中へ大魔神を封じ込める。そして、放たれた八つ裂き光輪が何度も大魔神を切り裂いていく。

『ギンガ! エックス! オーブ!』

「ギャラクシーバースト!」

 腕から放たれた斬撃が大魔神を襲う。ここまで見て、七耶はある違和感に気づいた。

「なぁ、サンダーキラーってあんなにウルトラマンの技真似できたっけ?」

「陽歌くんとの相性がいいんじゃない?」

 サリアはサンダーキラーとのシナジーによるものと考えていたが、それもおかしい。第一、彼は等身大変身のゼロワンドライバーでも短時間しか戦闘出来ていなかったではないか。それがなぜ怪獣を何フォームを乗り継いで必殺技を連打出来るのか。

「どっちかというと炎なイメージあるけどな」

『セブン! レオ!』

「グレネイトバスター!」

「あ、炎出た」

 ここまでの追い詰められっぷりに、大魔神は困惑しかなかった。頑丈な自分を圧倒的な力で押し切っている。これが子供と玩具の力とは思えなかった。

「馬鹿な……、七元素が霊力高しといえ子供に……」

『ウルトラマン! ベリアル!』

「レッキング……バースト!」

 口から吐き出された光線で大魔神は完全に打ちのめされる。これは紛いものではない、光の国の力そのものだ。

「ぐわあああああ!」

「陽歌、そろそろ帰るぞ!」

 十分力は見せつけたので、七耶は撤退を指示した。陽歌が変身を解いて合流。七耶達の空けた穴から脱出を図る。

「お前大丈夫か? 魔力は……」

 七耶は陽歌の体調を心配した。霊力ならぬ魔力の少ない陽歌ではシエル謹製のアイテムで長時間戦うことはできない。それは彼もよく知っているはずだ。

「え? そう言えば特に疲れてない……」

 陽歌も今、その異変に気付いていた。だが、今は撤退あるのみ。

「させるか! 大魔神!」

 かぐや姫の指示で大魔神が大陸と一体化。部屋に空いた穴を土の隆起で塞ぐ。

「まだ生きてんのか! タフいな!」

「お姉さんより頑丈な生き物初めて見た」

 七耶とさなもこれには呆れる。何度壊してもその度に地面が飛び出て行く手を塞いでくる。

「愚弄しよって……わらわが直々に縊り殺す!」

 かぐや姫が地面に降りて陽歌達に近づく。が、七耶の身構えるより前に異変が起きた。

「え?」

「なんだ?」

 突如、かぐや姫の首が飛び、胸と腹に大穴が空いたのである。首と心臓は粉々に砕かれ、不死を極めたかぐや姫が文句なしの死を迎える。

「まさか……」

 さなは周囲を警戒する。そして、彼女の最悪な予想通り、月の魔獣が部屋の中心に立っていた。

「ジャバウォック!」

「警告役も辛いね。まるで聞き入れて貰えないなんて」

 さなとかぐやが彼の伝言を何度も言ったが、月の上層部はジャバウォック討伐隊を結成しては返り討ちに遭っていた。まさか役に立たなかった自分を殺しにきたのか、とさなは身構えた。だが、そのつもりならかぐや姫などという不死者を殺すよりも簡単に出来たはずだ。

「かぐや姫……曰く汚い地球に戻ってまで何したかったのか……。まさか今更親孝行かい? まぁ、死んだからいいか……」

「貴様よくもかぐや姫を!」

 ジャバウォックの登場に七元素の反応はそれぞれだった。カラスとカリーは刀李と陽歌を守る様に動き、それ以外は彼を倒そうとする。だが、さなはそれが不可能だと知っていた。

「待て、やめろ!」

 彼女にしては珍しく緊迫して声を荒げる。しかし、その警告は無意味だった。何も認識する暇さえなく、四人の命が奪われたのだ。シェーンハイムは手足をもがれた上で頸をズタズタに引き裂かれ、覚者は真っ二つに両断、田螺は原型を留めないほど潰され、大魔神は胸部からコアらしきものを引きずり出された上でそれを砕かれていた。

「つっかれたー、無駄に硬いなこいつら」

「な……」

「馬鹿な……」

 七元素の強さを良く知るカラスと刀李は動揺を隠せなかった。時間停止されての殺害。強い弱いではない。理不尽なのだ。如何に不死性があっても、それを時間が止まったことで発揮出来ずに殺される。

「カラス、刀李、皆を連れて逃げろ」

「カリーさん!」

「もはやこれは、異端をどうこうするという話から我々がどう生き延びるかという話になっている!」

 カリーは自身を犠牲にしても時間稼ぎがやっとと判断した。七耶とマナも逃走を前提に戦術を組み立てる。しかし、ジャバウォックには意外とことを構える気がなかった。

「いや、別に追っかけて来なけりゃいいんだよ。俺帰るから、もう討伐隊送ってくるなよ? いちいち倒すのめんどくさいんだから」

 そう言って、ジャバウォックは去ろうとする。だが、突然空中大陸の上空にかぐや姫のビジョンが現れる。

「今度は何?」

『この像が見えているということは、不可解なことにわらわが殺されたらしい』

 陽歌はホログラムと思わしきそのビジョンを見る。不死を自慢していた割に、対策もしていたのか。周到なのやら臆病なのやら。

『退魔協会はわらわが作った、いわばわらわと一連托生。わらわが死ねば、退魔協会は立ちいかないじゃろう。わらわの死は、組織の死』

 緊急事態なのにもったいぶっているのはやはりこれを流すことが想定外だったからなのだろうか。だが、そんな呆れも吹き飛ぶ様なことをかぐや姫は言った。

『じゃが、このわらわを地球という穢れた地に死なせた罪は償わせる。この空中大陸は2000年代現在、亜米利加のウォールストリートという、この地球において貨幣経済というシステムの中枢、その上空に位置している。この空中大陸をそこで崩壊させ、報復とする』

「は?」

「ええ……」

 七耶と陽歌は絶句した。もう八つ当たりもいいところである。ジャバウォックも頭を抱える。

「ちっ、死ぬ時くらい一人で死ねよ……」

 そうこうしているうちに大陸が揺れ始め、崩壊が始まった。だが、ジャバウォックが手を翳すと、その振動が収まる。

「二十四時間だ、それまでにどうにかしろ。じゃあな」

 どうやら、大陸の時間を停止したらしい。そのまま彼は去っていったが、与えられたチャンスを生かさないわけにはいかない。

「おい、避難訓練とかはしてんのか? 脱出の目途は?」

「残念ながら、大陸の崩壊はおろか敵襲を想定していないからな……」

 七耶がカラスに状況を聞く。だが、そんな無防備を許すほど彼女は無能ではなかった。

「そんなこともあろうかと、私が大陸内の人間へ独自に避難経路を示す幻術をプログラムした。行き先は最も広いエントランスだ」

「あとは私が絨毯を展開すれば脱出できるな」

 カリーも段取りを確認する。無能な幹部は死んだ幹部だけだとでも言いたげな連携だ。

「相談してたのか?」

「いや、脱出は個々の飛行能力……飛べない奴は近くの飛べる奴が助ける想定だった」

 カラスは脱出まで考えてはいなかった。とはいえ無策でもない。

「だが、カリーならそこまでの緊急事態に侵入者の撃破より、避難者の救助を優先するだろうと思ってたよ。その手段もあるしな」

「私はそもそも侵入されないようにしていたが……。警報鳴っただろう? あれは私の仕込みだ。カラスなら性格的に最悪を想定しているだろうから、そっちは任せればいい」

 相談せずとも互いを信用してベストを尽くした結果、とうわけだ。

「んじゃ、避難が完了したら私がこいつを太平洋に押す。それでいいな」

「頼む」

「頼りになるな」

 七耶、カラス、カリーの間で救助の手順が決まる。陽歌にもカラスが仕掛けた避難経路を見せる幻術は効いており、ルートが見える。

「んじゃあ、私達は先にエントランスへ行って混乱を抑えますね。陽歌くんも早く避難を」

「そうだねー」

 イベント慣れしているマナとサリアはエントランスでの整理を申し出た。

「私は……」

「私達は大人しく避難しようねお姉さん」

 ミリアとさなは陽歌と共に退避を優先する。それぞれの行動が決まったが、まずはエントランスで人々の避難を見届けることが最優先になる。

 

   @

 

 カラスのルートは的確で、距離が短く且つ階段などの障害も少ない。中枢部という深い場所からスタートしたが、エントランスにはすんなり辿り着けた。

 エントランスはまるでテーマパークの入場口の様な、大きなゲートがあり空を飛ぶ乗り物が離発着する場が設けられている。滑走路を必要とする乗り物が無いためか、そんなに広くはないが。

「誰もいない……」

 が、大勢いるはずの職員が誰も来ていない。一時間、二時間待っても、人っ子一人来る気配がない。

「どうなっている……」

 さすがに変身を解いた七耶が不審に思う。

「この時間でアリスギアのデイリー終わった……」

 ソシャゲのデイリーミッションを消化しても余りあるこの時間、緊急時なのに誰も来ない。空中大陸の揺れが無くなったからだろうか。否、避難経路の幻術は続いており、痺れを切らしたカラスによって『二十四時間後に崩壊する』と記述もされている。

「ところでシエル」

「はい」

 避難用の移動手段をカリーと用意し終えていたシエルに、七耶は聞く。

「陽歌がゼットライザーで変身したが、ビルドドライバーやゼロワンドライバーでの変身より長持ちした上に必殺技も連発出来たんだ。何か分かるか? あいつの魔力じゃ考えられんし、霊力で動く様にしたのか?」

 陽歌の使用を前提に霊力での互換を持たせたのかと彼女は思った。

「私は魔法で玩具を本物にしているんですが、それを使えない場合魔力で変身条件やエネルギーを代替する仕掛けをしているんです。有り体に言えばディケイドライバーに付いている三色の宝石部分をそれぞれに入れている感じで……。それ以上の改造はしていないです」

「それでハザードレベルの無い陽歌でもビルドになれたのか」

 どうやら、別に霊力互換は無いらしい。

「つまり陽歌くんに大なり小なり怪獣へ変身する素質があったと」

「あいつ、ウルトラメダルも使ったぞ?」

「どうなっているんですかね……そんな強大な力を扱える因子、アスルトさんが検査で見逃すはず……」

 怪獣と光の巨人の力を同時に行使しうる力、あるとすればウルトラマンでありレイオニクスでもあるベリアルかその息子、ジードくらいだろう。エックスでさえサイバー怪獣としてアーマーにしているくらいだ。

「つーかまだ誰も来ねぇし」

 そんな話をしていても、職員は誰も来ない。

「何かあったに……違いない……」

 ミリアは腕組みをして言う。

「まぁそうなんだろうけどさ……」

 さなも困って周囲を見渡した。すると、ゲートの上にジャバウォックの姿があった。

「おい! どういうことだ! ここでは殉教者でも育ててんのか!」

 彼も避難しない職員に苛立っていた。なんだかんだ、避難を見届けに来たのだろうか。

「そんな馬鹿な……組織に殉ずるという者もいるにはいるが……そんな者ばかりでは……」

 カラスもそこは疑問視していた。仕方ないので、カリーが様子を見に行くことにした。

「しょうがない、ちょっと見てこよう」

「そうですね」

 陽歌も心配になったのでついていく。結局全員で見に行くことになったが、ジャバウォックも一緒に来た。

「しゃーねぇな……脅かしたら逃げるだろうしちょっとケツ叩きに行くか……」

 ぞろぞろと歩いていくと、彼らの目に信じられない光景が広がった。なんと、あちこちに一般職員の遺体が転がっているではないか。引き裂かれた様な死体を更に貶める様に、柵の先端に串刺したりして弄んでもいる。

「なんだこれは……」

 真っ先に口を開いたのがジャバウォックであった。

「貴様……!」

 カラスが睨むが、さなはこれがジャバウォックの仕業だとは思えなかった。

「いくら時間停止出来るといっても、殺害は素の筋力頼りだよね? ここまで殺すのは手間でしょ? しかもこんなことまで……」

「めんどくさいにもほどがある……殺すだけならともかくこんな手の込んだ真似するか」

 確かに、ジャバウォックは当初、かぐや姫を殺して帰る気満々だった。七元素殺害も、攻撃されたから以上の理由がない。圧倒的力があるにも関わらず、彼はこの半年、月への侵攻もまるでしていない。ジャバウォックは驚異であるが消極的なのだ。

「これは……何が……」

 七耶達の知らないところで、巨悪が動き始めていた。

 




 令和こそこそ話

 陽歌の好物は鮭であるが、あまり描写する機会がないぞ
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