騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 アニマギアとは、デジタル社会を支える新たなロボットバディである!


☆転売屋を絶版だ! アニマギア総出撃!

おもちゃのポッポはクリスマスというかき入れ時を迎えて忙しくなっていた。今では大きなおもちゃ屋や通販が主流で個人経営の店に出番はない、というわけでもなかった。

 ポッポは客員をも総動員してのフル回転状態。彼女ら自身が玩具かの様なカラフルさであったが、その中でも目を引くのはキャラメル色の髪をした少年だった。大きめのパーカーを着込んでおり、その袖から覗くのは生身ではなく黒い義手。少女の様な愛らしさであったが、オッドアイと右目の泣き黒子が色っぽくもあった。

「この商品ありますか?」

「はい、そちらですね」

倉庫の奥で仕事をしている店長に代わり陽歌が店を案内し、商品を見せる。今や転売屋の台頭で客は縋る様にこの店を訪れ、新製品を手に入れていた。昔からクリスマスプレゼントは11月に用意しろとおもちゃ業界は言い続けているが、昨今は出荷した傍から転売屋にかっさらわれてしまい入手が困難となっている。

また、近年は過去のヒーローが活躍する機会も多く、巣ごもりで過去作を見返す時間も増えたせいかそのなりきりおもちゃの需要も延びている。だが、ネット通販では軒並みプレ値で手が出ない。だが、ポッポなら定価で置いているのだ。

「ふぅ」

 陽歌は接客を終えて一息つく。対人に問題を抱える彼だが、忙殺されていることや知り合いが近くにいるおかげか今のところ滞りなく仕事出来ている。

「陽歌の奴が元気そうでよかったぜ」

「だな」

 その様子を一人の平凡な少年と、眼鏡を掛けた短髪の少女が見守る。小鷹と雲雀は古くからの友人で、近年の騒動で再会に至った。最も信頼する友人が近くにいることで、陽歌にもいい影響が出ていた。

「改めて礼を言うぜ。俺らがいない間、あいつと友達でいてくれて」

「え? いや私は……」

 小鷹は近くにいた黒髪の女の子に礼を言う。陽歌は故郷のあった北陸からひょんなことでポッポと関係の深いユニオンリバーに引き取られ、静岡までやってきた。そんな彼がここに来て長く付き合っているのが、この深雪である。

「んでよ、結局のところどうなん? あいつも男っぷり上がったろ?」

 雲雀は冷やかす様に深雪へ聞いた。再会した陽歌は以前の様に雲雀や小鷹が守らねばならない存在ではなくなっていた。むしろ一部の分野では大きく彼らを助けるほど成長した。

「うーん、確かに初めて会った時よりは元気になってくれたから安心はしてるよ」

「ほほう、そうか……」

 雲雀が聞きたいのはそういうことではなかった。実は出会った時こそ同い年であったが、わけあって雲雀と小鷹は陽歌から二歳も年上になってしまった。深雪は今の陽歌と同い年である。

 その様子をサンプルが飾られているショーケースから覗く者がいた。手の平サイズの動物型ロボット、アニマギア達である。細かい所の掃除は身体の小さい彼らが活躍する。

「お嬢様……恋の鞘当てでございますか」

 オオカミ型アニマギア、ブレイドヴォルガのレイドは主である雲雀の様子を見る。だが、いつも一緒にいる小鷹のカブトムシ型アニマギア、デュアライズカブトのザンが疑問を唱える。

「んなことするタイプか?」

「お前は分かっていないですね。今日のお嬢様は輝きが違う」

「輝き?」

 レイドは本人が言われたくないであろうことをペラペラ喋る。彼からすれば主の気合に気づいてもらえない方が嫌なのだろうが。

「普段は動きやすい服を好まれ、スカートよりズボン派のお嬢様が今日はスカート! そして実はグロスをしていて透明とはいえマニキュアを……」

「マニキュアはいっつもしてんだろ、爪の保護で。小鷹もしてんぞ」

 ドヤ顔でレイドは言うが、ザンの言う通り野球選手など爪を怪我しない様に透明なマニキュアでコートしているアスリートもいる。

「対して深雪様は特に陽歌様を異性として意識していない様子! そこのところどうなのですか!」

 レイドはびしっとトリケラトプス型アニマギア、ギガトプスのギーガに聞く。

「いや……それ僕に言われても……どっちかというと弟分か同性の友達くらいの感覚じゃねえかな? 僕の人格データを弟系から設定するくらいだし」

 アニマギアには人格が存在する。ホビーロボットという以上に、デジタル社会を支えるバディとしての側面が強いのだ。

「恋敵の有無も確認したところで……ではお義父様、息子さんをお嬢様に下さい」

「お前にお義父様と呼ばれる筋合いはない」

 レイドがライオン型アニマギア、ガレオストライカーのアロケスに詰め寄る。

「雲雀のことを陽歌の妻として認めていても、だ。私は人格データが父親タイプから設定されているが、彼の中で本当の父は養父であった仁平殿ただ一人。彼を差し置いて呼ばれるつもりはない」

 陽歌は結構複雑な生まれをしていた。母親役は多くいてもユニオンリバーが女所帯で数少ない男性の社長が世界を飛び回っている今、父親役が必要と判断したメンバーによりアロケスの人格は設定されている。だが、この夏自身の出生を知った陽歌は実の子として受け入れてくれた今は亡き養父母を本当の両親と心に決めている。

 物心つく頃には亡くなっていて記憶もない人であった。だが、産まれが『教師をしていた父親が教え子でもあった娘を教え子から寝取って出来、母親は医者に頼らないで堕胎を試みて別件で逮捕されている間に死んだ』という理解不能なものだから、というだけではなく、養父母が自身の死後も陽歌の幸せを願う尊敬に値する人物であったことが大きく影響した。

 アロケスも彼らを立派な人間であったと評し、陽歌の意思を尊重している。

「ではお嬢様との仲、認めていただけると?」

「そういう話ではない!」

 わちゃわちゃ話す中、ヴァネッサのガレオストライカー、レオが看板を持ってショーケースを見る客に説明する。陽歌のアロケスと同型だが、尻尾が恐竜型に換装されるなど差異がある。

「はいこの通り複数で集まると主人を種にわちゃわちゃします」

「邪魔するでー!」

そんなアニマギアさえ駆り出される忙しい中、今時感染対策のマスクもせず柄の悪い男が入ってくる。

「邪魔するなら帰ってー」

「はいよー」

黄緑の髪を伸ばした少女、ヴァネッサによるお決まりのやり取りで男は帰りかける。だがそうはいかない。

「待てや! ここがおもちゃのポッポだな?」

「そうだがマスクくらいしろ」

他の皆はフェイスガードをしている。接客は顔が命というのもあるが、マスクは息苦しかったり眼鏡が曇ったり、紐が原因で作業中に眼鏡が滑り落ちたりと不便も多い。その点、頭にゴムで固定するフェイスガードなら心配がない。

「俺達はマーケットプレイスと……」

「魔弾、法皇殺しの禁忌斬!」

転売屋ギルド、マーケットプレイスの名前を聞くなりヴァネッサは銃剣から飛ぶ斬撃を放つ。

「グワーッ!」

斬撃は男の眉間に命中。物の見事に男は吹っ飛ばされる。

「やったか?」

「やったかじゃねぇよ! 客に必殺技ぶち込む店がどこにあるんだ!」

ヴァネッサが店から弾き出された男を見て勝利を確信したが、案外無事だった。手加減しているので当たり前なのだが。

「転売屋は客じゃねぇ。マーケットプレイスは見つけ次第殺すのがうちのルールだ」

ヴァネッサはマーケットプレイスを相手に物騒ながら毅然と立ち回る。実際、店員としても消費者としても今年は転売屋に迷惑を掛けられっぱなしだ。だが、男は本性を表す。まるで巨大なミル貝みたいなロボットだ。

「警察ごときに俺が止められるか? アダムスミロイドの一角、ベニス・ミルシェルロイドを!」

「うっわ」

あんまりな外見にヴァネッサは素で引いた。アダムスミロイドはなんかこう、下ネタな外見が多い。それも割りと直球なスタイルで。メンバーで唯一、これまで倒したアダムスミロイド計三体を全て目撃している陽歌は諦めの境地だ。

「これ何か分かる? そう、ペ〇スだ。ご立派ぁ!」

「陽歌くん?」

 普段の彼とは思えないノリに深雪が動揺する。

「性教育は臭いものに蓋の精神で施さない者が多い……だが陽歌は正しく認識出来ている。流石だ」

「お父さんとしてその認識でいいの?」

 アロケスは肯定したが、深雪としては納得いかなかった。彼は懐が大き過ぎて軌道修正をしない。もう精神的にも肯定ペンギンとしてユナイトペンギオスに機種変すればいいのに、と深雪は思った。

「まぁ名前でペニ〇言うてるしな」

「雲雀ちゃん?」

 同じ女子の雲雀が躊躇いなく性器の名前を放ったことに深雪は更なる動揺を見せる。一応、恋の鞘当てをする程度には思春期のはずである。

「ロボットならもうちょっとマイルドにしてもいいのにな」

 対して悪乗りが加速しそうな思春期男子の小鷹がこの反応。

「よかった普通……じゃねぇわ特定の組み合わせでツッコミ消失するタイプだこれ」

 深雪が強制的にツッコミをやらされる。特殊なアイデンティティと生育環境を持つ陽歌だがユニオンリバーでは一般人寄りの感性であり、普段は彼が声には出さないがツッコミなのである。

「というか明らかにわざとやってるよね? 一応金運系の動物で固めてるのは分かるけどさ」

「ん? 他にどんなのいたんだ?」

 陽歌の指摘に小鷹が食いついた。確かに今までは抜け殻がお守りになる蛇、ガネーシャのモデルである象、基本的に幸福の象徴であるカエルと

「金色の鉄球持ったピンクの蛇と、何故か股間に顔付けてある象のケンタウロスと、ぬめぬめしたカエルになりかけのオタマジャクシ」

「チン〇やん」

 大雑把な概要を聞いて雲雀が本音をぶちまける。

「チ〇コだよね」

「〇ンコだな」

 陽歌と小鷹も同意するレベルだった。

「最後のに至っては精子だしな」

「名前もカウパロイドだったし精子狙ってるよね」

「下ネタ全開だな」

 雲雀が余計なことに気づいてしまい、再び二人が同意する。

「白い粘液飛ばしてただよそいつ」

「〇精じゃねーか」

「射〇だな」

 陽歌が余計な情報を与えて話は加速する。

「一応この話アニマギアの販促で書いてるんですけど?」

 深雪がメタいツッコミを禁じ得ないレベルであった。対象年齢8歳の食玩をPRする話でこれは大変マズイ。下ネタがエグ過ぎる。

「ヴァネッサー! 早く戦闘パート入って!」

「え? アニマギアの販促だしここカットのつもりだったんだが……」

「いいから早く!」

 視点を切り替えようと深雪はヴァネッサに催促する。彼女もアニマギア回かつ初見向けエピソードであまり暴れたくはないのか渋る。

「はいギーガ達もなんか話して!」

「え? 君らいつもこんなノリなの?」

 深雪に振られたギーガは本気で引きつつレイドとザンに尋ねた。

「失礼な! お嬢様がそんな下品な人間に見えますか!」

「いくらなんでも俺の相棒を愚弄しすぎだ!」

 が、彼らは憤慨した。二人だとああはならないらしい。

「下品に見えるし愚弄でもなければ事実を確認してるんだよ!」

 あまりに理不尽なのでギーガは納得できない。アロケスは相変わらずであった。

「言葉にしにくいことも言い合える友とは、得難いものを得たな、陽歌」

「お前偉大なる父祖ムーブしてないでTPOを教えてくれます? ここ公共の場なんですけど?」

 ギーガの要求も、普段の陽歌は出来ているので無茶というもの。

「……戦うか」

「このままだと話があれ過ぎる」

 ヴァネッサとベニスは話の流れを変える為に戦うことにした。だが肝心のボスの外見がアレ過ぎてボス戦を示す『WERNINNG』の表示が意味深に見える。

「喰らえ! フログにも搭載されていたものの改良型!」

 そして初手で長い首の先端から白い粘液を飛ばす。もう最悪過ぎて深雪は頭を抱えた。

「射〇したな」

「〇精したぞ」

「お前ら漢字表記……」

 雲雀と小鷹のリアクションにギーガも諦めムード。ヴァネッサが動じていないのが逆に凄いくらいだ。

「いっぱいでたね」

「陽歌くん一応設定上はCV花澤香菜なんだから自重して……」

 バラエティ声優をさらに追い詰める陽歌の言動に深雪は待ったを掛ける。

「おいお前ら! あんま子供がそういうこと言うもんじゃないぞ! どこで知ったんだ!」

 ベニスが指摘するレベルであったが、外見がアレ過ぎて説得力皆無であった。まさか転売屋に常識を説かれる日が来るとは。

「あーもう金湧忌み地過ぎる……」

 陽歌の故郷はマーベル市民もびっくりの民度なのだが、マシな彼らがこれなのでマジ忌み地、と深雪は土地のせいにするしかなかった。

「子供が純粋だと思うのは大人だけだぞ」

「ヤプールのセリフを最悪の形で引用したわね」

 雲雀がバッサリ切るので深雪は正論ではあると思いつつも虚しさを覚えた。陽歌が追い打ちをかけていく。

「そうだよ。僕らだって興味本位の知識しかないわけじゃないんです。【削除済み】を刺激して■■させ、十分に湿潤させた【規制済み】へ挿入し、■■することで成立すると……」

「ははーん、陽歌くん実写のキャスト橋本環奈以外にやらせる気無いな?」

 もう深雪も突っ込みをやめた。

「というわけでスラーッシュ!」

「グワーッ!」

 ヴァネッサは雑にベニスを切り裂いて始末する。男性陣二人はその光景に青ざめた。

「ひぇ……」

「はーいそこタマヒュンしない」

 そしてこの手のボスお決まりの演出が入る。真っ二つになっているのに空中で静止し、なぜか喋れるあれである。

「俺が死んでも……マーケットプレイスは止まらない……お前達が俺達から買うこと以外で、モノを手に入れる方法は、もうどこにもないのだからな!」

 そして爆散。

 

   @

 

「いやー、導入でお腹いっぱい……」

 喫茶店ユニオンリバーに戻った一同はマケプレへの対策を立てる。

「だが、あいつらをモグラ叩きみてーに叩いてもキリねーぞ? ボスもこれで四体倒したんだよな?」

「ですね。初回が今年の二月……雑魚戦なら十月くらいからやっているから、息が長いし懲りないよ」

 雲雀と陽歌はこれまでの戦いを振り返り、売り場に現れた構成員の撃破では追いつかないことを実感していた。

「確かに、アダムスミロイド以外も多数撃破したがまるで勢力が衰えない」

 アロケスも長らく戦いを見守っていただけにそのしつこさは理解していた。

「んじゃ、本拠地を潰すか?」

 小鷹は直に叩くことを提案した。

「あれ? 真面目に話してる……私悪い夢でも見てたのかな?」

「僕もそう思いたいけどAIは夢を見ないから現実なんだよなぁ……」

 深雪とギーガは急に真剣に相談を始めた三人を見て頭痛がした。温度差で風邪引きそう。

「そうしたいんだが……大陸の組織ってことは分かってんだが本拠地まではな……。公安が探ってるけど、政府ぐるみで匿われてるっぽくてな」

 ヴァネッサが状況を知らせる。敵は意外と多かった。

「まさか国策で転売を? 確かに日本製品は人気だけど……」

「さすがにそこまではいかないと信じたい。多分、賄賂を使っているはずだよ」

 深雪は政府絡みの陰謀を疑ったが、陽歌は単に金の力だと見る。

「それに今は転売の方法を教えることで儲ける奴が出てて、マケプレを潰して収まることなのかどうか……」

 雲雀の懸念通り、マーケットプレイスは大規模な転売屋だが今や個人規模で転売屋をやっている人間が多い。組織を潰しても、転売は無くならない。

「なら、売る場所が無くなればいい。オークションサイトやフリマアプリを破壊する」

 小鷹はその全てを解決する秘策を持っていた。それは主な転売品の売り場になっているそれらのサイトを叩くのだ。確かに、こうしたサイトの出現で転売屋は一気に増加した。手軽さや直接住所をやり取りせずに使える点がユーザーにバカ受けだった。

「それっていいの?」

「いいって大空さんが言ってた。何度注意しても無くならないって」

 深雪は坊主憎くけりゃの思想を危険視したが、首相と面識がある陽歌は政府の注意も無視して転売を続けるサイトの問題を聞いていた。

「確かに、うちにも転売サイト破壊ミッションが来ている。ちょうどいいんじゃないか?」

 ヴァネッサはトラブルコンサルタントであるユニオンリバーに来ている依頼を話す。何でも屋であるユニオンリバーは宇宙の面倒事を一手に引き受ける。転売が活発になったことで小売店も不要な負荷を抱えて困っている状態だ。

「玩具くらいにしか手を付けないと放置した結果が生活必需品の買い占めだ。潰すなら今だろ」

 雲雀も事態を打開する為に賛成した。このままではいずれ致命的被害に繋がりかねない。マーケットプレイスが既に、押し込み強盗と化しているがこれ以上のエスカレートさえ考えられる。

「ミッションプランはこうだ。実質、奴らは本社ビルに従業員という名の人質を抱えている。そこで今回は電子戦を行うことにする」

 ヴァネッサがブリーフィングを開始した。ユニオンリバーなら直に本社をサーバーごと吹き飛ばすことも可能だが、それは今回できない。

「アニマギアを使用し、今回のターゲットであるヤフオクとメルカリの本社内、サーバールームへ侵入。そのまま物理的にサーバーを破壊する」

「結局物理破壊なんだ……」

 電子戦とは名ばかりの破壊ミッションだったので陽歌は困惑した。とはいえ、サーバーへのクラッキングはプロテクトがどうなっているか分からない上、防御される危険もありサーバー事態は存在し続けるので復旧も不可能ではない。だが実際にサーバーが破損すればサーバーの買い替えや入れ替え作業など時間的、資金的なダメージも各段に大きくなる。

「目的は二か所か……流石に一か所に固まってはくれないか」

「競合だからね」

 小鷹の言う通り、都合よく目的のサーバーが一つの建物にあることはない。なので、必然的にグループを二つに割る必要がある。

「今回の作戦では依頼主からの支給品からしてアニマギアでやれってことだろうし、それを軸にチームを割ろう」

 ヴァネッサは四人にあるものを見せる。それはアニマギアを構成する装甲パーツ、ニックカウルであった。黒いライオン型と青いカブトムシ型。ガレオストライカーとデュアライズカブトの様だがデザインや機構が異なる。

「まず、新しいライオン型のニックカウル。ライオン型は名前が分からんが設計ファイルは『オニキスリベンジ』って書いてあるな。カブトムシ型はデュアライズカブト真。アニマギア悪用への対抗策として依頼主であるギアティクス社から二つとも提供されている。第二世代型アニマギアだな」

「ギアティクスって、アニマギアの開発元じゃない」

 深雪はこんな犯罪紛いの計画に開発が手を貸すという事実に驚いていた。それについては事情がある。

「マケプレが自分達に品物を寄越さなかった店への報復にアニマギアを使っててな。アニマギアのイメージが下がる恐れがあるし、市場を守る為にアニマギアを配備していてもおかしくはない。発売元のバンダイもガンプラの工場を増築したが、転売屋のせいで需要の把握が難しくて困っているところだったんだ」

 ヴァネッサの言う通り、転売屋は商品が売れるのでメーカーには都合がいい存在、というわけではない。本来欲しがっている人が手に入らず、「いつも置いていない」というイメージを持たれるとメーカーもマイナスだ。手に入らないことが切っ掛けでブームが冷める危険もある。それに転売屋は何でもかんでも買っていくので、一体本当はどんな商品が人気なのか分からなくなる。お客さんに売ろうと商品を沢山作っておこうにも、倉庫には限りがあり溜めて置くのも限界だ。

「それに、アニマギアの暴走事件が多発しててそれ対策に開発した第二世代のテストもしたいんだろう」

 ヴァネッサ達ユニオンリバーはこの一年、都知事の騒動に掛かり切りであまり関与していなかったが、アニマギアが暴走する事件も起きている。資料によると日光を吸収するブラッドステッカーに稲妻の様なひび割れがある、というのが暴走アニマギアの特徴らしい。

「つーわけで遠慮なくやっていいぞ」

「じゃあ、チームは俺のザンとヴァネッサのレオを中心に分けるか」

 小鷹がチーム分割を行うとしたが、彼女は新しいカウルを使う気が無かった。

「いや、オニキスリベンジは二足歩行のカウルなんだよ。というか、陽歌の剣術を分析したデータを渡して作ってもらったから、アロケス用だぞ」

「僕の?」

 陽歌の剣術は守り刀の加護によるところが大きく、彼も把握できていない技がある。なので、モーションキャプチャーを行い分析をした。その結果がオニキスリベンジに反映されている。

「だが問題は刀が間に合わなかったところだな……」

 ただ、オニキスリベンジは初めから陽歌専用には作られていない。二足歩行のライオン型アニマギアの叩き台でしかない。

「だったらデュアライズカブト真の刀、ワンセット持ってけ。俺は刀四本もいらん」

 小鷹がカスタマイズの都合、刀を全て使わないのでそれを陽歌に渡すことで解決する。デュアライズカブト真は合体出来る刀が二セット付属する。

「んじゃ、作戦開始だ。行くぞ!」

『おー!』

 こうして転売屋破壊ミッションがスタートすることとなった。

 

   @

 

 深夜、五人はそれぞれ配置に付く。陽歌と深雪がヤフオク、ヴァネッサと小鷹、雲雀がメルカリのサーバーを攻撃する。

「ミッション開始!」

「よーし」

 陽歌のアロケスと深雪のギーガが建物に侵入する。赤いボーンフレームにオニキスリベンジのカウルを纏った姿は、名前の由来通りライオンの悪魔に見えた。

まだ建物には人が残っているのか、明かりがある。とんだブラック職場だ。まだ普通に出入りできるおかげで、堂々と侵入出来た。

「タンクモード!」

 ギーガは戦車に変形し、アロケスを乗せて走る。戦車とは遅いのではないか? と思われるかもしれないが、イメージよりは早く走るものなのである。

「サーバー見っけ」

「順調だな」

 ギーガとアロケスはサーバールームに辿り着いた。特に鍵などは無かった。おそらく経費削減と称して彼らのおかげで問題が起きていないとも知らず、エッシェンシャルワーカーを切っていった結果このザル警備なのだろう。

「どう壊す?」

「電源コードを引っこ抜いてお終いといきたいが、なるべくダメージを与えたいな」

 アロケスの言う様に電源を抜けば終わるが、作戦目的はサーバーの物理破壊。どう壊そうか、と考えているとサーバーの上から一体のアニマギアが見下ろしてくる。

「へぇ、まさかアニマギアで来るとはね」

「誰だ!」

 そのアニマギアは赤い騎士の様な姿をしていた。ドラゴン型、なのだろうか。だが、非実在の生物を取り入れたアニマギアはいないはずである。

「社員のアニマギアか? お前は……」

「俺を貴様らアニマギアと一緒にするな。俺はエンペラーギア、ドラギアス。おもちゃとして性能を落とされているお前達で俺は倒せん。つまらん警備をさせられて退屈してたんでな、遊び相手になってもらうぞ」

 ドラギアスはアロケスとギーガへ向けて槍を構え、飛び降りてくる。その威力は凄まじく、何とか彼らが回避するも床を這うコードを容易に切り裂いた。

「まぁ、玩具では話にならんがな」

「私が玩具かどうか、試してみろ」

 アロケスは刀を抜く。陽歌のデータが入った彼なら、あの剣術も使えるはずだ。リアスカートのパーツを左腕に装着し、半分アタックモードの状態へ切り替えた。

「馬鹿め、俺は槍だ。槍の相手に勝つには、その三倍は強くないといけない。だが逆に俺がお前の三十倍以上は強い。エンペラーギアと玩具の差を見せてやる!」

 ドラギアスは槍を手に突撃する。だが、アロケスは槍を刀で撥ね飛ばし、左腕の爪をドラギアスへ叩き込んだ。

「ぐ……バカな!」

「甘いな。防御が疎かだ。自身の性能に驕っているからだろう」

「舐めやがって!」

 ドラギアスが槍を振りかぶると即座にスピードモードへ切り替えたアロケスががら空きの胴体に斬撃を入れていく。

「ぐおおおお! 馬鹿な……俺より早い……」

「肉体のスピードではない、判断力の差だ」

 陽歌の剣術にはいくつか問題があった。それは彼の身体が長年の虐待で虚弱となっていたことと、その影響で本能的に防御姿勢を過剰に取ってしまうことであった。だがアロケスにはその弱点がない。ほぼ完ぺきに使いこなせるのだ。陽歌をよく理解する彼なら、その弱点ごとスキャンしても修正が可能なのだ。

「クソがあああああ! 効かねぇんだよおおおお!」

 ヤケになったドラギアスはエネルギーを暴走させ、黒く変色する。ブラッドステッカーに稲妻の模様が入る。

「あれは……暴走?」

 暴走アニマギアと同じ異変。アロケスは警戒を強める。

「馬鹿が、雑魚共と一緒にするな。これはフォビドンビーストシステム……エンペラーギアの性能を極限まで引き出すもんだ。まぁ、アニマギアなんかは耐えられずに暴走しちまうがな。俺を作る為にご苦労なこった」

「貴様のそれを作る為にアニマギア達を暴走させていたのか……」

 アロケスは静かに怒り、刀を構える。

「皇帝様の為に下々が尽くすのは義務だろ?」

「暗君め、ここで斬る」

 全く悪びれないドラギアス。陽歌も呼応して、力を籠める。

「行くよ、アロケス!」

「応ッ!」

 ドラギアスは先ほど以上のスピードと威力で突撃を仕掛けてくる。アロケスは刀で迎撃する、と見せかけて背中のパーツを両腕に付けてアタックモードへ以降。そして刀を上へ投げる。

「力比べかァ?」

「否」

 アロケスはドラギアスの攻撃を回避すると、爪による攻撃を真横から叩き込む。突撃する力は横からの力に弱いのだ。

「ば……」

 ドラギアスはサーバーへと叩きつけられる。そして、アロケスの手元に刀が戻ってくる。

「命を顧みぬ邪竜よ、滅ぶべし!」

「大仏陀斬り!」

 横一閃の斬撃がドラギアスを切り裂いた。だが、槍を取り落としただけであまり効いている様には見えなかった。

「何?」

「馬鹿が……性能を引き出すと言っただろ。防御力も上がるんだよボケェ!」

 ドラギアスは意気揚々と反撃に出ようとする。だが、サーバールームで爆発が起きる。

「どうやら貴様に戦術の概念はないらしい。勝負には負けたが戦いには勝たせてもらった」

「どういうことだ?」

 ドラギアスが困惑していると、ギーガがやってくる。

「サーバー壊したよ」

「ご苦労。では行こう」

「あ、待て!」

 目的のサーバー破壊を済ませ、アロケス達は槍を奪いつつ撤退した。ドラギアスも追いかけようとするが、爆発に阻まれて見失う。

「貴様! 卑怯だぞ! 逃げるな! 逃げるなぁあああ!」

 燃え上がるサーバールームにドラギアスの虚しい声が響いた。

 

   @

 

 一方、ヴァネッサ達もサーバールームでエンペラーギアと戦闘状態になっていた。

「エンペラーギア?」

「どう見ても市販品だろ」

 虎のアニマギア、スロートタイガオン。しかしこの機体は一般販売されているものである。そこをザンは気にした。一応市販品は虎らしい黄色。だがこの機体は白だ。

「馬鹿が、俺様はゴウギアス。エンペラーギアの一体だ! 市販品は俺様がいくら暴れて部品を消耗しても、いつでも替えられる様に出回っているだけだ!」

「たしかにここ最近、フォース系やタイガオンとか妙に限界性能の高いアニマギアが紛れているが……」

 レオも最近発売された機体の性能には首を傾げていた。あくまでユーザーの適切なチューンがあればそれだけの出力にも耐えられるという話だが、初期とは比べ物にならないほどの高品質を誇る商品が増えた。

「しかしアニマギアの性能が戦力の圧倒的違いではありません。ユーザーが如何に手をかけているかが重要なのです。そう、お嬢様に寵愛される私の様に!」

「うるせぇ旧式! んなもん意味ねぇくらい俺達エンペラーギアは特別なんだよ!」

 ゴウギアスがレイドに飛び掛かる。二人の熾烈な戦いが始まったが、優勢なのはレイドであった。ゴウギアスの方が動きは早い。だが、だからこそレイドは無駄に動かず、着地の瞬間を狙って銃撃を挟み込む。ゴウギアスの近接攻撃はギリギリを狙って回避する、遠距離攻撃は撃ち落す。性能差があるからこそ、最小の動きでそれを表に出させない。

「ぐ……舐めた奴だ!」

「頑丈さだけは認めましょうか」

 だがゴウギアスにダメージは無い。性能差は確かなようだが、逆に技量差も確かで互いに決め手が無い。

「ったく、いつまでもたついてんだ。俺がやる」

「少し見た目の違うカブト如きがなんの用事だ」

 痺れを切らしたザンが戦闘に参加する。ゴウギアスはザンを舐めていたが、彼には秘策があった。

「そいつはどうかな?」

「なに?」

 それは、フォビドンビーストシステム。半身のブラッドステッカーに稲妻が走る。

「馬鹿め、それはエンペラーギアの為のもの! 市販品の貴様に……」

「使えるさ、お前らが無暗にアニマギア達を犠牲にしたからな」

 ザンは暴走することなくシステムを使い、能力を底上げする。目にも見えない斬撃と銃撃がゴウギアスを襲う。

「ぐおおおゥ? 俺様が押されてる?」

 パワーも桁違いで、いくら本体にダメージが行かなくても衝撃で回路が揺さぶられる。何とか体勢を立て直そうとするが、その度に足元への砲撃がレイドから繰り出され、視界を遮る。

「市販品如きが、二人掛かりでェ!」

 性能差のみが唯一勝るゴウギアスであったが、それを埋められればこんなものである。しかし、硬いので中々撃破には至らない。

「おらぁ!」

「この程度か!」

 何とか渾身の一撃を加えるも、背中の爪を外すので手一杯だった。外れた爪は白から黄色へ変色する。

「目的は済んだ、撤退だ!」

「チッ、陽歌みてーに剣術の心得があればな」

 レオがこの隙にサーバーの破壊を済ませたので、三機は切り落とした爪パーツを持って撤退する。

「ふん、やはり俺様の力に恐れをなして逃げたか……」

 戦術的な敗北を喫したにも関わらず、ゴウギアスは何も気にしていなかった。彼らは気づいていなかった。自身のニックカウルを奪われたことが致命的な損失に繋がるということを。

 

 こうして、フリマアプリの二大大手は巨額の損失を受けることとなる。これが転売ギルド、マーケットプレイスの凋落の始まりであり、新たな悪との戦いが幕を開けた瞬間であった。

 

「無事、クリスマスを迎えられそうでよかったな」

 転売屋は売り場を失い、街に平和が訪れた。クリスマスソングが響く町を陽歌達は歩いている。

「今年も色んなことがあったなぁ……」

「来年はもっといい年にするさ」

 陽歌は別れた友達との再会、自身の出生を知るなどループする東京オリンピックを除いても激動の一年であった。雲雀の言う通り、例え世界がどうなっていようとも自分の行動次第で良し悪しを変えることは出来る。

 彼らの日常は、まだまだ騒動を交えて続いていく。

 




 ある研究書類

 人口爆発による食料危機、エネルギー枯渇、居住地の圧迫、これらを一挙に解決する画期的な方法を私は見つけた。あまりに人間が多すぎるのが、大き過ぎるのがいけない。私は人類を省エネルギーの新しい肉体へ移行、優れた人間が永遠に文明へ貢献し、そうでないものが喰らうリソースも最小へ抑え込む計画を発足する。
 フォールンプロジェクト、かつて武装神姫やLBXを用いて行おうとしたがエネルギーの問題を解決出来ずに頓挫した計画の修正版だ。アニマギアはサイズもこれらより小さく、ブラッドステッカーで日光からエネルギーを生み出せる為最適であった。
 今後はプロジェクトの課題を以下にピックアップし、計画を進める。

 ・無価値な人間も肉体の移行を行うべきか、それとも労働用には忠実なAIを導入した機体を用意すべきかの判断。
 ・上記課題に対し、AIの生産コストと判断力の水準クリアを考慮し、催眠によって選別から外れた人類の思考回路を制御して使うべきかの判断。
 ・アニマギアのボーンフレーム、ニックカウルの限界性能見極め。
 ・出力の制御プログラム導入の判断。
 ・高水準なパーツの販路確保。
 ・自己再生能力の獲得。
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