騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 この一年で増えた女性キャラ考えると慌てて書いて間に合うわけないんだよなぁ


バレンタイン2021 チョコレート備忘録1

 バレンタイン、それは女性が愛する男性にチョコを贈ろうという日であった。が、その風習は時代と共に移り変わり、義理、友と用途が増えた。

「最近は義理も負担だからやめよう……って話だそうね。私はそもそも始まりから今に至るまですっぽ抜けてるからどうにも言えないんだけど」

 目の前にいる銀髪を伸ばした少女は浅野ルシア。五十四年ぶりに帰還したという特殊な事情があり、チョコレートが高価なぜいたく品から日常的なおやつに変化したことへ戸惑いもあった様だ。

「でも年に一回くらい、こうしてお世話になった人に贈り物をする機会があってもいいかもね。セント・バレンタインデー……キリスト教ではお偉いさんの意に反して愛する二人を結婚させていた聖ヴァレンティヌスが殉教した日として知られているわ。そんな偉大な聖人を戴く人達が同性婚程度で喚いたり、子供に劣情をぶつけるのはか分からないのだけれど……」

 ルシアの生きていたのは戦後間もない時代。そこからすれば同性婚の概念はかなり斬新なはずだが、してきた経験が経験だけに同性が結婚する程度では動じない様になってしまった様だ。

「おっと、愚痴はこのくらいにして……私の初挑戦を受け取って欲しいのだけど」

 ルシアは手作りのチョコを渡す。ここは歳相応の女の子らしく、ラッピングの凝り具合もまぁまぁといったところだ。

「あんな貴重なものを鋳溶かして形を変えるなんて凄く恐ろしいことだったけど、しとげて見せたわ」

 とはいえ感覚は昭和前半。まだ令和になじんでいるとは言えないのであった。

 

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 『2021年の初挑戦』

 ルシアからのチョコ。初めての手作りということで少しぎこちないが、初挑戦にしてはまずまずの仕上がり。まだ形に拘れるほど慣れていないので形状は市販の型を使ったものだが、来年は形にも拘りたいとのこと。

 

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 白楼高校のある教室では、三人の女子生徒が集まっていた。見た目に特徴がない少女、レオナは目的の人物が来たことにいち早く気づく。

「あ、丁度よかった」

 かつて東京オリンピックを推進するチーム、フロラシオンとして行動した彼女は、貧困故にこういう催しにも参加出来ず疎外感に苛まれていた時期がある。そこから抜け出したいという思いを悪い大人に利用されてしまったが、結果的には白楼という居場所を得ることが出来た。

「これでいいかな? 義理チョコって」

 レオナが渡してきたのは、チロルチョコ。本当に義理や友チョコ用の、カップにいくつか入ったもののうち一つだ。

「うん、まぁこんな感じね……義理でこれなんだから、本命なんか心臓割れるんじゃないかな?」

 あまり表には出さないが、彼女なりに緊張していた様だ。

「付き合い出したら慣れてくものよ」

 この中で一番年上の女性が袋から自分も、とチョコを取り出す。フロラシオン【福音】。この中で唯一大学生であり、わざわざイベント慣れしていない友人、というより妹分の様子を見に来たわけだ。幸運を呼び寄せる女が渡したのは、何の変哲もないチョコボールであった。

「今回はちょっと贔屓。開けてみて」

 チョコボールは封のビニールも切っておらず新品。そこにどんな仕掛けがあるのか分からないが、言われた通りに開けてみる。すると、クチバシに金のエンゼルが刻まれていた。

「ほら、やっぱり」

「すごい確率を相変わらず確定の様に引っ張って来ますね……」

 そんな彼女なりのサプライズに舌を巻くのは、目を伏した一人の少女。フロラシオン【叡智】こと水稲栞。

「またまたー、スイちゃんもばっちり計算してきたんじゃない?」

 その演算能力は運を引き寄せる福音を持ってしても脅威であり、こうして常に目を閉じて情報を遮断していないと予想したくない未来まで見てしまうほどなのだ。

「たしかにお菓子作りは化学、則ち計算の世界です。しかし味覚に対するリアクションというのは主観が大きく関わるのでとても計算がしにくいところなのです。サンプルが多いのであれば話は別ですが……」

 栞の話は非常にややこしく、サイコパスキャラを演じなくなり勉強も懸命に取り組んでいるレオナが素でフリーズする程度であった。

「つまりですね、ある式で五十という答えが出た時にそれを多いと思うか少ないと思うかは人によって違うんです。なので私は、個々に可能な限り最高の解答をお持ちしました」

 栞が渡したチョコには渡す相手の名前が記されていた。他のチョコは、大きさから何まで違うという徹底ぶりだ。

「では……答え合わせですね」

 栞は伏せていた目を開く。計算をしているとはいえ、緊張が残っているのか途端にぎこちない表情になる。

「なんだかんだいって女の子なんだから……」

 福音は友達がちゃんと新しい環境に馴染んでいる様で安心していた。

「ところでレオちゃんは本命いるの?」

「本命……ねぇ」

 福音に本命の所在を聞かれたレオナは少し冷めた態度でいた。というのも、彼女の家庭環境自体が熱狂的な恋愛の末路みたいなところがあるので、どうしても恋愛には乗り気になれない。

「何か一つ気合の入ったものがあるみたいだけど? もしかして彼?」

 福音には心当たりがあったが、レオナは否定する。

「陽歌くんなら違うよ。合ってるんだけど。去年、いろいろ迷惑掛けちゃったからさ……。いい奴なんだけど年下過ぎるし男って感じじゃないし……」

「ふーん……」

 レオナの気持ちがどう転がるのか、福音は愉しみにしている様子であった。

 

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 『ギリの義理』

 レオナからのチョコ。まぁ普通はこんなもんじゃない? その普通の尺度ってのがよくわかんないんだけどさ。

 

 『金のエンゼル』

 【福音】からのチョコ。一発で玩具のカンヅメ貰えます。贔屓しているとかそういうレベルじゃないけど彼女から見ればまだ義理の範疇なんだろうか。それともエンゼル、キューピットに何を託したのやら。

 

 『最適解への一石』

 栞からのチョコ。あなたを計算しつくし、最も喜んでもらえるチョコを。計算というと冷たいイメージがあるが、愛情とはどれだけ相手のことを考えたかである。願わくば、来年の為にあなたというサンプルをもっと。

 

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 おもちゃのポッポにいくと、去年と同じでチョコを配っていた。だが、今年はミニ四駆コースで待ち受ける存在がいた。

「待ってたよ」

「なんだ、本命はもう貰えたのか?」

 黒髪を短くした少女、深雪と眼鏡の女の子、雲雀である。

「んじゃ、はいこれ」

 深雪はすんなりとチョコを渡す。こういうことに慣れているのか、かなり綺麗に仕上がった手作りチョコレートがラッピングされている。

「これからもよろしくね」

「そいじゃあ、私からもだ」

 雲雀もついでの様にチョコを渡す。こちらは既製品だが、包装でいくつか小分けにしてある。

「これでゼロは回避だな。おめでとう」

 既に結構貰っているのでとっくにゼロは回避されているのだが、割とそこら中でこんな感じの優しさがばら撒かれている。

 

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 『スタンダードスタイル』

 深雪からのチョコ。特に変哲もない手作りチョコだが、故に彼女は日常の象徴なのだ。

 

 『ゼロを避けるもの』

 雲雀からのチョコ。チョコゼロ回避に一役買ってやるよ、という建前で渡されたのだがそれが本音かやはり建前なのかは彼女のみぞ知る。

 

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 ガラル地方にも似た風習は存在する。この世界はアルファベッドに似た姿をしたアンノーンが古代文字を模っているとされる、存在しないはずの生物の名前がポケモンの分類に使用されている、など基礎世界の未来なのではと思わせる部分が多い。

「で、わざわざ異世界からご苦労なこった」

 ピンクブラウンの髪をボブに整え、不慣れな眼鏡を直すのはシャル。去年までの彼女ならこんなイベント、と唾棄していただろが、昨年の出来事は彼女の感情を大きく変化させるには十分であった。

「ったく……団長や道場の連中の分作って無かったら無駄足だぞ? 隣町感覚で世界線超えるなっての」

 少々乱暴に投げ渡されたチョコは形こそ歪だが、手をかけたというだけで彼女にとっては大きな進歩であった。

「……義理だからな?」

 シャルは最後にそう言い残した。

 

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 『エキスパンションパス』

 シャルからのチョコ。人生がクソゲーに終わるか神ゲーに変わるかは、出会いというDLCに左右されるのかもしれない。シャルの人生は適応済みである。

 

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 ユニオンリバー店内では、いつもイベントごととなるとワイワイ客も巻き込んでのお祭り騒ぎになる。こんな時勢でもそれは変わらず。四聖騎士姉妹もそれぞれチョコを用意していた。というかこの面子にチョコを用意する甲斐性があったこと自体に驚く人が多いかもしれないが、カティやアステリアなどが作るので一緒に作ったというパターンである。

「チョコ」

 青龍妹、エリシャは普通に渡してきた。これは、何かを模したのだろうか歪ながら見覚えのある形状をしていた。

「陽歌くんのおかげで上手くいった。血が吹き出る」

「おっかねぇな! ってかあいつなに入れ知恵してんだ!」

 同じく青龍妹、レイチェルは常識に乗っ取りながら自身のモチーフである青龍を入れ込んだデザインとなっている。

「まぁ、猫科故に味は保証しませんが」

 白虎妹、リウも流れる様にチョコを渡す。が、それはまぁ瓦の様に大きく分厚い代物であった。

「よく固めたなそれ……」

 レイチェルはただ呆れるしかなかった。

「ピヨ……」

 一方朱雀長女の雲雀は何をしていたのかすっかり忘れていた。近くにいた陽歌がこっそりカンペを出し、思い出させる。文字通りの鳥頭。数歩でいろいろすっぽ抜けてしまう。

「あ、これこれ」

 雲雀が渡したのは鳥の卵を思わせるチョコトリュフ。少しレシピからアレンジが加わっている。

「おらー! 喰らえー!」

 青龍末妹、クロードは来る客来る客の口にビーダマンを用いてチョコボールを丁寧に叩き込んでいた。この勢いで打ち出すものを口に入れると喉に詰まらせるのでいい子も悪い子も真似しないでね。ユニオンリバーは常連客も特殊な訓練を受けています。

「これでどうだ!」

 そしてこちらに放たれたのは腕に装備する大口径のサブウエポン。それ様に相応しくチョコボールも大きくなっている。

「チョコー……」

 一連のドタバタが終わったところにやって来た玄武長女、凛がチョコを渡す。マーブルチョコに代表されるカラフルなこれは糖衣チョコというものだが、これを手作りしたのか。ラッピングが手製で市販品にはない玄武マークが一つひとつ入っているので信じがたいが手製だ。

「いやー、みんな個性的ですね」

「ぶっ飛び過ぎて個性的の域超えてんぞアホ姉」

 笑っている青龍長女エヴァに対して、この無秩序ぶりに頭を抱えるのは青龍末妹ヴァネッサ。

「んじゃあ私も。いつもみんなが世話になっているから特別だよ」

 エヴァがしれっと渡してきたのは、某コアラの描かれたお菓子をいくつか個包装にしたもの。なんと、レアと呼ばれる眉毛コアラ、盲腸コアラのセットだ。

「いやー探すの大変でした」

「お前運を操る奴が知り合いに二人いて自掘りしたのか……」

 しれっと自力でレアを探し当てる姉にヴァネッサは畏怖を覚えた。暇人なのかそれともマメなのか。

「こういうのは過程が大事なんです。結果だけ求めると死という真実にさえ辿り着けなくなりますよ?」

「そういう問題じゃ……ええい、なんかこのまま後手に回ると全部印象持ってかれそうだ!」

 ヴァネッサはこの濃い連中に負けじと、勢い任せにチョコを渡す。ハート型というベタな構成であったが、このカオス極まりない状況では最早癒しであった。

「はいこれ、義理だからな!」

 ぐいっとチョコを押し付けると、ヴァネッサはそっぽを向いてしまう。耳が若干赤くなっていたが、それに彼女は自分で気づけただろうか。

 

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 『ブラッティマリー』

 エリシャからのチョコ。喜ばれるチョコは何か、自分が貰って嬉しいなら相手も嬉しいかも、そうだ血を出そう。という三段論法の結果完成。生物に精通した陽歌の監修により、臓器を正確に模したウィスキーボンボンとしてその想定を叶えることとなった。

 

 『ドラグーンマーク』

 レイチェルからのチョコ。義理ではあるが軽すぎず重すぎず、手作りで自身のモチーフを作るという真人間ぶりを見せている。やっぱ普通が一番。

 

 『ソリッドショコラ』

 リウからのチョコ。自分より弱いものには靡かない、そんな信念の表れとして自身に噛み砕ける限界の硬さを目指した代物。どうやってそんなに硬くしたのか不明だが単純なモース硬度ではダイヤモンドに匹敵しつつ、元素の密度から叩いても砕けない始末。どうやって加工したんだか。

 

 『ここぞの一発』

 クロードからのチョコ。補充の効かない大口径サブウエポンを模したこのチョコをあなたへ撃ちだしたその理由は、「確実に仕留めるため」。それ以上でもそれ以外でもない。

 

 『記憶の卵』

 雲雀・クリムフェザーからのチョコ。忘れっぽい彼女としては、せめて相手に覚えていてほしい。だから食べた後も記憶に残るものを。そんなささやかな願いが篭った朱雀の卵である。

 

 『遅くてもじっくりと』

 凛からのチョコ。手で溶けない糖衣チョコはスロウリィな凛にピッタリ。それは食べるだけでなく包む時も同じ。ちなみにチョコの生産ラインは天導寺重工にお借りしました。

 

 『掘り当てる幸運』

 エヴァリーからのチョコ。運を操る仲間の力を借りず、自ら引き当てた酔狂な逸品。送られる相手を愉しませることはもちろん、自分が楽しむのも大事なこと。開封作業は3カートン目から地獄と化した。

 

 『ライオンハート』

 ヴァネッサからのチョコ。義理なんですか? 本当にこれ義理なんですか?

 





 2020年の再挑戦者
 浅野ルシア

 所属:TCユニオンリバー
 能力:怪獣使いレイオニクス
 イメージカラー:蒼銀
 使役怪獣:地殻怪地底獣ティグリス(トミー)、熔鉄怪獣デマーガ、猛禽怪獣グエバッサー

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