騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 退魔協会のS級退魔師、カラスに与えられた任務は一つ。悪魔城へ侵入し、内部を偵察せよ! 簡単な任務だ、この程度でS級序列三位を派遣する必要も無いと思うが、念の為……。
 勝利条件:悪魔城最深部への到達
 敗北条件:なし


ステージ2 悪魔城潜入

 渋谷では、まだ夕方にもならないのにハロウィン目的の若者が集まっていた。今年は周辺での酒類販売を各店舗が自粛したのだが、結局違うところから持ち込んでいるので意味を成さない。

「あー、せっかく東京来たのにやることが馬鹿の世話かよ……」

「帰りにアキバとガンダムベース寄って報酬でレアもの手に入れようぜ」

 ユニオンリバーに縁のある若者がここである仕事をしていた。渋谷区は警察だけでは心許ないと、各地から腕利きのトラブルコンサルタントを集めてきたのだ。

「トラブルコンサルタントのいいとこは腕さえあれば副業でがっぽがっぽなとこだ。そう思うだろう?」

「いや本業はGBNのテスター兼ライターなんすけど……」

 ある一人の若者は大掛かりな機材を手に、渋谷の馬鹿騒ぎを撮影録音していた。GBNとはガンプラを用いた大人気オンラインゲーム『ガンダムネクサスオンライン』のことである。その様子を一人の若者が疑問視する。

「それなんか意味あるの?」

「おおよくぞ聞いてくれた提督殿。こいつは群衆の行動データを集めるなんか凄い機械だ」

「群衆の行動データ?」

 その機械はただ映像や音声を記録するものではない。その動きや会話を記録し、個々の行動を解析してCPUの行動パターンへ変換するものだ。結構凄い道具で高価な機材なのだが、これを持ち出せる程度にこの若者はGBNの運営内で力を持っているのだろうか。

「ま、この馬鹿の行動をまんまコンピューター上に再現できるってことだ」

「それなんか意味あんのん?」

 わざわざ馬鹿をコピペするという無駄な作業。若者の一人はこの行為の意味を聞いた。せっかくコピーするなら聡明な人物の方が良さそうな気がしないでもない。若者はある名言を引用して説明をする。

「ああ、こういう言葉を知っているか? 『俺たちが映画の真似をするんじゃない。映画が俺たちの真似をするんだ』ってな」

 よく過激な犯罪が行われると映画やゲームのせいにしたがる大人は多い。しかし実際には実在の事件をモデルに映画などが作られていることが多い。そしてゲームなどに影響されて犯罪を起こす様なおつむでは例えゲームが無くても他の創作物に影響を受けただろう。

「どんなに取材を重ねて研究を繰り返しても、作者以上に頭のいいキャラが作れないのと同じで作者の予想を超える突飛な馬鹿は作れない。なら直にコピペしちまおうって寸法だ」

「それ実装すんのか?」

 この馬鹿集団をGBNに実装する可能性があると聞き、自分もプレイヤーである若者は心配になった。ただでさえネットゲームは民度が大事なのに、NPCまで馬鹿になっては困る。

「モビルスーツで吹っ飛ばずムカつく小市民役にはおあつらえ向きだ。的は腹立つくらいがちょうどいい。貴殿もバイアランのサーベルでここの馬鹿を焼きたいだろう?」

「なんだ的か……ならいいか……」

 そんな他愛も無い話をしていると、スクランブル交差点の中心に何かが降りてきた。人々はスマホを向け、その様子を録画する。それは仮面を被った、合唱団の正装をした少年だった。彼は地面に降りるなり、雑踏の中でも聞こえる声でフランス語の歌を歌う。

「なんだ?」

 それを聞いた人々は口から黒い玉を吐き出し、次々に倒れていく。若者二人は何ともなかったが、倒れた人の様子を確認して戦慄する。

「し、死んでる……」

「マジで?」

 一応、救急法を習熟している若者達だったが、すでに死んでいては意味がない。二人はすっかり青ざめるが、とりあえず逃げることにした。

黒い玉と褐色の液体が入ったカップを持って浮遊し、その場を離れる。渋谷でも騒動が巻き起こっていた。

 

   @

 

復活した悪魔城に駆けていく一人の人物がいた。背中までの銀髪をツインテールに結った、赤い瞳の少女であった。あどけなさの残る顔立ちに反して成熟した身体を赤い軍服の様なジャケットに包んでいる。軽やかに動く度、短いスカートが翻る。

退魔協会所属、Sクラス序列三位の退魔師である少女、カラスだ。彼女は持ち前の身体能力と隠密性を生かし、道中のサーチライトによる監視を無視して突っ切り、城への跳ね橋も下ろすことなく侵入に成功する。

「ここまでは余裕か」

状況を見て、彼女は周囲に警戒を払う。以前の様な無様は晒せない。たかだか水子に叩きのめされ、素人に事件を収められるなど。

(私は特別なんだ、あの程度で負ける様なら、私の存在価値は無い……)

挙句、頭に血が上って市街地で最上位の魔剣を解放するところだった。あれは成り行きで共闘していた相手に殴られても仕方ない。こんな情けないことはない。今までの戦闘経験でも特に恥ずべき失態だ。

(傷は癒えた。言い訳にはならない、私はドラキュラを倒すだけだ)

カラスはただ、無駄な戦力を消耗することなく城内を駆け巡る。これがただの城ならばその猛威を振るっていた当時に無かった最新の攻城兵器で潰すだけだ。だがそれは向こうも予測しているのか、人質を用意していた。

ロウフルシティと渋谷にいた多くの若者の魂、そして一般人の女性一人。正直、本来なら百年に一度の復活しかしないはずの悪魔城が異例の復活を遂げたこと自体危惧すべきことであり、人質の命など無視して城ごと早急に破壊してこれ以上のイレギュラーを起こさない様にすべきというのが協会の考えであった。

カラスはそれに賛同するフリをして、斥候を買って出ている。が、本心では単独で突入して事件を解決するつもりであった。今は世界が闇に包まれるか否かの瀬戸際故に、この程度の犠牲で事が済めば御の字というのが協会の主張だが、彼女は人間を守る使命を果たすためそれを実行させるわけにはいかなかった。

(まったく、これだから低ランクの退魔師は……)

組織という思わぬ枷に苛立ちを見せるカラスは迷わず最上階の玉座の間へ、ということはしなかった。玉座の間は外に露出した長い階段が続く、千変万化の悪魔城で最も変化の無い空間でドラキュラは大体そこにいる。しかし最近はドラキュラも瞬殺を避けたいのか捻りを加えてくることが多い。

(しかし、あのオペラハウスは何だ?)

来る途中も疑問に感じていたが、悪魔城の上にオペラハウスが乗っかっているのだ。これは一体何事であろうか。いくら変化の多い悪魔城でも、それは内装の話。外装にこんなトンチキな変化が起きるなど、やはり今回の復活はイレギュラーであるということなのか。

(惑わされるな。基本は一緒だ)

だが、退魔協会には過去何千年にも及ぶ悪魔城との戦いの記録が残っていた。外から魔力波形を観測するだけで城の傾向をある程度は把握出来る。こういう記録の閲覧が出来る点だけは組織にいてよかったと彼女は思った。

(観測によると『逆さ城』と『裏悪魔城』が両立する珍しいパターン。つまりこの悪魔城は『表悪魔城』、『裏悪魔城』、『表逆さ悪魔城』、『裏逆さ悪魔城』の四つで構成されている)

もっとエリアを細分化することもあるが、大雑把にはこの様な構成になっている。

(そしてそれぞれを行き来するための境界にロックが掛かっている。これは面倒ね)

ただでさえ広大な城が四つ分存在するという事実。どこにドラキュラがいるか分からない上に恐らく鍵は強力な配下に守らせているのだろう。一時期、伝説のヴァンパイアキラー一族により悪魔城攻略が最適化し、復活の度に何も出来ず倒されるという事態が続いたからなのか向こうも警戒心マックスだ。

「まぁ、私には意味無いのだけれど」

カラスにはこういう時の為の切り札があった。まずは適当な魔物を探す。悪魔城の魔物は全てがドラキュラの配下というわけではなく、その魔力に惹かれてやってきたり膨大なエネルギーの影響で具現化しているものなど多岐に渡る。

(亡霊系じゃなくて魔獣系とか悪魔系はいないのかな?)

あちこちで見かけるスケルトンや彷徨う鎧ではダメだ。魔獣に分類されるノミ男やコカトリスでも当てはまらない。彼女には求める条件があった。お目当ての魔物を探すこと数分、ようやく半魚人の様な魔物、サハギンを見つけ出す。

「さてと、柄じゃないけど……」

カラスは少し照れ臭そうにしながら、サハギンに向かって声を掛けた。

「ねぇ、そこのあなた」

ジャケットのボタンを緩め、スカートの裾を摘んでほんの僅かにたくし上げながら妖艶な微笑みを向ける。

「私と、いいことしない?」

サハギンはふらふらとカラスの方へ向かっていく。これは魅了の技、すなわちチャームである。サハギンの様に、魔獣に類する悪魔は多くの人間がメスの動物に欲情しないのと同じで別種の悪魔に劣情を抱かない。しかしサキュバスによる魅了だけは例外だ。精神的な耐性が低ければあらゆる知性体を誘惑出来る。

加えて吸血鬼にも魅了のスキルはあるので、純血の夢魔でないからその力が落ちるということは無い。それどころか二種類の魅了によるシナジーが働いて純血種よりも厄介なものへ変化している。

「さぁ、こっちへ来て。みんなには内緒よ?」

カラスはじっとりとサハギンを見つめ、甘い言葉を聞かせていく。サハギンはカラスにジリジリ近づくが、彼女に触れることが出来ずに倒れてしまう。イビキをかいて眠ってしまったのだ。誘惑と同時に催眠もかけていたのだ。

「さてと、これ恥ずかしいからあまりしたくないんだけど……」

作戦は成功したが、カラスは耳を真っ赤にしていた。能力があるのと抵抗なく行えるのは別の話だ。手練れの夢魔は姿を見せるだけで魅了を発揮出来るが、合いの子である彼女は『誘惑しよう』と思わないと出せずコントロールが苦手だ。

おまけに斥候として侵入しているせいか、彼女の動向は殆ど観測している組織側に筒抜けだ。テレパシーを感知されない様に送受信する情報は最低限絞っているが、見られていると思うと恥ずかしい。

「さて、ここからが本題」

カラスはスカートの中から細い尻尾を伸ばす。その尻尾は黒く、先端が鏃の様になっており『悪魔の尻尾』というイメージ通りのデザインだ。

尻尾を眠ったサハギンの頭に突き刺し、中から雲の様なものを引きずり出す。これが夢への入り口だ。

「悪魔城、切り崩させてもらう」

カラスはその中へ飛び込んだ。目的はこのサハギンが見ている夢ではないので、その空間はさっさと通り過ぎることにした。誘惑した後の夢は大体正視に堪えないので、聴こえてくる自分の甘い声も忘れる様にしている。

(私は絶対あんな声出さない……!)

あくまでこれは誘惑をモロに受けたサハギンの夢なので妄想に過ぎない。と分かってはいても自分の歌を録音して聞く様な恥ずかしさがある。

(さっさと次の夢へ行こう)

カラスの計画はこうだ。催眠で寝かした悪魔の夢を起点に、悪魔城中の寝ている悪魔の夢を経由して四つの城を行き来する。

「あれ?出口どこかな……?」

駆け足で去る予定が、出口を見つけられずに狂ってしまう。反対側を探そうとすれば恐らく自分のあられもない姿を見ることになるだろう。しかしここは個人的な恥じらいより世界の命運、後で忘れることを決意して振り向いた。

「……」

そこではカラスの予想していた様な情事は行われておらず、サハギンがクッキーを乗せた皿を手にしていた。夢の存在であるカラスはそれを膝立ちで食べさせられていた。

「やだ……お口の中がパッサパサ……ミルクちょうだい」

「何食わせてんの?」

いちいち扇情的な態度を取る夢カラス。一体どんなプレイだと本体も困惑する有様だ。サキュバスは獲物に合わせて姿が大きく変化するのだが、獲物の性癖がおかしいと苦労するらしい。純血ではないカラスは微調整止まりで自在に変化出来ないことをコンプレックスに思っていたが、こういう問題を考えると良かったのかもしれないと思ったりした。

謎プレイは無視し、夢の世界を出る。悪魔城内で眠っている悪魔達の夢が宇宙の様に広がる空間へ飛び出すと、意識を集中させて魔力を探知する。ドラキュラが余程臆病で悪魔城に存在するという絵画世界や鏡面世界に潜って無い限り、彼クラスの邪気ともなれば夢世界経由でも探知出来る。

これは特段、ドラキュラが気配の隠匿を苦手としているというわけではない。人の悪意の総体である彼の邪悪さは城の中まで入ってしまえば隠せるものではないという理由がある。本気で隠そうと思えば城ごと隠れる勢いの大規模な隠蔽魔術が必要であり、魔の貴族たる彼が城を蘇らせるレベルで復活しておいて隠れるというのも性格的に考えにくい。

よしんば痛い目を見た経験から城の最奥に鎮座しようとして絵画世界や鏡面世界に隠れようとも、やはり彼の強大な邪気は完全に遮断出来ない。

特に同じ吸血鬼で感知能力に優れたカラスの目を掻い潜るとなると、ドラキュラほど大きな存在だと却って難しいだろう。

「ここね」

カラスはドラキュラの魔力を探し出す。場所は裏逆さ悪魔城だ。まずは逆さ悪魔城で寝ている悪魔の夢へ侵入する。夢経由の移動は予測されていたのか、結界が張られている。

(この程度……)

しかしそこは高位の夢魔とのハーフ、カラスは結界を破壊することなく移動する。結界に穴を開けるなどして傷つけると術者に悟られてしまう。結界突破の基本はセキュリティホールを見つけて密かに侵入することだ。

次に、同様の手順で裏逆さ悪魔城へ移動する。結界のレベルは決して低くはない。ドラキュラの愛妾に高位の夢魔が複数いるのだろう。ドラキュラクラスのカリスマとなれば、悪魔城の魔力に惹かれてやってきたもののいざその姿を目にして当初はそのつもりがなくても心酔しまう者は少なくない。

そうした者の中から夢の中の結界術に秀でた者を複数人使って張ったのだろうが、カラスには意味の無いことだ。先日の水子との戦いは慣れが悪い方向に出て不覚を取ったが、未だ侵入に気づかせない手際は流石、Sクラス序列三位。

(汚名挽回だ。真祖の系譜ではない人の悪意が集っただけの曖昧な吸血鬼ごとき、すぐに屠ってやる)

カラスはなるべくドラキュラの居場所に近い夢を探す。汚名挽回は用法として間違っているが日本人ではない彼女にとって、日本語は難しく問題無く会話するだけでも大変だ。日本語で記された書類は魔法でミームを取り出して読むという有様。

(大分距離が空いている、というより面倒だな……。普通の配下や野良悪魔が入れない場所に陣取っている)

ドラキュラの位置は発見した。裏逆さ城における頂上、地下の最奥だ。しかしその周囲には配下である悪魔がいない。

一旦現実に出てからそこへ向かおうにも、ドラキュラのいる地下エリアへ通じる道には更なる結界が施されていることが夢の中からでも感知出来る。これまたかなり厳重な警備だ。夢の中の結界なら容易に破れるカラスでも、現実に本気で貼り付けた結界を解くのは骨だ。おそらく結界の解除に取り掛かった瞬間、術者に悟られて敵を送り込まれてしまうに違いない。

有象無象など蹴散らすのに苦労はしないが、人質の救出という目的からすれば無駄な騒ぎは避けたい。

(だが失策だったぞ、ドラキュラ)

万策尽きたかの様に思われたカラスだが、彼女はドラキュラが『一般女性』を魂ではなく生きた状態で人質にしていることを忘れていなかった。

 

   @

 

悪魔城の最奥には、表悪魔城の頂上にあるものと殆ど同じ構造の玉座の間があった。違うのは月明かりを取り込む窓が無く、天井も低めで照明が薄暗い蝋燭の火のみという点くらいか。だが、蝋燭は溶けてこそいるがそれ以上蝋が溶ける様子を見せず、明るさも小さな火とは思えないほどしっかり確保されている。

職人が木材に丁寧な彫刻を施した、座面の赤いソファにミリアは座らされていた。死神に攫われ、人質になった彼女を待っていたのは思いのほかな高待遇であった。

二人掛けの座席に、寝そべる様な姿勢を取らされる。座面の座り心地もさることながら、彼女の身体を支えるためにクッションがいくつも用意され適切な場所に置かれている。

「これ手作りなんだ、クオリティ高いね。今度一緒にコミケ出ない?」

ミリアはドラキュラの選んだ、というより作った衣服を着せられていた。黒いエプロンドレスで、メイドを意識したものだと思われる。だがスカートの丈が短いばかりか、オフショルダーに加え袖も肘上までしかないので肩や腕も大胆に露出している。脚はタイツに覆われているがデニール値が低く素肌の色が透け、網目の様な模様もある。

ヘアアレンジは弄られていないが、サイドテールを結い上げる髪飾りも赤いジュエルが輝く蝙蝠の翼を模した物になっている。ドラキュラ拘りの、本物のルビーを使ったアクセサリーだ。

コスプレを趣味とする者として見逃せない技術を感じたミリアはあろうことかドラキュラを勧誘するが、死神が諌める。

「口を慎め。貴様自分の立場がわかっているのか?」

ドラキュラは王座でワインの飲みながら死神が連れてきたミリアを眺める。自分の作った衣装のデザインもさることながら、彼女の美貌が際立つ。

「ふん、やはり黒はいい。黒は女を美しくする……」

「メイド服かぁ……」

首のチョーカーやブレスレット、左脚のガーターリングは皮のベルトになっている。黒いエプロンは背中の結び目がコウモリの翼みたいになっている芸の細かさだ。

「うちの社長とは合わないんじゃないかな? メイドといったらロングスカートの人だし」

「え、いいだろミニスカ。ダメなの?」

 女性は貞淑たれという時代の人間なので、ドラキュラはミニスカートの衝撃にやられて以来、固執する様になった。ビキニとか見せたらもうダメそうというかお前は思春期の中学生か。

「いや、拘る人は拘るから戦争に……戦争に……」

 ドラキュラとコスプレ談義を交わすミリアだったが、急にうとうとし始めて忽ち寝息を立ててしまった。それと同時に、彼女の頭から靄の様なものが出て、その中から一人の少女が出現する。

「誤算だったなドラキュラ。一般人を連れ込んでいなければ眠らせて夢を伝うことも出来なかっただろうに」

 その少女は、カラスだった。彼女は玉座にいるミリアの意識に潜り込み、眠らせて夢を見させることで出入口として使用したのだ。

「この魔力、小娘、只者ではないな?」

「お前はここで死ぬ。百年後にまた会おう」

 カラスはドラキュラに向かって飛び掛かり、魔剣を振り下ろす。しかし伯爵は姿を消して回避した。それと同時に、死神が小さな鎌を飛ばして援護してくる。

「ふん、小細工を……」

それを剣で弾くと、物陰から包帯が複数飛んできてカラスを拘束しようとしてくる。それでも間一髪で避け、床に着地する。が、急に身体が石の様に重くなって動けなくなってしまう。

「くっ……なんだ?」

 なんと、いつの間にか髪の毛と下半身が蛇の女が目の前に現れ、鋭い眼光を飛ばす。

(悪魔城四天王……メドゥサか……!)

 見つめられると石になってしまう目を持つ悪魔、メドゥサ。しかしカラスほどの者なら石化はしない。それでも、身体が僅かに固まってしまう。

 行動できなくなったカラスの手足に向かって、先ほどの包帯が飛ぶ。両手脚を包帯に絡めとられ、更に身動きを封じられた。それをしたのは、ミイラ男であった。

(同じく四天王、ミイラ男?)

 完全に動けなくなったカラスへ、飛び掛かる影があった。それは狼男であった。さらに遠くからは継ぎ接ぎの化け物、フランケンシュタインが電流を飛ばしてくる。

(悪魔城四天王全員をここに集めたの?)

 まさかの思い切った戦術にカラスは驚愕する。それ以外にも、おおこうもりや赤いコウモリの群体『バットカンパニー』、白い人の様なものが集まった団子の化け物、同じく球状になっているがこちらは骸骨の寄せ集めであるもの、両脇に浮かぶ剣を携えた空飛ぶ鎧、オーケストラの指揮者らしき恰好をしたイナゴの様な悪魔が集まっている。なるべく回せるだけの戦力を回したということなのか。

「さぁ死ね! 遠慮なく!」

 ドラキュラは炎の弾を連射し、死神も鎌を手に迫ってくる。イナゴの悪魔も大量のイナゴを放った。絶体絶命のピンチである。が、彼女は最初こそ驚いたものの冷静であった。

「この程度……!」

 カラスはまず自分を拘束しているメドゥサを睨み返す。すると、メドゥサの眼球が潰れて血を吹き出す。彼女は金切り声を上げて顔を抑える。石化の魔眼に対し、自身の魅了の魔眼を最大出力で放って跳ね返したのだ。これで身体の自由は一先ず取り戻した。

「ふん……!」

 そして手足を拘束しているミイラ男を、包帯ごと力任せに振り回してフランケンシュタインにぶつける。空気を切る音が聞こえるほどの速度だったので誰もミイラ男がフランケンシュタインまで向かう軌道を見ることが出来なかった。ぶつかった二人からはへし折れる様な音がする。

包帯をちぎると即座に、自分に接近してくる敵を狼男、おおこうもり、バットカンパニー、空飛ぶ鎧の順に一撃の下斬り伏せる。狼男は上半身と下半身が泣き別れ、おおこうもりは縦に真っ二つ、間に挟まったドラキュラの火炎弾も容易く弾かれ、バットカンパニーは剣が纏った光に呑まれて一瞬で全滅し、イナゴの群れは手の平から放った炎で焼き尽くし、鎧は咄嗟に剣で防いだものの、二本の剣ごと無理矢理叩き潰された。

「貴様……!」

 さすがの死神はカラスと切り結んだが、一気に手勢を倒された事実は覆らない。四天王と呼ばれたほどのレベルを含む悪魔が四体も瞬殺され、残る四天王も死んでこそいないが重傷を負っている。

「この程度で私を倒せると思わないで」

 カラスが力を込めて思い切り剣を振り抜く。力負けすると判断して避けた死神だったが、剣からは斬撃が飛んで昏倒しているミイラ男とフランケンシュタインに命中、二体を纏めて爆散させる。

「しまった……! 貴重なおおこうもりさんが……」

「なぁ、これマズくない?」

 死神は現実から逃げる様に、おおこうもりの死だけを悼む。ドラキュラも旗色の悪さを感じていた。その隙に、カラスが指を鳴らしただけで団子の化け物は二体とも発火して瞬間的に灰と化す。

「レギオンセイントー! レギオンコープスー!」

「え? なにレギオンって二種類いたの?」

 死神はその死を嘆くが、自分の配下に派生種がいたことにドラキュラは驚いていた。イナゴの悪魔は怯まず攻撃を続ける。

「奏でよう、レクイエムを!」

 カラスの四方八方からイナゴの群れが襲い掛かる。だが、彼女はこのおぞましい光景にも全くたじろぐことは無かった。

「知らない? レイクエムはモーツァルトの最期の曲なのよ?」

 彼女の周囲に猛吹雪が巻き起こり、イナゴは凍らされて風の力で粉々にされていく。そして、その吹雪の中から雷鳴がイナゴの悪魔とメデゥサに向かって放たれる。玉座の間を眩いばかりに照らしたその雷は、光が晴れると同時に命中した二体を黒焦げにして殺していた。

「はわわ……アバドンはおろかメデゥサまで……」

「何がはわわだ!」

 慌てる死神をドラキュラが叱る。せっかく立てた作戦も相手の規格外な強さに台無しだ。

(こうなったら最後の手段です、ドラキュラ様、今から奴に隙が出来ます。絶対逃さないように!)

 死神がとっておきの作戦を提示する。相手の地獄耳を警戒して詳細は伏せられていたが、ドラキュラは何百年もの付き合いになる腹心を信じることにした。

(なんだかよくわからんが、やるぞ!)

 露払いを終え、ドラキュラを倒すべく向かってくるカラス。彼女の聴覚は二人の内緒話をしっかり聞いていた。だが、自分に隙が出来るとは思っていない。死神はマントからあるリモコンを取り出してボタンを押す。

『×××が×××!』

「な……なに?」

 カラスは自分の付近からとても下品でくだらないジョークが聞こえ、一瞬混乱する。たしかに一瞬隙が出来たが、本当に一瞬だ。攻撃の手を休めるほどのものではなく、この瞬間に攻撃を受けても対応できる程度のものだった。

 だが、『本命』は後からやってくる。何かが彼女の身体を吹き飛ばしたのだ。カラスが反応出来ないほどの速度で、それも壁に叩きつけられてようやく気付く様なスピードで。

「っ……!?」

 壁は大きく凹み、彼女はあまりの衝撃で息が出来なかった。か細い身体が軋み、全身が砕ける音を聞いた。何か、生暖かい液体が全身に浴びせられている。

 ドラキュラは死神に言われた通りこの隙を逃さず、地面にカラスが落ちる前に抱き留める。そして、服を無理矢理はだけさせると首筋に噛みついた。容赦なく血を吸い、その白い柔肌に己の痕跡を残す。

(しまっ……!)

 これはただの吸血行為ではない。支配の契りと呼ばれる刻印だ。これを施されれば相手の虜となり、心を、意思を奪われる。

「うぁ……」

 カラスは身体が火照り、メドゥサの魔眼などよりも強く身体の自由が効かなくなる。もはや指先一つ動かすことすらままならない。頭がぼやけ、胸が高鳴る。今意識を失えば、次目を覚ました時は自分が自分で無くなっているだろう。ドラキュラに心酔する、魔の眷属になってしまう。

「お休み、レディ。私の物になるといい」

 ドラキュラは高らかに勝利宣言をする。例え配下を一掃しても底知れぬ存在、ここに悪の総帥たる力を見せつけた。

「ふふ……とりあえず『邪魔者』は消えたね」

 その様子を亡霊の少年はスマホで写真に撮り、インスタグラムに投稿する。これにより、敵にドラキュラの脅威を知らせつつ人質が増えたことを外に伝えられると死神に提案して承認された作戦であったりする。

 希望であるS級退魔師が敗れ去った今、人類に望みは残されているのか? いや、まだ彼らが残っている。騒動喫茶、ユニオンリバーが!

 




 プレイアブル解説

 カラス
 膨大なHPとMPを持ち、圧倒的攻撃力で敵を殲滅できる。多彩な魔法も使え、例え耐久属性の最弱クラス魔法でもボス級エネミーのHPをごっそり持っていくことが可能。武器攻撃でもものの数発でボスを消せるほどの力を持つ。攻撃を受けても高い防御力で殆どダメージにならず、陽歌を凌駕するHPリストレイトで常に満タンのHPを維持出来る。MPにもハイペースのリストレイトがあるので魔法だって使い放題だ。
 こんなに強くて、負ける要素なんて見当たらないのだ!

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