騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 アルファポリスにて『ダメ忍者に恋なんてしない』連載中!
 普通の女子高生、望月ひなかの前に現れたのは、祖先に仕えていた義手萌え袖忍者? 義手萌え袖のパイオニア、級長の新作現る!


第三の男

 陽歌は自身の義手を製造している天導寺重工の支社に呼び出されていた。再生治療が主流となった現代においても彼の様に遺伝子疾患でそれが選択出来ない者もおり、その為の技術発展に陽歌は義手のモニターを行うことで協力していた。

 そして今日、彼のデータが用いられた義手が一般人の手に渡ることとなった。

「おや、君も呼ばれたんですか?」

「あなたは……」

 その場には、白楼高校の生徒、継田響もいた。彼の義手も技術体系の根本が違うとはいえ、メンテナンスを同社に頼っている。二人とも義手を隠す様に服の袖を余らせるので、義手萌え袖と化している。

 響はアタッシュケースを開け、中身を陽歌に見せる。

「これが記念すべき市販品一号、『弐一正式機腕SEKI―LOW』だ。君の義手は粗悪な無線脳波制御義手のチップをフォーマット、月のナノマシン技術でエヴァリーら四聖騎士の旧式化した腕部パーツを接続したものだった。そこから安定して生活用義手として調整を加えた『十九式試製機腕アーリーアガートラム』、それをベースに新規製造した『弐〇式プロトアガートラム』を経て遂に一般流通に耐えうる商品に仕上がったわけだ」

 当然、一般流通に乗せるのでスペックは大幅なデチューン、壱九式に採用されていた握り込むタイプの血圧計、弐〇式に内蔵された指を外すことで使える体温計はオミット。

生産性と堅牢さを重視した結果、本社にパイプのある自分はともかく普通の人が壊れたら修理に時間が掛かって困るだろうと陽歌の要望で取り外されたのだが、社長が駄々をこねたので説得に時間が掛かった。

 ちなみに彼の現在使用している『弐〇改式試製機腕プロトアガートラムⅡ』はそのどちらも内蔵した上で翳すタイプの体温計も増設された。

「しかしボクが注目していたナノマシンによる自動サイズ調整機能、これも定期メンテ時に身体データの反映による変異のみにするとは、思い切った仕様だね」

 陽歌の義手は彼の成長に合わせ、生身の肉体ならばこうだったであろう長さと重さへ変化する。それも不意の事故や変異を防ぐため、メンテナンス工場でロックを外してその際に調整される様になった。

「それでも本体を成長に合わせて買い替えるよりは安く済むので、とにかく安定性と堅牢性の向上に終始しました」

「なるほど、君ならではですね」

 全部乗せやロマンを好むユニオンリバーのメンバーに対し、陽歌はそこに必要なセンスを磨けていないことや、外側からリスクを眺める機会の多さ故に全部乗せと安定を両立する加減の見極めに力を入れている。製造メーカーや技師とすぐにコンタクトが取れ、テストを行う自分のものは可能な限りの機能を乗せて耐久テスト。逆にそれらとの繋がりを持たない一般仕様は修理が必要な機会自体を減らしていく、という設計思想になった。

「失礼いたします」

「おや、来てくれたようですね」

 ひょっこりと顔を出したのは、柿色のマフラーを身に着けた少年であった。歳は小鷹達と同じくらい。奇妙なことに、響や陽歌の様に中性的を通り越して女の子に見えなくもない顔立ちという共通点があった。

「どうも、拙は鼓と申します。新しい義手を作っていただき、感謝いたします」

 今までの義手は壊れてしまったのか、左腕の肘から下は袖が空っぽになっている。右腕は現存とはいえ、不便には変わりないだろう。

「触覚の導入には身体にチップを埋める必要があるから出来ないけど、それ以外は生身と大差ないよ」

「触覚は以前も無かったので大丈夫です。これで……」

 義手を装着すると、あっと言う間に動き出す。かなり装着やリンクも簡易化され、かなり今までの運用データが活かされている。アスルトの技術もあるが、実際に使う人間がいないと改善出来ない部分は多い。

『システムアラート! システムアラート! 社内に侵入者あり! 迎撃態勢を整えて下さい!』

「何?」

 突如、警報が社内に鳴り響く。同時にスマホから通知が流れる。鼓はスマホを持っていないのか、警報におたおたするだけであった。

『臨時ニュースをお知らせします。東京付近に謎の施設が出現。そこから各配信サイトにて代表者が声明を発表しています』

 動画では東京付近の海上に出現した巨大な建物を報道ヘリが撮影したものが流れていた。湾を埋め尽くすほど大きな浮島であり、白を基調とした神秘的な外観が特徴であった。

「これって、例の病院島?」

「いや、あれは粉みじんに吹き飛んだはず……」

 陽歌は以前、都知事が秘密裡に作っていた島を思い出すが、あれはモデルXと一緒に吹っ飛んだ。なのでこれは違うものだ。

『我々は、救世主を迎える者……メシアン』

 動画で配信している声明では、司教っぽい老人が話をしていた。

「キリスト教の関係?」

『我々メシアンはこの地球で信じられていた宗教とは全く異なる、真の救世主をこの世界に迎えるのです。神秘や怪異の存在を秘匿していた対魔協会は何者かの手によって滅びました。これからは、我々メシアンの戦士、テンプルナイトがあなた方神を信じる者を守ります』

「んじゃあ、あの惨劇はこいつらが……」

 響は口でこそ無関係と言っているが、このメシアンが以前起きた対魔協会本部での殺戮を行ったと予想した。

「なんですかなんですか! コラボ回だから平和って聞いてたのに!」

「あー、そういえば一応これ番宣でしたね」

 番宣のつもりで来た鼓はストーリー進行に巻き込まれて混乱する。多分世界観も違うのに大変なことだ。放送でテンプルナイトの要求が社内に伝わった。

『我々の要求は、転輪する2020年を打破した者、浅野陽歌との対決です。それが認められれば、無用な危害は加えません』

「女の人……? 僕を?」

 陽歌は一応、要求通りに出ていく。ここの社員も強い人ばかりなので、相手の隙を伺う為に要求を呑む振りをしておいた方がいい。

「行くのか?」

「忍の拙が戦わずして……」

 響と鼓も同行する。支社の入り口には、二人の女性が立っていた。二人共青いラインが入った白い衣服を纏っていた。

「よく来たわね。その勇気を称えましょう。私はテンプルナイト所属、六花!」

 茶髪の女性が鞭を携える。放送の声とは別人だ。

「同じく、テンプルナイト所属、楓子」

 黒髪を伸ばした、タイトスカートの女性が放送で陽歌を呼んだらしい。

「日本人名?」

「我々は1990年代末に救世主の到来を信じ準備を始めた者達の末裔です。ですので日本人の系譜もいるのです」

「へぇ……」

 他の宗教から見れば新興の部類に入るのだろうか。などと陽歌は考えていた。

「その力、試させてもらいます。私がお相手します」

「楓子、私じゃないの?」

 前に出る楓子を六花が止める。

「あなた救世主のパートナーなんだしもしものことがあったら……」

「彼からは何かを感じます。救世主を探すことも私の使命ですので」

 なにやら外側から察せられない事情がある様だ。陽歌も刀を構え、相対する。陽歌は楓子から敵意ではなく、試す様な気配を感じていた。六花からも本格的な害意を感じない。本質的には敵ではないということなのか。

「では、参ります」

「よろしくお願いします」

 二人は駆け寄り、剣を交える。鼓にはマジの斬り合いに見えたのか慌てることしか出来ない。

「こ、これは援護した方がいいんですか?」

「いや、向こうは陽歌の実力を確かめたいんだろう。救世主を探す……か、何等かの素質がある人間を探しているみたいだな」

 そう言いつつ、響も銃に意識を向けて援護を考えていた。

(なんだ? このざらつく感じは……。六花って人からは感じないけど?)

 陽歌は楓子から異様な気配を感じ取っていた。悪意とも害意とも違う、楓子の意思とは違う何かがそこにあった。

(剣筋が僕と似てる? いや、経験や訓練で積んだとかじゃなくて、何かに導かれている様な……)

 楓子の正体を探るため、神経を尖らせる陽歌。そのせいなのだろうか、遠くから飛んで来る殺意に気づいた。自分ではない。楓子を狙ったものだ。

「危ない!」

「え?」

 楓子を咄嗟に突き飛ばすと、魔力の塊らしきものが陽歌に直撃する。痛みはないが、身体が冷たくなっていく感触があった。

「バイタルが!」

 響は陽歌の心拍や呼吸が一瞬で止まったという事実を認識する。いかなる手段を用いても科学的には不可能。銃声も何もないのではどこから飛んできたのか分からず、久々に焦燥感に駆られる。

「気を付けて! 呪殺系の呪文を使える悪魔がいる!」

 六花が周囲を警戒する。その時、鼓が大きくジャンプしそのまま飛翔した。

「そこ!」

 マフラーが翼の様に広がり、飛行する。穏やかに羽ばたき、みるみる上へ向かっていく。敵は遥か上空、雲の中だ。

目標を定めて左腕を突き出すと、不可視の糸が虚空を叩いた。そこには鳥と人を混ぜた様な怪物が潜んでいた。

「あ! 効いてない! 何この化け物!」

「よくやった、見えればこっちのもの!」

 響はハンドガンで地上からは見えない敵を狙い撃ち、脳天を貫いた。鼓の背後や翼の羽ばたくタイミングを縫った一撃だったので、彼はびっくりして集中を乱してしまった。

「わぁっ……とと……」

 必死に体勢を立て直し、バタバタ慌ただしく羽ばたいて安全に地上へ降りる。

「ぜー……ぜー……」

「あなた凄いのかダメなのかどっちかにして下さい」

 超常的な技が使えても中身が真人間過ぎて響は困惑する。

「あの子は! 早く心肺蘇生を!」

「ああ、いますぐゆいさんに……」

 鼓に言われ、響は呪いの専門家である友人を呼ぼうとする。

「ふはっ! 死ぬかと思った!」

 が、陽歌は息を吹き返す。

「なんです? 蘇生アイテムでも持ってたんです?」

「いえ」

 響が問いただすが、都知事戦の時の様に蘇生アイテムや事前の蘇生呪文は無かった。が、どういうわけか生き返った。

「確実に死んでいたはず……でもよかった……」

 楓子は安心した様子を見せる。六花は落ちて来た悪魔の死体を見て、襲撃の正体を調べていた。

(ケライノー……こんな高マグネタイト値の悪魔がこの世界にいるはず……)

 状況を重く見て、彼女はある決断をする。

「帰りましょう。今は浅野陽歌がメシアかどうかより、この世界に『ガイヤーズ』がいるのか、それともミレニアムの地下に逃げたガイヤーズが活動を再開したのか……どちらにせよ対処しないと危険だわ」

「はい。では、これで」

 六花と楓子は帰っていった。東京に突如現れた謎の組織、メシアン。陽歌を取り巻く運命が加速しようとしていた。

「あ、アルファポリスにて『ダメ忍者に恋なんてしない』、まもなく完結です! 拙の正体とは? そしてその運命やいかに!」

「そういえば番宣でしたね」

 フリップを出してどうにか宣伝する鼓なのであった。




???「そう、それが君の過負荷。名づけるならば、『吊られた幕(アンカーテンコール)』。その能力は君が一番理解しているはずだよ」

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