騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 四聖騎士朱雀七女

 いすか・クリムフェザー

 朱雀の末妹。本を読むのが好きで、読書の邪魔をする者は文字通り「掃除」してきた。読んだ本の内容を一字一句全て記憶している。
 朱雀の騎士に相応しく、ビームを専門に扱う。


☆朱き鳳の騎士

「これがお洒落な街……吉祥寺」

 青みがかった銀髪を靡かせ、周囲の光景にキラキラと目を輝かせる十代前半の少女がいた。彼女は浅野ルシア。ひょんなことからユニオンリバーに保護されたのだ。今日はある用事で東京の吉祥寺まで来ている。

「女神転生でしか来られなかったけど、さすがに悪魔が出たり厳戒令は出ていないのね」

「それはそうでしょうとも」

 ルシアと共に歩くのは、彼女を同じくらいの年代の少女。茶髪であるが前髪に赤と黄色のメッシュが入った、眼鏡の少女。

「いすかは何で付いてきてくれたの?」

 ルシアが初めて東京に行くというので付き人は当然必要であったが、用事が用事だけにこの少女、いすかが率先して名乗りを上げた。

「陽歌くんとは読書仲間ですし。私は他の姉妹ほど関われていない様な気もするので」

「そうかな? あの子が近くにいたがるのは珍しい気もするけど……」

 今回の旅は、ルシアの義弟、陽歌に関わることであった。彼の友人にある人物から連絡があった。その人は陽歌が故郷の北陸で周囲に迫害されている時、助けに入れなかったことを相当悔いていた。そのまま引っ越してしまって後悔だけが残ったそんな時、陽歌がテレビに出たことで所在が判明。謝罪したいと陽歌と仲の良かった友人に相談したのだ。

 当人は『なら直接会えよ』と言ったが、まず会わせていいのかルシアは心配になった。両腕を失うほどの迫害など想像を絶するモノ。陽歌のトラウマが再発しないか気になったルシアはその人が会っていい人なのか確認する為に、先制殴り込みということだ。

「そうですかね?」

「そうよ。会ってすぐの私が言うのもなんだけど、人間不審の典型みたいな子は結構見て来たし」

「The habit of life from the soul,and the soul forms the countenance.ってとこですね。件の子も、単なる臆病な善人か、卑怯な弱者か、会えば分かります」

 いすかが提示した英語にルシアは首を傾げる。彼女はロシアとのハーフだが、かと言って外国語が話せるわけではない。日本で育っている。

「生活習慣は精神を形成し、精神は顔つきを変える。フランスの小説家、オノレ・ド・バルザックの言葉よ」

「よくそんな長い英語暗記出来たわね……」

「私は読んだ本の内容を一時一句違わず覚えることが出来ます」

 いすかには完全記憶の様な能力が備わっている。これも全て、彼女が人間ではなく錬金術師アスルトの生み出したロボットだから可能なのだ。

「とはいえ、『翻訳はノイズ』とか『原著を敢えて読む』という発想は陽歌くんから貰いましたね。私は片っ端から読むので、選び取るということ自体しなくて」

 だが、制限があるが故の強みというのも当然ある。陽歌は目星をつけて本を選び、情報を得ることについてはいすかより得意だ。なので陽歌が探し、いすかが覚えるという組み合わせで互いを補えばブレインとして最高の働きが可能である。

「あ、ここね」

 ルシアは目的の家を見つける。

「ここがあの女のハウスね……」

「もうネット文化に毒されている……」

 ルシアはそろそろと家に近づく。吉祥寺に一軒家を持てるとは相当なお嬢様らしい。そんな高収入の仕事が出来る程度に常識ある人間には、マーベルコミックスに登場する市民とデビルマン終盤の人類を足して割らない程度の民度しかないあの街は耐えがたいだろう。現に、陽歌の友人であった二人も引っ越しで別れることとなった。

「突撃―! 大和魂を見せてやる!」

「何か悪いものでも食べた?」

 自分に出来た弟可愛さから変なスイッチが入ったルシア。彼に助けられた分、今度は自分が助けるのだと気合十分だ。

「敵の潜水艦を発見!」

「ダメだ!」

 庭に侵入して鯉を見つけるルシア。もう不法侵入どころではない騒ぎをいすかが止めようとする。これでも他のメンバーよりハジケ具合がマシなのが酷い話だ。庭にある大きな窓から家の中が見え、そこではルシアより少し年下くらいの少女を膝に乗せている少年がいた。少年は高校生くらいで、赤いジャケットが目立つ。

「私……絶対恨まれているよね……? 許してなんか、もらえない……」

「紬……」

「私には出来たのに……うちが病院だから、陽歌くんのこと助けられたのに……」

 痛々しい独白もそこそこに、少年の方がルシアに気づく。様子を見ていた彼女は思わず叫ぶ。

「小児性愛者だーっ!」

「生々しいから日本語にしないでください! 僕はロリコンではないというか紬と僕は4つしか違わないですからね?」

 確かにこの年代は歳の差が二十歳以上より露骨に出がちなだけで、社会では結婚していることも珍しくない年齢差である。だが諸事情によりペドフィリアスレイヤーと化したルシアには通じない。

「デマーガ!」

「街中で怪獣召喚しようとしないでください!」

 端末で配下の怪獣を呼び出そうとするルシアをいすかが止める。

「目的を忘れないでください!」

「そうだった!」

「君達は……?」

 突然現れた面白集団に少年が困惑する。紬も膝から降り、後ずさる。

「ああ……殺しにきたんだ……陽歌くんが私を……」

「関係者だけどそんな物騒じゃないから! むしろそっちを殺したいくらい!」

 それはもうどったんばったん大騒ぎだったので少年といすかが場を収めた。

 

「僕は夕夜。金子夕夜です。彼女の……、八神紬の友人でして……」

「……」

 少年は夕夜と名乗った。件の少女は紬。名前は聞いていたが、まさかここまで追いつめられているとはルシアも想定外だった。

「うーん、これは……」

「どうでしょうお姉さん」

 ルシアは少し考える。話がややこしくなってきた。いすかも何とも言えずにいた。この年齢でここまで気に病むとは、逆に会わせにくいのである。陽歌は間違いなく許すだろうが、紬の精神が心配だ。

「陽歌くんは……まぁ許しますよね。話聞いた時から『覚えてないってことな何もされてないし、何もされてないことは怒れない』と言ってましたし」

「そうよね……。『いじめは傍観者も同罪』なんて言うけど、実際のリスクを考えたらよほど勇気がいる。本来何とかすべき大人が対処をほっぽり出して責任を分散する為に作った便利な言葉だもの」

 ルシアはその言葉に懐疑的、というより大人というものを基本的に信じていない。彼女が心を許す大人は、燃える刀を携えて助けに来てくれた陽歌の養父、浅野仁平と同じ匂いを持つ者だけだ。

 その妻、さとはもちろん、陽歌を助け、支えたアステリアやアスルト達も信用に値すると思っているが、それ以外には基本偽悪説を適応して入っていく。

「でも……私は……」

「そうやって自分を責めること自体、連中の思うツボなのよ。あなたは加担しなかっただけで十分。本当は、大人が守ってあげなきゃいけなかったのよ。そして、道を違えない様に導かなければならなかった」

 ルシアからすれば、加害者となったあの街の子供も、大人が役割を捨てたことによって生まれた被害者だ。特に紬は、悪いことをしていないのに苦しんでいた。

「凄いね、君は……。僕はそんなに言い切ってあげられなかった……」

「あなたも、寄り添ってくれただけでかなり助かったんじゃないかな?」

 夕夜の言う様に、こうも切り捨てられる人間は、特にルシアの歳で大人を見放せる子供はいないだろう。

「ああ、そうだ。せっかく訪ねてきたのだからお茶の一つお出ししないとね」

 夕夜は空気を変える為に台所へ向かう。

「あ、ごめんなさい。今お茶切らしてて」

「いいよ。だったら僕がとっておきをごちそうするよ」

 お茶が切れているというので、夕夜は自宅へ向かおうとする。

「あ、お構いなく」

 玄関へ向かう彼にルシアが顔の覗かせつつ声を掛ける。そんなわざわざ自宅から取ってまでお茶を出してもらう用事ではない。

「何、すぐ隣なんでね」

 夕夜が玄関を開けると、警察が複数人立っていた。これには後ろめたいことのない人物でもぎょっとするだろう。

「金子夕夜さんですね。あなたに殺人の容疑が掛かっています。署までご同行ねがいます」

「何だって?」

 夕夜にとってはまるで心当たりのないことらしく、驚いた様子を見せた。

「待って、手帳と所属を明かしなさい!」

 ルシアは警察官に怪しさを覚えた。警察ならば手帳を見せてから用事を告げるもの、と親しかった者が言っていた。

「とにかく来てもらう!」

「何をする!」

 夕夜は複数の警察官に取り押さえられ、連行された。パトカーらしき車に乗せられたが、こちらにも所属の表記はない。

「夕夜さん!」

「チッ、どうも偽警官みたいね」

「追いましょう」

 すぐにルシアといすかが追いかけるも、パトカーは市街地をタイヤが唸るほどの速度で爆走し消えていった。

「夕夜さん……」

 紬は膝から崩れ落ちる。あの様子だと、かなり精神的に支えてもらっていたのだろう。

「ん?」

 その時、ルシアの携帯が鳴る。電話に出ると、陽歌の声がした。

『もしもし? お姉ちゃん? やっと吉祥寺に着いたけど、今どこ?』

「今あの女のハウス。でもなんか彼氏さんが偽警官に連れてかれちゃって……」

 ルシアは現状を説明する。

『いすかもいるんでしょ? 助けてあげて!』

「わかった」

 淀みなく助けを求める陽歌に、ルシアも応える。

「可愛い弟の頼みだし、いっちょやりますか。グエバッサー!」

 また怪獣を召喚しようとしたのでいすかが止めに入る。

「待って。ここは私が行く」

「おっと、市街地で怪獣はダメだった……お願い!」

 いすかは赤い光の翼を広げ、パトカーの追跡を始めた。

 

 偽警官の偽パトカーは警察署ではなく、郊外の施設へ迷うことなく向かっていた。いすかがその内部をスキャンすると、高い魔力の反応を感知した。おそらく主犯のものだろう。そこへ目掛け、いすかは建物を破壊しながら飛び込む。

「なんだ?」

 突入したのは手術室。一体何が目的なのかについては、いすかも興味が無かった。魔力を出しているのは医者らしき男。

「ふむ……人間に擬態しているみたいだね」

「私の正体を知っているのか……ならば生かしてはおくまい。貴様も改造の素体にしてやる!」

 医者は自身の正体が知られていると悟り、その姿を変化させる。馬に乗った鎧の騎士であるが、その頭は獣になっている。

「この堕天使、オリアスの崇高な研究を邪魔するものは、ここで消えてもらう!」

 オリアスは手にした槍から光の弾を放つ。だが、いすかは素手でそれを反らしてしまう。

「何? これならどうだ!」

 今度はビームを放つオリアス。だが、正確に反射されて自分に命中するだけであった。

「グワーッ!」

「四聖騎士、朱雀七女、いすか・クリムフェザー。朱雀の騎士は光学兵器の専門家……故にお前程度のビームは掌で転がす様なもの」

 四聖騎士にはそれぞれの専門がある。白虎が格闘に長けているのなら、朱雀はビームの扱いに特化している。そのビームが何であれ、ビームであるのなら扱えないことはない。サーディオンである七耶経由で科学方面のビームと魔術方面のビーム双方のノウハウが得られた影響も大きいのだが。

「ならば肉弾戦で倒せばいいだけのこと!」

 オリアスは槍を振るい、馬で突撃を仕掛ける。だが、その身体はひび割れ、内部から光が溢れる。

「な、なんだ……?」

「さっきの反射でお前のコアを貫いた。勝負は決している」

 加えて、その性能に胡坐をかく様な性格の騎士はいない。自分の土俵に相手が立っている間にケリをつけるのが基本だ。

「ば、馬鹿な……このオリアス様が……死ぬ? ネビロスの様な変人が評価されて……このオリアスの研究が未完のまま……だと? ありえない!」

 オリアスはそのまま爆発四散。これにて事件は解決だ。

「凄い爆発があったけど……君は……」

 夕夜が遅れて部屋に入ってくる。後ろには多くの人達がおり、彼と同じく偽警官に捕まったことが伺える。

「自力で出てこれたんですね」

「どうやら、ここの人達は人体実験をされているらしい。ゾンビにされた人もいたよ」

 夕夜は捕まった人を解放しながらここまで来ていた。ゾンビになったという人もいるので、そこはどうにかせねばならない。

「その人達はうちで預かりましょう。錬金術なら元に戻す方法もあるかも」

「頼めるのかい? ありがとう」

「それより紬ちゃんに顔見せて安心させてあげてください」

 夕夜はゾンビにされた人達を気に掛けていたので、そこはいすかが引き継いで帰る様に促す。

「すまない、ありがとう! この礼はいつか必ず!」

「気にする必要はありません。我々はトラブルコンサルタント、ユニオンリバー。あらゆるドンパチを解決するのが、私達の仕事ですので」

 細やかに生きる人々を守る聖騎士の一人は、助けた少年の背を見送っていた。

 




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 金子夕夜

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