騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 襲撃ミッション

 その名の通り、NPDを襲撃する側と防衛する側に分かれて戦うGBN内のバトル形式。決まった時間に発生するのではなく、襲撃側が好きな時間に好きな襲撃系ミッションを受領。乱入設定で参戦が可能になっていると付近のダイバーに救難信号が流れ、防衛に向かえる。
 操作に慣れる為に用意された比較的初心者向けの強襲ミッションに新しい風を呼び込もうと運営が用意した新コンテンツである。


EP5 いま、翼広げて

 あの一件以来、陽歌はふさぎ込むことが多くなった。逃げ場だと思っていたGBNでさえ、容赦なく傷を抉ってくる。回復の兆しとはいえ、現実で傷が開く恐怖から外に出ることも無くなった。

 じっとしていても始まらないことは彼も分かっていた。だから、こうしてGBNに入って気が紛れるのを待った。昔の記憶からなのか、山の中にいると落ち着く。それが仮想のものであっても。虫がいないのは少しもの足りないのだが。

「僕は……」

 とにかく、ミッションを狂った様に熟して悪夢を振り払おうとした。だが、敵の腕を落とす度、自分の腕を失う度、あの悪夢が鮮明に蘇って逃げられない。乱暴に引きちぎられ、失った自分の腕のことを否応なしに思い出す。

「僕はどうしたら……」

 流れでユニオンリバーにいるが、これ以上みんなには迷惑を掛けられない。自分でどうにかせねばと気持ちは焦るばかり。

ヴィオラやモルジアーナは協力を申し出てくれるが、彼女達にも同様に手間は取らせたくなかったので「一人にしてほしい」と別行動をとっている。

「ん?」

 影が落ちたので上を見上げると、大きな剣を携えた漏影が浮かんでいた。その機体はダイバーが降りたのか空で消え、ダイバーが陽歌の近くに着地する。ダメージが無いことが分かっていても、このリアリティあるGBNで高所から飛び降りるなど、かなり慣れたダイバーかそれとも現実でも無鉄砲なのか。

「何やってんだ?」

「あ、あの……」

 降りて来たダイバーは、ドレスの様な鎧を着た長い金髪の女性。所謂姫騎士というものか。とはいえ、その可憐なダイバールックに反して口調はぶっきらぼうだ。

「ええっと……」

 急に知らない人に話しかけられ、陽歌はフリーズする。何故か脳裏にかつての友人がチラついたこともあって余計に混乱してしまう。

「なんか悩みか? 私で避けりゃ聞くけど」

「いえ、何でもない……です」

 妙にぐいぐい来るので、陽歌は反射的に下がってしまう。

「そっか、ならいいんだけど……」

 一旦下がった様に見せかけ、そのダイバーは陽歌を巻き込んで急にガンプラへ乗る。

「あ、わわわ……」

「暇なら付き合えよ。私はヴェン。この辺に面白いもんがあってな」

 無理矢理連れていかれることとなったが、本当に嫌ならログアウトしてしまえばいいだけだ。どうせやることなどないのだ。この変わり者に付き合うのもいいかもしれない。加えて、陽歌はヴェンに一種の懐かしさを感じていた。

 

   @

 

「ここにいたのか……」

 パーシヴァルは仲間と共に、級長を探していた。リアルの都合で一日中いるわけにはいかないので、SNSなどで目撃情報を集めて限られた時間でエンカウントする必要があった。そして、確実に叩くため見つけ次第仲間と合流する。

 ヴィオラや深雪にも協力を要請したが、受けてくれたのはヴィオラのみ。深雪はあまり個人のスタンスに深入りしない主義で、肝心のヴィオラもやることがないと暇つぶし扱い。

「ねぇ、やっぱやめない? ゲーム的には問題ないはずよ?」

「ルリ、ルールで許されているからって何をしてもいいわけじゃないんだ」

 付き合わされた仲間は疲労困憊であったが、パーシヴァルは怒りに燃えていた。

『ねぇ、パーシヴァル。あなたはこの世界のこと、好き?』

 出会った頃からコハクには不思議な力があると思っていた。だが、以前の戦闘で何かのショックを受けたのか、寝込んでしまった。その原因がこのダイバーにあると考えたパーシヴァルは級長の討伐を試みたのだ。

「おや、どちら様?」

 情報通り、ワインレッドの髪にオレンジの瞳、右目の傷、リボンやフリルの付いたワンピースの上からコンバットジャケットを羽織った服装。このダイバーが級長だ。

「お前は覚えてねぇだろうな……大量虐殺者め……」

「おいおい、人聞きの悪い……NPD襲撃ミッションは正式なコンテンツだぞ?」

 級長としては数ある防衛側のダイバー、程度の認識であったが、パーシヴァルにとっては倒すべき敵なのだ。

「そういう問題じゃない! お前はNPDを殺して、何も思わないのか!」

「まぁ、現実でやっちゃいけないことをしていいのがゲームだしな。ぶっちゃけ楽しいよ」

 あっさりと言い切る級長にパーシヴァルは寒気を覚えた。

「なん……だと……? じゃあお前はさっきまで話していたNPDを殺せるってのか?」

「極端な条件付けだが、出来る」

「消えた命は二度と戻らないんだぞ! なんでそんなこと出来るんだよ!」

 だが、本質は感覚の違いでしかない。

「キャラロストのあるゲームならともかく、モブNPDも再度読み込めば復活する。ストーリーモードで手に入れた仲間も、僚機として出撃し、撃墜されてもクエストが終われば復帰する。ロストするってなら慎重にもなるがな……」

「お前……命をなんだと思って……」

 このGBNをゲームとして見るか、それともリアルなゲームとして見るか。それだけの違いが、このスタンスを産んでいるのだ。

「面白いことを教えてあげよう。メニューのコンテンツ情報から、『キルランキング』を見てみたまえ」

 突如提示される謎の情報。わけもわからずそれを開いたパーシヴァルは衝撃の事実を目にする。

「な……」

 なんと、殺した覚えもないのにNPDのキルカウントが0ではなかったのだ。それも1や2などではない。既に二桁へ到達し、まもなく三桁になろうとしていた。

「なんだよ……これ……」

「君が今まで倒してきたNPD機や戦艦、それに乗っていたNPDだ。君は命を奪っていないと、思っていたようだね」

 これは何の意味もない話であり、級長も分かっていた。単に撃墜した際、機体ごとに設定された数字が増えているだけだ。

「さて、これ以上は平行線だ。互いにファイターだというのなら、バトルで決着を付けよう」

「望むところだ」

「やってやる」

 バトルを挑まれたパーシヴァルは快諾する。仲間の一人も乗ったが、少女の方は戦意が無かった。

「ねぇ、やっぱ言っても倒してもどうにもならないんじゃない? さすがに毎日探すの疲れた……」

「ルイ! これは俺達がやらなきゃいけないんだ! あいつを止めないと、また犠牲が増える!」

 小学生の身で、放課後の限られたゲーム時間をこの絶対分かり合えない相手の始末に費やす、それはさすがに苦痛を伴うものであった。このディメンションは夜だが、現実時間は夕方となっている。ヴィオラはよっぽど暇なのか快諾してくれたが。

だが、パーシヴァルは強い使命感に突き動かされており、それに使用料をつぎ込むことへ抵抗が無かった。

「よし、あそこに繁華街があるだろ?」

「それがどうした?」

 級長は近くで輝く繁華街を指さすと、アストレアに乗り込んだ。

『止めてみたまえ!』

 そしてアストレアは全力でその繁華街へ飛行した。

「あ! まて卑怯だぞ! ちゃんと戦え!」

 パーシヴァルは憤りつつ、テルティウムに乗って追いかける。

(お、大人げない! いや、完全にヒールムーヴ楽しんでる!)

 ルイはノリノリの級長に少し引いたという。

 

   @

 

 夜の繁華街には少し変わった上映施設があった。アメリカではよくあるのだが、映画館とは比べ物にならないくらい大きなスクリーンに映像を投影し、車を乗り入れて映画を見るのだ。オープンカーで広い場所に乗り付けてドライブインの様に楽しめるこのスタイルは、国土の狭い日本で体験する機会はないだろう。

「こんな場所あるんだ……」

「なー? いいだろ? 車も乗れるし」

 ヴェンに連れてこられた陽歌は、ここで『鉄血のオルフェンズ』の上映を見ることになった。今やこのサイズのスクリーンなら画面になるだろうが、あえて映写機によるものとなっている。技術が発達したことで失われた味を楽しむ。仮想空間だからこそ可能な余地の生まれる贅沢だ。

 オープンカーに乗り、大量のファーストフードと共にアニメを楽しむ二人であった。ちょうど夜明けの地平線団との戦闘中だ。

「やっぱ二期も面白いんだよな」

「うん」

 陽歌も鉄血は一通り見た。重厚なMS戦といくら成りあがってもシビアな任侠もの風味の世界観はこの作品でしか味わえないのでネットで言われるほど悪いものではない。ネタにされているオルガの死も、リアタイだと二回持ち上げからの急降下で感情が揺さぶられる。

「お、ユーゴーだ」

『ダンテ! 腕ぇ外せ!』

 シーンは敵の新型、ユーゴーの場面になる。が、一周目では何とも思わなかった獅電の腕部パージで陽歌に異変が起きる。

「っ……」

 息が詰まり、心臓が早鐘の様に鳴る。ジャングルジムにきつく縛り付けられた腕が、寒さと圧迫で何も感じなくなっていく。そして、それが最後に感じた腕の感触であった。

 ふと、手に何かが触れて陽歌は我に返る。

「あ……」

「どうした? 酔ったか?」

 ヴェンが手を添え、陽歌の顔を覗き見る。

「な、なんでも……ないです……」

「そっか? なんか無理してないか?」

 見透かしたかの様なヴェンの言葉に、陽歌は目を反らす。が、事情を知ってか知らずか、ヴェンは陽歌を抱き寄せてオープンカーの風防を締めた。現実では違法になる為出来ないが、フロントを含む全ての窓にスモークが入って光を遮る。

「酔った時は寝とけ」

「うん……」

 今まで突っ張っていたせいか、暗くなった途端陽歌は瞼が重くなる。ヴェンからどこか懐かしい気配がしていたのも原因だ。

「……雲雀……」

「え?」

 ポツリと呟いたかつての友の名前に、ヴェンが反応した様に見えたがそんなことを気にする前に彼は眠りへ落ちた。

 

   @

 

『待ちやがれ!』

『待てと言われて待つか!』

 一方その頃、パーシヴァルは級長とドックファイトを繰り広げていた。先に出られた上、機体の速度はほぼ同じ。それでも射撃で左右に動く必要を作っていったおかげで、なんとか追い付くことが出来た。

『くそ、早い!』

『もうすぐヴィオラさんが来るけど……』

 仲間はドタイに乗って追いかけているが、まるで追い付かない。

『これでどうだ!』

 ライフルを撃った直後、アストレアの回避に合わせてテルティウムの脛に仕込まれたビームを放つパーシヴァル。見事、多くの命を奪う得物であるランチャーに直撃させ破壊した。

『チィ!』

『やった!』

 あとは級長を追い詰めるだけ、そう考えて速度を緩めるパーシヴァルだったが、逆に級長はスピードを上げた。

『なんだ?』

 パーシヴァルが怪しんでいると、アストレアが速度のままにビルを蹴り飛ばす。

『な……』

『命を奪うのにビームもミサイルもいらない。十八メートルの巨体があれば十分だ』

『貴様!』

 パーシヴァルは怒りに任せ、ライフルを捨ててサーベルを抜く。以前これでピンチに陥ったのに、同じ轍を踏んでいる。

『ははは、やっぱガンプラバトルは白兵戦じゃねぇとなぁ!』

 ようやく仲間が追い付き、リックディアスがサーベルを二本抜いて迫る。

『このっー!』

『タンジロウ! 待って、ヴィオラさんが来てからの方が……』

 ルイはなるべく人数の利を取りたかったが、警告は間に合わない。

『甘い!』

 鍔迫り合いをしていたテルティウムを振り払い、リックディアスを両断する。再び突撃してきたテルティムと再度切り結び、加勢もまるでなかったかの様に涼しくあしらう。

『そんな、ぐわーっ!』

『よくも!』

 ルイはディテクターのキャノンを乱射して援護する。だが、その攻撃は避けられることもなく外れた。

『お前、射撃苦手だろ?』

『あ……』

 自分の弱点を確実に指摘した一言に、ルイはヒヤリとする。アストレアのサーベルはディテクターのキャノンだけを切り落とす。

『これでいいだろう。お前もサーベル教に入らないか?』

『お前―!』

 後ろから斬りかかるパーシヴァルの攻撃を回避し、級長は空を舞って笑う。

『フハハハハハハ!』

『この……』

 余裕を見せていたが、その直後、投げ飛ばされてきた大きな槍にアストレアが貫かれた。

『あ』

 機体が爆散、級長は撃墜された。槍はゼルトザームのものだ。

『この槍は……』

 パーシヴァルが槍の飛んできた方を見ると、ゼルトザームはやはりいた。機体だけではパッと判別出来ないが、ダイバーネームは『ダーク』。あの時のゼルトザームだ。

『お前は……』

『お前で今日は二十八人目……恐れるな。死ぬ時間が来ただけだ』

 ゼルトザームは槍を拾うと、パーシヴァルへ向ける。戦いは激化の一途を辿っていた。

 

   @

 

「起きたか?」

 陽歌は目を覚ます。スモークガラス越しに見る鉄血がラスト、バルバトスがボロボロになっても暴れ回るシーンになっているので、相当な時間経っていたらしい。

「あ、ごめんなさい! こんな長く……」

「気にすんなって。私も好きでこうしてんだしな」

 陽歌が謝罪すると、ヴェンは自分のことを話し始めた。

「昔さ、私に友達がいたんだよ。そいつは他の奴と少し見た目が違って、そのせいでいじめなんて誤魔化し方の出来ない暴力を周りから受けていた……。子供だけじゃなくて、大人もな」

 自分以外にそんな目に遭った人がいるのか、と陽歌は驚いた。そのためか、口を挟むことはおろか相槌も出なかった。

「それで私ともう一人の友達がなんとかしようってやってたんだけど、ガキの力や頭じゃ出来ることってのが全然なくてな。オマケに私ももう一人も引っ越す羽目になっちまって、そいつの行方は分かんねぇ。もう六年も前の話だ。それで私は決めたんだよ。何も出来なくて後悔したくねぇって。だからこうして、少しでもあんたの力になれたなら嬉しいよ」

 ダイバーの姿では、一体彼女がいくつなのか、リアルでの性別はどうなのかすら分からない。だが、一人の人間にこう思わせるだけの過去があったというのは事実だ。

 ヴェンが過去を明かしたせいか、陽歌も自分のことを話す気になった。ユニオンリバーや深雪以外で、誰かに。それは抑えていたものもあるのだろう。

「僕は……昔腕を切断することになって……」

「それで……」

 陽歌の急変に彼女は合点がいった様子だった。

「前はあんなロボットが腕外すだけじゃなんとも思わなかったのに、今こんなに幸せでいいのかなってくらい恵まれているのに、何故か昔のことばかり思い出しちゃって……なんとかみんなに迷惑かけない様に、乗り越えなきゃって思って……」

 陽歌は自分の手を見つめる。

「前は違ったのか?」

「うん……前はご飯だって食べられなかったし、布団で寝るなんてとても……」

 素直に昔の話をしたが、ヴェンにはとても信じられない様な状況だったらしく驚かれた。

「おいおい……そりゃ昔のことで怖がっている余裕ないわ」

「余裕?」

「そんな状況じゃ、一人で踏ん張らなきゃしょうがねぇだろ。今は違うのか? まぁGBN出来てる時点で違うと信じたいが……」

 主治医の順はトラウマが蘇るのは心が回復している兆しだと言ったが、ヴェンの言葉はそれよりもスッと納得出来た。理屈の上では順の言葉は正しい。だが、それを受け入れられるかはまた別の話。

「今は……ユニオンリバーって喫茶店にいます。そこの人にいろいろ助けて貰って、住まわせもらって……」

「一人じゃねぇならよかった。多分、頼れる誰かがいるから頑張らなくてよくなったんだろ」

 心を許しているから、踏ん張って頑張る必要が無くなった。だからこうして昔の怖かった、辛かったことが素直に出てくる。

 アステリアは寝込んだ時に看病してくれる。アスルトは技術で失った身体や弱った部分を助けてくれる。ミリアは眠れない時にいつまでも夜更かししてくれる。エヴァは爆笑しながら体験したことのない色んなものを渡してくる。いすかは本を読む時一緒にいてくれる。咲良は食べきれなくても心配ないと言わんばかりに食事時は隣にいる。カナンは食が細くても栄養が取れるメニューを考えてくれる。さなはいつでもそばにいてくれる。ナルは、マナは、サリアは、かぐらは、レイチェルは、凛は、ヴァネッサは、クロードは、ひばりは、リウは、シアは、エリシャは、……そして、七耶は……。

「そっか、僕は一人じゃなくなったんだ……」

 一人で我慢しなくてよくなった。だから怖いものを怖いと言える様になった。そんなことだったのだ。心のどこかで、我慢することが当たり前になっていた。

『なんにも持っていなかった俺の手に……こんなにも多くの物が溢れている……』

 ぐぐもって聞こえる三日月の言葉が、どこか自分にも刺さった。しんみりしていると、突如地面が揺れた。警報がけたたましく鳴り響き、空が炎に彩られる。

「な、何……」

「なんだ、一体……」

 陽歌とヴェンは車の外に出る。外ではモビルスーツが盛大に切り合っていた。テルティウムとゼルトザーム、同じベースを持ちながら対照的である二機が町を巻き込んだ戦闘を繰り広げている。

「あの機体は……」

「面白そうじゃねぇか。やってやる!」

 陽歌が考えていると、ヴェンは漏影に乗り込み戦闘に加わる。どちらに加勢するということでなく、単純に状況を引っ掻き回すだけだ。

「ガンダム!」

 陽歌もアースリィに乗って、戦闘に参加する。

『ナクト! お前との決着は後だ!』

 テルティウムに乗るパーシヴァルはゼルトザームとの戦闘に集中している。三つ巴になり過ぎて陽歌はどれをどうすればいいのか分からなくなっていた。

「とにかく今のうちに……」

 シールドをライフルを連結し、エネルギーを溜めておく。どちらに転んでもいい様に準備だけはする。戦闘の最中、ヴェンが退避して射線上に二人しかいなくなったので容赦なくぶっ放す。

「今だ!」

『見境なしか!』

『元々味方ではないだろう……』

 不意を打たれた形となり掠めてしまうパーシヴァル。ゼルトザームに乗るダークは初めから警戒していたのですぐに回避できた。戦いはダークとヴェンの重い武器によるぶつけ合いになっていく。

『噂通りか、疾風の大盾』

「最近、いろんな奴にちょっかいかけてるゼルトザームってのはお前か! かなりやるな!」

 互角の戦いを繰り広げていく二人に、パーシヴァルが割り込もうとする。陽歌はサーベルを抜き、援護する為にそれを防ぐ。

『俺だって!』

「させない!」

 サーベル同士がぶつかり合い、光が爆ぜる。さすがに出力は向こうが上で、弾き飛ばされてサーベルも落としてしまった。その時、画面に通信が表示された。

「ん?」

『主殿!』

「モルジアーナ!」

 戦闘を嗅ぎつけ、ドラゴンモードのモルジアーナがやってきたのだ。

『受け取ってくだされ!』

「うん!」

 陽歌はモルジアーナから部品を受け取る。二つのランチャーを繋げたドラゴンの顔をしたキャノンを手に、リアスカートに翼を装着した。

「私の漏影は問題ない、やれ!」

 ヴェンは陽歌に指示を出した。ナノラミネートアーマーを持つ漏影にはビームがさほどダメージにならない。

「行くぞ! ガンドラゴン……イレース!」

 天高く飛翔し、ビームを混戦に向けてぶちまける。まずはテルティウムにぶつけ、その後薙ぎ払う様にゼルトザームを呑み込む。

『機体特性を活かした足止め……だと?』

「そういうこと」

 ビームの照射が終わると、焼け焦げた地面が爆発する。漏影はその中から無事出て来たが、ゼルトザームは半壊の状態でどうにかといった状態だ。テルティウムは普通に撃墜されている。

『貴様のこと、覚えておこう』

 ダークは足早に戦闘領域を去っていく。陽歌は追わなかった。ただ、この爆炎が晴れた明けの空を見ていたかった。まるで自分の心みたいで、眼が離せなかった。




 迷いを振り払った陽歌は、自身の機体を作るべく工夫を重ねることにした。その中で、最近噂の地雷プレイヤー達の姿を見ることになるが、彼らには何か目的がある様にも感じられた。
 次回、『イーグル再び』。己の創意を映し出せ!ガンダム!

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