騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
長期ストーリーはこつこつ書き溜めて完結した時にこうどばっと。それ以外はホビー関連の短い話をちまちま。そんな感じで。
☆この星の異変
「ねぇ、ひとつ気になることがあるんだけど」
「何かな?」
「マスターブレーダーの堀川さん、どこ行った?」
「……君の様な勘のいいガキが嫌いだよ」
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「それでね、私は毎回言うのよ。風呂敷は大き過ぎると畳めないと」
「……はぁ」
立川に存在するホビーメーカー、コトブキヤ本社の地下百階には『メガミクリニック』という病院が存在する。心を持つ小型ホビーロボット、メガミデバイスのケアを専門に行う病院であるが、似た構造を持つフレームアームズガールも診ている。
人間に捨てられたことで不信感を抱く様になったフレズヴェルクもここの患者である。人間の都合によって定められた己の外見、機械の武装にスク水という嚙み合わない組み合わせも好きでは無かった。しかしこれが『フレズヴェルク型』の基本らしいので諦めつつあった。
「だというのに、二次創作はあくまで趣味だから特に考えなしに突っ走っていいって思っているのかしら。趣味の方が手に負えなくなったら本末転倒でしょうに。今のこの作品、遊戯王で言うとこのドーマ編で自分にカード装備して殴り合っているところ延々にやっている様なものよ」
「は、はぁ……そんなこと私に言われても」
そんなフレズは知り合いの愚痴を延々聞かされていた。仲のいい相手ではなく、むしろ敵対していた因縁のある相手。なんでこうなったか分からないが、浅野陽歌という展示会を襲撃する度見かける少年に拾われた結果としか言いようがない。
「重要なのは解決、ではなく共感なの。愚痴というのは言うのが目的なのだから、ドヤ顔で解決策を出されても仕方ないものなの。そこが分からない人間が出す解決策なんて、とっくに試してダメだったものが大半だから苛立ちも大きいってわけ」
「そう……」
フレズは無関心を貫く。彼女が今ここにいるのは、自力で悪意に目覚めたメカニズムを探る為だ。こんなお喋りは無用である。
「最近は人間も賢くなってきたか……」
フレズはテレビを見て、現在の時勢を確認する。一年前、己の自己顕示欲を満たすためだけにオリンピックを利用しようとした東京都知事、大海菊子は浅野陽歌に撃破された。首長が何らかの原因で職務を続行できなくなった場合は選挙で新たに選ばれるのだが、前々任の都知事による四期十六年、そして大海都知事時代の四年で計二十年にも及ぶ無策の結果、東京の行政は壊滅的な被害を受けていた。
そこで政府は、再選した大海都知事の残された任期中、東京を政府の管理下に置き再生を図った。民主主義の弱点、主権者の愚かさによる破滅をどうにか避けようという策である。
「酒の肴が無いのは退屈だがな……」
フレズは人間が自らの愚行により滅ぶ様を愉しみにしていたので、残念ではある。その一方で、陽歌の活躍が無駄にならなかったという安堵も心のどこかで感じていたのであった。
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「皮肉なものですな。開催ありきで話を進めていた時は上手くいかなかったというのに」
現在、首相官邸ではオリンピックについて話し合いがされていた。IOCとの契約で中止にすれば違約金を払う羽目になるのだが、現在の首相はそれもやむおえない前提で準備をしていた。
「そもそもあの都知事が人に物頼む態度じゃなかったんです」
現在の首相は大空まひる。見た目はセーラー服の女学生が左目に眼帯をして帯刀しているという奇怪なものだが、政治手腕に関しては本物だ。オリンピックの運営に関しても都知事が高圧的にボランティアを集ったせいで集まらなかった人員を、対価の提示ですんなり調達してきた。
加えて時勢による中止や延期も視野にいれており、今年中に開催出来ない場合は集めたリソースを次回開催のロンドンへ譲渡する手はずまで整えている。違約金も損切り程度に割り切っている。
通常、政治家というのは利権や天下り先の確保で首が回らないものだが、ぶっちゃけその政治家を選ぶ主権が国民にある以上、国民にさえ尽くしていればどうにかなるというのが彼女のスタンスだ。欲求に関しても俗っぽい部分が多く、料亭で食事したり都内の一等地に家を持つことに興味がなく漫画やアニメを楽しめればいいという以上、首相としての給与以上の金銭が不要というのも強かった。
『大空首相だな』
「うわびっくりした! ……なんですか、IOCのモーツァルト代表」
急にテレビ通話の回線が開き、官邸の壁に音楽室の肖像画みたいな人物が大写しになったのでまひるは驚愕する。
『全然感染対策をしていないそうではないか……強権的に開催地の首長選挙を取りやめもした。本当にオリンピックをする気があるのか?』
モーツァルトはまひるの政策を避難した。
『ロックダウンも行わず、飲食店や映画館の営業規制もせず、検査も拡大しない。オリンピックをする気があるのか?』
「日本政府は都市を封鎖する権限を持ちません故。それに、半端な規制は解除時の揺り戻しを招きます。映画館は十分な対策を取っていることを確認し、飲食店も黙食……所謂孤独のグルメを推奨することで感染防止を行っています。という建前は抜きにして……」
まひるは刀を抜き、モーツァルトの背後に向ける。
「誰に言わされているんです? 獣は匂いで分かるぞ?」
画面越しに存在を見抜かれ、姿を現したのは身体に布を巻きつけたかの様な露出の多い衣装を纏う、灰色の髪の少女。
「やはり貴様か、フロラシオン【
『……図に乗るなよボス猿が。お前達、これ以上オリンピックを延期、もしくは中止にすればどうなるか分かっているのか?』
レトの脅しにまひるは刀を降ろさず、軽口を叩く。
「これは驚いた。オリンピック狂信者とは画期的な信仰宗教だ。残念なのはベーコンやスパゲッティーモンスターほどユーモアが無いことか」
『ふざけている場合か。貴様ら猿の行いでこの星が滅ぶのだぞ!』
突拍子もないことであったが、まひるは都知事の部下だった人間からおおよその話は聞いている。
「炎と氷の闘神に闘争を捧げる、それがオリンピックの役目か……」
『分かっているのならなぜしない?』
「四年程度で癇癪起こす神様に振り回されるのは勘弁願いたいってことだ。星を滅ぼすほど暴れたいのは全盛期を喪失した選手であろう。まぁ、この疫病で貴重な機会を失ったのはなにもスポーツ界に限った話ではないが……」
まひるは刀を収め、画面に背を向ける。
『貴様……』
「かつてあれほど憎み合った存在同士が唯一手を取り、戦った邪教、フロラシオンか……。それが何を恐れる?」
『人類のパラダイムシフトを支えた闘争、そのものが敵になる。この脅威が分からんのか?』
レトが言いたいのは、人類の文明を大きく発展させる契機の一つである闘争。そのエネルギーが真っ向から自分達に向かうことの恐ろしさであった。よしんば勝てたとしても、それは前進に用いる存在を自ら手放すことでもある。
「技術は戦争とエロで発展する……か、ならば私はエロを取るよ」
『破廉恥な……』
「痴女に言われたくない」
まひるが吐き捨てた瞬間、レトの身体が切り刻まれる。
『がはっ……』
画面越しの敵から受けた攻撃に、彼女は対応できなかった。急所である喉元を割かれ、胸と右目を突かれ、臓腑の詰まった腹、大動脈の通る太ももと手首を的確に切り裂かれていた。
「国民の代表として、貴様の様な力に任せたテロリストに屈するわけにはいかんのでな」
画面では血だまりに何かが落ちる音が聞こえていた。おそらく内臓が零れた後にレトが崩れ落ちたのだろう。鮮血が吹き出す音もした。
こうして、日本とフロラシオンの対決、その嚆矢が放たれた。一年にも及ぶ雌伏、その結末とこの星の運命はいかに。
戦いを奉じよ、炎と氷の闘神に。さもなくば焦熱と極寒の嵐にこの星が沈む。
血を流す必要はない。球を奪い合い、頭脳で以って競うもよし。天命に全てを捧げるもよし。戦いをただ奉じよ。