騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
陽歌達が秘密基地で飼っていた野良犬。金湧は一時のブームでペットを飼っては捨てる人が多いのだ。餌付けはしていないがなんか懐いた。
名前の由来はヒューイがホラーゲーム、デメントの、ブラウンが同じくホラーゲーム、ルールオブローズに登場する犬である。
あれから6年の歳月が経った。ギャングラーの起こした集団失踪事件が二年もの溝を彼らの間に作ったが、ある事件をきっかけに再会。陽歌の出生を知ってもなお、その友情は健在であった。
「なんでまた骨折なんかしたのさ?」
「ゾイドコマンドフォースってとこで無茶したらしいぜ」
陽歌は雲雀に連れられ、小鷹の入院する病院へやってきた。彼が骨折したらしく、お見舞いというわけだ。それに、小鷹は少し気になることがある様だった。
「へぇ、そんなとこにいたんだ」
「敵対している治安局って連中がお前を探してたからな。追っていけば会えると思ったんだろ」
ユニオンリバーという大きな組織にいたことは保護という面だけでなく、離別した友と再会する為にも大きな役割を果たした。テレビ出演なども彼らのバックアップ無しには出来なかっただろう。
「ここだな」
病室は複数人が共同で使うものであった。ZCFも予算がないので個室を宛がうのは流石に無理だった様だ。小鷹はそのベッドに座っていた。足を折って動けないだけで、基本元気なのだ。
「小鷹、久しぶり」
「おお、陽歌じゃねーか。東京では会えなかったが元気そうじゃん」
雲雀を通じてネット上での再会は果たしたが、直に会うのは久しぶりであった。
「それはこっちのセリフだよ。足まで折って……」
持って来たお見舞いの品が入った袋を置く陽歌。持ち手を掴む指は余った袖に隠れているが、義手になっている。
「すまん!」
「え?」
小鷹からの謝罪に陽歌は困惑する。小鷹にとっては見捨てたも同然なのだが、全てを知った今もこうして友達でいてくれているだけで陽歌にとっては十分なのだ。
「お前を助けられなかった。そのせいで二年もギャングラーに……」
「ううん、いいんだよ。それに、ギャングラーにはよくしてくれる人もいたし」
失踪事件の被害、といえば壮絶なイメージがあるが陽歌に限って言えば意識こそないが二年の平穏に加え、鮭料理をごちそうして貰ったという思い出もあるので悪いことではなかった。むしろ、唯一金湧の被害者で生き残ってしまったことで迫害が激しくなったことが問題だ。
人間よりも異世界の化け物の方が寄り添ってくれたというのは実に皮肉である。
「そうだ。お土産にこれ持って来たよ。クロスボーンガンダム」
持って来たのはクロスボーンガンダムシリーズの単行本。本編と短編集、鋼鉄の七人。そしてゴーストにダスト。もう鋼鉄の七人より後ろの方が長くなっている。
「お、サンキュー……って……」
お土産を受け取ると、小鷹は陽歌と雲雀をじっくり見て動揺する。
「お前……女だったのか?」
「陽歌は男だぞ?」
雲雀は首を傾げる。しかし陽歌はその視線が彼女に向かっていることに気づいた。確かに6年前は一瞬も着ていなかったスカートなどガーリーな私服である。見慣れないものを見る目で小鷹は彼女を隅々まで見ていた。
「多分雲雀のこと……」
「え? 陽歌が男?」
どうやら六年前の小鷹は雲雀を男子、陽歌を女子と思っていたらしい。実際は逆だ。雲雀との再会はもっと前だったはずだが、コクピット越しだったりネット上だったりで分からなかったのか。陽歌はそう考えた。自分の女子間違いはあるあるなのでもう何とやら。
「お前私達を何だと思ってたんだ」
雲雀からすれば一人称は私だし陽歌とお風呂も入っていたはずなので、間違えるなら二人とも女子だろうという気分であった。小鷹の寛容さが悪い方向に働き、多少他人と違う程度では何とも思わなかった。
「ていうか何回か雲雀病院に来たよね? その前も会ってるよね? スカートなんか一回も穿いてなかったよね?」
小鷹と雲雀は引っ越した後も離別はしていなかった。が、今日の服装でようやく気付いたというべきか。
「あん? いやお見舞いとかそういう場ならしっかりしたもん着てけって母さんがな」
「あ、そういうこと……」
小鷹はその説明で納得した。陽歌に改めて一瞥され、慣れないのか雲雀は少し恥ずかしそうに問いかける。
「へ、変じゃないか?」
「ううん。似合ってるよ。そうか……六年だもんね」
男子に混じっていたやんちゃな女の子がお洒落をする様な歳、それだけの時間が経っていた。しんみりした空気を変えようと雲雀は小鷹の用事を聞いた。
「そうだ、お前気になることがあるって言ってたな」
「あ、ああ……。ここの掃除の人がな。いつも俯いてて微妙にわかんねーんだが……」
小鷹が話をした丁度その時、話題に上がった掃除の人が来た。その人は黙々とゴミを回収するだけだったが、陽歌は何かを感じたのかその人物をじっと見る。掃除の人は中年の女性であった。
「陽歌?」
掃除の人が小鷹のゴミを回収するため屈んだ瞬間、陽歌の膝がその顔面へ叩き込まれた。
「陽歌ぁああ?」
「な、なにして……」
掃除の人は床に仰向けで倒れる。膝の入った位置が悪かったのか、鼻血をボタボタと流している。
「汚物が……隠していても臭いで分かるぞ」
普段は穏やかな陽歌が殺意と憎悪を剥きだしにして掃除の人へ迫る。掃除の人の顔を見た瞬間、小鷹と雲雀は彼が豹変した理由が分かった。
「こいつ!」
「やっぱりそうだったか!」
六年前、彼らの前に現れ友であった野良犬を殺した中年女がなんと掃除係として再び姿を現したのだ。臨戦態勢に入った三人に、中年女は声を掛ける。
「あの時はごめんねぇ……私もおかしくなってて……」
「情状酌量の余地はない。死ね」
陽歌は花瓶を手に殺す気満々だ。おかしくなっていたと本人は言うが経緯は完全に逆恨みなので何一つ言い訳にならない。
「まぁまぁ。こいつのことは私が上にチクってやるから社会的に死なすだけで勘弁してうやってくれ」
雲雀がどうにか陽歌を説得し、殺意を収めさせる。中年女は逃げる様に部屋を後にした。
「そうだ、せっかく集まったんだしブラウンとヒューイをしっかり弔ってやろうぜ」
小鷹は思い出した様に野良犬たちの話をする。あれ以降、陽歌以外は引っ越してしまってお墓参りも出来ていない。
「そうだね」
「いいじゃねぇか」
陽歌と雲雀も賛同し、小鷹の疑問も解決したところで今日はお開きとなった。
「っーわけでよ」
雲雀はナースステーションで中年女の素性について当時の新聞記事をスマホで提示しつつ看護師に話した。横領を告発された逆恨みの呪いを掛けようとし、それを見られたから子供を襲い野良犬を殺す様な危険人物、友人が入院していなくても病院に置いておくわけにはいかない。また何か違うトラブルを招いて似た様なことをしでかす恐れがある。ヒューイとブラウン以上の犠牲を出すわけにはいかない。
「そういえば、あの人丁度あなたのお友達が入院した時期に来たのよ」
「何?」
看護師から聞き捨てならない話を聞き、雲雀はつい聞き返す。
「個人の入院場所を特定したのか?」
「この病院はZCFの提携先ですので……」
「なるほど」
どうやら小鷹がZCFにいたのでそれを伝って居場所を突き止めたらしい。しかし彼がZCFにいることは独力で突き止めたのだろう。公的機関のZCFが所属者のことを隠すことはない。ニュースか何かでZCFのマーキングがされたゾイドに乗っている小鷹の写真が出ればすぐわかる。相変わらずの執念だ。
「警戒に越したことはないか……」
雲雀は中年女の不気味さを感じつつ、病棟中央の談話室に来た。ここは携帯での通話が許されているエリアだ。
「もしもし、私だ」
そこで彼女はある人物に電話を掛ける。
「調べてもらいたいことがある」
雲雀も無力で守れない者を少しでも無くそうと、力を手に入れていた。
「小鷹、少しいいかな?」
陽歌は小鷹にある提案をする。
「どうした?」
「なんかあのおばさんから嫌な感じがする」
「だろうな」
陽歌があの中年女を嫌う理由は十分にある。しかし今回はどうも違う理由の様だ。
「嫌な奴、なのは確かなんだけどそれだけじゃなくて、最近感じる様になった気味悪い感覚がするんだ」
陽歌は東京での一件で霊力が爆発的に上昇し、それを制御する術を得た。故に今までは感じなかったものを察知できるようになっていた。
「それも小鷹と線で繋がった様な感じが」
「おいおい。そんな赤い糸あったら真っ先に切りたいぞ」
「だから、捨てるゴミに印をつけておいてくれないかな?」
陽歌の提案は簡単なことであった。ゴミに印をつける。ただそれだけ。
「ゴミに?」
「うん。相手の所有物を使う呪いはポピュラーだから」
以前、中年女は小鷹を呪っていた。なので今回も小鷹を狙うと踏んでのことであった。
「それとこれ持っておいて。さっき般若心経を写経したんだ」
「おう」
そして役に立つか分からないが防御のアイテムも渡す。これでとりあえずは大丈夫そうだ。
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「巫ですか?」
以前、陽歌はシエルからそんな話を聞いていた。
「はい、陽歌くんのご両親の実家……母方の方が神社でして。お母さんが巫女をやっていたんですよ」
陽歌の養母が巫女であるという情報。しかし血縁がないので、霊力などは当然引き継いでいない。
「巫女というのは代々、世襲の様な形で引き継がれていきます。その力は実子に引き継がれているのですが……」
養父母、浅野仁平、さとの実子は二人の想いに応えることなく彼を虐待し、命を危険にさらした。流れからして巫女の力も持っているのは彼女だろうが、陽歌としては力そのものに用事が無くても二人の残したものが僅かでもその人物に占拠されているのが許しがたかった。自分への仕打ちではなく、養父母の想いを踏みにじったことへの怒りがある。
「分かりました。金湧に行ったら奪い返してきます」
「でもその方法が……」
力自体を奪い返すという目標は出来たが、その手段がシエルには無かった。しかしそこは陽歌にも協力者がいる。
「レン先生がくれたものがあるので、これで」
「それならよさそうですね」
彼の通う学校の養護教諭、レンは巫女をしていたのでその辺りに詳しい。ただの木札に見えるが、これは巫女の権限を正しい人間に移譲する為の護符である。陽歌には、もう一つ再び金湧を訪れる理由が出来た。
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後日、小鷹が退院したので三人は金湧の秘密基地へやってきた。
「ってわけで、僕の無くした腕が何本も呪物になって見つかったみたいで」
「マジの忌み地ってやつじゃねぇか」
陽歌は都知事の引き起こしたループによる影響で、様々な並行世界で失った腕が呪物となり怪異を招いているという話をした。その腕は何本あるのか分からない為、全部見つかったとは言い難い状態だ。
「そんなんだからあのババアもおかしくなったのか?」
「さすがにある程度は自己責任だと思うけど」
とはいえ、無から人をおかしくすることは基本出来ない。時期的にもあの中年女がおかしいのは自前だ。
「そういえば家なくなってたな」
「ローンが残ってるからすぐには引っ越さないと思うけど……」
小鷹は陽歌の家が消えていたことに疑問を呈する。六年前に中年女が一部燃やしたとはいえ、それを直して住むくらいローンも残っている家だ。そんなパッと引き払うことなど出来まい。
「ソーラーって奴が都知事の犬だったろ? 負けて居づらくなったんじゃね?」
雲雀は陽歌の弟、
「そんな繊細な精神の持ち主じゃないよ。奴らの面の皮はたけのこみたいに何重にもなってるんだ。もっと違う理由があるのかも」
ともかく行方が分からないのでは、巫女の力も奪い返せない。
「行方はユニオンリバーでも追ってるよ。特に太陽は無駄に強い力を持ってるから悪用されるとえらいこっちゃだし……」
話をしながら秘密基地に三人は向かう。さすがに長年放置しただけあり、基地は荒れ果てていた。しばらくは陽歌一人で使っていたが、彼も二年間はギャングラーの起こした失踪事件でいなかった。
「やれやれ、最近のガキはゴミも持って帰れないのか?」
「俺らはちゃんと持って帰ってたのにな」
ゴミまみれの基地に雲雀と小鷹は溜息をつく。陽歌はそのゴミを観察し、あることに気づく。
「やっぱり……」
「ん? どうした……ってこれは……」
小鷹がそれにつられてゴミを見ると、半分予想はしていたといえ寒気が走る。ここに散らばるゴミは小鷹が病院で捨てたものが混じっている。陽歌に言われて付けた目印がある。ゴミは丁寧に五寸釘で打ち付けられ、『小鷹呪殺』とちまちま書かれている。
「相変わらず暇人……」
「でも、人を呪わば穴二つってね」
異様な光景にドン引きする小鷹。しかし陽歌は余裕を保っていた。彼が打ち付けられたゴミに触れると、それが赤く輝き、外で女の悲鳴が聞こえた。
「ぐげえええ!」
「なんだ?」
雲雀が外に出て悲鳴のところに駆けつけると、例の中年女が胸と腹に大きな穴を開けてのたうち回っていた。
「呪いってのは見られただけでも無力化するし、扱いを間違えると跳ね返ってくるんだ。だからその手段をまるっと明かされればどうなるか……」
陽歌はこれを読んでゴミに印を付けさせたのだ。しかし彼もこんなに完璧な呪い返しが出来るとは思っていなかった。
「しかし凄い威力……レン先生は呪いを暴いた上で呪文って言ってたけど、僕の霊力だとこうなっちゃうのか……」
霊力の扱いはレンから学んだ。この基本的な呪い返しも、軽く投げたボールをホームランする勢いで返した様なものだ。
「き、貴様……」
「諦めろ、お前の負けだ」
小鷹は堂々と宣言する。こんな危険人物は放ってはおけない。被害に遭うのが自分だけならまだしも、この性格では誰かを逆恨みで危険に晒しかねない。再度警察に突き出した方がいいだろう。
「まだだ……まだだぁあああ!」
中年女は叫ぶと、三つに分裂した。肉体、魂、そして影が独立した化け物として陽歌達に襲い掛かる。
「なんだ?」
「これは……」
突然目の前の人間が変異し、三人に動揺が走る。化け物になるおばさんは都知事だけで十分だ。
「ん? なんだこんな時に……」
雲雀は着信があったので電話に出る。そして、衝撃の事実を聞く。
「なんだって? じゃああの時……」
「どうした雲雀?」
「このババア、とっくに死んでんぞ! それも六年前に!」
雲雀が聞かされたのは、この中年女が六年前に収監された際、既に死亡したと警察の記録にあったということだ。原因は陽歌による殴打と見られるらしい。
「マジかよ」
「とにかく二人は逃げて! ここは僕が何とか……」
陽歌は非戦闘員の雲雀と小鷹を逃がそうとする。しかし、雲雀は眼鏡を外し、グローブを身に着け、臨戦態勢に入る。
「っへ……んな必要ねぇよ」
「雲雀……それは……」
そして彼女には犬の様な耳と尻尾が生えていた。
「イヌイヌの実……モデルニホンオオカミ!」
この世には悪魔を宿した木の実があるという。雲雀が食したのはその一つ。彼女はオオカミの力そのままに、肥大化していく肉体へ突撃し吹っ飛ばず。
「せめて小鷹は……」
「おいおい、俺が全くこの六年何もしてないと?」
そう言って彼はガンブレードを空中から生成した。
「ウルムラムアイズ!」
「具現武装!」
地球に満ちるエーテルという物質に自身の想像を乗せて物質化する武器、具現武装。小鷹もこれが使えたのである。
「協力してこいつを倒すぞ! 弔い合戦だ!」
こうして、怪異と化した中年女と六年越しの決戦が幕を開けた。
肥大化し、背筋の曲がった鬼婆みたいな状態となった肉体を追う雲雀。悪魔の実というのは実物こそ珍しいがその性質自体は広く伝わっており、弱点も分かりやすい。肉体の化け物は近くの水辺へ逃げ込む。
「フハハハハ! これで来られまい!」
実の悪魔は海に嫌われており、膝下程度の水でも能力者は力を失う。
「嵐脚!」
が、鋭いキックから放たれた斬撃が化け物を襲う。鋭い切れ味で傷からはどす黒い血が吹き出す。
「ぎゃあああ!」
「んな弱点くらい克服してるっての」
なんと誰から学んだのか、雲雀は特殊な体術『六式』を使用できた。肉体を鍛えれば鍛えるほどその力を増す動物系の実とは相性が抜群だ。
「月歩!」
空気を蹴る様に空中へ飛び出し、彼女は化け物に接近する。そしてパンチで顎を直撃し水へ沈める。
「獣厳!」
これは六式のうち一つ、指銃の速度で撃ちだすパンチ。まだ完璧には六式を体得していない部分も流石にある。
「ぐへぇ!」
しかし化け物もただでは転ばない。雲雀の足を掴んで水中に引きずり込む。こうすれば、弱点の水へ舞台を移すことが出来る。水は思ったより深く、化け物も完全に潜ることが出来るほどだ。
「甘かったな! これで形成逆転だ!」
「学ばない奴だ……弱点の対策くらいしてあるっての」
雲雀は余裕を見せていた。その手に握られているものが光り輝き、目にも止まらぬスピードで拳が振り抜かれる。
「イノセンス、解放」
「な……」
グローブは十字架を模った金属のナックルダスターへ変化し、その中心から目に見える風が槍の様な形へ生成されていく。
「ストームバンカー!」
風の槍は化け物を穿ち、腹に大穴を開ける。大地を揺るがす衝撃と共に化け物は水底へ、そして反動により雲雀は上空へ撃ちだされる。
「力が抜ける前にぶん殴ればいいんだよ」
「んなむちゃなぁあああ!」
理不尽な対策に絶望しながら化け物は水底に叩きつけられ、爆散した。
「ったく、手間かけてくれる」
雲雀は水から飛び出し地面へ降り立った。まずは一つ、魂と影が返るべき肉体が喪失した。
@
「実体のない影が、攻撃できるかな!」
「うわ、ナメクジみてー」
化け物の影はうねうねと壁や床を這いまわっていた。小鷹はその姿に気味悪さを覚えたが問題なくガンブレードからの射撃で攻撃する。
「痛い! 痛い! なんで当たる?」
「決まってんだろ。俺が当たるって思ったからだ」
具現武装は願いの塊。故に使用者が『できる』と思えばできるのだ。
「ならば……これでどうだ!」
影の化け物は影らしく、周囲の影を取り込んで増殖する。これにより四方八方を囲み、一気に叩く作戦だ。
「分裂したらと言って弱くなると思うなよ! 影は無限にあるのだ!」
「なるほど」
分裂系は大抵、増えれば増えるほど一体が弱体化するものだ。だが、影という無限のリソースを使う以上その弱点はないに等しいということ。
「呪いごっこしか脳がないわけじゃないか」
「思い知ったか! 子供が大人を甘く見るな!」
影の化け物は勝ち誇るが、小鷹は自身の勝利が揺るがないと信じていた。その証拠に、余裕の表情と共に一枚のタロットを取り出す。カードは『愚者』。
「ペルソナ」
カードを破り捨てると、彼の背後に人型のビジョンが現れる。抽象化されてはいるが、西部のガンマンというイメージそのままの姿である。
「こ、これは……」
『汝は我……我は汝……』
「ビリーザキッド、行くぞ」
小鷹は自身のペルソナと共に周囲を囲む影の化け物を一掃する。増える時間もなく、影の化け物は本体一つになってしまう。
「は、はや……」
「トドメだ!」
小鷹の姿がかき消え、次に姿を見せた時には赤いビットを周囲に纏っていた。
「ラスタータイムフィニッシュ!」
化け物は無数の銃傷と共に真っ二つへ両断される。化け物は爆散し、破片の一つも残さず消滅させられた。
「やったぜ」
小鷹は陽歌の知らぬところで、アークスの力を得ていた。彼が主人公の力を小鷹から奪ったのは正解だっただろう。
@
「げ! 残りがやられた!」
「早いなー」
魂の化け物は影と肉体の消滅を感知し、逃走を図る。人魂の様な姿から変化しない辺り、戦意を即座に喪失した様だ。しかし、陽歌には新しい技がある。
「逃げる!」
「させるか! 負を討て造られし龍、透る刃よ舞え……」
陽歌が刀を掲げると、地面から黒い棘が生え魂の化け物を貫いて拘束する。陽歌の背後に闇を纏った龍の影が出現した。
「ぐげ!」
「負滅牙、龍刃舞!」
眼にも止まらない連続攻撃で化け物が切り刻まれる。そしてトドメとばかりに龍の顔をした炎を刀に纏わせ、突撃して噛み砕く。
「負滅牙、零百合!」
魂の化け物はそのまま爆散し、消滅した。流石に陽歌も大技二発は疲れたのか、着地と共に足元がふらつく。
「おっと……」
そこを雲雀が支える。
「強くなったな」
東京での再会で分かっていたことだが、陽歌は強くなった。二人に守られなければならない様な彼ではなくなった。
「これで一件落着か」
小鷹も合流し、全ての敵を倒したことを確認した。
その後、予定通りヒューイとブラウンの弔いを済ませ、三人は家路につく。こうして金湧の街を三人で歩いていると、あの時に戻った様な気分だ。
「雲雀って六式使えたんだ」
「全部じゃねぇよ。剃と嵐脚、月歩くらいか」
「六式って体術なんだろ? 俺にも出来るか?」
小鷹は習得方法を気にしていた。六式は体術の類なので身体能力さえあれば可能だ。雲雀もこの歳で半分を身に着けているのはたゆまぬ努力によるところが大きい。
「刺身にタンポポ乗せる修行知ってっか? あれ凄いぞ虚無感が……」
「一体何が行われていたんだろう……」
当然その修行は想像を絶する過酷さである。陽歌はその言葉から修行の内容が分からなかった。
「で、結局あの野郎はどこ行ったんだ?」
「夜逃げ同然だったんだってな」
話題は逃げ去った太陽に移る。レベル一万前後のドクターライダー変身者などユニオンリバー基準では雑魚とはいえ、一般的には厄介なので行方不明で済ませておいていいものではない。
「見つけるよ。そして僕の過去に決着をつける」
陽歌は自分の過去にケジメを付けるため、太陽とその家族を追う。養父母の残した力も奪い返す為に。
陽歌の新技はクーナとハドレッドを意識したものである。負滅牙はダーカー特攻の潜在能力、零百合の零は六芒均衡の零であるクーナ、百はハドレッドを差している。