騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
そして一部アタックタイプもバーストを引き起こす手段としてラバーを搭載しており……
陽歌とマナ、紬と夕夜はベイブレード競技を取り仕切るwbbaの本部に案内されていた。あの事件を聞きつけたwbbaにより、全てを説明してもらうためにここへ来た。タカラトミー本社の地下にそれは存在し、何かの研究が密かに続いている。
「お待ちしておりました」
そこで待っていたのは、眼鏡を掛けた男性。マスターブレーダー村木、告知動画のテンションは鳴りを潜め、真面目な話であることを四人に態度で示していた。
「説明してもらいます。なぜフロラシオンがベイブレードを儀式に使っているのか」
陽歌は真っ先に切り出した。いじめられっ子というには生温い扱いを受け、常に脅えた様子を見せていた彼からは想像できない毅然とした態度に紬は驚く。陽歌としても紬が生き返ったとはいえ殺された事件の切っ掛けがこのベイブレードであり、制作したwbba。場合によってはこの場で全てを破壊することも厭わない状態なのだ。
「はい。それにはまず、なぜ超王レイヤーを我々が開発したのか、ゴールドターボとは何なのかについてお話する必要があります」
村木はまず、ゴールドターボというものの説明をした。マナは一応、それについてはあらましを知っている。
「え? ゴールドターボってスプリガンレクイエムとかにあったレアカラー版的なものじゃないんですか?」
GTシリーズでは一般商品に金色の色違い、ゴールドターボが低確率で封入されている。てっきりそのことだと思ったが、これまでの戦いを見る限り破壊してきた三つのベイはただの色違いの範疇に入らない。
「それはあくまでカバーストーリーです。皆さんは昔から回るものが神聖であるという話は知っていますよね?」
「そうなの?」
紬は一番年上の夕夜に尋ねる。だが、彼もあまり詳しくはない。
「そうなんだ……」
「回すだけで経典を読むことになるマニ車というものがありますからね」
陽歌はお寺にある文字の刻まれた車輪を例に挙げる。そもそも回転とは輪廻転生、太陽の浮き沈みなどを示すものだ。
「そしてベイブレードのレイヤーには神話に描かれた神々などの姿が刻まれています。シリーズが進むごとにベイブレードの性能が上がり、回転数が一定になった時、我々はある現象を目にしたのです」
「それが本来のゴールドターボ……」
マナはその結果として生まれたのがあのゴールドターボベイであると気づいた。
「そうです。あまりに強大な力を持ったそのベイの存在を秘匿するため、我々はカバーストーリーの流布と対抗手段の開発を進めました」
「たしかに、爆転世代を知る者として彼らに見せて貰った超王シリーズと呼ばれるベイブレードは過去に感じたある危惧を呼び起こしました」
夕夜はベイブレードの元祖、爆転シュート時代のユーザーであった。リアルタイムでこそないが、触れる機会があったらしい。最近のベイブレードには詳しくなかったが、この事件をきっかけに戻ることとなった。
「超王シリーズで登場したダブルシャーシ、そして限界突破システム。それは確かにコマの性能を底上げするものでした。しかし、その一方でカスタム性を損ない、互換を失わせる恐れがあった」
「ヘビィメタルの話はよく聞きましたね」
それは爆転世代末期、新たな機構として生まれたシステムが今までのパーツを使えなくした上で、それまでの機体と一線を画する強さを持って生まれてしまった件。ブームの幕を引いた事件とも言える。陽歌も生放送でその話題は聞いていた。
「でもいい塩梅に調整しましたね」
しかし超王はそうならなかった。とはいえそんな危険を冒してまでベイの性能を上げる必要があったのか。
「ゴールドターボは理屈を超えた力を持ちます。そんなものが悪用されれば、世界の危機です。全世界のブレーダー誰しもが対抗できるように超王、そしてダイナマイトバトルレイヤーと進化を続ける必要があったのです」
村木はそう語る。DBレイヤーの下りで、陽歌は自身のベリアルを取り出し、村木に尋ねる。
「このベリアルは特別な方法で生まれたものです。市販のものと並べても、僕には熱の様なものを感じられて見分けることが出来ます。これを作った人物はダイナマイトベリアルを知りませんでした。これはどういうことなんですか?」
後に赤おじさんと黒おじさんに聞いたことなのだが、彼らはベイブレードは愚か、男児向けトイに疎かった。破壊された紬のヴァルキリーを復元して、自然とこうなったのだ。しかしベリアルは一般に流通している。
「それにこのベリアルには、進化ギアを取り付けるジョイントがないんです」
ベリアル最大の特徴は、他のベイから能力を奪う点。しかし陽歌のベリアルには直近に発売されたファブニルのFギアを取り付けることが出来ない。
「アマテリオスによると、ゴールドターボを悪用した者に対抗する魔王、そしてそれに力を貸す友がいるとのこと。その情報だけで我々はベリアルやファブニル、進化ギアを作り、市場に流通させました。もし敵がこの情報を得ても、すぐには魔王を特定できないように」
これは協力者の入れ知恵であった。後にこうしたベイが出現することを予想し、その僅かな情報で彼らはカバーストーリーを作っている。
「ですが、既にフロラシオンと僕は出会い、戦ってしまった」
「そう、だから堀川さんが急いで最後の切り札を用意している」
最近告知動画に出なくなったもう一人のマスターブレーダー、堀川氏も何か策を用意している様だ。
「そうだ。実はバチカンのさる高貴なお方からお手紙をいただきまして」
「え?」
陽歌はwbbaを信用したので、自分で得た情報も開示する。実はフロラシオンが本格的に活動を開始した都知事撃破後に、あらゆる宗教が壁を超えてフロラシオンと戦ったという話を聞いて詳しいことを一番聞き易い組織に質問を飛ばしていた。
手紙は筆記体の英語で書かれているが、陽歌は問題無く読める。
「何が書いてあるんで?」
「ええ、なんでもフロラシオンは『一神教』だとか」
「一神教? そんなはず……」
その情報にマナは戸惑う。フロラシオンには【児戯】、【叡智】、【福音】とこれまで倒しただけで三柱の女神がいたはずだ。
「それなんですが……」
「警報! ゴールドターボの反応がありました!」
「なんだと?」
陽歌がそこに触れようとした時、警報音が鳴り響く。モニターにはゴールドターボがあると思われる位置が示されている。
「これは?」
「三回の出現を経てゴールドターボの反応を探れる様になったんです。場所は……」
夕夜がこのシステムについて聞いていると、地図を見た陽歌は場所を即座に特定する。
「静岡県島田市……まさか!」
場所はユニオンリバーやポッポがあるエリア。一同は急ぎ、ゴールドターボの場所へ向かう。
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篠原深雪は陽歌の友人である。今日はとある霊園に墓参りに来ていた。花を供え、線香を焚いて全てを完了し、ショートの黒髪をかき上げてその墓を見やる。
「今年もファブニル出たよ、ハル」
弟の様に可愛がっていた幼馴染が彼女にはいた。しかし、初代ファブニルの発売を楽しみにしていた彼はそれを手にすることなく亡くなった。それ以来、命日や誕生日以外にもファブニルが出る日に墓へやってくるのだ。
「さてと……」
最近はベイブレードを持つ子供が狙われるという危ない話があるらしい。なので深雪も早めに帰る。東京都知事の手下であった自粛警察がいなくなったと思ったらこれだ。平和はなかなか訪れない。
「ん?」
霊園を出ると、そこには包帯を巻いたミイラみたいな少女が立っていた。
「あら、こんなところを一人で出歩いて……」
「うわ、何女?」
深雪は普通にびっくりする。フロラシオン【双極】の妹、レトが現れたのだ。
「お前を倒せばあいつに多少ダメージを与えられるか……」
「なんだ陽歌に負けて本人にリベンジする勇気もない感じなのね」
見事に図星を突かれ、レトは慌てる。
「将を射んとする者はまず馬を射よ、ってあんたらのくだらない慣用句にあるでしょ。それよ」
「私が負けるわけないでしょ! あんたなんかに!」
深雪はランチャーを構え、戦う準備をする。相手の使うであろう不思議なゴールドターボに市販品で勝てるとは思わない。だが時間を稼げばこれを嗅ぎつけたユニオンリバーが加勢にくるはずだ。まずはとにかく負けないことが大事。
「貴様! このゴールドターボで生贄にしてやる!」
レトが出したのはゴールドターボのミラージュファブニル。深雪のベイもミラージュファブニルだ。互いにベイをシュートし、バトルが始まる。
「やっぱり、実力は低い!」
左回転同士では、ファブニルの2Sシャーシのセットを変えてカウンターモードにするのがセオリー。しかしレトのファブニルはそれをしない。深雪は一応カウンターモードにしておいた。
「ゴールドターボなら本気を出す必要もないということだ!」
「その油断が!」
ファブニル同士が激しくぶつかり合う。しかしどうしたことか、ゴールドターボのファブニルはスタミナタイプと思えないほど攻撃的に仕掛けて来る。
「これがゴールドターボ……」
「まずはお前の魂で償え!」
想像以上の力に、深雪のファブニルが弾かれてしまう。バーストし、バラバラになるファブニル。金色のファブニルから龍の影が現れ、深雪を襲おうとする。
「っ……!」
その時、後方の霊園から何かが飛び出した。こちらも龍の影だが、まるでファブニルのラバーかの様な青い影だ。その影に、深雪は懐かしさを感じていた。
「……ハル?」
そしてその龍はファブニルのパーツに入り込み、新たなベイブレードを形成する。レイヤーの全周囲がラバーで覆われた、バニッシュファブニルへ変化した。
「またベイが、進化しただと?」
レトはベリアルから続く怪現象に困惑する。そのままバニッシュファブニルは姿を消し、次に現れた時にはゴールドターボのファブニルを粉砕していた。
「ぎゃあああああ!」
ファブニルと一緒にレトも吹っ飛ぶ。ゴールドターボのレイヤーは粉々に砕け、地面に落ちて色を失う。
「深雪―!」
遅れて青いスナイプテラが飛んでくる。よほど慌てていたのか、操縦していた陽歌は着陸を待たず飛び降りて地面に叩きつけられた。
「うぼぁ!」
「陽歌くん!」
額から出血し鼻血を出しながら陽歌は深雪の下に駆け寄った。
「大丈夫?」
「こっちのセリフよ。でも大丈夫」
深雪は変化したファブニルを陽歌に見せる。これのおかげで、勝利することが出来た。
「新しい……DBレイヤー……」
姿を現した、新しい不滅の龍。そして新たに明かされたフロラシオンの謎とは。戦いは更に加速していこうとしていた。
一神教
宗教において、神が唯一神のみであることを前提に成り立つこと。キリスト教がその代表。一方、日本の神道や各神話など多くの神々の存在を前提としたものを多神教と呼ぶ。
フロラシオンは一神教であり、神は当然一人のはずなのだが……?