騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
基本は天導寺重工の義手モニターとしての収入が主である。また同社の解説しているチャンネルの広告収入も入っている。トラブルコンサルタントユニオンリバー社としては彼が事件解決に関わった際、ボーナスが支給される形となる。
「どうも、天導寺重工プレゼンツ、まにゅまにゅチャンネルです!」
ひょんなことからユニオンリバーという組織に拾われた少年、浅野陽歌は失った両腕を彼らの協力組織が作った義手で補うことになった。その性能を宣伝すべく、彼は動画配信サイトでいろいろやっているのだ。
配信画面はゲーム画面と手元のコントローラーを写している。着ている白いパーカーの袖から覗く球体関節の黒い義手、これが宣伝するものである。コンプレックスとなっているキャラメル色の地毛やオッドアイもこれなら見えない。
「はい、このチャンネルでは義手の性能をアピールする為にゲームをプレイしていきたいと思います。僕もあまりゲームはやったことないので、激しい動きの少ないロールプレイングというのをやります。それがこちらの時と永遠」
すでにコメント欄には何かを察した様な言葉が流れる。
「え? でもイラストが化物語と同じ人ですよ? 大丈夫ですって」
もちろん提供はエヴァリー。あのサーディオンを持っていた女の一押しだ。陽歌も化物語シリーズを一通り読んだので絵からは不安を感じない。
「ほら、パッケージもタイトルもこんな綺麗なイラスト!」
陽歌はゲームが分からぬ。一応、前情報はある程度知らされているが。
「ファミ通っていうゲーム雑誌でゴールド殿堂入りしたし、まぁ大丈夫でしょう」
ゲームを開始すると、なんとストーリーパートはフルボイス。声優の演技が光る。大まかな話は主人公がヒロインと結婚式を開くのだが、その最中に刺されてしまうというもの。
「……結婚を迎えた成人男性がモテるかどうかって気になるんです?」
が、初っ端から主人公の不快感がプレイヤーを襲う。既婚者男性とは思えない思春期中学生並の発言がゲーム終了まで続く。声優が上手いせいで余計にムカつく仕上がりだ。これで棒読みとかいっそボイス無しだったらいくらかマシだっただろう。
「は?」
急にヒロインの性格が切り替わり、敵を圧倒する。
「で、時間が巻き戻って主人公はドラゴンに……」
その後ヒロインの魔法を使って時間を巻き戻す。そんな流れである。
「え?」
コメントに陽歌の声がヒロインに似ているという指摘があった。まぁ十人に聞けば九人くらい似てると言うだろう。
「さて声はともかく進めるよー」
フルHDアニメーションを謳っているが、一応待機モーションはまるでアニメだ。しかし動き出すと忽ち問題が露呈する。
「さて、歩くか……」
作画枚数が限界なのか動きはカクカク。ストーリーパートの口パクすら合っていない有様。枯れた技術の安定感を思い知らされる。ただし陽歌はアニメにも詳しくないのでこの不自然さにも気づいていない。
「んあ? 横移動できないんですか?」
そんな彼もいよいよきな臭さに気づく。コントローラーというか3Dゲームに慣れる為、PSO2を軽く遊んだ陽歌。そのため流石に、横移動をするのに方向を変えて直進という方式が取られていることに疑問が出る。
「さて、いよいよバトルです」
戦闘に移っても問題からは逃げられない。物理攻撃まだナイフや格闘戦などバリエーションがあるのだが、射撃攻撃はリロードの概念無しと単調極まりない。そして何かある度に画面が揺れる。
「うう……なんか気持ち悪い……」
ゲーム慣れしていない陽歌には厳しいものがある。
「あ、これが連続エンカウントかぁ」
慣れない陽歌が噂のエンカウント率調整ミスと勘違いしたのは、技術上の問題で敵が一体しか出ないので倒した後すぐ次の敵が出る仕様。
「え? 違う?」
技を当てているとゲージが溜まって魔法が使えるので、早速試しにぶっ放してみる。通常攻撃のダメージが数百だから少し強いくらいか、と思った陽歌だが、出た数字を見て真顔になる。
「え?」
なんと四桁ダメージ。もう魔法だけでいいや。物理の申し子、ラストリベリオンへの反逆者が登場と当時のクソゲーオブザイヤーは沸いたものだ。
「レベルアップすると人格が変わるんですねー。面白い」
ヒロインはレベルが上がるとトキとトワの人格が入れ替わる。これは斬新だ。レベルアップの時のみかつ任意に切り替えられるアイテムが個数制限ありかつ「コショウ」という身も蓋も無さを除けば。
サブシナリオに入ると、とうとう声が消える。まぁこの内容なら喋らない方がいいのだが。しかも作画の削減なのか画面が黒くなったり白くなったりしてイラストどころか立ち絵も映らない状況が続く。
「この流れ……何度目だ?」
ライバルキャラがヒロインに求婚して主人公に噛まれるという茶番を何度も見せられる。結構な頻度だが演技が上手いから余計に酷い。陽歌もだんだんこのゲームの腐臭を察知し始めた。
「で、襲撃の原因は自分達が作ったと……」
ゲームを進めると結婚式襲撃は主人公たちが過去でやったことが原因で、元々なかったのに起きてしまったことが発覚する。
「……まぁタイムリープではよくある話ですよね。さてエンディングエンディング」
ようやく事件も解決し結婚式。
「なんじゃあこりゃあ!」
が、今度はハロウィンの渋谷にいそうな仮装集団とヒロインの親友に襲われる。博士、これは一体?
まぁ似た様な流れで原因を突き止めることになるがここで問題が起きる。
「消費者センター?」
ファンタジー世界で急に消費者センターとか言い出されてもう世界観が滅茶苦茶だ。しかもこのボス戦、シューティングで戦う特殊戦闘なのだが横移動の作画がない問題がもろに出てしまう。
「え?」
さすがにゲームに詳しくない陽歌でも段々と不自然さに困惑を隠せなくなっていた。まだ困惑や動揺のみであり苦痛を感じていないのだからこの男感性がバグっている。
「なんかすっごいシュール」
ヒロインが蟹歩きでカサカサ動く様にはカタルシスも何もない。一応黒幕なのに世界観無視のメタネタぶっこまれているのも原因だが。
で、ここまで似たような流れを何回か繰り返し、唐突に真実が発覚する。幼少期にヒロインのトキにトワという人格が生まれるが、それが消えかけたので二人は結婚という契約を結ぶことで消滅を免れる。しかしそのせいで結婚式が必ず襲撃されるという……。
「つまり……どういうことだってばよ?」
陽歌は理解出来ていなかったが、多分理解できる人間はいない。そこで結婚式を上手く進める為にサムシングフォーという宝物を集めることになる。
「あー、マザーグースのあれね」
アメリカ先住民の民謡から結婚にまつわるものが引用された瞬間には、陽歌も『そうそうこういうのでいいんだよ』と思った。
が、運命のループからも抜け出せるというご都合アイテムでありああやっぱりと落胆する。しかもそのうち一つは明らかに脱糞した様な演出付き。
「ええ……」
加えて最後の最後で宝を紛失。数時間の努力……報われずッ!
「なんだか賽の河原ってこういう感じなのかな」
ごもっともである。クソゲーのシナリオでよくあるのはこうしたプレイヤーの努力が報われない展開である。鬱展開の仕掛けとしてならまだしも、特に意味もなく無為にしてくるのだからたまったものではない。というか鬱展開の場合は「いけるか?」と思わせてダメでしたという丁寧な作りがセットであり、今回はマジで何の脈絡もなく紛失である。
その後、もう諦めてどっちかの人格を選ぼうという話になるのだが使い過ぎた時間魔法が独立した意思を持って敵対。
「おお、いよいよ運命との対決……!」
ループを生み出していた運命そのものが敵となる熱い展開なのだが、理由も分からず自分の別人格と結婚した挙句タイムリープを繰り返しまくった主人公勢がほぼ原因なのでまぁなんとも。
「いくぞー!」
終盤の戦いともなれば陽歌も気合をいれる。しかしここで問題が発生する。敵が色違いの使いまわしというのはまだいい。しかし数値のコピペも酷く手ごわい割に初期の敵と得られる経験値が変わらないという事態が頻発した。
「よし武装だ武装」
しかも伝説の武器が店売りなのでこれ買えばなんとかなる。もう戦闘の意味ないです。
「あ」
陽歌はいよいよ気づいてはいけないことに気づいてしまった。時間加速と時間停止を使えば相手をハメ殺せるということに。どちらも使用回数に限りがあるが、使い切る頃には大抵ぶっ殺せている。
「またナイターとか言ってるよ……」
加えてこのファンタジー全開の世界観でナイター中継や駅伝。もう諦めの声しか出ない。ニーアオートマタで社長が出る時は世界観が壊れるぞと何度も注意してくれたのにこの始末。
「なんか声弄られたくないしトワ選ぼ」
キタエリの声をした金髪のヒロインを選んでエンディングへ向かう。道中の分岐とかじゃなくて最後の選択肢一つである。ある意味親切なのか。が、後に出会う義理の姉の方に声が似ているとは陽歌も想像だにしていなかった。
黒幕撃破の原因で記憶が消えてしまったトワ。しかしなんの問題もなく結婚。
「ええ……」
この流れいる? と陽歌は言外に滲ませる。加えて一部アニメが片方のヒロイン分しか作ってないので色が違うだけなのに差し替えが出来てない。セル画自体ならともかく今はデジタル処理でどうにかなるだろう。
「真エンディングがあるらしいね……いくぞ!」
しかし二周目で条件を満たすとトキとトワ両方と結婚できる様だ。陽歌は真のハッピーエンドを目指し、再出発。その時は流石に同じことをするのでゲストを呼んだが、ゲストの目が死んだという。
陽歌の家族構成
以前までの陽歌は両親と弟が家族だと思っていた。しかしその両親は自分を引き取った老夫婦の娘夫婦であり、弟は実際のところ甥であった。その老夫婦、浅野仁平、さとこそ自身の両親と陽歌は考えている。
というのも生まれがややこしく、そう考えて他人にも説明した方が楽という側面がある。実母が父親との間に作った子が自分ですって頭ややこしなるで。
また仁平はルシアという子供を引き取るつもりであったがある事件で彼女が失踪してしまう。後にルシアは陽歌に助けられ、現代の日本へ帰還。義理の姉となる。