蒼穹のファフナー ~Acta est fabula~   作:太陽隊長

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楽園 ~らくえん~

 

自分に自我という物が生まれた時から、それは私の中にあった。

知るはずのない遥か彼方の世界の出来事、どんな因果か私はそれを知っていた。

永劫、那由多の数繰り返されたその歌劇を、まだ無垢な私はただただ見つめていた。

残酷で、しかし感動的なその劇を、特等席で一人見ていた。

だからだろうか、私は周りから見れば変な子供だった。

そんな事を知っていた、というのは理由と言うには少々違うか。

私がその歌劇に関わる一人に憧れを抱いたからが正しい理由に他ならない。

それは日常を求める刹那でも、皆を抱きしめたい黄昏でも、闘争を望む黄金でもない。

役者ではなく、それを操る監督、未知を求める水銀に憧れたのだ。

たった一つの望みの為に、妥協すること無くただひたすらそれだけを追い求めた。

そしてその果てに、彼は自らが望んだ至高の結末へ辿り着いたのだ。

なんという執念、なんという渇望。

その姿に、私は輝きを見たのだ。

歌劇の終焉、彼は女神に抱かれ消えてゆく。

そして、ふとこちらを向き、こう呟いた。

 

『幼子よ、君は一体何を求める──』

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらずの空だ…」

 

教室の窓から空を見つめ呟く。

 

「いきなりどうしたのさ廻」

 

「いや衛、廻はいつもこんな感じじゃないか」

 

「そりゃそうなんだけどさぁ」

 

その呟きに教室にいた二人の男子、小楯衛と春日井甲洋が話し出す。

 

「何、ただこの蒼く広がる空に想いを馳せていたに過ぎないよ。幾ら月日が流れ変化しようとお前だけは変わらぬなとね」

 

「うーんいつも通りの無駄に長い言い回し、それそろそろ直したら?」

 

「衛、今はそういう歳なんだからそういう事は…」

 

「なんだ、君達は私が厨二病だとでも言いたいのかね。これは私の紛れもない素であり幼き頃から一度たりとも変化したことの無い口調だ。これを変えろなどと言うのは私に対しては礼に反するというものではないのかな」

 

「はははは、あんまり命君をからかわないほうがいいんじゃない?」

 

教室内の一人、蔵前果林がそう言って会話に入ってくる。

 

「いやどっちかっていうとからかわれるのは俺達だし…」

 

「随分なことを言ってくれる、そもそも私は君達をからかっている訳では無い。私の観点から君達の行動や思考を観察し私なりの意見を言っているに過ぎない。例えば甲洋、君はもう少し自分の欲望に正直になった方がいい。想い人が幸せなら自分は構わないと思っているようだが甘い。お前の愛はその程度なのか、彼女の想いを自分に向けてみせるくらいの気は見せたらどうだ。叶わぬ恋と諦めるなら何故その恋慕を捨てない。お前の想いは何処へ往くのだ、それはお前の中で永劫燻り続けるぞ。お前は中途半端に過ぎる、だから羽佐」

 

「わーっ!わーっ!」

 

私の言葉を甲洋が大声で遮る。

待て、まだ私の話は終わってないぞ。

 

「そういうのをからかうって言うんだよなぁ…」

 

「やっぱり命君のそれ直したほうがいいかも」

 

「果林、君も彼らのように私をそういうものと扱うのか」

 

「違うよ、そうじゃないって」

 

と言いながら彼女は教室を出ていこうとする。

おい、そう言っておきながら逃げようとするな。

が、彼女は教室に入ってきた彼にぶつかってしまう。

 

「ごめん、よく見えなかった」

 

「皆城君、帰ってたんだ」

 

「ああ、さっき」

 

「あ…」

 

果林は総士の落とした物を拾い上げる。

冲方書房…おそらくあれは少年冒険キングの最新号か。

 

「はい」

 

「総士おかえり」

 

「おおっ!もしやそれは、麗しの最新号!待ってたぜぇ」

 

「そう急くな、慌てずとも本は逃げんよ」

 

ゴウバインの事となると衛はこうだ。

私に何か言及する前に自分の事を気にしたらどうだね。

 

「ねえ皆城君、東京どうだった?」

 

「東京?」

 

これまで私達の会話を見ていた彼女、遠見真矢が総士に尋ねる。

ああ、そういえば彼は本土に行っていたらしい。

私はこの島から出たことが無いゆえ伝聞でしか知らないが、この竜宮島は日本本土より大分離れている。

まあここが日本だということも聞いただけなのだが。

あれのおかげで都会というのはどういうものかは把握できているがね。

 

「結構、普通のとこだった」

 

「えー、芸能人とか会わなかった?」

 

「全然」

 

「なーんだ」

 

「一騎は?」

 

「授業が終わった途端近藤君と出てったわ」

 

「そうか」

 

「剣司も懲りないというかなんというか」

 

「まあ剣司には剣司の考えがあるのさ」

 

「それに付き合う一騎も一騎ではあるがね。全く、どうして私の周りには恋愛が不器用な人間しかいないのか」

 

甲洋は苦笑を浮かべ、真矢は顔を背け、そして総士は私の視線に気づきバツの悪そうな顔をする。

はっはっは、よもや私が気づいていないとでも思ったのかね。

彼女と話す時だけは口が緩んでいたぞ。

 

「…じゃあ、失礼するよ」

 

「あれ、総士もう行くの?」

 

「島に帰ってきたばかりだから、いろいろとあるんだ」

 

「では私もそろそろ帰るとしよう、私もこの後用事があるのでね」

 

「そっか、二人ともじゃあねー」

 

「ああ、また」

 

そうして総士と共に教室を出る。

彼からはなんとも言いがたい視線が向けられている。

 

「ああそんな視線を向けないで欲しい、別に私の用事は君を弄ることでは無いのだから」

 

「弄っているのは自覚しているのか」

 

「むしろ弄っているのではなく弄んでいるつもりだがね」

 

「更にタチが悪い…」

 

「私にとっては褒め言葉さ。そういえば恋愛に不器用とは言ったが君はこと人間関係においては不器用だったな」

 

「…」

 

おや、もう言葉も出ないか。

この皆城総士という男は一見堅苦しく見えるが、実際のところなかなか面白い人間なのだ。

 

「せっかくなのでアドバイスをあげよう。君はもう少し自分の考えを事細かに伝えた方がいい。君の言葉には一言足りない」

 

「一言多いお前が言うと説得力が増すな…」

 

「一言どころか二言も三言も多いと思っているが」

 

「極めて不愉快だ」

 

「酷いな君は」

 

「お前が言うな」

 

 

 

 

「さて、どうしたものか」

 

総士と別れ、ゆっくりと歩を進めながら考える。

思い出すのは先日の事、時間の空いていた自分は羽佐間翔子の下へ向かった。

彼女とは四年前に知り合って以来の短いような長い付き合いだ。

持病で中々学校に来れない彼女に暇つぶしの方法を教えたりする事が多々ある。

そこまではいいのだ。

その後、ふと思い立ち自宅でタロットを引き出して彼女を占ってみたのだ。

その時に出たのは…13、死神の正位置。

死神の正位置が意味するところは停止、終末、破滅など終わりを予期させるものだ。

死神の正位置に正の部分が無いとは言わないがそれに対しては負の部分が大きすぎる。

これが外れれば何の問題も無いのだが、生憎と私は占いを外したことは一度もない。

今までタロットで死神の正位置など出たことも無かったのでその時は相当慌てた。

後に冷静になり、どうにかこれを回避出来ないかと考えた。

しかし残念ながら私にはそれを避ける術が無い。

だがそれでも何もしない理由にはならないと思いこうやって羽佐間家に足を運んでいる次第なのだが。

 

「運命を変える、か」

 

出来なくはないだろう。

なにせ蝶の羽ばたき一つで運命などコロコロ変わっているのだから。

ましてやこの世界は永劫回帰に囚われてはいない。

ならば出来るはずだ。

 

『あなたはそこにいますか?』

 

「ッ!?」

 

その声と共に鳥達が逃げるように一斉に飛び、島が震えた。

そしてその直後に警報が鳴り始めた。

 

「なんだ、何が起こっている…!」

 

上を見上げれば偽りの空が剥がれ、本当の空が広がる。

知らない、こんな事が起こるのは私は知らない。

確かに私にとって未知は歓迎すべきものだが、

 

「だが分かる、私には分かる。これは碌でもないことだ。──もしやこれがっ!?」

 

当初の目的地の羽佐間家へ走り出す。

もしそうだとすれば急がなければなるまい。

 

「命君!」

 

「真矢か!」

 

しばらく走ると後ろから真矢が自転車で走ってきた。

 

「君も翔子の処へかね?」

 

「君も、ってことは命君も?」

 

「ああ、彼女が動けないであろうことを思い出してね。すまないが先に行っていてくれ、私も後から追い付く」

 

「わかった、気をつけてね」

 

私を追い越し真矢は走っていった。

 

「私も久しぶりに本気で走るか…」

 

そのまま真矢を追い掛けるように全速力で走る。

が、やはり人の足と自転車の速度は違う物だったようだ。

 

 

「廻君…?」

 

「や、やぁ翔子。全力で走るなんて久々でね」

 

羽佐間家に着いたのは、真矢のすぐ後だった。

 

「説明している時間は無い。とにかく今は行かなければ。さぁ早く」

 

「うん、行こう」

 

さて、おそらくあの結果を知らなければ私はここにいないはずゆえ運命は変わっていると思いたいがそう上手くいくだろうか。

運命とは思いの外残酷であり、私が彼女を占うことももしや織り込み済みかもしれない。

翔子と真矢を連れ避難所を探す道中そう思考していた。

 

「これって一体…」

 

「十四年この島で育ってきたが、予想より知らない事は多かったようだ」

 

「分からないことだらけだよ」

 

偽りの空、島中にせり上がる壁、そして鳴り響く爆発音。

どれも興味深くはあるが、今の感想を言うならば、何時かの刹那の言葉を引用して「こんな未知いらねえ」というところか。

 

「おや、あれは」

 

ようやく誰か発見できたようだ。

四人ほどが集まり、一人がこちらに手を振っている。

 

「おーい!そんなとこにいちゃ駄目だわよ!早くアルヴィスの中に!」

 

「アルヴィス?」

 

「とにかく急ごう!」

 

「うん」

 

轟音が響く、空が赤く光る、その瞬間彼らのいた場所は黒い球体に呑み込まれた。

その場に残ったのは、バッグや服の残骸だけ。

 

「っ…!」

 

「そんな…」

 

二人が目の前の光景に衝撃を覚え、眼を逸らし、呆然とする。

私もこのような光景を見たのは初めてだが、顔を歪めるだけに留まった。

死体を見ないだけマシというものか…

 

「…他の場所を探すしかあるまい。一番近い壁の側面に向かおう、おそらくそこにアルヴィスとやらの入口があるはずだ」

 

こういう状況で焦ってはいけない、冷静かつ迅速に判断を下すことが大事だ。

二人を牽引して入れそうな場所を探す。

しかし、

 

「駄目だな、此処も通れん」

 

不運なことに壁の側面に通じる道は先程の黒い球体に尽く削り取られていた。

 

「どうしよう、このままじゃ」

 

「あの黒い球体に我々も呑み込まれてしまうかもしれないね、それは御免蒙りたい」

 

「何処でもいいから隠れれるようなところがあればいいんだけど」

 

「一箇所に留まればあれに呑み込まれる可能性が高くなり、動き回れば偶発的に呑み込まれる可能性がある。難儀な状況だな、これは」

 

「あ、二人ともあそこ…」

 

翔子の指差す先には電車の路線、その下には地下へ降りる階段があった。

 

「地下通路への階段か、あそこならば危険度もだいぶ下がるだろう」

 

「呑気に言ってないで早くしなきゃ」

 

「焦って足を踏み外しては元も子もない、翔子もいる以上慎重に降りるべきだ」

 

「そ、そうだね。あ、自転車どうしよう」

 

「外に置いておくしかあるまい、あれに呑まれぬよう祈るといい」

 

ゆっくりと階段を降りる。

真矢は翔子を支えながら、私は道の先を確認しながら。

なんのトラブルも無く通路に辿り着くと、ようやくそこで一息つけた。

 

「電気は付いていないが文句を言える状況ではない、妥協しよう」

 

「結局なにが起こってるのかな…」

 

「さてな、島の秘密と関係が無さそうなのはあの黒い球体だけだ。推測するならば、島を何かが襲っている、というところか」

 

「何かって…」

 

「それについては私もわからん、怪獣、宇宙人、地球外生命体…予想するならそんなところか。どちらにしろ外のが終わるまでここから出ては危険だ、もう少し待つとしよう」

 

 

 

 

 

 

外に出れたのは、夕陽が沈み始めた頃だった。

それからは、ひとまず翔子を帰すため羽佐間家に向かった。

羽佐間家に着く頃にはもう暗くなり、家の前には容子さんと甲洋が待っていた。

こちらを確認すると甲洋が走ってくる。

 

「羽佐間!良かった、無事だったんだ…怪我は?」

 

「大丈夫」

 

「春日井君、あのね…」

 

「なんだ…?」

 

「一騎君は…?」

 

「真壁…?ああ、無事だと思うよ」

 

「…良かった」

 

「…」

 

うん、気付いていないとはいえ今のはナチュラルに酷いぞ翔子。

 

「さあ、中に入りましょう。ありがとね、真矢ちゃん、廻君」

 

「いえ」

 

「私達の意志でやった事ですから、お気になさらず」

 

「いいか、今夜はゆっくり休むんだぞ」

 

「うん」

 

「三人ともありがとうね、お休みなさい」

 

翔子は容子さんと共に家の中に入っていった。

何事もなく終わったようで何よりだ、私の占いも外れたようだ。

 

「ありがとな、遠見、廻」

 

「うん」

 

「なに、構わんさ。では、母上が心配するだろうからね、二人とも、良い夜を」

 

「素直にお休みって言えばいいのに…」

 

 

 

 

「母上、ただいま帰りました」

 

そう言って家の扉を開くが、帰ってくるのは沈黙であった。

中は電気も付いていない。

 

「もう寝ている…?いや流石に私が帰っていないのにそれはないだろう」

 

電気を付けて家中を探すが何処にもいない。

 

「もしや迷ってまだ帰れてないのでは」

 

ありうる、母上は極度の方向音痴だ。

暗い中であれば家まで辿り着くことさえ出来ぬかもしれない。

 

「…探すか」

 

懐中電灯を引っ張り出し家を出る。

少し呆れながらも私は母上を探しに行った。

最悪の可能性から眼を逸らして───

 

 

 

 

 

 

「母上~、母上~、何処で迷っているのですか母上~」

 

夜という事もあって声量を下げつつ呼ぶ。

かれこれ三十分程探しているのにあの人は何処で彷徨っているのだ。

 

「と、危ないな」

 

足元には丸く抉られた後、恐らくあの黒い球体によってつくられた物だろう。

周りを見渡しそこから引き返そうとした時、カチッという音がした。

どうやら何か足で踏んだようだ。

 

「なんだ」

 

拾い上げてみると、それは髪留めだった。

ハートが描かれた、母上が付けていた物と同…じ…?

 

「…」

 

唾を飲み込み、抉られた場所を照らす。

服の切れ端などの中には、半分になったシュシュがあった。

それは、私が昔母上に贈った水色のシュシュだった。

 

「─馬鹿な」

 

膝から崩れ落ちる。

私は理解した、理解してしまった。

母上は道に迷っているのではなく…もう何処にもいないということを。

 

「こんな…こんな未知があっていいはずがない!一体誰だ、誰がこのような展開を望んだ!ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなよ!私は認めない、断じて認めないぞ!」

 

思いつく限りの否定と罵倒雑言を叫び続ける。

頭で理解できても心では理解できないのだ。

どれだけの言葉で自らを着飾ろうと私は常人であるゆえに。

その現実を肯定したくないから。

だが、いくら足掻こうと人はいずれ真実に向き合わねばならない。

 

「母上、出てきてください母上。私にこれを認めさせないでください、現実を見せないでください、何時ものような笑顔を見せてください───母さん」

 

この日、島は平和を奪われた。

これから過酷な戦いが始まり、私達は大切なものを守る為、その中に身を投じる。

しかし、私はこの日、守るべき大切なものを一つ失った。




一話で描写もされてない母親を殺す畜生。
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