アッシュ・レコード   作:道草 いのり

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第一章 始まりと成長
孵化


「…どうしよう」

 

 

 

 現実世界で頭を抱える私は、その頭にヘッドギアをつけている。

 手に伝わってくる感触はかなりゴツゴツしてるがそれもそのはず、私はさっきまで、世間で話題になっている<Infinite Dendrogram>をプレイして()()からだ

 

「…やめようかな」

 

 友人に誘われてプレイしてみたはいいものの、流石に先程のはこれから続けるかどうかを迷う程度にはきつい経験だった。

 でも、せっかくああも熱心に誘ってくれたのに、すぐに辞めるというのもなんだか忍びない気もする。

 

「とりあえず、宿題しよう」

 

 どっちにしろ24時間はプレイできないようなので、明日友人に相談することにして私はハードを横に置いたのだった。

 

 

 

 ◼︎◻︎チェリー・アウルブルク

 

「どう、チェリー。プレイしてみた?」

 

 ここはフランスでも由緒あるお嬢様の女子校として有名なロレーヌ女学院。

 生徒の行動は厳しく制限されており、私がここに入学する時も家族(主にお母さんが)反対してた。

 お父さんはどちらでもいいと言っていたけど、私が強くお願いして入学させてもらった。

 とは言っても最近少し厳しすぎるんじゃないかと思うこともあって、少しフラストレーションも溜まっていた時に「いい解消法があるよ!!」と<Infinite Dendrogram>を勧めてくれたのが、この友人のファリナだ。

 

「朝からいきなりだね。それがちょっとプレイしててショックなことがあって…続けるかどうか悩んでて」

 

 いつもどおり相変わらず元気な友人に苦笑しながら答える。

 

「ええー!?勿体ないよそんなの!何があったの?チュートリアル終わった途端に上空に放り出されるやつ?確かにあれ怖いよね!?私絶叫系得意な方なのに滅茶苦茶怖かったもん!」

 

「あーうん、あれも怖かったんだけど、そのあとレベル上げしてたらデスペナルティになっちゃって。それがかなりショッキングな死に方だったから怖いなーって」

 

 ファリナは目を丸くすると確かにという風に首を縦に振る。

 

「あー、デンドロってリアルだもんね。私も生きながら自分の三倍はありそうな狼に捕食された時はめちゃくちゃ怖かったなあ!」

 

 え、なにそれ怖い

 

「でも、そのあと狼をボコった時はかなりスカッとしたよ。そんな風に困難を乗り越えるのもRPGの醍醐味なんだと私は思うよ!」

 

 …私のはそういう次元じゃないような。

 いや、でも確かに一回で諦めるのもなんだか気が咎めるし、まだ打開策すら探してない。

 一度ぐらい解決策を探してみるのもいいかもしれない。

 

「そうだね、もうちょっと頑張ってみるよ」

 

「うん、その息だよ!私も陰ながら応援してるからね!!」

 

「ところでファリナってどの国に…」

 

「恥ずかしいから言わない」

 

 …背景、お母さん

 友人に勧められるままにやってみたゲーム。

 ただしその友人とは一緒にプレイしないというよくわからない状況で私は学校生活を送っています。

 

 

 

 

 ◼︎◽︎アルター王国 【戦士】雪姫 桜

 

 デスペナルティが明けて私は再び<Infinite Dendrogram>にログインしていた。

 さて、ここまで頑なに言おうとしなかった私がやめようかと考えた元凶にして昨日の私の死因。

 

 それが今は目に見えない私の<エンブリオ>。

 TYPE:テリトリーである【灰塵幻想 シンデレラ】。

 その第一スキル、《灰を被ったお姫様》だ。

 そのスキルの効果は単純明解。

『【劣化】の効果を持った灰を辺り一帯に降らせる』というのものだ。

 デンドロが発売されてまだ間もないけど、すごく人気が出ているのもあってネットにも色んな情報が飛び交っていて、その中には【劣化】の状態異常に関する記載もあった。

 

【劣化】

 対象が身に付けている装備が、時間経過でボロくなる。

 それ自体は、すぐに効果を発揮するわけでも直接害を与えるものでもないが、装備の耐久値は《自動回復》持ちの装備でないと回復しないので、生産職に頼んで修理してもらう必要がある。

 

 と書かれていた。

 でも、あれはそんな生易しいものじゃなかった。

 まず灰が当たったモンスターはその部位がひび割れた。

 それに驚き無理やり動かそうとすると、その部位を中心にまるで灰のように崩れ、右腕と下半身が上半身から分離した。

 最後には悲鳴を上げる顔からボロボロと崩れていき、そのまま光の塵となった。

 正直に言ってめちゃくちゃ怖かった。

 さらにそれが()()()()にも現れてると分かったとき、パニックになって身体を動かしてしまって、足が崩れ倒れた体が粉々になり、頭が半分欠けたところでデスペナルティになった。

 ベットから跳ね起きた時、思わず自分の身体を確認してしまったくらいだ。

 

 とりあえずこのままでは危なくてまともに自分の<エンブリオ>のスキルすら使えない。

 せっかLv3になっている【戦士】だけど、ここはリセットして【シンデレラ】を扱えそうな他のジョブに切り替えるのがいい気がする。

 

 そう考えてお昼休みにネットを漁っているととあるジョブの名前が見つかった。

 

「【礼拝者(ワーシッパー)】?」

 

 

 

 ◼︎◽︎【戦士】雪姫 桜

 

「あのー、すいません。司祭系統のジョブクリスタルがあるのはここですか?」

 

「はいー、そうですよー。【司祭】に就かれる方ですかー?それならご一緒に入信もどうでしょー?」

 

 協会をくぐった私の相手をしてくれたのはなんというか、修道服を着たTheシスターという感じの人だった。

 入信も勧めてきているものの、あまり熱心な感じじゃなく、本当についでって感じがする。

 面倒な勧誘を考えていただけに楽といえば楽なんだけど、宗教団体としてはそれでいいのかな?

 

「あの、【司祭】じゃなくて【礼拝者】ってジョブに就きたいんですけど」

 

【礼拝者】ーー司祭系統派生の下級職にしてリジェネ特化のジョブ。

 他者与える回復魔法や浄化魔法、聖属性魔法をほとんど覚えない代わりに自分への回復効果に関しては破格と言っていいほどの回復力を誇るリジェネスキルが豊富なジョブらしい。

 下級職の耐久職じゃ【シンデレラ】のスキルに耐えられなくて、クールタイムのある回復魔法を使う【司祭】じゃ継続ダメージを与える【シンデレラ】のダメージに間に合わないようだ。

 だからこそ、継続的な回復を見込める【礼拝者】を選んだ。

 

 

「それならお布施を頂くことになりますけどー、大丈夫ですかー?」

 

「お布施?」

 

「はいー、転職条件にー協会への一万リルの上納があったはずですがー」

 

「………」

 

 所持金:一万二百リル

 

 震える手で自身の全財産未満を渡し、【礼拝者】のジョブに就くことができた。

 気の毒に思ったのか【司祭】のお姉さんが、【礼拝者】用の服をくれたのがせめてもの救いだった。

 

 …昨日、せっかくだから<エンブリオ>が孵化するまで武器は買わずにいようと思っててよかった。

 供給過多で初心者狩場のモンスターのドロップアイテムは値崩れしてきてるから、今はお金を稼ぎ直すのも難しいし。

 

 

 

 

 ◼︎◽︎【礼拝者】雪姫 桜

 

 気をとりなおして中級者向けの狩場にやってきた。

 流石にまだ人は少ないらしく、ここならスキルの巻き込みが起こることもない。

 本当ならレベル1でくるところではないんだけど、昨日の惨事を見る限りはいける気がする。

 

 狼や熊など強そうなのが集まって来たので早速スキルを使ってみることにした。

 

「《灰を被ったお姫様》」

 

 宣言とともに灰の雪が降り始め、モンスターと私の身体を侵していく。

 腕を振り上げた熊は腕が落ちたことに驚愕し、駆け出そうと踏み込んだ狼は踏み込んだ足が崩れ、頭から地面に突っ込みそのまま崩れて光の塵となる。

 

 そして私の身体も罅が入っている。

 入ってはいるが、昨日とは違い少し動かすぐらいなら崩れない。

 それに身体に入った罅も少ずつ治ってる気がする。

 最も、直後に灰の雪が降ってきてまた罅が広がるのだが。

 

 そして、モンスターを倒し終わったらスキルを解除し、回復魔法をかけてみる。

 

「《ファーストヒール》」

 

 すると身体に入った罅がまた少し収まり、気をつければ普通に動けるようになった。

 

「やっっっっ!!」

 

 思いっきり叫ぶと顔が崩れるかもしれないので叫ぶのは自重したが、目論見は確かに成功した。

 

【礼拝者】ーー単体回復専用ジョブにしてリジェネ特化のジョブは、しっかりと【シンデレラ】にハマっていた。

 どうやら下級職の中でも転職条件がきつい部類に入るらしくかなりの回復力を誇っているらしい。

 他者にかけれる回復魔法をほとんど覚えず、他にも聖属性攻撃や浄化魔法の効果が低い引き換えに下級職では回復力は群を抜いているそうだ。

 それでも【シンデレラ】の効果を防ぎきれてないみたいだから【シンデレラ】の【劣化】は随分強力なようだけど、私にとってはとりあえず死ななくなったという方がかなり重要だ。

 あと【司祭】のお姉さんがくれた【礼拝者】の服は、元々ダメージを受けながら戦うのが前提のジョブであるためか、かなり強い自動回復の効果があるようで、服が先に限界を迎えることもない。

 よし、中級クラスの狩場でも問題なくモンスターは倒せるみたいだし、この調子でどんどんレベル上げていこうかな。

 

 ーー二時間後

 

「…デンドロ、辞めようかな」

 

 再びデスペナルティとなった私は昨日と同じようにハードごと頭を抱えながらそう言ったのだった。

 

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