アッシュ・レコード   作:道草 いのり

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ちょくちょく変えてます


ハロウィンイベント

 ◼︎□【高位信仰者】雪姫 桜

 

 

「あの、リーナさん。折り入ってご相談があるのですが」

 

 

「何よ、改まって」

 

 

巡礼者(ピルグリム)】への転職条件のこともあって、私とリーナは少し予定を変更してドライフに来ていた。

 丁度半日で終わる護衛クエストがあったので、それくらいならログアウトも大丈夫だろうととある商人に便乗させてもらっている。

 ここまでの旅でかなりリーナとも打ち解けてタメ口の名前呼びになっていたところで、私の改まった口調にリーナも少し身構えてる。

 初対面が最悪に近かったにも関わらず、あの共闘で私達の絆はかなり深くなった…と思う。

 でも、言わなければならない。

 ことは生命の危機に直結するのだから。

 そして、私は意を決して口を開き…

 

「お金を、貸してくれませんか?」

 

「却下」

 

 そうして幌馬車の中に戻っていくリーナの服の裾を私は掴んで

 

「お、お願い、リーナ。このままじゃ私寒くて死んじゃう」

 

「だから却下よ、却下!そもそもなんで冬服買ってこないのよ!」

 

「だって、だって!ほんのちょっと協会寄ったらすぐ出るつもりだったじゃん!ちょっと国境超えただけでこんなに寒くなるとか予想外だもん!」

 

 今の私の格好はちょっと長めのチェニックにショートパンツといったもの。

 対寒性能は皆無だ。

 むしろカルディナに行くから涼しい格好の方がいいだろうと思ってこっちにした。

 寄り道する先はレジェンダリアでもよかったわけだし、護衛クエスト探してる時もレジェンダリア方面で探していた。

 だが、その時リーナに言われたのだ。

「レジェンダリアは変態の巣窟だから行きたくない」と。

 一応他にもアクシデントサークルがあるからだとか部族ごとに慣習が違いすぎるから面倒だとか色々あったけど、一番の理由は“変態がいるから”だった。

 何かレジェンダリアであったのだろうか?

 ともあれ、そんなわけで少しくらいなら大丈夫だろうと甘い見通しを立て、私はドライフ方面に行く短期護衛クエストをいくつかリレーしながら受けてきたわけだが。

 

「ほんと見通しが甘いわね」

 

 今になってドライフの寒さを味わっていた。

 ちなみにリーナは格好こそいつも通りだが、耐寒性能に特化したアクセサリーをつけているため全く寒くなさそうだ。

 私もアルター王国で防塵ローブは買ったが,当然ながらこのローブにも対寒性能はない。

 試しに装備して寒さに震えてる私を見てリーナが何か言いたげな顔をしていたけど、これは元々砂漠用に買ったものなんだからそんな顔しないでほしい。

 

「というか、あなたの<エンブリオ>なら広域殲滅できるんだから実入りはかなりいいでしょ。クエストは受けれなかったにしてもドロップアイテムはどうしたのよ」

 

「えと、それは、その…【シンデレラ】ってお金稼ぎに向いてなくて」

 

【シンデレラ】の基本スキルである《灰を被ったお姫様》は辺り一帯に強力な【劣化】を促す灰を降らせるというものだ。

 それ故、周辺環境を破壊するということでアルター王国から離れたわけだが、実はそれ以外にも問題はある。

 というのも、《灰を被ったお姫様》はドロップアイテムにまで【劣化】を付与してしまい、アイテムの回収があまりできないのだ。

 近くにあるものはすぐに拾って回収できるけど,広範囲を壊滅させる割には手に入るドロップアイテムは少ない。

 クエストをやるにしても採集クエストは言わずもがな、護衛クエストも味方を巻き込んでしまう。

 《灰まみれの日々》を主軸に戦おうにも私自身のステータスは貧弱で,《魔女のお誘い》でステータスを上げるのにも時間が掛かる。

 よって,【シンデレラ】はレベル上げにはうってつけでも,お金稼ぎには向いていない。

 そうした問題を解決するために黄河に向かってるわけだが,それで黄河までの旅費がどうにかなるわけではないのだ。

 

 

「それじゃ、ハロウィンイベントで稼ぎなさいよ」

 

 

「ハロウィンイベント?」

 

 

 私はそういうゲームでのイベントごととか初めてだったのでよくわからなかったのだが,どうやらデンドロでも現実のお祭りごとに合わせてイベントとかをやってるらしい。

 今日はリアルではハロウィンで、学校でもファリナや他の友達とお菓子を交換してお菓子パーティーをやっていた。

 

「そのハロウィンイベントってどんなことをするの?」

 

「確かお化けの仮装をしてアンデッドモンスターを倒そうって話だったわね」

 

「…お化けがお化けを倒すの?」

 

「イベント担当の管理AIがハロウィンを勘違いしたんじゃない。そのお化けが落とすアイテム,お菓子らしいから」

 

 これじゃトリック・オア・トリートじゃなくてトリック・アンド・トリートよね,とため息をつくリーナを眺めながら私も衣装について考える。

 幸い【アルノーツ】を手に入れたこともあって,装備に関しては自由に選べる。

 となるとやっぱり肝心なのは仮装だ。

 

「あの、仮装するお金がないんだけど」

 

「私が出す条件を飲めば仮装と…ついでに耐寒アクセサリーを買うお金も貸してあげるわ」

 

 なぜか私の顔を見ようとせずーー明後日の方向を見ながら私に話しかけるリーナに不安を覚えつつ、リーナに条件を問いかける。

 

「えと、そのーー条件って?」

 

 にっこりと微笑んだリーナの顔が、一瞬本物の魔女みたいに見えた。

 

 

 

 ■□皇都 ヴァンデルヘイム 服飾店【アンティール】

 

 

「あーやっぱり狼女かなー。いやでも銀髪に吸血姫はなかなか映えたわね。…いっそミニスカサンタとか?」

 

「ひゃっはーッ!いやー,桜ちゃんいいモデルだわ〜。これはブログに載せるのが楽しみね」

 

「もう、いっそ殺して」

 

 服を外部出力してブログに載せることで,リアルでも有名なマスターが運営する服飾店に入った後、店内にある服で片っ端から着せ替え人形にさせられた。

 途中から店員さんも一緒に盛り上がって様々な服に着せ替えられ、写真も片っ端から撮られてる。

 こんなの、ファリナには見せられない。

 メイド服やセーラー服とか明らかに関係ないものまで着せられてもう、ハロウィンイベントなんてそっちのけになってきてる。

 

「いやーレバルドのやつが急に高性能の糸大量に送ってきたときは何事かと思ったけど,いろんなコスプレ試作しといてよかったわ!まさかこんなに試す機会が来るだなんて思わなかったし」

 

「私もここまで()()()()()店があるなんて思わなかったわ。機会があればぜひ語り尽くしたいのだけど」

 

「お,リーナちゃんわかる口?実はこんなのもあるんだけど」

 

 そのレバルドっていう人許すまじ。

 なんだかリーナもテンションが振り切ってキャラが崩壊してる。

 

 ちなみにこれらの装備品の性能はかなり低い。

 というのも<Infinite Dendrogram>において完全な新しい装備を作るのは意外と難易度が高いからだ。

 既存のスキルを保ったままデザインを変えるだけでもかなりの技術が要求されるため、ここに並んでるのは完全にファッション用の服である。

【アルノーツ】のおかげで装備は自由に選べるようになったのでおしゃれはしてみたいと思っていたがまさか二番目ののおしゃれがコスプレになるとは。

 

「凍死するよりはマシだから大丈夫よ。それより次はこっちにしましょ!」

 

「ううっ、まだやるの?」

 

「ふっふっふ、当然」

 

「その手はなに!?」

 

 両手をわきわきさせながらまた着替えさせようとしてくるリーナに半ば諦めの境地に立たされていると

 

「ちょっとちょっとリーナちゃん。その前に一ついいかな」

 

「どうしたの?」

 

「実は知り合いの【研究者】から面白い薬をもらっててね。まだ未完成品だから一般には流通させてないみたいなんだけど…。さくらちゃんを実験台にしていいかな?その代わりどれでも好きな装備品持ってっていいから」

 

「駄目ですよ!」

 

「どんな効果なの?」

 

「駄目だからね!」

 

「それは見てからのお楽しみ。ーーでも,桜ちゃんがもっと可愛くなるのは保証するわ」

 

「駄目だっーー」

 

「ぜひお願いするわ」

 

「話を聞いてよーっ!!」

 

 …とはいえ,装備のことを持ち出されたら何もいえないのは変わらない。

 丸め込まれる形で薬を渡され,いつの間にかカメラを構えた店員さんが期待した顔でこちらを見てる。

 

「ーー危なくはないんですよね?」

 

「もちろん,それ作った【研究者】にもそこら辺のことは確認してるからそこら辺は大丈夫よ」

 

 …薬の色,明らかに毒々しい紫なんだけど大丈夫かな?

 とはいえ,装備品のことを持ち出されたら選択肢なんてない。

 

「そ,それじゃあ」

 

 恐る恐る瓶を傾けて中身を口にする。

 毒々しい色に反して意外にもミックスジュースのような美味しい味がした。

 

 次の瞬間,全身が激しい痛みに襲われた。

 

「え,これ大丈夫なの?」

 

 いきなり苦しみ始めた私にリーナが不安そうな顔で店員さんを見る。

 

「うん,体を作り替えるんだから痛みが走るとは聞いてたけどーー痛覚設定オフでも痛いってことは頭痛みたいな者なのかな?」

 

「体を作り替える?」

 

 リーナと店員さんが何か話してるが内容が頭に入ってこない。

 体を丸めて必死に痛みに耐える。

 やがて痛みは頂点に達しーー嘘みたいに消えた。

 

 

「えと,なにが…」

 

 

 特に変わった様子はなーーいや,リーナが驚いた顔で、店員さんがどこか誇らしげに私を見てる。

 とりあえず痛みで目尻に溜まった涙を拭おうと手を伸ばすとーー

 

 ふさっ

 

 ーーふさ?

 そこでようやく手を見ると,その手は指先から肘までまるで動物のような毛皮で覆われていた。

 いや,手だけではない。

 よく見ると足も膝まで毛皮に覆われている。

 そして,何かが手に当たった。

 それは動物の尻尾のようでーーたどっていくとその根本は私のスカートの中に埋もれている。

 そして何より,鏡に映った私の頭には動物の耳ーー猫耳が生えていた。

 

「いやー,想像通り!やっぱり猫獣人がぴったりだと思ったのよ!」

 

「えっと,何これ?」

 

「ん?私の知り合いの【研究者】が息抜きに作った物でね!せっかくのハロウィンイベントなんだからこういうのはできないかって相談したらパパッと作ってくれてね!ーーってどうしたのリーナ?かわいいと思わない?」

 

「いや,かわいいとは思うんだけどあまりにも予想外な方向に走ったからびっくりして…。えっと,桜,大丈夫?」

 

「…」

 

「…………、………は」

 

「は?」

 

「………………は、は、《灰を被ったお姫様》ッ!」

 

 あまりの事態にパニックになって思わずいつものようにスキルを使ってしまい、灰雪がちらちらと舞い始める。

 だがーー

 

「待って桜っ!ここ室内!」

 

 そう、この時私は忘れていた。

 ここが服飾店であり、多くのお客さんや商品があるお店だということを。

 リーナの声に我に返り慌ててスキルを解除する。

 しかし既に時遅く、お店や商品、他の店員やお客さんが灰に触れようとしたときーー

 

「《病呪吸収》」

 

 ーー空色の髪をして鳥の羽の髪飾りをつけた女の子が腕を振るい、灰の尽くがその腕に吸い込まれた。

 幸いにも灰が触れた商品はなかったようで、私とリーナはホッと安堵の息をつく。

 

「えと、大丈夫、桜?」

 

「う、うん。びっくりしたけど。ただ、すっごく恥ずかしい」

 

「ーー待って、その格好反則」

 

 顔を赤くしながらちょっと俯き猫耳を手で押さえるとなぜかリーナがそっぽを向いた。

 今の格好がメイド服だったので完全なる猫耳メイドとなってしまっている。

 

「いやー,桜ちゃんいいわ!素晴らしい」

 

 店の崩壊の危機だったにも関わらず店員さんはパシャパシャ写真を撮っている。

 なんだかすごく恥ずかしくなってきた。

 そんな店員さんに素面に戻ったリーナが訪ねる。

 

「これいつ治るの?」

 

「こっちの時間で一日経つか呪怨系状態異常を解除する薬で戻るらしいわ」

 

 リーナと店員さんが猫化について話していると、さっきの女の子が近づいてきた。

 年は十代前半くらいで、髪と同じ色の目は眠そうに半眼となっている。

 髪は腰まで伸びていて、身につけている白のワンピースとのコントラストがとても綺麗だ。

 

「あ,さっきはありがとう」

 

「……うん」

 

「………」

 

「………」

 

 会話が続かない。

 なぜか私のことを凝視してくるので私もどうすることもできずにいるのだけどーーやっぱりさっきのことを怒ってるのだろうか?

 

「おい、なにやってんだルイア」

 

 するとそのとき,女の子に声をかける男の人がいた。

 私より少し年上くらいだろうか。

 その男の人はハロウィンイベントで仮装に来てる人たちとは打って変わって,ちゃんとしたファンタジーの剣士といった感じの服装をしていた。

 コートを着こんではいるものの雪国であるドライフでは不思議ではないーーどころか真っ当な格好をしていた。

(猫耳メイドと魔女っ子に比べれば大抵の格好はまともに見えるかもしれないが)

 でも格好がまともな分ーー目の下にできたクマが目立つ。

 そんな男の人はどうやらこの女の子と知り合いのようだった。

 

「…猫さん、愛でてる」

 

 …いつの間にか愛でられてたらしい。

 

「…ルイア、そいつは猫じゃない。人間だーー多分」

 

 …ほんの十分で人間かどうかを疑われる体になってしまった。

 いや,九割この二人のせいだけど。

 

「ルイア、その子も困ってるだろ?こっち来い」

 

「…うん」

 

 少し名残押しそうにしつつ私から離れるとトコトコと男の人の隣に行

 く。

 ルイアちゃんが側に来ると男の人も頭を下げる。

 

「あー、悪かったな。うちの<エンブリオ>が迷惑かけて」

 

 むしろ助けられたのでお礼をしたいぐらいなのだがそれよりも気になる言葉があった。

 

「<エンブリオ>?」

 

「なるほど、この子はTYPE:メイデンなのね」

 

 いつの間にか猫化談議を終えたリーナがこちらの話に混ざってくる。

 メイデンーー確か普段は女の子なのだが必要に応じてハイブリッド先の形態に変化する<エンブリオ>だ。

 ガードナーと間違われることもあるがあれは人間じゃないし、人間のように見えてもその実別種族だったりするため差別化されてるらしい。

 かなりのレアカテゴリーで実際に見るのは初めてだ。

 

「そうだ。ところでそれ、状態異常なんだろ?迷惑かけた詫びってわけじゃないが俺らのスキルで解除できるけどどうする?」

 

 私達の話を聞いていたのか、それとも単なる善意か、そんなことを言ってきてくれた。

 私は毛だらけのこの格好はなんだか落ち着かないので早く解除したいのだがーー

 

「非常に、非常に残念だけどしょうがないわね」

 

 そう思いながらリーナを見ると,素面に戻ったおかげか懇願が伝わったのか,リーナも頷いてくれた。

 

「それじゃ、来い、ルイア」

 

 男の人がそう言うとルイアちゃんが光の塵となって男の人の両手に収束した。

 その両手には二本のククリ刀が握られていた。

 ククリ刀はグリップの部分は普通の黒だが、刃の部分は半透明になっている。

 

「ダメージはねぇから」

 

「え?」

 

 そう言いながら男の人は私に近づきーーククリ刀を突き刺した。

 

「ええ!?」

 

 びっくりして男の人の方を見るがさっきの通り落ち着いてる。

 簡易ステータスの欄を見てもHPが減ってる様子はなく、また私自身ダメージを受けた様子はない。

 

「…非実体武装」

 

 リーナの声がやけに鮮明に響くなか男の人はスキルを宣言する。

 

「《リターン・ディスオーダー》」

 

 途端に、私の体から何かが抜けていく感触があり、手足の毛が抜けていって、耳と尻尾も引っ込んだ

 

「そんじゃ、俺はこれで」

 

 そう言ってあっさり店から出ていく男の人を見送りつつ、そういえば名前を聞いてたかったことを思い出した。

 まあ、もう会うこともないだろうと気を取り直してリーナの方に目線をやるとーー

 

「ねぇ、他には獣人化の薬ないの?堪能仕切れなかったしもうちょっといろいろ試したいんだけど」

 

「猫化はあれだけね。ただ、犬化とウサギ化はあるわよ」

 

 ーーそこには怪しげな交渉をするリーナと店員さんの姿があった。

 

「…言い値で買うわ。売ってちょうだい」

 

「私の方も残しときたいんだけど…。リーナちゃんはわかる子だしいいよ,売ったげる。その代わり今日の酒場ではリーナちゃんが奢ってね」

 

 …聞かなかったことにしよう。

 

 

 その後、結局魔女の服装選び、こっそり盛られた犬化の薬で犬獣人化したままハロウィンイベントを終えた。

 お金もある程度溜まってカルディナ行きも大丈夫そうだが、ドライフでは《炎熱耐性》のアクセサリーは高かったため、カルディナに行ってから買うことにした。

 そして、ドライフをある程度観光したあとでカルディナ行きの竜車に乗る日。

 

 急に後ろから服の裾を掴まれた。

 

「え!?」

 

 驚いて後ろを振り返るとそこには初日に助けてもらったルイアちゃんとルイアちゃんの<マスター>がいた。

 

「ああ、あんたらもカルディナに行くのか」

 

「う、うん。えーと」

 

「ああ、名乗ってなかったな。ウェグニだ」

 

「私は桜。えーとウェグニくんとルイアちゃんも?」

 

「ああ、俺らは元々カルディナが拠点だからな。ーールイア、離れろよ。歩きにくそうだろ」

 

 ずっと裾を掴んでるルイアちゃんをウェグニ君が嗜めるがルイアちゃんは動かない。

 

「…桜,好き」

 

「ええっ」

 

「いいから離れるぞ」

 

「あら,何顔赤くしてるの?」

 

「してないよ,リーナのバカ!」

 

「リーナ,嫌い」

 

「いい度胸じゃない」

 

「ルイアが悪いのは認めるけど《クリムゾン・スフィア》構えるのはやめてくれ。うちのメインウェポンが死ぬ」

 

 どこか騒がしい一行を見ながら,しかし楽しい旅になりそうだとなんとなくわくわくした。

 

 

 

 

 

 

 ◼︎□???

 

 月明かり一つない夜。

 ここは、貧民が住み着くスラムであった。

 金で全てが決定するカルディナにおいて、金を失った敗北者達。

 気にする者も少なく、盗賊や乞食の溜まり場になっていた。

 ーーそう、()()()()()

 

 

 今はもう、そうではない。

 スラムには二人の人間がいた。

 辺りが暗いためその姿は判然としないが、一人は身長が三メートルを超えているのではないかという大柄な男であり、もう一人はまだ成長期すら迎えていないような小柄な少女であった。

 

 

 男の方は食べるものなど持っていないはずの両手で何かを鷲掴みにして食べているようであり、少女の方は死体を漁り値打ちのあるものを探していた。

 

 

「おいおい、これまた随分と派手にやったもんだな」

 

 

 そんな二人にさらに現れた三人目の男が声をかけた。

 男の姿もまた、暗闇で判然としないがロングコートにシルクハットを被っているようである。

 

 

「別にいいじゃん、ここの人たちは殺しても誰も悲しまないし、国も罪には問わないし、死体も綺麗に片付けるから文句だって言われないんだよ。それよりマッド、何か用?」

 

 

 そんな、聞くものが聞けば吐き気を催すようなセリフを平然と吐いた少女は現れた第三者の男に声をかける。

 

 

「おうよ、パーティの始まりだぜ、リム」

 

 

 また第三者の男ーーマッドは少女の方を向き、少女に声をかけるも、大男の方には見向きもしない。

 また、大男も変わらず何かを貪っているようであり、少女もそれを気にはしない。

 

 

「へぇー、それで会場は?」

 

 

「オークションだ」

 

 

 それは余人には意味不明な言葉の欧州であり、質問にすら答えられていないようであったが、変わらず会話は進んでいく。

 

 

()()からの指令だ。今回は“光喰”も参加するってよ」

 

 

「えぇ…。アディでぃんは根暗だから合わないんだけど」

 

 

「ま、今回は相手が相手だからな。死なない程度に楽しもうぜ」

 

 

  もはや会話の程を成しているのか分からないーーお互いに好き勝手なことを言い合っているだけのようにしか見えないが、それに疑問を挟むものはいない。

  さらに言えば、本人達の間ではたしかに会話が成立しているの問題ないのだろう。

 

 

「うん、そうだね、そうだね、そうしようか。それじゃ、行くよ。フラらん」

 

 

  そして、最後に会話らしい会話をした後、彼らは静かになったスラムから立ち去った。

 彼らが去ったスラムではもう動くものは何もない。

 この後起こる大事件の未曾有の脅威が動き出したのを知らせる者は誰もいない。

 ただただ血臭が立ち込めるだけであった。




【略奪姫剣 ハルピュイア】
二本のククリ刀
到達形態:Ⅳ
TYPE メイデンwithエルダーアームズ

《リターン・ディスオーダー》
刃を突き立てたものの状態異常を吸収し,その状態異常を刃を突き立てたものに与えることができる。
傷痍系状態異常も吸収できるのでHPは戻らないが,形状だけの回復なら可能。
なお、発声の必要がないスキルである。

《病呪吸収》
範囲内の病毒系状態異常と呪怨系状態異常を吸収する。

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