◼︎□【高位信仰者】雪姫 桜
「…なに、あれ」
「…さあ」
とりあえず街からかなり離れた狩場まで来てここならそろそろ《灰を被ったお姫様》を使ってもいいかなと思ってた時だった。
どこからかドドドドッという地を震わすような音が響いてきた。
なにが起こったのかとそちらの方に行ってみると、たった一人の私と同い年くらいの女の子が砂漠を蹂躙していた。
女の子の背後にはいくつもの大きな光の輪が浮いており、そこからなにかが飛び出て音につられて地上に出てきたワームをひたすら殲滅している。
私のAGIではなにが出ているのか判別がつかないくらい高速だ。
「あれ、なにが飛び出てるんだろう」
「砲弾、だな」
「砲弾?」
「ああ、多分。おそらく砲弾を飛ばすことに特化した<エンブリオ>を持ってるんだろうが、これ程とは」
よく見てみれば亜竜級や純竜級のモンスターもワームには混ざっているようだが、それすらも瞬時に殲滅している。
相当攻撃力は高いようだ。
「あの人もトーナメントに参加するのかな?」
「…少なくとも俺には勝機は見えねぇな」
多分、超音速は軽く凌駕している。
純竜級を容易く屠れる火力が何十発と一斉に飛来する殲滅攻撃。
決闘では自分も巻き込んでしまう可能性もあるだろうがもし火力まで調整できるのなら間違いなく優勝候補だ。
【ハルムート】で止められる数に限りがある以上リーナでも勝利を掴むことは難しいだろう。
「え?」
「は?」
そんな予想をしていた私たちに,突如光の輪のうちの幾つかがこちらを向いた。
明らかに剣呑な雰囲気を放ってるそれがひときわ大きく光りーー
「まさか…PK?」
「は,《灰を被ったお姫様》っ!!」
十を超える砲弾が私たちへと向けて飛来した。
ギリギリで展開が間に合った《灰を被ったお姫様》が砲弾を急速に【劣化】させ,その威力と速度を減衰させるが,砲弾の初期速度があまりにも早すぎて【劣化】が間に合わない。
ある程度は威力は弱まったもののどれでも十分な威力と速度を持った砲弾が私たちへと迫り,そういえばデスペナルティになるの久しぶりだなあと半ば逃避気味に考えているとーー
ーーギィィン
けたたましい音と共に予備のククリ刀を《瞬間装備》したウェグニ君が威力の弱まった砲弾をはじき返していた。
頭から足まで覆うフードマントを被っていて,それによって【シンデレラ】の灰を防いでいるようだ。
【アルノーツ】のような装備耐久値回復効果はなさそうだがとにかく頑丈に作られているようなので,これなら二分ぐらいは【劣化】にも耐えれるだろう。
「な,なんとかなりそう?」
「…この灰のせいで先に俺のナイフとマントの耐久値が尽きるな」
「じゃ,じゃあ《灰を被ったお姫様》を解けばーー」
「砲弾にやられて死ぬぞ」
言葉だけ聞いてれば随分と冷静に聞こえるが、ウェグニくんは大量の汗をかいている。
「そ、そうだ!この前ルイアちゃんが使ってた《病呪吸収》ってスキルは?あれならウェグニくん達も被害を回避できるよね」
「…あれは辺りの病毒系状態異常と呪怨系状態異常手当たり次第に吸っちまうから解除した時と結果が大差ないな」
…………。
「じゃ,じゃあどうするの」
「今考えてるっつうの、静かにしろ!」
ここでデスペナルティになったら試合には間に合わない。
私はともかくウェグニくんは非常に困るはずだ。
【礼拝者】の制限で私は他者に回復魔法を使えない。
その分私はその恩恵に預かってるので文句は言えないのだが,こういうときにはその制限が恨めしくなる。
だが,私たちの警戒に反して向こうはそれ以上撃ってこない。
あるいは,何かあるんじゃないかとさらに身構えたところでーー
「ご,ごめーん。大丈夫ー?」
拡声器を通したような声が砂漠に響き,更なるワームを呼び寄せたのだった。
「申し訳ありませんでした、お怪我はありませんか?」
ワームを駆逐した後,近づいてきた女の子に深々とお辞儀をされながら,私は慌てていた。
見た感じ同い年くらいの女の子だ。
薄桃色の髪に袖口が軽く膨らんだレモン色のロリータを着ており、その容姿も相まって見るものに儚げな雰囲気を与えてる。
頭を下げられるという経験自体あまりないため、こういうときどうしたらいいかわからない。
「この辺りは人も来ないだろうと思って探査スキルに反応があったところを手当たり次第に撃っていたんですの。そしたらあなた達にまで打ち込んでしまって…」
「わ、私たちは大丈夫だったですから」
使ってるお嬢様言葉もちょっと違和感がある。
趣味でそういう言葉を調べたりした時期があったのだが、そのときの知識と照らし合わせても若干違和感がある。
まあ、全く違ってるわけじゃないんだけど
ーーというか、さっき普通の話し言葉で喋りかけてきてたよね?
あっちが素なのかな?
「驚いた、超級職ーー【砲王】か」
「まあ、初対面でいきなり看破とは礼儀がなっていないんじゃないでしょうか?」
「さっきロクに確認もせず砲弾打ち込んできてたよな?」
「…返す言葉もありません」
ここで、私も気になることがある。
さっきからちらちらと【砲王】さんが私の顔を見てくるのだ。
最初に私のことを見たときもなにか驚いた顔をしていたようだけど、顔になにかついてるのだろうか
「ところであの、随分お綺麗ですけどその顔はリアルのーー?」
「え?はい、あんまり変えてませんけど」
私のアバターは髪の色と目の色をいじったくらいで、顔はほとんど変えてない。
防犯意識が薄いって言われるかもしれないけど、リアルでも私のトレードマークは黒髪黒目だから、よっぽど親しい人でなければ私と結びつけるのは難しいはずだ。
「ーーたくっ、だから失礼はどっちだよ。桜も律儀に答えてんじゃねーよ」
「失礼いたいしました、わたくしとしたことが淑女らしくない行動ばかりとってしまって」
「い、いえ全然大丈夫ですよ」
そもそもロレーヌ女学院はセキリュティがしっかりしてるからもしバレても大きな問題には多分ならない。
…厳しすぎて生徒からも文句が出るほどだし。
「ところで、ええと…」
そういえばまだ名前すら聞いてなかった。
こんなに早い時期に超級職に至っているのだから有名なのかもしれないけど。
「申し遅れました、わたくし、フィナラと申します。どうぞフィナとお呼びください」
「私は桜です、こっちはウェグニ君。それで、フィナさんもトーナメントに参加するんですか?」
「ええ,これでも近接戦には多少自信がありますので」
その外見と動きにくそうな服を見ればあまりイメージはつかないが、自信はありそうだ。
超級職に至っているという点を加味しても相当な実力者なのだろう。
「…俺,あんたとは当たらないように祈っとくよ」
「まあ,ひどい。あなたは出ないのですか?桜さん」
ひどいと言う割にはころころ笑ってる。
「私は,<エンブリオ>的に向いてないので」
「そうですか,それは安心しましたわ。では,わたくしはもう少し狩りを続けますので」
「あ,はい。トーナメント頑張ってくださいね」
「はい,ごきげんよう」
◇
それから私達もしばらく狩りをして、【高位信仰者】がカンストしてから街に戻った。
結局リーナは間に合わなかったみたいで、帰りはルイアちゃんがべったりだった。
…なんでこんなに懐かれたんだろう?
ちなみにウェグニくんはルイアちゃんを脇腹と足に挿しっぱなしにして【劣化】になる側から状態異常を吸収していた。
服に付与される【劣化】も吸収できるようだが、それだとそれ以外の防具は守れないので砂漠の中裸足でモンスターを狩り回っていた。
…炎熱耐性のアクセサリーつけてなければ火傷必至だったと思う。
さっきの砲撃の時もそれすればよかったんじゃ…と思って聞いてみたら「あっ」と言った後静かに目を逸らしてた。
あ、フィナさんといえば…
「ーーフィナさん,どうして私が出なくて安心なんだろう?」
もし戦うことになっても多分瞬殺される自信がある。
なんで私が出ない方がよかったんだろう?
「さっき砲弾が劣化させられるの見てたからそれでじゃねえの?」
「…そういうことなのかなあ」
一抹の疑問を抱きながら街に戻り、デュアルさんとしばらく二人っきりだったことによってメンタルが削られたリーナを慰めるのだった。