アッシュ・レコード   作:道草 いのり

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パレードの一幕

 ◼︎◇【高位信仰者】雪姫 桜

 

「ええと,今日はみんなどうしようか?」

 

「というか,あなたたちなんでまだ一緒にいるの?」

 

 リーナの視線の先には武器の手入れをしてるウェグニ君とボーっとしてるルイアちゃん。そして朝っぱらから元気良くお酒を流し込んでるデュアルさんがいた。

 

「俺は,ルイアが一緒にいたいって言うから」

 

「拙者は…なんとなくでござるな!」

 

「ーー今日も,桜と一緒にいたい」

 

「ーーああそう」

 

 朝からすごく疲れた声を出してるリーナの肩を叩きつつ,私はルイアちゃんの方を向く。

 

「ごめんね,ルイアちゃん。今日は【巡礼者】に就く為に教会行って転職条件満たして来なきゃだから着いてきても多分楽しくないんじゃないかな」

 

「むぅ…」

 

 少々不満そうにしつつもゆっくり頷いたルイアちゃんに安堵しつつ,ウェグニ君の方に顔を向ける。

 

「ウェグニ君,そういうわけだから…」

 

「ああ,こっちのことは気にしないでいいぜ。元々ルイアのわがままで着いて来させてもらってるんだし。それに今日は元々予定があったからな」

 

 手入れの終わったウェグニ君は武器をアイテムボックスに戻しながらマップを出してその予定の場所を確認しているようだった。

 

「それじゃあ,私は魔術師ギルドに作ったジェム売りに行ってくるから」

 

 一方リーナも今日は忙しいということは伝えてあったので,事前に予定を組んでいたようだ。

 多分,あのアイテムボックス,ジェムがジャラジャラ入ってるんだろうなと苦笑する。

 

「むむ,であれば拙者は今日はこの辺の酒場をうろついてることにするでござる。いやーやはりカルディナの酒は美味いでござるな」

 

「おっさん,いくらデンドロ内では病気にならないからって大概にしとけよ」

 

「朝から酒臭いのよ,近づかないで」

 

「あはは,ほどほどにしてくださいね」

 

 すでに顔が赤くなってるデュアルさんにみんながそれぞれ言葉をかける。

 

「承知してるにござる,オークションで出る幻の酒を飲む為にも今日はちゃんと加減するにござる。ささ、ウェグニ殿もいっぱい」

 

「飲まねぇよ,俺は未成年だ」

 

 いつもどおりの光景に少しほっこりしつつも,私とリーナは一足先に酒場を後にするのだった。

 

 

 

 ◼︎◇

 

 広場に出るとオークションや決闘を祝してか,賑やかなお祭りが行われていた。

 楽団が美しい曲を演奏し,着ぐるみがあちこちを練り歩いてる。

 

 中でもひときわ目立ってるのは中央でショーをやってる【大奇術師(グレイト・マジシャン)】だ。

 手元に一輪の花を咲かせたかと思えば,それが大輪の花束に変化し,ついにはその花束から真っ白な鳩がたくさん出て,空へと飛び立っていく。

 パレードのためか,随分と奇抜な服装をしていた。

 男性にしては長く肩まであるベージュの髪を真っ赤なシルクハットで覆い隠し,金縁のモノクルをつけている。

 服装も紫のシャツに白のロングコートとなかなか見ない格好をしている。

 次のセットを用意した【大奇術師】が観客を見回しながら声を張り上げる。

 

 

「ここで,観客の皆さんの中から助っ人を募りたいと思いまあす。えーっと,それじゃあそこにいる箒に乗った魔女コスプレした子ーー」

 

 魔女コスプレ?

 それって,もしかしーー

 

「ーーの隣にいる銀髪の青いマフラーつけた君。どうぞ!」

 

 ーー?

 

 

 ーーーーーーーーーーーー?

 

「え,私っ?」

 

「ほら,行ってきなさい」

 

 突然のことに戸惑っているとリーナがどこか面白がってる目で【ハルムート】を起動させ,私を舞台上まで飛ばす。

 空中浮遊で舞台に降り立った私に,観客が一斉に拍手をする。

 

「はい,それじゃあ名前とジョブを教えてください」

 

「え,えと,ゆ,雪姫 桜です。ジョブは【高位信仰者】」

 

 突然のことでパニックになりながらもなんとか名前とジョブを言う。

 

「それでは,俺様のショーを手伝ってもらおうかな」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 

 

 ◼︎◇

 

「「「「わーっ」」」」

 

 大きな歓声の後にようやくショーが終わった。

 空中浮遊で登場したためか心なしか私が指名される前より人が増えてた気がする。

 観てた人は散り散りになり、【大奇術師】や私に握手を求める人達もいる。

 断るのも忍びなかったので握手も済ませ、ようやく一息つけたところでリーナがこっちにきた。

 

「お疲れさま」

 

「ひどいよリーナ。あんな登場のさせ方して」

 

「うけたじゃない」

 

 どこか得意げな表情で言うリーナになんと文句を言うか迷う。

 

「悪かったな、まさかああも盛り上がるとは思わなかった」

 

 会話の途中で【大奇術師】さんが会話に参加してきた。

 ステージ用にちょっと丁寧な口調にしてたのか、今は口調がさっきより砕けている。

 

「あんたら、途中からショーを見てたよな。ショーの序盤にも名乗ったんだが俺様はマッド・パーティ。【大奇術師】を貼ってるもんだ」

 

 そう言って軽く腕を振ると,さっきのショーでやってたように手元に赤い薔薇がニ輪現れる。

 

「こいつはアシスタントとして参加してもらった奴全員に配ってるんだ。せっかくだからそっちの魔女もどうだ?さっきのパフォーマンスはなかなか良かった」

 

「リーナよ、あなたこそなかなか面白い見せ物だったわ」

 

 受け取った薔薇を胸元につけつつリーナが言う。

 私も手に取ると薔薇は造花で裏にピンがあり、ブローチのようになっていた。

 つけるとステータスが多少上昇する。

 

「あの、この薔薇って」

 

「ああ、装備すると軽くステータスが上昇する。あと【救命のブローチ】や【身代わりの竜鱗】等の身代わり系アクセサリーの破損確率を下げる効果もある。俺様が入ってるクランの鍛冶師が作ってるもんだ」

 

 

 その言葉にかなり驚く。

 身代わり系のアクセサリーはかなり高い、おまけに消耗品だ。

 ティアンの人にとっては命綱でもあるため高いのはある意味当たり前なのだが、それ故にアクセサリーの損耗を抑えれるこれはかなり高いはずだ。

 こんな風に配っていいようなものじゃない。

 

「すごいじゃない、そんなのもらっていいのかしら」

 

「そいつはいわば装備品としては失敗作みたいなもんでな。対象のアクセサリーの近くにつけてないと効果が見込めない上に三、四日もしたら枯れて壊れるんだよ」

 

 なるほど、それなら確かに配ってるのも分かる。

 人に配るだけあるってことはそれなりに数があるのだろうが、そんなにあってもアクセサリー欄が足りる訳もなく、おそらくクランで消費できる量を超えていたのだろう。

 おまけに三、四日で壊れるなら保存しといて後で装備みたいなこともできない。

 ならば協力してもらった人に配ってしまい、役立てようということなわけだ。

 私は金欠で身代わり系アクセサリーなどの高い装備品はまだ買えないが、リーナはジェムで荒稼ぎしてたこともあり、【救命のブローチ】はつけている。

 しばらくは決闘のためデスペナルティになるようなダメージを負うこともないだろうが、それでも有用だろう。

 私も【アルノーツ】と炎熱耐性のアクセサリー以外に装備しているアクセサリーも特になかったため装備しておくことにした。

 

「んじゃ、俺様は次の予定があるから。協力サンキューな」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 

 

◼︎◇

 

「どうしたの、リーナ」

 

 マッドさんと別れた後ずっとリーナは黙りこくっていた。

 考え事をしているときやなにかに集中しているときは珍しくもないのだが、さっきのショーまでは普通にしゃべっていただけに気になる。

 

「いや、気のせいだと思うのだけど。さっきの【大奇術師】、なんだか妙なこと言ってた気がして」

 

 …そんなこと言ってたっけ

 私もリーナも《真偽判定》は持っていないため嘘の区別はできないからマッドさんが嘘をついててもわからない。

 

「あ、でもこの薔薇はすごい効果だしなにか秘密なことがあるのかもよ」

 

「ならいいんだけど」

 

 リーナはどこか引っかかってるようだが、結局それは形にならないようだった。

 

 To be continued

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