アッシュ・レコード   作:道草 いのり

18 / 22
【超銃兵】

 ◼︎◇【巡礼者】雪姫 桜

 

 昨日、リーナに付き合って帰ってジェムをギルドで売った後に宿に帰ったら、なぜかウェグニ君がすごく不機嫌そうで、デュアルさんはとても興奮した顔でお酒を煽っていた。

 あまり刺激するのも躊躇われたので気づかれないうちに回れ右してレベル上げや【巡礼者】で覚えた聖属性スキル、浄化スキルなどを試した後一度ログアウトして諸々の用事を済ませていた。

 

 …ちなみに、レベルは昨日の三時間もない狩りで二一まで上がった。

【シンデレラ】は収入も少ないし使い勝手も悪いのに殲滅能力は高いせいでやたらレベルは上がりやすいのである。

(回復魔法もやたら使うので回復魔法のスキルレベルもぐいぐい上がる)

 レベル上げできる環境が限られるせいでアルターからカルディナまでロクにレベル上げできていなかったができるようにならば早い。

 私としては上級進化したときに上級職の回復力でダメージを抑え込めることを祈るばかりだ。

 第四形態は大丈夫だと思うけど、第五、第六はちょっぴり不安がある。

 流石にこれ以上ビルドを回復力の強化に当てたらまともな戦闘が出来なくなる。

 <エンブリオ>はスキルが増えれば大して出力は上がらないとリーナが言っていたのに、下級の間は進化する度にスキルを覚え出力も順調に上げていたのが【シンデレラ】である。

 この先の出力がどうなるかなど予想もつかない。

 一度、私以外にも敵味方構わず吹き飛ばす<エンブリオ>を見てみたいのだが、流石に最終安全ラインとして自分は対象外となっているものがほとんどだ。

 リーナやデュアルさんもここまでネジの外れた<エンブリオ>は見たことがないと言っていたし、やはり<マスター>ごと自爆する<エンブリオ>は珍しいらしい。

 

 まあ、来年の話をすると鬼が笑うと言うし、【巡礼者】のレベルもカンストしてない内に第六進化の話をしてても仕方ないだろう。

 

 

 そんなわけで次の日。

 今日はこの都市ーー【レファノンダム】のバザーを巡っている。

 明日決闘が行われると同時にオークションも行われることになっており、その影響で商人が数多くこの都市に集まっている。

 その商人達がオークションで出品されなかった品物や、元々ここで売る予定だったものを置いて店を構え、王国のバザール以上の賑わいを見せていた。

 

 イベントに備えての戦闘職用の装備だけでなく、普通のアクセサリーやマジックアイテムも売っている。

 ちなみに私は戦闘用の装備やマジックアイテムは買ったことがない。

【劣化】耐性の装備は大抵装備品に付与されてるものだから私自身の身は守れないし、それなら教会を手伝ってるよしみで安く手に入れられる【巡礼者】用の服の方が調達しやすかった.

【劣化】耐性ついてないーー否、付いてても中途半端な耐性だったら壊れる装備品をわざわざ買う気にならなかったのである。

 

 それにリーナと会うまで私の戦闘とは散歩とイコールだった。

 なんせ歩いてるだけでモンスターが逃げ、あるいは寄ってきて力尽きるのである。(気づいてなかったが恐らく<マスター>やティアンも)

【劣化】なんて装備品にかける耐性をわざわざ持ってる物好きなモンスターがいなかったことも大きい。

 第三に至った頃には純竜クラスもさして苦労せず倒せていたし、ビルドがそもそも生存特化。

 むしろ進化直後の調整ミスで自滅したことの方が多い。 

 特に回復魔法の圧縮技術を覚えてからは、調子に乗って使いまくってたときに回復位置と濃度が《灰まみれの日々》とズレることが頻発した。

 

 そういう意味では【アルノーツ】が初めて<Infinite Dendrogram>でまともにやった戦闘と言えなくもない。

 初戦闘が<UBM>だなんて珍しい話もあるものだ。

 

 話が横道に逸れた、戻そう。

 

 ともあれ、戦闘用の装備は買ったことはないが、普通の服やアクセサリーを買いにバザールを回ったことはある。

 王国で最も賑やかと言われるギデオンや、交易品で多種多様なものが並ぶキオーラにも行ったことはある。

 だが、それを加味してもこの街のバザールは広大だった。

 

 ギデオンやキオーラの十倍はあるのではないかという土地に、所狭しとテントが貼ってある。

 さらにそのテントに空間拡張機能が付けられており、見た目の面積よりもさらに大きさが膨れ上がるのなら確実に私が今まで見たどの街よりも大規模なバザールができている。

 

 さらに売られてるものも多い。

 カルディナ第二の都市のコルタナと西方三国の中間地点にあるからだろうか。

 マジックアイテムや機械製品、墓標迷宮のドロップアイテムや海のものと思われる貝殻や魚、遺跡からの出土品まで並んでいる。

 欲しいものならなんでも揃うと言われるカルディナでも、さらに交易に特化した街が、この【レファノンダム】である。

 

「なんでこんなに大規模なバザールができてるの?」

 

「なんでも街の成り立ちに関わってるそうよ。まあ、ここまで商人が揃ってるのは平行して開催されるオークションのおかげでもあるらしいけど」

 

 今回リーナやウェグニ君達が参加する決闘の話もそこから派生したものらしい。

 後でちゃんと聞いとこうと頭の片隅にメモしつつ、とにかく今日はショッピングを楽しむことにする。

 

【レファノンダム】は居住区、第一商業区、第二商業区、ギルド区、そして都市の真ん中に競売場と分かれた構図になっている。

 商業区が二つに分かれているのは、第一商業区の方がちゃんと建物で商売が行われてる店が集合している土地なのに対し、今私たちがいる第二商業区ではこんな風に一日ごとにテントが張られ、ラインナップやお店すら変わる。

 第一商業区に店舗を出してるお店は一定以上の税金をある程度の期間納めなければならないけれど、第二商業区は一日ごとにテナント料を払うだけで参加できるらしい。

 だから第一商業区はいわゆるブルジョワ系のお店ばかりだけど、第二商業区のこっちはピンキリが非常に激しいそうだ。

 行商人が滞在期間の少しの間だけ店を出すことも多く、掘り出し物が多いのもこちらである。

 

 

 私が今日買いにきたのは掘り出し物の方。

【巡礼者】への転職が終わってようやく直近でお金が入用になる予定がなくなった。

 その上の超級職である【大巡礼】や【超信仰者】は条件が虫食いだったりそもそもロストしてあったりと一筋縄ではたどり着けない。

【シンデレラ】の進化次第ではどちらかは必須になるだろうが、少なくともカルディナにいる間は自由にお金を使えるくらいには余裕ができた。

 なので昨日の狩りで稼いだ一万リルで今日は砂漠越えのアイテムや戦闘装備を買うことにしてる。

【アルノーツ】が手に入ったおかげで戦闘装備も買えるようになったから、《HP増大》や《MP増大》が付与された装備,砂漠越えの《炎熱耐性》のアクセサリー等が欲しい。

 

 《HP増大》や《MP増大》の装備を買うにはお金が足りないと言われてるけど、その場合はリーナが一時的に貸してくれる。

 普段ならお願いしないんだけど、バザールという早いもの勝ちの環境では良い装備はすぐにとられてしまうのでお願いすることになった。

 この街から一日行ったくらいの砂漠に私が相性のいい危険指定された賞金首モンスターの住処があるらしいので、お金が足りなくなったらそちらで狩ってきて補充する予定だ。

 …最初はちょっと渋ったんだけど毒を使う純竜クラスのサソリの群れなら,広域殲滅型の【シンデレラ】と普段からもっとえげつない状態異常を常時治療してる【高位信仰者】なら大丈夫だって言われて納得せざるを得なかった。

 

 閑話休題。

 ともあれ、二つ目の上級職で装備の更新時期でもあるし砂漠越えのアイテムもこれからカルディナを横断する身としては当然要る。

 そんな折に競売都市と言われるほど品物に溢れたこの街に訪れられたのは行幸と言えるだろう。

 

 

 ちなみにリーナは前にレジェンダリアに行ったときにそういう各種必須アイテムは揃えたそうだ。

 

 ということで、《鑑定眼》も《真偽判定》も持たない私では騙されて偽物掴まされるかぼったくられるのがオチだと、人間慣れして《真偽判定》も持ってるウェグニ君と掘り出し物の発掘要因でリーナ、そして特に理由はなさそうだけどついてきた(つけてきた)デュアルさんがついてきてくれてる。

 

 

「桜、これなんかいいんじゃない?《炎熱耐性》のついたイヤリング。聴覚にもボーナスあるしアクセサリーとしてはかなりいいわよ」

 

「ちょっと高すぎるかなあ、三万リル。メイン装備でもないのに貯金が吹っ飛ぶし。《炎熱耐性》だけでいいかな」

 

「じゃあこいつはどうだ?《HP増大》のコート。高レベルだし他にも結構耐久値ありそうだから有用だと思うぞ」

 

「えっと…装備制限レベル四百!?むりむり、【巡礼者】カンストしても着れないじゃん!」

 

「ウェグニ殿、リーナ殿、この刀面白いでござるな!?持つだけで何かを斬り殺したくてたまらなくなるでござる!!」

 

「「今すぐその妖刀を戻せこのエセ侍」」

 

 そばの店から黒紫のオーラを纏った刀を振り回しながらデュアルさんが不穏な言葉を口に出す。

 リーナが【ハルムート】でデュアルさんを【拘束】しようとし,ウェグニ君がルイアちゃんに蓄積された状態異常を使って動きを止めようとしたが,それら全てを振り解いてデュアルさんはどこかに行ってしまった。

 方角的に向かったのは街の外だろうから,斬ろうとしてるのが人でないだけ幸いと言って良いのだろうか?

 ん?そもそもプレイヤー保護の機能があるのに生物が斬りたいとは一体…?

 まあ,リーナとウェグニ君が向かった以上酷いことにはならないかな。

 

 

 それにしても《鑑定眼》使える人が全員いなくなってしまった。

 どうしよう。MPを注げば冷たい水が出てくるっていうこの魔法のビン、買うべきかどうか…。

 迷っていると売り子の証人が声を掛けてきた。

 

「お、お客さんお目が高い。そいつは砂漠での必需品だ。しかもライア工房っていうレジェンダリアの有名な工房で製造されたもんさ。買ってくれるなら一万リルのとこを九千リルに撒けるよ」

 

 そう言いながら【商人】が裏についた焼印を見せてくる。

 私はよくわからないがこれがそのライア工房と呼ばれる工房のマークなのだろう。

 

「うーん」

 

「あれこれもダメ?お客さん値切り上手だねえ。それならお客さんの可愛さに免じて八千リルにしとこうか。ね、どう?」

 

「えっ…と」

 

 値切り交渉もしてないのに勝手に値段が下がっていくのは値切り交渉とは言えない気がする。

 

「んー,じゃあ六千リルだ!これ以上は流石に無理だよ。さあ,どうだ!」

 

 でも,ここまで言ってくれてるのに断るのも悪いなあ…

 十分予算内ではあるし確かに砂漠では要りそうだ。

 

「それじゃあ買い…」

 

「それはだーめ」

 

「え?」

 

 肩を捕まれ、振り向く。

 そこにいたのは露出の多い砂漠の踊り子のような衣装を身にまとう女性。

 ただし、その首には衣装に不釣り合いな無骨な首輪がーー()()()()()が嵌められていた。

 さらには、目もどことなく渇いた印象を受ける。

 だが、その目とは裏腹に言葉は酷く軽い調子だった。

 

「それは粗悪品。使えば一か月もしないうちに壊れるよ。あっちの店に売ってるやつの方は、一年以上持つ」

 

「あ、なんだお前?どっかの店の回し者か?そういうセコイ手使われるは不愉快だな」

 

 売り子の【商人】不機嫌な声を出すが、奴隷の女性は気にせず水筒を手に取り、裏側に貼られてた()()()()()()()()

 

「別に回し者とかじゃないよ。ライア工房なら印はシールじゃなくて、焼き印。あと、使ってる鉱石は鉄じゃなくてミカル鉱石。そうじゃないと質のいいスキルは載せれないからね。でもまあパチモンにしてはよくできてるほうだから相場は三千リルってところじゃないかな。ライア工房の三分の一なら十分検討してる方…っと」

 

「うるせぇ!奴隷風情が言うこと信じる奴なんていねぇんだよ!おい、営業妨害だ!こいつを叩き出せ!」

 

 男の号令とともに店の奥から屈強そうなティアンの男が五人ほど出てきた。

 私は《看破》を持ってないから正確なレベルやステータスはわからないけど出てきた時の動きからしてレベルは百~二百ってところじゃないだろうか。

 レベルだけで言えば私は二百を超えてるので数値上は拮抗できてることになる。

 だが、私のビルドは百パーセント司祭系統。

 礼拝者系統は例外的に満遍なくステータスが伸びるが逆に言えば特化してるステータスはないので上級職である【巡礼者】のレベルを五十も上げてない私では純戦闘職で構成されたビルドのステータスは確実に下回っている。

 そして、ティアン相手に【シンデレラ】を使うわけにもいかない。

【シンデレラ】はコントロールや弱体化起動という概念が一切ないのでレベル百や二百そこらのティアンでは確実に殺してしまう。

 

 そもそも街中での戦闘自体が予想外だ。

 戦闘職が暴れたら【シンデレラ】を使わなくても周囲に被害が出る可能性はある。

 でも、親切にも私を助けてくれたお姉さんをほっといてどこかに行くわけにもいかない。

 どうしようもないので【テレパシーカフス】でリーナに救援要請を出す。

 リーナやウェグニ君なら無血…とまでは言わないけど殺さずに相手を制圧できるだろう。

 

 さて、問題は二人が来るまでの待機時間だ。

 タンクらしくリジェネで殴られる箇所を集中回復しながら救援が来るのを待ってようかと思ったそのとき。

 

「奴隷だからと言って別に弱いわけじゃないんだよ」

 

 音もなく、()()()()全員倒れ、【商人】の眉間に銃が突き付けられていた。

 それを成したのは、桜が戦闘力があるとなど微塵も考えていなかった奴隷の女性。

 それもレベル百越えのティアンを瞬く間に【気絶】させ、一瞬で店を制圧した。

 明らかに、一般的な上級職の動きを超えている。

 

「なっ、あっ、ああ!?」

 

 売り子の男は驚いて声も出せていないが私もそう。

 かろうじてお姉さんの腰に目をやると、先ほどまで何もなかったそこにはそこには拳銃用のホルスターが装着されていた。

 

「早打ち…」

 

 思わず口から洩れた言葉にお姉さんが薄く微笑んだ。

 

 しかもただの早打ちではない。

 発砲音がしなかったことや銃弾が見えなかったことから握っているのはおそらく風属性の魔力式銃器。

 しかも男たちの眉間を正確に射抜いておりおそらく銃の威力もレベル百のティアンが気絶する程度に調節されている。

 個人差があるステータスを持ち立ち位置も異なるティアンに、魔銃に込める魔力一人一人調節しながら、目にも止まらぬ早打ちを成し遂げたのだ。

 

 人間業ではないその行為を桜も店頭の売り子も完全には理解できていないが、それでも気圧されている。

 十分過ぎるほどの威圧を与えたことに満足したのか、奴隷の女性は拳銃をホルスターに収めた。

 

「それじゃあ今日はこの辺で帰ろうかな。阿漕な商売はいいけどほどほどにね」

 

 そうして、踵を返した女性はさっそうと店を去ろうとしーー

 

「桜、大丈夫!」

 

 リーナが叫び声を上げながら開いたドアに、思いきりぶつかった。

 

 

◼︎◇

 

 四人の中で一番ステータスが高いのがデュアルさんで,しかも呪いの武器のせいでさらにそのステータスが強化されてしまったため、デュアルさんはどこかに消えてしまったらしい。

 下手に騒ぎにならないうちに回収しようとリーナが空から、ウェグニ君がルイアちゃんの感覚で捜索してたらしいが、その前に私の救難信号を受けて戻ってきたらしい。

 結果的には二人が到着する前に解決したので、単に人騒がせなだけだったけど。

 そして、一番人騒がせなデュアルさんはフィールドに出てしまい捜索不能という事だ。

 しばらくすれば帰ってくるだろう。

 

「その、すいません。大丈夫でしたか?」

 

「あはは、いいのいいの。幸いなことに恥ずかしいとこ見られたのはこの子だけだったからね」

 

 珍しくリーナがしおらしい。

 普段から強気を崩さないのにあまり見ない光景だ。

 

「…」

 

 そしてウェグニくんがなぜか仏頂面だ。

 あまりお姉さんを歓迎してないように見える。

 

「改めましてボクは【超銃兵】リリース。君達は大会に参加するために来たのかな?」

 

 そうして名乗られたジョブは超級職だった。

 その言葉に驚くと同時に納得する。

 この都市に来てから超級職に会うのは二人目だが、私はティアンで超級職の人を見たのは初めてだ。

 王国の超級職と言えば英雄と謳われる王国騎士団長や“魔法最強”と呼ばれる【大賢者】達だ。

 リリースさんもその人達と同格のステージに上がっている。

 さっきの正確無比な射撃の要因が、少し見えた気がした。

 

「私は【巡礼者】雪姫 桜です。彼女は【高位観測者】リーナ。で,彼が」

 

「ああ,彼のことは知ってるから大丈夫。ウェグニ君とルイアちゃん,だよね」

 

「え?ええ,はい。二人は大会に参加するんですけど私は不参加で」

 

 ウェグニ君の名前をなぜリリースさんが知ってるのか気になったけど会話を先に進める。

 

【それにしても桜、これはまた一段とやばそうな人と知り合ったわね】

 

 リーナが本人を目の前にしつつ【テレパシーカフス】で話しかけてきた。

 …密会に便利だなあ、このアイテム。

 

【やっぱり、リリースさんってそんなにすごいの?】

 

【彼女が付けてる首輪は従属キャパシティに収まらない奴隷に言うことを聞かせるためのものよ。主人の命令に強制的に従うような精神系状態異常の込められた呪いのアイテム。つまり、彼女を買った主人が従属キャパシティに収められないくらい彼女が規格外ということね】

 

【へー、すごいね】

 

 追加でリーナが教えてくれた情報によると、あの首輪は装備権自体は装着者にあり装備制限が適用されるのも装着者の方らしい。

 リリースさんについてる首輪は最上級のもので付加されている精神系状態異常も最高品質のものなので、装備制限は最低でも五百以上だろうとも。

 例えあの早撃ちを見ていなかったとしても、それだけでリリースさんの腕は保証されてるようなものだ。

 

 私とリーナが本人を前にして内緒話をしてる間に、ウェグニ君がリリースさんに声を掛けた。

 

「あんたはなんでここに来たんだ?」

 

「ボクがボクの雇い主に頼んで設営してもらってる孤児院へのお土産をね。あの人は命令にさえ従っていれば物分かりいいから」

 

 そう言うリリースさんはやはり、酷く渇いた目をしていた。

 一方ウェグニ君はどことなく不機嫌だ。

 

「…それを守るためなら、あのバカのやってることを放置していいと?」

 

「ボクの守れる範囲はボクの中で決まってるんだ。それ以上を望んで全部台無しにする訳にはいかないんだよ。例え何と敵対しようとね」

 

 …?

 ウェグニ君とリリースさんはお互いを知っているようだ。

 けれどそれにしては二人の間に流れている空気は非常に奇妙な気がする。

 仲違いしてる訳でもなければ仲がいい風でもない。

 ただ、二人とも悲しそうな、ーー同情しているような顔をしていた。

 

 異様な空気に飲まれて私もリーナも声を出せない間にリリースさんが出て行く。

 ただ、扉からリリースさんが出て行く瞬間に、ウェグニがその背に声を掛けた。

 

「市長によろしくな、奴隷」

 

「………」

 

 答えは返ってこないまま、扉は閉められた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。