■□カルディナ西方中継都市 【レファノンダム】
【レファノンダム】の最も特徴的な面を挙げるとするならば、都市の地下が遺跡となっていることが挙げられる。
ゲーム的に見ればアルター王国で最も有名とされる<神造ダンジョン>、<墓標迷宮>と同じ仕様である。
しかし【レファノンダム】は<墓標迷宮>と比べたときに最も違う点が一つある。
それは【レファノンダム】の地下遺跡は<神造ダンジョン>ではなく<
見えざる存在に管理され、外にモンスターが漏れ出すことのない<墓標迷宮>や、モンスター…<イレギュラー>ではあるものの自我はなく機能を人為的に掌握可能な【エンペルスタンド】とは逆。
未だ探索されきらず、何者にも管理されていないダンジョンが、いつモンスターが溢れ出すかもわからない状態で足元に埋まっている。
【レファノンダム】ができた起源は遥か昔、カルディナ砂漠が出来上がる前…そしてセーブポイントが設置される前まで遡る。
暴走した先々期文明の遺跡に昆虫型のモンスターの大群が侵入した。
遺跡の防衛システムも起動し昆虫モンスターに対して応戦したがその中に特異個体…モンスターを従える<UBM>が混じっていたことにより、遺跡のシステムもモンスターの侵入を阻み切ることができなかった。
死力を尽くして侵攻するモンスターと応戦するシステム。
それはどちらにも大きな損害を出した。
結果として、モンスターと遺跡のシステム。
どちらもが戦力の大半を失うことでその戦いは勝者なき結末として決着した。
そこから数百年。
防衛システムも稼働しなくなり、邪魔者のいないまま宝の山が残された遺跡。
冒険者達にとって宝の山であるその遺跡は多くの冒険者達によって賑わうこととなった。
内部には生き残った昆虫型のモンスターや辛うじて起動していたシステムもあったが、当時はまだ少なかった発掘された遺跡の一つに学者や生産職、そして超級職も含む多くの戦闘職が【レファノンダム】へと集まった。
数多の遺物が掘り起こされ、その場で欲しいものを交換する者、アイテムを売る者、簡易な装備の整備をするものなど多種多様な人物が遺跡の上部に拠点を築くこととなる。
いつしかセーブポイントも設置されたそこはやがて都市となり、競売都市とも遺跡都市とも呼ばれるようになった。
それが【レファノンダム】の成り立ちである。
セーブポイントが設置されたことによってモンスターは本能的に地上部ーー街までは近づかなくなった。
だが、モンスターが近づき辛くなったというだけでまだ潜在的な危険は存在する。
遺跡は深く、さらに攻め入った昆虫型モンスターの群れの中に地中潜航型のワームがいたのか、ただでさえ入り組んでいた遺跡がさらにややこしくなり、あたかも迷路のような状況となっている。
遺跡の地下深くにセーブポイントのモンスター避け効果の効かないモンスターが存在する可能性は決してゼロではない。
ましてやゴーレムの類にはセーブポイントのモンスター避け効果は効き辛いのだから尚更だ。
そこで【レファノンダム】の市長は一計を案じた。
近年、多種多様な奇跡を持つ<マスター>が多く降り立った。
その中には探索系能力を持つものや熟練の戦闘職に匹敵する者もいる。
ならばこの機に遺跡内部のモンスターを一掃してしまおうと。
そして開かれたのが変則的な、決闘と銘打たれたトレジャーハントである。
ルールは遺跡内部にあるアイテムを回収し、総額で最も多くの金を得た者が勝利。
また遺跡内部のモンスターを倒すこともポイントとして累計される。
並行して開催されるオークションにより一般の店では捌くことができないほどの価値ある物品が出てきてもオークションで落札が可能であるし、興業の一種として人も集めれる。
そして、その優勝商品が珍しいことで有名な地竜の亜竜だったという訳だ。
「なるほどなるほど。で、決闘の内容って?」
大会が開かれる一時間前。
リーナにスパーリングの相手を頼まれた私は【レファノンダム】の成り立ちや決闘の内容を聞きつつ一昨日やってた【巡礼者】のスキルのテストの続きと昨日バザールで買ったアイテムの調子を確かめていた。
買ったのは《炎熱耐性》のアクセサリーと10%の《HP増大》がついた服。
《炎熱耐性》のアクセサリーは下級魔法の《ファイアーボール》くらいならダメージをかなりカットしてくれるくらいの性能はあった。
【巡礼者】で覚えたのは簡単な浄化スキルと聖属性攻撃。
ただし浄化スキルは自分を中心に一定範囲を浄化するもので、聖属性攻撃ーー《洗礼の残光》は《ホワイト・ランス》のように遠距離攻撃するものではなく、《聖別の銀光》のように纏うタイプのものだった。
どうやら【巡礼者】は基本的に近接戦闘を想定したスキル構成らしい。
具体的に説明すると、《洗礼の残光》は自身の攻撃をアンデッドにしか効かない聖属性攻撃に作り替え、本来のダメージの十分の一のダメージを与えるというもの。
リーナにデコピンしても皮膚すら赤くならず、偶々エンカウントした亜竜クラスのワニ型モンスターを全力で殴ってもノーダメージだった。(その後、反撃してきたワニに丸呑みにされかかった)
スキルレベルを上げれば変換効率は上がるようだけど、スキルレベルが上がってもアンデッドにしかダメージが通らない仕様は変わらない。
通常攻撃にさらに聖属性ダメージが追加され、アンデッドへの回復無効とダメージ十倍化を発揮する《聖別の銀光》と比べて随分と見劣りするものだ。
高難易度の解禁条件が設定されてる《聖別の銀光》と違い、《洗礼の残光》は【巡礼者】についてある程度レベル上げするだけだ取得できてしまうので、性能に差があるのは仕方ないのかもしれないが。
変換効率がこの上なく悪い代償か、完璧ではないものの回復阻害効果はこちらにもある。
ちなみに浄化スキルは汚水がすごく綺麗になった。
ある程度の呪怨系状態異常なら跳ね除けることもできるようだ。(【劣化】は普通に通ったけど)
今のところはアンデッドと戦う予定もなければお水を売る予定もないのでこの二つのスキルは死蔵することになりそうだ。
まあ、私の場合攻撃スキルは【シンデレラ】で事足りてるし、【巡礼者】になったら固定値回復のリジェネスキルだけでなく割合回復のリジェネスキルまで覚えれたので文句はない。
閑話休題。
話を闘技場のルールに戻そう。
「持ち込んだものを売って一番多くポイントを稼いだ<マスター>の勝利らしいわ。今までは危険とされて開けられてなかったブロックやモンスターの侵攻のせいでぐちゃぐちゃになったり迷路みたいになってて進めなくなったブロックなんかも完全解放されるそうね」
「<マスター>なら適任だね」
例え迷路で迷子になっても<マスター>ならログアウト&ログインで元の場所に戻ってこれる。
危険なブロックも何百人もの<マスター>がいれば踏破できるだろう。
<マスター>全体のレベルが上がってると言われている昨今らしいイベントである。
実際、純竜級モンスターの群れや<UBM>を倒した<マスター>の話も最近は割と聞く。
「他にルールは?」
「持ち込むものはテイムできてるならモンスターでもOK。売却は基本冒険者ギルドで行われるらしいけど値がつけられないものはここのオークション会場で売れた金額がポイントとなるそうよ。遺跡で手に入れたもので売りたくないものは売らなくてもいいけど、欲しいものがあった人が直接交渉できるように獲得したアイテムは原則公開。優勝商品は無色の【カーバンクル】の幼体」
「ふむふむ」
【カーバンクル】にわざわざ『無色』とついているのはカーバンクルが吸収した魔力によって色が変化する特殊な亜竜だからだ。
炎属性の魔力を取り込めば赤く変化し炎属性を,雷属性の魔力を取り込めば黄色に変化し雷属性を使うようになる。
一部の富裕層の間で人気で好きなジェムを吸わせて思い思いの【カーバンクル】を作るらしい。
ちなみに、<マスター>の間でもイ○ブイみたいととても人気なモンスターだ。
だが、無色の【カーバンクル】の数はとても少ない。
そも、【カーバンクル】の住処はレジェンダリアほどでないにせよ自然魔力が濃い地域だ。
故に、その地域の自然魔力を取り込む過程で何らかの属性に変化を遂げることは多々ある。
さらには自身の力を高めるために多くの魔力を取り込む習性があるためよっぽど自然魔力が澄んでいる場所でなければ無色の【カーバンクル】は生まれない。
純粋に一つの属性に特化した【カーバンクル】ですらかなり珍しいと言われる。
故に、無色透明のカーバンクルは亜竜クラスであるが、純竜を超える値段をすることも珍しくない。
亜竜であるため従属キャパシティ内に納めることも比較的楽で、ペット用のモンスターとしても親しまれている。
「妨害や他者を襲うのもありだけど遺跡を崩壊させた者は即失格。実況はオークション会場で飛ばしたドローンをモニターに映しながら行われるそうよ。名のある何人かは専属のドローンがつくらしいわ。その分ボーナスポイントが最初から入るみたい。ちなみにデュアルもそうらしいわ」
「ああ、デュアルさんって昔天地の決闘ランカーだったって言ってたもんね。今は不戦敗で落ちてるだろうとも言っていたけど」
「結託もありだからかなり荒れると思う。禁止されてるとはいえ事故や流れ弾で遺跡の崩壊もきっと度々起こるわね。私も気をつけるようにはするけど、それよりもMPコントロールが重要になりそうね」
「あー、魔法職にはきつそうだもんねこの形式」
「まあ、その辺はなんとかするわ。【ハルムート】も戦闘時以外は出さないようにするつもりだし」
今回の形式はかなりリーナに不利である。
観測者系統は探索に向いたスキルがいくつかあるし戦闘もリーナならよほど相性の悪い相手でなければ大丈夫だろうが、リーナはとにかくスタミナが低い。
戦闘リソースの八割をMPに依存してるのに、《詠唱》やら【ハルムート】の操縦やらでMPの消費が激しいのだ。
そのため、リーナにとってかなり厳しい戦いになるはずだけれど、それでもリーナの顔に負ける気は微塵もなさそうだった。
「それじゃあ、そろそろ時間だよね。いってらっしゃいがんばってね」
「ええ、カーバンクルの幼体は絶対ゲットするわ」
■□【高位観測者】リーナ
一時間後、桜と別れたリーナは指定された時間に指定された場所に来ていた。
遺跡内部に入るための道はいくつかあり、参加者は指定された等分されて指定された番号の入り口からそれぞれ内部に入っていくことになる。
入り口は五つ以上あるのだが、それでも100人に迫る人数が入り口の一つであるここに集まっている。
そして、ここでは既に情報戦が始まっていた。
《看破》で周囲のメインジョブやステータスを探る者。
ブラフでメインとは別の装備を装備しておき、《着衣交換》のタイミングを誤らないよう緊張している者。
スキルで己のメインジョブとステータスを偽る者。
既に戦いは始まっている。
リーナも探りを入れている者の一人であり、本番が始まってからの戦闘に影響が出ない範囲で周囲を【高位観測者】のスキルで見回していた。
だがそのとき、リーナは突如顔をしかめた。
すぐにその場を離れようとするも人混みのせいで上手く距離が取れず、そのまま追いつかれる。
「リーナ殿もこっちでござるか!」
「………」
「ハッハッハ、そんな嫌そうな顔で見ないでほしいでござる」
リーナを見つけ、接近してきたのはリーナをこの大会に誘った張本人。
【鎧武者】デュアルであった。
顔をデュアルの方に向けていないのに嫌そうな顔をしていると見破られたのはスキルか勘か…
等分する際に振られる番号はランダムで、組み合わせは完全に運なのだが今回はどうやら運がなかったらしい。
しかしそんなリーナの思いとは裏腹に、デュアルは朗らかに笑っている。
「まあまあ。リーナは運が良い方でいると思うでござるよ。この大会、かの”星屑”や“食いしん暴”が参加してるようでござるからな!!」
「…【
顔も見てないのに運が悪いと思った心まで読んでくるデュアルにさらに渋面を作りたくなったリーナだが…それよりも気にかかる言葉に思わず口から言葉が漏れる。
それはリーナがデュアルへの嫌悪感よりそのビッグネームへの驚きの方が大きかったからだ。
どちらもまだほとんどの<マスター>の手に超級職がないなかで早々に超級職を手に入れた例外中の例外。
一時期<Infinite Dendrogram>内外で大きく話題となった広域殲滅型と広域制圧型の代名詞。
どちらも戦闘中に撮られた動画が広く出回っており、戦闘手段は割れているが遭遇すれば厄介極まりないことに間違いはない。
強いて救いがあるとすれば遺跡を壊せないというルール下では【砲王】の戦闘力が大幅に落ちることぐらいであろうか。
…それだけに【砲王】と同じ入り口となってしまった者たちにはご愁傷様としか言いようがないが。
「まあ,気負わずにお互い頑張るでござる!いやー、リーナ殿との戦いも楽しみでござるな!」
「…」
【砲王】と【鬼将軍】の情報を思い返し、半ば思考から排されていたデュアルの存在が、他でもないデュアルの声によって現実に引き戻される。
ため息を吐きながらリーナはデュアルが嫌いになった原因を想起する。
【レファノンダム】へ向かう旅の際、所構わず心を読まれ、隙を見ては決闘に誘われ、日夜問わず肉食獣が獲物を見るような目で見られていたことを。
桜に対してはまだ時期ではないと考え、どちらかというと師のように振る舞っていたが、リーナに対してはそれこそ感知系スキルが永遠と反応し続ける程度には常時殺気を振りまいていた。
ウェグニは適度に相手をすることで戦闘欲求を満たしていたようだが、リーナは模擬戦をずっと断り続けていたことが原因だったのかもしれない。
最も、傷痍系状態異常の回復ができ、相手へのダメージ判定も制限系状態異常で行えるウェグニでなければ安全な野試合などできるはずもない。
決闘用の結界施設はそんなに頻繁にあるものではないし、模擬戦を一回するごとに【ブローチ】を砕くのは金遣いが荒いにも程がある。
ましてやデュアルが本当に望んでいるのはデスペナまで含めた決闘ともなれば、リーナからすれば断るのも当然と言える。
天地では当然の光景なのかもしれないが、生憎リーナはリアルは平和な日本出身であるしデンドロ 内でもアルター王国の出である。
常時殺気を振りまかれて落ち着かない状態で嫌いになるなという方が難しい。
それだけに、デュアルが待ちに待ったであろう今回の大会とどちらかがデスペナルティになるまで追ってきそうな執拗さを想像し、リーナが抱いた感想は一つ。
(絶対に戦いたくない)
普段のロールも抜けて心から浮かぶその言葉に、リーナは初手から切り札を切ることを決めた。
「それでは、“トレジャーハント”これより開始いたします」
と、そんなことを考えている内に開始の時間になったようだ。
【拡声の指輪】で声を大きくした審判が、カウントダウンを始める。
遺跡の入り口に設置された門が光りだし、周囲の<マスター>から興奮が伝わってくる。
リーナが周囲を見れば嫌な目で周囲を見渡している人も幾人もいる。
ーーまあ、それはリーナも同じなのだが。
「三、二、一、ハント・スタートォ!!」
幻影魔法で投影されたゲートが消えると同時に戦闘が解禁され、遺跡への侵入も可能となる。
開始の宣言と共に幻影魔法で投影されていた大きな門が消える。
同時に、周囲の<マスター>達が一斉に動き始める。
中に入ろうとする者、周囲の人間に襲いかかる者、身を守ろうとする者、開始を今か今かと待ち侘びていた<マスター>達が思い思いに動き出す。
必殺スキルを浴びてデスペナルティになった<マスター>もいれば、遺跡に入った瞬間に後ろから蹴り飛ばされてそのまま人の波に飲まれる<マスター>もいる。
それは当然の行為。
開始直後の混乱が起きるこの瞬間が最も好機で最も混沌とした瞬間。
それを予見できていなかった<マスター>が慌てら予見できていた<マスター>が周囲の<マスター>を狩り、あるいは出し抜いて遺跡へと潜っていく。
ーーそして、それはリーナも
「《
初手から必殺スキルを切ったリーナは、《恒星》を手に入れるまでずっと隙あればMPを注いでいたとっておきを呼び起こす。
発動したのは、司祭系統の奥義である
かつて神話級<UBM>すら消殺せしめたアルター王国の切り札。
その名も高き《天罰の柱》。
本来であれば数多の聖職者のHP、MP、SPを吸い上げて行使される天罰は、その名に恥じぬ火力を十全に発揮する。
一瞬の静寂の後、周囲にいた約四割の<マスター>が蒸発した。
【ブローチ】をつけていた残りの六割の<マスター>も連続する熱気に【ブローチ】を砕かれ、《炎熱無効》のスキルを持っていた者も酸素の欠乏によりデスペナルティを余儀なくされる。
砂漠の熱気など比較にならない灼熱が周囲を炙り、やがて消え失せた頃、そこには
そう、【グリモワール】は儀式魔法であろうとスキルをコピーできる。
スキルレベル10の《攻撃観測》により詳細を暴いた魔法であればその全てがコピー対象内。
早すぎて観測することができない光属性魔法、複雑すぎて構造を暴くことが難しい複合魔法を除けばほぼ全ての攻撃魔法が対象内。
本来であれば膨大なMPを要求する複数人での使用が前提の儀式魔法であろうとリーナであれば必殺スキルを併用すれば行使が可能となる。
必殺スキルで起動した魔法はストックから失われて使えなくなるが問題はない。
桜が上級職が二つとも司祭系統で埋めたことにより《天罰の柱》の習得条件を達成したので、遠からず小規模でも再コピーさせてもらえるという余裕があった。
ため込んでいた必殺スキルがもたらした結果とその後のリカバリー。
これらに不満はなく、上々のスタートだったと言える。
故に、不服なのは自分以外に立つ者がいるというただその一点。
「いやー、ハッハッハ、死ぬかと思ったでこざる」
リーナが視線を向ける先には半分融解した武者鎧を仕舞い、笑いながら別の武者鎧を出すデュアルの姿があった。
鎧兜は融解しているが、その身にほとんど傷はない。
死にかけたなどと宣っているが、ポーションを飲むだけでも十分回復できる範囲だ。
なぜか酸素欠乏により死ぬこともなく、豪快に笑っている。
「絶対殺したと思ったのに」
自身の切り札を余裕で耐え切られたことに、リーナの隠しきれない不満顔が表に出る。
「いやはや、リーナ殿なら間違いなく初手で【砲王】や【鬼将軍】と同じ手を打ってくると思ったでごさるからな」
最初の会話はリーナが本当に初手で魔法を切ってくるかどうかの最終確認だったのだろう。
本当に食えない男だと、リーナは思考する。
「それで、やるの?」
仕留めきれなかった以上戦闘になるのを覚悟し、リーナ【グリモワール】のページを開き【ハルムート】を装備する。
元々戦闘欲求の塊みたいな男だ。
寧ろ《天罰の柱》を発動した直後に奇襲してこなかっただけでも奇跡であり、ここからは壮絶な死闘となるだろう。
だが…
「いやいや、ここではやめておくでござる。拙者もHPが減っておるしリーナ殿も防御魔法にMPを割いていたせいで残りMPは半分を切っているでござろう。このままでは面白くないでござるし戦いはまた後にするでござる」
あの光熱の中でどのように見たかは知らないが、デュアルはリーナが自分ごと魔法に巻き込んだせいで《ハイ・セイント・レジストウォール》を貼っていたのを見ていたらしい。
《
遺跡を損壊させないという条件を守るために入り口とその周辺にも防御魔法を稼働していたためリーナのMPは半分を切っている。
実際、ここでやれば恐らく負けるのはリーナだろう。
「それではお先に失礼するでござる」
そう言ってHPポーションを飲みながらデュアルは勝手に遺跡へと入っていってしまった。
見逃されたと若干の悔しさを覚えながら、リーナは苦いMPポーションを開ける。
連続で使うと効果が落ちるためあまり使いたくはないのだがこれは最初から決めていたことなので仕方ない。
「それにしても、【砲王】や【鬼将軍】と同じ手…か」
ポーションによるMP回復を待つ間、リーナはデュアルが言っていた言葉を呟いた。
よく言うものだと思う。
自分がいなければここを全滅させていたのはデュアルだったろうと確信しているから。
それほどに、リーナはデュアルを警戒している。
むしろ後手を取らないためにも先手で打って出たのだが戦果は鎧兜たった一つ。
与えた多少のダメージも、次の戦闘までには回復されているだろう。
本当に食えない男だと、溜息を吐く。
…それと、言いたいことはもう一つ。
「…あれと一緒にしないでほしいんだけど」
リーナが視線を向ける先には“天空に展開された無数のゲート”と“どこからともなく聞こえてくる叫び声”があった。