アッシュ・レコード   作:道草 いのり

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【砲王】

◼︎◇

 

 現在、トレジャーハントの戦局は大きく分けて三つに分かれている。

 一つはシフォンが放った<マスター>の大群と、それに対抗する別の参加者達。

 スタート地点の激闘を経た屈指の<マスター>達は、シフォンの放った狂化軍団と戦っている。

 だが、広域殲滅を仕掛けられた地点での激闘を制した<マスター>でも、モンスターがいないという異常に気づく者はほとんどいなかった。

 

 二つ目はリーナとシフォンの戦い。

 シフォンが優勢のまま進められており、取り込んだ<マスター>を呼び寄せてリーナに差し向け、リーナを防戦一方に追い込んでいる。

 

 そして三つ目が今大会屈指の名カード。

 会場中の人々が固唾を飲んで見守る一戦。

 砲撃手系統超級職【砲王(キング・オブ・カノン)】フィナラVS武者系統派生装武者系統上級職【鎧武者(アームド・サムライ)】デュアル。

 二人の戦いが、今まさに行われようとしていた。

 

 

◼︎◇レファノンダム地下遺跡 大広間

 

 その二人は、一際大きな広間で向かい合っていた。

 他の崩れかけた場所よりも保存状態がよく、多少は暴れまわっても問題なさそうなくらいには広い大広間。

 その中で、まるで果し合いでもするかのように向かい合っている。

 その静寂を妨げるものはなく、戦端の口火を切るなにかもない。

 戦いの火蓋を切るのは、他でもないその二人自身。

 

 子供の日に飾られるような物騒な見た目の鎧兜が、ヒラヒラしたレースを身に纏う少女と対峙する。

 鎧が三メートルを超える大鎧ということもあり、下手をすれば不審者と襲われる少女の構図だが、実際の力関係はその逆だ。

 グランバロア決闘、討伐ランキング中位、【砲王】フィナラ。

 元天地決闘ランキング下位、【鎧武者】デュアル。

 遺跡中に散ったシフォンの狂化軍団を難なく打ち倒し、切り伏せた怪物達がここにいる。

 

 遺跡内の至るところで起こっている衝突と違い、二人の邂逅は静かだった。

 フィナラは己の<エンブリオ>も展開せず、何かを探るように。

 デュアルは、これから始まるであろう果し合いに今か今かと待ちわびた表情をしている。

 

「「…」」

 

 デュアルにも、フィナラにも、言葉はない。

 デュアルは決闘が始まる前のこの静寂が一番楽しいとばかりに今の全てを味わい尽くさんと立っている。

 

 それに対し、フィナラも無言。

 先日、桜やウェグニと話したときはもっと饒舌に喋っていたのであちらが素であるのなら今のこちらは普段と違うということになるが、【砲王】の普段を知らないデュアルにその差異は見出せない。

 

 だが、突如としてフィナラの背後に無数のゲートが展開した。

 様子を見に回っていた【砲王】フィナラの攻撃態勢。

 遂に始まる戦いにデュアルの瞳が子供のように輝き、それに呼応するように一斉にゲートも光を放つ。

 それこそは【砲王】フィナラの<エンブリオ>、TYPE:ワールドフォートレス【流星砲雨 ミーティア】。

 能力特性は砲弾の作成と砲門の自在配置。

 宙に浮かぶ光のゲートはその全てが弾薬庫とリンクされ砲門でありーー

 

「《流星砲撃(メテオ・レイン)》」

 

 今まさにデュアルを撃ち抜かんとするもの。

 幾多もの砲門から放たれた砲撃が、逃げることすら許さずデュアルに直撃する。

 音速に数倍する砲撃は避けることを許さずその運動エネルギーをそのまま着弾地点へと伝えている。

 そして耐えることもできはしない。

 そも、砲撃とは亜竜や純竜が蔓延る環境の中で人類が手にした下級職でも戦いのステージへ上がるための武器。

 一発一発の威力は上級職の奥義に匹敵し、それを間断なく撃ち続けることができる。

 サイズの関係で持ち運ぶことが難しいと言う欠点があり、正式に兵器として運用しているのはグランバロアとドライフくらいのものだが、フィナラであればその制限もない。

 たった一人で五十を超える砲門を人が行うより遥かに早い連射で打ち放てる。

 上級職の奥義を超える砲火の連射。

 更には、全ての砲撃が火薬式大砲運用特化超級職【砲王】スキルレベルEXの《砲撃》によって強化されている。

 かつて襲来した純竜クラスの群れを壊滅させ、決闘や討伐ランキングでも順調に成績を上げ続けているグランバロアのランカー。

 それが【砲王】フィナラという存在である。

 

 徹甲弾、爆裂弾入り混じる砲撃がデュアルへと突き刺さる。

 人間の身一つでは決して耐えきれない砲撃が流星群のように殺到し、破壊の嵐を巻き起こす。

 自然発生ダンジョンとなる前は先々期文明の遺跡だったからこそギリギリ耐えてはいるが、通常の自然発生ダンジョンであれば崩落必至の大破壊。

 

「ハッハッハ。なかなか痛いでござるな」

 

 しかし、そんな大破壊の中でフィナラは笑い声を聞いた。

【ミーティア】による砲撃を一時中断し、爆裂砲弾によって起こった粉塵が何処かへと流れていく。

 そこにいたのは、傷はあれど破壊はされていない鎧兜。

 おそらく内部にもほとんどダメージは通っていない。

 その光景に、フィナラが目を見開く。

 グランバロアの海洋に於いて、幾多もの純竜級クラスを相手にしてきたフィナラだが、この連射が直撃して耐えうるものなどそうはいなかった。

 

(防御スキルの重ね合わせ?それにしても違和感がある。ですわね…)

 

 通常、防御スキルには防御力の数倍化の代わりにある程度の使用条件がある。

 防御力を五倍化する代わりに身動きの取れなくなる《アストロ・ガード》や地に伏していないと使えない《五体投地結界》などがそうだ。

 だが、デュアルは先ほどそのようなモーションは取っていない。

 防御スキルによる防御体制も取らずに耐えれるほど【ミーティア】の連撃は甘くない。

 それこそ、物理防御に特化した<エンブリオ>のバリアすら、打ち破るだけの火力を備えている。

 

(<エンブリオ>だけでなくジョブも防御系だったんです。かしら?【鎧武士】はその名前に反して防御系ではなく万能寄りのステータス配分だったはずですが、サブジョブに何か仕掛けが?どちらにしろ、防御一辺倒であればこのまま攻撃していればいずれは限界が見えてくると思うのですが)

 

【ミーティア】の能力特性の一つは砲弾の作成。

 ある程度は外部コストが必要だがローコストでかなり性能のいい砲弾を作ることができる。

 そして、攻撃手段が砲撃しかないフィナラはそれを大量に保持している。

 やろうと思えば攻撃の手を緩めず長期戦に持ち込むこともできる。

 超級職のフィナラと一介の上級職に過ぎないデュアル。

 長期戦になれば先に息切れするのは間違いなくデュアルだ。

 

「…」

 

 次はその正体を確かめようと、展開したゲートの一つから、一発だけ徹甲弾を打ち放つ。

 爆発による粉塵もなく、耐久型の上級職が防御態勢を取っていても少なくないダメージを与えるであろうこの砲弾ならば、デュアルに攻撃した結果の行く末も見ることができる。

 放たれた砲弾は音速の数倍の速度でデュアルに迫りーー

 

「ハハハハハ」

 

 ()()()、とデュアルがそれを避けた。

 今度こそ、フィナラの目が驚愕で見開かれた。

 音速の数倍で接近する砲弾は、AGI型の超級職でもそう簡単に躱せる代物ではない。

 ましてやデュアルは上級職であり、しかもジョブの上級職の一つはそこまでステータスの伸びがな【鎧武者】で埋まっている。

 もう片側がAGI型の上級職であっても、この砲弾を躱せるはずがない。

 

 展開している砲門から再び矢次早に砲弾を輩出するフィナラだが、デュアルはそれを難なく避けている。

 たまにある避けきれない砲撃も、まともに受けた上で耐え凌いでいる。

 純竜級を容易く屠る砲弾を素受けし、回避するほどのAGIとEND。

 どれだけ放とうと、捕えようと、倒すまでの道筋が見えない。

 

 あまりにも不可解…異常な行動に寒気を覚えるフィナラ。

 だが、相手に対する意識を切り替え、格下相手の蹂躙から純粋な戦闘用に頭が切り替わる。

 

 

(【鎧武士】は武装強化系のスキルを持った装武者系統の上級職。単にステータスが高いというのなら装備品が強化されたことによってステータス補正も強化された?けれど、それだけであの砲火をしのげる程のENDとAGIを?確実にジョブだけでなく<エンブリオ>も使っていますのでしょうが、それでもあまりにも強すぎる。どちらにしろ、<エンブリオ>にこれ以上の隠し玉はないでしょうが…)

 

<エンブリオ>で最も恐ろしいのは初見殺し。

 単純な強化型ならそこまでの隠し玉はないだろう。

 だが、初見殺しはなくとも十分脅威となるだけのステータスがデュアルにはある。

 

 段々と、避けるのに慣れてきたのかデュアルの被弾回数は減りつつある。

 完全にこちらの癖を読み切れば一気に畳みかけてくるだろう。

 その前に、何らかの手を打つ必要がある。

 

 だが、フィナラは他の戦術を執ることはできない。

<エンブリオ>の特性上、発射した砲弾数や上級ボスモンスターの討伐を始めとした転職条件を満たし、<マスター>の中でも初期に超級職を手にしたフィナラは無数の砲撃による圧殺という戦術しか持ちえない。

 もちろん、普通ならそれで十分なのだ。

【砲王】によって強化された砲撃は射程も威力も非常に高い。

【ミーティア】は必殺スキルを持たないが、必殺スキルがなくとも伝説級の<UBM>くらいなら圧殺できるだけの力がフィナラにはある。

 

 

 問題はその砲弾が効かない相手が現れたとき。

 単一の手段しか持ちえないフィナラにはそれに抗しえない。

 単機能特化型の欠点ともいえる性質。

 それはフィナラの扱う砲弾が火薬式に限定されているのも一因だろう。

 魔力式であれば持ちえるレパートリーを火薬式大砲特化超級職である【砲王】では持ちえない。

 

 厳密に言えばもう一手、強力な切り札がフィナラには打てる手段があるが、そちらのスキルはクールタイムが長く、天敵でもないデュアルに使うわけにはいかない。

 デュアルは強敵だが、スペックが匹敵しているだけの話。

 砲撃自体が効かない相手ではなく、その切り札はもっと直接的に天敵の相手に切るべきだ。

 

 だが、現実問題としてこのままで倒せる気配がないのなら何らかの手を打つ必要はある。

 スペックで押し切られようとし、攻撃手段も変えることのできない単機能特化型の取れる手段はただ一つ。

 ーーより苛烈に、出力を上げるのみ。

 

「《十字砲架(クロス・ファイア)》」

 

 発動されたのは、【砲王】の奥義。

 その効果ーー一分間の砲撃の全性能十倍化。

 単純な攻撃力に留まらない。

 弾速や弾丸の強度、不随効果まで含めた全性能の十倍化。

 

 言うまでもなく強力な奥義だが、本来ならそこまで脅威にはならない。

 火薬式大砲は《自動装填》のスキルを加味しても一分間で打てるのはどれだけ慣れた者でも十発が限界だ。

 相手が動き回る場合は照準を合わせるために更に時間をロスすることとなる。

 おまけに火薬式大砲は魔力式大砲ほどオプションの性能に優れておらず、不随効果の十倍化はおまけのようなものだ。

 結論として、ダメージ減算スキルを持ってる相手でもなければ一発の砲撃を十倍化するよりも十の砲撃で殴った方が楽だし早い。

 

 だが、【ミーティア】はそれらのデメリットを全て踏み倒す。

 一分間の間に間断なく大砲を打ち続けーー

<エンブリオ>のスキルにより徹甲や爆裂などのスキルを付与して作成した弾丸を放つことができーー

 狙いをつける必要もない数の暴力で相手の回避する空間をなくすことができる。

 

 避けようと、防御しようと、確実にデュアルを叩き潰しうるだけの砲撃群。

 デュアルの周囲を360度覆うようにして【ミーティア】を展開したため回避もできず、切り払うことも不可能。

 先程の攻撃で「痛い」と発言していたのなら奥義を使わない状態でもダメージは通っており、十倍化した今なら確実に叩き壊せる。

 

 デュアルも発動された奥義の内容は分からずとも何らかの脅威をその砲門から感じたのか、アイテムボックスから装備しているどれとも違う質感を放つ刀を取り出す。

 

 砲門が光を放ち、振るわれた刀がその刀身を怪しげに光らせようとしたそのとき。

 

 ーー遺跡を大きな衝撃が襲った。

 

 

 To be continued

 




(。・ө・。)<ちなみにフィナラは抜けてることが多いので

(。・ө・。)<たまに色々やらかします。

(。・ө・。)<具体的には奥義使うといくら頑丈でも通路が耐えきれないのであのまま攻撃してると下手したら失格になってた。

(。・ө・。)<おバカではないけど将棋とかで「待った」を頻発するタイプ。


【流星砲雨 ミーティア】
 TYPE:ワールド・フォートレス

 《流星砲撃》
 半径100メートル以内に自在に砲門を展開する。
 この砲門は連射に特化しており、間断なく撃ち続けてもほとんど砲身寿命は尽きない。
 それ故、グランバロアに於いては砲撃をガトリング砲のように撃ち、海上のモンスターを殲滅するのが基本戦法。
 上級職奥義に匹敵する砲弾を秒間百発以上放つことができ、弾種もそれなりに豊富なので幅広い敵に対応できる。
 身も蓋もないことを言えばギルガ○ッシュ

 ただし、欠点が二つ。
 一つは砲弾の消費が早すぎるため、全力戦闘を行った場合事前に砲弾を用意していてもそこまで長く戦えないこと。(超級職に比べると何時間も活動できないという意味で普通に上級職と比べればフィナラの方が長い)
 もう一つは性能があまりにも攻撃に特化しすぎており、本体もAGI型の超級職ではないため不意打ちやピンポイントで超長距離から当てに来る魔法に弱いこと。
 本人曰く、「攻撃は最大の防御だから大丈夫なんだよ!ですわ」

 普段は彼女のパーティーメンバーが防御面や移動を担当している。
 ーー逆に言えば、攻撃面は彼女が一手に引き受けている。
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