アッシュ・レコード   作:道草 いのり

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姫と魔女、あと狼

 ◼︎◽︎【高位信仰者】雪姫 桜

 

「…………」

 

 抱えられてる魔女帽は《鑑定眼》を持たない私でも分かるほどの高価そうな一品で、それが穴だらけになっている。

 あ、あれ修理に出すのは無理だろうなーと私が分かるのは、初期装備が同じく穴だらけになった時に、一応予備として修理してもらいにいったら、ここまで損壊してたら直せないと言われたからだ。

 

 着ぐるみの方はもっとひどい。

 あちこちに穴が開いて中の人が露出しかけており、毛皮と中の人の筋肉でなんだかテレビに出てくる怪人のような有様になってる。

 

 とりあえず、モンスターに襲われてたんじゃなかったようで、良かった良かったと思いその場を離れようとすると

 

「あなた、ちょっと待ちなさい」

 

 いきなり身体の自由が奪われて空中に浮かせられ、魔女っ子の人の前まで連れてこられた。

 魔女っ子魔女っ子と連呼していたがどうやら私よりは年上のようで、全身から不機嫌という気配が漏れ出している。

 

「あなたよね、今の灰の雪」

 

「え、えーとなんのことですか?私はただの通りすがりの<マスター>で、悲鳴が聞こえてきたから大丈夫かなーと思ってここまできただけで」

 

「《真偽判定》」

 

「…」

 

「あなたが今の灰の雪の元凶ね?」

 

「………はい」

 

 観念して目をそらしながら答えると魔女さんの顔が真っ赤になる。

 

「どーしてくれんのよ!これ買うのにいくらしたと思ってるの!ショーウィンドウで一目ぼれしてからこつこつお金貯めて買ったのに!」

 

「…ごめんなさい」

 

 事実,私の<エンブリオ>せいなので言い訳のしようがない。

【シンデレラ】が孵化してから狩場で人に会ったことなんてなかったし,まさかあった人一号がこんなことになるとは思ってなかった。

 でも,二人とも【シンデレラ】の灰を浴びたって割には皮膚を損傷してる様子がない。

 

 ーーもしかしてレジストされたのだろうか。

<エンブリオ>の研究も進んできてるし,私だってwikiを見たりはする。

<エンブリオ>は何らかの制限や追加コスト,そして制御を捨てる代わりに威力を上げる。

【シンデレラ】は無制御な代わりに威力が上がるタイプだ。

 それこそ,第三形態に進化してからは純竜級のボスモンスターにだって《灰を被ったお姫様》のみで圧勝している。

 私が《灰まみれの日々》を使うのは,状態異常のレジストに特化したモンスターやHPが無駄に高くて倒すのに時間が掛かるモンスターだけだ。(それも大半は傷痍系状態異常で倒せるが)

 だから装備品での対策程度じゃ【シンデレラ】の【劣化】は防げないはずだ。

 

 どちらかの<エンブリオ>が状態異常の無効に特化しているのかと考えたが,偶然会った二人ともが対状態異常の<エンブリオ>を持ってるとは考えづらい。

 

 ーーということは,二人ともが【シンデレラ】の状態異常をレジストできるだけの実力者。

 そこまで考えて青くなり,どうにか今の所持金であの魔女帽と着ぐるみを弁償できないかと考えていると

 

「まーまーリーナ、ちょっと待つワン。えーっと俺たちは最近森や草原を荒野に還して回ってる死の灰の元凶を調べに来たんだけど」

 

 ーー偶然じゃなかった。

 

「………そんなことになってたんですか」

 

「レベル上げに来たマスターが何人もデスペナルティになってるワン。装備やられた奴も多くてかなりやばいワン」

 

「………」

 

 人も少なくて穴場な狩場だと思ってたんだけどまさか無意識のうちに物理的に人を排してるとは思わなかった。

 

【シンデレラ】は敵味方の識別ができないため、パーティを組むという選択肢が私にはない。

 《灰まみれの日々》だけを使っていれば話は別かもしれないが、そんなことをしてパーティを組むより《灰を被ったお姫様》を使いつつ《灰まみれの日々》を使った方が効率は遥かにいいのだ。

 ジョブも汎用ジョブと司祭系統派生のジョブしか取っていないため、ギルドクエストのようなものも受ける必要はない。

 よって、そもそもギルドに行くという選択肢自体が生まれなくなる。

 それによって事態の発生に気づくのが遅れた、と。

 

 さらに言えば森や草原は普通のゲームみたいにそのうち再生するものだと思ってた。

 まさか私が荒らした狩場がそのままだったなんて

 

「……その、すいません」

 

「あー、うん。わざとじゃなかったのは今の反応でわかったけど一応俺たちと一緒にギルドの方に顔出してくれワン。<UBM>かと思って調査に来てたんで<マスター>ってことになったら事情聴取しないわけにもいかないワン」

 

「……はい」

 

私が目を伏せて素直に頷くと、事態が好転したと見たのか魔女の人が狼さんに話しかける。

 

「それじゃあシュウ。あなたはログアウトしてなさい」

 

「なんでワン?」

 

「その装備、かなりボロボロよ。特典武具だからそのうち回復はするでしょうけど街中で顔が晒されてかねないわ」

 

確かに。

やってしまった私が言うのもなんだが、今の狼さんの格好では、モンスターに間違われることはなくても、子供達に泣かれそうではある。

というか、今この状況と魔女さんの怒りで私の方が泣きそうだ。

 

「それに、それじゃあもう一つの方が出てきてもあなたまともに戦闘できないでしょ。もう一つの方くらいなら私でも対処出来るから問題ないわよ」

 

「おっけーワン、それじゃあまた後でワン」

 

 そして,狼さんがログアウトしてい………あっ

 

そして、不機嫌魔女さんと私の二人だけが,森に残されることになった。

 

 

 ■□【上位信仰者】雪姫 桜

 

 沈黙が痛い。

 現在私は自然破壊の容疑者(ついでにPKと器物損壊もあるがこれは<マスター>同士のPKなので罪には問われないはず)として現行犯で捕らえられて事情聴取に連れていかれてるところだ。

 

 魔女帽を破かれた魔女の人ーーリーナさんはかなり不機嫌で,こっちの方は見もしないで空中に浮かせた本をいじっている。

 正直,かなり怖い。

 しかし私はこういう沈黙には耐えれないタイプなのだ。

 関係ない質問をしたら思いっきり睨まれそうだけど,関係ある質問だったらもしかしたら答えてくれるかもしれない。

なにか話題はないかと考えていると、気になることがいくつかあった。

 

「あの…私ーーというより,謎の灰の正体を探るために来たんですよね?」

 

「そうよ,それがなに」

 

 言葉からーーというより全身からとげのようなものを出して,針で刺されている気分だがさっきの沈黙が続く方がじくじく責められているような感じがしてつらい。

 

「思ったより【シンデレラ】の【劣化】が通じてなかったみたいでなにか対策でもしてたのかなーって。ひ,皮肉じゃないですよ,全然」

 

 言葉の途中で心なしか目力が上がった気がして必死に取り繕う私に,リーナさんはため息を一つつくと

 

「対策なんてしてなかったわよ」

 

「え,でもーー」

 

「本当は対状態異常に特化した魔法職がもう一人ギルドからの推薦で来てるはずだったのよ。あまりの異常事態に<UBM>の可能性も考えてたからギルドが推薦した腕利き三人でね。シュウが相手が強かった時に前衛に立つ役でもう一人の魔法職が対状態異常。私が何かあった時の保険って形で。でもそいつ今日になってリアルの方で用事ができたってドタキャンしやがったのよ。結局,私が防御魔法であの灰の威力を落とすことになったけど,それも完全じゃなくてこのざまよ」

 

 なるほど,本来連れてくるはずだった私対策がいなかったせいで,私特化の精鋭部隊にほころびが生じたって感じなのかな。

 

「ちなみに,あなたにデスぺナされた連中には,範囲ギリギリからそいつの必殺スキルを叩き込ませるべきだって意見が多かったわよ。そいつの<エンブリオ>状態異常を吸収して打ち返す必殺スキルを覚えてたから」

 

 アットの奴,ほんっとに許さない。というリーナさんの言葉を聞きながら私はゾッとしていた。

 対状態異常に特化したカウンターを持つ<エンブリオ>。

 そんなのは間違いなく私の天敵だ。

 レジストがより困難な《灰まみれの日々》ならどうなるかわからないが,私が知覚できない《灰を被ったお姫様》の効果範囲ギリギリから状態異常を吸収されて打ち返されたら私にはなすすべがない。

 まず間違いなく回復量を超えたダメージを喰らってデスペナルティになっていただろう。

 自分がまたベッドの上で膝を抱えてる姿が容易に想像できた。

 ああ,それともう一つ。

 

「あと、さっき言ってたもう一つの方ってなんなんですか?」

 

「あなたに話す義務があるのかしら?」

 

「……ないです、すいません」

 

 私の撃沈した顔に何か思ったのか開いていた本を紋章に戻しながらリーナさんがこちらを向く。

 

「……はあ、この辺りにPKの目撃情報があるのよ。普通ならマスターがマスターに何をしようがティアンはなんら関与しないのだけどレベル上げができないってマスターが多くて依頼が私達のとこまで回ってきたのよ」

 

「へぇ、最近この辺狩場にしてたんですけど、私PKになんて会ったことないですよ」

 

「PKもあなたからは逃げてたんじゃない?」

 

 ……否定できない。

 なんせ私も巻き込んでの広域殲滅攻撃が【シンデレラ】の真髄だ。

 効果範囲ギリギリから撤退でもされてたらそれこそ私には気づきようがない。

 ということは私はPKよりも強い存在ということに……

 

 ……………、………………?

 

 あれ、私なんで……地面に寝てるんだろう。

 そう思って足元を見るとーー

 

 ーー膝のあたりから綺麗に切断された左足が視界に入り込んできた。

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