戦闘描写を大幅に訂正しました。(20191007)
■□【高位観測者】リーナ
頭の頂点。
視覚から迫る鎖の支配権を,無理やり奪ってそこに縫い付ける。
間髪入れずに目と背後,あと心臓を狙って迫ってきた矢じり付きの糸を止めたと思ったら,私の体を【拘束】するように全身に巻き付こうとする糸が静かに,けれど明確な敵意を持って迫る。
あの子の結果を見ていたら,それが【拘束】なんて生易しいことはせず,体をズタズタに引き裂いてしまうであろうことは,容易に想像できる。
だが,それにはあと数秒遅い。
バラバラとめくられる本が目的のページにたどり着きーー
「ーー《ホワイト・フィールド》」
私の体をズタズタにしようとしていた糸も,制御を奪って無理やり止めていた鎖も,その全てが【凍結】する。
《ホワイト・フィールド》の範囲外に身を置いていたようだが,自身の身につけている装備が【凍結】すれば,それなりに動きに隙は生じる。
《魔法威力拡大》と《魔法多重発動》によって十を軽く超える《クリムゾン・スフィア》PKに迫るが,糸を付けていた手袋と凍った鎖を《瞬間装備》と《瞬間装着》で入れ替えて,新しい鎖を木々に巻き付け熱球の嵐から退避する。
そこにあらかじめ《魔法発動遅延》で発動時間を遅らせていた《テンペスト・ブロック》を叩き込むが,それは読まれていたようでギリギリで回避された。
「まったく,厄介な<エンブリオ>ですね。大方,魔法を記録し,その魔法を自由に行使できるといったところですか。魔法を行使するときにはそのページを開いてなければいけない制限はあるようですが,各種《詠唱》スキルと組み合わせられれば厄介きまわりない。加えて《詠唱》の省略もできるのであればなおさらだ」
いくつかの勘違いはあるようだが,大体あっている。
私の<エンブリオ>は【魔導偽典 グリモワール】。
その特性は魔法の記録と放出。
【観測者】のスキルである《攻撃観測》で詳細を暴いた魔法を,【グリモワール】に記録できる。
他にも複合魔法の生成や,メインジョブに【魔術師】を据えていなくても《詠唱》スキルが使えたりと,魔法に関してはかなりのアドバンテージを持つ。
これまでのプレイ時間で色んな魔法を見てきた。
【大賢者】が<UBM>の討伐に出た時も《千里眼》で遠方から魔法を記録したりしていたため,私の使える魔法の数は,そこら辺の【魔術師】系統上級職を遥かに上回っている。
「そういうあなたは金属を自在に糸やワイヤーに変化させれる<エンブリオ>ってとこでしょ。それ単体じゃ,ただの生産職の便利グッズだけど【操糸士】の能力と合わせればあなたこそ厄介極まりないわよ」
恐らく剣士系統のアクティブスキルを併用した攻撃でも,切れないだけの強度があのワイヤーにはある。
真っ当な【剣士】や【槍士】がやりあったなら,相手の手数を減らせずに,即死の糸で斬断される。
私があの攻撃に耐えれてるのは多彩な魔法と強力な念力効果を持つ箒型の特典武具である【ハルムート】があればこそだ。
どちらかが欠けていたらとっくにデスペナルティになっていたとしてもおかしくない。
それに…
「あなた,かなりの腕前ね。只者じゃないだろうとは思ってたけどここまでやるとは想定外だったわ」
「これでもあの虫もどきを育て始める前は真っ当なPKでしたからね。対人戦の経験はそれこそあなた様よりはあると思われます。さて,そろそろ魔法のストックの類も終わりましたか?では,そろそろ続きを初めましょう」
ばれてたか,とほぞをかみつつ応戦するためにいくつか書き換えてた魔法を中断し,《魔法発動遅延》でストックしてる魔法の数に意識を向ける。
今の間に準備できたこの魔法で,どれだけ時間を稼げるか。それがこの戦いの鍵だ。
「では,参ります」
鎖で目まぐるしく動きながら視覚から襲ってくる糸を空中に縫い留め,投擲された投げナイフを同じように防ぐ。
ナイフに意識がいった瞬間に,地面からせり出してくるいくつもの鎖を《テンペスト・ブロック》で纏めて吹っ飛ばすことで時間を作り,その隙に《多重発動》した《ヒート・ジャベリン》で牽制する。
ただ,それでは隙すら作れない。
吹き飛ばされていた糸や鎖が一斉に向かってくるのを,《ホワイト・フィールド》で縫い留める。
だが,これは先ほど見せた手だ。
衣服で隠された腰や足から伸びてきたワイヤーが氷の隙間から迫ってくるのを,《多重発動》で仕込んでいた二つ目の《ホワイト・フィールド》で防ぎきる。
これでなんとか,と息をついた瞬間。
氷の間から
しまった,と思うと同時に理解する。
相手は,私がワイヤーに対処することまで読んだ上で,本人は魔法と【ハルムート】の効果範囲外にいる,という思い込みを利用した奇襲をかけた。
一歩間違えれば【ハルムート】で自由を奪われていたかもしれない賭け。
しかしあいつはそれに勝って,まんまと【ハルムート】と私を引き離した。
【ハルムート】は接触していなければスキルを使えない。
そしてストックはあとは防御には不向きな《クリムゾン・スフィア》と《ライトニング・レイン》しかない。
うなりを上げる鎖が私の頭蓋を砕こうと迫りーー
「《
ーー熔解して飛び散った。
「なに?」
その光景にPKは不可解だと声を上げる。
なぜなら,彼もその輝きを見たことがあるからだ。
デンドロが始まって少し経ち,徐々にランカーが塗り替えられていった頃,世にも珍しいティアン同士の魔法職同士の決闘で。
ただの一つしか使われなかった魔法。
すなわちーー
「《恒,星》…か?」
あの闘技場に彼女もいたのなら、確かにコピーは可能だろう。
だが,それでも不可解なことがある。
かつての【炎王】ですら同時発動は二つがやっと。
“魔法最強”である【大賢者】でも使ったのは四つまで。
なのになぜ,この女は…
ーー三つもの《恒星》 を浮かべているのか。
「…まさかこれを切らされるとは思わなかったわ」
「なぜだ?」
ノーコストで発動させてるのは、<エンブリオ>によるスキルかもしれない。
だが、《詠唱》のストックに魔法のラーニング。
さらには魔法のノーコスト発動。
他にもスキルはあると見ていいだろう。
いかに上級<エンブリオ>だとしても積みすぎだ。
どこかで重篤な外部コストか大きな制限を負っているのか、それともーー
短い言葉ではあるが,その声音と顔からPKが浮かべてる疑問を理解したリーナは答えを告げる。
「必殺スキルよ」
「必殺スキル?」
「そう,あなたの予想した通り私の<エンブリオ>である【グリモワール】は魔法の記録と自由行使ができる。他にも各種スキルがある分出力は低い。でも、あらかじめ込めておけば、それもある程度は緩和できる」
その言葉でPKも悟る。
恐らく、あらかじめ魔法を込めておく事で即ノーコストで発動できるスキルなのだろう。
《魔法発動遅延》でも似たようなことはできるが、あれは自身が持ってる以上のMPを注ぐことはできないし、確か時間経過でストックしてる魔法は消えてしまうはずだ。
それを考えれば確かにこちらの方が格上と言える。
しかしーー
「いいのですか、そこまで言ってしまって」
必殺スキルとはその<エンブリオ>最大最強のスキルのはずだ。
特に全体的な層がまだ上級に到達して間もない今では、必殺スキルを覚えていない者も多い。
だからこそ、その詳細は秘匿するべきだしましてや、また敵対するかもしれない相手に自身でその詳細を話すなど、ここまでの彼女らしくない。
若干の警戒と偽の情報の可能性も考えた問だったのだが…
「いいのよ、前に<UBM>を倒した時に野良のパーティで話しちゃったから。おまけに特典武具は私が持ってったから今頃嫉妬とやっかみで情報広く流されてるでしょうし」
「なるほど」
全ての疑問を解消し、ふぅと息をつく。
近くだけで溶解しそうな灼熱の光球に、彼は次の装備を出そうともしない。
何かしようとした時点で瞬時に焼却されると悟ってしまったからだ。
「完敗です。ですが、これだからPKはやめられない」
「次はもうちょっとましなやり方を考えるか、闘技場にでも行きなさい」
その言葉と共に三つの《恒星》がPKへと向かいーー光にすべてを飲み込まれた。
《クリムゾン・スフィア》を遥かに上回る攻撃に,PKは瞬時に燃え尽きる。
そして,森の一部を熔解させたリーナは未だに戦塵が舞う,灰と岩石の戦場へ飛び立つのであった。
■□【高位信仰者】雪姫 桜
迫る杭は、さっきよりもかなり遅い。
余裕をもって避けることができるし、小さな杭は無視して【アルノーツ】に近づく。
右腕がなくなっててバランスは悪いけど、それでも問題ないくらいにステータスに開きがある。
また地中に潜られたら、私には対処できない。
だからこそ、その前に接近して《灰まみれの日々》を使う必要がある。
《灰を被ったお姫様》では通じなくても、《灰まみれの日々》ならほぼ確実に仕留めれるはずだ。
一方、【アルノーツ】も焦ってるようだ。
それは恐らく、先程よりも格段に私が
私のステータスが上昇し続ける種。
それこそは【シンデレラ】が第三形態に至ったことで獲得した新たなスキル。
《魔女のお誘い》によるものだ。
効果は、ダメージ量に応じたSTR,END,AGIの増強。
このスキルのすごいところは自傷ダメージでもステータスの上昇が発生することだ。
強化率こそ低いものの《灰を被ったお姫様》や《灰まみれの日々》を使用しているだけでステータスが上がっていく。
本来であれば<UBM>との戦闘に耐えれるはずのない貧弱な私のステータスでも一時間程のレベル上げと道中の糸トラップの排除、この戦闘で十分<UBM>と渡り合えるだけのーー否、それを越すだけのステータスを上げることができた。
特にさっきなんか死にかけたおかげで、さらにステータスは上がっている。
弾丸に近い速度で射出される杭でも、私自身が弾速を越えれば問題ない。
そして彼我の距離はあっという間に縮まり、私が【アルノーツ】左手を伸ばしたところでーー
「ーーきゃっ」
その左手が串刺しにされた。
手のひらから腕の付け根まで完全に串刺しにされている。
問題はさっきまで見えていたその攻撃が私には見えなかった。
何が、と思う間も無く両足にも串刺しにされ動きを止められる。
そこまできて【アルノーツ】を見て、理解する。
【アルノーツ】のあの体は鉱石だ。
しかも、身に纏う程の魔力を込めている。
それ故、あれだけは操れる速度や攻撃力、強度が段違いなのだろう。
なぶるように体を上の方へ持ち上げられ、一際大きなスパイクを用意される。
そのスパイクはドリルのように回転させていて、今ので上昇したステータスを超える攻撃力で貫くのだろうということが容易に想像できた。
ーーでも、だからこそ
そして、発射されたドリルは私の体を
顔色なんて分からないけど、その時の【アルノーツ】の心中を私は明確に感じることができた。
ーーありえない
今の完全に拘束された状態から、何もできない状態から逃れて、あまつさえ私の必殺を避けることなど、ありえるはずがない。
そんな、そんな方法で
でも、そんなに驚くことじゃない
私はただ単に《灰まみれの日々》を発動させただけ。
ずっと疑問には思ってた。
【シンデレラ】の【劣化】は一般的に言われてる【劣化】とかなり違う。
触れた部位からその威力に応じてその部位が崩れるし、機能が大幅にダウンする。
でも、本来【劣化】は呪怨系状態異常だ。
呪怨系状態異常は傷痍系状態異常や病毒系状態異常のように状態異常が発生した部分にだけ効果を発揮するのではなく、対象に効果を発揮させる。
でも、私の【シンデレラ】は違う。
あたかも病毒系状態異常のように効果が発生した部分から感染するように、その力の行使は対象ではなく部位に対して発揮される。
なら呪怨系としての性質はどこにあるのか、なぜこんな感染するような仕様になったのか。
ーー
<マスター>である私自身でもわからないことが多いけど、でも土壇場でこれなら
結果的に掠りはしたし、HPの上限もかなり削れてほとんど瀕死の状態だけど、あと数秒あれば十分。
そして,少し弾かれながも重力に従い【アルノーツ】に向かって落ちていく。
【アルノーツ】は自身が発射したドリルのせいで視界が塞がれていて私のことは見えないようでーー
「《フォースヒール》ッ!」
私は手足を落としてからもずっと回復を集中させていた右手をようやく回復させーー
「これで,終わり!」
【アルノーツ】の右半身をボロボロに崩し,私と一緒に倒れていった。
《魔導法》
あらかじめ破っておいたページに魔力を込めておき、そのページをロストすることでその魔法を即発動可能。
自由に《詠唱》を込められる上に、自身の最大MPを上回る魔法でも発動可能。
理論上、【炎王】の使った《恒星》を上回る《恒星》すら発動可能なスキル。
ロストしたページは一日で回復するが、込められていた魔法は喪失して白紙になっている。
さらに発動待機中のその魔法はストックしてる間は発動出来ない。(元々持ってる魔法は除く)
この後エピローグ挟んで第一部は完です。
その後は作者多忙の為、更新はかなり不定期になります。
感想欄で主人公のパーソナルが気になるという声を頂いたんですが、このままではそこまで行くのがかなり先になってしまいそうです。
なので先に超級到達編をやって後から中身を埋めていくか、それとも最初の予定通り順次更新していくか。
それは作者の中でも意見が分かれてますが、まだ書きたい話はいっぱいあるので、今後ともご付き合いいただけたら幸いです。
かなりゆっくりになるとは思いますが、どうぞよろしくお願いします。