アッシュ・レコード   作:道草 いのり

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ちょっとトラブルで修正してました、すいません


ガチャガチャ

◼︎◇ロレーヌ女学院 チェリー・アウルブルク

 

「じゃじゃーん!これなーんだ?」

 

「…外出許可証?」

 

 それは長閑な昼の放課後のことだった。

 授業も終わり,金曜なのでデンドロでやることの段取りを頭の中で整理してると急にファリナに声をかけられた。

 自慢げに突き出されたその手にはしっかり“外出許可証”と書かれている。

 

「珍しいね?ファリナが外出許可証わざわざもらってくるなんて」

 

 ロレーヌ女学院では基本的に生徒の外出は認められていない。

 全寮制で学食もかなり豪華で個室が割り当てられてるという高待遇だけどその代わり自由が著しく制限される。

 外出許可も夏休みや冬休みに家に帰るときにもらえるくらいで,遊びに行くから外に出たいなんて話はまずまかり通らない。

 ご令嬢に悪い虫がつかないためにかなり徹底されている。

 

 人より裕福な代わりに籠の鳥。

 ショッピングしたりカフェに入って雑談するような青春の一部が送れないのは,お金に困らない代わりの不自由とも言えるかも知れなかった。

(まあ,私は自分の意思でここに入ったので遊びに出歩いても両親からは何も言われないしファリナのご両親もおおらかなので問題はない。むしろ彼氏を家に連れてったら私の場合はお母さんが大喜びするだろうしファリナの場合はファリナのお父さんが彼氏と酒でも酌み交わすだろう)

 

 さて,そんなロレーヌ女学院の生徒ではある意味異例とも言える私たちだが学院に入ってる以上外出禁止のルールは適用される。

 だけどファリナは頻繁に抜け出してショッピングやら食べ歩きやらをしている。

 どうやらいくつかバレずに抜け出せるルートを見つけているらしく脱走の常習犯であった。

 

 余談だが彼女の<Infinite Dendrogram>のハードはネットで注文したものではなく抜け出して買ってきたものである。

 私もルートを教えてもらったことはあるが複雑すぎて覚えられず、ファリナは忍者だったの?というような有様だった。

 …ファリナはNINJA?とよくわかってなかったようなので忍者の末裔ではないはず。きっと,多分。

 

 閑話休題

 ともあれ,自在に学校を抜け出せるファリナがわざわざ外出許可証をもらってきたのは私には意外とも言える話だった。

 

「…?だって,許可証貰わないとチェリーも一緒に出かけれないでしょ?」

 

「えっ!?私も行くの?」

 

「当然。そのためにわざわざ理由でっち上げて許可もらってきたんだから。行くよね?」

 

「うん,そういうことなら行くけどファリナ,その前に…」

 

「?」

 

 渡井が恐る恐るファリナの後ろを指差し,ファリナがなんだろうという顔でゆっくりと振り向く。

 私が恐る恐る指差す後ろ。

 そこには礼儀作法に厳しいニーナ先生が怖い顔で立っていた。

 

「……あ」

 

 ちなみにファリナは礼儀作法が苦手でニーナ先生をすごく苦手に思ってる。

 上品な言葉遣いをしようとしてもどこかでボロが出たり,変な言葉遣いになったり。

 後きっちりするのが性分に合わないようでドレスを着た時も知らず知らずのうちに着崩したりしてニーナ先生に毎回大目玉をくらっているからだ。

 

「ファリナ,少し話があります。隣の教室へ」

 

「えっと,今のは,そのー」

 

「隣の教室へ」

 

「…はい」

 

 ニーナ先生とファリナが隣の教室へ入って行き,ーー直後,ファリナの悲鳴が隣の教室から響き渡った。

 …一瞬驚いたみんなが「ああ,なんだファリナか」という顔をして友達と話すのを再開した辺りが,みんなのファリナへの評価を如実に表してると言えるかもしれない。

 

 その後,けろっとした顔で「次の日曜だからね!」と私に話しかけてきて,ニーナ先生が苦虫を噛み潰したような顔をしていたのが印象的だった。

 

 

 

 ■□チェリー・アウグブルク

 

 ああは言ったもの私も楽しみで,次の日曜をそわそわしながら待って外出した。

 ショッピングをしたりアイス食べたり,カラオケで歌ったり,とても楽しかった。

 短くも楽しい時間が流れ,そろそろ帰ろうかとなったとき。

 

「あ,ガチャガチャだー」

 

 カラオケで歌ったお店の近くに,ガチャガチャがいくつも置いてあるゲームセンターのような場所を見つけた。

 お店の人に聞いてみるとどうやらオーナーが日本かぶれの人で,他の店にもいくつか置いてあるらしい。

 

「せっっかくだし回して行こうよ,後ちょっとあるし」

 

「うーん,いいよ。りょーかい」

 

「…どうしたの?そんな苦笑いして」

 

 あっと,そんなに顔に出てたかな。

 思わず顔を触りつつ,ファリナに私が苦笑いした原因を話す。

 

「実はね…」

 

 

 

 ■□【アルノーツ】討伐直後 雪姫 桜

 

 ガチャン

 

「えっと…なんで?」

 

「あなたをギルドまで連れていく話ーーしたわよね」

 

「…そうでした」

 

 リーナに手足を持ってきてもらえたおかげで早めに手足が修復され,王都に戻ってきた。

【アルノーツ】をゲットしたことによって服も自由に買えるようになり,ショッピングでも楽しもうかなーと少しウキウキしながら王都に踏み出そうとしたところでーー

 

 ーー手錠をかけられた。

 

 周りの人の目線が痛い。

 子供は不思議そうな顔をしてるし大人は物珍しそうな表情で見てくる。

 

「あの,すごく目立ってるんだけど」

 

「そう,いつものことね」

 

 つんとすました顔をしてなんでもないかのようにリーナは堂々と歩き出す。

 …確かに魔女コスプレのリーナは慣れてるかもしれないけどごく普通の一般人である私にとってこの視線は荷が重い。

 

「………」

 

「どうしたの?」

 

「何でもないわ」

 

 じっと私のことを見てきたけどすぐに目線を外したリーナに首を傾げつつ、取り留めもないことを考える。

 

 ーー一応逃げない気ではあるんだけど罪を犯した以上こうやって逮捕されるのは仕方ないことなのかな…

 ーーいや,普通こういう時って手錠や顔は隠してくれるものじゃ。

 ーーまあ,逃げる気になったらいつでも【シンデレラ】で壊せるし,むしろ信頼してくれてるから何の効果もついてない手錠を付けてくれたのかもしれない。

 ーー普通戦闘系ジョブを持った人を捕まえる時には【衰弱】や【酩酊】のついた手錠をかけるらしいし。

 ーーあれ,でもやっぱり私って戦闘職は持ってないからこの扱いはおかしいんじゃ…?

 

 色々と思い悩んでる間にいつの間にかギルドにたどり着いた。

 リーナが報告をするとともにギルドの奥に連れていかれる。

 しばらくすると怖そうな【騎士】のおじさんが出てきて事情聴取を始めた。

 

「つまり,自分が<マスター>への一時殺人を犯していることに気づかなかったと」

「はい,すいません」

「森林の損失についても」

「全く気付いてませんでした」

「悪気は一切なかったと」

「ごめんなさい」

 

 《真偽判定》でも嘘がないと分かったのか、はあ,と【騎士】さんがため息を一息ついて水を飲み干す。

 その行為にびくっとしつつ恐る恐る顔をあげると

 

「<マスター>への一時殺人については<マスター>同士でのことなので罪には問いません。しかし森林については国営のものもいくつかあるのでそこについては損害賠償をお願いします」

 

「…ちなみにいくらくらいですか?」

 

 後ろにいた【書記】の人が黙ってスキルでコピーした紙を【騎士】さんへと渡す。

 それを【聖騎士】さんは私へと差し出しーー

 

「……」

 

「………………」

 

「…………………………」

 

 ーーここがゲームで良かったと心から思った。

 

 

 

 ■■【高位信仰者】雪姫 桜

 

 さて、莫大な借金を背負ってしまった訳だがこれでは出発もままならない。

 額にして訳百万リルーー一千万円の借金だが賞金首についてる金額は大体そのくらいだったはずだ。

 だから賞金首を狩るという手もあるのだがーー

 

「ーー私が戦闘するとまた借金が増えそう」

 

 この借金が既に戦闘したことによって増えた借金だ。

 解決策もないのに同じ手段でお金を稼ごうとするのは気が引ける。

 故に,戦闘以外の手段でお金を工面しなくてはならない。

 聖職者系のジョブで埋めてるから教会で働かせてもらうという手もあるだろうが,そんなことしていれば全額返済するのにいつまでかかるかわからない。

 とはいえ,これから一緒に旅するパートナーにそんな大金を工面してもらうわけにもいかない。

 現在の貯金は二十万リル…ここからどうしたものか。

 

 すっかり悩みこんで立ち往生してしまった私の目に,あるものが入り込んできた。

 決して可能性が高いとは言えない。

 でもこの状況を一気に解決できるかもしれない。

 

 しばらく悩んだ末,私は小さく頷いてとあるお店に入っていったのだった。

 

 

 

 

 ■□【高位観測者】リーナ

 

 桜をギルドまで送り届けた後電話がかかってきたので少しの間ログアウトしていた。

 しかしその間に桜の取り調べが終わってしまったようで,桜はどこかにいってしまったようだ。

 

 フレンド欄をみるとログインはしているようなので街をしばらく街の中を散策していると桜が行列に並んでいるのを見つけた。

 なんの行列だろうとその先を辿ってみると…その先にはガチャが置いてあった。

 

 

 アイテムボックスから格好つけるためだけに買ったにも関わらず,【グリモワール】が両手装備枠だったために結局一度も使ってない杖を取り出す。

 ゆっくりバレないように近づいて,その杖で桜の頭をポカリと叩いた。

 

「あたっ…くはないけど,リーナ。どうしたの?」

 

「どうしたの?じゃないわよ。随分探したのになんでこんなところにいるの?」

 

「大丈夫。リーナと旅に出るために私,がんばるから。おねーさんにドンとまかせなさい」

 

 旅?なんでガチャ回すのが旅と関係あるのだろう?

 というか,桜って年上…?いや,これは変なテンションになってるだけかな?

 

 リーナが色々と悩んでる間に行列が進み,桜の番が回ってきてガチャを回す。

 一万リル硬貨を十枚入れてーーちょっと待て。

 

「え?え?ほんとに何やってるの?大丈夫って言ってたけど何が大丈夫なの?」

 

「大丈夫だよ,なんかいける気がする」

 

「事情はよくわからないけど危険な匂いがするわ。やめなさい!」

 

「でも,もう硬貨入れちゃったし」

 

「…そうね」

 

 私が諦めたのを見て桜がガチャを回す。

 そして出てきたカプセルにはーーDの文字があった。

 

「……あ」

 

「ほらあ!」

 

 呆気にとられた声を出す桜に私が叫ぶ。

 困り顔になりながらも桜がカプセルを開けるとーーそこには大きな猫のぬいぐるみがあった。

 

「おお,おっきい」

 

「十万円の人形なんだからそりゃおっきいでしょうよ。でもそんなものどうす…」

 

 桜を責める声がだんだんと尻すぼみになり,途切れる。

 その猫に見覚えがあったからだ。

 それはーー

 

「おい,あれ管理AIのぬいぐるみシリーズじゃないか?」

 

「ほんとだ。あんなに大きいの私初めて見たよ」

 

 あたりの客もそれに気づいたのか騒ぎ出す。

 

「え?え?どういうこと?」

 

「ーーそれはガチャからしか出てこない管理AIのぬいぐるみで一部のマニアの間では大人気の代物よ。出た価値の何倍もの価格で取引されることで有名なんだけどそれをあなたーーそんなに大きいのを…」

 

 状況が分かってない桜に説明しつつも,呆れと感心で途中で言葉がでなくななる。

 丁度その時,店の店主らしい人が出てきて

 

「すいません,そのぬいぐるみを私そもに売っていただけませんかな?」

 

「は,はい。ええっと,でもいくらで?」

 

「百万リルで」

 

「ええっ?」

 

 桜が助けを求めるようにこっちを見てきたので,黙って頷いておく。

 その大きさならそれくらいが相場だろう。

 カルディナでオークションでもやれば桁も変わるかもしれないが,あそこは騙されることも多いので売るならここで売っておく方が賢明だ。

 ーーというか,私が欲しい。

 

「じゃ,じゃあお願いします」

 

 そう言って目を白黒させながら桜がぬいぐるみをアレハンドロさんに渡した途端,ガチャに並んでいた客がこぞって店に乗り込んできた。

 

「いくらだ?いくらで売ってくれる?」

 

「私の方が高く出すわよ」

 

 客を避けつつ金額を受け取った桜が人混みから出てくる。

 

「す,すごいね。ぬいぐるみ一つであんなに」

 

「マニアっていうのはそういうものだから…じゃ,私もいってくるから」

 

「え,リーナ?」

 

「ちょっと待っといて,今度はいなくならないでね」

 

「ええっ!?」

 

 そうして,私も争奪戦に加わったのだった。

 

 

 

 

 ■■ゲームセンター チェリー・アウルブルク

 

「ということがあってね」

 

「あはは,それは大変だったね」

 

 ファリナと笑いあいながらガチャを回す。

 出てきたカプセルを開けるとそこにはーー

 

「あれ,これって?」

 

「んー?おっと」

 

 ガチャから出てきたチェシャ猫のぬいぐるみによく似たストラップが,私の手の中で揺れていた。

 

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